超乳少女 久美子

ジグラット(物語)・LRE's&NAO(挿し絵) 作
Copyright 2005 by Jiguratto (story)
Copyright 2005 by LRE's and NAO (picture)

episode 7 水泳大会

「ふう、暑い」
 久美子は襟元をばたつかせ、少しでもと風を送り込んだ。7月に入ってから急激に暑さが増し、おそらく今日の気温は体温をも上回っているだろう。しかも湿度が高い。気温と湿度のダブルパンチで人の不快指数を跳ね上げさせる日本の夏だ。
 それは久美子とて例外ではない。さして汗っかきという訳でもないのに、じっとしてても汗がじわーっ湧いて出てくる。
 制服は当然夏服に替わっている訳だが――久美子にとって暑さに関してはそれはあんまり関係なかった。なぜなら冬だろうが夏だろうが変わらずびっしりと肌に密着し続けるものがあったから。
 言うまでもない、彼女のバストを覆っているブラジャーだ。久美子のしている特製ブラは、その超特大のバストを包み込み、うまく重さを散らすために思いっきり頑丈に作られていた。自然と生地は厚手になり、しかもすっぽりと胸を包み込むフルカップだ。さらにその大きさに比例して、今や彼女の上半身全体を覆ってしまうコルセットのようになってしまっている。これではどんなに通気性をよくしようとしても限度があった。
 そんな厚手のブラジャーの中に、今や230センチもの大きさに達した2つのふくらみがぎゅうぎゅうに詰め込まれ、所狭しとおしくらまんじゅうをしているのだ。外の熱気を吸収し、その内側にどんどんと熱がこもっていく。今、ブラをはずしておっぱいの間に風を送りこんだらどんなに気持ちいいだろう、と何度夢想したかしれない。
 しかしここは教室、今は授業中。人前でそんなことできるはずもなく、ただひたすらじっと我慢するしかなかった。
(もう…アメリカ人はなんでもかんでも頑丈に作ればいいと思って――日本の夏のことなんかこれっぱかしも考えてないんだから)
 実際には彼女のブラだって日本で作られているのだが、こういう時の思考に合理性を求めてはいけない。気分を落ち着かせようと深く息をしながら耐え続けていた。
 もういい加減頭がぼぉっとしてくるほどの時間を耐え忍んだ頃、ようやく耳に授業終了のチャイムが届いた。
 やっと終ったぁ――。久美子はちょっとでも胸に風を入れようとそっとブラウスのひとつめのボタンをはずした。開いた胸元から熱気が立ち昇ってくるような気がする。中を覗き込むと――ぴっちり密着した胸の谷間に汗がたまってうっすらと小さな水たまりができているのが見えた。
 あまりのことに一瞬呆然としかけたところへ、さらにクラスメイトの声が追い討ちをかける。
「今日、めっちゃ暑いねぇ」
「でもいいじゃん、次の体育、プールなんだしさぁ。もう待ち焦がれちゃったよ」
「うん、ラッキーだよね、こんな日にプールでさぁ」
 久美子の中で何かが切れた。
 そう、次の授業は体育だ。しかも――女子は今日からプールである。けれども久美子は細川先生から、プールの授業は(教育的配慮から)見学するようにと言われている。この胸のおかげで人一倍暑さに苦しんでるのに、プールにすら入れないなんて――こんな理不尽なことがあるか!
 久美子は一目散に保健室に駆け込むと、そこにいた細川先生に宣言した。
「細川先生」
「何?」
「堀江久美子、今日プールに入ります。いいですね」
「え、今日? えーと今晩はねぇ」
「今、すぐです!」
「え…すぐって…」先生の顔に動揺が走った。
「次の授業は体育です、水泳です。生徒であるわたしがプールに入るのになんの問題がありましょう!」
 細川先生はあわてた。もし今、彼女が水着姿になってみんなの前に現れようものなら――もちろん授業は女子だけだし、何も起こらないかもしれない。けど、あらぬ事を考えてついつい慎重になってしまうのは教師の性だった。どうしよう…。しかしなんとか頭を高速回転させ、とっさにうまい理由を考えついてにんまりした。
「ところで堀江さん、スクール水着持ってたっけ?」
「え?」
「うちの水泳の授業は、スクール水着必須よ」
「そんなぁ…」
 久美子の持っている水着はすべてセパレーツだ。理由は簡単、胸の方ばかり大きくなるので、そちらだけ替えれば済むようにだった。ちなみに腰の方は、去年の水着でもまだ充分着れた。その事を知っていた細川先生が考え出した抜け道だった。
 さあどうする?とばかりに先生は久美子を見つめた。しかし暑さでうだっている久美子はあきらめない。しばらくじっと考えた後、にわかに反撃に出た。
「それじゃあ…スクール水着さえあれば、授業に出てもいいんですよね」
「え?」
「そうなんですね!」
「ええ、まあ、そうだけど…」
 久美子はニコッと笑った。細川先生は笑顔の意味が分からない。どういうこと? 知らぬ間に自分で自分が出した罠にひっかかってしまてっいることにまだ気がついていない。もう既に2人の立場は逆転していた。
「先生、ありがとうございます。プールに行ってきます」
「え、ちょ、ちょっと…」
 細川先生が呼び止めるのも聞かず、久美子は一目散にそこから去っていった。
 一人保健室に残された細川先生は、訳が分からず呆然と立ち尽くしていた。
(あの子、いったいどうする気なの…)

 一方久美子は、小躍りすような軽やかな歩みで自分のロッカーをまさぐった。
(あ、あったあった) してやったりとばかりに満面の笑みを浮かべた。(これが、こんなところで役に立つなんてね)
 取り出した袋をがさがさと音を立てながら中身を引っ張り出す。その手には――胸の部分をとてつもなく大きく膨らませた、正真正銘のスクール水着がしっかりと握られていた。

 ――話は3日前の日曜日に遡る。久美子は「トリオンフィ」への道を急いでいた。その日は今日に勝るとも劣らない暑い日で、その時の久美子の格好ときたらノースリーブのタンクトップにデニムのミニスカートという軽装、しかもタンクトップの下にはブラジャーひとつしかつけていなかった。タンクトップの胸がもうばゆんばゆんにふくれ上がって今にもはちきれそうになっているのに、久美子はそれに構わずまるで胸で風を切らんばかりの勢いで足早に歩き続けていく。肩のあたりはブラのストラップをどうにか隠すほどの幅しかなく、下手に動いたらブラジャーがはみ出してしまいそうだったけど、久美子はそれすら意に介していなかった。一歩踏み出すたびにバストが威勢よく振れ、その度に中身がいっぱいいっぱいになったブラジャーにも強烈なGがかかってきしむような悲鳴を上げる。周りの人は誰も皆、その胸に目を奪われないものはなかった。なにせその頭よりもはるかに大きなものが胸からあふれかえらんばかりにつんと上向きに突き出していて、重量感たっぷりに絶えることなく揺れ動いているのだ。一目見るや誰もがぎくりとして立ち止まってしまう。
(まいったなぁ)
 しかし久美子本人はそんな事にもまるでお構いなしだった。というかそこにまで気をまわす余裕がない。とにかく時間がないのだ。歩くたびにブラジャーがみちっ、みちっ、と苦しそうにうめいているのが断末魔のように聞こえる。
(これがもう最後のブラなのに――)
 理由はつい先週変えたばかりのブラジャーにあった。あれからまだ1週間、しかしその間にブラが次々と壊れていってしまい、今つけているこれが最後の1枚なのだ。しかもこの1枚もどうやらあやしい。なにやらこうしている瞬間にもぶち切れてしまいそうで不安でしょうがなかった。
 頑丈さでは定評のあるトリオンフィのブラジャーも、近頃ではだんだんあやしくなってきた。もちろん品質が下がった訳ではない。むしろ最近ますます技術的な向上が著しい。ただ久美子の胸の成長がそれをも上回ってしまっておっつかないのだ。

「あ、いらっしゃい」
 店に入ると、待ちかまえたようにひとりの女性が声をかけた。
 この人はつい最近この店に出入りするようになった下着職人の藤原さん。なんでも店員ではなく、外注契約としてこの店に出入りしているそうで、本来は独立した自分の店を持っているそうだ。
 先週来た時に紹介され、今月から久美子のブラジャー製作を一手に任されることになったという。
「じゃあ、他に自分の店があるんですか?」久美子は初めて聞くその状況に、興味深そうに尋ねてみた。
「そうよ、でもね、やっぱりそれだけじゃなかなか苦しくてね――ここ外資じゃない。手広くやってるし、だから仕事もらってるわけ。もともと専門はあなたみたいな大きいサイズのブラジャーだから、安心して」
 その態度には腕利きの職人らしい誇りが感じられて、久美子はなんとなく信頼できそうな気がしていたのだが――その途端このざまである。正直言って久美子は今日クレームを言おうかと思ってきたのだ。
 しかし藤原さんの対応は迅速だった。
「話を聞いてびっくりしたわ。まずはその壊れちゃったブラジャー見せて…」受け取ったブラを一目見るや目つきが変わった。
 隣には以前ブラを作っていたトリオンフィ専属の職人さんもいて、一緒に見ていたのだが、その人のほうがさらに輪をかけて驚いていた。
「まさか…ここまでしてもだめなの?」
(予想してたよりはるかに強力だわ、この胸。半端じゃない…)
 一通りチェックすると、藤原さんは久美子の方に顔を上げて、きっぱりと言った。
「ごめんなさい、少し見通しが甘かったようだわ。今すぐあなたにぴったりのブラになるよう修繕するから、ちょっと時間をちょうだい」
「は、はい――」
 そこには有無を言わさない意志の強さがあった。それからの動きは素早かった。すぐさま久美子のバストを採寸し直すと、今しているものも含めてすべてのブラを回収し、目の前でミシンをフル回転させて驚くべき速さでブラを修繕し始めた。
 久美子はその迫力から目を離せない。隣にいた、元の職人が声をかける。
「すごいでしょ、藤原さん」
「はい…」
「あなたのために、わざわざ外から呼んだのよ。なぜなら――情けない話だけど、あなたほどのサイズのブラを作るだけのノウハウが、トリオンフィ本社にももうないの。だから――。藤原さん、大きなブラジャーを作る技量に関しては、間違いなく世界でも有数の腕の持ち主なの。きっとあの人なら堀江さんのブラをこれからも作っていけるだろう、って…」
 久美子はちょっと驚いていた。あのトリオンフィがそこまで言うなんて…。
「きっと今回は、藤原さんも初めてで目算を誤っただけだと思うの。絶対信頼できる技術を持っている人よ。だから安心して…」
 1時間ほどで、藤原さんは久美子のブラジャーをすべて修復してみせた。まるで新品のような見事さで並べられている。
「さ、ちょっとつけてみて」その立ち姿にも少なからぬ自信があふれている。久美子はタンクトップを脱ぐとさっそくそのひとつを胸にはめてみた。
「あ…」
 その感触に思わず小さな声が上がる。そのぴたっと肌にフィットする感触、どっしりと胸全体を包み込む安定感、そのすべてが先ほどとは比べ物にならなかった。
「どう?」
 そう訊く顔にも不安さはない。本当に納得のいく仕事をしっかりとやりとげたという満足感にあふれていた。
 久美子は言葉もなく、自然に顔がほころんでいった。
 藤原さんもにっこり微笑む。言葉がなくとも、お互いの心が通じ合うような気がした。
(藤原さんって――この人、すごい人かもしれない)

 ――そうしてさらに補強され、パワーアップしたブラジャーが、今も久美子のバストを包んでいる。しかし皮肉なことに、一層頑丈さを増したブラジャーが、今まさに久美子の胸に着々と熱を蓄え続けていた――。

「ね、水着いらない?」
 きのうのことだった。念のためもう一度チェックしたいからと放課後に久美子のブラを検証した藤原さんは、2人だけになった時、いきなり言い出した。
「え…?」
「もう夏だし、あなたみたいな胸だと水着にも苦労してるでしょ。実はちょっとあなたのサイズで試作してみたの。着てみてくれる?」
「え、でも…」
「遠慮しないで。今回こんな迷惑かけちゃったし、せめてものおわびのつもりよ。お金なんかいらない」
 出された水着を見て、びっくりした。
「これって――スクール水着じゃ…」
 久美子はとまどった。前述の理由で久美子が着る水着はセパレーツばかりで、スクール水着はもう長いこと着ていなかった。しかし藤原さんがそれを知らないのも無理はない。
「ただこれ、個人的なサーヴィスだから――このお店には黙っていてね」
 結局押し切られる形で久美子はそれを受け取ってしまった。そのまま家にも持って帰らず学校のロッカーに押し込んでおいたのだ。しかし今、それが役に立つとは――。
(藤原さんが作ったものだったら、すごくいい水着かもしれないし…)

 更衣室に行くと、クラスのみんなはもう着替え終えてプールに向かってしまったらしく人気がなかった。誰もいない事を確認してからようやくブラをはずす。カップが胸から離れた途端、そのすき間に風がすっと入り込み、それだけでこれ以上ないほど涼やかさを感じた。
 悪いけどちょっとの間もうブラはつけていたくない。久美子は胸に溜まった熱を振り切るかのようにぶるん、ぶるんとおっぱいを振り回してみせた。あたりの空気を大きく切り裂くように風が湧き上がる。風にまみれて、胸の辺りがずいぶんとひんやりとした。
(ああ、気持ちいい…)
 ひとしきり胸を冷ましてから、さっそく水着に袖を通させてもらった。思わず大見得切ってしまったものの着るのは今が初めてだ。本当に自分に着れるのだろうか、といつも新しい服を着る時に感じるのと同じ不安が頭をよぎる。
「わ…ぴったり」
 布地が胸を覆った途端、久美子はその着け心地に驚いた。それほどまでに、水着が久美子のバストにまんべんなく吸いつくようにフィットしたのだ。さすが専門のブラ職人の仕事というべきか、久美子の巨大なバストをしっかり支えるようにやさしく包みこみ、まるで違和感がない。素材的にもかなり厚手で伸縮の利くもので作られているみたいだった。そのまま少し体を揺さぶってみる。布の面積が大きい分、セパレーツよりも体を思いっきり動かせそうだ。どんなに乱暴に手を振ってもたっぷり使われた布がしなやかに受け止めて動きを吸収し、ずれることがない。
(これなら――思いっきり泳げそう…)
 久美子は久しぶりにわくわくするような感興を覚えた。

LRE'sさん作

「どう? これで文句ないでしょう?」
 その格好のまま保健室に戻り、自信ありげに胸をそらしてみせた。
「これ、どうしたの――?」
 久美子をの水着姿を見て、細川先生はただひたすら驚いていた。着ている本人の感触とはちょっと違い、はたから見ているとその迫力たるや破壊的ですらあった。胸の線がまったく隠しようがなく、とてつもない大きさの山なみが2つ、胸から強烈に張り出している。特別仕様にも関わらず水着はもうぱっつんぱっつんになるほど引きつり、ちょっと動いただけでも張り裂けそうだ。控えめなはずのえりぐりもこれ以上ないほど引き伸ばされ、そこからは深々とした谷間が丸見えである。そこから垣間見える分の乳房だけでも、他の人の何倍もの質量があった。その今にも水着を引き千切らんばかりの迫力たるや、やもすると裸以上のものがあった。
(すごい…)
 細川先生の目はスクール水着の中にこれでもかと押し込められたそのバストに釘付けになった。久美子の胸はもうけっこう見慣れているはずなのに、こうして見るとその膨らみが一層強調されてさらに迫力を増しているように見える。いや実際、先週自分で測ってから1週間ほどしか経ってないのだが、それから明らかにさらに大きく膨らんでいるみたいだ。その胸は相当な重量があるはずなのに、久美子にかかってはまるで無重力状態のように軽々と元気よく右に左に動き回っている。
――破裂するかもしれない。
 先月、相川先生から聞いた衝撃の言葉が頭をよぎる。あれ以来、その胸が文字通りはちきれてしまうのではないかと時々心配になってしまうのだが、見てると今のところそんなそぶりは見えなかった。確かに相変わらずすごい勢いで大きくなり続けているのだが――むしろそのその変わらぬ元気っぷりに、なんだかほっとするような安堵感があった。
 最後に細川先生は、もうあきれたような顔をしながら仕方なさそうに頬笑んだ。
「――負けたわ。もう…好きなだけ泳いでらっしゃい!」

 ピーッ!
 ホイッスルの音が鳴りわたり、プールサイドに集合の号令がかかる。着替えやらなにやらで時間を食ってしまったために始業時間はもうとっくに過ぎている。保健室から一気に走ってきた久美子はなんとかギリギリ駆けつけて間一髪その集団にもぐりこんだ。
 久美子が走って現れた途端、皆の口からどよめきにも似た声があがった。
「あれ、久美子、どうしたの?」
「あ、わたしもプール入るから」奈保美の問いに答えた久美子の胸に一斉に視線が集中する。皆が皆、久美子がいつものように見学するとばかり思っていたのだ。
 それに――久美子の胸を毎日見ているはずのクラスメイトにしても、初めて見る水着姿には目を見張らざるを得なかった。そのバストラインはまったく隠されることなく水着の上から強烈に自己を主張している。いや布一枚に包まれている分、その張りつめ感はいつもより一層強調されていた。その膨れあがった水着の中には、どこもかしこも乳肉がすき間なくみっちりと詰め込まれていて、体のわずかなうごきも逃さずに反応してぷるぷると跳ね回っているのだ。
「…………」
 奈保美の隣にいたしのぶは言葉もなく喰い入るように久美子の胸を見つめ続けていた。口元はまるでよだれでもたらさんばかりの勢いだ。
「しのぶぅ、何見てんのよ…」
「久美子、すっごおい。こんなすごいもん制服の中に隠してたんだ…」ほんの2か月前にその生おっぱいに触れたはずのしのぶですら、その大きさに予想外のショックを受けていた。無理もない、確かにあれからもう20センチ以上も大きくなっていたのだから。
 しのぶだけではない、菜保美も、加寿子も、他のクラスメイト全員が久美子の胸に集中して飽くことなく見つめていた。
(もう…)
 久美子はさすがに恥ずかしくなってきて、人目を避けようとひょいとプールサイドに駆け上がった。しかしそうたらしたで一緒に胸が盛大にぽよんと跳ね上がって、却ってその大きさが強調されてしまう。
 おお…と声にならない声が誰ともなく上がる。体育は男女別だったからまだよかったが、男子がもしここにいたらひと騒動起こっていただろう。
「ほら、いつまでやってんの、授業始めるからね」
 たまらず体育の先生が声をかける。屋内プールのドアの向こうでは――細川先生がかすかに開けたすき間からその様子をじっと見つめていた。
「なにやってんのよ、あの子は」
 久美子の様子が心配になって保健室をほおり出して来てみれば、なんてことはない、こっちの気持ちも知らずにいつもどおり無邪気にはしゃいでいる。見ててなんだかこっちが拍子抜けするぐらいだった。

「それじゃあ、来週の水泳大会に向けてタイム計るからね。みんなぁ、全力で泳ぐのよ」
 久美子たちが通う学校では、夏休み前の行事として毎年水泳大会が開かれていた。クラス対抗で、毎回けっこう盛り上がる夏の恒例行事だ。
 横で加寿子が声をかけた。
「ねえ、久美子って――泳げんの?」
 久美子ははぁっ?という顔をした。けど考えていればプールは見学してばっかりで、みんなの前で泳いだことって一度もなかった。誤解も無理はないとは思いつつ、ここはひとつちょっと泳ぎが得意なところも見せなきゃ、と久美子の心の中で密かに闘志に火がついた。
 久美子の番が来た。水着がいいと体も軽い。合図とともに思いっきり飛び込んだ。
 ずぶんと体が水中にかぶる。浮力がかかってふわっと体が軽くなったような気がする。この瞬間がいつもたまらなく好きだった。まるでなんでもできるような高揚感があった。
(いける!)
 気分よく、思いっきり腕を伸ばして力強く水をかいた。

(大丈夫かなぁ、あの子…。けっこう無防備な所あるし) プールの外からはなおも細川先生がその様子をじっと見つめていた。
(あんな胸だから抵抗大きくてスピード出ないんじゃないように一見思えるけども、あの子の場合それが当てはまらないのよね。なにせあんな大きなもの抱えてながら普段普通に飛び跳ねられるだけの筋力があるんだもの。水に入るとあの胸がぐんと軽くなる分、体への負担が減っていつも以上の力が出るはずよ。それこそ胸への抵抗なんて問題にならないぐらいのね。だから――もし本気出したら――とんでもないタイム出ちゃう。ただでさえ目立つのに、すごいタイム出してさらに注目されちゃったら――あの子どうなっちゃうんだろう)

(ああ、気持ちいいなぁ…) 細川先生の心配をよそに、久美子は水の冷たさが嬉しくて、無心で手足を動かしていた。先ほどの灼熱地獄が嘘のようだ。身体が信じられないほど軽い。気分よく泳いでいるうちに、あっという間にもうゴールにたどりついていた。
(もう終わりかぁ) ちょっと残念そうに水から顔を上げると、なんだかみんな閑と静まりかえっている。どうしたの?と見回すと、体育の先生がストップウォッチを持ったまま仁王立ちしていた。よく見るとかすかに震えている。
(あ、いけない…。嬉しくて、思わず本気出しちゃった…)
 気づいた時はもう遅い。胸に水の抵抗を受けてかなりタイムは落ちているはずなのに、普通の高校生からすれば――驚異的な記録を出してしまっていた。クラスのみんなも泳げるのかとすら思っていた久美子がそんなタイムをいきなり出したのだ。固まるのも無理はない。
 失敗したなぁと思いつつプールサイドに上がると、加寿子が飛びついてきた。
「久美子ぉ、すごいすごい、もうダントツだよ。水泳部の山下さんを完全に引き離してゴールしちゃうし…。なんか感動しちゃった」
「あ、ちょっと待って。耳に水が入った」
 そんな時でもマイペースの久美子は、そう言うとプールサイドの上で顔を傾けて右足一本でとんとんと何度も飛び跳ねた。その度に、胸が無防備にだふんだふんと上下に大きく揺れまわる。その時プールにいた全生徒はそんな久美子の一挙一動にあまさず強烈な視線を送り続けていた。
(あーあ、やっちゃった…。面倒なことにならければいいけど…)
 一部始終を見ていた細川先生は、思わず目を伏せてしまった。

 次の日行われたロングホームルームで、水泳大会の出場者選考会が行われていた。最後に最も重要なレース、優勝を左右する最終自由形の選考まできた。
 その時、ひとりの女子が手を挙げた。
「女子の代表ですけど、堀江さんをぜひ推薦したいと思います」
 女生徒全員に賛同の声が挙がる。男子も久美子の水着姿が見れるとあっては反対するものはない。またたく間に全員一致で代表に選ばれてしまった。
 久美子自身、その時は自分の実力が認められた誇らしさやらなんやらで、ちょっと調子に乗って快諾してしまった。
「えー、こんな風に選ばれるのはなんか恥ずかしいんですが――がんばります」

 その日の放課後、久美子は細川先生に選手に選ばれた事を報告した。
(あー、やっぱりそうなったか)
 細川先生は呻吟していた。(どうしようか…今度は全校生徒の前で水着になっちゃうし…かといって恒例の水泳大会を潰すわけにもいかないしなぁ――。ま、この前も大丈夫だったし、なんとかなるかな)
 決まったからにはしっかりやりなさいよ、と細川先生は、それから毎晩、久美子にプールを使わせる事をその場で約束した。おかげで久美子はその日から毎日、下校時刻後にひとりで何時間も水泳に打ち込むことができた。
 その時使うのは、もちろんあの藤原さん特製のスクール水着である。あの授業で使って以来、その着心地がすっかり気に入ってしまって他の水着を着る気になれなかった。確かに全力で泳ぐにはセパレーツよりこういうワンピースの方が具合がいい。なによりおっぱいがしっかり安定して動きやすいのだ。自分にぴったりの水泳ツールを手に入れて、久美子は一層泳ぐことに夢中になっていった。

 それから一週間――しかし、大会の日が近づくにつれて、久美子はだんだん不安にとらわれるようになっていた。それもよりによって水着のことでだ。あの日は確かにちょうどぴったりだった。ということは――成長を続けるそのバストのせいで、日に日にどんどん胸が苦しくなってきたのだ。毎晩、水着をつけるたびに前の日より水着が小さくなっていくように感じ、だんだん着るのに苦労するようになっていった。最初の日に感じたあのぴったり感はもう既にない。代わりに胸をしめつけるような感じが徐々に強くなっていくばかりだった。大会を2日前に控え、どうにかやっと胸を水着に詰め込んだ時には、もう本当にぎりぎりのところまで伸びきってしまっているようだった。
(あと2日ぐらい――大丈夫よね…)
 言葉とは裏腹に、脳裏に赤信号が点滅する。水着を胸の中にいくら収めようとしても、胸は後から後からわき出てくるみたいに水着からあふれ出してくる。ブラジャーと違って生地そのものはそこまで厚いものではないし、強度的にはそれほど強くはない。下手に無理すれば布そのものが破けてしまいそうだ。

 その翌日――大会前日――、とうとう久美子はトリオンフィに電話をかけてみた。
「あの、藤原さん、お願いします」
「藤原さん? ああ、今日は来ないわね。堀江さんでしょ? どうしたの?」
「あ、いえ…ならいいんです」電話を切った。
 この水着は藤原さんの好意で個人的にプレゼントしてくれたもので、お店には言わないでくれと言われていた。それなら藤原さんの本当のお店に直接かければいいのだが…あいにくまだ連絡先を教えてもらっていなかった。トリオンフィに訊けば知ってるではあろうが――下手な詮索を招いては迷惑をかけてしまうかもしれない。相談したくとも連絡がとりようもなく、結局八方塞りで何もできなかった。
(もう…考えすぎよ、明日いちんちぐらい大丈夫大丈夫!)
 むやみに強がってみせるが、どこか声に元気がなかった。

 試合直前、久美子はひとり更衣室で水着と格闘していた。
 もう出場者は全員着替えてプールに向かっている。残っているのは久美子だけだ。しかし――今日はどうにも水着が言う事を聞いてくれない。きのうまではまだなんとかなったのに――なんだかとうとうある一線を越えてしまったのか、胸が水着がバストを拒否するかのようにぜんぜん納まってくれなかった。
 初めて着た日からまだ10日と経ってないのに、胸は水着からあふれかえらんばかりになっていて、押し込んでも押し込んでもおっぱいがあふれ出てきてしまう。きのうどうして着れたのかが不思議なぐらいだ。
(どうしたんだろう、今日は――きのうはちゃんと着れたのに…)
 まるで一晩でさらに数センチもふくらんだかのようだ。とにかく今日はなんだか胸の張り方が半端じゃない。むきむきと盛り上がってきて、まるで胸の上で別の生き物のように暴れまわって少しもおとなしくしてくれない。時間ばかりが無駄に過ぎ、あせって入れようとするとますます胸は水着をはじき飛ばしかねなかった。
 いきなり更衣室のドアがノックされる。
「すいません、時間ですけど、まだですかぁ」
 やばい、本当にもう時間がなくなってきた…。
「はぁい、今行きま〜す」
 ええい、ともう後先考えずほとんど力任せに胸を詰め込んだ。火事場の馬鹿力というやつか、なぜかこの時はすぽっと胸が水着の中に納まった。
 きつい――。はまった途端、まるで胸全体が強烈に締めつけられるような感覚に覆われてしまった。最初の時とはえらい違いだ。いや、水着自体は変わってはいない。変わっているのは――自分の胸、の方だ。
(大丈夫――だよね)
 久美子は無理矢理自分を納得させるように、あえてぴんと胸を張ってみた。きゅるきゅると胸の近くでうなるような音がした。鏡に写してみると、なんか――胸のあたりの生地がぱんぱんに伸びきってしまい、えりぐりの所だって、乳肉がはみ出さんばかりになって、生地の境目で段差ができ、山盛りになっているのが分かる。まるで膨らませすぎた風船のように水着が伸びきって薄くなり、なんだかうっすら中身が透けて見えてくるような気すらしてきた。ううん、気のせいよ。久美子は首を振ってみた。とにかく今はこれを着るしかない。なんといっても、自分が着れる水着はこれしかないのだ。

NAOさん作

(大丈夫――よね)
 もう一度――自分に言い聞かすように繰り返す。しかしさっきよりどうしてもトーンダウンしてしまう。よし、とさらに気合を入れ直すとドアに向かって歩き出した。

 久美子がプールサイドに姿を現した途端、プール全体がどよめくような歓声に包まれた。無理もない、学校中で久美子の事を知らないものはないほどの存在だったが、その彼女が、初めて全校生徒の前で水着姿を披露したのだ。プールサイドには他にも選手が各コースに並んでいたのだが、誰もそちらには目を向けない。男女を問わず、視線がまるで物理的な力を持つほどに、久美子のバストに一斉に迫ってきていた。
(な、何、これ…)
 腰が引けそうになる心を制し、不安の虫を振り払うようにして構える。とにかく今は泳ぐことに集中しなきゃ。身体をかがめるにつれ、胸のあたりがさらにぐぐっと引きつるように伸張した。
(よし、いくわよ)
 しかし、無理に無理を重ねていた水着は、もう既にこの時、強度の限界を突破しようとしていた。あともうちょっとのショックが命取りになるほどに…。
 パーン。
 号砲一発、各選手一斉に飛び込む。久美子も身体をばねのようにしならせて渾身のスタートを切った。しかしまさにその瞬間、水着は水面を打つ衝撃にすら耐え切れなくなっていた。端の方でピリッと断末魔の悲鳴を上げる。
 ぽぅん。
 それは水中でなんの前触れもなく起こった。最初にできた切れ目は瞬時に胸全体に広がり、まるで限界ギリギリまで膨らみきった風船に針を突きたてたように、一瞬にして水着は下半分を残して吹っ飛んでしまった。
(え…?)
 一瞬、久美子自身何が起こったのか把握できなかった。しかし締め付けられ続けていた胸がいきなりふわっと軽くなり、水の感触を直接胸に感じ取って、咄嗟に水着がもうなくなっていることを直感した。
「いやぁぁぁっ!!!」
 久美子の叫び声だけがかん高く響きわたる。まわりの人たちは皆、一体何が起こったのか見当もつかない。
 あらわになった2つの胸は、くびきから開放された途端、水の浮力でそれぞれぷかりと浮かぼうとし始めた。それを必死で押さえ込もうとする久美子。しかし浮かび上がろうとする力はその巨大さに比例して予想以上に大きかった。第一胸自体、両手を懸命に伸ばしてももうどうにも覆いきれないほど大きいのだ。久美子は必死になって、胸を下にして自分の胴体ごと沈もうとするのだが、両脇からも胸が浮かび上がってしまう…。

 プールの上からだと、なにやらひとりでもがいているようにしか見えなかった。しかしただ一人、状況を正確に察した女性がいた。細川先生だ。その後の行動は早かった。すぐさま他の先生方に指示を出すと、服のままざんぶとプールに飛び込んで久美子の元へと駆けつけた。そして必死になって胸を水中に押さえつけ隠そうとした。久美子は先生のおかげでなんとか裸の胸を人前にさらすことが防げた。先生の指示に従い、水泳大会は即時中止、全校生徒は先生誘導の元、すぐさま教室に戻された。プールには久美子と細川先生の2人だけが残った。
 先ほどのざわめきは波を引くように消えていく。もう他に誰もいないことを確認してから、細川先生は声をかけた。
「さ、もういいわ。ここにはわたし以外誰もいないから」
 久美子はやっと胸から手を離し、顔を上げた。途端にぷかあと2つの巨大なおっぱいが水面に浮かび上がる。
 さすがの久美子も、この時ばかりは泣き出しそうな顔になっていた。
「大丈夫よ。誰にも見られてないし、ほとんどの人は何が起こったかすら分からなかったから。――よく頑張ったわねぇ。ほんと、自分の力だけでこのおっぱい隠しとおしたんだから…」
 それから2人で身体を密着させながら保健室へ移動した。久美子は椅子の上に座ると黙って俯いたままいつまでも動かない。久美子にとってもこの事件はかなりショックだったらしい、いつもの快活な姿はどこにもなかった。
「先生――。すいませんでした…」
 言葉にも力がない。口を動かすのもおっくうな感じだった。
「まあ、よかったじゃない。誰にも裸見られないで済んで」
 久美子は顔を真っ赤にして顔をさらに下に向けた。まともにこちらを見れないのだろう。
 こんな時にどんな言葉をかけたらいいのか――。細川先生も、ひとつひとつ言葉を選びながら、なんとか口をついた。
「ねえ堀江さん、あんまりはしゃぎすぎないでね。あなた――自分では気がついていないかもしれないけども…いろんな意味ですごい人なの。あなたが気ままに本気出したら、まわりの人みんなが振り回されちゃうほどにね。だから――もうすこし慎重になってほしいの。わたしを心配させないで…」
「先生――」
 久美子はやっと顔を上げて細川先生を見た。先生は、その視線にやさしい笑顔で応えた――。

 ――――――――――――

「ねぇ、久美子、今日体育プールだよ、出ないのぉ?」
 次の体育の授業の時、休み時間にしのぶがちょっかいかけた。
「ぜっっったい、出ない!」
 久美子は頑として首を縦に振ろうとはしない。
「いいじゃないのよぉ、あんな立派なもの持ってんだからさぁ」
 しかし久美子は硬化させた態度を変えようとしなかった。
 そう、あれ以来久美子は、人前で水着になることにはすごく慎重になっていた。夜間に学校のプールでひとり泳ぐことは続けていたけども、それ以外の時には決して水着になろうとはしなかった。
 そんな様子を見て、細川先生はちょっとほっとした。おそらく今後は、あんなふうに暴走するようなことは起きないだろう、と。
 しかし――水着が耐え切れず遂にはちきれた瞬間は、先生の目に焼きついて離れようとしなかった。そして、また、不気味な不安が頭をよぎるのだった。
(今回は水着で済んだけど、いつかは、彼女自身の胸が――)