超乳少女 久美子

ジグラット 作
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episode 5 温泉旅行

 5月も半ばを過ぎたある日、教室内はいつになく静かな時間が流れていた。定期試験である。誰一人口を開くものはなく、ただ鉛筆を動かす音がだけがかすかに響きわたっている。
 いつもダントツの好成績を修めている久美子にとって試験問題など何の苦もなくすらすらと――というものでも必ずしもなかった。普段は例のノートパソコンで授業を受けているが、試験ともなると他の人同様テスト用紙に鉛筆で答えを埋めていかなければならない。もうほとんど余白の残ってない机のスペースを求めて、久美子は必死に身体をよじって答案を書き込んでいる。その体と机の間には、巨大なふくらみがまるで自分のものではないようにむちむちと暴れまくっているので、どうやっても無茶な体勢になってしまうのだった。そんな姿勢は長くもたないから、どうしてもさっさと終わらせようと急いでしまう。だから久美子のテスト時間はいつも最短だった。この学校に入学以来、ただ1度満点をとりそこねたのは――そのあせりが引き起こしたケアレスミスが原因だった。

「さーて終わった」
 そう言ったのは、久美子のクラスメート、しのぶだった。意味ありげにニッと笑うと、久美子に目で合図した。
「これで全教科修了ね。それじゃ、しゅっぱーつ」
 テストが終わった日から2日間、久美子たち4人は自分達だけで温泉旅行としゃれこんでいたのだ。
 事の発端はテスト開始1週間前、しのぶが「知り合いがやってる」という温泉宿について耳寄りな情報を持ってきたことだった。「この季節、ゴールデンウィーク後の端境期でさぁ、正直ガラガラなんだって。ちょうど試験休みが入るし、今なら超格安料金で露天風呂ひとり占めできるんだよ。ね、一緒に行かない?」
 試験前のピリピリした雰囲気の中、「温泉ひとり占め」はとてつもなく魅力的に思えた。久美子をはじめとする3人も二つ返事で賛同し、ここに「花の女子高生ぶらり温泉ひとり占めの旅」(命名者しのぶ)がとんとん拍子で実現したのだった。

 4人は一旦家に帰った後、最寄のターミナル駅前に集合し、特急に乗り込んだ。唯一その旅館に行ったことのあるしのぶが先導する。
「乗り込んじゃえば2時間ぐらいで着いちゃうからね。駅からは旅館まで送迎の車が来る手はずになってるから心配ないし。いや、穴場といっていいほどいい旅館なんだこれが」
 しのぶはいつになくテンションが高い。大人が含まれない初めての自分達だけの旅行ということもあろうが、それにしても息もつかせずしゃべりまくっていた。
 そしてはしゃぐだけはしゃぐと、とっとと席に沈み込んで眠ってしまった。
「やっと静かになったね」加寿子がちょっとげんなりしたように言う。
「しのぶったら、今回ほとんど寝ないで勉強してたって言ってたからなぁ。そのせいでよけいハイになっちゃってたのかも。一気に撃沈しちゃった」
「旅行はこれからだっていうのにね」
 残った3人が話しているうちに、内容はいつしか終わったばかりのテストのことになっていった。久美子が全科目の問題から解答までスラスラと諳んじはじめたのに2人はあきれた。けど本人はなんてことないようによどみなく、まるで目の前の答案を読み上げるようにしゃべっていく。
 不意に久美子の口が止まった。「あ…しまったぁ」
「どしたの?」
「失敗。数学で1箇所間違えちゃった」暗誦していくうちに自分の書いた答の誤りに気がついたのだ。「また、やっちゃった」
「いいじゃないそれぐらい。わたしなんか、今聞いてたら――なんか暗くなってきたもん。平均点いくかなぁ」
「あ、ごめんね。せっかく終わって温泉に行くんだもんね、やめよう、この話」
「そうだそうだ!」いきなりしのぶが脇から大きな声を出した。「テストがなんだぁ、これからは温泉よ、ムニャムニャ…」寝ぼけてんのか、それっきりまた眠ってしまった。しかし絶妙のタイミングに3人の間に笑いがまきおこる。
「でもさ、久美子のこと単なる点取り虫みたいなこと言う人もいるけどさ、お世辞じゃなくて久美子ほんとに頭いいと思うよ。だってわたし達なんかに教えるときなんかでもうまいもんね。それぞれその人なりに臨機応変にいろいろ説明のしかた変えたりね――そういうのって丸暗記じゃなかなかできないじゃない」奈保美がいきなり感じ入ったように語り始めたので、久美子は却って警戒してしまった。
「もう…後がこわいなぁ。今度はなにさせるつもり?」

 列車は滞りなく目的地に着き、送迎の車にも無事乗れて、夕方には4人は旅館に入った。
 列車の中でたっぷり休養をとったしのぶは途端に元気を回復し、部屋に鞄を下ろしたばかりの久美子の前に立ちはだかった。
「さ、久美子、温泉行こ!」
「え…わたしは…」
 しかししのぶは有無を言わさなかった。
「なに言ってんの。何のために温泉にしたと思ってんのよ。久美子の生おっぱいをおがませてもらうために決まってんじゃない」
 目を丸くした久美子に、加寿子が追い討ちをかける。
「そうそう。体育の時だっていつも隅の方でさっと着替えちゃうし、先月の身体測定の時でも結局誰にも見せないで――。そんな立派なもの持ってんだからさ、そこまで出し惜しみすることないじゃない」
「女の子だって、久美子の胸、見てみたいと思わない子はいないよ」さらに追い討ちをかけるように声がかかる。「奈保美まで…」久美子は、しょうがないな、と肩をすくめた。
 ほとんど3人に引きずられるように、久美子は脱衣所まで連れて行かれてしまった。
 でもまだ久美子はちょっとおずおずしている。
「ほらぁ、秋には修学旅行だってあるんだよ。その間ずーっお風呂に入らないつもり? ここにはわたしら3人しかいないんだからさ、練習練習」
 しのぶはそう言うと、お先にとばかりに自分も服を脱ぎ始めた。加寿子と奈保美も後に続く。
 とうとう意を決したように久美子も胸のボタンをはずし始めた。いつしか3人の手が止まり、久美子の指の動きに注意が集まる。胸の頂点で必死に手を伸ばしてやっととばかりにボタンをはずす様に3人は驚きを隠せなかった。さらにその下から現れた上半身ブラジャーだけの姿を見た3人は、少なからず衝撃を受けたようだ。
「これが――ブラ?」
 しのぶが思わずつぶやく。それほど、通常イメージするブラジャー姿とはかけ離れていた。
 形からすればフルカップのブラと言っていいのだろうが、そのスケールは常識から大きくはずれていた。決して大柄とはいえない久美子の胴体をまるで覆い隠してしまうかのように、白く厚手の生地が巨大な山脈をなしている。大きいだけでなく、かなり頑丈そうだ。しかしそれだけではない、その巨大なカップの隅々まで中身がぎっしり詰めこまれていて、内側からみちみちという音が聞こえてきそうな気さえした。そう、巨大なフルカップブラの中にはそれでも納まりきらないほどの乳房が今にもあふれ出さんばかりにふくれあがっていて、あとちょっとでもどこかに力を与えればブラを吹き飛ばしかねないほどの危うさすら感じられた。
 それにフルカップといえどもそのバストをすべて包み込むことはできていない。その中央では乳肉があふれ出してこんもりと巨大な谷間を作っていて、そこに手を差し込めばなんだかずぶずぶと腕一本まるごと入ってしまいそうなほどだった。
 3人は誰ともなくつばをごくりと飲み込んだ。一言も口にしない。なんだか今、このブラジャーを取ろうものなら、押さえを失った途端、中からとんでもないものがあふれ出してもう取り返しのつかないことになるんではないか、という不安にさえかられてきた。
「――すごいね」
 加寿子が口を開く
 それとともに3人の間にほっと緊張が解けた空気が流れ、ようやく口が滑らかに動き出した。
「今までちらっと見ただけだったけど――こうして見ると、ほんとすごいね」
「ていうか、この前よりまた大きくなってない?」奈保美のその目は狂ってなかった。あの身体測定の時から1月半ほどの間に、既に久美子のバストはさらに10センチ以上も成長していたのだから。ブラジャーのサイズもその間に3回も更新されている。
「なんていうかさ、ここまで来るとなんかブラジャーって感じしない。それより、ほら、なんだっけ。フランスの貴族が服の下につけてたやつ」
「コルセット?」
「そうそう、コルセット。あんな感じよね」
 しかしそう言いながらも加寿子はコルセットという言葉ですらもの足りなく感じていた。そう、例えるなら胸が今にももっと大きくあばれ出しそうになっているのを必死になってどうにか塞いでいる鎧と言ったほうがピッタリくる。しかもその鎧のように見えるブラジャーですら、久美子のバストを完全に押さえこむことはできていなかった。
 まるで内側から強烈なGがかかっているのか、体をちょっとでも動かすたびにブラは悲鳴をあげるかのようにきしみ、呼吸をしただけでも内圧がぐっと高まってはじけ飛びそうになっている。
「すっごーい、ちょっとこっち見て」
 しのぶが背中にまわって叫ぶ。他2人が覗きこむと縦にずらりとホックが並んでいた。
「ええ、いくつあるの? ひい、ふう、みい…14個もある…」
 近頃の急激な成長で、最近またホックの数が増えていたのだ。
「さあさあ観念して脱ぎなさいって」
 あたりを見回して浴場に他に誰もいない事を確認した後、とうとう久美子は意を決して背中に手を伸ばし、ホックを上から順にはずしていく。ひとつはずれるごとにそれまでぎゅうぎゅうに封じ込められていたバストがむく…むくとさらに大きくなっていくように見えた――。
「ちょっと待って!」あとホック2つ、というところでしのぶが突然声を上げた。小さいが切羽詰ったように鋭い声だった。
 久美子を含めた3人が、どうしたのか、という顔でしのぶを見つめた。皆次の言葉を待っている。
「あ…」その視線を感じて、しのぶがちょっとてれくさそうに顔を上げた。「ごめん、変な声だしちゃって…。でも、なんかブラとったら最後、久美子の胸がバーンと今の何倍にも膨れあがってこっちまで押し寄せてくるんじゃないかって気がして――」何だか、決して取ってはいけない封印が今まさに解かれようとしている、そんな緊迫感にとらわれていたのだ。
「なに言ってんのよ」奈保美があきれたように言った。
「大丈夫だって」久美子自身、なんかいきなり肩の力が抜けて気が楽になったようだった。

 最後のホックがはずされ、そっと肩からブラのストラップが落とされた。
 3人はその様子を、まるでパンドラの函が今まさに開けられようとしているかのごとく、固唾を呑んで見つめ続けていた。誰も口を開くものはいない。
 遂に久美子の胸にはめ込まれていたカップが外され、中のバストが3人の前にじかにさらされた。誰かが息を呑んだような音が聞かれ、3人の目はその胸を見つめて一瞬たりとも離れようとしなかった。
 胸からうず高く盛り上がったバストは、ブラジャーの支えを失ったことにまるで気がつかないかのようにそのままの形でとんでもなく大きくとび出してピンと張りつめ、四方八方に丸々とした曲線を描いていた。それはまるでとてつもなく巨大に成熟した果実が、胸からあふれんばかりに、しかしまだまだこぼれ落ちはしないぞと言わんばかりにがっちり実っているようだ。2つの果実はそれでもなお胸の上に少しでも多く自分の陣地を確保しようとするかのごとく限られた胸のスペースを取り合っておしくらまんじゅうをしており、ぶつかり合った接点には何もしなくても自然に深い谷間が形作られていた。乳房の下部分も力強く浮き上がっていて、その大きさに隠れ気味とはいえアンダーバストがくっきりとラインを描いているのが見える。
「すごい…」しばらくして、菜保美が、感に堪えないように小声でつぶやいた。
 沈黙はおそらくほんの数秒だったのだろうが、3人にはとてつもなく長い時間に思えた。
 それに続いて、しのぶがぽつんと漏らすように言った。
「ブラはずしたらちょっとはおっぱい下向くと思ってたのに――」
 久美子はそれを聞いてちょっとカチンときた。なんだかんだ言って、大きくても形のよさには自信があった。そのことを強調するかのようにことさらに胸を張り、どうだとばかりにしのぶの目の前で少しゆさぶってみせた。その動きを受けて乳房はたふたふと豊かにたわみ、揺れ動き続けたが、動きを止めるとにわかに収まってまた元のように形よく突き出していった。
「なんかさっきよりずっと大きくなったみたい…」
 加寿子がつぶやく。鎧から開放された時にむくむくと大きくなっていった結果、ブラを取る前より2まわりほど大きくなったように見えてしょうがなかった。

「もう――いいでしょ」久美子がちょっと寒そうに口をとがらせた。5月とはいえ、一糸まとわぬ姿でいつまでもいるのはいささかきつかった。
「ちょっと――あともう少しだけ…。ね、さわっていい?」
 久美子がえっ、と戸惑いの表情を見せるうちに、加寿子がおそるおそる手を伸ばし、つんつんと手でつついた。指の動きに合わせて巨大な乳房がたふんと揺れる。
「うわーっ!」
 やわらかい! しかしそれだけではない。つんと突いた指は一瞬ずぶっと抵抗なく沈みこむが、その奥には何かがぎっしりと詰めこまれているような圧迫感があり、すぐさま内側から突いた力に倍する勢いで指がはじき返されてきたのだ。
(なんなのよ、このおっぱい…)
「ねえねえ、どんな?」横からしのぶが今度は掌をあてがうように久美子の胸に押しつける。胸はさっきより大きくふりこのように振れた。接触する面積が大きい分、その突き返すような弾力ははるかにストレートに伝わってきた。
「わっ、なにこれ…」信じられない、という顔をしてしのぶは今しがた受けた感触を確かめるように自分の掌を見つめていた。そうするうちに乳房の振れは1回ごとに小さくなっていき、もう何事もなかったかのように元に戻っている。「まるで――最上級のウレタンがぎっしり詰め込まれた極上クッションみたい」
 何を大げさな、というように最後に手を伸ばした奈保美も、手が触れた途端、無言で目を見開いてうんうんと何度もうなずいた。
「やだーもう、何すんのよぉ、みんなして」一様に黙りこくってしまった3人を前に、久美子ひとり顔を赤らめていた。

 夕飯が済み、部屋に布団が敷かれてから、少女達はまた別の盛り上がりを見せ始めた。
 奈保美たち3人は旅館備え付けの浴衣を身につけていたが、久美子ひとりだけは家から持ってきたTシャツとジャージだった。実はさっき、久美子もこっそりと浴衣を着てみたのだが――胸のあたりでごっそりと布地をとられてしまって他のところが思いっきり寸足らずになってしまい、しかもそれでも胸はほとんどはみだしそうになってしまってどうにも格好がつかなかった。やっぱり自分には既製品は着れない、そんな事を思い知らされただけで、結局温泉から上がった後、久美子はノーブラのままその上にTシャツを着込んで済ませることにした。しかしそれでも胸が重力に逆らうかのようにとんでもなく前にとび出しているのは相変わらずで、先ほど久美子のおっぱいをじかに見たショックの抜けきらない3人は、その胸のラインそのままに浮き出させているTシャツのふくらみを前に、その見事さに改めて感嘆せずにいられなかった。

「それじゃあお待ちかね、"さいころトーク!"。パチパチ」
 自分から拍手して率先してテンションを上げているのは、やはりしのぶだった。加寿子も便乗して盛んに拍手している。
 本来ならさいころを転がす所だが、用意できなかったので、しのぶは自分で籤を作っていた。
「それじゃあ皆さん順序良くひいてもらいましょう」
 奈保美、加寿子が順に籤を引いて話し、久美子の番が来た。
「なにがでるかな、なにがでるかな…」しのぶの調子っぱずれの歌声に合わせて1本籤を引く。その先を見てしのぶはガッツポーズを決めた。
「出ました! はずかしい話。略して"はずはな〜"」
 久美子以外の3人が喝采の声を上げた。
「それでは、久美子には何か人に言えないような恥ずかしい話を――そうですね、やっぱり誰もが気になる男関係について語ってもらいましょうか」
「えーっ、だって――そんな話、まだ全然ないから――」
「ほんとぉ? 旅の恥は掻き捨て、思い切って話しちゃったほうがよくない? どうしてもってなら、久美子には特別に、『おっぱいに関するはずかしい話』をしてもらいましょうか」
「賛成〜っ」
「ちょっとぉ、そういうしのぶはどうなのよ」
「わたしの話なんて読者が求めてないでしょ。だんぜん久美子の話じゃなきゃ」
「ちょっと、読者って誰よ?」
「わたしら3人に決まってんじゃない。それとも好きな人のことでも告白する?」
 久美子はしばらく黙って考え込んだ後、ようやく口を開いた。
「それじゃあ、あの…。この前お腹壊したって言って学校休んだ時の話なんですけども、あの日は本当は――。その…この前自分のおっぱい見てたら突然おっきなプリンに見えてきて、そうしたらそんな特大プリンをむしょーに食べたくなっちゃったの。それであの前の日、その気持ちを押さえきれなくなっちゃって、とにかくたくさん材料買い込んで、その…自分のブラジャーに流し込んで型とってプリンを作ったんです。そしたら予想したのよりずーっと大きくなっちゃって…。でも無理してそれ食べたら――思いっきり食べ過ぎちゃいました」
「へぇ〜っ。それでお腹壊したの」
「いや、その…お腹は次の朝までには収まってたの。けどその代わり胸が――ブラジャーがどうしようもなくきつくなっちゃって。それで仕方なくいつもの下着屋さんに駆け込んでブラの調整――応急処置してもらったの。でも恥ずかしいから、学校には腹痛ってことにして――」
「ちょ、ちょっと待って久美子、それじゃあそのデカプリン食べたらお腹こわす代わりに胸が大きくなっちゃったの?」
「なんかそうみたい…」
「うーんと、それじゃあ久美子、ちょっと訊くけどさ、先月、4月の1ヶ月間だけで、いったいバスト何センチ大きくなった? ちょっと教えて」
「――ちょうど10センチ…」久美子は消え入りそうな声で言った。
 3人は、ただ目を合わせるだけだった。

 しのぶがニヤッと笑って立ち上がった。
「さあさあそれじゃ、改めて久美子のデカプリンちゃんをご披露いただきましょうか」
「なによ、その"デカプリンちゃん"って」
「え?だって久美子、作ったんでしょ。自分のブラジャー使って、自分のおっぱいそっくりおんなじなプリンを…」
「え、あ、あの…」
「さっきはなんか中途半端に終わっちゃったけどさ、そのTシャツ一枚めくればその中に本物の生デカプリンがあるんでしょ。わたしにも食べさせてよ」
 しのぶが久美子の裾を掴んで引き上げようとする。久美子が必死で裾を押さえつける。引っ張られたTシャツの下で、ノーブラの胸が縦横無尽にばゆんばゆんと跳ねまわった。
「やめてよぉ、エッチ」
「いいじゃん、女どうしなんだからさ」
「だめ、絶対だめ」
「あのさ、今からそんなことでどうすんの。修学旅行に行ったら全校生徒の前で披露させられんだよ」
「しないしない。でも、クラスの女子全員は見るね。いや、男子も絶対覗きに来る」奈保美が断定的に言い切った。
「久美子うぶすぎるからさ、少しは免疫つけとかないとね」
「だめだったらぁ!!!」

 他にお客がいたら、いくらなんでも迷惑な客として注意されてしまっただろう。しかしここは温泉ひとり占め、そんな気兼ねもなく思い切り騒いでいるうちにいつしか夜もふけていき、しのぶと加寿子は相次いでダウンして深い眠りに落ちていった。無理もない。試験が終わってそのままノンストップでここまで走りぬいてきたのだ。
「もう…」
 どうにかしてTシャツを死守し抜いた久美子が、ほっとした表情で腰を下ろした。横にはただ一人、奈保美が座っている。
 警戒するような久美子の視線を受けて、奈保美は手を横に振って戦意のない事を示した。
「ハイハイ、降参降参。それにしても久美子、すごいパワフルね。2人がかりでも全然かなわないじゃない。その調子ならちょっと安心したわ」
 奈保美はどこか、他の人を一段上から見守っているような所があった。一見目立たないけど、この4人で一番リーダー格となると奈保美になるのだろう。
「まったく、飛ばしすぎだよ」
 奈保美は、前後不覚で動かなくなってしまったしのぶの寝顔を眺めながらちょっとあきれたように言った。
「さっきはごめんねぇ、風呂場で調子に乗っちゃって」
「あ、いいよ別に、気にしないで」
 久美子がどうやら落ち着いたらしい様子を見て、奈保美は語りかけてきた。
「ね、ちょっと外の風あたりにいかない?」

 2人はベランダに出た。空はよく晴れていて星が東京よりたくさん見える。時おり肌をなでる夜風が心地いい。
「でもさ――ごめん、話戻っちゃうけど、しのぶでなくても久美子のおっぱい、ほんとすごいと思うよ。ほんと感心しちゃう」
「いや、まぁそのぉ」こう真っ正面から言われると返す言葉がなくなる。
 しばし風を感じたまま無言の時間が流れた後、奈保美が、ほんとうにふと思いついたかのように口を開いた。
「久美子さ、正直な話、男の人に胸さわられたことないの?」
「え…ないよそんなの」
「一度も? そうなんだ…」
「え――じゃあ奈保美はひょっとして…」
「あ、いや。別にそういう訳じゃないんだけどね――。でも…じゃあ、ぜんぜんもまれたこともないのにそんなに大きくなっちゃったんだ。ほら、おっぱいって、男の人にもまれると大きくなるって言うじゃない。それじゃあもし久美子がこれから男の人におっぱいもまれたらどんなに大きくなっちゃうんだろうね」
「え――ちょっとぉ、仮定で人の話しないでよぉ。自分でだって見当つかないよ。そんなの」
「けどさ、いつかはそういう日が来るんだよ」
 うーん、と小さくうなったあと久美子は黙りこくってしまった。また少しの間沈黙が続く。
「あのさ、久美子って好きな人いるの?」
「うーん、まだよくわからない」
「わたしは――いるよ」
「ほんとにぃ? いったい誰?」
「名前はかんべんして。というか自分だって最近になって初めて『あ、わたしこの人が好きなんだ』って気づいたの。あほらしい事にね。でも気づいちゃったらもうだめ。こうしてても、ついついその人の事考えちゃうの。その――具体的なことはまだぜんぜんないんだけども、そばにいたいとか――抱きしめられたいとか…。その、別にいやらしい気持ちとかそんなんじゃなくて、でもとにかくその人にぎゅっとハグされたらすごい嬉しいだろうな、って…。
 でもおそらくその人は他の女の子の事が好きで――」
「奈保美――」
「ま、わたしの話はそれでおしまい」いきなりカラッとした口調でそれまでの雰囲気を打ち破った。「でさ、自分がそんな気持ちになってみて――今日、久美子のおっぱい見ちゃったじゃない。そしたら、お節介とは思いつつ、こんなことが気になっちゃったの」
 奈保美はここで一旦口の動きを止め、ひと呼吸してからしゃべり始めた。
「久美子さ、それだけおっぱい大きかったら、将来好きな男の人ができても、胸がじゃまになってちゃんとハグできないよ」
 二人はそれっきり何もしゃべらなかった。

 次の日の朝、久美子は他の3人よりひとり早起きした。普段から早い時間にジョギングする習慣がついているせいか、勝手に目が覚めてしまったのだ。まだ誰も起き出しそうにない事を確認した上で、そっと布団から抜け出してひとり露天風呂に向かった。
 のんびり朝風呂につかろうというのだ。
「きのうのあれじゃ、温泉に入った気がしないものね」
 昨晩のバカ騒ぎを思い出しながら、脱衣所で勢いよくTシャツの裾を引き上げる。どうにかかろうじて隠されていた2つの巨大なふくらみが中から一斉に飛び出してきた。
「よしよし、お前もゆっくり湯につかりたかろう」
 自分の胸にそんなあいさつをしてみせた。

「ふうっ――」
 文字通りたったひとりの湯船に身をひたすと、その温かさが身体のすみずみまでしみこんでくるようだった。けど胸はぷっかりと浮かび、その強力な浮力で肩まで浮き上がりそうになる。「こら、おとなしくしなさい」久美子は両手で自分のおっぱいをなんとかお湯の中に沈めようとする。他人が見てたら変に思うだろう一人きりの格闘が続いていた。
 そんなことをしているうちに身体がほかほかとあったまっていった。最初は軽く入るだけのつもりだったのだが、次第に温泉が効いてきたのか、肌に受けるちょっとぴりぴりした刺激がしだいにほこほことしたものに変わり、じっくりと味わうその感覚がなんともうれしくて、思わぬ長湯になっていた。特におっぱいが芯まであったまって、じんわりと熱を持った感じになってきたのが心地よかった。
(うーん、やっぱり温泉に来てよかった。気持ちいいなぁ…)
「く〜みこ〜。ぬけがけは許さ〜ん」
 いきなり背後から2本の腕が伸びてきて久美子の胸につかみかかろうとした。もっとも長さが足らず、指の先が胸の中腹をなすっただけに終わったが。
「きゃっ、しのぶ、いつの間に」
 振り向くと後ろに、菜保美、加寿子、しのぶの3人がタオル一枚の姿できっちりと並んでいた。
「こんなことするやつは、おしおきだーっ」
 いっせいに湯船の中の久美子にくすぐりの刑を与える。標的は当然、その大きなおっぱいだった。
「ひゃっ、くすぐったい!! やめ…ん、許して!」湯面をばしゃばしゃと乱れさせながら、6本の腕がよってたかって久美子の胸を襲い続けた。

「もう、やめてよね」ようやく解放された久美子は脱衣所でブラをつけようとしてハッと気がついた。
 おっぱいがまた大きくなっている…!?
 なんだか胸が温泉をスポンジのようにたっぷり吸い込んで、朝起きた時よりひとまわりはふくらんだような気がしたのだ。
(まさか――熱で膨張しちゃったの? それとも温泉はいりすぎてふやけた?)
 より一層きつくなったブラはホックが届かず、なかなか嵌らない。むりやり引き伸ばしてなんとか留めようと苦労していると、後ろから加寿子が話しかけてきた。
「ねえ久美子、ところでさぁ、この温泉の効能っ知ってる?」
「あ、そういえば知らない。なんなの?」
「あのね…」加寿子は笑いをかみ殺すようにした。「実はね…。おっぱいが大きくなるって評判の温泉なの」
 これには久美子だけでなく奈保美もびっくりした。ただひとりしのぶだけが、立てた人差し指を口に当てて「しーっ」とやっている。
「えー、まじー」
「さすが貧乳のしのぶが選んだだけあるわ」
「でも――」加寿子がしのぶの胸をじっと見る。「あんまり効果なさそうね」
「ええいうるさい。そりゃ久美子に比べりゃないも同然だけどさ、わたしだって少しはふくらんでるんだからね。――で、どう?久美子、おっぱい大きくなった?」
「え――」いきなり図星をつかれて、一瞬絶句してしまった。「ま、まさかぁ」
「なに、何なのよ今の間は――。まさか久美子、ほんとに大きくなったんじゃないでしょうね。わたしは何年も入ってるのに全然変わりないのに…」
 しのぶの鋭い追求の目に、久美子は否定するのに思わず必死になっていた。
 ちなみに後でちゃんと紹介パンフレットを調べてみると、効能の中に「お乳の出がよくなる」という一文があった。なんでもそういう言い伝えがあるらしい。まあズバリではないが、あながち関係ないともいえない微妙なところだった。

 こんな風にして、1泊2日の温泉の旅はあっという間に終わりを告げ、4人は再び特急列車に乗って帰途に着いた。若さあふれる集団も、さすがにどこか疲れた空気がただよい、帰りの列車の中は口数も少なかった。中でただひとり、久美子だけはいつものように元気だった。
 行きに集合したターミナル駅に着くと、4人はここで解散してそれぞれ自分の家に向かおうとする。誰それは何線、と確認しているうちに、奈保美がふと気がついた。「あれ、久美子はどうすんの?」
「あ、わたしはこれ」
 と駅そばの駐輪場に止めてあった原付をひっぱっていった。
「えーっ、久美子、免許持ってたのぉ!」驚く加寿子を尻目に、久美子は颯爽と乗り込んだ。
「うん。とても2人乗りはできないけどもね、これ。じゃ、また学校でね。さようなら」
 エンジンをかけると、すぐさま久美子はその場を去っていった。

「元気だねぇ…」
 見送りながら、しのぶは誰に言うでもなくつぶやいた。
「うん…こっちはもういいかげん疲れてんのに、あの子、平気でこのまままた旅行にでも行きかねないぐらいの勢いじゃない」
「そういえば私、久美子の疲れた顔って見たことない」
「私も…」
「私も…」
「あの無制限の元気っていったいどこから来るんだろうねぇ。いつもエネルギーいっぱいって感じじゃない」
「――おっぱいのなかに充満してんじゃない?」
「やだぁ…。でも――マジな話、久美子のおっぱい、すごかったよね」
「うん…すごかった」
「想像を軽く超えていた。なんていうかさぁ、おっきいだけじゃなくって、ほんと中にエネルギー満タンって感じでさぁ」
「うん…つついたら、ぱーんとはじけちゃいそうで触るのちょっと怖かった」
「ほんと、あんな大きいんだもん、ブラはずれはちょっとはたれるかと思ってたのに――むしろ一層突き出してくるんだもん」
「うん、だからついついおそるおそる、そーっと手を伸ばしちゃった」
「私も…」
「なんていうかさぁ。私らおんなじ女なのに、おんなじおっぱいとは思えないよね。世界が違うっていうか」
「うん。桁が違った」
「でもさぁ、いざ触ってみたら、すっごいやわらかいの。ふにふに」
「そうそう。めちゃくちゃ感触いいっ! ずーっと触っていたかった」
「ほんとほんと! でもそれこそただ柔らかいってんじゃなくってさ、ぎゅっと押すとぎゅっと返ってくるみたいな、なんていうか、張りがあんのよね」
「うん、そうそう。でもあんな風に張りが実感できるのって初めて」
「うん…でもそうでもなきゃ、あの形のよさは納得できないよ」
「そうそう。ただ大きいだけじゃない。ぼーん、ぼーんて感じで勢いよく突き出してるもんね。ロケットおっぱいっての。初めて見た」
「ねえ、ああいうのを"ボイン"っていうのかなぁ」
「マジでねぇ。あれだけ大きいのにそれでいて先がツンと上向いてんだもんな。びっくりした。わたしらのほうがよっぽどやばいんじゃないかなって気がしてきた、正直…」
 奈保美がぼそっと言った。
「あのおっぱいも、いずれだれかの男のものになってしまうのか…」
「――そう考えるとなんかすごいもったいない」
「あのおっぱい、特別天然記念物にでも指定する?」
「それって動物じゃん。でもせめて重要無形文化財に…」
 3人はあまりのバカらしさに思わず一斉に笑い出した。笑い声は5月の空にいつまでも天高く響きわたった。

 この時には、3人はもちろん、当の久美子ですら、その胸にどんなとんでもない秘密が隠されているのか、まだ知る由もなかった――。