3.銭形警部編
――うう、寒い…。
銭形警部は身震いしながら目を覚ました。
――ここは…ここはどこだ…。
必死に記憶を掘り起こそうとするが、まるで頭にもやがかかったようにはっきりしない。それよりもなんだか鼻がこそばゆくなってきた。
「ハクショォーイ!」
口から威勢よく飛び散ったつばが体のあちこちにふりかかり、冷えた体にさらに冷たい点が生じる。それで今さらながらあることに気がついた。
体に、何も身に着けていないのだ。
「な、なんじゃいこりゃあ」
寒いはずだ。こんなんじゃあ風邪をひいちまう。部屋の中はさほど冷え込んでいる風ではなかったが、何一つ身に着けてない心もとなさがいっそう寒さを引き立たさせていた。
――何か着るものはないのか、着るものは…。
そう呟いて辺りを見回す。すると…部屋の隅に、彼のトレードマークとも言うべきトレンチコートと帽子が無造作に脱ぎ散らかされているのが目にとまった。
――こりゃ…これだけか?他には…。
しかし見回してもそれ以外には特に見当たらない。閑散としていた。
結局、何もないよりは、と銭形はコートを着込み、帽子を目深にかぶった。肌に直接、着慣れた感触が伝わってくる。間違いない。彼自身愛用しているものに間違いなかった。
――それにしても、これだけとは…。
コートを羽織った彼は、目線を下に落として苦笑した。目の前には、自分の性器が寒さで縮こまった状態で力なくぶら下がっている。これじゃまるで変質者か何かじゃないか。そう思うと一瞬また脱いじまおうかという考えがよぎったが、結局そのままにした。布一枚着ているというだけでもこれほどまでに心強いものかと、今さらながら思ったのだ。
――それにしても…ここはどこだ。
心が落ち着くと、あたりを見回す余裕も出てきた。一言で言えば"殺風景"としか言いようのない部屋だ。広さは20畳ぐらいだろうか。きっちり定規を当てたように四角い部屋で、中にはもう何年も前に廃業した病院から持ち出してきたかのような簡素なベッドとごつい机があるだけで、他に家具らしきものは見当たらない。壁はコンクリートがむき出しで、しかも窓ひとつなく四方を覆っている。時計もないから今が昼なのか夜なのかすら分からなかった。外界に通じているものといえば、右手にある無骨なドアがひとつきり。銭形はドアを蹴破って外を探りたい衝動に駆られたが…コート一枚、露出狂に間違えられかねない己の格好を思い出し、二の足を踏んだ。
――ちくしょう。どうしてこんなことになったんだ。思い出せ、思い出せ…。
改めて記憶をたどってみる。動かぬ頭をどうにか探っていくうちに、ようやく頭の中がはっきりしてきた――。
そう。俺は不二子の奴を追っていたんだ。あの女が現在東京で開かれている美術展からまた盗みを働こうとしているという情報を得、必ずやその背後にルパンの動きがあると踏んだ俺は、単身犯行現場に先回りして待ち伏せしていたんだ。しかしそこで…。
そう、確かそこで女と出くわした気がする。犯行現場を押さえたと俺はいきり立って隠れ場所を出て、そして…そして――何かとてつもない衝撃的なものを眼にした気がするんだが…。
――くそう、肝心な所が思いだせん。
「あら、お目覚めのようね」
必死に頭を絞っているところに、女の声がふりかかってくる。いつの間にかドアが開いて、そこから女が一人、部屋に入ってきていた。
「おまえは…」
その姿が目に入るや、銭形警部の口はあんぐりと開けたまま閉じられなくなった。その声、その顔、忘れようにも忘れられない、峰不二子に間違いない。そして、先ほどフラッシュバックのように頭によみがえった女の顔と今目の前にいる顔とが一瞬にして一致した。
「銭形警部、お久しぶり」
ただ1ヶ所、彼が知っている峰不二子とは著しく異なっている所があった。そう、その胸だ。俺がとてつもない衝撃を受けたのは。心の底で長いことずっと待ち望んでいながら決して出会うことはないだろうとひそかに思っていたものに、いきなり遭遇してしまった深い驚き…。確かに不二子は元々人並みはずれて豊満な胸を持っていたが、今目の前にいる女の胸は、それと比べても、何倍も、いや何十倍にも大きく膨れあがっている。
「お前…峰――不二子なのか」
「やぁだぁ。もう忘れちゃったの、わたしのこ・と。まあ無理もないかな。この前会った時から、わたしもずいぶんと成長したし」
そう言いながら、不二子は両手で自分の胸を抱えあげるようなしぐさをした。もっとも腕をどんなにめいっぱい拡げたとしても、今やそのすべてを抱え込むことなど到底無理そうだったが。成長ったって…変わりすぎだろうが…。そんな言葉を飲み込んで、銭形は改めて不二子を観察した。
彼女は漆黒のワンピースを着込んでいる。流れるような黒髪、有無を言わさない絶世の美貌を誇る顔立ち、スラリと締まったウエストに大きく張り切ったヒップ…。ロングスカートのために見えないが、おそらく長くしなやかに伸びたその足は今も変わっていないだろう。間違いない、峰不二子だ。しかし…自慢のウエストも今は、その上半身全体を覆わんばかりに縦に横に、そしてなにより前方に大きく張り出したバストの向こうにほとんど隠れてしまっている。その胸たるや…相当ゆったりと作られているらしいワンピースの胸の部分をぱんぱんに膨らませ、今にも布地を引き千切らんばかりに伸びきっていた。
その圧倒的な迫力に、銭形は思わず身震いした。
「あら、寒いの?まあ、無理もないわね」
そう言うと、不二子は両手を背中に回すと、服のホックを器用にはずし、ファスナーを下ろした。
その途端、ワンピースが肩からすっと落ちかかる。しかし大きくつき出した胸にひっかかってそれ以上には下がらない。不二子は静かに袖から手を抜くと、謎めいた頬笑みを口元に浮かべながら服を下にたぐるように徐々に引き降ろしていった。少しづつ、少しづつ襟ぐりが拡がっていく。それにつれ、大きく張り出した胸が、そしてその間に作られた深い谷間が次第に姿を現していった。そして襟の線が胸の頂点にさしかかろうとしたその時――ワンピースは遂に耐え切れず一気に彼女の足元までずり落ちた。そして…その下から、今まで隠されていた、とてつもなく大きな2つの大きなふくらみがぷるんと音を立てて威勢よく飛び出してきた。
銭形は、自分ののどがからからに渇いていることにすら気がつかなかった。それほど我知らず口をあんぐりと開け続けていたのだ。服を脱ぎ捨てたその下は、下半身をわずかに覆うショーツとガーターベルトのみで、そのバストを含む上半身には何も身に着けていない。その姿はなぜか全裸よりも一層なまめかしさを漂わせているように見えた。そして今までワンピースの胸の部分を突き破らんばかりに押し広げていたものが、まごうことなき不二子の両の乳房であったことを今さらながら思い知らされた。その乳房は、不二子の胸の上で、まるで別の生き物のように絶えずふるふるとかすかに動き回っている…。
そう、不二子の胸は、前回、次元と対峙した時より更に格段の成長を遂げていた。おそらくもう2メートル台も後半、いや3メートルに届かんばかりの域に突入していることは間違いないだろう。しかし、その大きさにも関わらず彼女の胸は中身がぎっしりと詰まったような張りと重量感を併せ持ち、以前にも増して大きく前に張り出しているようですらあった。今も、何の支えがないにも関わらずその先はなおも力強くつんと上向き加減に突き出している。
「わたしがあっためてあげる」
不二子が両手を広げて銭形に向けて歩みを進める。体重の移動に合わせ、その胸からはみださんばかりにたわわに実ったおっぱいが前後左右に大きく揺れた。
銭形は催眠術にかかったかのように後ずさった。一歩、一歩、不二子の歩みに合わせて後退する銭形。ふと銭形の脛にベットが当たる。すると銭形は体の力が抜けたようにベッドの上に腰を落とした。
「逃げなくっていいのよ。これからとっっってもいいことしてあげるんだから」
銭形はこういうシチュエーションに慣れていなかった。しかしそれをさし引いても、不二子の裸身とその言葉は麻薬のように魅惑的だった。抗えない。
「不二子、お前…」
銭形はどうにかして不二子の胸から目をそらそうとしたが、その努力は徒労に終わった。身体のわずかな動きものがさずにゆさゆさとゆれ動き続ける2つの乳房は、磁石のように銭形の視線を吸い付けて離そうとはしなかった。
「フフ、どうしてもおっぱいが気になっちゃうみたいね、銭形さん」
不二子はわざと銭形をさんづけで呼び、さらに一歩近づいた。その拍子にまた胸が大きくたわむ。銭形はそれだけでもびくっと身体が反応してしまった。
「よ…嫁入り前の若い娘が、人前で胸をはだけるんじゃない!」
不二子は思わず吹きだしそうになった。いくら銭形とはいえ、その言葉はあまりにアナクロすぎた。この場ではほとんどギャグにしか聞こえない。銭形自身とっさに口をついて出てしまったものだろう。自分の言葉に照れているように見えた。
「お、お前は誰の前でも裸になるような女なのか」
取り繕おうとしてさらに墓穴を掘るような発言をしてしまった。今度は不二子も一瞬むっとするような表情を見せたが、すぐに矛を収めてじっと銭形の眼を見すえた。
「わたしがそんな女だと思う?哀しいな」不二子は本当に哀しそうな眼をした。「わたしの胸をじかに見た人なんてほとんどいないのに。ほんとうに大切な人にだけ…」不二子はとろけるような声で銭形にささやきかけた。
銭形は完全に不二子の魔力にのとりこになってしまっていた。眼はその強い意志を失い、今はただ不二子の胸をひたすら見つめていた。
不二子はその腕でやさしく自分の胸をすくい上げると、銭形の前にさしだしてみせた。
とてつもなく大きい。銭形の視界は、不二子のバストでその大半を覆われてしまった。みずみずしい果肉がどっさりと詰まった超特大の果実が、今、銭形の目の前にどこまでもどこまでも広がっていた。
「どう、前よりずっと大きいでしょう。286センチもあるのよ。今もすごい勢いでどんどん大きくなってるの。――こんな大きなおっぱい、ギネスブックにも載ってないわ。ねえ…さわってみたくない?」
不二子の言葉に、銭形の背筋がビクッと痙攣した。
「ほ、本官は…本官は…」
思考能力が一時的に麻痺してしまったかのように繰り返していた。
銭形の手は、端から見てもはっきり分かるほど大きく震えている。あたかも、すぐにでも手を伸ばして不二子の胸に触れたい衝動にかられていながら、わずかに残った意思の力で必死に食い止めているように見えた。
不二子は不意に胸から腕を離した。支えを失った巨大な乳房が、たぷんたぷんとお互いぶつかり合う。銭形の眼は懸命にその動きを追っている。彼の心は完全に不二子の胸に呪縛され、身体は硬直していた。
動きの止まった銭形に、不二子はさらにすぐそばまで詰め寄った。その超乳は、今や2人の間の空間をほとんど埋めつくしてしまい、その先端にちょこんと乗っかっているピンク色の小さな乳首は、あとほんのわずかで銭形の身体に触れんばかりに近づいていた。銭形の興奮のヴォルテージが空気を振動させんばかりの勢いで上がっていくのが不二子にも伝わってきた。
銭形はもう不二子の胸から一瞬たりとも眼を離さず、食い入るようにじっと見つめていた。不二子のバストは今も、彼女自身の呼吸に合わせてかすかに揺れ動いている。なんだか不二子が息を吸うごとに、そのバストはより一層大きく膨らんでいくようにすら見えた。
不二子は手を伸ばして銭形のコートの前を開き、その肉体を眺めた。
「たくましいのね。がっちりしてるとは思ってたけど、まさしく全身これ筋肉。長年ルパンを追い続けているだけのことはあるわ」
「し、しかし…」
「あなたはもっと自信を持っていいわ。すてきよ、銭形さん」
「だ、だが…」
反語の接続詞を無意味に並べて反抗の意思をかろうじて表現している銭形だったが、それももう限界だった。
「無理しないで。身体は正直よ」
そう言われて銭形はむき出しになっている自分の股間を見た。いやでも不二子の胸が視界のほとんどを覆ってしまってはいたが、その深い谷間の向こうに、先ほどとはうってかわって、いつの間にか見事にそそり立っているのが垣間見えた。
「ルパンを追って、ずっと単身赴任でがんばってるんでしょ。たまには息抜きしなきゃ。この子がかわいそうよ」
不二子はやさしそうに銭形の"息子"を見つめた。
「不二子、俺は…そんな手には…」
「そんな手ってどんな手?安心して。わたしはあなたに指1本触れはしないわ。触れるのは、ほら、これだけ」
そう言うと不二子は両手をいっぱいに伸ばし、その巨大な胸を抱え込むようにして銭形の目の前まで持ち上げてみせた。
「この、世界一のおっぱいを味あわせてあげるの」
銭形の眼が警戒と期待がない交ぜになった色で満たされる。その様子を見つめていた不二子は、あえて少しの間そのままじっとじらさせておいた。待たされることで期待感が一層高まり、その眼から警戒の色が薄らいでいく。不二子はその瞬間を見計らい、銭形の股間にそそりたっている逸物を、無限の奥深さを持っているようにすら見える胸の谷間に一気にくわえ込んだ。
その巨大な乳房は銭形の股間を飲み込むだけでは到底飽き足らず、下半身に押し付けられて大きくたわみ、銭形の腿全体に押し拡がり、その大半を包みこんだ。
「うほっ」
銭形はその、今だ味わったことのない至福の感触を下半身いっぱいに感じ、頭の芯がしびれるような感興を味わった。
なんという感触だろう。表面はとてつもなくやわらかで絹のようになめらか。しかしそれでいてみっちりと内側から張り詰めており、押せばその途端倍の勢いで返ってくるような弾力がある。不二子の乳房は銭形の逸物に一分の隙もなくからみついていき、ありとあらゆる場所から快楽を引き出していった。銭形はそれだけで気が遠くなってくるような気がした。
しかし、ルパン一味逮捕の使命感に燃える銭形の脳裏には、どうしてもその感興に身をゆだねきれない部分がまだどこかに残っていた。
「い、いや…しかし…私は公僕だ。しかも公務執行中…」
その言葉を耳にして、不二子は顔をあげ、いくぶん口調を鋭くして囁いた。
「だぁめ。こうなって、わたしのおっぱいから逃れられた男なんていないんだから。心配しないで。天国に連れてってあげる」
その言葉を合図に、不二子は大きな乳房の下にあてがっていた手を大きく動かし始めた。その動きに合わせて2つの乳房がダイナミックに揺れ動く。その揺れが大きな波となって銭形の逸物にさらに強烈な刺激を与え始めた。
「うぉっ、これは…。しかし…、あうっ…、が…、う、う、う――」
その次の瞬間、銭形の表情が変わった、明らかにその刺激が快感となって彼のあらゆる神経に侵食している事は確実だった。
銭形の逸物が、不二子の胸の中でさらに堅く、まるで鋼のように変化していくのが、不二子にも感触で伝わってきた。
「よっぽどわたしのおっぱいが気に入ったみたいね」
不二子は銭形の逸物を飲み込んだままさらに強烈にしごき続けた。
不二子のバストの魅力にとりこにならない男なんていない。あのルパンですら、今の不二子の超乳に挟まれたらものの1分ともたずに果ててしまうのだ。不二子には絶対の自信があった。これで銭形も程なく堕ちる、と…。
しかし――銭形はここにきてもなお強靭な自制心を持ってその快感に耐え続けた。1分…2分…いや、それをはるかに越えても銭形はなおも射精しようとはしなかった。
(なんてことなの…。こんなはずは…)
逆に不二子の方にあせりの色が出始めた。
そのうち、不二子の両の腕に次第に疲れがたまってきた。無理もない。不二子の超特大のバストはそれだけで相当の重量があるのだ。それを彼女の(鍛え抜かれているとはいえ)華奢な腕で動かし続けることは大きな負荷がかかる。腕に少しづつ疲労が蓄積されていくのが自分でも分かった。
(銭形が…こんなに手ごわいだなんて…)
もう5分も経過したろうか。不二子はなおも果敢に銭形の下半身を攻め続けていた。不二子の腕から生じる波動はその大きな胸全体に共鳴・増幅し、銭形の股間と言わずお腹と言わず、その胸が触れるあらゆる所に極上の快楽を間断なく叩き込んでいった。その胸の強烈なグラインドはさらに勢いを増していく。しかしその一方で、不二子は両腕に少しづつだるさを感じ始めていた。あと何分この動きを続けられるだろう。自分がばてるのが先か、銭形が果てるのが先か…不二子は思ってもみない苦戦を強いられていた。
その時――銭形の心をつき刺すような刺激がもうひとつ、その耳に響いてきた。
「カシャ?――。おい今カシャって音が…。あ、まさか、あの音は…」
「あら聴こえた?さすがいい耳してるわね。そう…さっきからセルフタイマーで、あなたの様子を連続写真に撮らせてもらってるの。フフ…どういう意味か分かるわね」
銭形の顔からサッと血の気が引いた。そういう事だったのか。この変質者のような格好、そして敵の女との淫行行為、その証拠写真!!
破滅だ――。銭形の心の中で、何かが崩れ落ちた気がした。
しかし、今の銭形にはその動揺は思わぬ方向に動いた。それまで巌のように堅固な様子を崩さなかった自制心が壊れかけ、その隙を突いて不二子が今まで下半身に与え続けてきた快楽が脳髄の奥まで一気に駆け上ってきたのだ。
決着は唐突についた。
長いこと自制し続けていた精が、銭形の逸物の先から前触れもなく大量に噴き出してきた。勢い余ったそれは、不二子の奥深い胸の谷間からをも飛び出して、不二子の顔にまで降りかかってきた。
「キャッ」
予想だにしていなかった事態に不二子もとっさに小さな叫び声を上げる。思わず腰を浮かした拍子に逸物が乳房の谷間から開放された。しかしそれだけでは終わらない。腰を浮かした勢いは不二子の大きな乳房に何倍にも増幅されて伝わり、その反動で2つの乳房がこぞって大きく跳ね上がったのだ。そして――まず左の乳房が放心状態の銭形の右頬にぶち当たり、次の瞬間右の乳房が銭形の顎に下からアッパーカットを喰らわせた。
「あ、いっけない」
不二子がそう思った時は遅かった。射精直後の虚脱状態にある所に、やわらかいとはいえ巨大な質量を持つ2発のパンチは銭形の心身を喪失させるに充分だった。
不二子が駆け寄った時…銭形は見たことないような至福の表情を浮かべながら、完全に気を失っていた。当分目覚めそうにない。
「ここまでやるつもりなかったんだけどなぁ」
不二子はちょっと困った表情でその場に立ちつくしていた。
「ま、いいか。とりあえず目的は達成できたんだし」
不二子は部屋の一角に歩み寄った。さして激しい動きでもないのに、両胸で張り切った2つのおっぱいがぷるんぷるんと踊りまわっている。そして、隅に巧妙に隠してあった小型のカメラを取り出した。手にした途端、それはまた「カシャッ」と乾いた音を立てた。
「銭形警部、この音を聞いてすっかり撮ってるものと思い込んでくれたわ」
実は、そのカメラの中にフイルムは入っていない。ただ、等間隔にシャッターを鳴らすよう細工しただけの代物だった。
不二子はクスッと微笑すると銭形の方を向き、カメラを構えて写真を撮る真似をした。
「はい、いいお顔ですねー。そうそう、笑ってー」
カシャッ。カメラがまたタイミングよく音を立てる。不二子は思わず会心の笑みを浮かべた。
そう。今回、不二子の真の目的は、銭形に「自分との写真を撮られた」と思い込ませることにあった。最初、実際に写真を撮ることも考えたが、そうすると、もし万一そのネガが流出した場合、不二子自身もまずいことになりかねない。そこで不二子が考えたのが「銭形にありもしない写真を撮られたと思い込ませる」ことだった。それならば自分にリスクは起こりえないし、一方実直な銭形は――おそらく今後不二子がどんなに否定し続けたとしても――その写真の存在におびえ続けるに違いない。その写真のネガを完全に処分するまでは…。しかしそんなネガなど最初っから見つかる訳はないのだ。これは今回のことだけではなく――今後、銭形の動きを封じ込めるキーワードとして末永く使えるだろう。
不二子は自分にふりかかった銭形の精をふき取ると、先ほど脱ぎ捨てたワンピースをもう一度身に着けはじめた。しかし、つい先ほどまで着ていた服なのに、そうとは思えないぐらい、その胸がひっかかって中に納めるのに苦労した。なんとか背中のファスナーを上げるところまでいったものの、ファスナーを上げるにつれて胸の布地はさっきと比べ物にならないぐらい激しく引きつり、今にも限界を超えてはじけ飛びそうだった。
「やだ、また…。もう、常に締めつけとかないと、ここぞとばかりに成長しちゃうんだもんなぁ…」
しかし言葉とはうらはらに、不二子の顔はなんだか嬉しそうだった。アジトに帰ってから、またバストを測ってみるのが楽しみになってきた。今度は何センチ増えているだろう…。
そして最後に、机の上に置かれた便箋を1枚手にとると、こう走り書きした。
「銭形さん、今晩は素敵だったわ。
二人の思い出は、フイルムにしっかり焼き付けといたからね。
忘れちゃだめよ。 不二子」
最後に便箋にキスマークをつけると、ハラリと銭形の元に放り出した。
1枚の便箋はひらひらと、気絶した銭形の鼻先に音もなく舞い降りる。
「そ、銭形さん、このわたしとあんないいことしたんだもの。これからはずっとわたしの言うことをきくいい子になってね。
――それじゃ、おやすみなさい」
そう言い残すと、不二子は例のカメラを手に、そっと起こさないようにドアに向かい、部屋の電気を消した。
ドアの閉まる音がかすかに響きわたり、部屋は真の闇に包まれた。