超乳少女 久美子

ジグラット 作
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episode 0 14歳の誕生日

 朝、店を開けると、その向こうにひとりの女の子が立っていた。
「あの、こんにちわ」
 初めて見る顔だ。しかし――目にその姿が入った瞬間から、どこかまぶしいものを見るような気がした。
 中学生だろうか。体つきはまだ女性らしい肉がついていない、ほっそりとした少女のものだったが、不思議とひ弱さが微塵もない、しなやかなうねりのようなものが感じられた。頭には絹糸のように細くつややかな黒髪が、まっすぐ肩のあたりまで伸びている。思わず手に取りたくなったほどだ。肌に光沢があり、底光りしているような気がするほどすべすべで、くりっとした瞳は目を惹きつけずにはおけない。なによりその顔は、輝くばかりに愛らしく、非のうちどこのない美少女と言ってよかった。しかし自分ではその魅力にまだ少しも気づいてないのでは、と思えるほど変にすましたところがなく、生気が満ちあふれている所に好感が持てた。こんな子に道で通りすがったら、同性であっても思わず目を留めずにはいられないだろうな、そんな事を考えるでもなく心の中でつぶやいていた。

「いらっしゃい。で、今日は何を?」
 途端に少女の顔が曇る。顔を俯きかげんに、何かを言い出そうとしては止まり、しかしまたどうにか口を開こうとする――そんなことを何度も繰り返しているようだった。
 辛抱強く待った。けどいい加減待ちくたびれてきた頃、やっとその口からかろうじて聞こえるほどの声で「ブラジャーを…」という言葉が漏れた。音量は小さいけども、一語一語はっきりと力を込めていて、なんとか勇気を振り絞ったことを感じさせた。
 こんなお店を長年やってると、だいたいお客の察しがつく。この子は初めてブラジャーをつけてみようと決心してやってきたのだ。おそらくこの春から中学に入って、それを機にブラデビュー、小学生とは違う自分を演出してみたかったのでは…と、ピンと思い当たった。
 ほとんど反射的にその子の胸を見る。Sサイズのブラウスですらしわが寄ってはっきりとは見えなかったが、それでもその子の胸がまだブラジャーを必要としていないのは充分察しがついた。
 こういう時どうするかは迷いどころだ。商売に徹して適当にブラジャーを売ってしまうか、ちゃんと説明して必要ないと納得させるか――。この年頃の女性にとってバストの話は非常にデリケートな問題をはらんでいる。どちらを選ぶかはいつも相手を見て決めるが、この時は、ちゃんと説明しようという気になった。長くやっているうちについたカンみたいなものだけど、なんとなく話せば分かってくれそうな気がしたのだ。
「まだ、あわてることないんじゃない? 中1ぐらいだったら…」
「今度中3です!」
 いきなり顔を上げてこちらをキッと見つめる。一緒に胸をピンとはり、ブラウスが伸びて胸の線があらわになる。そして――その胸がまったくといっていいほど盛り上がってないこともわかりすぎるぐらい見えてしまった。
 しかし、そんなことは言ってられない。しまった!と内心大慌てだった。どうして中1だと思い込んでしまったのだろう。そのまだ幼さの残る容貌のせいか、まったくふくらんでない胸のせいか――。中3となればまた話は変わってくる。多分クラスで他にブラジャーをつけてない子などまずいまい。ひとりだけどんどん取り残されていくような気分だったのではないだろうか。おそらく自分でもブラジャーが必要ではないことは分かっていて――それでもどうしてもつけたくってここに来たのだ。
 売ってあげよう、その瞬間こう決意した。それも最大限の誠意を持って。
 そうと決まれば適当にはできない。その子を店の中に招き入れると、奥の部屋に導いた。
「ちょっとこちらにいらっしゃい。どんなサイズがいいか、ちゃんと測ってあげるわ」
「え…?」予想外の展開に明らかにとまどっていた。おそらく適当に買って家でひとりこっそりとつけてみる心算だったのだろう。しばらく入り口そばで足を小刻みに前後させていたが、最後には意を決したように指さす方へと歩き出した。

「さ、上を脱いでくれる? 安心して。ここにはわたししかいないから」
 しっかりと部屋のドアを閉めてからやさしく声をかける。それでももじもじとするだけでなかなか脱ごうとしなかった。恥ずかしいのだろう。人前で胸をさらしたことなど一度もないに違いない。かといってこのままでは埒が明かない。何度もせかしているうちに、ようやく胸のボタンに手を伸ばした。
 脱いでみると――思ったとおり、あばらが浮いて見えそうなほど薄い胸はまるっきりふくらみを見せず、ちょん、ちょん、と2つかろうじて見えるかわいい乳首の存在でようやくそこがバストだと分かる程だった。
 その頂にメジャーをまわす。ずれないようこれ以上ないほど慎重に手で支えながら、合わせ目の数字を読んだ。
(うーん、71…ちょっとおまけして72ってとこかなぁ。それにしても細いわ、この子。ウエストなんか50ないんじゃない?)
 ふくらみの麓を見つけるのは困難だったが、とりあえずここら辺とあたりをつけて引き続きアンダーバストを測ってみた。
(63かぁ。やっぱりAカップもないわね…)
「どうでしょう…?」
 不安そうに訊いてくる。いけない、お客を不安にさせちゃ、とつとめてにこやかに対応した。
「そうね、これなんかどうかしら」
 とにかく一番小さい、65のAカップのブラを差し出した。少女は緊張した手つきでそれを受け取ると、はだかの胸の上から羽織るようにつけ始めた。慣れてないせいか手つきもぎこちない。思わず手が出そうになるのを抑え、つけ方の指導をしてやりつつ、どうにか自分でホックを留めさせた。
(あ、やっぱり…)
 Aカップのほとんどまっ平らなカップでも、しっかり中身が埋まらずに浮き上がっているようだった。本当ならカップのないものの方がいいんだろうけど、かろうじてでもブラジャーの形を持っているものでなければ満足してくれないだろう。
「どう? よく似合ってるわよ」
 実際、サイズはともかく、その清楚な美少女と純白のブラとはこわいぐらいにマッチしていた。
 その子は、恥ずかしそうに――しかし、心底嬉しそうに頬笑んだ。極上の笑顔だった。

「毎度あり」
 清算を済ませ、同じサイズのブラを3つ入った包みを抱えて、その子の心が浮き立っているのが傍からもよく分かった。
「またよろしくね。なに、あなたの年頃なら、そんなサイズぐらいじき小さくなっちゃうわよ。そしたらまたいらっしゃい」
 その時なんとなく、その子がまたすぐに店にやって来るような気がした。妙な予感だった。
「そういえば名前をまだ聞いてなかったわね」
「堀江久美子と言います。――今日で14歳になりました」
「そう、久美子ちゃん。これからもごひいきに」
 うって変わって晴れやかに輝いた少女の顔を見ながら、これでよかったのだ、という確信めいたものが胸に浮かんでいた。

 ――――――――――――

(やった! とうとう買っちゃった)
 実は、久美子がこの店に来るのは今日が初めてではない。もう何日も前から毎日のように店の前をうろうろとしてたのだ。明日こそは…今日こそは…と何度ためらったか分からない。そうするうちにとうとう14歳になってしまった。あと数日で新学期も始まっちゃう、とあせりにも似た感覚の中、やっと思い切ることができたのだ。自分自身へのこれ以上ない誕生日プレゼントだった。
 家に帰ると急いで自分の部屋のドアを閉め、今度はわき目も振らずに服を脱いだ。そしてさっき憶えた手順どおり、自分で今買ってきたブラジャーを身につけ始めた。パチンと背中からホックの締まる音がする。久美子はにっこりと笑いがこみ上げてくるのを感じた。
(もうブラいらずの胸なんて言わせないもんね)
 そのまま鏡に自分の姿を映し出す。鏡の中に、さも自信ありげに胸を張る自分の姿があった。突き出しているのはあくまでもブラのカップであって自分のバストでないのは分かっていたが、それでもなんだか誇らしかった。
 それまで一度も締めつけられたことのない胸の皮膚が、ざわざわ、ごわごわした感触に覆われてちょっとくすぐったかったが、それすら不快には感じられない。むしろ、胸がなんだかうずくような期待感すらあった。
 どうにもじっとしていられなくて、その格好のまま鏡の前でいろいろ角度を変えてポーズをとってみる。だんだん調子に乗って部屋の上を訳もなく動き回った。そうするうちに――いつの間にかだぶついたブラがずり上がって、小さな乳首が顔をだしていた。
 あ、とあわてて立ち止まり、両手のひらで胸を隠すようにぎゅっと押さえつけた。
(つ――――)
 途端に、胸の奥からずんとくる鈍痛がいっぱいに響きわたり、久美子の顔を苦痛で引きつらせた。
(痛っ…。なんなのこれ…)
 どうしたのかと今一度手に力を入れると、さっきよりはっきりと痛みが走る。今まで出逢ったことのない感覚だった。
 あわてて手を離すが、まだ胸の痛みはじわんじわんといった具合に響いている。変な話だがその時初めて、自分のおっぱいの存在をはっきり感じとることができた気がした。
(こんなまっ平らでも――やっぱりおっぱい、あることはあるんだな)
 以前医学事典で調べたことがあった。成長期のバストは殊のほか敏感で、ちょっとの刺激でも強い痛みを感じる事があると。ひょっとしたらわたしの胸もこれから…と不意に期待がふくらんだ。
(いずれこのブラがおっぱいでいっぱいになって――きつくてしょうがなくなるような日が――来たらいいな)

 その日が驚くほど早くに訪れることになろうとは、久美子はまだ夢にも思わない。別にブラをつけたことがきっかけになった訳ではないだろうが、ちょうどこの頃、そのぶかぶかなカップの奥で、久美子の胸が急激な成長を始めつつあったことに、まだ本人も気づいていなかった。