「この辺りに、秩針温泉ってありませんか?」
わたしは今日やっと初めて出会えたおばあさんに声をかけた。秘境とは覚悟していたけども、それにしても人がいなさすぎる。朝がた無人駅をひとり降りてから地図を片手に半日以上歩きづめ、太陽が傾き始めた頃になってようやく"第一村人発見"と相成った。
いい加減足がくたびれてきたし、もうそろそろ見つけとかないと、今日寝る場所を確保できるかも危うい。でも絶対この近くだ、とわたしのカンが示している。けど行けども行けども同じような風景が続くうちに、いい加減方向感覚がおかしくなってきていた。
「チチハリ? そんなとこここらにあったっけなぁ…」とぼけたような口ぶりだけど、その名を聞いた途端目つきがちょっときつくなったのを見逃さなかった。このおばあさん、知ってる…。直感だけども、わたしのカンってけっこう当たるんだよね。それを信じてなおも食らいついた。
「ええ。秩針温泉。確かにこの近くにあるはずなんですよ」わたしは期待で胸がわくわくしてきた。一歩も引かずにぐいと顔を近づけたわたしの様子に、おばあさんはちょっと気圧されたかのように視線を落とし――え、なに? わたしの胸を食い入るようにじーっと見つめている。なによ、そんな見ないで。だって…。
何分間そうしていたろう。おばあさんはふっとため息のようなものをつくと、ちょっとあきらめたように顔を上げた。
「そういやぁ、ほらそこ」おばあさんは振り向いて遠くを指さした。「あの峠を越えたところにちっこい温泉が湧いててなぁ、そこが確かそんな名前だったようななかったような…」
はっきりしない口調だけど、わたしはようやく得た手がかりに食らいついた。「あの峠の向こうですね! わかりました。ありがとうございます!!」
「あ、いや」飛びかからんばかりのわたしの様子におばあさんは明らかに戸惑っていた。「そこがほんとうにそうだったかはっきりしねぇし、それにあんた、そこは若い娘さんがいくような所でねーよ。泊まるところもなーんもねぇ、ただ岩の隙間にお湯が溜まっているだけだしなぁ」
「いいんです。わたしが行きたいのはそういうところですから!」そして背中に背負った頭から突き出さんばかりの特大リュックを指さした。「もともとキャンプするつもりで用意はしていますから、ご心配なく」
わたしはおばあさんに礼を言うと、脇目も振らず歩き出した。あともう少しだ、と思うと足取りも軽い。おばあさんは後ろの方でなんだか慌てた様子で、しかし呼び止めるでもなくわたしの背中をじっと見つめていた。
わたしがそこを目指すのには切実な理由がある。他人が聞いたらなんだと思われるかも知れないけど、わたし自身にとってはもう後には引けない切羽詰まったものだった。
全く自慢じゃないけど――わたしには胸がない。それはもうほんと上からのぞき見ても真っ平らで、ふくらみのかけらもない。物心ついた頃からそこにはまったく変わらない平たい風景が広がっているのだ。中学の3年間、わたしもそのうち他のクラスメイトみたいにふくらんでくるのだろうと淡い期待を抱き続けたけども、その思いは空しく、とうとう今年高校生にまでなってしまった。
クラスの友達の胸を見るにつけ、日に日に焦りのような気持ちが募ってくる。もちろん人によって大小はあるけど、皆少しは盛り上がりが服の上からでも見て取れる。わたしみたいに全く何もない人はひとりもいない。高校生にもなってそれじゃあ、ひょっとして一生このまま…?という不安がわき上がってきていたたまれなくなってきた。
決定的だったのはこの夏、プールの授業で同じクラスの男子の水着姿を垣間見たときだ。中にはけっこう筋肉質で胸板が厚く張り出して、それなりに盛り上がりが見える人もいる。それを目にした途端愕然とした。ひょっとしてわたしの胸って――男の子よりもない…?? その瞬間、もうその場から消え入りたくなった。もうやだ。ぜったい、どんな手を使ってでもおっきくなってやる。わたしの心に強い決意が芽生えた。
どうやったら胸が大きくなるんだろう。その日から、わたしがそれを考えなかった日はない。自分で揉んで刺激を与えてみたり、サプリメントやら何やら、試せるものは何でも試した。しかし目に見えるような効果はなく、まるでわたしの努力をあざ笑うかのようにわたしの胸は平原のままだった。
どうしたら――ものに憑かれたようにネットを洗いざらい検索しまくっているうちに、ふとあるものが目に引っかかる。それが「秩針温泉」の名前だった。
秩針温泉――もっともこの名前になったのはけっこう最近のことで、元々はこう書かれていたという、"乳張温泉"と。そう、ここの湯に入るとたちまち乳が張って大きくなるという効能があったことからそう呼ばれるようになったそうだ。ほとんど駄洒落みたいな名前だけども、わたしのカンはそのストレートさが逆に信憑性があると指し示している。この情報を見つけたのもほんの偶然で、それだけになんだかそこに呼ばれているような気がしたのだ。狂ったようにより詳細な情報を探したけども、ほんと知る人のほとんどない秘湯中の秘湯らしく、東北のおそろしく奥まったところにある、ぐらいにしか分からなかった。それでもなんだかもうこれが最後のチャンスとばかりに調べ上げ、最寄り駅からも山道を10キロ以上歩いたところで、その駅に行く電車も日に2本しかないとかとんでもない場所にあるというところまで分かってきた。
けど某アニメの影響で中学の頃からソロキャンに嵌まっていたし、キャンプ場の近くで入る温泉の気持ちよさも知っていた。行くしかない! とただちにお小遣いをはたいて防寒具や冬用寝袋を充実させ、冬休みに入ってすぐ家を飛び出して電車に乗り込んだ。
「ここだ!」それらしき場所にやっとたどり着いて、思わず声を上げてしまった。そこは確かに小さな温泉で、岩場の隙間にたまたまお湯が溜まっているだけのような天然の秘湯だった。だいたい4〜5人も入ればいっぱいになってしまうだろう。でもピンと冷たさで張りつめた空気の中、温かそうな湯気を立てているそのお湯はまるで桃源郷のようだ。この時はもうほとんど陽が落ちかけていたけど、それまでの疲れがすべて吹き飛ぶような気持ちだった。
さっきはああ言ったもののキャンプ地以外で野営することなんて今までなかったし、こんな秘湯に入るのも初めてだ。いい加減身体が冷えていて、すぐにでも飛び込みたかったけどもそんなことをしたら後で絶対凍え死ぬ。まずはランタンを灯して辺りを確かめ、近くに平らな場所を見つけてテントをしっかり張り焚き火の準備をすると、改めて乳針温泉に向かい合う。最低限の準備を整えた上で、わたしはタオルを持って待望の温泉に近づいた。
(だれもいないし…いいよね) 辺りを見回した上で意を決して、服をすべて脱いで脇に置き、素っ裸で足を踏み入れる。
最初はけっこうぬるめに感じた。これだけまわりが寒いんだもん、もっとしっかりあったまりたかったから、ちょっと物足りない。でも寒いからとにかく肩までしっかり浸かってしばらくそのままでいると、体温より少し高いぐらいのお湯から温かさがじんわりと染み入ってきて、体がだんだんほかほかしてきた。
(これ…もう出たくない) そんなだからいくら入っていてものぼせることもない。外との温度差でそのままいつまでもお湯に浸かっていたくなってきた。寒さでこわばっていた身体も徐々にほぐれて伸びていき、思いっきりリラックスした状態になってくる。
(このお湯…絶妙かも) もはや体のどこからも力という力が抜けていく。すべてをお湯に委ねて体が緩みきっていた――。
――一瞬、びくんとなってハッとする。いっけない。気持ちよくていつの間にか眠っちゃったみたい。体がぐずついて口の中にお湯が入るところだった。どれぐらい入っていたんだろう。時計を見て驚いた。針はもう夜9時にを指し示していたのだ。(3時間! いくら何でもふやけちゃうよ。出なきゃ…)しかしお湯の外はますます気温が下がっていて、雪もちらついてきた。出ようと思っても魔力のようにお湯の温かさに引き込まれ、何度も誘惑に負けかける。何度目かで意思を振り絞って無理矢理上がった。
あ、きもちいい…。さすがに体のまっ芯まであったまったらしく、冷たい風が吹き込んできてもほこほことして心地いいくらいだ。しかしいくら何でもこのまんまじゃ湯冷めするよね、と体を丹念に拭いて乾かした上で服を着込み、焚き火台に火をおこす。遅い夕飯を取って身体の内から暖を取ると、体が冷える前に早々に寝袋に入って横になった。お風呂の中でぐっすり眠っちゃったからかなかなか寝付けなかったけども、時間が経ってもなんだか胸の辺りだけはいつまでも温かかった。
(なんだろ、胸の辺だけじんわりとあったかい。それにこれって…) その暖かい部分は胸の辺りの内側に縦長の楕円形になって左右ひとつづつある。これって…おっぱいのあたりじゃない? 今までいくら胸を見つめても自分におっぱいというものが存在するのかどうかすら怪しいぐらいだったけど、生まれて初めて(あ、自分にもおっぱいがあったんだ)と感覚的につかめた気がした。まるで胸に湯たんぽを2つ抱え込んだみたい、そんなことをつらつら考えながら、いつの間にか眠りに落ちていた――。
え、今何時? 気がついた時にはもう陽が高く昇っている。キャンプの時はいつも日の出が楽しみで早起きしてたのに、今日は完全に寝過ごした。でもあわてて起き上がって寝袋から這い出した時、なんか胸の辺りに違和感があった。
(え? 何?) なんか引っかかるものがある。気になって俯き加減で襟元から中を覗き込んだら――。うそ! なんかふくらんでない?
衝撃だった。きのうまでまったく平べったくて出っ張りのかけらすらなかった胸の辺りが、ほんのちょっとだけだけどうすーく盛り上がっているように見えたのだ。(そんな…一晩で…) 信じられなくて何度も何度も見直した。薄暗いので明かりを点けてさらに覗き込む。やっぱり――これ、影ができてるよね。ということは、やっぱり、この温泉って…。
急いで着替えてテントの外に出る。温泉はもちろんきのうのままそこにあり、満々のお湯をたたえている。陽の光の下で見るそれは、まるでお湯が輝いているかのように見えた。(ここって――乳張温泉の伝説は、本当だったんだ!)
そうとなれば欲が出てくる。もっと入れば、もっと大きくなるよね。目指せ夢のDカップ! とさっそく朝風呂にに入ろうと思った。
しかし――お腹の虫がその動きを呼び止める。(なんだろ、お腹ペコペコ。ま、いいや。温泉は逃げないし。まずは腹ごしらえ) とさっそく朝食の準備を始めた。でも思いの外食欲が湧いて、準備もそこそこにすぐ食べられるものをどんどんお腹に押し込んだ。
(ああ、よく食べた) やっと人心地着いたところでさっそく服を脱いで温泉に向かう。でも足を踏み入れた途端、きのうとおんなじようにざわざわっとして温泉に取り込まれるようにどっぷり浸かってしまった。
(すごい。温泉ってこんなに気持ちいいものだったんだ。もうずーっとここに住み着きたい) 気がつくと結局そのままお昼過ぎまで浸かっていた。
(いけない、また…)あやうく眠ってしまうところだった。あわてて出ると、お湯に入ってただけなのにまたすごいお腹が減っていることに気づく。どうしてだろう、いきなり大食いになったみたい。お昼を食べ終わると、また温泉に誘われるように浸かり、気がつくとまた何時間も…。(なんだかこの温泉に入っていると時間がワープする)
結局その日は食事と温泉を交互に行うだけで終わってしまった。そして気がつくと、胸の辺りが一層ほかほかと温かく、なんだかじんじんと張りつめているような気がする。
(なんだろ、胸が急に活性化してきたみたい。それだけ効能あらたかってことなのかな。ひょっとしてそれでカロリーがたくさん消費されて、だからお腹が空くのかも)
どこまで大きくなるかな、なんだかわくわくしていた。
その日もぐっすりと寝て、起きるとすぐさま胸を覗き込む。やっぱり――きのうより胸の高さが増した気がする。いや、もう絶対おっきくなってるよ。見間違えようがない。胸からおっぱいが生えてきた! この温泉、本物だ。その思いは確信に変わった。
その日もえらい食が進んでご飯を平らげる。困った。5日間の予定でかなり余分に食料を買い込んだつもりだったのに、3日目で早くも残りが乏しくなってきた。自分がこんなに食べるだなんて思わなかったから計算が狂う。かといって今この温泉を離れて帰るなんて考えられないし――。背に腹は代えられない。わたしは一旦荷造りをしてその場を離れると、また何時間もかけて駅まで戻った。へんぴな場所だけどそれでも駅前には多少は店があり、お金の許す限り手当たり次第に食料を買い込んだ。
そしてまたずしりとなったリュックの重みを噛みしめながら乳張温泉に戻る。ひょっとして行ってみたらあったはずの温泉が跡形もなく…なんていやな妄想に何度も襲われたけど、もちろんそんなことはなく、ちゃんとそこに変わらずあってほっとした。
そうと分かれば食料もたっぷりあるし、入るしかない。わたしはもうすぐに服を脱ぐと今日初めての温泉に浸かった。半日離れただけなのにえらい久しぶりな気がする。最初に浸かったときのような新鮮な気持ちで、じっくりとその温かさを味わい尽くした。
次第に効能というのも分かってきた。じっくりとお湯に浸かってると次第に胸がぽかぽかと温かくなり、それが何時間も続く。それにより、わたしの中でずっと眠っていたおっぱいの成長スイッチが入るみたいなのだ。あったまっている間、胸の辺りがむずむずと疼くような感触がある。じっと見てても分からないけども、気がつくと胸が次第にせり上がり、だんだんにおっぱいの形ができあがってくるのだ。今までなかった、胸の上になにかやわらかいものが乗っかっている感覚、そう、動く度に胸が揺れているのだ。
わたしはもう有頂天だった。
(今、何カップぐらいあるんだろう)
大きくなるにつれ、だんだん気になってきた。もちろん、順調に成長を始めたこのタイミングでここを去りたくはない。けど一方でこの成果を数字で見たい気も少しづつ大きくなってくる。それにそうこうするうちに予定の5日が経っていた。さすがにお正月は家で過ごしたいし、帰らなかったらお父さんお母さんも心配するだろう。買い足した食料もまた食べきってしまいそうだし、これ以上お金使ったら帰りの電車賃も危うい。しかたない。後ろ髪引かれる思いだったけど、予定通り大晦日の前夜、テントを畳んで帰途についた。
帰り道、行きに道を聞いたあのおばあさんに偶然会った。いや、偶然…なのかな?なんかずっとここで待ち構えてたようにも思える。いきなり近づいてきて話しかけてきたのだ。
「どうじゃった、見つかったかのぉ?」そう言いながらまたじっとわたしの胸を見つめる。しばらく食い入るように見て、なんかほっとしたかのように息を漏らした。
「はい、すごくいい温泉でした。思わず長湯しちゃうほどで何度も入りました」
「そうかい。でもあんまりあそこには入りすぎん方がいいぞえ」
「なんでです?」
「あそこには人を取り込んで帰れなくする魔物がいるというからのぉ、無事なうちに早く家に帰ることじゃ」そう言うと何やら気持ち悪そうに笑った。
東京に戻ってまずわたしがやったのは、大晦日でも営業している下着屋さんを探すことだった。そして、生まれて初めての――ブラを買いに走る。そこで女の店員さんに頼んで採寸してもらい、その後に聞いた店員さんの声を、わたしは一生忘れないと思う。
「そうですね、お客様のサイズでしたら――Fカップがいいと思います」
Fカップ! それはもう天にも昇るような、夢の数字だった。目標のDを大きく越えている。これだけのバストを持ちながらノーブラで来店したわたしを店員さんは訝っていたけど、そんなことはお構いなし。初めて身につけたFカップのブラジャー。誇らしくなってピンと胸を張り、意気揚々と凱旋するような気分で家に帰った。
そうして帰宅して、わたしは穏やかな気持ちでお正月を迎えられた――はずだった。しかしなんか落ち着かない。気がつくとあの温泉のことばかり考えている。日が経つにつれて、だんだんに胸からあのほこほこした感じは消えていく。胸の成長もすっかり落ち着いてしまったようだ。わたしの成長スイッチはまたオフに変わってしまったのだろうか。なんだろう、それがとてつもなく物足りなかった。
(ああ、またあの温泉にゆっくり浸かっていたいなぁ) その気持ちは日増しに強くなり、結局我慢できず正月3日の朝にはまた電車に飛び乗っていた。今年もらったお年玉は全部その軍資金に化ける。(今ここで使わなくてどうするのよ!) わたしはもうあの温泉に浸かることしか考えていなかった。
もはや勝手知ったる道のりを、今度は誰にも会わずに到着した。余裕をみて大量に買い込んだ食料が重いけども、これが全部おっぱいに変わるんだと思えば軽いものだ。
着いたのはもう夕方近い。ここを離れてからまだ3日しか経ってないけども、とてもそうとは信じられないほどものすごく久しぶりな気がする。年末に立ち去った時よりまわりの雪が奥深くなっているようだけど、今日はまたよく晴れているというのもなんだかわたしを歓迎してくれているみたいに思えてくる。
早く入りたい。心がはやってしょうがない。矢も楯もたまらず、大急ぎでテントを設営すると、もう我慢できなくて服を脱いでただちに温泉に足を踏み入れた。
ああ、このぬるめのお湯も今ではほんとこの上ない適温に思える。これ以上熱かったらあんな長く入っていられないし、おかげでこのお湯に長い時間かけてじっくりと浸かりまくっていられるのだ。
お湯が胸に達する。その途端、盛り上がったばかりの胸一面がざわざわっとざわめきたつ気がした。
(おっぱいが…おっぱいが、喜んでる) わたしにはそんな風に思えた。少し経ってそのざわめきが落ち着いた頃、なんだか胸の中にお湯がつーっと染み入ってくるような感触があった。
(え?)
今までにない感覚に驚いて下を覗き込む。そうしたら――胸の先端辺りにかすかに渦が2つできているのが見える…いや違う! わたしのそれぞれの乳首からお湯が胸の中に吸い込まれていってるのだ。
(うそ!?)
おっぱいが温泉を飲み込んでいる――そんなばかな、と誰だって思う。わたしだって自分の目が信じられなかった。けど何度見返してもそうとしか見えない。まだ膨らみはじめたばかりのわたしの乳首はほんとあるかないかの小さなもので、お湯だってほんのちょっとづつしか吸い取れないけども、それでもお湯が乳首から流れ込んでくるのがしっかり見て取れ、それとともに、お湯の温かさが中にじんわりと染みわたってきて、じわじわと胸の隅々まで広がってくるのがわかった。
(おっぱいに筋肉――なんてないよね) どういうことなんだろう。でもわたしのおっぱいがもっともっと大きくなりたがって、懸命にこの温泉を取り込もうとしているのが伝わってきた。
(よしよし、お前達も大きくなりたいんだね。わたしもおんなじだよ) 理屈は分からないけど気持ち的には思い切り腑に落ちる。少しづつだけど、おっぱいの中いっぱいにお湯が詰まっていく。でもわたしのおっぱいはまだまだ小さくて、こんなちょっとづつでもじきに温泉が中に満ち満ちていった。
(ああ、もういっぱい…)
けどおっぱいはまだお湯を吸い込む事を止めない。(え、ま、待って…)ちょっととまどった。だっておっぱいの容量を超えて吸い込み続けた温泉でおっぱいが内側からぷくっと膨れて、ぱんぱんに張りつめてきたのだ。胸の皮膚が引きつるように痛い。
(やめて、これ以上…) 私は思わず立ち上がって上半身をお湯から解放した。おっぱいはそれでもしばらく吸い込もうとするかのように乳首の辺りがむずむずしてて、なんだかくすぐったい。
(なんだったんだろう、今の…) 今自分の身に起こったことがなんか信じられず、じっと自分の胸を見つめる。温泉から上がってもおっぱいの中にお湯がいっぱいいっぱいに詰め込まれていることがはっきり分かる。けどそれ以上にわたしの目を奪ったのは、そのおっぱいの大きさだった。
(すごい…)
さっきと比べてももう優に五割増しぐらいにはなっている。中がお湯で満たされてぱっつんぱっつんに張りつめて、なんの支えもないのに形良く盛り上がっていて、ちょっと芸術的なまでの美しさを感じた。
(これが…わたしの…胸…) もう先ほどの不安感はどこかに吹き飛んでいた。こんな素晴らしいおっぱいが手に入るんなら、この奇蹟を素直に受け入れたい。それに、これで終わりではなかった。おっぱいの先はもぞもぞと、もっと、もっととお湯をほしがっているように見えた。わたしの心の奥からも、もっと大きくなりたいという気持ちがにわかにわき上がってくる。
「そうだよね、こんなもんじゃ満足できないよね」わたしはおっぱいに語りかけると、またざぶんと腰を下ろしてお湯に浸かる。途端におっぱいがまたちゅうちゅうと、先ほどにも増してお湯を中に取り込みだした。ちっさな乳首にお湯が賢明に通っていくのをしっかり感じる。張りつめたおっぱいがじんじんしてくるけれどそれですらなんだか心地よくなってきた。
(ああ、この感覚…いい。くせになりそう)
結局そのまま、もう入りません、張り裂けそうですとなるまで存分に浸かり続けた。心ゆくまで温泉を味わい、ようやく胸が落ち着いて温泉を吸う感覚がにぶくなったところであがったけども、その時自分の胸をみて驚いた。
(!)
もはや言葉も出ない。先ほど五割増しになった時の大きさのさらに倍にはなっているだろう。だから入る前よりざっと3倍ぐらいにはなっている。中身がお湯でこれ以上ないほど隅々までみっちりと詰まっていて、まるで胸にバレーボールを2つくっつけたみたいだ。重さもそれに伴ってずっしり重いけど、それすらも今は心地いい。
この重さにはまだ慣れてないけども、しばらく経てばなんとかなりそうに思えた。バランスを取りながら立ち上がると、ちょっと体をゆさぶってみる。ほんの少し動かしただけのつもりだったけども、張りつめた胸がその動きを何倍にも増幅してもんどり打って暴れ始めた。
(すっごい、おっぱいがパルンパルンしてる)
おっぱい同士がすごい勢いでぶつかり合ってバチンバチンと激しい音を立てる。おっぱいに体が持ってかれそうになって足を踏みしめたけど、次第に心の底から笑みが湧き上がってきて止まらなくなった。
(やった! ものすごいおっぱいを手に入れたわ!!)
さすがに温泉から上がったけども、計算外だったのは想定以上に大きくなったために服の前がしまらなくなってしまったことだ。けど中にお湯を満々にたたえているせいかぽかぽかと熱を発していて、テントの中にさえいれば寒くはなかった。
それよりもまた猛然とお腹が空いてきた。胸を成長させるために体が栄養を欲してるのだろう。早速買い込んだ食料を出して心ゆくまで味わった。
満腹になると眠くなって、寝袋に入って寝ようとする。寝袋も胸の所がちゃんと閉まらなくなってしまったが、なんとかなるだろうとそのまま眠ってしまった。
目が覚めると――素晴らしい結果が待っていた。昨日一気に3倍以上ふくらんだ胸が、そのまんま定着してすべておっぱいに変わったみたいなのだ。苦しいぐらいにぱんぱんになっていた張りも鎮まり、しかし形はそのままにばーんと力強く突き出している。
わたしはもう感激の余り顔がほころんで止まらなかったが、それと同時になんだか食い足りなさを感じ始めていた。
(もっともっと、あのお湯をおっぱいに取り込みたい)
それはもはや、おっぱいの意思かわたしの意思か区別がつかない。とにかく猛然と、一刻も早くお湯に入り、あのお湯に心ゆくまで浸かってまた胸いっぱいにお湯をため込んでぱんぱんに張りつめさせてみたい。それはもはや渇望といってよかった。わたしは矢も楯もたまらず服を脱ぐと、ただちに温泉に飛び込んだ。
ちゅーーーーーーーーーーーーーっ。
待ちかねたように、乳首からお湯がなだれ込んでいく。その勢いはきのうと比べものにならなかった。大きくなった分、一度に取り込める量が増えたのかもしれない。胸の先を見ると、乳首の大きさはさして変わらないみたいなのに、吸い込む力は明らかに倍増していた。
(ああ…これ、いい――)
大きくなった胸の中に、じわじわとお湯の温かさが広がっていく。でもこれだけ大きくなるとなかなかいっぱいになってくれない。もっと、もっと…。どうにももどかしくって、一度にもっとたくさんお湯を吸い込みたい、そう思った途端だった。
どくん。
胸が大きく波打つ。(え、何?) それがきっかけ。おっきなおっぱい全体がどくんどくんと脈動して吸い込んだお湯を奥へ奥へと送り込んだ。ものすごい勢いでおっぱいが隅々まで満ち満ちていく…。
「あ、あ、あ…」
思わず声が出ちゃう。もうたまらない。わたしはもう我を忘れて力強くお湯を吸い込んでいく感触を心ゆくまで味わっていた。あっという間に胸がいっぱいになったけども吸い込む勢いは止まるどころかいや増すほどだ。(まだまだこんなもんじゃないでしょ) またあのおっぱいが破けるぐらいぱんぱんにふくらみきった状態になるまで止める気は毛頭ない。わたしはお湯に肩まで浸かったまま、今度は胸がじんじんと張りつめてふくらんでいく感覚を楽しんでいた――。
――余りの気持ちよさにいつしかまた意識が飛んでしまったらしい。くちゅん。いきなりくしゃみが出て目を覚ます。気がつくとさっきまでちゃんとお湯に浸かっていたはずの肩が完全にむき出しになっていて、そこに寒風がまともに当たっていた。
(あれ、なんで?)
下を見るとおっぱいの北半球がぷくっと浮かんで完全にお湯からさらけ出されている。にしてもそのおっぱいのなんて大きさなの。もう下を向いてもほとんどおっぱいしか見えない。乳首は――とおっぱいの先を目で追うと、信じられないほど先の方で、水面の上にちょこんとはみ出ていた。
(ちょ、ちょっと待って…) もうおっぱいの中はどこもかしこも隅々までいっぱいいっぱいで、今にもはち切れてしまいそうだ。さすがにもう限界。あわててお湯から立ち上がったけども、体の前方に今まで思ってもみない重みがぐんとかかって思わずつんのめる。前のめりになってまたお湯の中にじゃぶんと倒れ込んだ。そして乳首がお湯に触れた途端、また後先考えずに乳首からお湯がなだれ込んできた。
(だめっ! 張り裂けちゃう!!) さすがに身の危険を感じて今度こそしっかり立ち上がる。とにかく一旦上がろう。重みに耐えながら足を踏ん張ってお湯から出ると、テントの脇に腰を下ろした。
とにかく落ち着こう。体を拭いて服を着ようとしたけど、上半身はもう羽織るだけで前を留めるのははなっからあきらめた。もうさっきと比べても少なくとは10倍は一気にふくらんだみたいに見える。胸が吹きっさらしに露出しているのに、おっぱいの中は膨大なお湯を溜め込んで2つの巨大な湯たんぽ状態になっていて、風が当たってもでも全然寒くなかった。
でも不思議だった。なんであんな胸の上半分までお湯から露出しちゃってたんだろう。でも改めて外から温泉を見ると、明らかに先ほどよりもずいぶん水位が下がっている。
(ひょっとして…これだけ全部わたし吸っちゃったの? お湯がこんなに減っちゃうほど)
おそらくそうなのだろう。決して大きな温泉ではないとはいえ、寝ている間にここまで水位が下がるほど。そして乳首が水面から完全に出てしまうまで飽くことなく吸い続けたのだ。今もまた乳首を浸けさえすれば、まだまだ後先考えずに吸い込んでしまうのだろうか。
(こんなに大きくなっちゃって…服、どうしよう…)口では困ったようなことを言いながら、わたしの気持ちはどうしようもなく高揚していた。すごい。こんなおっぱい想像できない。バスケットボールどころか、もはや巨大バランスボールを2つくっつけたみたいになっている。しかも中に満々にお湯をたたえて、ピンと張りつめてどこもかしこもたるんだところひとつない。その2つが狭い胸の上にぶつかり合って何もしなくても自然に深い谷間ができていた。
(こんな胸に合うブラジャーって、あるのかな?) ふとそんなことを考える。けどブラジャーなんて必要ないんじゃない?と思うぐらい、素晴らしい形でピンと力強く上向き加減で形を保持していた。
(これが…わたしの…胸) 見れば見るほど素晴らしすぎて嬉しくってしょうがない。ここに来る前のあのコンプレックスはどっかに消え去っていた。(ね、ね、これって絶対世界一のおっきさだよね。ギネス載るかな) お腹の底から喜びが後から後からあふれてきてとめどがなくなっていた。
けど、そうしているそばからお腹がどんどん空いてくる。そう、それは成長の印だった。今まで以上に体が栄養を欲しがっている。そしてたっぷり食べてゆっくり眠れば、起きた時にはこのおっぱいが完全に自分のものになっているんだろう。わたしは持ってきた食料をリュックからすべて放り出すと、もう後先考えずに次々と平らげていった。いくら食べても食べても満ち足りない。もうありったけ食べてしまおうととにかく意識が続く限り食べ続けた。
何時間食べ続けたろう、ようやくお腹がくちくなったところでいつしか意識を失うように眠り込んでいた。そして――なんだか胸の辺りがうずくような感覚で目が覚める。外はぼんやりと明るくなった程度でまだ薄暗い。胸の中の暖かさはさすがになくなって体が冷えていた。当たり前だ。こんな雪景色の中、テントの中でとはいえ上半身丸出しで寝てたのだから。しかし寒さよりもはるかに強い衝動が胸を支配していた。予想通りおっぱいは相変わらずバランスボールのように張りつめたまま、完全に自分のおっぱいに馴染んでいる。そして落ち着いた途端、さらなる強烈な衝動がわたしを襲っていた。
(あのお湯を吸いたい…) もはやそれは渇望といってよかった。
ここまで大きくなったおっぱいには、まだまだもっともっとたくさんの温泉が必要だった。もはやわたしの気持ちなのかおっぱいの気持ちなのか分からない。でもわたしにはもう他の選択肢はありえなかった。
もう一刻の我慢もできない。おっぱい丸出しのまま、テントを出て温泉に向かう。そこには最初の頃よりはだいぶ減ってるとはいえ、まだまだたっぷりと温泉のお湯が残っていた。
(まだ、こんなにあるじゃない)
うれしくってうれしくってしょうがない。わたしはかろうじて着ていた服をすべて脱ぐと、一目散にお湯に向けて突進した。
もはや体を浸かろうとかそんなのどうでもいい。おっぱいを下に向けてざぶんとお湯に突入する。乳首がお湯に触れた途端、きのうより何倍もすごい勢いでちゅーーーーっと際限なく吸い続けた。
(ああ、おっぱいがお湯で満たされていく。もっと…もっと、おっぱいが張り裂けてもいいからいつまでも吸い続けていたい――)
――――――――――――
「なん、と…」
かつて乳張温泉があったはずの場所に、ひとりの人影が佇んでいる。それはあの、少女がこの地で最初に出会ったおばあさんだった。今日になって、この辺に向かったはずの女子高生がひとり、キャンプに行ったまま新学期が始まった後も戻ってこない、と警察に捜索願が出されていると聞き、いやな予感がして様子を見に行ったのだ。そこで見たものは――想像を絶する事態に唖然として口が塞がらなかった。
「もっとぉ、もっとぉ…。お湯、欲しいのぉ…」
そこにあったはずの温泉はもはや跡形もない。満々とお湯をたたえていた窪地には今やからっからで、その代わり、その窪地にすっぽり収まるように、少女のおっぱいがいっぱいいっぱいに塞がっていた。
「なんてこった…。あの貴重な乳張の湯をひとり占めして全部吸い尽くすだなんて…。あまりにかわいそうな胸をしとったから、ちーとぐらいなら、と気を許したのがまちがいじゃったか。一度は適当なところで帰ったようだから安心しとったが、その後またすぐ来ちょるとは思ってもみなかったわい…」
おばあさんはその窪みのすぐ脇のある一点を確認する。そこからほんとにわずかずつちょろちょろとお湯が湧いてくるのだが、少女の胸はそれすらも乳首に触れ次第またたく間に吸い取ってしまい、まったく溜まる様子がなかった。
「なんと。このようになってもまだお湯を求め続けるとは。見かけによらずなんてごうつくばりな娘さんじゃい」
「中に取り込まれたお湯は」その巨大な胸を触ってみる。「だめじゃ。もうすっかり乳に変わりきっておる。いったんこうなったら二度と取り出すことはできん。この娘はこれから一生涯この胸を抱えて生きていくことになるのぉ。でも自業自得じゃ」
おばあさんは辺りをぐるりと一回りして、どこから手をつけていいか思い悩むが、いい考えは何ひとつ浮かばなかった。
「まずはこの娘をここから抜き出さないと話にならないわな。しかしこんな大きくなっちゃ、わたしひとりじゃどうにもならんし。さて、どうしたものか…」
おばあさんは深くため息をついた。
「乳張の湯は霊験あらたかじゃが、とにかくちーとづつしか湧いてこないけのぅ」窪みの脇の源泉からは、相変わらずほんのわずかにちょろちょろとしか染み出してこない。このお湯には高濃度の膨乳成分が含まれているのだが、それ故にごくわずかづつしか噴きだしてこないのだった。「この娘を抜き出しても元のように溜まるまでいったい何十年かかることやら…。いやはやわしの寿命の方が足りそうにないわい」
目の前を塞ぐようにそびえたつ巨大な山脈…いや乳脈を見上げながら、おばあさんは今一度大きな大きなため息をついた。