★その1 朝起きたら
《1》 急成長して驚いた
「ウーン、ヨイショ」
朝起きてベッドの上に座ると松坂不二子(まつざか ふじこ)は、何か身体が重い感じがしたのである。
今までに体験したことの無い、不思議な感覚である。
「昨日の晩はいつもと同じように、宿題をして着替えて寝たよね。」
不二子が思い出しながら、ベッドから降りようとした途端だった。
ドスン、ドスドスと大きな音がした。
彼女は足を滑らせてこけたのだが、その音は相当重い物が落ちる音だった。
寝巻が邪魔で足元がよく見えなかったのだから、こけてしまったのだ。
立ち上がって明かりをつけて鏡を見て、彼女は驚いてしまった。
凄い美人がそこにいたのである。
眼はぱっちりと二重まぶたで睫毛が長い。
鼻筋はすっとしている。
肌はすべすべで色白。
髪は真っ黒で誰もが羨むほどのきれいな長い直毛である。
しばらく登場人物は1人なので、母親が登場するまでは、彼女の立場になって書いて行こうと思う。
髪の毛が美しく、そして一晩で長く伸びている。
だけど、なんとなく私に似ているみたいだ。
いや、今の私なのだ。
だいいち、着ているのはピチピチの私の寝巻だ。
胸が大きく成長している。
だから、胸で足元が見えなかったのだ。
ここまで大きなおっぱいは、見たことが無いよ。
おへそが見えている。
どうしておへそが出ているのだろう。あっ、下着が破れている。
驚いた。
手をお尻に持っていくと、お肉がたくさんついている。
どこまで、私のお尻の肉があるのだろうか。
横向きになって鏡を見ると、こんなに後ろまで、お尻の肉がある!
お尻の厚みが何十cmあるのだろうか?
黒人女性の写真をクラスの男子が見ていたのだけれど、今の私のお尻みたいな感じだった。
日本人のお尻で、私みたいな大きさの人はいないかも。
ママのお尻は似ているけれど。
太い脚から、お尻の肉が真横に突き出している。
そこで見た画像は、脂肪太りで肌に穴がぶつぶつあいていて、肌がきれいではない。
私のお尻もふとももも、肌がきれいで、色白でスベスベしているところが違う。
ふとももから真横にお肉が盛り上がっているのは同じだけれど、お肉の量が私の方が多いみたいだ。
脂肪が余って、細かく何段にもしわを作っていたけど、私にはそんなものは無い。
ふとももだって太さでは勝ってしまっている。
お尻や太ももで勝ってどうするの。
昨晩まではやせていた私には、こんなに大きなお尻に合うジーンズは無い。
ママやお姉ちゃんたちのジーンズも履くのは無理かな?
多分そうだろうな。
私のお尻にあうジーンズは、日本のどこかに売っているのだろうか?
とにかく、急激な成長で破れたショーツを脱いで、別のショーツをはいたけれど、ウエストまで上がらない。
はいたじゃないね、はこうとしただよね。
ふとももが太すぎる。
無理やりにはいたら、ひざの上ぐらいで破れるのは間違いない。
ショーツを履くのは諦めて、直接にスカートをはいてみることにした。
丈の短いスカートだ。
あれっ?
ホックを外し、ファスナーを下ろしても、大きなお尻の一番太い部分が通らない。
お尻が大きくて、スカートが通らないなんて。
こんなことがあるなんて、考えたことも無かった。
布地を切って、はいてから安全ピンで止めたらどうだろう。
自分のスカートをはさみで切るなんて、抵抗あるなあ。
あれっ?
腰のホックが、止められる。
お尻はこんなにも大きいのに、ウエストはゆるゆるだ。
ウエストは細くなったのは嬉しいが、これからの人生の不安の方がずっとずっと多いよ。
腰の幅が広くなっているし、ヒップアップが凄過ぎる。
この普通のスカートでは、お尻の割れ目がちっとも隠れていない。
とても脚の裏の方へ、裾が垂れ下がってこないじゃない。
何度も言うけれど、腰回りのお肉の盛り上がりが凄過ぎるのだ。
横だって、腰骨の途中で布が無くなっている。
制服の長めのブリーツスカートなら、何とかお尻が隠すことが出来るだろうな。
もう、その時には私は気付いていた。
お尻もすごいけど、胸だって、大変なことになっている。
もう、驚いてばかりだ。
体が重いのも不思議じゃない。
首の付け根から、おっぱいが真っすぐ前に突き出ているのだ。
ブラジャーの要らないAカップだったのに。
夜中の間に、どんな成長をしたのだろう。
私みたいなおっぱい、テレビで見たことがある。
「世界びっくり人間」に出演していた、アメリカから来た女性だった。
胸の肉が硬くて、形が不自然で、何かを入れているみたいで、ちっともきれいな感じがしない人だった。
私のおっぱいは全部肉だけれど、突き出していて横にも広がっていて、自分でもきれいだなと思った。
昨日まで首の付け根の下にあった肩甲骨は、胸のお肉に埋まってしまったね。
今までは、風呂に入った時なんか水が溜まっていたのにね。
寝巻は乳首のところまでは、隠してくれているが、そこから先は少し垂れ下がっているだけだ。
下乳は、ほとんど丸見えの状態だ。
寝巻の長さが、全く足りないのだ。
脇の縫い目は、おっぱいの圧力で破れているし、お腹は丸見えだし。
破れた寝巻着ていてもしょうがないから、脱いじゃおう。
凄く大きなおっぱいだ。
自分のおっぱいは、なんて大きくてきれいなのだろうと、感心した。
いっぺんに自分のおっぱいが大好きになってしまった
大きなおっぱい、・・・見たことがある。
ピンボケの写真だけど、もっと大きかったよ。
誰だったのか、名前は忘れちゃった。
赤ちゃんを抱くような感じで、自分のおっぱいを抱いていた。
そんな写真だった。
大きさはその女性の方が大きいかもしれないけれど、形が全く違うよ。
私のおっぱいは、ママのおっぱいと形は似ているよ。
大きさは違うけれど。
それとママのおっぱいは、乳首が大きいところが私と違うなあ。
ところで、私のおっぱいに合うブラジャーって、どんな感じのものかなあ?
可愛い感じの、ブラジャーがあるかなあ。
「ブラジャーがそもそもデカイのだから、あるだけましと思え!」
なんてお店で言われたら、嫌だな。
自分ではどうしようもないことが、起こってしまったようだ。
どうしてこんなことが起こったのだろうか?
こんなに大きくなる前に、Bカップ→Cカップ→Dカップ→・・・という風に少しずつ大きくなりたかったなあ。
少しずつ大きくなっていくって、普通の話だよ。
色んなおっぱいになって、それぞれを楽しみたかったのに、飛ばし過ぎだ。
アルファベットを一文字ずつ大きくなって、・・・。
壁に掛けた、大きなデジタル時計を見ると、『2010年5月18日 火曜日 午前6時12分』になっている。
不二子は少しずつ冷静にはなって来ているようである。
とにかく、母親に相談することにした。
不二子は2階の自分の部屋から1階まで階段を下りていくことにした。
裸でもかまわない。
「えっー、足元が全然見えないよ。」
不二子は怖くなってしまった。
足を踏み外さないように、注意して降りようと努力した。
しかし、突き出した乳房は肩幅よりも広がっているために、下を向くと自分の胸しか見えなかった。
首を曲げて下を向くと、顎がおっぱいに当たりそうなほどである。
胸の谷間も、真ん中でピシッと付いていて隙間からも何も見えない。
「お風呂で洗うのは大変だろうな。」
そんなことを今更心配している場合ではない。
今のところは、手すりを持ってゆっくりと降りるしかなかった。
「ママ。ママ。」
「おはよう、不二子(ふじこ)さん???」
とあいさつを交わしたものの、不二子の母の美沙子(みさこ)も驚いてしまったようだ。
「大きなおっぱいの女の子が、裸で階段を下りてきたけれども、いったい誰?」
「声で分からないかなあ。
声は確かに私だけど、姿が私に見えないでしょう。
急に美人になっているでしょう。
私の名前は、松坂不二子です。」
「あなたはやっぱり・・・、不二子さんに似ているみたいだけど・・・。」
「わたしは、不二子です。
朝起きたら、こんなになっていて、驚いているの。
ねえねえ、ママ。」
美沙子は、もう事態を飲み込んでいるようである。
あわてている娘の気持ちを、受け止めてくれた。
「朝起きたら、身体がこんなことになっていて。
とにかく、体に合う服がないの。
どうしたら良いかなあ。」
「不二子さん、不二子さんだってわかるわよ。
あなたは、私の娘。
不二子。
急激な成長をしたのだね。
とにかく、どんな身体になったのか、簡単に身体計測してそれから考えましょう。
でも、既製品で間に合うような身体じゃないことはだけは、確かね。
他の人から借りるわけにもいかなそうね。
私の服も難しそうだから。
緑山学園には休むからと電話するから、まず落ち着いて朝ご飯を食べたらどう。
担任は、高岡先生だったよね。」
美沙子のこの言葉を聞いて、不二子は少し安心した。
そして、朝ご飯を毎朝食べるようにしっかりと食べたのだった。
食べ終わる頃に、美沙子はまたたくさんのおかずを出して来たのである。
不二子の好きな、納豆や卵やハムや山盛りのサラダ等も出て来た。
ハンバーグが4つに、鶏肉ステーキに肉団子スープもある。
牛乳1?入りのパックが3本、ヨーグルトも幾つか置いてあった。
こんなには食べられないと不二子は思ったのであるが、スルッとお腹に入ってしまった。
「学校はお休みにするし、あわてないで一時間ほど寝て来なさい。
お父さんが、『急激な成長をしたのだから、しっかり食べて少し寝せなさい。』と言われました。
しっかりと、毛布や布団に包まると寒い季節じゃないでしょ。
その間に亜利紗(ありさ)さんと、香里奈(かりな)さんも学校へ行くと思います。
昨夜成長している時には、脂汗をかいているはずですから、起きたらお風呂に入りなさい。
身体の中から悪い物質が汗になって出ているはずです。お父さんが言っていましたよ。
身体測定はその後、服を買いに行くのはそのまた後にします。」
美沙子がそう言ったので、不二子は自室へ慎重に戻りしばらく寝たのであった。
大きな音はしなかった。
《2》 家で採寸
8時を回った頃、不二子は再び階段を下りてきた。
母は洋服ダンスからメジャーを持ってきた。
まずヒップから測ろうとした。
「不二子さんのお尻って、こんな高い所にあったかなあ。
食卓のはるかに上だよ。
柱の所に、背筋を伸ばして立ってごらん。
あれれ。
不二子さんのお尻、とっても形が良くて立派だからだわ。
背中が柱に付かないねえ。
じゃあ、柱の横に立ってごらんよ。
股下から測るよ。
長い脚だねえ。
身長の半分以上あるみたいだよ。
103cmかな。
次は身長だね。」
美沙子は不二子の気持ちを思い、体重の正確な数値を言わなかった。
否定的な言葉を意識して、避けていた。
不二子の心が傷つくこと無く、急成長を受け止めることが出来る様にしていたのであろう。
不二子はまだ、中学2年生なのである。
柱には、まだまだ傷が付いていて、亜利紗、香里奈と2人の姉たちの名前も書いてあった。
母は、手を伸ばし柱に傷をつけた。
そして、5月18日不二子と書き、メジャーを当てて言った。
「身長は174cmだね。」
不二子は驚いていた。
特に自分の脚の長さには。
続けて母は、落ち着いた声で言った。
「次は、ヒップを測りますよ。
ヒップは、148cm。
順番に測っていきますよ。
ウエスト、55cm。
まあ、羨ましいこと。
ウエストとヒップに90cm以上も落差があるのね。
正直に言うけれど、ずいぶん太いふともも。
太ももの周りは、99cm。
もう少しで、1mですね。
次はバストを測りますよ。
両手を上にあげて、手が届かないからメジャーの端っこを脇で挟んでね。
凄いおっぱいね、私もこんなに大きなおっぱいは見たことが無いよ。
150cm以上あるね。
メジャーの長さが足りないね。
おおよそでいいね。
お店できちんと測ってくれるから大丈夫だよ。」
「お店ってどこにあるの?
なんていう名前のお店なの?」
「不二子さん大丈夫だよ。
『グラマチカル』というお店だよ。
N繊維問屋街の一角にあるのだよ。
ママはよく知っているからね。
さて、サインペンで背中にちょっと印をつけて。
バストは173cm。
でも、世界一にはなれなかったみたいだね。
一度に大きく成長したものだね。
ウエストとの差が、120cm近くあるじゃない。
加藤さんが興味を持ってくれたら得するけどね。」
と言った。
不二子も、ずいぶんと大きいバストだなあと、173という数字を言われて改めて思った。
自分の身長と差がないと思った。
「体重も測るよ、体重計に乗って。」
理由があって、うちの家には体重計は200kgまで測れる高級品を買っている。
「不二子さん。
体重が170kg近くあるみたいだね。
とてもそんなに見えないのだけれど。
どこに、お肉が付いているのでしょう?
ちょっと不思議だね。
お肉の種類でも違うのかもね?」
「そんなに重いって、恥ずかしいなあ。
どうしよう。」
と、不二子が言っても、美沙子はそのことには触れなかった。
それから不二子はお風呂に入った。
お風呂に入っている時には、水分を充分に取ることを美沙子は何度も言った。
美沙子は娘の身体を、ていねいにシャワーソープをスポンジに付けて洗った。
大きなお尻の肉の間や胸の谷間など、汗がたまり易い所を注意しながらきれいにした。
長く伸びた頭髪は、すでに汗でいやな臭いにおいがしていた。
風呂からあがると、不二子は良い匂いがするようになった。
「とにかく今日は不二子さんの身体に合った服を、作りに出かけることが大切だね。
自動車に乗って何軒か、お店を回るよ。
今日は一緒に行きますから。
それと、私がよく知っているお店ばかりだから、心配しないでいいからね。」
と言って、前もって用意していたのだろうか、大きな灰色のティーシャツと長いスカートを出してくれた。
ブラジャーはさすがに無かったし、ショーツは無い代わりに男物の柄の伸縮性無いボクサーパンツ綿100%だった。
ティーシャツは、ピチピチだったけど、なんとか着ることが出来た。
東京の墨田区の方では、男物ならば大きいサイズが簡単に手に入ることを、美沙子に教わった。
「それって、お相撲さんやプロレスラーの利用されているお店かなあ。」
と不二子が言うと、平然と美沙子は
「やっぱりわかったか。」
と残念がった。
スカートはお尻の一番太い所が通らないから、挟みを入れて着てから、安全ピンで3か所止めることにした。
《3》 母の話
「1989年の事なのだから、今から21年も前の事になるのね。」
「ママ、急に何の話をしようとしているの?」
「昭和天皇が87歳で、1月に崩御されて、年号が平成に変わったのよ。
小○官房長官が、平成と書いた額に入った紙を持っていた年なのよ。
6月生まれだから、17歳だった。
『24○間たたかえますか?』なんて言葉知らないでしょう。
健康飲料のCMキャッチコピーだったのよ。
あの夏に、私は急に成長したのよ。
夏休みの8月のお盆のころ、広島県の福山市内の映画館で『魔女の宅○便』を、彼と一緒に見たのよ。
ユーミ○のきれいな歌が、何曲もサウンドトラックに入っていたわ。
そのころは、私も彼も急成長を2回終えているのよ。
不二子さんも、昨日まではそうだったでしょ。
私もやせっぽちで、高校2年にしては、身長が少しだけ低かったのよ。
彼も高校3年だったけれども、同じだった。
それが今の、お父さんなのよ。」
不二子は『急成長』に関することを、美沙子から初めて聞いた。
『秘密』と言っても良いことばかりである。
不二子の体格といえば、身長152センチで幼児体型だった。
やせているけれど、ウエストだけは68センチもあって、変な体型だった。
昨日までずっと、母親のスタイルが羨ましかったのだ。
「夏休みの7月の始め頃に一度目の成長があって、お盆の終わるころに二度目の成長があったのだよ。
二回目は大変だった。
不二子さんはまだ、中学2年生でしょう。
少しずつ、わかって来るのよ。」
「何が大変だったの、いつか、ママ教えてね。」
「教えてあげても、わからないこともあると思うの。
そのうちに、不二子さんにも自然にわかると思う。
その時には助けてあげるから、心配し過ぎないでね。
困った時には、携帯電話で連絡をすること。」
と、美沙子は言った。
不二子は、これ以上質問をするのは、やめることにした。
少しずつ『秘密』を教えてくれそうだから、あわてる必要はないと考えたからだ。
美沙子は、まだ30歳代だ。
39歳の今も、スタイルやプロポーションには気を使って相当な努力を続けている。
体操、ヨガ、食事、マッサージ、トレーニングそれと、家事労働と忙しそうである。
20歳代のころは、出産は育児で時間を取られた。
子どもに手が掛からなくなるに従って、努力して腕や肩、背中、脚のサイズアップを実現した。
不二子は美沙子の身体のサイズを憶えている。
ここ十年来、身長178cm、136−63−118 を保ち続けているからである。
参観日に学校に来ても、嫌というほど目立つ。
後ろにいる人が、美沙子の118cmのヒップを見ているのを、不二子も知っている。
タイトスカートをはいた時なんか、左右の尻肉が別々にプリプリと動くのを眼で追うのは仕方が無いであろう。
セーターを美沙子が着た時、周りの人が不思議そうな表情をしているのも、小さい時から知っている。
136cmのバストが、見る者の眼を釘づけにするのも、仕方がないであろう。
それは、男でも女でもそんなに変わらないようである。
実は、美沙子は去年(2009年)の夏から、再びサイズアップに取り組むようになったことを不二子は知っていた。
そして、成功したのであるが、どんな経緯で始まったかは分からなかった。
今や、156−65−135である。
サイズアップに成功してからは特に、何を着ても何となく窮屈そうである。
それまでも、不二子はどんな服を着ても似合わないように思っていた。
美沙子の胸にも尻にも、お肉がしっかり詰まっているからだけではない。
全身にくまなく筋肉が付いていて、体重が126kgもあることなのである。
今は、もっと重いのだが。
一緒にお風呂に入らない限り、そんなに重い理由は分からないだろうな、と思うと不二子は嬉しかった。
2人だけの時に、ボディービルのポーズを取って筋肉を見せびらかしてくれることである。
それだけじゃなくって、大きなおっぱいやお尻を強調したポーズをしてくれるときもあるのだ。
小学校に入るまでは、頼んでおっぱいを吸わせてもらうことが続いていた。
母親美沙子のスタイルが羨ましくなったのは、小学校の高学年かもしれない。
何度も、クラスの友だちから、美沙子の素晴らし過ぎる身体のことを尋ねられるからであろう。
小学校時代には、女性教師からも尋ねられたのである。
尋ねられても分からない、不二子も去年までは不思議だと思っていたのであるから。
どうしてそんなになれるのかを尋ねても、美沙子はいつもこういうのだった。
「高校生になったら、わかると思うわ。」
誤魔化しているわけでもなかろうが、教えてはくれなかった。
しかし中学生になって、一緒に風呂に入る時には本当に羨ましかったのである。
美沙子の服も着ることが出来ないほどの身体になった不二子は、もう一度自分の服装をチェックした、
ティーシャツは伸び切っていて、胸の形が分かるほどピチピチに張り付いている。
乳首が全く目立たなかったのは嬉しかった。
私が今履いているパンツは、はっきり言ってデカパンである。
お相撲さん用、かもしれないけれど。
恰好は悪いけれども、ティーシャツとスカートは、不二子の身体に一応はフィットしていた。
いつまでもこの服装じゃいやだけど、とにかく今は仕方がない。
裸では外へ出られないけれど、これなら我慢が出来るレベルである。
電車に乗るのは嫌だろう。
「専門店を、3軒教えます。
今日は一緒に行きましょう。
不二子さん、今日は一緒に行きますから、普段は自分で行けるようになって下さいね。」
「オーダーメイドのお店にいくから、車に乗りなさい。
後部座席でゆったり斜めになりなさい。
そうしたら、シートベルトもできるでしょうから。」
不二子は、二列目の座席にゆっくりと乗り込んだ。
松坂家の車は、古いタイプの三列シートのワンボックスなのだ。
走行性能や乗り心地は劣るが、広さや積載量ではこちらの方が上である。
ポンコツになるまで安心して乗ることが出来るのは、部品の信頼度が抜群の高いのである。
不二子が乗り込む時、彼女が思っていたよりも大きく車は傾いたのである。
そのとき、体重が相当に増えたことを不二子は実感したであろう。
車の中で1時間以上を美沙子が、割と一方的に不二子に話しかけた。
「不二子さん。
私の『急成長』は、高2の夏休みの間に2度あったのよ。
その時は、身長153cmで体重46kg、サイズは82−63−85だったの。
ごく普通の高校生のより小さい、体格だったのよ。
それが、1989年の7月11日(火)の朝起きて見ると、今日の不二子さんみたいに驚いたのよ。
身長が168cmで体重が75kgになっていたのだから。
サイズは、106−65−102になっていたのよ。
嬉しかったから、数値まで覚えているのよ。
期末考査は終わっていたけど、ブラウスとブラジャーは合うのが手に入らなかった。
仕方がないから、2Lの体操服と制服のスカートの組み合わせだった。
電話で先生にそのことを伝えようとしたけれど無理。
ずる休みかと思わるのが嫌でそんな格好で無理していったのよ。
今では、ブラジャーの大きなサイズの専門店ならば、既製品でJカップまで通販があるよね。
『話凍る社』や『トランプ』も、Iカップまでは既製品をそろえているから良くなったよね。
不二子には、残念だけどこんな時代でも、既製品はないのだけれど。
1989年ではとっても困りました。
EやFカップは売ってはいない時代に、BカップからIカップに成長したから大変だったのよ。
突き出したような乳房を無理やり潰して登校して、保健室の先生にそのことを言ったの。
話をするより、バストとヒップを見せるのが早道だった。
高校生向けの雑誌ではないけれど、『○笑』に載っていた『グラマチカル』の通信販売の広告を教えてもらったの。
あの先生、そんな本読んでいたのね。
家に帰ると、『歌手の中○明菜が交際中の近○真彦の自宅で自殺未遂』の事件をテレビで放送していた。
2回目は8月18日(金)だった。
身長175cmで体重が113kgにもなっていて、上から、127−65−113になっていたのよ。
筋肉質だけれど、外見からは体重がそんなにあるとは、誰にも想像できなかったらしいのよ。
運動能力というか、力がもの凄いことになっていた。
不二子さんも、力は相当強いと思うよ。
それはそれでいろいろと気を使うのだけれど、その秘密についてはまた後で教えてあげる。
岡山市内にも福山市内のお店にも、そんなサイズは無かった。
注文すれば、作ってくれたけれど・・・。
IカップからQカップになっていて、頼りになるお店は『グラマチカル』だった。
一週間はほとんど家から出ないで、制服屋さんに行ったのと『グラマチカル』への郵便を出すのとだけだった。
家でテレビばかり見ていたけれど、どのチャンネルでも同じニュースばかり追っかけていた。
『宮ア勤(つとむ)東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件』の話ばかりだったのを覚えている。
ワイドショーにも飽きて、高校野球も見ていた。
確か東京の学校が優勝したように憶えているわ。
縦縞のユニフォームだったかなあ。
よほど、することが無かったのでしょうね。
こんなことを、憶えているのだから。
不二子さん、あなたは中2で、ただ一度の急成長で、こんなに良い身体になっているのよ。
今の段階でも、身長174cmで、上から173−55−148でしょう。
二度目の急激な成長がありますから、ママと一緒に覚悟しておいてくださいね。」
目的地までは、まだ十分時間があったので、不二子は急成長するに至った理由を尋ねた。
「今話せるのは、こんなことかもね。
小さい時私は、岡山県の小田郡美星(びせい)町の星田に住んでいたのです。
不二子も行ったことのある、井原市内に引っ越したのは小学校の途中だったの。
平成の大合併で、美星町は井原市と合併したのだけれどね。
高校は井原市内の学校に通っていて、天文科学部に入っていた。
笠岡へも、行ったことがあるでしょう。
10qほど離れた、笠岡市内の高校の天文科学部と、2校合同で美星町に星の観察会に出かけたの。
先生たちも合わせて、合計14人だった。
先生たちは、星の説明を楽しそうにしてくれて、私たちも研究発表したりして打ち解けた雰囲気だったのよ。
その日は6月4日で日曜日だった。
美星町はその何年か後に天文台が出来るのよ。
その年に、『美しい星空を守る美星町光害防止条例』が出来た程、星空のきれいな所なの。
星が美しいと書くのだけれど、2つの川の名前を一緒にして町名にしただけ、美山川と星田川。
私たちの学校の顧問の理科の若い女の先生と、笠岡市内の高校の天文科学部の顧問の先生と仲が良かったの。
2人は、同じ大学の理学部の学生だった、そして何年かして結婚したと風のうわさで聞いた。
近くの高校の天文科学部の副部長だったのが、今のお父さんなの。
その日は、真っ暗な中でなぜか2人だけ離れてしまって、寂しいから話をすると、いろんなことがわかったのよ。
その時は、私たち2人は全員で探されてしまったけど、不思議に見付からなかった。
同じ美星町の同じ小学校に行っていたこと、家も近かったこと、引っ越して今は笠岡市に住んでいることなどね。
家族のことも話したりして最後に、住所と電話番号を交換して、またどこかで会うことを約束したの。
6月で梅雨だったけれど、しかも台風が鹿児島には近づいていたのだけど、晴れて星空のきれいな夜だったの。
その頃のお父さんは今よりずっと小さくて、身長が161cmでガリガリにやせていて、分厚い近視のメガネを掛けていた。
がり勉タイプで、運動は苦手なタイプだったけれど、それは私も同じだったかもしれない。
観察会の帰りは夜遅かったので、女の顧問の先生が8人乗りのワンボックスで、一人一人送ってくれたの。
家に帰ると、テレビでは夜遅くまで中国の天安門事件の残酷なシーンを何度繰り返し放送していたのを憶えている。
向こうの学校も、顧問の先生が送って行った。
次の日、たがいに電話しあって、井原と笠岡の間へ。
それから、自転車で行って会うことも何度も。
2人の移動手段は、自転車ね。
お互い坂道を上って、息を切らして、峠で座って空を見るの。
天文科学部にでも入っていたから、知っているのだけれどね。
1989年3月10日の午後8時57分に、静岡県上空から三重県に向かって隕石が飛行したの。
四日市市内か伊勢湾に小隕石が落下したと言われているけれど、発見はされていないの。
それは少し違うのよ。
何者かが、私たちに渡すために、そこに置いたと言うのが正しいかな。
その中の一つを、私たち2人は6月になって峠の近くで発見したの。
6月25日の日曜日に山に登った時に、石を拾うとき不思議なことがあったのよ。
まだ本当のことは教えてあげられない。
あの約束があるのだから。
亜利紗と香里奈にも教えていないことだから。
私も詳しくは分からないから。
博司さんは、もっと詳しく知っている。
あの時も、急成長する日を教えてくれたから、少しは準備できた。
二人の急成長する日は同じだった。
2回目の星の観察会の前に、私たちはお互いの急成長した身体の話を電話でよくしていた。
博司さんはそれまでの印象とは全く違っていて、大柄でスタイルやプロポーションも変わっていたの。
8月26日の(土)の、合同で星の観察会の時のことを話せる日がいつか来ると思う。
2人とも、2回の急成長を終えていていたのだけれど。
まだ、亜利紗や香里奈にも話していないから。
土曜日のことだったのよ。
あの日は、礼宮文仁親王(現・秋篠宮文仁親王)が川嶋紀子との婚約を発表した日だった。
高校の2年生の2学期からは、天文科学部を2人ともやめたの。
運動クラブの掛け持ちを、始めたのよ。
それと、ウエイトトレーニングを始めた。
私は、学生で結婚して大学をやめたけれど・・・。
博司さんも、急成長しているのよ。
不二子は2回目の成長のことと、日常生活の変化については覚悟しておいてね。」
「ママ、何を覚悟したら良いの。」
不二子は、質問したかったけれども言えなかった。
たくさんの断片的な事実を聞いたから満足したのだろう。
二度目の成長があることは、記憶しておくことにした。
「私は遠慮深い性格、控えめな性格なのだと思う。
姉たちとは違うみたいだ。
ママの高校生時代の大変だった話は、またいつか話してくれると思う。
今は自分のことを考えよう。
心配は心配なのだけれど、心配するって何を心配したら良いのかなあ・・・。
そのうちに分かるのだろうな。」
不二子は黙ってそんなことを考えていた。
《4》 『グラマチカル』にて
車は市街地を走っていた。
N繊維問屋街の外れにある、繊維問屋の一軒の前で止まった。
「お店に着きました。
必ず長いお付き合いになりますから、礼儀正しくしてくださいね。」
看板に白と黒のペンキで大きく、『グラマチカル』と書いてある、正直に言って古くさい木造の2階建ての建物だった。
しばらく順番を待った。
3人の客の用件が済み、不二子たちの番になった。
「松坂美沙子様、良くお越しになりました。
今日はお美しい娘さんまでお連れですか。
亜利紗様、香里奈様に続いてのご来店ですね。
本当にありがとうございます。」
男性の大柄な店員の丁寧なあいさつで、ママたちが、この店を利用していることが分かった。
「社長さん、いつもお世話になっています。
今度この子もお世話になることになりました。
採寸から始めて下さいね。
ただしこの子はまだ、中2なのです。
今日は、学校を休ませています。」
社長の驚きようを見て、(何に驚いたのかな?) 私は少し不安になった。
「待ち時間3時間程度で、縫製もすまして下さいね。
全部2着ずつ作って下さい。」
不二子の母は言った。
「松坂不二子様。
採寸や縫製はこちらの女性の職人が詳しいのです。
どんな細かいことでも、この『加藤』に頼んで下さい。
なんとかいたします。
何とかするが、私たちのモットーです。
まだ、先の予定もありますから。・・・。
それと・・・。」
社長は、女性の職人を紹介してくれた。
「先日作っていただいた服、よく似合っていると評判でした。
いつも、良い服を作っていただいて嬉しいです。
・・・。」
美沙子は、社長さんと話しながら、私を残してどこかへ行ってしまった。
いったい、どんなタイプの女性が現れるのだろうか。
不二子はいろいろと想像していた。
175cm近い身長の胸とお尻の大きな女性が現れた。
50歳ぐらいの年齢に見える。
上から、112−68−98 程度はあるだろう。
と言っても、今の不二子よりは相当に小柄だが。
ちょっと見た感じでは、美沙子みたいな女性だった。
でも、胸もお尻も美沙子の方がずっと大きい。
「この人が加藤さんなのだ。
こんな人を、グラマーとか巨乳とか言うのだろうな。」
不二子はそんなことを考えていた。
彼女にはまだ分からないだろうが、この女性には貫禄があるというよりは、頼りがいに溢れていた。
たくさんの人に貢献し続けてきた者、のみが持つ重みが存在した。
「おはようございます。
お世話になります。
わたしが松坂不二子です。
この四月に中2になりました。」
とハキハキと自己紹介をした。
加藤も、自己紹介をする。
「加藤真美子(まみこ)です。
不二子様は、急激な成長をされたのですね。
当店には、関東は当然のこととして、日本全国からお客様がお見えです。
まずは、採寸をしていただきます。
そうしませんと、衣類はお作りすることができません。
不二子さん。
何か所も採寸させていただいて、始めて身体に合うようすることが可能です。
ABM装置を使えば、どんなに凹凸の激しい身体にでもフィットするように、生地の裁断が可能なのです。
縫製の技術は、日本中のどのお店にも負けません。
サイズ直しや仕立て直しこそ、喜んでやらせて頂きます。
また、サイズデータは系列店にも、メールで送らせていただきます。
まずこちらへお越しください。」
加藤のきびきびした話し方が、不二子を緊張させる。
高感度は高いのだけれど、ビジネスライクな感じに慣れていないのであろうか。
加藤さんについて、採寸室に入って行った。
ドキドキするなあ。
「松坂不二子様。
まず正確に採寸します。
その後、こちらのABM装置で身体の形状をお調べします。
お母さまが、採寸されたとは聞いていますが、もう一度正確に調べなければなりません。」
美沙子が渡したメモを見ながら、加藤は言った。
加藤は、普通の1.5mのではない長いメジャーを取り出した。
彼女の採寸は手際が良かった。
「バストが177cmですね。
乳房を持ち上げて測る必要がありません。
超乳と呼べます。
肩幅が広い上に、ウエストが引き締まっています。
間違いなく、美しいシルエットが表現できます。
乳間などもお測りしています。
ヒップは152cm。
形がまた美しく、余りにも立派過ぎて・・・。
身長計では身長を測りにくい尻ですので、ご注意下さい。
まさに超尻と呼ぶことが出来ます。
ウエストは55cmです。
バストとの落差が122cm。
ヒップとの落差が97cmですか。
お衣装をお作りするには、苦労が相当あります。
裁断から縫製までが複雑になります。
ウエストの細さが理由です。
当店以外には制作不能ですね。・・・。
まあ、当店としても研究の対象ですが。
『研究』という言葉に驚かれない様に。
研究しないでは、何事も上手くいくものではございません。
スタイル、プロポーションが素晴らしいということです。
心配無用です。」
「加藤さん、朝測った時より大きくなっているみたいですが・・・。」
「松坂様の場合は、つまり急激な成長自体がまずレアなケースです。
その中でも、不二子様ほどの成長はレアなケースです。
ですが、全く心配ございません。
急激な成長を、なされた時には、後で少しだけ成長されるようです。
地震にも余震がありますように。」
「これからは、不二子さんで良いです。
様と呼ばれるとていねい過ぎてちょっと・・・。
私は中2ですから、それぐらいの方が親しみを感じます。」
「はいはい、わかりました。
これからは、不二子さんにします。
今度はこの装置の中にお入りください。
体型が網の目のような3Dで、表わされてきます。
先ほどの数値を代入いたしますと、積分されて様々な部分の長さや面積、重さがわかります。」
不二子は真っ裸になって装置に入った。
1分ほどしてから、不二子はABM装置から出て、そして服を着た。
ものの5分で、結果が出てきた。
「身長は、176cmです。
脚長が、105cm。
脚長率は59.7%です。
肩幅も広いです。
標準の1.8倍です。
大腿囲が99cm。
アンダーバストは、122cmです。
筋肉の発達が、不二子さんの身体の特徴です。
不思議なことに筋肉の比重が高く、見た目にはそう見えませんが、運動能力も相当なものと断定できます。
ウエイトトレーニング等で鍛えても、ここまでは成長不可能です。
相当量の筋肉が乳房の下に存在しています。
乳房にもし、今以上の成長が在りましても、垂れることで形の美しさが損なわれることはありません。
ですから、全く垂れません。
気にする必要がありません。
サイズ早見表で見ますと、Sカップということですね。
まだ早見表で調べることが可能です。
1枚お渡ししておきます。
これで、お作りすることができます。
不二子さまは、まだ成長する余裕というか、可能性を感じております。
どちらかと言うと、良いことと考えられて、お気になさらないで下さい。
骨格が大きく、随分と骨が太いのです。
何度も申しますが、筋肉が相当発達しておられます。
そして、部分的には相当量の脂肪がついています。
それで、女性的なお身体になっています。」
ていねいなのと、率直なのと、バランスが悪い物言いだったのが、不二子には気にかかった。
しかし、彼女はあまり細かいことに気を使うタイプではなかった。
言葉にするのが難しかっただけなのである。
「まず、年齢的なことも考えて、ボックスショーツを2着、フルカップのブラジャーを2着お作りします。
過激なデザインは避けるようにと、お母さまから聞いています。
これらはお昼までには出来上がります。
体操服とハーフパンツは明朝早く、特別宅配便でお届けします。
それから、当店でワンピースの学校用水着も作らせていただきます。
明日来ていただくと、仮縫いが出来ます。
学校指定の色でお作りします。」
「それだけでは、足らないのですが・・・。
制服や私服なども欲しいです。」
「制服のブリーツスカートとブラウス2着は当店の姉妹店の『ブーティー制服店』でお作りします。
今日中に出来上がります。
寝巻やジーンズとTシャツは、
当店の姉妹店『カジュアルブーブ』でお作りします。
とりあえずお困りの無いように、今日中に仕上げます。
そちらへお越し下さい。
データは当店からメールでお送りしております。
何か、ご質問はありませんか。」
「よろしくお願いします。」
《5》 服が出来てくる
不二子は『グラマチカル』で、下着の出来上がりを待つことにした。
加藤の行きとどいた仕事ぶりに、安心したのだ。
採寸室から出て、店内のソファーを独占して、リラックスして時間を過ごした。
そこは待合室なのだろうか、他にも木製の丈夫な背もたれの無い椅子が数脚置いてあった。
体格の良い女性が、加藤さんと一緒に採寸室に入っては出てくるのを見ていた。
2m近い身長の外国人女性、相当に肥満した女性、様々なタイプの大きな女性が現れては消えていった。
バレーボールを引退してタレント活動をしている女性や、有名な女子柔道の重量級の選手も来ていた。
バストとヒップの大きな標準的なグラマーな女性もいたし、まるでママのような超乳超尻の人も1人いた。
待つ間に、10人を超える女性が採寸を終えていた。
「あの人たちも、既製品がないのだろうな。
私もそう。
ここで採寸して、姉妹店で作るのね。」
待っているうちに、不二子は『グラマチカル』に信頼を置くようになってきた。
落ち着いて安心して、自分の下着が出来るのを待った。
程なくして、美沙子が帰ってきた。
もう、不二子の身体サイズのデータをメールで見たらしく、色々と心配をしてくれていた。
「不二子さん、こんなに早く今日のような日が来るとは思ってもみなかったわ。
早くても、高校に入学してからだと思っていたのだけど。
本当に、一回目の急成長でこんなに立派になってくれるとは、予想もしていませんでした。
教えてあげていなかったのは、ママの予想をあなたが超えたからなのよ。
でも不二子は、よほど驚いたのだろうってと思うの。
可哀想で。
驚かせて御免なさい。」
・・・。
しばらく、親子の間に静かな無言の時間があった。
「でも、大丈夫よ。
『グラマチカル』系列は技術がしっかりしているの。
不二子さんの身体にぴったりの下着ができあがるのよ。
こんな格好で、もう過ごさせないわ。
スカートに挟みを入れさせたりしないから。
私も、高校生以来20年以上このお店でお世話になっているの。
安心して良いのよ。」
加藤は、不二子のショーツとブラジャーを持って来た。
ショーツのはき心地はとても良かった。
不二子の、後ろまで肉の詰まったお尻にも、ピッタリとフィットしていた。
不二子は鏡で見て、大きく盛り上がったお尻にピッタリとくっついていることを確認した。
尻の深い谷間をも、浮き上がらずにトレースしている。
さすが、ABM装置で作っただけのことはあるのだろう。
続けてブラジャーも付けてみた。
「なるほど、これがブラジャーなのね。
ブラジャーを付けるってこういうことだったのだね。」
Aカップのブラジャーを付けても不二子の胸には意味が無かったのだ。
単に付けただけで、ガサガサしてとっても気持ち悪かった。
乳首が目立つほど大きい訳でもない。
『グラマチカル』で作ったブラジャーは、乳房を快く固定してくれているのだろう。
「下着をつけると、気持ちがいいね。
つけた方がずっとずっとすっきりする。
加藤さんありがとう。」
不二子が言うと、ママも加藤も大きな声で笑った。
不二子も下着を付けた時の、自分の女性的な身体を見て本当に嬉しそうだった。
「それじゃ、次の制服店に行きましょう。」ママは言った。
「明日でも、学園の帰りにお寄り下さい。
私は、不二子さんには、特別な思いがあります。
無理なら、明日でなくともよいのですが、お待ちしております。」
加藤は、そう言った。
ブラジャーとショーツを一つずつ包んでもらった。
あとの一つずつは不二子の身体に付いている。
しかし、それにしても大きなショーツとブラジャーだ。
こんなに大きな下着でなければ、不二子の尻と胸にはフィットしないのだ。
不二子は自分でもびっくりした。
少し悲しい気分でもあった。
(これでこれからの生活、大丈夫なのかなあ。)
「次は、不二子のようにサイズの大きい制服を作ってくれるお店に連れていくよ。
わかると思うけれど、さっきのお店は色々と気を使ってくれるね。
でも、本当は下着のお店です。
それと、採寸と系列の本店でもあるのよ。」
「そして、最後はカジュアルな服のお店でしょう。」
「今日はそれだけ回ったらおしまいです。
不二子さんの当座の服は足りるでしょう。
でもね、一度は着てみないと、不二子さんの身体にあうかどうか?
下着のようにはいかないかも。」
次のお店に向かう。歩いていける距離である。
『ブーティー制服店』に着てみると、女性の店員さんが出てきた。
20代後半で、比較的小柄な方だった。
「松坂さまのお嬢様ですか。
担当の佐藤寛実と申します。
それでは試着していただきまして、お直しして晩までにはお届けにあがります。
それでは、フィッティングルームへ。」
ブリーツスカートを試着した。
着心地は良かった。
欠点は不二子にはわからなかったのだが。
「大きな欠点がございました。
説明させていただきます。
不二子様のお尻と、92cmのヒップの方のお尻を、最も太い部分で比較します。
92cmでも大きなヒップでございますが。
その方のお尻よりも左右に5cmずつ横に広いのです。
後ろへは、20cm長い形なのです。
ウエストラインからだと、真後ろに25cm突き出ています。
そして突き出た所からスカートの布地が垂れ下がっているのです。
スカートの下の線が、後ろが上がってしまいました。
仮縫いを解きましてやり直させていただきます。」
「ママ、難しそう。
大丈夫かしら。
あの方は若いけれど。
説明が、よくわからなかったのだけれど。」
と心配して話しかけると、
「不二子さん、大丈夫ですよ。
このお店の技術は優秀です。
ママも高校生の途中からは、このお店で制服を作ってもらったのです。
心配はありません。」
30分ほど待つと、出来上がってきた。試着するとまだ問題があったようだ。
試着は、佐藤さんが納得するまで繰り返されたのだった。
「次はブラウスでございます。
標準よりずいぶん肩幅が御有りです。
また、背中や腕回りに相当筋肉がお付きでおられます。
身体を動かしても破れたりすることなく・・・。
ブラウスのボタンが止まってはいますが、いかにも引っ張られているように見えます。
動かれた場合に、ボタンが飛んではいけません。
補強するなり、根本的に直してまいります。」
「あわてなくてもよろしいと思います。
佐藤さんのペースで取り組んで下さいね。」
不二子の母が、気を利かせて言った。
「ママ。
バストが大きいと、ブラウスのボタンって飛んだりするの。」
「ママは、何回か飛ばしてしまいました。
このお店の服は、大丈夫です。
そんなことはありません。」
試着は数回にわたり、その度に仮縫いが繰り返された。
「直してまいりました。やはり、バストが予想を超えていました。
鎖骨の上から、真っすぐ前に40センチも突き出しているとは・・・。
そして、細いウエストにも対応させていただきました。
これでよろしいかと思います。」
「何度も試着させていただいて、本当にありがたいわ。」
その結果、不二子の胸に対してゆったりとしたブラウスが出来上がった。
「その代わり、着脱のやり方が一般的なブラウスとかなり違います。」
説明書きを見ながら、不二子は何度も練習をした。
見た目は、普通のブラウスと全く変わらなかったのである。
これで、身体を動かしても大丈夫みたいだなと、不二子は思った。
車に乗り、3番目のお店へと向かった。
寝巻とジーンズとティーシャツが仮縫いを一応終えて、不二子を待っていた。
ここでの試着仮縫いのやり直しは簡単に終わった。
次にジーンズを渡された時、その長さに驚いた。
小学校3年生の身長程の長さがあったのだ。
試着の際に店員さんは、
「105cmの長さの脚への対応には苦労をしました。」
と、話されていた。
ヒップとウエストの落差への対応にも苦労があったはずである。
試着と仮縫いは何度も繰り返された。
152cmのヒップを通るように、ジーンズにも特別な工夫が何か所もされていたと聞いた。
たとえば、ファスナーが横にも付いていたのだが、見た目にはそう見えない。
さすがは、『カジュアルブーブ』である。
最後のジーンズ試着の時に、美沙子は、不二子に歩くように言った。
想像を絶する太さの大臀筋が、不二子の脚の動きに従ってプリプリと動いた。
セックスアピールを振りまいている訳ではないけれど、左右に大きなお尻が揺れた。
左右のお尻の肉の摩擦で、音が聞えるような錯覚を覚えたほどである。
鏡で見ると、お尻の肉が鏡に入りきらないのが不二子には可笑しかった。
「ホットパンツやタイトスカートも似合うと思いますよ。」
と店員は言った。
ティーシャツは、ブラウスのデータを使ったので、試着は一回で終えることが出来た。
ゆったりとしていて、リラックスできる仕上がりだった。
胸には、『FUJIKO』と大きく黒い文字を入れてもらった。
「おっぱいの形で、字は変形しないのね。明るいブルーは不二子さんに合う色ね。」
ママは言ってくれた。
朝から着ていたピチピチのTシャツと挟みを入れたスカートは、出来たばかりの服に着替えた。
「不二子さんの姿は、前後左右どこから見ても素敵だわ。
後ろから見た時の、身体の線は本当に素敵。
こんなに締まったウエスト見たことが無いわよ。
横から見ると、バストとヒップのラインがとっても攻撃的にセクシーよ。
あなたしか持っていないラインだわ。
とっても美しくて個性的。
中学2年生に、セクシーなんて言ってはいけなかったかしら。
でもね、不二子さん。
いろんなことが起こるから・・・。
まあ、それも不二子さんの心の急激な成長かもしれないけれど。」
と不二子の母は言った。
私は黙っていたけれど、何度も聞く「覚悟」という言葉に少し引っ掛かっていた。
「不二子さんでいらっしゃいますか。
私どもの店『カジュアルブーブ』は、多少規格から外れられているお身体の女性のお店でございます。
美沙子様とのお付き合いも長くなって参りました。
ところで、不二子さんの衣服につきましたは、当店にとりましても格別の意味があるように思います。
特別価格で作るようにと社長から言われております。
時間のあるときには、お越しいただければ嬉しく思います。
その際、こちらではなく『グラマチカル』の加藤まで来ていただくようにと言うことです。」
『カジュアルブーブ』の店員は言った。
3軒とも、N繊維問屋街の中でそんなには離れていないのである。
「ええ、そうなのですか。
不二子さん、明日にでも行ってらっしゃい。
これからいろんなことが起こるかもしれませんが。
規格外でも気にする必要はありません。
その素敵な笑顔で、笑いながら流していってね。
何が起こってもね。
私も、平気だったのだよ。
大丈夫だからね。
でも、不二子は本当に綺麗。
肌が白くてすべすべできめが細かくて。
その上に美人でもの凄いプロポーションとスタイル。」
と言いながらも
(私と不二子はサイズが違う。
本当に大丈夫だろうか)
と心配していたのだそうだ。
《6》 帰宅する
親の心子知らずとはよく言ったもので、不二子は言葉道理に安心していたようだ。
『グラマチカル』には、しばしば来ることを約束してこの日は自宅へ帰った。
姉の亜利紗と香里奈がクラブ活動を終え、夜になってから学園から帰ってきた。
高校2年生の途中からバレーボールとバスケットボールの両方に入部しているのだ。
実は、2人の入部から、二つのクラブは県下でも強豪校になっているのだ。
不二子の双子の姉2人は、目立ちたがりやで、でしゃばりで元気がよいのだ。
粘り強さには欠けるけれども、あっさりしていて・・・。
会話も、遠慮が無いと言うかせっかちと言うか・・・。
「お母さん、不二子と一緒に朝からバタバタしていたけれど、何かあったの。」
「今朝起きたら、急激に成長していた。
だから、一日中ママと一緒に・・・。」
「えっー。不二子が『急成長』したの。
私たちはママと一緒で、高校2年生の夏休みだったのに、中2の分際で・・・。」
と、亜利紗がいうと、すかさず香里奈が続けて、
「今まで、小さかった不二子がどんなになったの。
楽しみ。
姿を見せてよ。
不二子、出てきなさい。」
恥ずかしがって隠れていた不二子が、二人の前に登場すると腰を抜かさない程に驚いていた。
「私たち双子は、『急成長』する前に身長168cmあったけど、不二子は152cmだったでしょ。
体重は60kgで、スリーサイズも、92−63−88だったのよ。
一応、Fカップはありました。
運動も得意だったしね。
『急成長』しなくても、十分グラビアアイドル並みでしたから。
不二子ったら、見栄で付けているAカップだったでしょう。
走ると揺れるのはブラジャーだけ。
ガサガサ音を立てながら。」
「不二子ったら、身長は175cm以上になったでしょう。
20cm以上も身長が伸びているのね。
何よ、そのバストの大きさ。
何かボールでも入れたの。
そんなにシリコン入れる人はいませんね。」
「何cmあるのよ。
バストは何カップ。」
「何か急に顔つきまで変わっている。
美人になっているじゃない。」
「何、その大きなヒップ。
触っていいかな・・・。
うそだ・・・。
これ全部お肉なの。」
「お尻が付いている所が高いね。
ずいぶん長い脚ね。
太くて象さんみたいな脚ね。」
「ひざの関節まで、太いと言うか逞しいと言うか。」
「腕の力こぶを見せてよ。」
「ヒエー、もの凄い筋肉の太さ。」
亜利紗と香里奈は、見事に交代で質問を繰り出した。
元気な姉たちからこんな目に合うと不二子はだいたい覚悟していた。
今までもそうだったから。
「身長は176cmになりました。
上から177−55−152、カップはS。」
「体重も言いなさい!」
「・・・173kg・・・。」
最後は消え入りそうな声で、何とか答えた。
「不二子の声小さいから、よく聞こえなかったけど。」
それでも、姉たちに質問を返した。
「亜利紗姉さん、香里奈姉さんはいったちどんなサイズだったの。」
「高校2年生の、夏休みの7月に一回目の急成長があって・・・。
確か・・・。
身長が178cm、体重が98kg、スリーサイズは106−68−102。
そうだったよねえ。」
「その時に二人とも、バレーボール部とバスケットボール部から、誘われたのです。
8月に二回目の急成長があったのよ。
身長は189cm、体重118kg、上から130−68−117でーす。
筋肉が物凄く付きました。
不二子も言ったから、体重もサービスで教えます。」
「それからは、バレーボール部もバスケットボール部も2人ともレギュラーで大活躍。」
「急成長で筋肉も発達して力も強くなったから、途中入部なんてだれも気にしていません。」
「あれから一年経ちました。
普通の意味で成長しました。
身長伸びて193cm、バストとヒップは増量し、ウエストしっかり締めました。
サイズは上から、134−63−121でーす。
だけど体重127kg。
とてもそんなに重いとは、ちっともちっとも見えません。」
「不二子。
そんなに重いように見えないでしょ。
ねえ、そうでしょ。」
「・・・ハイ・・・。」
不二子は無理やり言わされた。
「不二子だって、体重が170kg以上もあるって見えないからね。
ねー。
サービスサービス。」
ここまでは、調子に乗って明るく話していた姉たちも、急に落ち着いて話し始めた。
「不二子は、まだ一回目だし、中2だし、凄い急成長だよ。
もう既に、バストもヒップも私たちよりずいぶんと大きい。
私たちも、不二子がそんなに大きなバストとヒップになるなんて、イメージ出来なかった。
分かっていたら、その前に教えてあげられたが、中2じゃ早すぎた。
覚悟した方がいいかも。
二回目は大きくなるのよ。
もしかしたら。
もしかしたらだよ、不二子にだけは三回目があるかもしれないね。」
どんな覚悟をしたらよいのかは、具体的に教えてもらえなかった。
母親の美沙子は、立派な体格をしていたことは前に言ったとおりである。
背も高いしバストとヒップが規格外に大きかった。
だから、街を歩いている時は目立っていて、よく振り返られていた。
その母親と並んでいても、父親は全く負けない立派な筋骨隆々たる体格をしていた。
バレーボールやバスケットの選手でもなければ、格闘技の選手でもなかった。
緑山大学で、生物学で遺伝子と宇宙から来る隕石の研究をしているということ程度は、不二子にも理解できた。
研究内容までは全く分からないが、今は余り使われないが「学際」の研究である。
娘たち3人は、地域の公立小学校を卒業した後、緑山学園中等部に入学した。
関係者枠というのであるから、特別待遇である。
それでも入試はあった。
授業料も安かったのかもしれない。
同じ私鉄沿線で、乗り換えが無いのが良かったのは間違いないであろう。
父親の博司は、緑山学園大学の卒業生ではない。
講師になってから、この学園に奉職している。
美沙子も、パートタイマー的に大学で事務仕事をしている。
緑山学園大学は、理農工学系・社会科学系、芸術文学系で三地区に別れていている。
いずれも中等部や高等部からは離れているが、博司が勤める理農工学部は駅で言うと2つしか離れていない。
歩く方が早い程度の距離で、案外に近いのである。
学園には宗教色は無く、当然青○学院とは関係が無い。
高校時代はがり勉タイプであるが、急成長以後は運動クラブの掛け持ちをしていた。
ボディービルにコツコツと取り組んでいるが、大会に出ることには興味がないようであった。
筋肉を増量させることは興味があったが、ダイエットが嫌いなようだ。
それ以前に、自己顕示欲に欠ける。
他人に筋肉を見せるのが嬉しいとは思えない、なにかがあったのだろうか?
不二子は風呂に入って、夕食を取った。
今日も、家族が揃って夕食は出来なかった。
父親の帰りは遅かった。
帰宅後は研究とトレーニングである。
母と父とは高校時代に知り合い、大学生で結婚したこと。
姉二人は母が大学時代に生まれたこと。
以前に書いたこと以外は良く分からない。
高校生時代よりは、今の方がトレーニングでもっと凄い体力になっているのだ。
体格も大きくなっているのである。
夜毎の肉体のぶつかりあいは、いかに激しいものなのだろうか。
夫婦たるものそうでなければなるまい。
ここで書くことは絶対にあり得ないし、子どもたちにまだ話す内容ではあるまい。
父親は、母親から、不二子が急成長をしたことを聞かされても、驚く様子はなかった。
いつものように風呂に入り食事をし、自室で研究の続きを始めた。
この日も、居間でくつろぐ三姉妹の方を、さらっと見ただけであった。
夫婦の間でどんな話があったのだろうか。
不二子の知らない所で、父親の博司は研究の成果を実感しているのであろう。
不二子は自室に戻り、朝からのことを思い出しながら日記を書いた。
日記を書くのが、趣味なのである。
いつもよりも、文章が長くなってしまうのは仕方が無い。
不二子は
「いつの日か、しっかり勉強して、自分の急成長の秘密に関して、父親から話を聞きたい。」
と書いていた。
それから、ベッドに上がるとすぐに寝入ってしまった。
明日からは、学校へ行くのだ。
自分の急成長の事を、どのように説明したら良いのだろうか?
心配なことはたくさんあるだろうが、気にしてはいない様子の不二子であった。
すやすやと、気持ち良く眠っているのである。
今日の苦労は今日で充分なのである。
明日に尾を引くのが良くないと、古今東西で言われているのである。