通販生活始めました その1

かなぶん 作
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大橋恵魅はこの日も受験勉強の為に遅くまで起きていた。
眠気を紛らわす為のコーヒーも湯が切れてしまい、何と無しにテレビを付けた。
今は深夜2時過ぎ、こんな時間にやっている番組なんてたかがしれているが、ちょっとした気分転換にはなるだろうと思っての事だ。
まだやっている番組は、深夜のバラエティーと通販番組だけ、他は試験電波発信中とか天気予報だけだった。
バラエティー番組は特に興味が無かったので、とりあえず通販番組をかける。
何だか良く分からないダイエットマシーンの説明を、おそらくはアメリカ人であろう二人が実践を交えて何度も繰り返していた。

『ハイ、ボブ、どうしたの? 最近元気ないわよ?』

『実は、ちょっと食べすぎちゃってね、脂肪分をひかえてるんだよ』

『無理な・・・・』

「別に太ってないしね」

と、飾り気の無い実用一点張りのジャージの下のお腹をぷにぷにとつついてみる。

「そろそろ勉強にもどろ・・・」

特に関心も無い事だったので、早々に切り上げて勉強に戻ろう、そう考えた時だった。

『ああ、そうだ、いい物を教えてくれたお返しに、僕も君に相応しい物について教えてあげよう』

「あれ?」

いつもなら、延々同じ事が繰り返されるはずのその番組が、なぜかいつもとは違った展開になっていた。

「何だろ・・・?」

それにはテレビを消そうと手に持っていたリモコンを再び床の上に置いて、テレビを食い入るように見つめてしまった。

『これだよ、これ、ちょっと見てごらん』

『これって、何かの錠剤みたいだけど・・・・あら? どういう事?』

『確か、君は自分のバストサイズを気にしていただろ? これを飲めばどんな大きさでも思いのままっていう魔法のような商品さ・・・』

「はあ?」

思わず目が点になる。
まさかこんな怪しげな商品が出てくるとは思っていなかったからだ。
その間に、テレビの中では怒った女性に平手を喰らって床に倒れるボブが映っていた。
そして、憤然とした女性が立ち去る画面には、「この商品をお求めの方は・・・・」に続いて電話番号が表示されていた。

その翌日、あの通販の商品が何となく気になった恵魅は、その電話番号へと電話をかけていた。
以外にも真っ当な受け答えをされ、あの商品がどういう物かを思い出すとちょっと恥ずかしかったが、それでも、胸の大きさは同年代の平均よりは上だという自信があったので何とか耐えた。
そして一週間後、恵魅の目の前には不思議な錠剤の瓶があった。

「本当に来たよ・・・・」

自分でも不思議に思うくらい普通に商品が来た事で、逆に意表を突かれる形になった恵魅は、そのまま英語の注意書きを読み始めた。
日本で売ってるんだから日本語で書けと思ったが、とにかく解読を再開する。

「えっと、一日三粒服用で・・・朝昼晩の・・・食後に飲むのかな?」

とりあえずそれだけ読むと、一粒口に放り込んで、それから夕食を食べに2階の自分の部屋からキッチンまで降りていった。

「ふう、さて、勉強の続きっと」

食事も済んで、いつも通りの勉強を始めた恵魅。
だが、英語の勉強中、さっきの説明書きの意味が分からなかった文と似た形式の分を見つけ、慌てて説明書きを取り出して見た。
すると、

『一日に三粒以上服用してください』『体質によってはそれでも効果が薄い場合があります』『食前食後の服用は避けてください』

等のわけの分からない注意が見つかり、少し呆れながらも、少し自棄になって瓶の中身を思い切り掴んで口に放り込んだ。
ただし、恵魅は最後の注釈を読んでいなかった。
そこには、

『個人差によっては問題が発生する可能性もあるため、初めて服用する時は一粒飲んで翌日、効果を確かめてください』

と書かれているのであった。

そしてその次の日、息苦しさで目が覚めた恵魅の目の前に、肌色の、巨大な何かが目と鼻の先まで迫ってきていた。

「って、きゃあああああああ!!」

驚いて立ち上がった恵魅の胸には、今まで見たことも無いほど大きな胸があった。

「う・・・そ・・・効果ありすぎだよ・・・・」

胸の重さに耐え切れなかったのか床に崩れた恵魅は、お気に入りのパジャマが破れたから買いに行かなくちゃ、などという事を考えて現実逃避の真っ最中であった。
もっとも、今の恵魅が身に付けられる服はそうそう売ってない、それだけは呆然とする恵魅にも、たっぷり30分の時間を置いてだが理解できた。

続く