episode 0.5 出会い
もうすぐ始業ベルが鳴るという時になって、中村しのぶはひとり更衣室にとって帰った。
(いたいた。やっぱりね…)
次の授業は体育。もう全員着替え終わってグラウンドに行ってるはずだった。けど――こんな時間になってもまだ残って体操服に着替えている女の子がひとりいた。
別にとろくさい子という訳ではない。それどころかおそらくクラスでも最も利発な子だった。なのに体育の時間の前となると決まってどこに行ったんだか分からなくなり、授業にも一番遅れてやってくる。しのぶは気になってしょうがなかった。けどこの高校に入って半月になろうとしているのに、その子とはまだほとんど話す機会がなかった。同じクラスになって一目見た時から話したくってうずうずしてたくせに――。
堀江久美子――。こんな子がいるだなんて神様は不公平だ、とうらみ言のひとつも言いたくなるぐらい、天が二物どころか4つも5つも与えてしまったような子だった。後ろから見ててもうらやましくなるぐらいつややかな黒髪が今もさわさわとたなびいている。(こんな髪してたら染めるとか絶対考えないだろうなぁ) しのぶはこの髪を見るたびにそう思う。これだけでもため息ものなのに、振り向けば見えるそのルックスときたらまるでアイドル顔負けのオーラを惜しげもなく振りまいている。ウエストは折れんばかりに細く、程よく肉のついた手足もうらやましいぐらいすんなりと伸びている。そんな風に女の子の魅力の最上のものをぜんぶ一人の体により集めてしまったような存在でありながら、真偽は定かでないにしろ入学試験で学校史上初の全科目満点をたたき出したともっぱらの噂だった。しかしなによりも――。しのぶは自分の体型をスレンダーでなかなか魅力的だと自負している。ただひとつ、胸がまったくといっていいほどないことを除きさえすれば。なのにこの久美子は、背格好はまったく自分と同じぐらいほっそりとしているくせに、その胸ときたら――ほんとうに信じられないほど大きいのだ。おそらくクラスのほかの女子全員のバストを寄せ集めたとしてもその半分にもならないんじゃないかと思うぐらいで、今も体操服の胸を思いっきり突き上げてこんもりとうず高く盛り上がっている。
その胸が今しのぶの目の前で、ちょっと体を動かしただけでたゆんたゆんとやわらかそうに揺れているのだ。なんだか自分の目がちょっと信じられなくなってくる。ほんとうにあれ、全部おっぱいなんだろうか。なにかいっぱい詰め込んでずるしてんじゃないの? 1回じかに見てみたいなぁ…。初めて見たその日から、しのぶの胸に沸々と湧き上がり続けてきた好奇心が、だんだんと抑えきれなくなっていった。
今、久美子はブルマーを穿きおわって裾のあたりを整えている。こっちに気づいている気配はない。おそるおそる、気取られないように後ろから息を殺して近づいていく。さわさわと揺れる髪がくすぐったくなるほど近づいたところでいきなり声をかけた。
「ほ〜りえさん!」
耳元でささやくと相手が反応するより早く、いきなり体操服の裾をつかんで思いっきり引き上げた。
「きゃっ!」
その口元から思わず小さな声が漏れる。そばに誰かいるだなんて思っていなかったらしく、久美子の体は一瞬硬直した。裾は勢いあまって一気に首の辺りまで引き上げられる。それとともに、服の中からもうどさっという感じで生のおっぱいがあふれ出してきた。
(な、なにこれ…)
驚いたのはこっちだ。体操服の下から――山のようなおっぱいが怒涛のように飛び出してきたのだ。その迫力は想像以上だった。それにてっきりブラジャーしてるとばかり思ってたのに…。
その大きさときたらもう胸からはみ出さんばかりで、こぼれ落ちてしまうのではないかととっさにわきの下から手を差し伸べた。
(わ、すごい――)
両手でそのおっぱいを受け止めた途端、ずっしりとした重みと張りが手に伝わる。すべての指を懸命に伸ばしてつかみかかったはずなのに、相手があまりに大きすぎた。どんなにつかもうとしても、伸ばした指の先から胸のお肉がどんどんあふれ出てくる。大きいだけじゃない。中身がぎっしり詰まっている感じで、力を入れるとむにむにといくらでも押し返してくる。しかも肌はつきたてのお餅みたいに指に吸い付いてきて、手触りがなんともここちよい。はっとして両手でつかまえようと力を込めると、2つのおっぱいがぶつかって縦にむにっと上のほうへと一瞬あふれ出し、次の瞬間ぐにっと元に戻ろうとする。腕の力の方が負けてしまいそうだ。手の内でおっぱいが押しあいへしあいはじけ合って、なんだか手の神経いっぱいにいけない感覚が目覚めてしまいそうだった。
(なんか、いつまでもさわっていたい。くせになりそう…)
「や、やめて…中村さん…」
久美子が懸命にこちらを伺いながらやっとこれだけ言う。いきなり自分の名前を言われると、なんだかこっちが痴漢になったみたいな気がしてしまう。ちょっと気後れして渋々久美子の胸から手を退いた。けど離した後も、手のひら全体に久美子の胸の感触がじわんと残っている。うぅん、当分この手洗いたくないなぁ、なんてお気に入りのアイドルと握手した時みたいな事を考えていた。
しのぶの手から開放された久美子のおっぱいは、大きく揺れながら急速に元の形に戻っていった。振幅が小さくなるにつれて、本当にどっしりと、胸から根が生えたように安定した山脈に戻っていく。すっごいやわらかそうなのに、すさまじい弾力だった。こんな大きいのにだれた所がまったくなく、形よくつんと突き出し、上向き加減のまま安定している。ほれぼれするほど形がいい。
しのぶはそれを見て感に堪えないようにつぶやいた。
「堀江さん、すっごいおっぱいねぇ。両手でも抱えきれない…。それにおっきいだけじゃなくて、すっごい張りつめてて――」
「中村さん――」久美子は、悪びれもせず自分の胸に感嘆し続けるしのぶに、毒気を抜かれたように立ちすくんでいた。
そうする間に、おっぱいは何事もなかったようにすっかり元の形に戻ってく。これじゃほんとブラジャーいらないかも、なんて一瞬考えてしまった。
「ねぇ堀江さん、どうしてブラジャーしないの? こんなに大きいのに」
「あ、あの――さっきまでしてたんだけど、ちょっと今外してたの。息苦しくて…」
「息苦しい、って?」
「うん。また…きつくなっちゃったみたいで。ブラ…」
しのぶの目が丸くなった。なんですってぇ。わたしときたら2年前に初めてつけたAカップが今だにスカスカだっていうのにぃ。
「また、って…。それじゃあひょっとして、今でもまだ大きくなってるの? このバスト…」
「ええ。1年ぐらい前から急に…」
(って、たった1年でこんなにぃ? しかもまだまだ成長中って…)
いつまで経っても膨らんでこない胸に密かなコンプレックスを抱いていたしのぶは、俄然久美子に興味が湧いてきた。(こんなに急激に大きくなるなんて、ぜーったい何か秘密があるはずよ。――お友達になんなきゃ)
そう考えているしのぶを横に、久美子はなんとかまた体操服の中に特大のバストを詰め込もうと苦労していた。ブラだけじゃなく、服自体サイズが小さすぎてなかなかうまくいかないようだ。ぴーんと伸びきっていたから、さっきもあんなにはじけるように胸が飛び出してしまったのだろう。
けど、なんか言ってやらなくてはならないような気がした。この子、頭はいいかもしれないけど、純粋っていうか――スレてなさすぎる。
「でもさ、久美子ちゃん、まさかノーブラで体育出る気? だめだめ。動くたんびにすっごい揺れちゃうよ。いつはずみでさっきみたいにおっぱいがこぼれ出しちゃうかもしれないし…」
いつの間にかこっちの方が説教をしていた。
「とにかく女の子はブラぐらいつけなきゃだめ! 特に久美子ちゃんみたいな女の子は。絶対!!」
「やっぱり…そう、だよね」
久美子はしぶしぶロッカーから純白の大きなひとかたまりの布を取り出した。しのぶはまた口をあんぐりと開けた。
「ちょっとそれなに…まさか、ブラジャーじゃないでしょうね…」
久美子は一瞬きょとんとした。「そうだけど…」
うかつだった。こんな大きなおっぱいを包み込むブラジャーだもん。並の大きさのはずないじゃない――。でも分かっていても信じられなかった。こんな大きなものが全部ブラだなんて…。
「それって――いったい何カップあるのよ?」
「うーん、特注だからあんまりはっきりしないけど、ABC…と順に数えていくと、Wカップになるかな」
(Wって…。まさしくワールドカップね…って、もうアルファベットほとんど残ってないじゃん! どーすんのよ!!) 混乱してたのだろう、訳分からない考えが頭の中を空回りした。
(で、このブラがきついって――いったいどういうおっぱいなの?)
結局しのぶは久美子が苦労してブラをつけるのをじっと待っていた。けどやっぱりきつそうで、なかなかホックが止まらないのに業を煮やし、手を伸ばして背中からブラつけを手伝ってやった。
確かに難物だった。もう明らかに小さくなっているブラにバストを無理やり押し込み、ぎゅうぎゅうに締め上げてなんとかホックを留めたのだが、いくつも並んだホックがなんともひ弱に見えて今にも吹っ飛びそうになっていた。これなら外したくなる気もわかる。(確かにこりゃ、つけないほうがよかったかも――でも、ノーブラで体育ってのもねぇ…) いつしか、まだ授業を受けてもいないのに軽く浮き出ていた汗をぬぐいながら内心つぶやいていた。
そんなことをしている間に2人とも授業開始に遅れ、先生に起こられることになるのだが――なんとなくこの"共同作業"を通じて2人の間にある種の連帯感が生まれていた。
結局しのぶは体育の授業中ぴったりと久美子とくっついて離れなかった。動くうちにいつそのホックが外れて胸が飛び出してしまうか心配だったこともあるけど、そう言いながらその胸のふくらみを心ゆくまでじっくりと堪能していた。
授業が終わると、しのぶは久美子と並んで、他の人がいなくなった頃を見計らって更衣室に入った。
「苦しいかもしれないけど、ブラとるのは家帰ってからにしなよ」
「うん――そうする」そう言いつつちょっと不満そうな顔をした。こんな大きなおっぱいで、なおもブラがきついだなんて贅沢な悩み、理解したくはなかったが。
その時、どこかでお腹がくぅ〜っと鳴る音を確かに聞いた。
(あ)
しのぶが咄嗟に久美子を見る。久美子が恥ずかしそうに俯いた。しのぶはなんだか安心した。こんな超乳美少女だって、やっぱりお腹は空くのよね。お腹の虫はおんなじ音。なんとなく共通点を見つけたみたいで、一気に気が楽になった。その恥ずかしいそうな顔がまたかわいくてよかった。
(なんだ、普通の女の子じゃん) それまでその胸に圧倒されてどこか気後れしてたけども、なんか気持ちが自然にほどけた感じで、にっこりと笑いかけた。
「そうだよねー、午前中最後の授業が体育じゃねぇ…。わたしももうお腹ぺこぺこ。――ね、お昼、一緒に食べない?」
久美子は嬉しそうに頷いた。しのぶも笑い返しながら教室に向かう。そうそう、いつも一緒にお昼している菜保美や加寿子はもう先に戻ってこっちの帰りを待っているはずだ。そこに堀江さんを連れてったら――きっとびっくりするだろうな――。
――――――――――――
あれから2年近くの歳月が経とうとしている。早いもので、自分達も今度は高校3年生になるんだ。それにしてもこの2年の間の久美子の胸の成長たるや――まさしく飛ぶ鳥を落とすような勢いで、際限なく膨らみ続けている。あの時と比べても、いったい何倍の大きさになってるんだろう。なおもすごいのは、その急激な成長を久美子本人がなんてことないように平然と受け止めてしまっていることだ。実際、こんなに胸が大きくなっているのに最近ますます元気一杯な感じだった。(この調子じゃ、3年になってもまだまだ大きくなり続けるんだろうな) しのぶは興味と羨望が入り混じったため息をついた。来年、自分達が高校を卒業する頃、この胸はいったいどんな大きさになってんだろうな、なんてふと考えてしまう。そしていきなり、久美子の生おっぱいを初めて見たあの更衣室での風景をまざまざと思い出していた。
(あの時はすっごい大きく感じたけど――今思うと、あの頃の久美子のおっぱい、まだまだ小さくてかわいかったなぁ)
久美子の胸を思わずじーっと見つめてしまう。
「え、何? どうしたの、しのぶ」その視線に気づいた久美子が、やぁねぇとばかりに振り向いた。
「んー、なんでもない。ただ、あの時の久美子、かわいかったなーって」
「え、なに? なんの話よぉ」
きょとんとしている久美子の横から、菜保美が興味深そうに口を突っ込んだ。
「いや、まぁ、ちょっと1年の頃を思い出してただけ」
あの更衣室での事は、今でも2人だけの秘密だった。でもあの時から、2人の間に友情らしきものが確かに芽生えたような気がする。
(でもここしばらく久美子のおっぱいさわってないなぁ。今のこのおっぱいさわったらどんな感触なんだろ――あんがい両手でも抱えきれなかったりして)
しのぶは自然に頬がほころんでくるのを感じていた。