Four seasons

ジグラット 作
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 4. Spring has come

(誰だよ、布団に乗っかってくるのは…)
 寝ている体の上にずしりとした重みを感じる。やめろよ…俺はたまらず眠い目をこじ開けた。
「あ、秋山くん、おはよ」
「藤掛…」
 俺は目を疑った。布団の上で、藤掛理沙子が俺に覆いかぶさるように見下ろしているのだ。なんで俺の部屋に藤掛が…。しかも想像を絶したのはその格好だった。大きな眼鏡に長い髪を後ろで縛ったスタイルはいつもどおりだが、服が――なんと高校の頃の体操服だったのだ。俺の学校は今時珍しくブルマー着用で、白い体操服を形よく突き上げる藤掛の胸は男子の注目の的だったが――藤掛のやつ、その頃の体操服を無理矢理着込んでいるんじゃないか。そんなことしたら――その胸はあの頃より優に3倍は大きくふくらんでいるんだ。そんな巨大なものを無理矢理押し込まれた体操服が、中身を詰め込まれすぎた風船みたいに悲鳴を上げている。胸に貼られた「藤掛」の文字も四方に引っぱられて伸びきっているし…。視線を下に向けると、やっぱり丈が足らずに裾から下乳が大きくはみ出している。藤掛の巨大な、そして抜けるような白いおっぱいの一部が目に飛び込んでくる。ノーブラだった…。
「ど、どうしたんだよ、藤掛…。その格好は――」
 信じられなかった。藤掛は自分からそんな事をするような女の子じゃない。高校の頃だって、自分の胸に集まってくる視線を恥ずかしがってほとんど消え入りそうだったのに…。
「でも、あの…」藤掛はやはり恥ずかしいのか伏し目がちになりながらも、しかし懸命にそれを振り払うように口を開いた。「男の子は、こういう格好が好きだからって――みゆきさんが…」
 また姉貴かよ! ――去年の夏以来、藤掛の存在に気づいた姉は、なにかにつけてちょっかいを出してくるようになった。それまでほとんど家に寄りつかなかったくせに、今では用がなくてもしょっちゅう実家に顔を出しにくる。特に藤掛の事がいたく気に入ったみたいで、2人でつるんでは何やらいろいろ吹き込んでるらしい。この前なんかそっと聞き耳立てたら、俺の子供の頃の恥ずかしい思い出やら何やらを(俺だってあの事は記憶から抹殺したいんだ!)得意げに吹聴してたので、あわてて止めに入った。
 もちろん藤掛はそんな事で態度を変える奴ではなかったけど(少なくとも外見上は)…。ああ、俺の絶対知られたくない秘密を握られたのかもしれない、と思うと内心おだやかでない。
 そして今度はいったい何を吹き込んだのやら。純真無垢な藤掛は染まりやすいところがあるから、あんまり変な事を教えないでくれよぅ…。
 下乳からなんとか目を逸らそうとすると、その向こうからちらちらブルマーが垣間見える。そこから伸びた太腿がほどよく肉付いて以前よりむっちりしているのが目に入ってますます俺の動悸が激しくなった。藤掛は俺の様子に気づくとハッとなってあわてて手で裾をつかみ、力づくで体操服をひき降ろそうとする。あ、そんな無理したら――胸を覆う布地の部分が一層引き攣れていく。元々布の量が圧倒的に足りないのだ。白い布地がますます引き伸ばされて薄くなり、ぴったりとおっぱいに貼りついて胸の線がくっきりと浮かび上がってくる。もはや服を着ている意味がないのではないかというぐらいどこもかしこもむちむちと張りつめて、今この瞬間にもはちきれてしまいそうだ。
 藤掛はなおも両手を胸の下で、裾を掴んだままもじもじとさせながら、そっと俺の顔を覗きこむように訊いた。
「ね、秋山くん、こういうの、きらい? あの、きらいじゃなかったら、わたし、秋山くんと――」
 そこまでで口ごもると、そのまま何も言わずに体をこちらに倒してきた。膨らみきったおっぱいがぐんぐん目の前に近づいてくる。俺の興奮は極限に達し、たまらず股間に強烈な電撃が突き抜けていった――。

 ――やっちまった。
 今度こそ本当に目を開く。もちろん部屋はいつもの通りの散らかりぶりで、そこに藤掛の姿はない。すべては、俺の内なる欲望が生み出した、夢、だった。
(藤掛が――こんなことする訳ないのにな…)
 下着の内にどろりとした生暖かいものを感じながら、俺は体を起こした。早いとこパンツをなんとかしないと…。
(それにしても――強烈だった)
 起きた頭で冷静に考えると――今の藤掛が高校時代の体操服を着たら、あんなものじゃ済まされないと思う。絶対入りきらなくて、下乳どころか乳首まではみ出ちゃうんじゃ…。
 どろどろのパンツの中で自分のものがまた屹立していく。先っぽにぬるっとした感触が伝わって気持ち悪い。いかん、何やってんだよ――俺は自分が情けなくなってきた。試験まであと5日だっていうのに…。

 俺の2度目の受験は目前に迫っていた。第一志望は、もちろん藤掛が今通っている大学だ。思えばこの1年、俺はこのことが心のどこかにひっかかり続けていた。どうしても藤掛に引け目を感じている自分がいて――2人の関係がいつまでも進展しないのもそんな所に原因があるのかもしれない。合格することによって、初めて藤掛と対等な関係になれるんだ、そんな気持ちが頭の片隅から離れなかった。だからこそ今はすべての雑念を払って目の前の試験のみに集中しなけりゃならないのに――ちょっと気を抜くとすぐこの体たらくだ。このような夢精も一度や二度ではなかった。
(こんなんじゃ――去年の二の舞だよ)
 俺の実力じゃ、ほんとに必死こいてやらないと正直合格は危うい。模試の結果は常にボーダーライン上を行ったり来たりして、最後まで合格ラインに安定する事はなかった。
 ただ、当の藤掛本人に最後に会ったのはいったいいつだったか…。ここんところ急激に会う機会が減っていた。かつては毎日のように会って一緒に勉強してたのに、いったいいつからこんなになったんだろう――。

 そう、あれは――法事で3日ほど家を空けていた時だ。夜も遅くに帰ってきたら家の前に藤掛が待っていて――俺を見るが早いか一目散に飛びついてきた。その時はまるで自分から体をぐんぐん押しつけてくる感じで、明らかにそれまでと様子が違っていた。
 もっとも、しばらく抱きつかれているうちに相手の体が妙に熱いことに気づいた。一旦引き離して額に手を当てたら、藤掛の奴すごい熱で、もうふらふらだった。「ふつーだよ」いつにないテンションでそう言い張っていたけども、そう言う呂律もちょっとおかしい。だんだん足許もおぼつかなくなってきて到底ひとりでは帰れそうもなかった。だからほとんど抱きかかえるようにして家まで送っていったんだけど――。
 玄関が開いた途端緊張が走る。藤掛の両親に会ったのはこの時が初めてで、母親は普通にやさしそうな人だったけど、父親の方が――まるで俺を親の敵のようにじっと見据えていたのが忘れられない。
「えーと」
 その目に射すくめられて俺が言葉に窮していると、いつの間についてきたのか、姉貴がとっさに後ろから割って出た。
「はじめまして。わたし、理沙子さんの友達の秋山みゆきって言いますけど――、あ、これ弟で、ちょっとわたし一人じゃ大変なんで手伝わせました。理沙子さん、なんか具合が悪いみたいでしたので…」
 てきぱきとした状況説明に父親の顔があからさまにほっとしたのが伝わってくる。この時ばかりは姉に感謝したくなった。「それはそれはどうもありがとうございます」その時になって娘の様子がおかしいことにやっと気づいたらしく、途端におろおろし始めた。「理沙子、どうしたんだ――やっ、すごい熱じゃないか。母さん、おい母さん…」

 藤掛はそれから2日ほど寝込んでいた。その頃からだったと思う、彼女の態度がどこかよそよそしくなったのは。一緒にいてもなにかじっと思い詰めてるような事が多くなり、どこか近よりがたいような雰囲気が漂っていた。嫌われている訳ではなさそうだが、常に一定の距離を置いて、どうしてもあと一歩が踏み出せないかのようなもどかしさがあった。あの時の妙ななれなれしさは単に熱にうなされた一時的なものだったのか、という気すらしてくる。――そうするうちに冬が来て…年明けにはまた例の天神様に2人で行ったのだが、今度はお参りしただけで何事もなくあっさり終わった。何より藤掛が妙に無口だった。何度となく何かを言い出そうとしたのに、結局言い出せずに口ごもっているかのような…。

 俺と藤掛の間は、受験が近づくにつれてますます疎遠になっていった。俺自身、受験以外の事を極力頭から放り出したかったこともあるが(そこら辺の集中度は去年とは比べ物にならなかった)、藤掛の方も、あんなにしょっちゅう来てたが嘘のように近頃は電話すらほとんどしてこない。もちろん、ひょっとしてこのまま…と不安に苛まれる事がないでもない。だけど、一方でありがたくもあった。もし藤掛がそばにいたら――いつまた俺の欲望が暴発するか分かったものではなかったから。以前のように頻繁に会っていたら、とてもこんな風に勉強に集中できなかったろう、藤掛もそれが分かっているから来ないんだ――不安でたまらなくなった時、自分を無理矢理そう納得させていた。しかしそんな晩は、必ず藤掛が夢に出てきた。そして実際には見たこともないような肢体で俺に迫り、朝必ずパンツを汚して目が覚めてしまう…。

 試験の前日。俺はとうとう居ても立ってもいられなくなって藤掛の家に出かけてみた。しかし、玄関の前まで行ったところでどうしていいか分からず立ち止まってしまう。まったく連絡もなしに勝手に来たのだ。家にいるかどうかも確認してないし、ベルを鳴らしてもしあの父親が出てきたら――あの目は、俺の存在を歓迎してない事は明らかだった。――いや、なによりも、俺自身藤掛に会っても何を話していいか見当がつかなくなっていたのだ。おそらく今の俺、すごい情けない顔してるんだろうな…。
 迷っているうちにいきなり玄関が開く。予期せぬ展開にあたふたと身を隠す場所を探していると、中から当の藤掛が出てきた。藤掛は、なすすべもなく立ちすくむ俺を見つけて目を丸くした。
「秋山くん、どうしたの?」
「あ、や、やぁ、元気?」
 我ながら情けない返事だった。さらに情けないことに、俺の目はそれでも藤掛の胸に釘付けになってしまったのだ。
 久しぶりに見る藤掛は、まさに夢に出てくる以上だった。着膨れしているのにも関わらず、胸がおそろしいまでに盛り上がっているのがはっきりと分かる。服の下にどれほど大きなふくらみが隠されているのか、想像もつかない。俺はそれだけでのどが鳴りそうになるのを必死でこらえた。
 それきりどちらが話すでもなく沈黙が流れる。藤掛の視線が痛い。いかん! こんなことじゃ、また勉強に手がつかなくなっちまう。俺はむりやり口を開いた。
「いや、ちょっと久しぶりに一緒に勉強でもどうかなーと…」
「なに言ってんの。だって…明日はいよいよ本番でしょ。試験会場にわたしがついて来れる訳ないし…ひとりでがんばんなきゃ」
 藤掛の声はいつになく素っ気なかった。それはそうなんだが――どこかいつもの藤掛じゃない。自分が受験する訳でもないのに、妙にぴりぴりしている。
「じゃ、ごめん。わたし――急いでるから。――またね」
 それだけ言うとさっさと俺の前を通り過ぎていってしまった。とりつく島もない。俺はただ呆然としてその後姿を見送っていた。

 明けて試験当日。俺はひとり藤掛の通う大学に向かった。眠い。きのうの藤掛の態度が頭にこびりついて離れず、夜、どうにも寝付けなかったのだ。試験前夜は早めに寝るのが鉄則だけど、眠れもしないのにじっとしてるのは時間がもったいない、と、思い切って机に向かい、参考書をでたらめに開いた。そんなことをしていたもんで、結局明け方の2時間ほどしか眠ってない。
 冬の低い太陽が目に突き刺さる。自分が受ける教室を探しながら目をこすっていると、いきなりよく見知った顔を見たような気がした。
(え? 藤掛…?)
 その大きな眼鏡に長い髪――なにより胸から山のように突き出した超特大のバストが藤掛を思い起こした。まさか、な…。俺は頭を振った。受験のこの時期、すべての講義は休みになってるはずだ。そうだよ。彼女が試験会場にいる訳ないじゃないか。念のため見えたと思った方向にじっと目を凝らすが、それらしき姿はもうどこにもなかった。
(やっぱり自分の妄想か…) 一目でも会いたいと思う願望が勝手に目を錯覚させたのだろう。
 また妄想が頭の中いっぱいに拡がってくる。俺は手を上げると自分の頭を思いっきりこずいた。バカヤロ、少なくとも今日1日は、そういうのは全部締め出せ! でないと――ほんとうにこのまま1歩も先に進めなくなるぞ。
 最初の試験は苦手な世界史だった。開始のベルが鳴る。あくびをかみ殺しながら問題用紙をめくった途端あっと声を上げそうになった。ゆうべ、眠れずにやけくそになって復習したところが並んでいたのだ。ヤマを張るつもりは全然なかったが、問題を読むそばから勝手に回答が浮かんでくる。
 ついてる! いけるぞ!! 俺はようやく目の前の答案に集中していった。

 ――――――――――――

「なんだ、また来たのかよ。今日は大学ある日じゃなかったっけ?」
 次の日から俺は、糸が切れたように家でふぬけていた。一応試験は終わった。だからなんだというのだ。合格が決まった訳でもないし、落ちればこの1年はまったくの無駄骨に帰す。受験が終わったような終わらないような宙ぶらりんな気持ちのまま、何もする気が起きなかった。しかしそんな自堕落な空気を蹴破るように、姉貴がまたいきなりやって来て俺の部屋を襲撃してきた。
「ざーんねんでした。うちのガッコも今受験で休みだよ。で、理沙ちゃんはどうしたの?」
「え、来てないよ、近頃。もうここしばらく会ってない」
「えーっ、どうしたのあんた。まさかまたケンカしたんじゃないでしょうね」
「しらねーよ。ま、なんとなく…」
 毎度のことにつきあってらんねーやとぞんざいな返事をすると、姉貴は珍しくまじめそうに眉をひそめた。
「信一。ちょっと…それ、やばいんじゃない?」
 真剣な口調が俺の神経を逆なでする。わかってるんだ。けど――ようやく試験が終わり、思った以上に疲弊した今の状態で、そんなことを考えること自体がおっくうだった。
「どーすんのよあんた、理沙ちゃんみたいないい子、もう絶対現れないよ」
 姉の言葉がさらにのしかかってくる。不意に試験前日に見た冷たいまなざしが目に浮かぶ。ひょっとしてあれが最後になるのかも…という考えがちらついた。
 ――だめだ。考えようにもその気力がない。無理矢理姉貴を部屋から追い出すと、天井をただ見つめた。
(もうだめなのかな、俺…)

 それから合格発表まで、俺はほとんど外出もせずに鬱々とした日を過ごした。いよいよ明日、という日の昼過ぎ、いつものように部屋で寝転んでいると、いきなり玄関のチャイムが鳴った。今日はちょうど家に誰もいない日で、そのチャイムに答える人は他にいない。めんどくさい、ほっとこうと思ったけど、チャイムはなかなか鳴り止まない。連発するわけではないが、1回1回、しばらく様子を見るようにしては、なおもあきらめずにもう1回鳴らしてみる、そんな感じだった。
「はいはい、わかりました」そんな事が何度となく続いたところで俺は遂に根負けして立ち上がり、乱暴にドアを開けた。「キャッ」チャイムの主が素っ頓狂な声を上げる。ドアにくっつかんばかりの場所に立っていたらしい。その声は…そこには、藤掛が申し訳なさそうに立っていた。
「あ、秋山くん。今、いい?」
 自信なげに、ちょっとおどおどしているが、それでもなにか思いつめているように見えた。

 藤掛が俺の部屋に来るのは久しぶりだ。ちょっとなつかしげにきょろきょろすると、慣れた様子でベッドに腰かけた。俺はちょっと居心地悪かった。藤掛が今座っているそのベッドの上で、俺は――何度こいつの夢を見ながら夢精したことだろう。彼女がもしそれを知ったらどんな顔をする…?
 藤掛は腰かけたままじっとしている。いきなりどうしたんだろう、とじれったくなってきた頃にようやく口を開いた。
「あの、あしたはいよいよ…」か細い声だった。まるで俺の反応を伺うかのようにじっとこちらを向いている。
「ああ、発表だ」
 黙ってただ座っているだけで、藤掛の緊張が伝わってくる。動かないのをいいことに、俺はすっかり見違えるほど大きく成長した藤掛の胸をじっくり観察していた。思えば去年の正月、初めて2人で初詣に行った帰り、俺は初めてこの胸に触れた。そしてその時した約束…。あれがすべての始まりだったような気がする。
(「一緒に合格して、おんなじ大学に行こう。そうしたらその時は――」)
 あの時の声は今でも鮮明に耳に残っている。それから1年あまり、自分のせいとはいえ結局おあずけを食らわされ続けたのだ。その間、触れもしないうちに藤掛の胸はますます大きく膨らんでいき、今ではちょっとさわっただけで破裂してしまいそうだ。合格したら、ほんとうにこの胸にさわらせてくれるのだろうか…。待つ時間が長かっただけに、なんか疑心暗鬼になってきた。
「あの…去年の初詣、憶えてる?」
 いきなり同じ事を言い出したのでびっくりした。一瞬、俺の心を読まれたのかとあせる。
「あの時、わたし、ひどいこと言っちゃったと思う」
 なにが?と聞き返そうとしたが藤掛はその時間も与えようともしない。
「あの時――"受験が終わるまで"なんて言って――。結局、怖かったの。これ以上踏み込むのが。だから、逃げて、ただ先延ばしにしてただけなの」
 藤掛はまた押し黙った。一言発するのに、すごく覚悟がいるみたいだった。
「受験が終わってからもまだ覚悟ができなくて、"受験は終わってない"なんて突っぱねて――そのまま1年も…。ごめんなさい」
 そんなこと――と言い返そうとした口が一瞬で固まった。藤掛が、いきなり上着を脱ぐと、俺の目の前でブラウスのボタンを上から順にはずし始めたのだ。
「藤…」
「あしたになって、もし結果が――。そうなったらわたしまた、口実作って逃げちゃうかもしれない。だから、今、今しかないの」
 2つ、3つ…ボタンの歩みはまどろっこしいほど遅かった。見ると指がかすかに震えている。思わず手を伸ばして手伝いたくなるが、その手には自分でやるんだという強い意志のようなものが感じられた。
 4つ、5つ…。そのあたりになると両手をめいっぱい伸ばさないとボタンに届かないほどブラウスは大きく張り出していた。指先にますます力がこもる。ほとんど糸を引き千切るんじゃないかってぐらいの勢いだった。
 そしてボタンがひとつはずれるたびに、その裂け目から肌色の奥深い胸の谷間が、純白の巨大なブラジャーがどんどんあふれ出してきた。
 6つ、7つ…とうとうボタンは山の頂を超え、急速に細いウエストへと収束していく。最後のひとつをはずし終えると、藤掛は思い切るように袖を引き抜いてブラウスを後ろに放った。
 今、藤掛の上半身を覆うものはブラジャーひとつだけ。それにしてもなんと大きなカップだろう。スイカどころかバランスボールだって片方に余裕で入ってしまいそうだ。いったい何カップかなんて想像もつかない。しかもそんな特大のブラにも関わらず、藤掛の胸は完全には収まりきってなかった。ストラップが引き伸ばされてカップが胸板から浮き上がっているように見える。浮いたカップの縁からは乳肉があちこちあふれ出さんばかりになっていて、サイズが合ってないことは明らかだった。藤掛を見ると、やはり胸がきつそうにちょっと顔をしかめている。
「このブラ、こないだ新調したばっかりなんだけど…さっきからすっごいドキドキしちゃって――もう限界みたい」
 恥ずかしそうにそう言うと、ぐっと息を止めて両手を背中にまわし、ホックをはずしにかかった。相当きついのだろう、ホックが背中に食い込むようになっているのをなんとかひとつひとつ取りはずしていく。ぷつん。最後のひとつがはずれた途端、ぶぉんとさらに胸がふたまわりほど大きくなったように見えた。(よっぽど押し込んでいたんだな…) 藤掛はほっとしたようにふーっと長く息を吐く。今やブラのカップはその超特大の胸の上に乗っかってるだけで、改めて藤掛の本当の胸の大きさに驚かされた。
「でけ…」
 俺はあわてて口を押さえた。やべ、思わず本音が口に出ちまった。
 俺の言葉に藤掛は一瞬ピクリと反応したけど、すぐ吹っ切ったように座り直して背筋をしゃんとする。姿勢を正しただけで大きな胸がより大きく突き上げられる。
「そうなの。この1年、秋山くんのことを考えただけで勝手にどんどんドキドキが止まらなくって…」一旦口ごもって言葉が切れる。しかしすぐにまた視線を上げ、強がってみせるように俺に向けてぐいっと胸を突き出してみせた。
「こんなに大きくなっちゃったの、秋山くんのせいだからね」
 責任とってよね、と言わんばかりにその目はちょっといたずらっぽく笑っていた。

 藤掛の手はそこで止まる。最初はここまできて怖気づいたのかと思ったけど――ここでブラを外しさえすれば、自分の胸がじかにさらされることになるのだ――かといって後戻りもしない。眼鏡の奥から、ちらりと俺の顔を伺った。
 藤掛のやつ、最後は俺に…。
「いいのか?」俺は小声で尋ねる。藤掛の顎が、かすかに震えるように下に動いた。
 俺は人知れずごくりとつばを飲み込み、おそるおそる手を伸ばす。不意に、これもまた夢なんじゃないかと不安になって踏みとどまりひとつ深呼吸をした。大丈夫だ、夢じゃない…分かってはいてもなんか気が退けて、なるべく胸そのものにはさわらないよう慎重にブラのカップだけを静かにつまみ上げた。その下から、何度も何度も夢想していた藤掛のおっぱいそのものが少しづつ姿を現していく。自然に荒くなっていく息の音をさとられないよう気をつけながらそろそろと腕を上げる。そしてカップが完全に胸から外れると、今度は肩にかかったストラップをずり落とす。藤掛は黙って両腕だけを水平に上げると、俺がブラを腕から外す様子をただじっと見つめていた。
 遂に藤掛は上半身一糸まとわぬ姿になってベッドの上にそのまま座っていた。恥ずかしいのか、顔を俯けたまま微動だにしない。ただ、息づかいが相当激しくなっているのは、それに合わせて胸の2つの山脈が絶えることなく増減を繰り返していることで分かった。
 なんという大きさだろう。じかにその胸を見たのは去年の夏以来だが――あの時でも驚いたけど、今はあの時と比べても段違いに大きくなっている。それが中身をぎっしりと詰め込んだ風船のように重々しげに、しかし力強く前に張り出しているのだ。
(きれいだ…)俺は思わず穴が開くほど見つめてしまった。今もやはりすごくドキドキしてるのだろうか、息を吸うごとに、むくっ、むくっと起き上がってくるようにそのふくらみが大きくなっていくのが分かる。今、このおっぱいに触れたら、またあの極上の弾力が…と、夏の時に味わったあの感触が手のひらいっぱいに蘇ってくるようだったが、それでいてどうしても体が動かせなかった。あの夏の一件――相手の気持ちも考えずに暴走してしまった事が、自分の心の奥でトラウマとなって体中にブレーキをかけまくっていたのだ。
 なすすべもなく時間だけが過ぎていく。そうするうちに藤掛の胸だけがどんどん大きくなっていった。このままほっといたらじき破裂しちゃうのではと心配になってくるほどだ。
「早く…」
 ふと、ほんとかすかに、藤掛の声が聞こえてきた気がした。その顔は俯いたままで、表情はよく見えない。
「藤掛…」
 俺はやっときしむ体を動かすようにして名前を呼ぶ。藤掛は俯いた顔を少しだけ上げ、俺の目をじっと見つめた。
「秋山くん」その目は何かを訴えているかのようだ。また拒絶されるのではないかという不安がその目を見つめているうちに少しづつ溶けていく。
 藤掛はむしろこちらが手を出すのを待ちかねてるかのようにその胸をさらに前へと突き出してみせた。そのバストは大きく熟しすぎた2つの果実のように胸から大きくはみ出さんばかりに張り出し、まるでさあもいでくださいと誘っているかのようにプルプルと振り子のように揺れている。
 固まっていた体が徐々に動き出す。俺はあわてて上半分の服を脱ぎ捨てると、藤掛の前に跪いておそるおそる手を胸の下にあてがった。俺の手が触れた瞬間、藤掛の体がびくっとかすかに震えたが、それでもなすがままにさせていた。持ち上げようとすると、ずしっとした胸の重みが手に伝わってくる。いったい何キロあるんだ?と驚くけども、そのやわらかい中にも弾けるような張りつめた極上の感触が俺の指の神経に麻薬のように沁みこんできた。
 俺の腕に自然に力がこもる。片方の乳房を両手がかりで押し上げる。片手だけでは掌からおっぱいがあふれ出してどうしようもなかったのだ。だから両手ではさみ込むようにおっぱいを揉みこんでいったのだが、それでもその間から厖大な量のおっぱいがどんどんあふれ出してくる。夢中になって胸ばっかりいじってたのでふと心配になって顔を覗きこむと、藤掛はなにかに必死に耐えるかのようにじっと目をつぶっていた。俺の手が止まったことに気づくと、うっすらと目をあけて、なんでもないといった風に軽く首を振った。
 あまりの重さに一旦手を離すと、ぷるんと大きなプリンのように弾んだ。白い肌の、自分の手が触れていた所だけかすかに赤く染まっている。
 思わず息を呑むように見つめてしまう。真近で見ると、改めてその大きさに圧倒された。片方だけで、優に自分の頭の3倍以上ある。そんなものが、目の前でぷりぷりと揺れているのだ。真っ白な素肌がミルクを連想させる。まるでこの中にミルクがいっぱいに詰まっていて、その中心にちょこんと突き出た、ほんのり桜色に色づく乳首を見ているとちょっと突っついただけでそこから中身が噴き出すんじゃないか、なんて妄想に駆られた。なんだか突き動かされるように、乳首を口いっぱいにほおばった。
「あ…」
 それまで押し黙っていた藤掛の口から思わず声が漏れる。なんとも憂いを含んだ声だ。たまらず口の中で、舌をこねるようにぺろぺろと舐めまわす。
「あ、や…」
 一瞬逃れるように藤掛が背中を逸らす。しかし次の瞬間、跳ね返るように逆に胸を顔に押しつけてきた。元々至近距離にあった藤掛のおっぱいが急激に目の前にせまる。あっという間に顔の隅々まで胸の中に埋まって真っ暗になってしまった。顔中の神経という神経にあのまろやかな感触が襲いかかる。俺はいつまでもこの中にいたいと思った。しかし鼻まで完全に塞がれては息ができない。どうにかしばらくそのままでい続けたが我慢はすぐ限界に達した。
(これじゃほんとに窒息しちまう…)
「ぷはっ!」たまらずにとうとう口から顔を離した。放した途端、おっぱいが目の前でぷるんぷるんと激しく揺れる。
「あ…」しかしその時、藤掛の口からまた声が漏れた。しかもさっきとは違う調子で――。なんともせつなげで、今までの感触をいとおしんでいるかのようだった。
(え…?)
 見上げると藤掛の目はかすかに潤んでいるように見える。まさか…。俺は再び決死の覚悟で藤掛の胸めがけ顔をダイブさせた。
「あっ、はぁっ!」
 再び藤掛の口が開く。しかしその声には、明らかに悦びが含まれているような気が確かにした。俺は再び乳首を口に含むと、今度はちゅーちゅー音が出るほどの勢いで吸い上げた。
「やっ、だめぇ…。ちくび――いい…」
 最後はよく聞き取れなかった。ただ、明らかに――肯定的なニュアンスにとれた。
 俺はまた口を離す。口許でつるんと跳ねるように乳首が踊っている。
「藤掛のおっぱい、とってもおいしいよ」
「やだぁ、もう」
 口ではそう言いつつ再び刺激を待ち受けてるように胸を突き出してくる。俺が必死の思いで締めていた最後の理性が吹っ飛ぶのには充分すぎた。またもや乳首をくわえると、今度はそのまま頭を後ろに退いてみる。重々しいおっぱいが、こちらの方にどこまでも伸びていく。
「いやぁっ、おっぱい、のびちゃうぅうん…」
 ぷろん、と口を離すとおっぱいが元の形に戻ろうとしてぷるっぷるっと跳ねまわる。ふっ、と体の力が抜けたかのように、藤掛は俺のベッドの上に背中から倒れかかった。あおむけになっても、藤掛の胸は小山のようにうず高く盛り上がったまま、ほとんど崩れない。しかし倒れこんだ勢いでその山の頂はぷろんぷろんと揺さぶられて、なかなか止まろうとしなかった。
 その動きとシンクロして俺の心も揺れ動く。俺は飽くことなき欲望に突き動かされ、藤掛の胸に追いかぶさるようにぱくついた。

「さっきから左ばっかり…。お願い、こっちも――」
 嘗め回しているうちに、頭越しに、かすかに――消え入りそうな声が聞こえていた。ちょっとびっくりした。藤掛の口から――こうも積極的な言葉を聞くことになるとは…。
(ひょっとして、感じてるのか)
 俺だって恥ずかしながら初めてだし、相手がどう感じてるかなんて考える余裕はない。ひたすら突っ走ってしまいそうになる。今まで左のおっぱいばかり攻めたてていたことにも今んなって気づいた。けど、藤掛の反応を見ているうちに、なんだか、自分のやっていることが正解なように思えてきた。
(なんか、いけるかも)
 俺は右のおっぱいに移動すると、舌でその先を軽くつついた。今までほっとかれてずっと刺激を待ちわびていたおっぱいは、そのわずかな刺激だけで体全体がこれまでないほどあからさまに、びくっ、と大きくぶれた。
「あっ…はあっ!」
 意味不明の感嘆が漏れる。俺は両の掌で右のおっぱいを持ち上げるように揉みあげると今度は口いっぱいにほおばって、舌でぞんぶんに嘗め回した。去年の初詣の時は2本の手でそれぞれの胸を揉めたのに、今では両手を使っても片方持ち上げるのがやっとだ。あまりに大きすぎてひとつづつしか攻め立てられないのがもどかしい。しかも揉めば揉むほどむくむくとますます大きくなっていくのが分かる。あまりの大きさに、だんだん腕がだるくなってきた。いったいどれぐらい揉みまくってたろう。さすがにたまらず、一旦腕を放した。見ると、胸全体が刺激を受けて赤くなっていて、満ちあふれるほどに張りつめている。
「あ、だめ…」思わず本音が漏れてしまった、という風に口が開く。自分でも気づいたみたいで顔を赤らめたが、意を決したように先を続けた。「やめないで。もっと…おっぱい、めちゃくちゃにしてっ」最後は消え入るような声で、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いた。
 意外な反応だった。あの藤掛がこんなに積極的になるだなんて…。けど俺だってこれで終わらせようとは思ってない。腕は疲れてはいるが、なんだか体が火照るように熱くなってしょうがない。腕のだるさを振り払うようにして胸の谷間に顔を突っ込んだ。
「あ…う…」
 突っ伏した頭越しに藤掛のあえぎ声が届く。俺は両腕を一杯に伸ばして左右のおっぱいを手当たり次第にもみしだいた。いったいどれだけ大きいんだ!? 手探りでいくとどんなに腕を伸ばしても果てがないようにやわらかい山並みが続いていく。とにかく手だけでなく二の腕、終いには肩まで全部使ってなんとかその限りなく続くおっぱいの山をすべて抱え込もうと挑みかかったがとても無理だった。しかし腕を動かすたびに巨大な山は左右にやわらかく波うち続け、谷間に突っ込んだ俺の顔に左右から厖大な乳肉がぱちんぱちんと次々せまりかかってくる。
「あっ、あっ、あはぁっ…!」動きに呼応して藤掛のあえぎ声が高まっていく。その間隔はどんどん狭まっていき、ほとんどひっきりなしになっていった。
 俺がどうにも腕がやわになって胸の間に頭を落としかけた時、気がつくと藤掛の声もやんでいた。
 え? と頭を上げてみると、藤掛は感極まったかのように荒い息を小刻みに震わせたまま呆然としている。
「藤掛…?」呼ぶとちょっと反応しかけたけど、それきり動こうとしない。俺は改めて立ち上がり、藤掛の全身を見下ろした。きれいだ…。たまらなくそう思った。ただ、腰から下を覆っているスカートがどうにもじゃまに思えてくる。
 俺はそっと藤掛のスカートに手をかけた。ホックがどこにあるかちょっととまどったけども、藤掛は快感にぼーっとしているのかなすがままにされている。スカートを引き抜くと、後はショーツと靴下だけになった。
 俺はゆっくりとショーツに手を伸ばす。この白布一枚の下に、藤掛の…。指先がどうしようもなく震えて止まらない。初めて見る女性の――を目前にして、俺はもうどうしていいかわからないくらいむちゃくちゃ興奮していた。
 そうしているうちに、ズボンの中が痛くなるほどぴーんと堅くなってきた。どうにも納まりがつかず、一旦手を引っ込めてまず自分のをなんとかしようとベルトのバックルを外した。
「藤掛、俺、もう限界だよ」そのまま一気にズボンを下ろす。勢い余ってパンツまで一緒にずり下ろしてしまった。股間のものが開放された途端ぶるんと上を向いてそびえ立つ。
 それまで焦点の定まらなかった藤掛の目が見開いた。
「え、こんな…なってんの?」
 明らかにとまどっている様子が伝わってくる。今までの表情が一変して、なんだかすっと正気に戻ったように見えた。しかし俺はもう引っ込みがつかない。俺だって全部さらけ出したんだ。藤掛の――すべてが欲しい!
 しかし、藤掛は急におどおどし始めた。「え、あ、そんなの――困る」
 その時、自分がショーツ1枚になっているのに気づき、あわてて上半身を起こすと脱ぎ捨てられた自分のスカートを見つけて腰にかき上げた。
 そんな…ここまで来て――。しかし俺のものはいきり立ったままもうどうにも止めようがない。俺は進むことも退くこともできずに足を踏ん張ってその場でじっとするしかなかった。
 藤掛もどうしていいか分からないらしい。何度となく俺の股間に眼をやり、しかしその度に直視できないのかすぐ目を逸らした。「そんな…とがってるの…」藤掛の口からかすかにそう言葉が漏れるのが聞こえる。俺は――俺は――。
 本当の事を言えば今すぐ藤掛に飛びつきたい。そのむちゃくちゃ気持ちいい肉体を、今度は俺の体全体でむさぼりつくしたい。でも――とうとうじっと目をつぶったまま体をふるわせている藤掛を見てると、どうしてもそれ以上進めなかった。
「ごめんなさい…」

 そんな…。
 どれぐらいそのままにしていたろう。じんわりと白けた空気が部屋中に広がっていく。気分的には萎えて当然だった。しかし、俺の肉体はもうそんな気分のいう事を聞いてくれない。勝手にこれ以上ないほどそそり立ったまま、臨戦態勢をとり続けた。
「あ、えーと、その…」
 藤掛も膠着した空気に耐え切れないらしかった。自分のせいでこんなになってしまったことは分かっているが、まだ…どうしても踏み込めないらしい。その顔は明らかに困惑していた。
 なんとかしたい、けど…。藤掛の視線は何かを探すように部屋のあちこちをさまよう。しかし、最後には覚悟を決めたかのようにまっすぐこちらを向いた。
 藤掛は体を起こして座り直すと、両腕をいっぱいに拡げて自分の胸をむちっと抱え上げた。ただでさえ深い谷間がさらに深さを増す。
「あの…胸で…してあげるから」

 藤掛に、パイズリの知識があるなんて意外だった。けど、今、自分にできる精一杯のことをするんだ、という決死の意思みたいなのが感じられる。
「ね、秋山くん。…来て」
 その声は必死だった。俺も藤掛の深々とした胸の谷間を見るうちに吸い込まれるように足を踏み出していた。
「ほら、ここに」
 腕いっぱいに抱え込んだ胸を左右に広げて谷間を少し開ける。まだ俺のものをちゃんと見つめるのには覚悟がいるみたいで目はそらし気味だったけども、ベッド脇に立った俺の腰のちょうどの高さに谷間が広がった。俺はそこに猛りきったままのものを差し込んだ。
 驚いたことに、俺のものはずぶずぶと、すっぽり縦にめり込んでしまった。しかもまだまだ底に届きそうにない。まるで藤掛の胸に呑みこまれたみたいに完全に隠れてしまった。
 途端にとてつもない世界が拡がったようだった。やわらかくて、しかも張りつめた感触が俺のもののまわり一面にぴっちりとまとわりつき、敏感な所の隅々までぷりぷりとした感触が襲い掛かってくる。それだけで、我慢を重ねてきた俺のものは爆発してしまいそうになった。
「堅い…」
 藤掛は逆にその感触に驚いたみたいだ。慣れるまで少しの間じっとしていたけども、意を決したように腕に力を込めた。
 巨大な乳肉の山が双方からさらに覆いかぶさり、俺のものを締め上げる。あっ、と思った途端、はさみ込んだまま巨大な山が上下に大きく揺さぶられ始めた。
 藤掛が自信なげに訊いてくる。
「あの、秋山くん…気持ち、いい?」
 けど言葉なんて発する余裕もない。さっきから敏感な所を覆っていた乳肉が、ぴったり張りついたまま絶妙に前後左右にこすりあげられていくのだ。俺のものは乳房の荒波に飲み込まれたかのようになすすべもなくあちこち打ちつけられ続け、肉棒全体が火のように熱くなっていく。さっきから我慢に我慢を重ねてきた俺に到底耐えられるものではなかった。でも、今、この状態で暴発しちゃったら――。藤掛、ごめん!!!
 次の瞬間、深い胸の谷間をも突き破って、俺の先から白いものが盛大に噴き出してきた。「きゃっ!」藤掛は何が起こったのか把握できずに胸から手を放して叫ぶ。勢い余ったそれは、高く飛び散って藤掛の眼鏡と言わず髪といわず降りかかった。
「ごめん」
 俺は思わず謝った。いきなりなりふり構わず発射しちゃって――。しかし藤掛の反応は予想外だった。最初きょとんとしていたが、状況が分かっても慌てるでもなく、そのままおずおずとこう訊いてきたのだ。
「気持ち…よかったんだよね」
 俺が思わずこっくり頷くと、藤掛は、よかった、とばかりににっこりと笑った。
 その時になって気がついたのだが、張りつめた藤掛のおっぱいは、手を放しても俺のものをしっかり挟みつけたまま微動だにしなかった。それどころか俺の目の前でさらに、みちっ、みちっと質量を増していき、ますます俺のものを締めつけてくる。すごい…まだドキドキしっぱなしなんだ。安心した途端、今あんなに発射したばかりだというのに、また胸の間でむくむくと大きくなっていった。
「あは、くすぐったい…」藤掛は、自分の中で堅さを増していく俺のものを面白がるように、自分の谷間をじっと見つめた。みるみるうちに、先ほどを上回るほど大きく膨張していった。
 藤掛は、再びぎゅっと自分のおっぱいを両腕で挟み込むと、俺に向かって目を上げた。
「もう一回、するよね」
 俺の返事を待つまでもなく、藤掛は先ほどをも上回る勢いで俺のものを絞り上げていった…。

 ――――――――――――

 次の日の朝、俺は合否発表を見るために家を出た。吐く息が白い。暦の上ではとっくに春になっているはずなのに、そんな気配がまだまだ先のなのはいつもと同じようだ。寒さに縮こまりながら玄関を出たところでびくりとした。そのすぐ外に、藤掛が立っていたのだ。
 きのうの事が鮮明に頭をよぎる。彼女は俺を見た途端、恥ずかしそうに一瞬目を伏せたが、すぐに思い切ったようにこちらを見て、白い息を吐きながらこう言った。
「あの――よかったら、一緒に…」
 俺はどういう顔をしていいか分からなかった。きのうあの後いったい何発発射したのかよく憶えてない。そのうち2人とも果てきって眠ってしまい、気がついた時には外がすっかり暗くなっていた。藤掛の胸といわず頭といわず白いものがまんべんなく貼りついてごわごわしている。そんなこと気にせずに「早く帰らなくちゃ」とあわてている藤掛をなんとか押し止め、洗面所に行き簡単に顔や胸を洗ってやった。今日親が出かけてたことに感謝したくなる。なんか秘密の共同作業みたいね、と藤掛はおかしがってたけど、送り終わってひとり部屋に戻った途端、自分のものの匂いが部屋中に染み付いているような気がして――気恥ずかしさで一気に自己嫌悪に陥ってしまった。俺、あんなことしちまって…藤掛のやつ、気を遣って平気そうな顔してたけど、本心はいったいどうだったんだ――。そんな妄想がどんどん拡がっていって、ベッドの上で七転八倒。もう二度と藤掛に顔向けできないような気がしてきた。ただ――おかげでというと変だが、明日の発表のことをまるっきり忘れることができたのが唯一の救いだった。

 そんなことがあったから、まともに藤掛の顔を見れない。けど、今日会いに来てくれて実はほっとした所もある。今日もし会わなかったら、このままずるずるどんどん気まずくなっていくのでは――そんな気がしてたのだ。
「――だめ?」藤掛は上目がちにこちらを覗き込む。ほとんど聞こえるかどうかぎりぎりぐらいの小さな声だった。
「あ、いいよ」
 思わず答えてしまったが、言ってしまったらしまったでどうしようか、という思いでいっぱいになる。一緒に行くというのは当然一緒に合否の場に立ち会うという事だ。もちろん受かっていたらいい。けどもしも――。
 駅まで並んで歩く。2人とも一言もしゃべろうとしない。冷え冷えとした大気の中、いたずらに緊張した空気だけが2人の間に広がっていた。
 指がかじかむように寒い。手袋をしてこないのは失敗だったなと今さらながら後悔する。手を口許に持ってきてはーっ、と息を吹きかけて、下ろしたところで、その手に何かがさわった。
 藤掛が、俺の手をにぎってきたのだ。あれ? 藤掛、手袋してたんじゃ、と見ると、片方だけはずして素手をさらしている。何か言おうとすると、藤掛は制するようにこう言った。
「ううん、こうしてた方があったかいから」

 そのまま手をつないで駅に着く。電車に乗っても2人とも何もしゃべらない。お互いちらちらと相手を見てるのだが、まるで眼をあわすのを避けるようにすぐ逸らしてしまう。
 電車を降りる。相変わらず押し黙ったまま並んで歩いた。
「あの…」
 遂に耐えきれなくなったように、藤掛がこれだけ言った。しかし先が続かない。俺も沈黙に耐えられず、「ん?」とだけ返すのが精一杯だった。
「あの…きのうは…ごめんね」
 藤掛の方から先に謝ってきた。思わず何を?ととまどっていると、
「最後までできなくて…。まだ…そこまで勇気がなくって…。でも、次はきっと…」
 唖然とした。藤掛は藤掛でその事を気にし続けていたのだ。そんな。俺のほうはそんな事を忘れるほどいい思いをさせてもらったのに…。
 なんだかその気持ちにじーんとしてしまった。しかしどう言っていいかわからず、ただ手をじっとにぎり返した。
「俺のほうこそ、ごめん…」
 今度は藤掛の方が、訳が分からない顔できょとんとしていた。

 大学の前に着く。ここまで来ると、去年のことが思い起こされてにぎった掌にじわっと汗がにじみ出てくる。1年前、藤掛の番号のみ掲示され、俺の番号はどこにもなかった、残酷なまでの現実。また同じ目に遭うのでは…と弱気の虫がにわかにさわぎ出す。
 校門をくぐると俺たち同様、発表を見に来た人が大勢流れを作っていた。校舎前の掲示板には既に合格者の番号が貼り出されていて、歩く気がなくてもその流れに乗るだけで勝手にその前にたどりつけてしまいそうだ。前に来た者は必死の形相でその掲示板を見つめ、ある者は歓喜の声をあげ、ある者は大きく肩を落とし去っていく。間もなく俺もそのどちらかになるのだ――思わず引き返したくなってきた。去年の事が走馬灯のようにありありと浮かび上がってくる。あの、自分の番号が見つけられなかった時のどうしようもない喪失感が怒涛のように蘇ってきた。試験そのものは去年よりはるかに手ごたえを感じているのに、そんなものここでははまったく役に立たない。
 その時ふと、自分の手がぎゅっと握り返されてきた。横を見ると…さっきからつなぎ続けてた手に、藤掛が思いもよらないほどの力を込めているのだ。その目はまっすぐ前を見据えていて、緊張しているのが分かる。藤掛、自分の発表でもないのにそこまで…。
 そして及び腰になっている俺を叱咤するように、人の流れに自ら飲み込まれようとしている。俺は引きずられるように掲示板の前に来た。
 思わず目をつぶりたくなる。勝手に体が震え出してくるのが分かった。しかし――藤掛は不動の構えでじっと俺の手を握り続けている。藤掛の前で――みっともない真似だけはできない。俺は覚悟を決めると、目を見開いて掲示板に並ぶ数字を上から読み出した。
 心臓がどうしようもないほどドキドキし、頭がくらくらして数字がちらつく。しかし、目だけはむりやり焦点をあわせて自分の数字をじっと探し続けた。俺の目が止まる。
「あっ…た――」
 現金なもので、あれほど激しかった動悸も体の震えも一瞬でおさまり、全身の力が抜けて腰が落ちそうになった。
「おい、あった、受かったよ、俺!」
 思わず横にいる藤掛に叫ぶ。しかしその様子を見て、俺は訳が分からなくなった。こんなに大きな声を出したのに、藤掛はまるでそれが耳に入らないかのように今だに掲示板をじーっと見つめ続け、何かを必死で探しているのだ。握ったままの手にますます力がこもっていく。もう片方の手には、いつの間にか俺のものではない受験票がにぎられていた。
「おい、どうした?」俺が訊いてもなんの反応もしない。さすがに心配になってきた時、掲示板上を必死で追っていた藤掛の視線がぴくりと止まり、すごい勢いでこちらを振り向いた。見ると、眼鏡の向こうの目はこれ以上ないほど見開き、その中に今、涙がどんどんあふれていく――。
「あった、わたしも…」わたしも? いったいどういうことだ!?
「うれしい…。これで、また、一緒に…」
 藤掛は精根尽き果てたようにこちらを向いたままふらっと倒れこんだ。とっさに助け起こそうとしたが、巨大なおっぱいがいきなり俺の体全体を覆うようにのしかかり、その重さと心地よさに思わずバランスを失った。
(いったい、何が起こったんだ…?)

 合格発表の場で折り重なるように2人倒れこんて注目を浴びてしまったが、俺はなんとか藤掛を抱き起こすと、校庭の隅の芝生まで連れて行った。腰を下ろしてしばらく落ち着いた所で、藤掛は訥々と衝撃の告白を語りだした。
「わたし…去年の暮れに、大学を辞めてたの」
 思わず固まってしまう。なんでも衝動的に退学届を出して、そして今年また、俺とおんなじ学部を受けなおしたというのだ。
「ごめんなさい、黙ってて」
「どうして…」訳が分からない。ちゃんと毎日通ってたのに…。
「しばらく親にも言い出せなったんだけどね、年明けに書類が直接郵送されてきて――お父さんにもばれちゃった。あんなお父さん初めて見た。また受けなおすんだからいいじゃない、って言っても全然耳に入らない様子で半狂乱に怒鳴りまくって――"いい子"から一気に不良娘に転落よ」藤掛はちょっと痛快そうに笑った。「でもそれからはほとんど外出禁止状態。秋山くんにも全然会えなくて…ごめんね」
 俺は、去年の秋ごろに1回会った藤掛の父親の様子を思い出していた。娘の事が大切でしょうがないって感じが一目見ただけで伝わってくる。藤掛の性格から言っておそらく生まれて初めて見せた娘の反抗に――過剰に反応したことは容易に察しがついた。
「でも…どうして? せっかく受かってたのに再受験なんか」
「だって…」藤掛は、わからないの?とでも言いたげな顔で俺をじっと見つめた。「だって、秋山くんとまた、同級生になりたかったんだもん」
 はぁ? とまどう俺にかまわず、藤掛は先を続ける。
「春からしばらく通っていて分かったの。秋山くんのいない空間に、わたしもう耐えられないって…。だから学校が終わるといつもたまらずに秋山くんの家に通い続けてた。でも、だんだん、学校にいること自体が苦痛になってきて…。最初は来年になればまた秋山くんと通えるってそれだけを心待ちにしてた。けど、大学って、学年や学部が違うと、同じ学校でもけっこう接する機会が少ないじゃない。それが分かってくるにつれてだんだん…。しまいにはなんで大学に行ってるのかわからなくなって、気がついたら退学届けを書いてたの。誰にも相談せずにね」
 それだけの理由で…。藤掛は、いろんな意味で俺の想像を超えてくるんだと改めて思い知った。
「それからあわてて受験の準備をした。でももう受かってから半年以上離れててなかなかカンが戻らなくてね…。それに志望も秋山くんと同じ学部に変えたからその点でも苦労して――。正直、受かる自信なんかぜんぜんなかった。秋山くんがぐんぐん力つけているのは分かってたし、ひょっとしたら私だけ――なんて考えると夜もよく眠れなかった。早まったかな?って考えないこともなかったけど、やる以上後悔だけは絶対したくなかったし――」
 ぽつりぽつりとしゃべる藤掛を見ているうちに、俺は藤掛のことがかわいらしくてしょうがなくなってきた。
「ばかだな…」
 俺は藤掛に聞こえないぐらいの小声でつぶやいた。自分の中に、とめどない感情が急激にわきあがって止まらなくなっていく。
「秋山くん、これでまた4年間、一緒だね」
「いいや」
 俺の言葉に藤掛の口が え?と開きかける。しかし俺は有無を言わさず藤掛をぎゅーっと抱きしめていた。両手をいっぱいに拡げたつもりだけども、服の内側からむちむちと大きなおっぱいの感触があふれかえってきて、まるで藤掛を抱きしめてるのかおっぱいを抱きしめてるんだかわからなかった。構うもんか、あれもこれも、ぜんぶ藤掛なんだから。
「きゃっ! 秋山くん、こんなとこで…」
 その胸も、声も、いとおしくてしょうがない。
「これからも、ずっと、ずっと、ずーっと一緒だよ」
 こいつをもう絶対離すもんか、と心が決まっていた。俺の生涯の中で、これ以上の女性に出会えるなんて到底思えない。絶対かけがえのない存在に決まってる、そう確信した。
「もう。今日の秋山くん、変だよ」
 俺の決意を知るよしもなく、藤掛はそれでも嬉しそうに抱き返してきた。2つの大きな大きな胸を通して互いの体温が通い合い、ぽかぽかと暖かくなっていく――。

 春は、すぐそこまで来ていた。

                   ―――――― 完 ――――――