「はい、トリオンフィです。あ、歩友美ちゃん? お世話になってます、藤原です。どうしたの今日は? え!? またブラウスのボタンが飛んじゃった? いくつ? ええっ、そんなに…。いったいどうやったら――。ええ、分かりました。今度お店の方にそれ持ってきてくれます? ええ、あのボタン、非常に特殊で頑丈なつけかたしてるんで、ふつうの人ではできないものですから。はい、じゃああさって金曜日に。お待ちしています」
トリオンフィのオーダーメイド担当責任者の藤原真琴は、電話を切ると深くため息をついた。
(あそこまでやっても駄目なの…?) 自分の持てる技術をすべて投入して、絶対に飛ばないボタンつけをしたつもりだった。(それをあの娘は易々と…) 正直今、万策尽きたかのような無力感に襲われている。(もう、どんなことをしてもあの胸を抑えきるのは無理なのかしら――いいえ、これも自分への挑戦よ。必ず何か方法はあるはず。負けるな真琴!) 誰もいない室内で、彼女はこぶしを振り上げて空元気を鼓舞していた。