MEGUMILK2

ジグラット 作
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 7月13日

(お願い、早く――着いて…)
 わたしは少しいらつきながら帰りのバスに乗っていました。
 ちょっと用事があって放課後も残っているうちに、いつもよりだいぶ遅い時間になってしまった。じっと我慢しているうちにおっぱいの中はミルクでもういっぱいで、一刻の猶予もならないほどになってました。
 叔父さんの所で毎日搾るようになって以来、以前は考えられないほど気が楽になったのはいいんですけど、リラックスしたせいか、逆にミルクの量は近頃すごい勢いで増えていってるみたいなんです。かといって店で搾れば有効利用できるのに、前のようにトイレで搾って捨てるのは「もったいない」という気持ちが先に立って心理的にどうしてもできません。おっぱいもますます大きくなってきたし、午後の授業は毎日あふれかえるミルクとの格闘でした。
 学校から叔父さんの店までは停留所にしてほんの5つほど。なのに、そんなわずかな時間すら今のわたしには大事でした。一瞬一瞬がせっぱつまっていて、やけに時間が長く感じられます。しかも今日は道が混んでいて、定刻どおりにバスが来なかった上に、乗り込んでからも渋滞でノロノロ運転、ますます余計に時間がかかっていました。
 そんなだからか、車内もいつも以上に込み合っていて、座るどころか、立っていても隣の人とすぐぶつかりそうになります。わたしの前にいる人との間のスペースは、大きく突き出したおっぱいのせいでほとんど隙間なく埋まってしまっていて、ちょっとバスが揺れただけで当たってしまいそうでした。
 その時のわたしのおっぱいときたら、まるでもう中にいっぱいいっぱいにミルクが詰まった風船のようでした。ほんのちょっとでも胸をつつかれたらぷちんとはじけてミルクが噴き出してしまいそうな――。だからなんとかぶつからないよう、つり革を持った手にも自然に力が入ります。

 その時、胸の脇あたりに、ちり、というくすぐったいような妙な感触が走ったんです。たったそれだけの刺激でもわたしの胸はどうにかなってしまいそうで冷や汗が吹き出ました。しかし今度は、わさっ、とよりはっきりと、確かに何か意思を感じさせる動きが胸をつたってきたのです。ハッとしました。見るとわたしの山のようにふくらんだ胸の上を、後ろからたどるように手が伸びていくのが確認できたんです。
(ま、まさか…痴漢!?)
 大声を出せばよかったんでしょうか。でもなにしろ初めてのことで、咄嗟に頭の中が真っ白になってしまって、ただ見つめたままなんにもできなかったんです。
 そうするうちに、その手はますます大きく広がり、力強くわたしの胸を揺さぶり始めました。わたしは動転して息もできません。いや、それよりも、中にぎゅうぎゅうに詰め込まれたミルクがその動きとともに暴れ出して、今にもはちきれそうになってしまって…。
(だ、だめ…やめて――おっぱい、破裂しちゃう…)
 頭の中ではがんがんそういう声が鳴り響いています。けど実際には、わたしは指一本動かせませんでした。今、動いたら――本当におっぱいがあふれ出てしまいそうで――。それにじっと耐えるだけで必死だったんです。しかしわたしが何も言えないと相手も思ったのか、さらにその指に力がこもってぎゅうぎゅうとおっぱいを責めあげます。
(あ、も――もうだめ…)
 遂に耐え切れず、おっぱいの先から暖かいものがこぼれ出す感触がありました。車内につーんとミルクの甘い匂いが拡がっていきます。わたしはあわててなんとかその流れを止めようと必死でした。しかし今、さらにおっぱいを刺激されたら、もうどうしようもなくミルクがとめどなく噴き出して、あたりにぶちまけてしまう――そんな自分の姿をくっきりと予感していました。
 ちょうどその時、バスが停まり、目の前のドアが開きました。わたしは矢も盾もたまらず、その手を振り払ってバスを降りました。その停留所がどこかを確認する暇すらありませんでした。
 あわてて駆け下りた時に、ミルクがさらにぴゅっとあふれ出たのを憶えています。降りてから服を確認すると、胸の先がミルクで濡れてぐちょぐちょになっていました。恥ずかしかったけど――大きすぎてどうにも隠しようがありませんでした。
 案の定、そこは降りるひとつ前のバス停でした。でも、どうしてももう一度バスに乗り込む気になれません。しかたなくそのまま歩いてお店に向かいました。これ以上ミルクがこぼれ落ちないようにそーっと歩いてるんだけど、どうやらさっきのでブラジャーの間にもミルクが溜まっちゃったらしく、動くたびにぐちゅぐちゅとかすかに音がします。それがまわりにまで響きわたってるような気がして――ますますこそこそと歩いていくしかありませんでした。
 そんなだから、店に着いたのはいつもよりだいぶ遅くなりました。叔父さんは、なんとなくただならぬ雰囲気をわたしに感じたのか、一目見るなり心配そうな顔をしましたけども、わたしはなんでもないからとすぐさま厨房にかけこみました。だって――我慢ももう限界だったんです。ほんとうに一歩も歩けないぐらいミルクが満タンで、苦しくてしょうがありませんでした。

 いつものようにピッチャーを前にした途端、ちょっと気が抜けたせいか、さわってもいないのにいきなり胸からミルクが勝手に噴き出してきました。まだ服を脱いでもいないのに…。しかしもうどうにもミルクは止まりません。噴き出すのも構わず、ぐしょぐしょになったブラウスを脱ぎ、大急ぎでブラジャーを外しにかかりました。その間もミルクは止まらず、ホックを外している間にもブラの脇からどんどん白いものが流れ出してきます。やっとのことでブラを外し終えても――ミルクは衰えるどころかますます激しさを増してここぞとばかりに噴き出してきました。いつもはミルクの噴き出し先をコントロールできるんだけど、今日は勢いがよすぎてうまく抑えられません。おかげでずいぶんとピッチャーにとどかずまわりをミルクで汚してしまいました。しかしそれでも、用意してあった3つのピッチャーはわたしのミルクでまたたく間に満杯になってしまいました。この調子では――ぜんぶピッチャーにうまく入れられたとしても、明らかに入りきらずにミルクをあふれさせてしまっていたでしょう。

 それを見て、わたしはまた不安になってきました。この調子でミルクの量がどんどん増えてったら――そのうちこのお店でも使いきれなくなっちゃうんじゃないだろうか…。そうなったら、わたし…どうしたらいいの――?

 7月16日

 今日、お風呂に入っていた時のことです。梅雨明けしてもうだいぶ暑くなってきたし、服の中に汗やらミルクやらのにおいがたちこめているようで、早くさっぱりしたかったんです。
 湯船につかってゆったりと手足を伸ばしていくと、ほんとうにのびのびします。体中の筋肉がゆるんでいくようで、思いっきりリラックスできました。
 その時です、胸の先に、いきなりミルクが噴き出すあの感触がありました。びっくりして胸元を見ると、力が抜けたせいか、おっぱいのなかに溜まっていたミルクがわたしの意思と関係なく勝手にどんどんあふれだしてきて、胸のまわりのお湯がみるみる白くなっていったのです。わたしはあわてました。今までこんなことなかったのに――でも一度あふれ始めたミルクは、まるでダムが決壊したかのようにいつまでも止まってくれません。またたく間にお湯が真っ白ににごっていきます。浴槽全体が文字通り乳白色に染まるまで、長い時間はかかりませんでした。
 そんなになってもまだわたしの胸からミルクは止まりませんでした。なんとか止めようとさっきから必死になっているのに…。
 お湯であたためられたミルクが、ぷーんとあたりに甘ったるいにおいを充満させます。まるでお風呂場全体がミルク漬けになってしまったかのようでした。
「恵、どうしたの?」
 わたしがあわてていると、外からお母さんの声が聞こえました。「な、なんでもない」どうにかそう答えてやりすごしたけども、こんなお風呂、他の人に見せるわけにいきません。仕方なく、お湯を一旦全部抜き、窓も全開させてにおいを全て抜きました。不注意で栓を抜いてしまった、と後で言い訳して――。
 わたしはなんだか情けなくなってしまいました。最近、ミルクの量が増えただけじゃない。自分でだんだんコントロールしきれなくなってきたみたいなんです。しようとしてもすぐ我慢しきれずに勝手にあふれてきてしまって――。もし今度人前でこんなことになったら、わたし、どうしたらいいんだろう――。

 7月20日

 今日は終業式、あしたからいよいよ夏休みが始まります。
 授業もないし、時間も午前中で終わるから胸のぐあいにも余裕があったので、この日は終わってもなんかのんびりとしていたんです。そしたら…。
 帰りかけたところでちょっと忘れ物に気づいて、あわてて教室に取りに戻りました。みんな学校なんかまっぴらとばかりに帰途に就いたらしく、学校の中はしーんと静まりかえって人の気配もありません。わたしもさっさと済ませて帰ろうと鞄を手に教室の戸に手をかけようとしました。その時、開け放たれた廊下側の窓からいきなり声が聞こえてきたんです。
「神坂の胸って、すっげーよな」
 いきなり自分の名前が出てきたのでびっくりして足が止まりました。いけないとは思いつつ、どうにも気になってそっと息をこらして窓の中を覗きこんでみました。
 誰もいないと思った教室の中にはクラスの男子が3人、顔をつき合わせてこそこそ話しています。一応小声でしゃべっているつもりらしいんですが、人気のない教室はけっこう声が通って、廊下にいるわたしまで丸聞こえでした。
 他に誰もいないと思っているのか、彼らの声は徐々に大きくなっていきます。
「だってよ、座ってても机の上にこーんなビーチボールみたいのが2つ、どーん、どーんだぜ。教科書もノートもぜんぶ脇に追いやられちゃってさ。それがちょっと動くたんびにぷにぷに揺れ動いてんだもんな。気になって授業なんかやってられねーよ」
 そう言ってるのはわたしのすぐ横に座っている男子でした。どうやら通知表が思った以上に悪くて、必死で言い訳しているような感じでした。けど――彼がそんな目でわたしを見ているのかと思うと急に恥ずかしくなって体を堅くしてしまいます。
「ほんとによー、あいつ、体は細いのに胸だけはむっちゃくちゃでけーもんな。あんなかわいー顔しといて、体はあんなエロエロでさぁ。たまんねー」
 もうひとりも続けます。そして、最後に残った一人にも同意を求めました。「おい、山本、おめーもそう思うだろ」
 わたしはハッとした。3人目の山本くんはクラスの中でもけっこうかっこよくって、わたし、ちょっとあこがれてたんです。うん、ちょっとだけ…。
 山本くん、わたしのことどう思っているんだろう。そう思うと、それまで以上に一心に聞き耳を立ててしまいました。しかし、待っていても山本くんはなかなか口を開こうとしません。
「おい、なんかノリ悪いなぁ、お前だって嫌いじゃないだろ、神坂のこと」
 ドキリとした。山本くんが――わたしの胸を、そんなエッチな気持ちで見つめているだなんて――あんまり考えたくなかった。
「――――」
 山本くんはまだ黙っている。わたしはなんだかドキドキしてきました。そんな時、ぽつっ、としゃべり始めたんです。
「ちょっと気になっていることがあるんだ…」
 わたしは思わず固唾を飲んだ。山本くん、何を言い出す気だろう。
「神坂の胸って、朝より、昼過ぎとか午後の方が大きくなってないか?」
 え?
「朝のうちはなんか大きいなりに制服にちゃんと納まってるんだけど、時間が経つにつれてどんどん胸の辺りがひきつれてきて、学校終わる頃なんかもうぱんぱんで破裂しそうになってるように見えてしょうがないんだけど…。そんなことない?」
「ま、まさかぁ…」
「うん。で、次の日の朝になるとまた元に戻っているみたいなんで気のせいだとは思うんだけど――やっぱり午後になると朝より2割増しぐらいに見えちゃって…なんだろ」
 まさか――秘密がばれちゃう、それもよりによって山本くんに…。
「さあどうだろ。とにかくいつ見ても、でかいなぁ、としか思わないけどな。しかし、山本もよく見てるよな。よっぽど神坂のこと好きなんだな」
「ち、ちがうよ!」
 山本くん、ひょっとしてわたしのこと…そんな事を考えたら、喜びで、胸がきゅんとなった。

(え…?)
 その時になって、おっぱいがいつの間にかミルクで満タンになっている事に気がついた。うそ? もうそんな時間? あわてて時計を見たけど、まだ昼前である事は変わりなかった。
(どうして? いつもならまだ大丈夫なはずなのに)
 しかしそんな事を言ってる余裕すらいつの間にかなくなっていました。早くお店に行って搾らなきゃ…。けど、もう既に歩くのもつらいほどいっぱいいっぱいで、一歩足を踏み出すごとに、ミルクがあふれ出しそうになってしまっていた。我慢も限界でした。
 しかも教室の中の3人ももうそろそろ帰り支度を始めている。一刻も早くここから立ち去らなきゃ…。
 結局、ひさしぶりにトイレに駆け込み、どうにも我慢できなくておっぱいを搾りました。せっかくのミルクが捨てられていく――その事に強い罪悪感を抱きつつ、ミルクはいつも以上の勢いでシャーシャーと噴き出し続けていきます…。

 悪いことをしたみたいでうなだれてトイレから出たところで、出会い頭にひとりの男の子とぶつかりそうになりました。ビクッとなりました。しかもよりによって…
「山本くん…」
「あ、神坂さん…。ど、どうしたの?」あんな話をしてた直後だからだろうか、山本くんは妙にあわてていた。
「あ、ちょっと忘れ物しちゃって…」この時になって自分が学校に戻った本来の目的をやっと思い出しました。
「そう…。じゃ、さよなら」
「うん、さようなら、元気でね」

 今度こそ誰もいなくなった教室に戻ると、わたしはさっきまで山本くんが座っていた机に意味もなく座った。どうやっても机の上におっぱいがどっしりと乗っかってしまう。さっきここに山本くんが手を置いてたんだ…。
「山本くん…」
 たった今搾ったばかりだというのに、おっぱいの中にすさまじい勢いでまたミルクが溜まっていくのが感じられた――。

 7月28日

「恵ちゃん、最近どうしたの?」
 夏休みが始まって、わたしはバイトの時間を増やした。ブラとかを買うお金が欲しかったこともあるけども、実はもうひとつ、切実な理由があった。
「ここにきて、ミルクの量がどんどん増えているんだけど――」
 そうだった。ミルクをこの店で搾りはじめてから2ヶ月あまり、その量はあれからも徐々に増えていったのだけど、ここにきてまた急激に増えだしていたのです。いつまたおっぱいがミルクでいっぱいになってしまうか分からない。そんな時すぐに搾れるように、とバイトの時間を増やしたのだ。最近では1度にピッチャー4つぐらい余裕でいっぱいになってしまう。当然、おっぱいそのものもここにきてぐんぐん大きくなってきている。
「その――大丈夫なのかい?」
 叔父さんが心配そうに言う。バイトの間は、やはり姉から大事な娘を預かっている、という意識が強いのだろう。しかもわたしのミルクの秘密まで共有させてしまった。

 自分の変化は自分が一番よく感じていた。それも――最近、気がつくと山本くんの事を考えている自分に気づく。そして山本くんの事を考えていると――胸がきゅーんとなって、あっという間におっぱいがミルクでいっぱいになってしまうのだ。搾っても搾っても、後からどんどんミルクが湧きだしてきてとめどない…。
(どうしちゃったんだろう、わたし…)
 誰よりも不安を感じてたのは、わたし自身だった…。

「いらっしゃいませ」
 ドアにつけられたベルが鳴る。お客さんだ、と思っていつものように笑顔で声をかける。しかし――その顔を見た途端、息が止まりそうになった。
 山本くんだった。
 山本くんも一目見てわたしだと分かったらしい。目を見開いてこっちをじっと見つめてる。
「神坂――さん?」
「あ、はい…。いらっしゃい」しどろもどろになりそうなのを必死でこらえて、空いているテーブルに案内した。

「へー、ここでバイトしてるんだ。知らなかったー」
 席に着いた山本くんは水を運んできたわたしに声をかけた。でもわたしは一緒だった年上らしいきれいな女性が気になってしょうがない。すると山本くんは、その女性を指しながらちょっと顔をしかめた。
「あ、これ、姉キね。変な誤解しないように」
「ちょっとこら、おねーさまに向かってこれとは何よ。せっかくお茶おごってやろうとしてんのに」
 山本くんの頭をこづいた。わたしはなんかほっとした。けっこう仲はよさそうだった。
「あの、ご注文は…」
「あっついね、今日。なんか冷たいもの…。あ、これにしよう、アイスミルク」
 わたしはドキンとした。アイスミルク。最近暑いせいかよく出るんだけど、実はこれ、わたしの――。
「まったくガキなんだから…。あ、わたしはミルクティーを」

「うん、おんなじクラスの子」
「へー、かわいい子じゃない。いかにもあんたの好みにぴったりって感じ」
「い、いいだろ、別に」
 オーダーを通しながら、どうしても気になって聞き耳を立ててしまう。山本くんの好みって――どんなの?

「お待たせしました」
 アイスミルクとミルクティーを持って行く。山本くんはよっぽどのどが渇いていたらしい。待ちきれないようにグラスをつかむと、ごくごくと一気に半分ほど飲み干した。
(あ、山本くんが、山本くんが――わたしのミルク飲んでる…)
 そう思った途端、おっぱいがすさまじい勢いでぎゅーんと張ってきた。もう一秒も我慢できない。
「すいません、休憩はいります」
 叔父さんにこれだけ言うと、すべてを放り出して厨房の奥に駆け込んだ。どうにかして空いているピッチャーを出すと、もう待ちきれないようにミルクがすごい勢いで噴き出してきた。
 またたく間にピッチャーがひとつ一杯になる。まだまだたくさん胸の中に残っているけども、とりあえず我慢できないほどではなくなったので胸をしまって店に戻った。
 ホールに入ると、ちょうど山本くんのお姉さんが伝票を持って立ち上がったところだった。あわててレジの方へ向かう。
 会計を済ませる時、山本くんのお姉さんが何気なく、という風に訊いた。
「あの――この店って、牛乳、どこの使ってます?」
「え?」
「あ、いや、ちょっと変わった風味だなって。いや、変な意味で言ってんじゃないのよ。わたし紅茶好きでよく飲むんだけども、ここのミルク、紅茶によく合ってとってもいい感じだったから、どこかな、って気になって…」
 いきなり背中に汗が吹き出てきた。まさか自分のだなんて言えないし…。
「すいません。わたし知らないんです。訊いてきましょうか?」
「あ、そこまですることないわ。でもおいしかった。ファンになっちゃいそう」
「ありがとうございました。ぜひ、またお越しください」
 そう言い残すと山本くんはお姉さんと一緒に出て行った。わたしは――またすぐに我慢できなくなって、思いっきりミルクを搾りまくった。また、一度に出る量の記録を更新してしまった…。

 8月12日

「こんにちわー」
「あ、いらっしゃい」
 あれから、山本くんはひとりでも時々お店に顔を出すようになった。2〜3日に1回は必ず来るようになって、もう立派な常連さんだ。オーダーは決まってアイスミルク。純喫茶であるうちには珍しいお客さんだったけども、わたしはいつしか山本くんが来るのを心待ちにしていた。
 お客さんが少ない時など、運んだ後そのままそばに立って少し話し込むこともあった。もちろん他のお客さんの手前、ほんの1〜2分だけだったけど、それでもすごい幸せな時間だった。わたしの目の前で、山本くんがミルクをおいしそうに飲んでくれる。それだけで――わたしの胸は喜びとミルクでいっぱいになる思いだった。
「おいしい?」今日、あんまりおいしそうな顔をしてたのでついつい訊いてしまった。
「うん、マジうまいよ。スーパーなんかで売ってる牛乳冷やしてもさ、なんかこうはいかないんだよね。ここの、味が濃いっていうかしっかりしてるっていうか…」わたしの顔をのぞきこんだ。「やっぱり、契約している特別な牧場から直接仕入れてるとか、そういうのってあんの?」
「え…」わたしは口ごもってしまった。「ま、まあね。詳しくは教えられないけど――。うちのミルクは特製なんだから」

「さっき話してた、あの男の子は…?」
 山本くんが出て行った後、叔父さんは戻ってきたわたしに話しかけてきた。
「あ、クラスメートなの」
「ふぅん、仲よさそうだね」なんだろう。妙にわたしに気を遣うような、妙な感じだった。「今日、ちょっと話があるんで、店閉めた後残っててくれないかな」

「ところで――話っていうのは…」
 閉店後、シャッターを下ろした店内でわたしは叔父さんと向かい合って座った。叔父さん、なんだか話しづらそうに何度もためらった後、やっと口を開いた。
「実は、恵ちゃんのミルクのことなんだが――」
 なんだか悪い予感がした。来るべきものが来たような…。
「もうだいぶ前からミルクに関しては完全自給自足になっているんだ。おかげさまで好評で売り上げにも貢献してくれている。ここまではいいんだが――なにぶん出す量が多いんで、最近使いきれなくなってるんだ」
 やっぱり――。わたしは俯いたまま何も言えないでいた。
「つまりはミルクがだぶつき気味で――このまんまではもうじき、店の冷蔵庫は恵ちゃんのミルクであふれかえってしまう。そこで相談なんだけど――恵ちゃん、もうちょっと出す量控えることってできないもんなんだろうか」
 わたしは何も言わずただ唇をかんでいた。なんとなく予想はしてたけども、いざ実際に言われるとショックだった。どうしよう。ここでもし搾るななんて言われたら、わたしのミルク――行き場所がなくなっちゃう。
「今までなんとかミルクの需要を増やそうと、ミルクを使った新メニューを考えたりいろいろしてきたんだけど――もう限界なんだ」
 叔父さん自身も苦しそうだった。そう、叔父さんは叔父さんで、この店の事は死活問題なのだ。今やわたしのミルクが店を圧迫し始めている…。そう考えてるとこちらからわがままはとても言えなかった。でも…。
「わかりました。でも――」わたしも言いにくかった。「ミルク、止まらんないんです。量を抑えること、できません…」
「もう少し待ってください、なんとか――ミルクの売り上げ、増やすよう努力してみますから」

 8月16日

「アイスミルクはいかがでしょうか?」
 もっと、もっとミルクの売り上げを増やさなきゃ。ここ数日、わたしはあせってミルクのメニューを売り込んでみました。慣れないことだったから、傍から見れば変に見えたかもしれない。けど、とにかく必死だったんです。
 その甲斐があったのか、今年の夏の暑さも手伝って、少しづつミルクの消費量は上がってきました。しかし、わたしの出すミルクの量はなおも急増していた。冷蔵庫の中は目に見えてわたしのミルクで占領されてく。このまんまじゃ、追いつかない――。

 そんな努力をあざ笑うかのように、今日、決定的なことが起こってしまったんです。
 夜、鍵をかけて出て行こうとしたその時、店の電話がけたたましく鳴りました。なんだろうと叔父さんが出る。少し話し込むうちにみるみる顔色が青ざめていきました。
「ごめん。どうしても至急出かけなくてはならなくなった」電話を切った後、叔父さんはあせったようにわたしに言った。
「え? どこへですか?」
「福島だ」
「福島――って」
「僕が大変お世話になった方が突然倒れられて、命が危ないそうだ。今日はもう遅いから、明日朝イチで出発する」
「え、それじゃお店は…?」
「しばらく閉めることになってしまうが――申し訳ない」
 それじゃ、ミルクは…。わたしは目の前が真っ暗になったような気がした。

 8月20日

「どうしよう――」
 わたしは冷蔵庫の前で途方にくれていた。

 叔父さんが旅立ってからもう3日になる。きのうの電話によるとあと2日は帰らない予定だ。もちろんその間、わたし一人で店をやっていける訳もない。主のいない店は休業したままだった。
 しかし――店が閉まってても止まらないものがあった。わたしのミルクだ。ますます大きくなったわたしのおっぱいは、店の事情なんかお構いなしに大量のミルクを生産し続けている。ただでさえ店で使ってても過剰供給気味で、最近はなんとかミルクの消費量を増やそうとやっきになっていたくらいだ。
 そこに、この休業である。わたしは従業員として店の鍵を預かっていたから、店の中には自由に入ることができた。おっぱいを搾らないことには半日だって我慢できないから、仕方なく誰もいない店でひとりおっぱいを搾り続け、そのミルクを容器に詰めて冷蔵庫に保管してきた。しかし――元からだぶつき気味だったものがいきなり消費量がゼロになったのだ。またたく間に店の冷蔵庫はいっぱいになってきた。仕方ないからきのうから冷蔵庫の中をなんとか整理して、場所を作っていったが――それももう限界だった。店内に2つある業務用大型冷蔵庫の中は、今やわたしのミルクだけですき間なくびっちりと埋まっていて、少しの隙間も残されてはいなかった。
「どうしよう――」
 わたしはもう一度繰り返した。かといっていい案が浮かぶ訳ではない。しかもそう言っている間にも、わたしのおっぱいはぴっちり苦しいほどに張りつめてきていた…。
 ちりちりとおっぱいがミルクでいっぱいになってくる。どんどん張りつめてきて胸が苦しい。ちょっとでも楽になるかな、と思ってわたしはそっとブラジャーをはずした。少しだけ胸が楽になった気がする。裸になった胸の上に直に服を着ると、ボタンがきつい――。おっぱいがブラから開放されて、さらにひとまわりぐらい大きくなっているみたいで、張り切ったおっぱいの線が服の上からそのまんま透けて見えるようだった。こんなことしてても一時しのぎでしかないだろうに――。今搾ったってもう場所がない。まさか家に持って帰る訳にもいかないし、また、捨てなきゃなんないの――?

「こんにちわぁ。あぁ、あっちぃ…」
 その時突然、ドアが開いて聞きなれた声が耳に届いた。山本くん、どうして…。
「あれ、きょう店、やってないの?」
 閑散とした雰囲気を見て初めて気がついたらしい。おかしい、「CLOSE」の札は出してあるはずなのに――とドアを確認すると、風で翻ったのか、吊るした鎖がねじれて「OPEN」の側が出ていた。
「あ…だけどいいよ」わたしは、あわてて札を「CLOSE」に直した上で山本くんを中に招き入れた。「ミルクなら出せるから」
「あ…悪いね。それじゃ、いつものやつ1杯」
 わたしのその時の気持ちは、少しでもいいから冷蔵庫のミルクを減らしたかった。だから――わたしはわざと大ジョッキを取り出すと、その中になみなみとミルクを注いで山本くんに出した。
「神坂、これは――」いきなり出てきた大ジョッキに、山本くんは目を白黒させていた。
「ううん、いいの。山本くんはいつも売り上げに貢献してくれているから、今日はサーヴィス」
「でもこれは…」とまどっていたが「まあいいや、のど乾いてるから」とぐいっ、ぐいっと飲み出した。しかしさすがに量が多いせいか、ジョッキの中身はなかなか減っていっていかない。
 ようやく1杯飲み終わると、小さくげっぷをした。
 しかしわたしはどうしても山本くんをこのまま離したくはなかった。これっぽっち減っても、わたしの胸のミルクを出すたしにも全然ならない。こうしている間にも、胸の中のミルクはどんどんたまり始め、もう我慢の限界に達しようとしていた。緊張して立ってしまった乳首が、はずかしいぐらいあからさまに服から浮き上がっている。このまんまでは、早晩、我慢できずにミルクが勝手にあふれ出してしまう…。
「山本くん――。あの、おかわりいらない?」
 びっくりしたようだった。「いや、もういいよ、お腹がぼがぼになっちゃうし」
「そんな事言わないで…。あの、山本くんにぜひ飲んでほしいの」わたしはもう必死だった。ミルク…出したくてしょうがない。山本くんに、わたしのミルク、もっと、もっと飲んでほしい――。
「神坂…?」
「山本くん、前に言ってたわよね。ここのミルクは他と違っておいしいって…」
「ああ」
「そう。ここのミルクは特別製なの。他では絶対出せない、独自のルートで仕入れてるから…」
 わたしはどうにも我慢できず、服のボタンを上からはずし始めた。心の片隅で(いったい何をする気?)という悲鳴のような声が上がる。けど、わたしの手は止まらなかった。
「でも今ちょっと店を閉めちゃってたから、そのミルクがどんどんたまってきちゃって大変なの。このまんまじゃもうすぐあふれちゃう…」
「神坂…」山本くんはびっくりして思考停止したみたいで、ばかみたいにわたしを見つめている。わたしは構うことなく次々とボタンをはずしていく。その裂け目から、ぱんぱんに張りつめたわたしのおっぱいがどんどんあふれ出してきた。すべてのボタンをはずし終えて一気に服を脱ぐ。もうさえぎる物はなにもない。山本くんにおっぱい見られてる――そんなかすかに残っていた羞恥心が、わたしの中のミルク製造にさらなる拍車をかけた。今まさにぐんぐんとミルクがおっぱいの中にたまっていく。もう時間がない…。
「逃げないで、お願い――。もう、我慢できないの。今にもミルクがあふれてきちゃいそうで――お願い、わたしのミルク飲んで…」
 山本くんは事態をようやく察してがたっと椅子から倒れかかった。なんとか手で支えたけども、びっくりしすぎて体が動かないらしい。
「ごめんね、あんまり冷えてないけど…。でも、山本くん、わたしのミルクおいしいって言ってくれたじゃない。今、ぱんぱんに詰まってるから、きっと濃くっておいしいよ」
 一歩前に踏み出す。ただそれだけの振動で、ぶるんと揺れたおっぱいの先から、ミルクがちょっとだけほとばしった。
「お待たせしました。今、飲ましてあげるからね」
 わたしは片方のおっぱいをあわあわと開けている山本くんの口に押し込んだ。間髪いれず、まるで噴水のような勢いでおっぱいの先からミルクが噴き出してくる。もう片方からも、触れてもいないのに勢いよくミルクがあふれ出してきた。
「ああ…」わたしは気持ちよくって思わず声を上げた。もうどうなってもいい。そんな刹那的な快楽にわたしは完全に身をゆだねていた――。