こんなオカルト

ジグラット 作
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 1.原村和 〜準決勝直後

「ただ今戻りました」
 原村和は準決勝での対戦を終えて清澄高校の控え室に戻ってきた。その様子は一見いつもの冷静さを失っていない。ただ、万事に渡って観察の目をそらさない部長の竹井久は、そのかすかな違いに違和感を憶えていた。
「さすがのどちゃんだぜぇ、今日も圧倒的な力の差を見せつけたじゃん」
 片岡優希はいつものように原村に駆け寄る。いや実際それは事実だった。彼女は対戦相手の3人を完全に抑え込み、ほぼ一人勝ちのような状態でそれまでの負け分を完全に挽回してトップに立ったのだから。「わたしが南場でなくした点数を完全に取り返してくれたし」優希はさらに続ける。実際東場では敵なしだった優希は南場での失速が今日はことのほかひどく、最終的にはマイナスで終わっていた。和はその失った分の倍は取り戻してみせたのだ。
「ありがとう、優希」和は上気したような赤みを帯びた顔で言った。実際彼女は対戦中集中するとしばしば一種のトランス状態に陥り、このように顔が赤みを帯びることがある。そしてそういう時の和は無敵だった。今日も――だがこのように対戦が終わっても赤みが引かないことは珍しい。それだけでなくわずかながら息が荒いようにも思える。その前に大きくせり出した胸は激しく前後に揺れ、なんだか息苦しそうに見えた。
(様子を伺った方がいいかしら)。自分の大きな鞄を肩にかけて楽屋を出ようとした和に久が声をかけようとした時、いち早く咲が彼女の後を追っていったのを見て口をつぐんだ。(わたしが出ることもないか。まずは咲に任せましょう)

「和ちゃん」あわてて先に進もうとする和の背中に咲が声をかける。「大丈夫?」
「咲さん…」声をかけられたのが意外だったのか、和は不思議そうに振り向く。途端に大きく突き出した胸がぶるんと揺れる。「どうかしました?」
「ごめんね呼び止めて。でも和ちゃん、なんだかきつそうに見えたから」
「そう…」一瞬、和の顔に警戒の色が走る。しかしすぐにいつもの笑みを咲に向け、おだやかに口を開いた。「なんでもありません。でもやっぱりみんなすごい人達でしたから、ちょっと緊張しちゃったみたいで…。それより咲さん、これから対戦でしょ。わたしは大丈夫ですからどうか行ってください」そして手を握りしめて咲に向けた。「そして勝ってください」
「うん、でも…」なおも渋る咲に、和は「あの、ちょっとお手洗いに」とうつむき加減に言った。
「あ、ごめんなさい」咲はついあわあわと手に口を当てて、「じゃあ、あたしも行ってくるね」と自分の失敗を打ち消すようにきびすを返した。

(ふうっ…)廊下にひとり残った和はまた振り返ると、先ほどよりもさらに足早にトイレに向かった。胸はますます激しく上下に揺れる。(早く、早くしないと…)
 ひとり女子トイレの個室に足早に入ると、しっかり鍵を閉めて今度は急いでセーラー服の前を外した。開いた布地を左右に持ち、ぱたぱたとあおいで風を胸に送り込む。誰もいないことに安堵したのか、顔はますます赤みを帯び、息は荒いでとめどがなかった。顔のあちこちから噴き出した汗が流れて次々としたたり落ちていき、そのいくつかは大きく盛り上がった胸の上に落ちる。今、和の胸はその巨大なブラジャーひとつに覆われているのみだった。しかし今、彼女の胸はその大きなブラのカップからあふれ出さんばかりに膨れ上がり、乳房全体が熱を帯びて内側からどくんどくんと何かが流れ込んでどんどん張り詰めていくように思えた。
(どうして…対戦後はいつもこうなるんだろう)誰にも聞こえない声でつぶやく。そう、近頃は毎回こうだった。対戦中は集中し続けて卓上の牌の動きにしか考えが行かないので気にならないが、いざ終わってふっと素に戻ると、途端に2つの胸の膨らみが異様なほど熱を帯びてはち切れんばかりに張り詰め、しばらく身動きできないほどになるのだ。とはいえそれを他人に悟られるわけにいかない。毎回気取られないよう振る舞いながら自然な様子でトイレに籠もるのが和の習慣になった。
(もう、我慢できない) どうしようもない恥ずかしさにとらわれながらも、その締め付けられる胸に我慢できず背中に手を回し、ブラのホックに手をかけた。熱を帯びて張り切った乳房は同時にどうしようもなく敏感になっており、ブラジャーの感触にすら耐えがたくなっていたのだ。
 和の特大ブラジャーは全部で7つものホックが縦に並んでいたが、ひとつ、ふたつと自分でホックを外していく。ブラの中でパンパンに張り詰めていた乳房がその度に軛から解き放たれて徐々に自由になっていった。
(ふうぅ)すべてを外しきり、和はようやく一息ついた。今やブラジャーは和の巨大な乳房の上にかろうじてカップが乗っているだけになっており、締め付けられていた胸の中にようやく深く息が吸い込められた。
 ただ、その被さっただけのカップの感触ですらむずむずして耐えがたく、思わずブラを剥ぎ取りたくなる衝動に駆られる。しかし鍵を閉めた個室の中とはいえドアの向こうに時折人の気配を感じる状況の中で裸の胸を晒すのはさすがにためらわれ、息の音にすら気をつけてじっと耐え続ける。(もうちょっと…しばらくすれば収まるから) 和は自分に言い聞かせるようにつぶやく。実際自由になったことにより胸の熱は少しづつ鎮まり始めていた。胸の中でぐわんぐわんと暴れ続けていた何かも徐々におとなしくなっていく。驚くほど赤みを帯びていた乳房も徐々に本来の白さを取り戻していった。
(もう…そろそろ、いいかしら) どれぐらい時間が経ったろう。自分でも触るのがためらわれるほど張り詰めて敏感になっていた乳房も、なんとなく落ち着きを取り戻したように思えた。おそるおそる両手で自分の胸を抱え上げてみる。信じられないほどずしりとした重さが掌にかかっていくが、どうやら大丈夫のようだ。
 時計を見る。トイレに籠もってからもう10分あまりが経っていた。もうそろそろ戻らないと変に思われるだろう。胸の感覚はまだちょっとおかしかったが、なんとか平静を保っていられそうなほどには落ち着いてきたようだ。和はまた背中に手を回し、先ほど外したホックを嵌めにかかった。
(あ、また…)先ほどまではキツイながらもなんとか留まっていたホックは今はもうどんなに寄せようにも数センチの隙間が空いてしまい、力を込めてもその間を埋められなかった。
(どうしよう、また、ブラ替えなきゃ)こういう時、収まった後はいつも前よりも胸が大きくなっている。全国大会に進んで強豪校に当たるようになってからは、もう対戦の度にそうだった。それもなんだか相手が強ければ強いほどより大きく膨らむみたいで、その度にブラジャーのカップを大きくしていかなければならなかった。何事にも用意周到な和はそのことを見越していた。出発前、行きつけの下着屋で順繰りに大きなカップサイズのブラを特注して予め持ってきていたのだ。和は持ってきた鞄を開けると、その中から次のブラを取り出した。
(でも…これが用意した最後の…一番大きなブラ…)長野を出た時、和の胸は既にKカップに達していた。しかし全国大会に来て、対戦の度にL→M→Nカップと次々替えていき、これは最後のOカップだった。
 もうこれ以上大きなブラはない。今までつけていたNカップのブラを鞄にしまうと、おそるおそるOカップのブラを胸に当て、ホックを背中にまわした。(あ、これでもちょっと…)つけようとしても、覆われたカップに胸がぎゅっと締め付けられるのを感じた。しかしこれしかつけられるブラはない。なんとか背中に伸ばした手に力をこめ、ギリギリホックをすべて留めることに成功した。
(まさかもうOカップになるなんて…明日の決勝戦の後、どうしよう…)手を大きく前に伸ばしてどうにかセーラー服の前を合わせながら、和は不安に駆られた。

「遅かったわね、もう咲の試合始まるわよ」控え室に戻った和に久が声をかけた。
(顔色は戻っているわね。息苦しくもなさそうだし。気にすることもないのかな) しかし和の顔にどこか不安の影がちらつくのが目に入る。(でもここんとこ毎試合ごとこうだし、それに…) 久は和の大きく盛り上がった胸に目がいった。気のせいか、ここ連日胸の高さが日に日に増していくように感じるのだ。それに――久の目がさらに見開く。先ほどはどうにかかろうじてセーラー服の影に見え隠れした和のおへそが、今はもう完全に露出しているのだ。ということは――やはり胸がさらに大きくなってセーラーの布地が引っ張られ、より上に引っ張られているのではないだろうか…。(まさか…) 久は自分で自分の目が信じられなかった。

 その後咲も順調に点数を伸ばして清澄高校は無事決勝進出を決める。皆でホテルに戻った後、和は皆とお風呂に入った。湯船につかると胸の大きなふくらみがぷかりと浮かび上がる。普段それほど意識しているほどではないが、こうして重さから解放されるとやっぱりその質量を実感する。
(きのう入った時、こんなに大きかったかな) その大きさにやっぱり腑に落ちないものを感じる。人の胸が毎日こんなに急激に大きくなるものなのだろうか。
「和ちゃん、隣いい?」不意に声をかけられて顔を上げる。そこにはちょっとおどおどとした顔つきの咲が佇んでいた。
「ええ、どうぞ」言われて咲は和のすぐ隣に腰掛ける。「和ちゃん、胸、大丈夫?」
 いきなりそう言われて和の顔に驚きが走る。
「だって今日試合の後、すごく胸が苦しそうにしてたから」 和の口がいったん開きかけて、でもどう言っていいか分からず結局口をつぐんだ。
「あれは…あのときも言ったように緊張していただけですわ」
「なら、いいんだけど…」咲は和の体に自分の身を預けるように頭を和の方に傾けた。頬が和の胸に触る。触れた途端はっとして咲は自分の頭を上げて和の顔を見上げた。
「どうしました?咲さん」
(和ちゃん、この胸…)咲は言いかけた言葉をぐっと奥に飲み込んだ。その感触が想像していたものとかけ離れていたからだ。乳房らしいやわらかいといえばやわらかいのだが、その奥にとてつもない量のなにかがぎっしり詰まっているような…。それが内側からぱんぱんに張り詰めていて、今にも破裂してしまいそうな気がしたのだ。
 でも…直感だけでなにかは見当がつかないし、それを親友に面と向かって言うのははばかられた。結局咲の口からはあたりさわりのない言葉しかでてこない。
「ううん、なんでもない。わたしもちょっと緊張してるのかな」
「そう…」ずっと胸の事が気になっていただけに、咲のそんな態度に和の方も過敏になっていた。そう、咲にならこのことをなにか話せるかもしれない。でも、どう言ったら…。
「ねえ咲さん」和もうまい言葉が浮かばなかった。「麻雀を打つ行為って、胸が大きくなる効果があるんでしょうか」
 思いがけない言葉に咲はきょとんとした。「そんなこと…。だってもしそうなら、わたしの胸だってもう少し…」咲は思わず視線を落とし、自分の、ほんのわずかしかない胸のふくらみを反射的に見つめた。
「そうでしたね。咲さんもそれならもう少し大きくなるはずですもんね」和は自分が変なことを言ったことに気づいて照れ隠しに軽口を叩く。
「あー、和ちゃんひどーい」和のそばのお湯をバシャバシャ叩いて抵抗すると、「のどちゃんも咲ちゃんも楽しそうだなぁ」と優希が割って入ってそこで話は終わった。