「あっつい…」
昼下がり、僕は用もないのに炎天下をひとり歩いていた。気温は間違いなく30℃を大きく越えているだろう。それしか持っていないので野球帽を阿弥陀にかぶってはいたが、その脇から汗が次々垂れてくるのでハンカチが手放せない。こんな中、俺はなんで外をうろついているんだと自分でも突っ込みたくなる。しかしそれでも、どうにもならない衝動に駆られて僕は足を止められなかった。
そこは学校がある日は毎日歩いている道。そう、いつも倉本さんを迎えに行き合流しているあの道だ。だから当然途中で倉本さんの家の前を通る。ただそれだけのために――僕は歩いていた。
終業式の後に話した通り、夏休みに入ってからも何度となく倉本さんと出かけてはいた。まぁ正確には倉本さんが出かける際、その護衛がてら一緒について行くだけだが。まず最初は終業式の3日後にいつものトリオンフィに行くのに付き添い、それからも週に1回か2回はなんだかんだと顔を合わせている。海に行くという約束はやっぱり果たせず、せめてまた学校のプールを――と思っても、夏休み中は水泳部が集中練習するとかで貸し出してくれなかった。ただ8月後半には部が合宿に行くそうだからそこにチャンスがありそうだが。
学校が休みであることを考えればこの回数はかなりのものだろう。しかし――僕の中では会えば会うほど、会えない日の苦しさが募っていくばかりだった。特に今日のようになんの予定のない日はひとしおだ。こんな日は――ついこの辺りをぶらついてしまう。もちろん倉本さんに会えない事は分かっている。しかしならせめてその家だけでも、この中に倉本さんがいるかもしれない、と考えるだけで少しは心が慰められるのだ。
――わかっている。自分が精神的にやばい方向に向かっていることは。ストーカーの心理というのはこういうものなんだろう。だから――家の前を通る際も絶対に立ち止まらない、ただ一瞥をくれるだけで立ち去ることを絶対の掟として自分に課していた。もし立ち止まったらそのまま倉本さんの家をじっと見つめたまま動けなくなってしまうだろう。そうなったらもう本当にストーカーだ。だから意地でも足を止めなかった。
だから今日もそのまま通り過ぎるはず――だった。しかし家の前をまさに過ぎようとしたその瞬間、ポケットの中が短く震える。あまりのタイミングの良さに一瞬ひるんで思わず立ち止まり、スマホを見た途端体が固まった。倉本さんからだ。
「今、何してます?」
LINEに記されたなにげない一言。しかしなんで今ここで――。どっと冷や汗が出る。まるで自分の心が見透かされてるみたいだ。いや、偶然だよな。適当にごまかそうか――いやでも、倉本さんの前ではできるだけ誠実でいたい、との気持ちが動いて、ありのままを打ち返してた。
「今、散歩中」
それだけ書いて送信する。途端に今度は電話が鳴った。倉本さんだ。な、なんで…あわててつい反射的に出てしまった。
「ふふふ…」いきなりこぼれ落ちんばかりの笑い声が聞こえる。え、な、なに…何がおかしいんだ。
「あ、ごめんなさい」ひとしきり笑ったところで倉本さんが申し訳なさそうにした。「電話してきていきなり笑っちゃって、変な人ですよね、これじゃ。でも窓から外を見たら前を冴木くんが歩いてるのが見えたものですから。すごい偶然ですね」
偶然――そう思ってくれてるのか…。その口調に疑いの気配はない。ちょっとだけほっとした。
「でもどうして? こんな暑い中を散歩なんて」
「あ、いやぁ」なんとか取り繕わなければ。「こう暑いとついつい閉じこもっちゃうからね。少しは外に出ないと、って思い切って出たものの。正直後悔してた所なんだ」
「ですよね。わかります」納得してくれたようだ。「ね、急がないならちょっとうちに寄ってきませんか? この前のわたしみたいになったら大変ですよ」
! 疑わないどころか、わざわざ招き入れてくれるなんて。あまりに話がうますぎる、と思わないこともないが。けど、倉本さんに会える、との誘惑に勝つことはできなかった。
「はい、じゃあ、お邪魔します」
玄関前まで歩いて行くと、中から物音がしてこちらが呼び鈴を鳴らすのを待たずに内側からドアが勢いよく開いた。
「いらっしゃい。どうぞ入ってください」
中から倉本さんが元気よく飛び出してくる。しかし――僕はその姿をひと目見た途端衝撃で足が止まってしまった。
この暑さの中家でくつろいでいたからだろうか、その格好はあまりにラフだった。下はホットパンツで健康的な生足が丸見えだし、さらにその上は――なんとタンクトップ1枚だけ。ますます巨大化した胸のラインがこれ以上ないほどむっちりと浮き出していて容赦なく間近に迫ってくる。思わず息が止まってしまう。
「どうしました?」倉本さんはこちらがどんな衝撃を受けようが無頓着で、不思議そうに僕の顔を見つめてる。「さ、遠慮なく」
「あ、はい」口がカラカラになってうまく声がでてこない。情けないような受け答えの後、倉本さんはくるりと向きを変え、「こちらです」と階段をテンポ良く駆け上がっていった。
倉本さんの家に上がるのはあの土砂降りに遭った日以来だ。ただあの時は玄関とリビングを往復しただけだったのに、今日は――あっさりと自分の部屋に招き入れてくれた。(これが――倉本さんの部屋…)「ちょと待っててください」適当に床に腰を下ろしたところで倉本さんはそう言い残すとドアの向こうに消えた。あまりの急展開に脳が追いついていかない。ひとり取り残されたものだから、思わずキョロキョロと室内を見回してしまう。今までだって学校の女子の部屋に上がったことなんてないのに、初めてのそれがよりによって倉本さんのだなんて…。なんかその場でぶっ倒れるんじゃないかって不安になってきた。
ただ、勝手に想像していた"女の子の部屋"とは感じがけっこう違う。簡素で特にかわいらしいものが飾られている訳ではなく、しかし機能的に整頓されて使いやすさを追求しているように見えた。窓は…と見ると部屋の片隅に置かれたデスクトップパソコンの向こうにあり、確かに僕がさっき歩いていた道がそこからよく見える。おそらくここに座ってパソコンを使ってたんだろう。(ん? なんで?)なんか違和感がある。パソコンの置き方、なんでこんなになってんだ? パソコンラックで大概ディスプレイが置かれている机の部分には何もなく、その上のよくプリンターを置くような高い棚にディスプレイと本体が設置されている。キーボードは…机のさらに下、そこに一段抽斗のように手を入れられるようになっていて、そこに挿し込まれていた。
(わざわざここに手を突っ込んで打ってるのか…?)しかしこの前に倉本さんが座ることをイメージした途端(あっ)と合点がいった。この机の部分、ここに――倉本さんの胸がすっぽり収まるようになってるんだ。そう考えるとディスプレイはちょうど座った時の目線の高さにあるし、キーボードはここにあれば胸に邪魔されずに打つことができる。倉本さんがいつものように背筋を伸ばしてパソコンを使う姿がまざまざと思い浮かんでくる。(なるほど…)感心するとともに、辺りを見回すと同じようにこの部屋のあちこちに、倉本さんがあの胸を抱えても使いやすいように工夫がされているように思えてきた。
「お待たせしました」倉本さんが部屋に戻ってくる。右手のお盆にはコップが2つ。片手で器用に水平を保っている。「どうぞ」お盆を一旦テーブルに置くと、体を左にひねって右手に持ったコップを僕の前に差し出した。でないと――胸が邪魔して腕を前に伸ばせないのだ。
「いただきます」よく冷えた麦茶を思わずひと息で飲み干す。体が水分を欲しているのに今さらながら気づかされる。
「あ、こっちもいります?」とおそらくは自分用に入れてきたコップを差し出す。「あ、いや…」と断りかけるが、もう僕の目の前に置かれたそれをもう断れなかった。
まだ喉が渇いているし、それじゃあとこのコップに口をつけぐっと半分ほど空けると、倉本さんもなんだかにこにこ嬉しそうに笑っている。
「友達を家に呼ぶなんて今までほんとなかったものですから。仁美ちゃんと冴木くんぐらい」
「あ、佐伯さんも来たんですか?」言っといて、確かに、自分と同じ苗字をさんづけするのは変な感じがするな。佐伯さんが初対面でいきなり名前で呼んだ気持ちがちょっと分かった気がした。
「ええ、この間。宿題で聞きたいところがあるからって」そしてにこっと笑った。「もちろん写させませんでしたよ」
宿題か…。いやなことを思い出した。量が多い上けっこう難しいものが多く、やろうとは思ってもなかなか進まず、ここんとこ思い切りサボってしまっていた。
「たしかにここ数日すごく暑くて外に出るのも気が引けますから――あ、あの日以来、熱中症には特に気をつけるようしています」それがいい。もし僕がいないところでまた倒れたらどうなるか、と思うとぞっとする。「いい機会だし、家で宿題終わらせてしまおうと思いまして」
「へえ、すごいね。で、どれぐらい終わったの?」
「え?全部ですけど」けろっととんでもないことを言う。あの量を、うそだろ。まだ8月に入ったばっかだぜ。
「きのう終わりました。冴木くんは…」僕に振ってきた。
「半分――いや、三分の一、でもない。五分の一、ぐらい…かな?」だんだん声が小さくなってくる。これでも自分としてはものすごい頑張ってるつもりなんだけどなぁ。難しくてなかなか進まない。倉本さんがものすごく成績がいいとは聞いていたけども、時折、頭の構造が僕とは全然が違うんじゃないかと感じることがある。記憶力も、回転の速さも。でもその割りに変なところで抜けてたり鈍感だったり、妙にかわいらしいんだよなぁ。
チラリと顔を上げると、倉本さんはあきれたような顔をしていた。
しかし、こうしているうちに自分がどれほどとんでもない状況にいるのかをひしひしと気づかされる。あの倉本さんと、ひとつの部屋で2人だけでいるのだ。どうも今家に誰もいないみたいだし、倉本さんと2人きり…。しかもその倉本さんはホットパンツにタンクトップ一丁。しかもタンクトップは襟ぐりが内側からギリギリまで引き延ばされ、その深く食い込んだVネックから想像を絶するほど深い谷間がしっかり覗える。かろうじて隠されているとはいえ、倉本さんの胸の形がくっきり浮かび上がっている。襟ぐりはもちろん、脇から何から、乳肉があふれだそうとするその力を食い止めるには、布一枚ではあまりに心許ない。ちょっと動くだけで、みち…みち…とあちこちで今にも引き千切られそうな音が聞こえてくるような気がして、思わずごくりと固唾を呑んだ。それに――よく見ると力強く突き出た胸に引っ張られて肩から胸にかけて布地が浮き上がり、そこにできた隙間から――生のお、おっぱいが丸見えになってる!
(ひょっとして――いやまさか…) 今日の倉本さんの胸にはいつものがんじがらめに締め付けられているあの感じがない。ぼーんと前に張り出すような形は大差ないのに、いつもよりたっぷりとした重量感が伝わってくる。
(やっぱり――ブラジャー、してない…?)
そういえば以前土砂降りに遭って駆け込んだ時も、最初うっかりノーブラにTシャツ1枚で現れたことがあったっけ。あの時はすぐ気がついてあわててつけに戻ったけども、やっぱりこんな感じだった。こないだのようにブラのせいで熱中症になったり、加えて夏休み中の気楽さもあってか、つけるのを完全に忘れてるのかも――。
しかし倉本さんはそれに気づいている様子はない。いつものように、いやブラのない開放感からかいつも以上に快活に話を止めない。言うべきだろうか。でもそれはそれで倉本さんに恥ずかしい思いをさせてしまうだろう。今の倉本さんの笑顔を曇らせるようなことはできれば避けたい――。けどそれが自分への言い訳だと言うことは分かっていた。僕は――この格好の倉本さんを見ていたいんだ。
いけない、どうにも目が離せない。悪いとは思いつつ、思考がことごとくその胸に吸い取られていく。この前下着姿を見たとはいえ、あの装甲のようなブラジャー越しよりも、布1枚だけの今の方がその迫力は段違いだ。プリンと形良く前に突き上がって肉感的で、あの時よりはるかにおっぱいの感触が生々しく伝わってくる。体のわずかな動きに反応して、胸がその内側でまるで2つの別の生き物のように蠢いているのが薄い布越しに丸わかりだ。まるで狭苦しいブラジャーから解放されて、おっぱいが喜んでいるみたいに自由闊達に跳ね回っているのだ。かわいそうにタンクトップは内から膨大な質量で暴れまくられてはちきれそうに悲鳴をあげ、今にも破裂せんばかりの緊迫感に満ち満ちている。もし今、布を突き破って胸があふれ出してきたら…。僕は生つばを飲み込む。いつしかまばたきすら許されず食い入るように見つめていた。以前から時折巨大爆弾のように見えた胸はますます大きくなり、なんというかもはや臨界点ギリギリに見えた。それに胸からなんともいえないいい香りが漂っているような気すらする。
体の奥底からぐーっとどうしようもない欲望が駆け上ってくる。いけない。これ以上ここにいては自分がどうにかなってしまうのではないかという危機感に襲われるが、どういう訳か体が動かない。
「それで、この前の海に行くっていう話についてなんですけど…」あ、倉本さんがなんか言ってる。でもなんだかものすごい遠くから聞こえてくるような気がする――。
「冴木くん? 冴木くん! どうしました?」
倉本さんが不審な顔をする。いかん! 俺、どれぐらい我を失ってた? おそらく思いっ切り呆けた顔をしていたに違いない。
「大丈夫ですか? まさか本当に熱中症じゃ…」倉本さんが心配げにこちらに近づいてくる。やばい! このままではあの胸に取り込まれてしまう。こんなこと考えてるのを倉本さんに気づかれでもしたら…。
しかしあともうちょっとで胸が当たる!ところまで迫ってきたところで、何かに気づいたかのようにハッとして動きを止めた。そこで初めて自分がどんな格好でいるかに思い至ったらしい。そろそろと後じさりしてまた自分の椅子に腰掛けた。
先ほどまでのの快活な様子は消え去り、どう言ったものか迷っているかのように頭をせわしなく動かす。しかしその間も胸は絶えずふるふる揺れ動き続けていた。
しばらくして、意を決したようにこちらを向くと、ちょっと手で胸を抱え上げるようなしぐさをして、申し訳なさそうに口を開いた。
「あ、あの――いつもはこうじゃないんです。外に出る時は絶対つけてます。でも…やっぱりなにかと窮屈だし、家にいる間はつい外したくなって…。ごめんなさい…」
自分の胸に視線を落とす。やっぱりノーブラだったんだ。家でくつろいだところで気安く部屋に入れたため、ずっとそのままだったことに今まで気づかなかったたらしい。
お互いまた押し黙ったまま気まずい沈黙が流れる。暑いはずなのに背筋がぞくっとするような気がした。
「あの…ひとつ訊いてもいいですか?」どれぐらいそのままにしてただろう、口火を切ったのは倉本さんだった。なんでもいい。長い沈黙に耐えられなくなっていた僕は、とにかく倉本さんがしゃべってくれたことにほっとした。
「な、なんですか?」どうにかこれだけの言葉を発するのがやっとだった。
「あの…すごい変なこと言っちゃうかもしれないんですけど。でも…よく分からなくて…」おずおずとこちらに伺いをたてるような口ぶりだ。しかし次の瞬間、信じられない言葉が倉本さんの口からこぼれ出た。
「わたしの体って…その――そそります?」
まるで頭からセメントを流し込まれたように固まって動けなかった。今、なんて言った? あの清楚のかたまりのような倉本さんが――そんなことを口にするだなんて。自分で耳にしておきながらその耳が信じられなかった。
「あの…答えづらかったら話さなくてもいいです。でも、自分では全然ピンとこなくって…」やっぱり言うんじゃなかった、と後悔しているかのようなか細い声だ。「でも――この前、仁美ちゃんがうちに来た時、これと似たような格好をしていたら言われたんです。わたしの体は男子をそそらずにはいられないんだから、絶対自覚しておくべきだって、そうでなければ危険だ、って」
そっと上目遣いにこちらを見る。佐伯さん、なんてことを言ってくれたんだ。
「ごめんなさい。こんなこと言われたって困りますよね。でも…わたし、こういうのってよく分からないんです。無愛想だし、おしゃれでもないし…。まともに接したことのある男性って冴木くんぐらいしかいないし…」
倉本さんは相変わらず真剣そのものだった。それはなんというか、自分でも知らぬ間に陥っていた状況にひたすら戸惑っているようにも見える。
「それがどういうことなのか想像つかないのですが、でも…」倉本さんは僕の下半身の辺りをちらりと見て、すぐに目を逸らす。「そこ…がふくらんでいるのって…そういうことなんですよね」
さっと血の気が引く。み、見ないでくれ…。その場を逃げ去りたかったがなぜだか指一本動かせない。というか少しでも動けばもう股間が爆発しそうでどうしようもない。倉本さんに対し、ずっとこんな邪な想いを抱いていること――知られたく、なかった…。
もうおしまいだ――倉本さんの顔がまともに見れない。軽蔑されただろうな。これがばれた以上もう倉本さんに背中を預けられることも二度とあるまい。絶望の深淵に落ち込んだような気持ちだった。
しかし――どうにかして倉本さんの顔を仰ぎ見ると、そこにあったのは――軽蔑の色ではない。困惑しきって、どうしていいか本当にわからなそうな、戸惑いの表情だった。
「すいません、おそらくわたし、まだ子供なんだと思います。そう言われても訳が分からなくって…。おそらくまた冴木くんにご迷惑をかけているんだとは思います。けどだからといってどうしていいのか――ごめんなさい」そう言って本当に頭を下げた。「冴木くんならひょっとして教えてくれるかもって――。すいません、こんなこと言われても困りますよね」
そう言って申し訳なさそうに体を縮こませる。相対的に一層胸が目立ってしまい、ますます目のやり場に困る。僕はなんだか不思議な気分になってきた。困惑する倉本さんの顔は相も変わらず穢れを知らぬ純真そのものだ。なのに少し視線を落とすだけでその顔の何倍にも膨らんだ胸が暴力的なまでの迫力で迫ってきて、今もむっちりといやらしく揺れ動いている。倉本さん、本当に清楚で無垢なのだろうか、なんだか分からなくなってきた。胸の存在感が増すにつれて、本来の清純さがどんどん後ろに追いやられていき、代わりに肉感的で蠱惑的な胸が前面にしゃしゃり出てきて、本当の倉本さんを覆い隠そうとしているかのような、そんな気がする。今みたいにあのごついブラジャーで胸を封印していないとますますその印象が強い。だけど当の倉本さんはやはり無垢なまま、その事が理解できずにただひたすら当惑しているのだ。
僕は――どうしたらいい。僕はどんなことになっても倉本さんの味方でいたい。その思いだけは揺るぎないかった。かといってこんな時どんな声をかけたら…。突き詰めていくにつれ、たったひとつの思いにたどり着いた。
――倉本さんに、嫌われたくない…。
とにかく体が固まってしまってどうしようもない。一緒に脳みそまで硬直してしまったようだ。解きほぐそうとなんとか腰を浮かすが、立ち上がろうにもあちこちこわばってまるで自分の体じゃないみたいだ。一歩踏み出そうとした途端につんのめってバランスを崩す。
「あぶない!」後ろから倉本さんの声がする。なんとか体勢を立て直そうと左手で何かをつかむ。だがそのつかんだもの――どうやらクローゼットの取っ手だったらしい、その途端思い切り扉が大きく開いた。おかげでますます体がねじれてバランスがおかしくなり、必死に右手を伸ばしそこにある何かに手をかけた。
扉の向こうには何やら白いものがクローゼットいっぱいにそびえ立っている。しかし触れると手応えがなく、ただ何かが積み重ねられてあっただけだったらしい。勢い余って指先に引っかけたまま思い切りこちらに引っ張り出してしまった。
「あ、だめっ!!!」
倉本さんが飛び上がって叫ぶ。とはいえ僕はそこに体重をかけるしかなかった。
なんだか分からない。ほとんど倒れ込むように体が崩れ落ちた視界の片隅で、なにか白くて巨大なものが無数に空中を飛び交っている。僕はスローモーションのように呆然と見つめていた――。
なんとか体勢を立て直すと、その白いものが部屋中にぶちまけられていて、ほとんど床が見えないほどになっていた。倉本さんの頭や胸にもそれは乗っかり、頭に乗ったそれははすっぽり被さり顔が完全に隠れてしまっていた。
「ご、ごめん…。これはいったい…」
すぐに倉本さんに近寄ろうとする。倉本さんはあまりのことに立ったまま固まってしまったように動かない。僕は手を伸ばし頭に被さったものを取り去ると、現れた顔は火がついたみたいに真っ赤になっていた。
「み…見ないで…」倉本さんはなんとかそれだけ言葉を絞り出すと、そのまま顔を伏せてしまった。部屋の中は一面、散乱したそれでほとんど白く染まっている。あまりに大きすぎて最初分からなかったけど、これは…明らかに――。
「わたしの――ブラジャー、達です。今までの…」
改めて見回すと、どれもこれも、倉本さんしか使いようのない巨大なカップのブラジャーが辺り一面に散乱している。しかしそのカップもよく見ると大きさにかなりばらつきがあるように見えた。
倉本さんの歴代のブラジャー! その数の多さに圧倒される。どれもこれも、倉本さんの急激な成長に耐えられずにすぐ退場せざるを得なかったブラジャーの残骸――。そう、それはまさに残骸だった。ふと足許にある特に大きなそれをを見た時、どこか見覚えがあるような気がした。これは――終業式の日、倉本さんを介抱した時につけてた、あのブラジャーじゃないのか? しかしよく見ると、あの時はあれほど頑丈にかみ合って歯が立たなかった無数のホックが、今見るとそのほとんどが不格好にひしゃげて用をなさなくなっている。他を見ると、背中の部分が大きく裂けていたり、ストラップが完全に引き千切られていたり、その多くがまともな形を保っていなかった。まさしく死屍累々、なんだか先ほどクローゼットの中で一瞬見た白く積み上げられたものが、あたかもブラジャーの墓標のように思えてくる。でもそれらを捨てられずに皆取ってあるというのも生真面目な倉本さんらしかった。
けど、倉本さんは恥ずかしさで真っ赤になって手で顔を押さえたまま何も言えないでいる。見てはいけないものを見てしまった。僕は――いたたまれなくなってとてもその場にいられなかった。
「ごめんなさい、僕、失礼します」挨拶もそこそこに家から飛び出していた。
どうしよう――。僕は家にとんぼ返りすると部屋に閉じこもってひとり悶々としていた。今日倉本さんといたそのすべての瞬間が目に焼き付いて離れない。彼女が発した言葉のひとつひとつが頭にこびりついて無限に反芻していた。体の奥底から興奮が絶えず押し寄せてるのに、心の中はどうしようもなく冷え込んでいた。
気まずい。結局逃げ出すようにその場を立ち去ってしまった。もう倉本さんにどういう顔をしていいか分からない。なんかもう二度と会えないような気がしてきた。こういう時こそ、できるだけ早く連絡して誠心誠意あやまるしかない、とはわかっている。でも――なんと言っていいのか見当がつかない。勇気を振り絞ってさっきからスマホを握っているのだが、そのままいつまでも指が動かせなかった。
「今日はすいませんでした」これだけ打つのにどれぐらい時間がかかったろう、やっとの思いでLINEを開き、震える手で送信ボタンを押す。気の利いた言葉のひとつも言えないのか、と突っ込みつつ、そんなありきたりのことしか思いつかなかった。
画面に既読がつく。ああ、と思った途端、驚いたことにいきなり電話が鳴った。倉本さんだ。
「もしもし」反射的に取ってしまったけども、この後どう続ければいいのか…。しかも向こうからも何も聞こえてこない。故障か?と思ったけども、耳を澄ますとかすかに息の音が聞こえてくる。
「こちらこそ――今日は失礼しました」沈黙の後、か細い声で倉本さんがようやく話し始めた。
「やっぱり変ですよね。あれは――」ブラジャーの墓標のことを言っているのだろう。「言い訳になってしまうんですけど、どれもこれも、短い期間で着られなくなってしまうものですから…なんか申し訳なくって…捨てられずに、その――クローゼットの中に順に積み上げてあったんです」
弁明するように、ぽつりぽつりと話し始める。徐々に口調がなめらかになっていった。
「あの…わたし、ブラを着けるのが他の人よりだいぶ遅かったものですから――その、クラスで一番最後につけた時、ものすごく嬉しかったんです。でもそのブラはすぐに小さくなってしまって…」だろうな、すごい勢いで大きくなってったみたいだから。「どうしても捨てられなくて、クローゼットの奥に仕舞っておいたんです。でも次のブラもすぐにきつくなって、あまりにあっという間だったのでやっぱり捨てきれずに前のブラに重ねて置いて――結局その繰り返しで、今までどのブラも捨てられず、どんどん積み上げていったら、もうあのクローゼットの中がブラだけでいっぱいになってあふれかえってしまったんです。お母さんからもいい加減どうにかしろと言われてたんですが、最近のブラはもう――その、粗大ゴミ扱いになってしまうとかで」え、そうなの! 思わず声が出そうになる。「踏ん切りがつかなくて余計捨てられず――。それで今日のようなことになってしまいました」
一通り語り終わって落ち着いたのか、最後に吹っ切ったように口調が軽くなった。
「やっぱり、いつまでも思い出をため込むのってよくありませんよね。あれ、全部処分することにしました」
ちょっと惜しいな、との思いがこみ上げてくる。しかしそれを僕は全力で飲み込んだ。
「それでですね、今日の明日で申し訳ないんですが、あしたの午後、お時間取れませんか?」
夏休み平日の午後2時過ぎという中途半端な時間、車内はさして混んではいなかった。けども、一緒に電車に乗りこんですぐ、倉本さんはまともに顔を合わせられないかのように僕の後ろに回って顔を伏せ、そのまま微動だにしなかった。胸と背中の間にもわずかに隙間がある――ということはかなり距離を置いて立っていたことになる。
(「ここ数日宿題に集中するために家でブラジャーつけづにいたんですが…」)きのうの倉本さんとのやりとりを思い出す。(「あの後、やっぱり普段からしなきゃと思って久しぶりにブラジャーを出したんです。でもそうしたら…」) わずか数日の間に、もうどうにもきつくてホックが留まらなくなってしまっていたという。ブラから解放されていたほんの2〜3日の間にそれだけ急速に成長していたということだろう。今日はなんとかひとつだけ着けることに成功した最後のブラジャーをしているとのことで、見ると確かに胸にきのうのような自由闊達さはなく幾分コンパクトにまとまっているようだけど、その分がんじがらめに締め付けられていてかなり息苦しそうだ。でもそんな無理していたらいつまたあのような残骸になってしまうか分かったものではない。それで今日急遽トリオンフィに予約を取り、対応してもらえることになったそうだ。
「でもあの時、冴木くんの方から連絡をくれて助かりました」え?あの言葉の何が良かったんだ? 「予約はできたものの冴木くんにどうお願いしたらいいのか途方に暮れてしまって…。もう二度とまともに顔を向けられないと思ってたものですから」倉本さんの方も僕と同じように落ち込んでいたというのか。そこにタイミング良くLINEが送られてきたものだから、それがきっかけで電話できたらしい。
「あれは、トリオンフィに全部送って一括処分してもらうことにしました。とてもじゃないけど持って行ける量じゃないので、後でひとまとめに梱包して発送します」梱包手伝おうか、と一瞬言いかけたけどやめた。とてもじゃないが僕が手を出していい問題じゃない。
それにしても――顔向けできないのはどう考えても僕の方だと思うのだけど、どうして、こんな思いをしてまで倉本さんは僕に声をかけてくれるのだろう。ブラジャーぶちまけ事件のおかげで僕が倉本さんに興奮していたことがうやむやになっているのはちょっとありがたいけども。
「僕の方こそ、申し訳なくてもう顔を合わせられないと思ってました。なのに、どうしてまた声をかけてくれたんだろう、って…」
そう言うと、倉本さんは一瞬不意を突かれたようだった。考えたこともなかったみたいに。それからしばらく頭の中をまさぐるように考えを巡らし、ふと口をついて出たようにこうつぶやいた。
「冴木くんに――嫌われたくないだけです」
新宿で降り、いつものように倉本さんがトリオンフィの中に入っていく。「じゃ、倉本さん、また後で」ここから先は倉本さんの聖域。僕が踏み入っていい所ではない。僕はドアが閉まるのを見届けると踵を返して歩き出す。さて今日はどこで時間を潰そうか…。しかしほんの数歩進んだところで、後ろでまたドアが開く音がした。
え?と思って振り向くと、店内から女性店員らしき人が顔を出している。
「ちょっと君」その人は招き入れるように手を動かした。「歩友美ちゃんの付き添いでしょ。そんなとこにいないで、中に入ったらどう?」
え? と僕は訳も分からず立ちすくんだ。なんで…。だってここは――男子禁制のはず。「ほら、遠慮しないで、いらっしゃい」なのにその人は有無を言わさず僕の腕をとると、ほとんど引きづるように中に引っ張り込んでいった。
会議室らしき部屋にひとり通されて、コーヒーまで出されてしまう。こうなってはなんかもう出て行くのもはばかられた。「ちょっと待っててね」そう言われてぽつんと部屋に取り残されて、居心地の悪い空気が充満する。そりゃそうだ。男が来ちゃ行けないところに入ってしまったんだから。
数分後、その女性店員が再び部屋に入ってきた。
「ごめんなさい、お待たせしてしまって。いきなりで悪かったわね。私、ここでオーダーメイドを担当している藤原と申します」言いながら名刺を差し出した。「歩友美ちゃんなら、今試着室に入ったところだからしばらくはひとりで悪戦苦闘しているでしょうね。あの子、着け心地にすごいうるさいから」
そう言うと僕の前の椅子に座り、こちらにむけてにんまり笑う。僕はとにかく一番気になることを訊いてみた。
「あの…ここって――男は入っちゃいけない店なんじゃ…」
「あら私、男性立ち入り禁止だなんて言った憶えないわよ」けろっと返される。「そりゃお店の性質上、男性のみの来店はご遠慮願ってるわ。けど付き添いならばまったく問題ないし。実際、ご夫婦で来られる方や、お兄さんや弟と一緒に来る子も時々いるわよ。それと――」そしてこちらを見てにやっと笑った。「恋人ともね」
思わず飲みかけのコーヒーを吹くところだった。藤原さんと名のる女性はその様子を楽しそうに眺めている。
「ぼ、僕は、その…」倉本さんとの関係をどう説明したらいいんだろう。いい言葉が思い浮かばない。きのうから思いもよらない事態に次々追い込まれて戸惑ってばかりだ。
「ごめんごめん」そう言いながらも、藤原さんは楽しそうにこちらを見つめている。「そっかぁ、君が歩友美ちゃんの"背中の君"ってわけね」
え? 思わずその顔を見つめ直すと、藤原さんはさらに続けた。
「歩友美ちゃんから聞いてるわ。出掛ける時、よく一緒につきあってくれる男友達がいるってね。広い背中に頼りがいがあるって」しゃべりながらまじまじとこちらの肩口を見つめている。
「電車の中とか、その背中で歩友美ちゃんを護ってくれてんでしょ。歩友美ちゃん、すごい嬉しそうに話すんだもん。どんな人か気になっちゃって…。それがよく聞くとここに来るときも一緒なのに、フィッティングの間中外で待たせてるって――。どんな放置プレイよ。で、お節介にも到着タイミングを見計らって声かけさせてもらったの」
そっか、倉本さん、僕のことをそんな風に話してくれてるのか。なんか今までしてきたことが報われたような気がしてなんかほっとする思いだった。
「そういうわけだから、君がここにいるのはなんの問題もなし。ゆっくりしてって」
なんか今日ここに来てようやく落ち着いてきた。いてもいい、とお墨付きをもらった感じだ。この藤原さんも気さくで話しやすいし。
「ところでさぁ…」何かを言いかけたところで机に置かれた内線が鳴る。「はい、藤原です。どう? えっ! わかりました。今行きます。あ、それから頼まれてたあっちの方も仕上がってるわよ。今日着てみる? はい。じゃあ持ってきます」
受話器を置くと立ち上がってドアに向かった。「お姫様のお呼び出し。それじゃお相手してきまーす」明るく言ってるが、ドアが閉まる瞬間、ぼそっと漏らした声が耳に届く。
「ほんと、どんだけブラクラッシャーなのよ、あの子…」
「そうそう、さっき聞きそびれたんだけど」しばらくして戻ってきた藤原さんは話を繋いだ。「きのう歩友美ちゃんに妙なこと頼まれたんだよね。今までのブラを全部処分したいって。どういうこと? まさか今までの全部とってあるわけないだろうし…」
あ…。きのうの、部屋一面に舞い落ちたブラの残骸が目に浮かぶ。
「ん? なんか知ってるの?」気づかれてしまった。この藤原さん、けっこう目ざとい。話しているうちに知ってること全部吐き出してしまいそうだ。
しかたない。きのうのことをかいつまんで話す。もちろん、部屋中に全部ぶちまけたことは省いて、あくまで聞いた話としてしゃべった。
ここも突っ込まれるかな、と思ったけどもそれを聞いているうちに藤原さん、喜びでわなないてそれどころじゃなくなってきた。
「歩友美ちゃんの歴代ブラ全部! それがもうすぐ手に入るの!?」声のトーンが急に1オクターブ上がる。「素敵。そりゃ、このお店に来てからのことは知っているけども、それ以前のもすべて!」もう虚空を見つめてうっとりとしている。「ああ、今はあんなに巨大だけど、それでも初めてのブラジャーはやっぱりかわいらしいAカップ? それともそっけないカップレスのスポブラかしら。そこからの成長の軌跡がすべて拝めるのね。ああっ、楽しみだわっ」もう感極まったみたいで、自分の世界に没入していた。それを見ていて、なんとなくこの人がなんでこの仕事に就いたかのかが分かった気がした。
「冴木くん、だっけ」しばらくすると我に返ったのかいきなりこちらに向かって語り出す。
「これからも、歩友美ちゃんの力になってね。私、仕事がら胸がとてつもなく大きな女の子のこと何人も知ってるけど」倉本さんみたいな胸の子って他にもいるのか! 想像もつかない。「みんな、日常生活の中でもいろいろ不便と工夫があるの。歩友美ちゃんだって――あ…あの子あんな見かけでもとにかくパワフルだから、そんな風には見えないけども、でもこれから、絶対いろんな苦労があると思うから、そんな時も味方になってあげてね」そうしていきなり僕の手を取った。「歩友美ちゃん、君のことものすごーく気に入ってるから。あの子、丁寧すぎて取り澄ましたところがあるからなんか人と馴染めないとこがあったのに、最近だんだん打ち解けた穏やかな顔をするように変わってきたの。きっと君のおかげね」
「藤原さん、着てみましたけど、これ…」不意にドアが開いて倉本さんが入ってくる。しかし――あ、あ…。水着!!!。
「え、冴木くん、なんでここに!?」倉本さんもまったく予期してなかったのだろう、一瞬気の抜けたような顔をした後、あわてて胸を隠すように背中を向けた。
「わたしが呼んだのよ。悪い? それに隠すことないじゃない。一緒に行くつもりで作ったんでしょ、それ」
「で、でも…いきなり――。心の準備が…」
ちらとしか見れなかったけど、一見この前と同じデザインの競泳水着だ。にしても、どこもかしこも体にぴたっと貼り付くように布がまとわりついていて、なんだかきのうのタンクトップ以上に生々しい。
「それよりどう? 着け心地は。この素材なら伸縮率もこの前のよりずっとアップしてるし、体にピッタリ密着してして動きやくなっているはずよ。おそらく寿命も延びるでしょうね」
「ええ、それは確かにすごいんですけど…。でも、密着しすぎてなんだか何も着てないみたいで…」
「へーきへーき。ちゃんと隠せてるから」
藤原さんは上機嫌でそう言うが、いや、隠れてるといえば隠れてるけど、倉本さんの体の線が――水着の上からもくっきり浮き彫りにされてる!――やばいよ、これ。水着だけじゃない。こうしてみると、この前のプールの時よりその胸が明らかに大きく突き出し、近づくものをことごとく跳ね飛ばしそうな迫力に満ち満ちている。もし今度吹っ飛ばされたら――どうなってしまうのか…。
「それよりこの冴木くんに話す事があるんでしょ。今、しちゃえば?」
倉本さんは「そうなんですけど…」としばらく迷っていたけど、意を決したように一旦部屋から出、すぐスマホを手に戻ってきた。
「これなんですけど…」スマホにある画面を示し、僕の前に差し出す。
「湘南で、新しい海水浴場をオープンするにあたって、プレオープン記念として1組限定、1泊2日ビーチひとり占めキャンペーンというのを募集してたんです。どうせ無理だろうけどもダメ元で応募したら、なんか当選してしまって…」
そこにはキャンペーンの概要と、当選者名として「倉本歩友美」の名前が確かに記されていた。
「併設されているコテージも自由に使えるそうです。で、冴木くん、これならば、あの、念願のビーチ貸し切りが実現するんですけども…。前から申し上げているお礼も兼ねて、来週、よかったら一緒に行きませんか?」
これならば――確かに倉本さんも自由に海で泳げる! でも…本当にそこに僕もいていいの…!? あまりの幸運に、今度こそこの場でいきなりぶっ倒れるんじゃないかとぼーっとなってしまった。