マイメイド

かなぶん 作
Copyright 2002 by Kanabun All rights reserved.

部屋ではいつも本を読んでいる。その本の内容は毎回違うけど、友達が言うにはどれも難しそうな
本らしい。僕はそうは思わないんだけどね。そして、昨日読みかけたまま寝てしまった本を探し、
その栞を挟んでいた場所から読み始める。そうして時間は過ぎていき、その本も読み終わったから
次の本。
あれ?
適当に置いておいた本の山から一冊手に取ったが、カバーもかかってないし見たことも無い本だっ
た。こんな本あったかな? と思いながら中身を開くと・・・・
「ご主人様、そういう本を読むのは18歳以上からと相場が決まっていますわ」
「やっぱり、猫伊さんの仕業ですか?」
その本は、中学生の僕が読むにはちょっと早すぎる内容の本だった。

第三話「メイドとの生活・中級編」

「まあ、ちょっとした冗談よ、冗談」
お腹を押さえて笑いながら、冗談だと連呼されてもあんまり信用が置けない。それに、自分だって
まだ18歳より下の癖に。
とにかく、どうも読書をする気にはなれずに部屋を出る事にした。
部屋のドアを開け、廊下に、
「あっ!?」
突如甲高い声が廊下に響き、僕は火傷しそうな熱さを感じて後ろに飛び退いた。
ポフ・・・・
正直言って僕の運動神経は並以下だ。あんなに慌てて後ろに下がったりしたら床に倒れこんでもお
かしくない。
でも、後ろにあったクッションのおかげで倒れるのだけは・・・クッション?
「あ・・・・お怪我は・・ありません?」
と、後ろから手を伸ばして僕の体を支えてくれた。当然、クッションではなく、僕に続いて部屋か
ら出ようとしていた猫伊さんが、だ。その目が「してやったり」って感じで笑っている。さっき僕
がクッションだと思ったのは他の何でもない、彼女の胸だった。心なしかその頬が赤くなっている。
「ご、ごめんっ!!」
これで何度目か分からないけど、僕は慌てて謝って部屋から逃げるように出ようとした。
「きゃっ!!」
「ぶっ!!」
再び何か柔らかい物に顔から突っ込んだ。慌てていたので前のめりに倒れかけた姿勢だった僕は、
その柔らかいけどゴムのように弾む何かに押し戻されるようにして床に尻餅をついてしまった。
「イテテ、一体・・・あ・・・」
目の前が大きな何かで埋め尽くされ、しばし呆然としてしまった。
「ご、ごめんなさいぃ・・・すいませぇん!!」
いきなり、その「何か」がこっちに向かって突っ込んで来る。
尻餅をついたままの僕には避ける方法などなく、次の瞬間には、
「うぐっ・・!! っぷ!!」
息が出来ない、真っ暗で何も見えない、そして、少し暖かい。おかげですぐに酸欠で意識が朦朧と
してくる。そういえば、前にもこんな事があったような気が・・・・・
「ほら、兎伊・・・・そんなにやったらまた落ちちゃうでしょ」
と、猫伊さんの声がして、僕の顔に乗っかっていた何か、例によって例の如くというか、兎伊ちゃ
んの胸が持ち上がり、危ないところで空気を吸う事が出来た。
「あ、ありがと・・・」
「いえいえ、私も何度同じ目に合った事か・・・・」
少し苦笑して、泣きそうになっている兎伊ちゃんの肩を叩くと、一言二言耳元で囁く。それだけで
今にも泣きそうだった兎伊ちゃんの顔が少しではあるが明るくなっていった。
「さて、そのままじゃ風邪を引いちゃうわ、お風呂に入った方がいいと思うけど」
「え、風呂って・・・あ!!」
服に真っ黒な染みが出来ている。そして、廊下にはコーヒーカップの破片が散らばり、兎伊ちゃん
のエプロンにも大きな染みが出来ていた。どうやら、気を利かせて運んでくれたらしいコーヒーを、
僕が慌てて部屋から出たときにぶつかって撒いてしまったらしい。
「ごめんなさいですぅ・・・・」
それを見て、再び泣きそうになる兎伊ちゃんを猫伊さんが慰めつつ、散らばったカップの破片を取
り除き、簡単にではあるが床の染みを落としていく。惚れ惚れとするほどの慣れた手つきで片付け
をしながら、猫伊さんは僕と兎伊ちゃんに風呂へ行くよう再び促した。
「それじゃあ、お先に行ってお風呂のお用意をしまぁす」
兎伊ちゃんがそう言って、風呂場のある方へと歩いていき、僕は風呂から上がった時に着るための
着替えを取りに部屋へと戻った。そして、洋服ダンスから綺麗に折りたたまれたシャツとズボンを
一式取り出すと、まだ床掃除の続きをしている猫伊さんに一言声をかけてから風呂場へ向かう。
「少ししたらお風呂の方にも行きますので、それまでごゆっくりと」
さっきまでとは打って変わったメイドっぽい、といってもメイドそのものの格好に合った口調でそ
う言うと、掃除に使った道具を片付けに廊下を僕の向かったのとは反対方向へと歩いて行った。
でも、猫伊さんがこういう口調で話すときって、決まって何かたくらんでるんだよな。でも、はっ
きりと嫌だと言うにはちょっと抵抗があるような事ばっかりしてくるし・・・・
そうこう考えているうちに風呂場へと着き、脱衣所で服を脱いで風呂場のドアを開けた。
「うわ・・・・・」
目の前を白い湯気が覆う。締め切られた浴室は、浴槽から大量の湯気が立ち上り、伸ばした手の先
が微かにしか見えないほどに視界を奪った。
その湯気が、僕の開けた扉から、物理法則に従って冷たい場所へと移動する。おかげで少しは視界
が晴れてきた。
「ふぁ・・・」
「へっ!?」
そこには、誰もいないと思っていた浴室には先客が1人、座り込んで体を洗っていた。そう言えば、
先に行って準備しているって言ってたような・・・・

兎伊ちゃん

「あ、ご主人様・・・・お風呂・・・ですか?」
「うん、そうだけど・・・・入ってたの?」
「はい・・・つい暖かそうでしたから・・・・」
「そっか・・・・・」
どちらも固まったまま、妙に冷静に会話が成り立っている。でも、そんな事をしている間に、僕は
すぐに正気に返った。
「ご、ごめんっ!!」
慌てて逃げるように扉をくぐって外に出ようとする。そういえば、さっきも同じような事が・・・・
ドンッ
僕はそこで、さっきと同じように「何か」にぶつかって浴室に押し戻された。ただし、さっきと違
ってそれはクッションの布地の感触ではなく、体温のある柔らかい物、つまり、ここ数日、急に縁
が増えたあれだった。もう何度もその感触に触れてきたので一瞬で理解出来る。
「ご主人様、そんな格好で外に出たら風邪を引いてしまいます、せっかく美少女二人が背中を流し
て差し上げるのですから、もう少し温まっていったらどうです?」
「え・・いや・・そんな・・・悪いし・・・」
もう逃げられない、そう思いながらも頭のどこかでは逃げようともがいている自分がいる。でも、
悲しいけど、体が逃げてくれない。そして、ヘビに睨まれた蛙の如く、僕は床に座り込んだまま
「あうあう」と呻くだけしか出来なかった。
「ご主人様ぁ、お背中をお流ししちゃいますぅ♪」
その猫伊さんへの援護攻撃といった丁度のタイミングで、兎伊ちゃんが僕の背中に抱きついてきた。
抱きつくと言っても、彼女の場合は先ず先に胸が当たってから手が僕の体に触るんだけど。そして、
背中に感じた重たい弾力のある二つのおっぱい、それに泡立てたボディーソープをたくさん付
けている。手でスポンジを持って僕の背中を洗うのには胸が邪魔だから、多分そうなのだろうけど、
こんな事をされたら僕の理性が飛んでしまいそうになる。
「ああ、兎伊、私にもそれ頂戴」
と、猫伊さんが兎伊ちゃんの横にあるボディソープのボトルを指差して言う。
「はい、お姉ちゃん」
あっさりと渡した。そして、猫伊さんはそれを泡立てて、そこで僕の方をこれ以上ないほどの笑顔
で見つめてくる。
もう、どうにでもして・・・・・
「それじゃあ、私は前から・・・・」
泡立てたボディソープを胸に付けて、僕に抱きついてくる。大きさでは兎伊ちゃんに負けてるけど
、張りとか形とかは最高のおっぱいが僕の体に密着する。ちょっと苦しいけど、ちょっと気持ちい
いかも。でもやっぱり苦しい。
「どうです? 気持ちいいですか?」
「う・・うん・・・まあ・・・」
こんな時、どうやって答えればいいんだろう。二人の体温と大量の湯気のせいか、浴槽に浸かって
もいないのにもうのぼせてきてしまった。そろそろここを出ないと・・・・
「あの・・・もう・・・」
でも、僕の言葉はあっさりと打ち消された。そして、白い湯気の立ち込める浴室で、目の前が更に
真っ白になるのを、僕は二人の胸の間で感じていた。
数分後、グッタリとした僕は、いつの間にかは分からないがパジャマに着替えさせられて部屋のベ
ッドに横にされていた。
「あ、お目覚めですか?」
「すいませぇん・・・」
横にはあのメイド服に着替えた二人の姿が、どうも今まで付きっ切りでいてくれたらしい。時計を
見ると11時を回っていたが、つまりは昼過ぎから今までずっとここにいたっていう事なんだろう
か?
とにかく、この二人と付き合うには体力がいる。明日からは運動しようと心に決めて、僕は二人に
おやすみを言って自分の部屋に戻ってもらうと、電気を消して再びベッドに横になった。
明日はどんな日になるかは分からないが、とにかくどたばたした一日にはなるだろう。
少なくとも、以前のような退屈だけは感じないで済むはずだ。

続く