★その6 仲良し4人組の夏 (後編)
《1》 夏の朝
8月10日火曜日の、朝のことである。
「起きなさい。
今日から夏休みだからといっても、限度と言う物があるのよ。
今何時だと、思っているの
明日は、お友だちと一緒に海に行くのでしょう。」
階段の下から、大声で母が起こしてくれるまで、この日はどういう訳か目が覚めなかった。
たくさん寝汗をかいている。
私の寝ていた所が、汗でぬれている。
夕べも暑かったら。
ヨイショッと。
(布団を干した)
これぐらいは、自分でしなければならないよね。
今日からは夏休みなのだから。
布団の横に置いてあった、ペットボトルのお茶を飲んだ。
相当にのどが渇いていたようだ。
ガブ飲みだ。
遺伝子接種を受けたけれど、急な変化を期待したのは、私の間違いだった。
そんなにすぐには、身体に急成長は無いようだ。
残念な気がする。
10時まで寝ていたのは、朝寝してやろうと思ったからではなかった。
眼が覚めなかったのだから、仕方がない。
目覚まし時計は、数度鳴ったような気がしている。
台所へ行く前に、机の前の椅子に座った。
色んな事が脳裏に浮かぶ。
スーパーモデル見たいな体型になりたかった。
夢見ていたと言った方が、正しいだろう。
Sンディー・クロフォード、Rンダ・エヴァンジェリスタ、Nオミ・キャンベル、Kリスティー・ターリントン。
名前は、すらすら言う事が出来るほどだ。
3人ぐらいは、誰でも言えそうだけれど。
まだ言える。
Kラウディア・シファー、Kイト・モス、Gゼル・ブンチェン。
少しタイプは違って女優っぽいけれども、Kム・ベイシンガー、Dミ・ムーア、Kャメロン・ディアス。
憧れの気持ちがわかってもらえると思う。
日本人初の、本格的なスーパーモデルのデビューが夢だったのよ。
名前を出すとわかるけれども、筋肉質な体型をしている。
最近の流行だ。
フィットネスが、どうのこうのってね。
筋肉質と言ってもねえ。
不二子みたいに、筋肉モリモリは、絶対に嫌だ。
あの子には悪いけれど。
筋肉質と言うのは、意味が違うのだと思う。
亜利紗先輩や、香里奈先輩でも、筋肉は付いていても付き過ぎだ。
男性ボディービラーのような量の筋肉だよ。
まして不二子なんか、その3倍ぐらいね。
おっぱいが大きいのだから、少しぐらい垂れてもよいのではないかなあ。
あそこまで筋肉が凄いと、私は見ていて気持ちが悪くなるよ。
体中に牛肉が、ベタベタ貼り付いているイメージだ。
私だったら、恥ずかしくて、街を歩けない。
私だったら。
不特定多数からの興味有り気な視線が、体のここそこに突き刺さるのは嫌だよ。
でも・・・。
不二子だって、あんな風になりたかったとは思えない。
なりたかった姿に、なってはいない筈だから。
ギャップに、苦しまないのかな?
まさか、私もなれなかったりしてね。
心の奥底の『秘密』かな。
深層心理とか言うのよ。
自分でも分かっていない部分のことを、誰かに教えてもらうって、怖いと私は思う。
自分じゃ気づかないように、心に扉を下ろしている。
聞いた事すら、ないけれど。
懇談会で見た、あの母親かな?
一瞬だったけれども、私には、少しだけ謎を秘めた人物に見えた。
私の理想はね。
まず、身長が高くなければね。
180cm近くの身長は、必要。
脚がすらりと、長くてね。
Kャメロン・ディアス見たいに、可愛いタイプになりたい。
お尻がプリっとしていて。
ブーティーじゃないよ。
パパが大事に持っている「S木美穂」の写真集。
あんな身体に、なりたいなあ。
今は、40歳位かなあ。
脚の長い、凄いスタイルの「おばさん」って、変な言い方。
周りのレースクイーンはハイヒールを履いているのに、自分だけはローヒール履かされて。
スタイリストの指示だよね。
それでも、脚の長さが違い過ぎ。
同じ身長で、ヒール低いのに、お尻の位置が高いのよ。
Dカップぐらいの、巨乳だしね。
それでも、不二子の方が、脚が長い。
急成長で身長が伸びたと言っても、伸びたのは脚だけだったりしてね。
脚の長い芸能人と言ったらね。
F原紀香だと、肉が付き過ぎだと言う感じかな。
グラマラスだけどね。
S藤江梨子とK瀬奈那は、肉付きが丁度良い感じ。
顔に癖のある所が好き。
私の、理想像は彼女たちよりも、5cm位背が高い女性なのよ。
178cm。
言いたい放題。
誰にも言えない、贅沢な願いだよ。
独り言。
胸はDカップもあれば、もう十分だったのだけれどね。
もう、6カップも超えちゃった。
少しずつお腹が減って来たなあ。
まだ何も食べていないもの。
机の中には、カロリーメイトのチーズ味が隠してあるから、それを食べよう。
まだ、ボーっとしていたいなあ。
不二子のウエストは、本当に素敵だよね。
言葉を使うと、時間が掛かるなあ。
肩幅は、私たちが2人並んだよりも絶対に広いのだからね。
広すぎる肩幅に、筋肉が盛り上がっているなんてね。
それより超乳の横への広がり。
あのバストのボリューム。
何kgぐらい、あるのだろうかね。
私の思っている事は、矛盾しているね。
同じ所を回っていることもあれば、突っ込みどころは幾らでもある。
あの子の姿に憧れる気持ちが、実はあるってこと。
それは、認めたくないのだけれども。
だって・・・。
私中学生だけれど、おばさんにもう直ぐでもなれる気がするよ。
気持ちに素直と言うか、論理では説明は難しい。
口に出すのは、突っ込みにくい言い方で言うけれども。
でもね・・・。
私、もう一度かぶりつきたいなあ。
あれを、不二子のおっぱいを、生で見たら、私の脊髄に電撃がビビビと走る。
なりたくないと言いながらよ。
私の全身を使わないと通用しない、相手に見えるのだ。
「私が頑張らないと、不二子はちっとも感じないのかもしれない」
なんて、思わせるほどの、巨大さ。
力強いおっぱい。
でもね。
乳首は繊細な感じだから、軽く一舐めするだけで、凄く感じていた。
幸せな子だね。
普通の人の何倍も感じるなんて、信じられないよ。
あの強靭な肉体が無いと、どうかしてしまうと思う。
分裂病か、統合失調症になるかもしれない、危なさを持っている。
強靭な肉体が、全てを救うのよ。
周りの、私たちまで救う。
(時間的な空白があった。)
・・・。
・・・。
(南美は、言葉にしようとするがならないのだ。
それが、誰も聞いていない自分の意識の事であっても。)
私は、不二子に着いて行くのが大変で、必死の思いで負けまいとして、付いて行っているのかもしれない。
あの子は、精神的には普通で、肉体が超人的に強靭なのよ。
美しさも強さも、桁外れに桁外れなのよ。
・・・。
やっぱりバストの事が、忘れられない。
不二子のあのバストよ。
上半身から、55cmのウエストに狭まって、あの筋肉の塊のヒップだからね。
肉体のうねり具合。
本当に美しい。
あの曲面の美しさ。
『美の極致』。
有無を言わせない、強靭な主張をする。
あの身体は。
人間とはとても思えない、現代彫刻のような造形美。
太くてきれいな髪の毛が、あの大きな尻よりも下に伸びているなんて。
絶対に卑怯よ。
人間の姿とは、思えない世界だと思う。
誰かの作品なのかも知れない。
人間じゃないのなら。
宇宙人の、芸術作品なのよ。
私にも、少しわかったのかも知れない。
気持ちが楽になって来たような気がする。
あの子のあの脚は、象かな。
(笑い)
あの尻は、河馬かな。
(大笑い)
胸は、ホルスタイン、乳牛よ。
(馬鹿笑いが、止まらない)
あの更衣室での時に、おつゆが流れ出している所も、「おけけ」が不思議と言えば不思議だよ。
可愛いというか、未熟と言うか。
クラスでも、薄い方なのよ。
まるで、産毛みたいな感じの薄茶色の細い毛でね。
脇の毛だってそう。
中1の時と、変わっていないのは乳首と陰毛だよ。
でも、あの子のクリちゃんの大きさには、びっくり。
私のものとは、まるで大きさが違うのよ。
裸になるだけで、見えていた。
巨大なクリちゃん。
ホルモンの分泌が段違いなのかなあ。
そんな所まで大きい意味は、今の私には、本当のところ分からない。
あの子だって、当然分かっていないだろうなあ。
高岡だって、聞いても教えてはくれないだろう。
単なる、教育者だからね。
想像するだけ。
私の何十倍も、感じるのだ。
きっと。
不感症の反対で、感じ過ぎるのに違いない。
あの強靭な肉体、これからもっと強くなって、留まる所を知らない強靭さを持つに至るのよ。
そうでないと、性感を受け止めきれないのよ。
悪口では、ないの。
単なる、想像よ。
不二子、御免ね。
悪かったわ。
明日までには、反省するから許してね。
脚だって。
長さが、105cmもある。
身長の6割をも占める、脚だからね。
もっと長い、そんな気がするけれども。
それでも、すらっとした脚とは言えないね。
滝沢は、こらえようとするが、笑いが止められなかったのである。
私の原因は何か、南美にも良く分からない。
あの太い脚の、美しい曲線のことを思い出すと、笑いを止める事がなかなか出来ない。
宇宙人からのメッセージを受け止める事が出来るようになっている、途中経過なのだろうと思っているのである。
しかし笑う以外に、今の私には出来る事がないのよ。
泣きだして止まらないほど、情けない自分を感じているけれど、それを言葉にすることすら出来ない。
私が遺伝子予防接種を受けたのも、そうだからなのに決まっているのよ。
また、同じ所へ戻ったのかもしれない。
いくら何でも、不二子の身体全体に筋肉が付き過ぎよ。
腕も。
脚も。
あの尻。
どんなことにも、限度があるの。
太過ぎます。
あの時は、怖かった。
裸で不二子と向かい合った、更衣室。
大変な奴と、私は一緒に過ごしている事が分かったわ。
ファッション的に考えるのと、セクシャルに考えるのは、きちんと分けなければね。
だけど、あのウエストは細すぎるよ。
細いにも限度があるよ。
折れないのかなあ?
(笑)
折れちゃえば良いのよ。
(大笑い)
ああ。
駄目、駄目。
不二子を、常識で測っていた。
常識なんて、そんな物。
あの子には、全く通用しないことを忘れていた。
何せ、あの力の強さ。
砲丸があんなに飛んで行った事とか。
ソフトボールをバットで打つ時に力を入れ過ぎて、金属バットが曲がった事とか。
水泳で不二子が背泳ぎをした時に、あのおっぱいが水を掻き分けて進んだその速さと水しぶき。
あれは、みんな笑ったのだった。
あの後で、不二子本気出してクロールで泳いだ時の事。
周りの人たちが水流に巻き込まれて溺れかけたのは、笑えなかった。
私も、あのお尻で飛ばされた事があった。
技術家庭科で、本箱を作る時にさ。
釘を打つ代わりに、指で押し込んでいたのも、私は知っている。
そうそう。
コカコーラの自動販売機の前にいた不二子に、お金を投げた時の事だった。
「お金は、投げちゃ駄目。」
そう不二子が言っていたのに、コインを私は投げちゃった。
不二子ったら、お金を取るフリをして、取らないのだもの。
頭に来てしまった。
そうじゃ、無かったのね。
私の投げた所が悪くて、軽く取ろうとしても無理だったのよ。
そんな所に投げたから。
取る時に力を入れたらどうなるか、不二子には分かっていた。
だから、取らなかったのよ。
私たちがアルミホイルを握って丸めるみたいな物なのね。
受け取った時に、握ってコインの形が変わったら、使えなくなるからだったの。
周りの人たちも、ビックリさせてしまう。
今なら分かるけれど、その時は分からなかった。
今度、くしゃくしゃにしたコインを作ってもらおうかな。
もっと、別の物で作ってもらおうかな。
記念品よ。
あっそう。
朝ご飯を食べなければね。
私の胸やお尻、大きくなり過ぎてはいないかなあ。
心配だよ。
胸やお尻はね。
大きければよい。
そんな物じゃ、ないのよ。
分かっているの。
こんな事を言えるのも、不二子のおかげだよ。
私がこんな身体になれたのだからね。
私の場合はね。
不二子の急成長みたいに、寝巻がボロボロになるような事は無い。
自分で触っても、あんまり良く分からない。
Iカップでも、相当に大きいよ。
それ以上は羨ましいと言うよりも、大きくて困るのではないかな。
爆乳アイドルさんたちは、通り過ぎる人が顔を見ないで、胸ばかり見ることで傷ついたって言っていたよ。
友だちからそのことを指摘されたり、名前で呼ばれないで「○ちゃん」とか、カップ数があだ名になったりして。
大きくなるたびに、呼ばれ方が変わるなんてね。
私の友だちは、そんなことはありませんがね。
グラビアアイドルとはレヴェルが違う。
不二子は、顔も素敵だよ。
五月ごろから、少しずつ綺麗になって来て、今や絶世の美人。
韓国女優のチェジュウと多岐川裕美を足した感じがする。
もっと、美人だと思うね。
あの眼の大きなこと。
肌がツルツルで、色が綺麗。
健康そのものね。
顔のパーツが、一つ一つ凄いのよね。
但し、首が筋肉であの太さで、筋肉の塊の上にポツンと乗っている。
不二子に言わせれば、こけた時に危ないでしょって。
首ごと外れたら、いけないからかな。
そんなことしか語ってくれないだろうけれど。
顔と身体がアンバランスで、どっちも凄いけれども、調和が取れてはいない。
もっと不細工で、例えばメスキングコングみたいな顔なら、問題ないのだけれども。
メスキングコングというより、クイーンコングと言う方が良いのかなあ。
そんな言葉あるのかなあ。
私はね・・・。
《2》 南美の急成長
「南美。
いつまで、ボーっとしているの。
何時間待たせるのよ。」
母親は大きな声で、怒鳴りあげた。
「聞えているのかい。
何をゆっくり自分の世界に入っているの。
胸と尻ばかり大きくなっちゃってね。」
直前の声の大きさは、マックスではなかった事が分かったし、今回は怒りの感情を秘めていた。
「お母さん。
背も伸びました。」
南美は、母親に聞えるような大きな声で、返事をしたのである。
そして、台所に歩いて行ったのである。
「そうだったね。
ゆっくりして良い日だったね。
それにしても、今日は、早い目覚めですこと。
南美、また身長が高くなったみたいだよ。
10cmは高くなっているよ。
気付かなかったのかい。
顔付きも、変っているよ。
ハッキリ言えば、ずいぶんと美人になっているね。
良かったね。
顎のあたりがスッキリした感じだよ。
左右対称になったのだよ。
眼なんか、きれいな方に揃った感じだね。
髪の毛が、急に伸びたのね。
とってもきれいな、髪の毛だね。
太くて真っすぐで、艶がある。
お尻まであるじゃないの。」
母親は、早口で捲し立てたのである。
「うそでしょう。
わたしは、大きく何かなっていないよ。」
「まだ、南美は寝ぼけているのだね。
濃厚なコーヒーの茶漬けでも、食べさせてあげようか?
私が、嘘を言っているって言ったね。」
「・・・。」
「あんたの目の前でね。
身長とかバストとか、測ってあげるよ。
朝ご飯でも食べて、待っていてごらんよ。
工場に行けば、長めのメジャーなんかあるからさ。
味噌汁とご飯は、自分でついで。
父さんの大好きな、銚子産イワシのみりん干しも残っているだろう。
今朝焼いたばかりだからね。
落ち着く事が一番だよね。
急に大きくなったので、頭の中に汗疹でも出来たのだろう。」
南美は、しっかりと朝食を食べることにした。
納豆も好きだった。
大根おろしをすって入れて、冷凍ネギを、少し入れる。
朝食は滝沢家では、何時も和風なのである。
随分と空腹を感じている南美は、冷蔵庫の中を物色した。
昨夜のオカズのポークステーキが一枚残っていた。
残業食は、家族の夕食と同じ物を2人前程度何時も多めに作って在り、残り物である。
アイスコーヒーもミルクと砂糖をいれて、たっぷりと飲んだ。
脳天に、カフェインの刺激を感じるほどである。
「南美、食べ終わったかい。
慌ててはいけないよ。」
「慌てていないよ。
慌てているのは、誰だい。
母ちゃんだろうが。
まだ、お腹が減っているの。」
「身体がそんなに大きくなったら、お腹がすくのも当然だろうね。
晩のおかずまで、朝に食べさせてあげるよ。」
焼き魚に、おでんに山盛りのご飯と、沢山食べたのである。
そのあと、再び眠たくなって寝てしまい、起きたのはタモリの番組が終わる直前であった。
滝沢の母は、南美の身体のサイズを測ったのは、1時を回っていた。
背の低い南美の母は、苦労があったのである。
身長184cm、体重86kg、上から 115−63−102 のLカップで、脚長が92cmもあったのである。
南美は、もうこれ以上大きくならない方が良いと思ったのである。
脚が長いのは自分の希望通りであるが、筋肉質で体重が重いのが気に掛かっている。
南美のシンクロ率では、これ以上の急成長は起こることは考えられないのであった。
どう見ても、すらっとした体型である。
「専務、何をしているのだ。
遅いではないか。
下請けの人が来ているよ。
家は孫請けの仕事も多いのだらね。
早く来いよ。
専務お得意の、例の金属加工が来たのだよ。」
社長は少し怒り気味である。
南美の父は、急成長を遂げた南の姿を見て、驚いたのである。
「どこの別嬪さんかね。
うちの親戚には、こんな子はいなかったがね。
本当にきれいだよ。
こんな身体をした女性に初めて出会ったよ。」
「南美、わが子だよ。
これから、2人で服を作りに行って来ますからね。」
「でも、専務。
仕事が、あるでしょう。」
「この子が、こんなに大きくなったのだよ。
うちには、着る服がないのだよ。
既製品が合うような、そんな身体じゃないのだよ。」
父親はようやく納得したのである。
南美は、メーリングリストで、メールをしたのである。
1時27分のことであった。
写真も添付した。
「朝起きたら、急成長していました。
身長180cm、体重80kg、上から 115−63−102です。
ショック。
悪いけれど。
海に行くのは、嫌だ。
南美は、行かないかもしれない。
一美。
お願い。
中止にしない。
みんなはどうだったの?
これから、『グラマチカル』にお母さんと行きます。
私を元気付けて。
お願いだから。」
そんな弱気な南美である。
大学の研究室にいた博司にも、メールは届いていた。
こんなに早く急成長があるとは、博司は思っていなかった。
予想が、外れていたのである。
科学の世界では、良くある事なのである。
今までの着ていた可愛い服は、もう着ることはない。
既製品を探す楽しみは、もうこれからの南美には無いのである。
靴下だって、入らないのである。
母親は、かなりの部分、衣服を買い直さなければならない事を考え込んでいた。
ただし、売ってはいないだろう。
海外にネットで注文するとかして。
下着とティーシャツに関しては、準備しておいた物が使えそうである。
ショートパンツもゆるめだが、大丈夫である。
ブラジャーは、注文せねばならない。
南美の母は、急な出費に困惑を隠せない。
しかし、そうは言っておられない。
『グラマチカル』へと、母親と南美は急ぐことになったのである。
店に来て、例の装置で採寸してもらうと、正確な数値がたちどころに出てくるのである。
家で測ったよりも、少し大きくなっている筈である。
大きな地震の後に余震が来るように、急成長した後に少し成長する事があるのだ。
博司が書き落とした内容であった。
南美の場合、急成長してから家でサイズを測るまでに時間があったので、それほど大きくはなっていなかった。
身長182cm、体重90kg 121−63−108 で、Mカップで脚長は94cmであった。
南美は、90kgを超えなくて良かったと、本気で思ったのである。
しかし、せめて体重が80kg以下であれば良かったのに。
願望である。
誰から見ても、筋肉質の素晴らしい身体ではあるにも係わらず、弱気になっているのである。
南美は、がっかりしたのである。
間違い無く。
腕を曲げてみると、力こぶが盛り上がったのである。
「筋肉質と言うよりも、筋肉モリモリの不二子体型だよ。」
思わず、口に出してしまった。
不二子の筋肉の事を、相当過小評価している。
比べるべきではない。
南美の筋肉の量で、不二子の筋肉の量と比べるのは、大きな間違いと言う物である。
がっしりしたバレーボール選手のような、結構格好の良いスタイルだと大多数の者は言うであろう。
またそう思えるようになるに違いない。
きっと、仲良し4人組で話をしたら、気持ちがスッキリするだろう。
みんなも、成長するのだろうな。
南美は、そう思った。
南美には2度目の急成長は、用意されていなかった。
私服のティーシャツとジーンズとブラジャーは、その日に用意する事が出来た。
水着は、明日の朝早く届くであろう。
派手な水着ではない。
不二子が着ていたような、紺一色のかえってエッチなスクール水着である。
それと、結んで止めるビキニである。
その他、体操服や制服は、夏休み中に出来上がる予定である。
少しずつ揃えて行くしか、方法は無いのだ。
家へ帰る電車の中で、南美は視線を集めていた。
「美人だね。」
「あの大きな胸、本物かなあ。」
「顔より先に、胸を見ちゃうね。」
「あれだけお尻のデカいと、驚いてしまうね。」
「あの脚の長さ、羨ましい。」
「日本人にも、あんな女性がいるのね。」
噂話がまともに、聴こえてきたのである。
良い事もたくさん言われているのに、悪口のように聴こえるのである。
不二子が、そんなことにも耐えて来たことを、南美は悟ったのである。
松坂先生が言っていた、「覚悟」の意味が深い事を。
南美の気持ちは、少しずつほぐれてくるのであろう。
直ぐには、ほぐれないのは当然である。
早く学校が始まれば良いのに。
不二子と一緒に、運動クラブにでも入ろうかなあ。
南美は、そんな気持ちにもなっていた。
家に着いたときには、5時過ぎになっていたのである。
「一美。
明日は中止しようよ。」
南美は、『グラマチカル』で、そんなメールを一美に打ったのである。
一美から、メールは帰って来ていたが、南美の心の中には入って行かない。
海に行く事の中止のメールは、まだ来なかったのだった。
《3》 「兄と妹」の、休み開始の日
理乃は、この日もいつもと同じ時間に起きていた。
夏目家では、漱一郎と理乃は同じ部屋を、勉強部屋として使っている。
寝る部屋が異なるのは、当然であるが、学習なら良いであろう。
団地に住んでいるので、贅沢な部屋の使用は出来ない。
父親は、この日は朝早くから、福島県の郡山へ出張であった。
母親の、彩夏(あやか)は9時から開院なので、その直前に自転車で仕事場へ出かけた。
近隣の開業医で、看護師をしているのである。
理乃は、最も影響を受けた人物の名前を問われれば、兄と答えるであろう。
漱一郎は、実は幼稚園を自分の意思で退学しているのである。
理由は、「下らない」ということである。
おそらく、お遊戯やアマリリスの曲に合わせての整列など、馬鹿にしていたのであろう。
何度言われても整列出来ない、そんな園児に合わせて進行する運動会の練習が、きっかけになったのである。
学習発表会の内容を教えてもらったその日、漱一郎は幼稚園をやめる決心をしたのである。
理乃と漱一郎は、同じ幼稚園に同時に通う事は、出来無かった。
この事を書いている時、ある女性の音楽家のことを思い浮かべている。
実は、高橋アキというピアニストなのである。
彼女は芸術新潮という雑誌に、最も影響を受けた音楽家の質問に、「兄」と答えていたのを思い出すのである。
兄の名前は、「高橋悠治」である。
日本の作曲家・ピアニストで、超個性的な人物であり、現在70歳を超えて未だにカリスマである。
彼も幼稚園を、「下らない」と言う理由で辞めている。
ジョイスの「ユリシーズ」を高校時代に、原書で読んでいたのだそうである。
その進学校を、辞めて桐朋女子高に(音楽科は男子も入れた)に転校している。
その頃の桐朋女子高のことを、ある小説から引用して「愚者の楽園」だったと、彼は書いていたのを読んだ事がある。
進学した敷設の短大も途中で辞め、単身ヨーロッパに行ってしまうのである。
そして、前衛音楽の世界へと、放り込まれるのである。
彼の師匠筋である作曲家の「柴田南雄」は、止めたが彼が言う事を聞かなかった事を、何処かに書いていた。
優秀で個性的なピアニストである、妹さんの「高橋アキ」にして、天才的な存在には影響を受けずにおれないのだ。
自分の習った先生方の存命中にも拘らず、そう書かせた存在である。
兄が購入した本の背中を見ているだけで、理乃は想像を掻き立てられた。
様々な本が、並んでいるのである。
理乃は、宿題が無いので、自分の趣味である小説を読んでいた。
昨日の夜から読みだした、「○矢りさ」の『○りたい背中』を、先程読み終わったのである。
そして、「○尾秀介」の『○日葵の咲かない夏』を、読み始めたのである。
想像の世界で、小説の中の人物になり切ることが出来るのである。
残念なことに、理乃にはこれといった研究課題と言う物は無い。
教えてもらった事を、一生懸命に学んでいる。
それで、全く問題は無い。
ただ、天才と秀才の違いを、見せ付けられているのである。
人生に、どちらが勝利するかは分からないが、現時点ではそうなのである。
理乃はどうしても、超越的な存在に憧れてしまうのである。
不二子は超越的な存在である。
短く言うのは、難しい。
どれ程屈強な男性も、彼女には力で勝つことは難しかろう。
どんなセクシーな女性も、彼女の持つエロティックな身体の魅力には勝てない。
しかし、成熟と言う言葉は今の不二子には、似合わないのである。
理乃の気持ちの一端でも、理解してほしかったのである。
漱一郎は、数学・宇宙など自然科学一般に興味を持ち、学校の勉強とは別の事を勉強しているのである。
また一方、正反対な世界に見える「落語」も好きなのである。
こういう兄の姿を見て、理乃は成長して来たのである。
話は変わり、今は朝食の時間である。
母親の、彩夏の用意した、「トーストにマーガリンとストロベリージャムを塗っている物」を食べている。
ジャムは、厚く塗られていた。
もう一枚には、薄切りとろけるチーズを乗せて、焼いてあるのだ。
ハムエッグと、キュウリとキャベツを刻んだ野菜サラダには、炒り胡麻ドレッシングがかけられている。
父親は、コーヒーを飲むのであるが、子どもたちは甘いカフェオレである。
夏目の父は、企業戦士のサラリーマンで、転勤が2度ばかりあった。
関西地方で生まれ就職し、途中九州の福岡に転勤になり、いまは東京近辺に住んでいる。
本社機能が、大阪の衛星都市から東京に移った事も有り、もう転勤は無いかも知れない。
ただ、工場長などになれば、地方都市で企業戦士としての人生を終えるであろう。
父親はそう考えて、東京ではURの賃貸に入居しているのである。
何となく、そんなことを示唆されたのだろうか。
賃貸は、交通の便が良くないと、借り手が付かないのは当然である。
安かろうが、買い手の付き難い交通の不便な所のマンション購入は、彼には嫌だったのである。
母親の彩夏は、転勤の都度職場を変えている看護師なのである。
医学の進歩に付いてくことは簡単ではないと考えて、九州で大病院勤めは辞めたのである。
潔癖な所というか、心配性があるのかもしれない。
九州では人間ドック専門の病院に、数年は勤めていた。
当然、夜の勤務は無い。
そんな病院に勤める医者には、訳ありの人が多いと、口を開くと話す癖が彼女にはあった。
同じ事を話す人には、苦労人が多いと聞く。
自分が賢いと思うと、感情に掉さす事が多くて、生きる事が辛くなる事があるそうである。
『漱石』から一字頂いて、漱一郎と名づけたのであるが、これまでの所逆になっているようである。
彼女の勤務地は、自転車で20分ほど距離に在る、内科と小児科兼業の開業医である。
勤務は、午前と午後の両方である。
しかし、12時から4時までは自宅に帰って家事労働が可能である。
子どもたちはと言えば、少し紆余曲折があった。
理乃は中学校から、緑山学園に入学したのである。
その姿を見て、どういう訳か漱一郎は緑山学園に高等部から編入したのである。
高校1年のニ学期の終わりごろになって、県立進学校を辞めて、入試偏差値の低い緑山学園を選んだのである。
面接での遣り取りから、特別待遇生徒を勝ち取ったのが、これまた変わっている。
この辺りの事は、学校側から保護者には知らされない、秘密事項なのである。
入試の事であるから、秘密の事ぐらいは、この世に存在するであろう。
学費面では県立高校の方が安そうに見えるが、特待生には「学習援助費」があるのだ。
変な言い方であるが、不二子の姿を見るべくして、自分の進路を選んだとも言える。
漱一郎の意識には浮かんではいない、心の深い所への何かの導きであろう。
朝食を食べた後で、漱一郎は何かをしているようである。
線形代数学を学んでいるようである。
こんな事を学んでいたのでは、高校での2行2列の行列のことなど、面白くないであろう。
せめて3行3列でしなければ、行列式や逆行列も何の為なのか、余り意味が分からない。
漱一郎は、そう思っていたようである。
自分に、いつ急成長が起こっても不思議はないと漱一郎は感じていた。
理乃にはそんな感覚は無かった。
いつ、どれぐらいの成長が起こるのか?
前触れはあるのか?
分からないことだらけで、真剣に考えると焦ってしまうことになる。
ハッキリ言って、損である。
焦りが焦りを生むという状態になるのが落ちである。
漱一郎の感覚である。
いつもと同じ平常心でいるしか、方法は無いのだ。
自分らしくしていなさい、と言うことになろうか。
不二子なんか、ずっとそんな気持ちで、過ごしているのだから、耐えられない事は無い。
理乃は、本を読むのは途中でやめて、外へ散歩に出ることにしたのである。
まだ何度も洗濯をしていない紺色のジーンズと、緑と白のボーダーの鹿の子ポロシャツを着たのである。
こんもりと盛り上がった、日本人離れした肉感的な尻の為に、ジーンズはピチピチである。
生地の上からでも、尻の割れ目の線が良く分かる。
多少マニアックな知識かも知れない。
ピチピチなジーンズを大きめのお尻の女性がはくと、厚手の布地にもショーツの模様が少し浮きあがるのである。
中学生の理乃が、ラインが出ないようなセクシーなティーバックを履くことは無いだろうから。
可愛いショーツの模様が浮き上がっている。
理乃は、気が付かない。
いちごとか、クマちゃんとか、お花とかである。
『グラマチカル』では、理乃の個性を良く観察して、デザインしてあるのだ。
尻が大きいからセクシーに、と決めうちではあれ程の人気店にはならないであろう。
ポロシャツは、○ニクロで購入したもので、男性用のXLならば夏目の胸でもボタンが飛ぶ事は無い。
突き出た胸は、ポロシャツの布地を持ち上げていて、ブラジャーに付いた模様が浮き出ている。
理乃はそれほど気にしていないようであるが、横から見ると、ロケットのような形のバスト、の存在が露わなのである。
小さなバッグに、ペットボトルに入ったお茶で割った不二子飲料と、先程の読みかけの本を入れている。
眼鏡を掛けた、背の高い清楚な中学生が、Jカップ103cmの爆乳でおまけに99cmの爆尻である。
横から見ると、ウエストが締まっていて、バストとヒップが突き出ている。
ポロシャツとジーンズがバストとヒップの圧力で張力が高く、下着のラインが明瞭に写っている。
歩く姿と言えば、お尻を横に振って、おっぱいを上下左右に揺らしている。
前後左右どこからでも、つい視線がそちらへと向いてしまいそうだ。
好事家には、堪らない映像である。
URの賃貸アパートを出て、商店街を抜け、駅前と言うよりは駅中の本屋さんに入った。
立ち読みと言うか、次の読みたい本を物色しているのである。
本屋の前には、古本が並べられていて、理乃は新刊よりはそちらを買う事の方が多い。
○本市場や○ックマーケットに行くには、近くの旧国道ではなく、自転車でバイパスまで出なければならない。
一時間ほどすると、家に帰って来るつもりであろう。
漱一郎は、小柄で痩せた高校一年生である。
例の不二子飲料が気にいったのか、良く飲んでいる。
サプリメントのような、感覚であろう。
勉強の合間や通学時には、携帯音楽プレイヤーで大好きな落語を聞いている。
関西にいた頃に落語に出会ったので、大阪落語が好きなのだろう。
落語を聞きながら、勉強するようなことはしない。
妹の邪魔にならぬように、ヘッドフォーンをして聴くのだ。
最近は、ナイツの漫才にも興味があるようだが・・・。
大阪落語は、才能ある者2人を若くして失った。
残念では、言葉が足らないであろう。
桂枝雀(しじゃく)と桂吉朝(きっちょう)である。
存命ならば、枝雀は70過ぎであるし、吉朝は50半ばである。
漱一郎の本棚には、彼らの多くの録音が、DVDで保存されている。
もう一つは、モーツアルトの器楽作品である。
最近は、シャーンドル・ヴェーグの指揮した、室内オーケストラのCDを良く聴いている。
それとジェフリー・テイトの指揮した、交響曲である。
最新ではないが、デジタル録音でどちらも輸入盤で非常に安価である。
以前は、グレン・グールドの弾いたピアノソナタであった。
モーツアルトは聞きながら、学習する事が可能である。
部屋にいるときは、朝から途切れることなく、彼のパソコンからモーツアルトが流れているのだ
その魅力的な音楽は、真剣に聞き入っても良いし、BGM的に小さい音で流してもかまわない。
聞き手の注意を適度に刺激しながらも、突き放す事はない。
兄の隣でかなりのモーツアルトの作品を、理乃は憶えてしまっていた。
実は漱一郎は、気持ちが焦っていたのである。
モーツアルトも、癒してはくれないのだ。
妹の急成長するところを、この眼で見たいのである。
妹の友人の滝沢南美は既に急成長したのであるが、メールしたのは午後になってである。
人並み以上にせっかちな所は、関西人の両親の影響なのであろうか。
いや違う。
感覚的に鋭いのである。
漱一郎は、体操服に着替えて外へ出た。
デジタルプレイヤーで、モーツアルトを聞きながら、走るつもりである。
一時間近く、夏の暑い所をジョギングしてくるのである。
2人は、どちらもURの自分の集合住宅に帰って来る所で、ばったりと顔を合わせたのである。
先ほども書いたが、漱一郎の観察眼は、さすがに鋭いのである。
妹の顔の造作の変化を、見逃さない。
どこかが違う。
どこだ。
ここが違うと言う言い方で、まだ指摘できない。
細部については、検討中である。
「こいつ美人になっている」と、感じたのである。
ただ、感覚的である。
説明にならない。
理乃は漱一郎の変化には、気づかないのである。
そもそも急成長は、もっと先の事だと思っているのだから。
立ち読みしながらも、眼鏡が合わなくなっているのには困っていた。
理乃は強度の近視なのである。
それが、治って来ているのは、何かの前兆と感じるべきであった。
家に入るなり、理乃に自分の気付いた違いを話し始めた。
兄の漱一郎より妹の理乃の方が、身長が10cm程度高いのである。
肉付きも良く、中2にしてはセクシー過ぎる。
少し上向きになって、妹の顔をジッと見る。
「おい、理乃。
変な言い方で御免。
言葉で伝えるしかないので、言わしてもらう。
お前の顔に、変化が生じている。
顔が、左右対称になって来ている。
片側にしかなかった、大きな黒子は消えている。
少し細かった左目は右目のように大きく丸くなっている。
奥二重である左目の方に、右目が揃ってきている。
と言うか、二重瞼になり、眼が大きくまん丸になっている
顎先が少し細めに、少しとがった感じになって来ている。
頬が、赤みを帯びて来ているし・・・。
左の鼻の横にある、腫れものが治っている。
細かい事を言いだしたら限がない。
美人になって来ているって、ことだ。
それも、飛びきりの美人だってことだ。」
尊敬する兄からそんな事を言われて、理乃はどうしたら良いのか分からないほど驚いた。
鏡を見ると、言われた通りである。
これは、何かの前触れに違いない。
理乃も何かを感じたようであるが、漱一郎に伝えるだけの内容にはなっていない。
とにかく、松坂准教授に連絡を入れよう。
漱一郎は決断したのである。
メールを打った。
「松坂先生。
理乃に変化が現れました。
単純に言うと、顔が美人になって来ているということです。
言い換えると、免疫が強くなっていると言う事です。
どこか雑誌で読んだ事があるのですが。
気が付いたのは、11時30分過ぎです。
自分自身の変化については、あまり良く分かりません。
理乃の気付きが、鈍いせいもあります。
こればかりは、どうしようも有りません。
きっと、何かの変化が現れると思います。
急成長です。
私たち2人は、一緒にいると、変化を見合う事が出来ますし、きっと相乗効果がある物と思います。
分かる事、考えられる事はこの程度です。
とても空腹感を感じています。
理乃もそうです。
こんなことでも役に立つでしょうかね。
何か、指示されることはありませんか?
足りない所があるはずです。
僕は、じれったくて堪りません。
何でも良いから、教えて下さい。
夏目漱一郎。」
メールの内容はこの様な内容であった。
理乃は、お昼の用意を始めた。
味噌汁と汐サバを焼くくらい、理乃にも出来るのである。
母親は、午前の治療時間が終われば家に帰って来るのである。
新型インフルエンザの国産予防接種が多量に出てきた2010年、内科や小児科開業医は特に忙しいのである。
メールの返事が帰って来た。
「夏目君へ。
顔の造作が美人になるは、確かに免疫力が向上する事に繋がるのは確かである。
生物は左右対称になるほど、免疫力が高いのである。
つまり美人、と言うことになるなかもしれないね。
科学雑誌『ネイチャン』に、そのような事を書いていたのを読んだ事がある。
とにかく、君が焦る必要はない。
心配する必要はない。
落ち着いて欲しい。
しかし、覚悟はしておいて欲しい。
君は、気付いているかもしれないが、急成長が起こるまで何も気付かない。
私も、そうだった。
君と理乃君は、大きく成長する事が考えられる。
滝沢君からの連絡を聞いて刺激を受けているから、今日は家にいた方が良い。
何か変調があったら、布団でも引いて寝ていたらどうかね。
食事は、しっかりと取っておいた方が良い。
昼寝をするときも、悪いが一緒に寝ていてくれるかなぁ。
デジタルカメラぐらい持っているだろう。
記録をしてくれたら、ありがたい。
君自身の事でもある。
無理はしないで良いが。
気付いた事があれば、またメールをくれるか。
大学を出ている場合には、携帯電話に転送される。
松坂博司。」
昼食を食べたのであるが、2人ともお腹が減ってしょうがなかった。
ご飯も、ふりかけや味付け海苔で、お代りを何回かしていた。
パンを食べたり、牛乳を飲んだり、ヨーグルトを食べたりと、間食が進んでしまったのである。
それから昼寝をしたのである。
思春期の兄と妹が、並んで昼寝をしているのを見て、母親はギョッとしたに違いない。
また、漱一郎が何かを考えているに違いないと、察知したのである。
小さい時から漱一郎のして来た事に、母親は慣らされてきた。
手のかからない理乃とは、大きな違いがあった。
彼は、小さい時から親を驚かすような事ばかり起こして来たのは、確かである。
後で考えると、直感的には多少変でも、論理的であり良く考えているなと思う事ばかりなのである。
高校一年生の今となっては、学習面では母親の手の届かぬ事ばかりである。
そう言えば漱一郎の口からは、「急成長」云々について何度か聞かされてきている。
理乃の身体の成長の事。
不二子と言う名の途轍もない身体をした顔は可愛い女の子の事。
理乃の不二子への憧れ。
漱一郎が、松坂研究室への入り浸りの事。
「遺伝子接種」という、看護師にとっても聞きなれない言葉の事。
その他にも・・・。
夏目の母親の頭の中は、錯綜して来たのである。
理乃は寝ているようであるが、漱一郎は横になっていたのである。
彩夏は、午後の診察の時間まで、洗濯や休憩などの時間にしている。
漱一郎には、買い物に行く事を伝えた。
どこへ行くとは言わないのがふつうである。
近隣の食品専門のスーパーマーケットと、商店街で豆腐と惣菜を買って帰るのが常であった。
漱一郎は、眼は覚めていたが、少しずつ緊張を緩める事が出来てきたのである。
《4》 急成長の実態は?
母親の彩夏が出掛けてから、どれぐらい時間が経過したのであろうか。
1時間も立ってはいないであろう。
理乃の携帯電話に、例の着信があった。
繰り返させてもらう。
「朝起きたら、急成長していました。
身長180cm、体重86kg、上から 115−63−102です。
ショック。
悪いけれど。
海行きは、嫌だ。
南美は、行かないかもしれない。
一美、お願い。
中止にしない。
みんなはどうだったの?
これから、『グラマチカル』にお母さんと行きます。
私を元気付けて。
お願いだから。」
腕時計を見ると、1時30分である。
2人でメールを見た後で、理乃は返信した。
「私も、昼前から、何か変な感じがして来たの。
急成長なのね。
私も、お兄ちゃんも覚悟をしています。
大丈夫だからね。
海に行く事については、今は考える事を止めておきたいなあ。
後から、『グラマチカル』に行くかも知れない。」
その後で、また昼寝をする事にした。
どれぐらいの時間が立っただろうか、正確には分からない。
寝ている理乃の様子が変である事に、漱一郎は気付いた。
小型の三脚を立てて、理乃にカメラを合わせて動画撮影を始めたのである。
理乃の美しい顔に、脂汗が噴き出して、首を左右に振って何か苦しそうな雰囲気である。
松坂准教授の言う通り、そのままにしておいて観察を続けた。
理乃の姿が消えたのである。
服だけが、残っている。
その間は、2分間も無かった。
もしかしたら、服の中には何かが残っていたかもしれない。
おそらくそうであろう。
漱一郎は、何も手を下さないと決めているのである。
手助けをしても何にもならない、そもそも手助けの必要は無いのだ。
邪魔だった時には、妹の命に関わる事になる。
再び服の中に、何かが入ったのが確認出来た。
膨らんできたからである。
まさか?
ゲル状に溶けた、人間かもしれない。
服から手や足や頭が出てくると思うと、出てきたのはゲル状の物質である。
ゲル状の物質は、量が増えて来ながらも、「人間の形をした物」になってきた。
それが、理乃になる事は間違いがないだろう。
時間は、決して長くはない。
ほんの何分かの間であるが、まるで昆虫が蛹になるような物だったのだろうか?
急成長とは、そう言うことなのか。
漱一郎は、納得したのである。
ゲル状だった物質は、理乃に変化して来たのである。
そしてその理乃は、途轍もなく大きく成長した理乃であった。
どんな姿なのであろうか。
しかし、眼を覚まさないのである。
顔は、飛びきり美人の理乃に間違いない。
先程の顔の進化形である。
漱一郎は、理乃を撮影した器具を、自分の方に向けた。
今すぐ動画を見たいのは確かであるが、自分の急成長に関しての安全性の方が気に掛かる。
自分の急成長の動画撮影は、お座なりでも構わない。
彼には、眠気が起こり、それは少しずつ強くなってきているのである。
風邪薬で、眠くなりますと副作用が書いてある薬、なんてものじゃ無かった。
色んな事を諦めてしまって、布団に横になると寝入ってしまった。
理乃もそうだったからなのかなあと、思った後で彼の意識は遠くなっていったのである。
漱一郎が眠りから覚めたのは、3時前であった。
理乃は眼を覚ましているが、まだ起きる事が出来ないようである。
漱一郎の興味は、自分と理乃の急成長の事だけである。
しかし、自分も起きようとしても起きられないのだ。
理乃の方を見ると、着ていたジーンズとポロシャツが破れるほどの成長である。
着ていた時から、ピチピチだったのだから当然である。
妹の姿を見続ける事が出来ないほどの、凄いボディがそこには横たわっている。
漱一郎は、身体を動かす事は出来なかったが、話をする事は出来た。
「理乃、理乃。
起きることは、できるか?
お前の身体は、もの凄い事になっているぞ。
さっきの写メールの、お友だちなんてものじゃないぞ。」
「お兄ちゃんだって、凄い事になっているじゃないの。
着ていた服がボロボロよ。
還って、見ていて恥ずかしい。
身体も大きくなって、格好いいなあ。
まるで、松坂先生みたいな身体だよね。
でも、大事な所がそんなに大きいなんて、信じられない。」
いきなり妹から、大事な所の話をされて、漱一郎は驚いた。
首がまだ動かないので、自分で見る事が出来ない。
余程の大きさなのだろうと、想像することしか出来ないのである。
理乃もそれは、同じである。
「理乃だって、凄い事になっている。
見るのが恥ずかしい位だよ。
不二子ちゃん程ではないけれど、物凄いぞ。
ハッキリ言って、そんな破れた服を着ていた方が、ずっと変だよ。
写真を撮りたいのだが、身体がまだ動かせないみたいだ。
記録は残しておかないと、研究材料にならない。
分かっちゃいるけど、できない。」
「じゃあ。
お兄ちゃんも裸にならないとね。
ハッキリ言って、今だって裸とそんなに変わらないよ。
私が、写真を撮ってあげるからね。」
しばらく、相手の身体は見る事が出来るが自分の身体は見る事の出来ない状態で、2人は横になっていたのである。
そのうちに、身体を動かす事が出来るようになって来たのである。
破れた服を着ているよりは、脱いだ方が良い。
漱一郎は、撮影機器を片付けた。
先程撮った動画を、パソコンに移して、写真を撮り合うことにした。
その間も、裸の理乃の姿が頭から離れなかった。
理乃は、兄の姿が気になりながら、蒲団を畳んで直した。
「あれ、私眼鏡を掛けていないけれど、掛けなくても問題ないね。
視力が良くなっている。
不思議だね。
本屋さんでは、見え難いなあと思っていたのよ。」
理乃は、気付いたのである。
異常に素晴らしく美しい身体をした兄と妹が、裸のまま室内を動き回っているのである。
妹にしてみれば、尊敬以上の感情を兄に持っていたのである。
妹の方が、身長も高く肉体的には強かったのである。
今や、兄の体格は妹以上なのは、互いに分かっている。
兄も、妹の美しさやセクシャルな魅力を、感じているのである。
母親がまだ帰ってこなくて良かったと、2人とも思っていたのである。
心の奥底では、漱一郎を不二子に取られるのではないかと、理乃は感じていた。
自分が、シンクロ率1,450,000%の不二子の身体の魅力に、勝てるとは思えない。
シンクロ率の意味も良く分からないが。
そもそも、血のつながった兄妹なのである。
そんなことは、分かり過ぎるほど分かっているのである。
それは、当然喜ばしい事でもあるが、かなり微妙な部分があるのは否めない。
パラドックスが、そこには存在しているのである。
要するに、兄が自分の魅力に気付いたのであれば、不二子の魅力に気付くのは時間の問題なのだ。
兄妹は、互いに裸でメジャーを使って、サイズを測り合おうというのである。
既に、3mまで計測可能なメジャーを購入していたのである。
「理乃。
柱に背中を向けて、身長を測ろうと思う。」
「お兄ちゃんだめだよ。
私のお尻が大き過ぎて、背中が柱に付かないよ。
そうでしょ。」
まるで、不二子のお尻を小さくしたみたいなものだから、と言い掛けて止めた理乃であった。
口が曲がっても、それだけは言う事は出来ない。
ここは、勝ち負けの関係なのである。
不二子の小型版なのは、確かにそうである。
そうなれて嬉しいのは間違いなく、しかも凄い事なのである。
兄の口から、その事を聞きたくはないのである。
せめて、今日ぐらいは。
「バストから測って。
それから、ウエスト、ヒップ。
最後に身長を測ってね。」
「理乃。
バストって、どこを測るの。
胸と言う位は、分かっているよ。
メジャーを、どこを通したら良いのか分からないよ。
写真で、こんな風に測るなんていうのは、見た事がある。
だけど、理乃のバストが大き過ぎて、イメージが違い過ぎる。
この大きさだと、持ち上げて測るのが常識らしいけれど、持ち上げる必要がない。
谷間がくっ付いているなんて、写真でも見た事がないのだから。
分からないね。」
「お兄ちゃん。
正確には、お店で測ってくれるから、とにかく大体で良いのよ。
乳首の所を通して、背中は肩甲骨の上よ。」
「そうだったね。
正確には、お店で測ってくれるのだったね。
でも、こんなに大きくてきれいなバスト。
理乃のバストだよね。」
「漱一郎兄ちゃん。
お兄ちゃん、私よりも身長が高くなっているね。
私よりも、頭一つ分高いよ。
それと、物凄い筋肉。
自分の身体を、見てごらんよ。
鏡に、映してごらんよ。
相当離れないと、全身が写らないよ。」
「これが、今の僕なのだ。
物凄い身体だね。
トレーニングもしなかった僕が。
ステロイドもプロテインも無使用で、こんな身体になったのだなんて、信じられない。
ボディービルの世界のトップクラスでも、僕ほどの筋肉は無いよ。
男性のあの部分が、こんなに大きくなっているのも驚きだね。」
「きっと、これから人一倍トレーニングをする事になるのだと思う。
これからが大変なのよ。
実は、さっきから気になっていたのよ。
言わなかったけれど。」
「理乃も、ここへ来て、僕の横に並んでごらんよ。
記念写真を撮っておこうよ。」
「お兄ちゃんの、そこの所。
だんだん、大きくなっていく。
凄い太さだよ。
私もう見てられない。」
「仕方ないよ。
理乃の裸を見ていると、こうなるのは。
松坂さんの写真を撮っていた時には、こんな風にはならなかったのに。
どうしてだろう?」
「お兄ちゃんが、変わったのよ。
外見だけでなく、心の中が。
見えないけれど。
きっと、変わったのよ。
不二子の事は、今は考えないで。
お願いだから。
こうしているのが、怖い位なのに。
漱一郎兄ちゃん。
私を抱いて。
強く。
強く。
今日だけで良いから。」
「今日だけ・・・。」
「今日だけでも良いの。
私、この日を忘れないと思う。
最初で最後だと、分かっているのよ。」
理乃はそう言うと、涙が眼に溢れてきたのである。
漱一郎は、裸の理乃を抱き上げた。
軽々と、理乃の身体は持ち上がったのである。
まだ、何kgとはっきりは分からなくとも、理乃の身体は相当な重さである。
脚の太さから尻の大きさ、何といってもその乳房の大きさは、何十kgというものであることは間違いがない。
それにも拘らず、優しく漱一郎は抱いた。
両手で軽々と。
抱きしめたのであった。
少しずつ力を込めて、抱き締めたのだ。
「私がどうして泣いているのなんて、分かって欲しくない。
悲しくて泣いているのでは、ないからね。
私、実は悔しいの。
お兄ちゃんは、私の気持ちが分かっているのでしょう。」
理乃は言った。
漱一郎と理乃は、強く抱き合っている。
2人とも、力は強くなっていたのである。
漱一郎の太くて長くてかたいものが、理乃のお腹から胸にかけて当たっている。
理乃の大きなバストが、漱一郎の厚い胸板で押されて、形を変えている。
漱一郎も、身体に豊かなバストが密着している感じは、とても快いのである。
それと、先程すでに大きくなっていると思った漱一郎のあれは、まだ発展途上であった事を知ったのである。
兄は、理乃の手には負えない存在なのだろう。
理乃には、ある種の諦めの感情が、芽生えたのである。
しかし、このように抱き合う感触は、2人にとって悪いものではないのである。
これ以上、事態を進行させてはいけない。
ここまで来て、やっと二人にそれが分かったのである。
いや、これが筋書きだった。
宇宙人の書いたシナリオ通りに進んでいたのであろう。
本当によく分るには、大きな失敗を経なければならない事も、よくあるのだ。
理乃は、漱一郎に乳首を舐めて貰わなかった事だけが、心残りであった。
乳首への刺激が、乳房を大きくするのではないかと考えて、8月に入ってからは自分の指で触ることを始めていた。
これからは、指じゃなくて自分の口で舐めることができるのかなあと、理乃は考えた。
急激に冷静になってきたのが、分かると思う。
漱一郎には、まだ自分の気持ちが整理どころか、性について目覚め始めたとしか言えない所であった。
物語の中での、これからの活躍が期待される。
彩夏は、その頃近隣のスーパーではなく、電車に乗ってデパートまで買い物に行っていた。
それ程珍しい事ではないのである。
惣菜なども、物珍しい物を、レパートリーに入れようなどと、研究の意味もある。
少し帰りが遅くなった。
漱一郎の携帯談話にメールが入ったのである。
「S宿のデパートまで行ったので、帰りが遅くなっています。
あと、40分ぐらいで家に着きます。
何か変わった事はありませんか。」
変わった事は、たくさんある。
あり過ぎる程である。
簡単にメールに書ける物ではなかった。
漱一郎は、理乃の身長を、柱に傷を付けることで測った。
「身長は、183cmだね。
脚長は、92cm。」
体重計に載ると、目盛りは凄い速さで動いた。
100を少し過ぎた所で止まり、理乃が降りてもそのまま目盛りは動かない。
理乃は、恥ずかしそうに兄の方を見て笑うしかなかった。
「お兄ちゃん。
体重計壊しちゃった。
・・・。」
「理乃の身体って、ぽよぽよだよ。」
「じゃあ、バストも測ってね。」
「186cmもある。
さっきもらった滝沢南美さんの写真と比べると、理乃のバストの方がずっと大きいね。
比べ物にならないほどの大きさだよ。
形はまん丸で、不二子さんと比べると・・・。
楕円形で突き出たのとは、形が違うのだね。
最も違うのが筋肉の量だね。
筋肉の量が、彼女より理乃の方が、少ないのだろうね。」
理乃はそれを聞いて、自分のバストをゆさゆさと揺らしてみたのである。
バストの余りの重さに、自分が安定して立つ事が出来ないほどの揺れだった。
お尻も、ゆさゆさと揺れたのは間違いなかった。
不二子は、絶対に体幹が不安定になったりしない。
それは、今あの大きさになってもそうだから、不二子の凄さが今更ながら、感じ取れたのである。
自分の方が、不二子よりも体脂肪率が高そうである。
全て計測してもらうと、186−73−168 であった。
「次は、お兄ちゃんを測るからね。」
理乃は、丈夫そうな台を持ってきて、そこに乗って身長を測った。
「身長は198cm、脚長は101cm。
胸囲は183cm、ウエストは82cm、ヒップは158cmだよ。」
「理乃に触られると、また大きくなりそうだ。
・・・。」
写真を撮って、メーリングリストに流したのである。
時刻は、4時18分であった。
「昼前に、前兆が在って、急成長するのかなあと思っていたの。
物凄くお腹がすいちゃって、お昼ごはんを食べて、それもたくさん食べました。
蒲団を引いて昼寝をしようと思っているところへ南美からメールが。
寝ている間に、2人ともこんなに成長してしまったのです。
私は身長183cmで上から、186−73−168 で脚長は92cmです。
体重計に乗ったら、重過ぎて測れませんでした。
というか、私が体重計を壊してしまいました。
漱一郎兄ちゃんは、身長が198cmで脚長は101cm、上から 183−82−158 です。
筋肉モリモリの身体です。
服を買いに行かなければなりません。
『グラマチカル』まで。
お金も要るし、時間も掛かります。
お母さんが帰って来たら、2人で行ってきます。
明日の海行き、どうなるか分かりません。
今から行くと、無理かもしれないなあ。
恥ずかしいけれど、裸の写真を送ります。」
メールを送り終えると、2人は服を着始めたのである。
用意しておいた下着やショートパンツなどである。
思い切り大きく作っておいたので、漱一郎は着る事が出来たのである。
それでも、理乃のティーシャツはピチピチに張り詰めている。
残念ながら、ブラジャーは合わなかったようである。
母親の彩夏が帰宅する頃には、漱一郎も理乃も服を着て、すっかり落ち着いていたのである。
彩夏は2人の姿を見て、驚くしかなかった。
唖然として、何も話す事が出来なかったのである。
起こった事を説明することは難しかったし、動画を見てもらう時間は無い。
彩夏は、夕方の仕事が迫っている。
『グラマチカル』には、漱一郎と理乃の2人で行かねばならない。
これから、交通機関は乗客が増える時間だ。
色んな事が起きる可能性がある。
そんな事を、言って場合ではなかった。
電車の中では、2人は遠巻きにされた。
若い2人が、凄い体格で、美男と美女で、仲が良い関係で、顔が良く似ている。
あり得ないシチュエーションである。
誰もが、近付き難い雰囲気があった。
理乃の体格は、あり得ないスタイルとプロポーションである。
CGで描くことは可能であるが、現実にそこに存在しているのだから、話は違ってくるのだ。
素晴らしいにも、限度と言う物が在るのだ。
普段痴漢をする事に慣れている者には、受け入れ難いので触ることも近付く事も出ない。
ということは、男性は当然、遠巻きにしてしまうのである。
しかも、屈強な男性が横にいるではないか。
色んな事は起きたのであるが、2人には噂話が聴こえるだけのことであった。
漱一郎にとっては、研究の対象と言うよりも人生の勉強であったろう。
2人は、急成長して直ぐに計測をしたのであった。
『グラマチカル』で例の装置で測ってもらうと、大幅に増えているだろう。
体重も、測る事が出来るのは間違いない。
しかし、こんな時間にも、この店は客足が止まることは無かった。
量販店のような多人数でないのは、オーダーメイドの店なのだから当然である。
1人終わると、また1人って言う感じである。
彼ら2人が、採寸を終えるのは何時になるのだろうか。
理乃は、再びメールをしたのである。
メーリングリストではなく、仲良し4人組にだけ回したのである。
「今、N暮里にいるのです。
『グラマチカル』に。
明日の海行きは、私は無理。
確実に。
だってもう直ぐ6時半なのに、採寸の順番がまだ来ない位だから。
服が間に合うとは、全く思えない。
明日、8月11日水曜日に、みんなでどこかで会わない?
学校も良いけれど、『グラマチカル』はどうかなあ。
それとも、例の芸能アーツの野田島さんに連れて行ってもらった、喫茶店はどうかなあ。
N暮里にも近いでしょう。
時間は、一美から連絡を回してよ。
お願い。
今、心の余裕ないの。」
南美からは、直ぐにメールが届いた。
「OK。
ぜひお願いします。
明日、みんなと会いたい。
御免。
何度も言うけれど、海は気分的に無理。」
次に、一美からメールが届いた。
「明日の朝に、みんなにメールします。
何かあったら、私に連絡ね。
南美の写真も理乃の写真も見ました。
ヤバイ身体だったよ。
海は中止、ペンションには連絡済み。
私には、まだ急成長は有りません。
会うのは、明日11日の午後と言う事で。
喫茶店の名前は、『夢時鳩』だったよ。
私は憶えているよ。
『ゆめじばと』なんて言ったら、マスターにぶっ飛ばされるよ。
これは、有難い忠告です。
肉問屋の親父、ここにも肉関係卸しているので、実は関係者。
『夢時鳩』の読み方は、内緒です。
明日教えてあげるから、楽しみにしていてね。
細かい話や感想は明日会ってからね。」
一美のメールの文面を見て、南美も理乃も少しだけ安心したのである。
理乃の気に掛かったのは、不二子からのメールが無い事だった。
《5》 夢の中へ
「・・・宇宙人さんありがとう。・・・」
昨晩(8月10日火)、不二子は日記の中に、こんな文を書き入れていたのである。
そこで書かれた、不二子の宇宙人への感謝の気持ちは、夢になって返って来たのである。
・・・。
私は、歩道を歩いている。
着ている物は、不二子の住んでいる町に在る市立の中学校の女子の夏の制服である。
(この少女が、私なのだな。)
身長は156cmで体重は52kg。
尻は標準サイズであるが、胸はかなりの巨乳である。
少しだけ、体重多めかなあ。
髪は肩には掛からない程度の長さで、少し脱色しているが、自毛と言えば通るぐらいである。
(緑山なら無理、高岡先生が見破ってしまう。)
体操服を入れたかばんを持って、学校から帰る途中なのである。
私の横を、1人少女が通り抜けて行く。
髪が、地面近くまで伸びている。
普通の足の運びで歩いているだけだが、スピードが早い。
なんて長い脚なのだろう。
もしかしたら…。
お尻も物凄い大きさで、肩幅よりも広い乳幅が後ろからでも分かるほどである。
あんな人間、私以外には考えられない。
でも、今の私よりも背も高ければバストもヒップも大きくて、身体に厚みが増している。
そんな事を考えているうちに、事態は進行して行くのである。
私を抜き去った少女が、止まったかと思うと素早く振り返って、私の方へおじぎをしたのである。
「こんにちは、篠崎洋子さん。
お会いするのも、久し振りですね。
中学3年生は、高校受験で忙しいでしょうね。
私は緑山学園だから、高校入試は無いみたいなものだけれど。
運動クラブも、夏休みが終わると、最後の総合体育大会ですね。
引退の時期が、近付いて来ていますね。」
顔を見ると、やっぱり私だ。
「松坂不二子」である。
慌てて自分の名札を見ると、篠崎と書いてあった。
(篠崎洋子に、私はなっているのだ。)
それにしても、私の前にいる松坂不二子は大きくて、傍に居るだけで十分に怖い。
夢の中では、入れ替わりが起こっているのである。
篠崎洋子には、私(松坂不二子)が入っているのである。
夢の中の松坂不二子に入っているのは、誰かはまだ分からない。
篠崎は、小学校6年生の時の同級生なのである。
中学3年生の夏休みだから、来年(2011年)の話だ。
私は、夢の中の不二子を誘って、何か話を聞き出そうとした。
「松坂さん。
本当に、久し振りです。
クラブから帰って、これから塾へ行く途中なのです。
だけど、1時間早く家を出てしまったので、少しお話を聞かせてもらえませんか。
私、緑山学園を高校から受験しようと思っているの。
そこにある、ハンバーガーショップにでも行きませんか。」
と言った。
すると、
「篠崎さん。
私は、市立○○中学校の事が聞きたいです。
では、行きましょう。」
2人は、ハンバーガーショップへ入り、ハンバーガーセットを購入して席に着いた。
興味があるのは、緑山学園の事なのではなく、「夢の中の不二子」のことである。
それは、当然である。
夢の中の事であるから、おかしな所はいたる所に有るのだ。
不二子は、勝手に喋り始めたのである。
「あなたは、緑山学園の事なんか、知りたいとは少しも思っていないでしょう。
私のサイズ。
どうしてこんな身体になったのか。
そんなことが、知りたいのでしょう。
教えてあげます。」
不二子は、ここからは自信ありげに低くて太い声で話し始めたのである。
「私は、とっても美しい。
顔だって、こんなに綺麗なのです。
眼も鼻も口も耳も、全て完璧な美しさ。
華やかなパーツが集まっている。
並び方も完璧よ。
睫毛も、毛が太くて長いから、細工しようとは思わないのよ。
こんなに大きな眼をした人、見たことが無いでしょうね。
まるで、アニメの主人公みたいでしょ。
でも、整形したのでは、こんな自然さは出ません。
肌も美しいので、化粧しようとか、考えもしないわ。
こんなに大きなおっぱい、見た事がないでしょう。
この辺りの曲線はね、自分でも惚れ惚れするほど、格好が良いと思う。
大きくて形が綺麗で、私このおっぱいの事が大好きなの。
アニメにだって、こんなに大きなおっぱいをした女性は登場しないでしょうね。
私のこの胸はね、ゆさゆさ揺れたりしないから、本当はブラジャーが要らないの。
不思議でしょう。
こんなに大きなお尻も、見た事がないでしょう。
しかも、形は完璧な美しさ。
ウエストからの盛り上がり方を見て、電車の中で痴漢さんが逃げてしまうのよ。
日本のアニメでは、お尻の大きさを重要視しないのが主流なのが、残念ね。
私の良さを、認めてもらえない理由かしら。
この完璧さを保ったままで、もっともっと大きくなるのよ。
冬に会ったら、びっくりさせてあげる。
肌のきめ細やかさも、極上よ。」
そこまで話したところで、私(篠崎)が口を挟んだ。
「去年の夏に、松坂さんを見た時よりも、もっと大きくなっているみたいだけど。
今の身長体重など、どのぐらいなの。
羨ましいなあ、背が高くてスタイルも良くてさ。
私なんか、Fカップで巨乳だって自慢げに思っていたのにね。」
「去年の8月11日の私はね、身長176cm、体重286kgで上から286−55−263だった。」
不二子が憶えている通りだった。
「ところが、私のお友だちが急成長したのを知って、ある種の押さえが外れるのよ。
私の成長を拘束していた物が外れて、本来ならそうなっている筈だった姿になるの。
急成長と言えばそうだけれど。
これから何度かそんな事があるから。
松坂准教授なら、どちらに分類するでしょうね。」
「だから、どれぐらいの身体になるの。」
「うるさいねえ。
篠崎さんは、そんなに私の事に興味があったかなあ。
ひとまず、そうなるけれど、先はまだあるからね。
身長203cm、体重334kgで上から334−55−308、脚長は132cmよ。
分かった。」
その話を聞いて、驚くほかなかったのである。
「私の話に戻るよ。
ここで、裸になってみても、誰も警察に通報したりしないのだからね。
男だろうが女だろうが、年寄りだろうが子どもであろうが、私の姿に見惚れてしまうのが分かっているのよ。
夢だと思うのでしょうね。
(大笑い)
運動しても、圧倒的な実力差で勝ってしまうのよ。
努力も練習も、それほどしてはいないのにね。
勝ちたいとは思わないのだけれども、
そもそも力が、こんなに強いのだから。
『力が強い』の次元が違うのよ。
そう次元よ。
不二子の次元よ。
ハハハハハ。」
指を押し付けるだけで、テーブルに、こんな大きな穴が開いてしまったのである。
それも、10個ぐらいは。
不二子は、簡単にテーブルを壊してしまった。
力は相当込められていたに違いないが、ゆっくりだったので、大して音はしなかったのである。
表情は、にこやかなままである。
「店員さん、店員さん。
テーブルにこんなに大きな穴が開いていますよ。
それもこんなにたくさん。
管理が、行き届いていないのでは、ないですか。」
不二子は、可愛い甲高くて、しかも相当大きな声でしゃべったのである。
その声は店の外にまで、響き渡った。
近所の犬が驚いて、ワンワン泣き始めたのである。
そんなに大きな声は、聞いたことが無かったのである。
店員は、不二子にペコペコ謝っている。
こんな穴を、人が簡単に指で押すだけで開けてしまうとは、思わないのだ。
「あなたが幾ら謝っても、意味は無いのよ。
店長を呼びなさい。」
この時の不二子の声は、聞いていて本当に怖かったのである。
店長は、封筒に幾らかお金を入れて、持って来た。
「篠崎さん。
受け取っておいてくれない。」
店長は、篠崎(私)に封筒を渡したのである。
「こんな所には、何時までもいられない。
篠崎さん。
一緒に出ましょう。」
不二子は、篠崎の手を取って、引っ張って行くのである。
大きな手で力強く握られて、篠崎(私)の手は痣が付くほどの痛みを感じたのである。
不二子に、公園まで連れてこられたのである。
ベンチに座ったかと思うと、かばんを置いて不二子は立ち上がったのである。
夏の暑い時期だからか、なぜか誰も見てはいないのである。
不二子は、公園のジャングルジムの鉄製のパイプを曲げて最後には鉄屑にしてしまった。
ブランコと滑り台を引き抜いて、その辺りに転がしておいたのである。
「大丈夫だよ。
篠崎さんは、何も心配しなくて良いよ。
人間が自分の力でやったとは、誰も思わないから。
心配は無いの。
さっきの、お金はもらっておいてね。
それとも、もらえないとでも言うの?
私が言っているのよ。
返しちゃ駄目よ。」
その時の声は、普通の話し声であった。
「さてと。
ゲームはここまでよ。
どう思った?
不二子って、どんな感じがした?」
話し方は、柔らかくて優しかった。
「不二子の側にいるだけで、とっても威圧感があった。
その超乳超尻には圧倒されたし、話し声も力強かったり優しかったり・・・。
体格の素晴らしさには、本当に参ってしまう。
そして、あの力の強さ。
手品でもなく、種も仕掛けも無いのに。
だれも、不二子が犯人とは思わないよね。
色んな事が分かった。
分かって良かった。
これから気を付ける。
自慢していたら、シャレにならなくなったわ。
本当なのだから、自慢じゃないよね。」
「本当の不二子は、こんな事をする筈がない。
そうでしょう。
大事な事を教えてあげる。
不二子には、こんなことも出来ると言う事よ。
いざという時には、力でも体格でも使うのよ。
分かった。
伝えたい事は、こんなことよ。
あなたの友だちは、これから次々と急成長する。
一時的には、不二子より大きくなるかも知れない。
不二子は、これからも成長し続けるの。
そして、成長するとね、私の話が良く分かるようになるのよ。」
「あなたの言った、私って、誰。
誰の事なの?」
「もう、分かっているでしょう。
あなたの夢の中に入るぐらいは、私には簡単な事なの。
ある線を越えると、次の段階へ入ることになる。
松坂家では初めてよ。
誰の事も、参考にはならないからね。
とにかく、心配するなと言う事よ。
私の声が聴こえるように、あなたはなるのですからね。」
「・・・。」
その辺りの所で、不二子の夢は途切れたのであった。
忘れたのか、忘れさせられたのか、分からない。
不二子に見せるだけ見せて、潜在意識にだけ残して・・・。
《6》 散歩に出る
不二子は、気持ち良く眼が覚めたのである。
変な夢だったなあ。
でも、あんなこと言ったりしたり。
考えただけで、気持ちがすっきりするだろうなと思ったのである。
今日から夏休みだと思うと、嬉しくて堪らない。
好きなウェイトトレーニングが、やりたいだけ出来るからである。
実は、昨晩父親の博司が頼んでいた、新しいウェイトが届いたのである。
重さに合わせて、トレーニング機器も、新しくなっている。
軽くて少し面白くなくなっていたことにも、今日からは本当に楽しく取り組める。
朝ご飯は、いつもよりもたくさん食べたのである。
「不二子、良く食べるわね。
体重が増えるわよ。
あんたはね、でんぷんでもセルロースでも、全部筋肉に変えてしまう。
特別な才能が在るのだからね。」
と香里奈が言っても、気に掛けている様子は無かった。
「不二子の髪の毛。
昨夜のうちにだいぶ伸びているのではないかなあ。
長い髪の毛を、50cmは引きずって歩いているよ。
確か昨日までは、お尻の少し下程度だったと思う。
ママ。
後で、不二子をどうにかしてあげてよ。
太さも、私たちのとは比べ物にならない太さになっているとは思わない?
本数が増えたような気がするけれど、不二子はどう思うの。」
亜利紗は、急成長の前兆ではないかな?
予感しているようである。
今度も騒ぎになりそうな予感がするのである。
不二子のことを、心配しているふうである。
「お父さんがね、ウェイトトレーニングはね。
やり過ぎってものが在るから、気をつけなさいね。
と言っていましたよ。
良いですか。
健康を過信してはいけませんよ。」
美沙子が窘めるほど前向きな、不二子であった。
食事が終わると、いつもは見る事が出来ない、朝のテレビ番組を寝転がって見ていた。
その間に、美沙子は、長く伸びた髪の毛を櫛できれいに束ねて、何か所かゴムでくくっていたのである。
もう引きずって歩いたり、踏んでこけたりする事はないだろう。
はなまるマーケットの穏やかな雰囲気が良いか、スッキリのテリー伊藤さんの分かりやすい論評がよいか。
チャンネルを動かしながら、悩んでいたのである。
そして、10時前からは、ウェイトトレーニングを始めたのである。
今は、「巨乳化宣言」の頃のウェイトの、3倍ほどの重さでトレーニングをしている。
さすがに、楽々と持ち上がる訳ではない。
力の限界ではなくても、今まで持ち上げた事のない重さにチャレンジするのは、不二子には興味深かった。
重いウェイトを数度使うと、そのウェイトが軽く感じるようになると、不二子は言うのである。
昨日からは、身体からの情報が、不二子の意識に伝わって来るのである。
痛いとか疲れたとか、快or不快、と言うだけの情報ではなかった。
宇宙人からのテレパシーが、言語化できるのである。
文章の形にはならないが、漢字が二字程度で頭に浮かぶのである。
テレパシーを画像や映像で受け取る人たちがいる事は、良く知られている。
それとは違って「熟語」で不二子は受け止める事が出来るのである。
ウェイトトレーニングを始めた時には、頭の中に、『継続』と言う言葉が頭に浮かんでいるのである。
体が温もって来ると、『重量』・『増加』という具合である。
体調の悪い時には、『休息』とか『布団』と言う具合である。
この情報は、不二子の身体を守っているのである。
例えば、無理なトレーニングをして故障する事などが、無いのであろう。
色々な部位を、色々なウェイトで鍛えた後で、『今日』・『終了』と浮かんだのである。
ウェイトトレーニングは危険な部分があるので、そんな言葉が浮かぶのであろう。
普段は、言葉が浮かぶ事は無いのである。
不二子が自分で心のふたをしたならば、意識の中に割り込んで困惑する事は無いのである。
今のところは。
少しずつカームダウンして行って、リラックスしてトレーニングを終了する。
トレーニング機器等を直して、ホエイプロテインを摂取して横になったのが、11時半であった。
少し昼目をして、起きてみると12時半を回っていたのである。
テレビを付けると、「テレフォンショッキング」が終わっていた。
「昼ご飯を食べなければ、お腹が空くなあ。
お母さんが作ってくれたオカズと、炊飯器のご飯でたべよう。
お姉ちゃんは部活、お母ちゃんは仕事。
ルンルン。」
不二子のテンションは、まだまだ高かったのである。
テレビを見ながら、昼ごはんをゆっくりと食べて、後片付けを終えた頃携帯電話にメールが入ったのである。
「南美が急成長した。
身長が180cmで体重が80kg。
良いじゃないの。
私よりも背が高いのね。
115−63−102 で、脚長92cm。
写真で見るとバランスがとれていて、素敵じゃない。
スマートで筋肉質だけど、身体の線はしなやかで強靭ね。
羨ましいなあ。
まるで、スーパーモデルみたいな身体だね。
まあ、『グラマチカル』に行けば、もう少し大きくなっているだろうけれども。
その割に、不満がありそうね。
それも、南美らしいかな。
メールでは気持ちを受け止めきれなそうね。
こんな時は、一美に任すのが一番、一番。」
不二子は、散歩に出かけた。
割と、珍しいことである。
午前中に激しい運動をしたのだから、軽い運動をするのがよかろう。
先日『グラマチカル』の、加藤さんから送られた服を着たのである。
服装は大好きな、紺色のキュロットスカートと、薄い黄色のサマーセーターで襟は朱色である。
尻の盛り上がりが激し過ぎて、ミニスカートは似合わないと言うよりも、着ることが難しい。
それで選ばれたのが短めのキュロットスカートなのである。
肌の露出の多いのは確かであるが、派手さに置いては前の赤いショートパンツ程ではない。
今日は、何度も身体の成長に合わせてサイズアップされているあの服装ではなく、別の物を選んだ。
日除けの為に、庇の広い白に青いリボンの付いた帽子を被り、いつものペースではなく、ゆっくりと歩いている。
不二子の脳裏には、どんな言葉が浮かんだのであろうか。
漠然としているのであるが、一字だけ浮かんでいた。
それは、『友』であった。
不二子はそれを、「ゆう」と読んでいて、他の一字を探しているのだ。
「友に一字付けて、何か言葉を作れば良いのね。
友○?
○友?」
テレビのクイズみたいな感じである。
身長176cm 体重286kg 266−55−263 のボディで脚長105cmの、美貌溢れる不二子が散歩をする。
今の不二子は上半身の成長に、下半身が追いついて抜かしてしまった状況なのである。
ここで言うのは急成長の事では無くて、自然増というか不二子にとっての、普通の成長である。
胸ファンには申し訳ないが、今はそう言う状態なのである。
上半身の成長を、待っている時期なのである。
不二子の超尻から2本の脚が伸びているのであるが、下半身のバランスから行くと、今は脚が太すぎるのだ。
付け根から、パンパンに張った太ももが下に行くに従って太くなって行き、ひざの関節で締まっている。
不二子の膝の関節は骨の構造が頑丈に出来ているのは、残念ではあるが、体重を支える為である。
カモシカの様な脚線美は、今の不二子には無い。
脚長105cmでは太さに見合う長さではなく、今の脚の太さはこの尻でさえバランスでは小さいかもしれない程だ。
尻の肉が擦れて、良く聴くと音がするのはいつものことである。
不二子ので、脚を前に運ぶ際に少し大回りをさせて歩いている。
すると、結果としてお尻を振り振り、歩くことになる。
キュロットスカートの鮮やかな紺は、ここを見て下さいと言うような記号のような物である。
スカートであっても、左右交互に収縮を続ける、尻肉の動きを想像させるのである。
余りにも刺激的で、男性の視線を集め血液を海綿体に集める。
今の不二子は、後ろから見ていると、本当に尻が目立つ。
彼女の知らぬところで、色々と事件が起きても不思議ではないのは、いつものことである。
男性がつい不二子の尻を長時間眺めてしまい、女性がそれに腹を立てるのが、若いカップルのお決まりである。
「あの子の、尻ばっかり見ている。」
と言った女性が、不二子の尻に見惚れて、負けずと長々と眺めてしまったりするのだ。
今回着ているサマーセーターは特別伸縮性があり、不二子のウエストに生地が余らないのである。
いつもウエストに布が余ってしまうので、縫製で工夫していた。
この頃の不二子のプロポーションではそれでも、ウエストに布が余ってカーテンを閉めたような状態である。
設計上は着ることが出来るように思っていても、着脱の際に無理なことが不二子の場合往々にしてあったのだ。
今回のニット製品は、本当によく似合っている。
『グラマチカル』でも、研究したのに違いなく、着心地が良いのである。
しかし、上半身にフィットすると言う事は、バストの形やウエストのくびれが良く分かるのである。
前から見ると、ド迫力で迫って来るのである。
分からないように、脇腹にファスナーとボタンを使っているのである。
美しい裸の胸を見ての感動は、男性ならば誰しもが体験するであろう。
それが高じてというか屈折してというか、着衣のほうに興味が移っていく場合もある。
競泳水着を着た体格の良い女子競泳選手でも、巨乳の場合限定で盗撮の対象となるのも理解できる。
セーターを着た不二子の姿は、撮影要求を喚起する相手が色々な趣味の男性に亘ってしまう。
ブラジャーの上に一枚のサマーサーターを着ているだけなのである。
しかし、最近の不二子はそういう視線をいち早く感じ取り、多少強引な行動に出ることに抵抗がないのである。
特に書かなかったが、小型のカメラを取り上げて、胸の谷間に隠すことは日常茶飯事なのである。
散歩は、長時間に及んだ。
1時半過ぎには出発して、すでに3時を回っている。
夏の盛りである。
水分は準備をしていたし、甘い物も用意していたので、しばらくはコンビニやスーパーに入る必要は無かった。
そろそろ、のどの渇きを覚えてきたし、小腹も空いて来たのである。
歩きながら何度も思い出すのは、昨晩見た夢のことだ。
夢の中の不二子は、今の不二子よりも大きく成長していることは、間違いが無かった。
例え夢の中の事とは言え、不二子への重要なメッセージが、隠されているのである。
きっといつかは、分かるのである。
今は、例の熟語は、ただ一字『友』以外には、思い浮かばない。
不二子の成長の為には、不可避な事が起こっているのだ。
この散歩ですら、意味があるに違いないのである。
きっと、そうなのだ。
どんな中学生にとっても、成長の為には不可避な、危険な時期を通らなければならないのである。
思春期と言う言葉を、歌詞や小説で簡単に美化する人たちは多い。
しかし、教育的な立場から言うと、大変な時期なのである。
不二子もこんな所まで、歩いて来た事は無い。
こんなお尻になってからは、自転車に乗ったことはないのだ。
そもそもこの体重では、無理である。
小腹も空いて来たので、大手のハンバーショップに入ることにした。
どこへ行っても同じような造りであるが、それが良いのがチェーン店である。
余り飲んだ事の無い、アイスコーヒーのLと、チーズバーガーを単品で頼んだのである。
フライドポテトは、不二子の余り好きでない食べ物の一つなのである。
アイスコーヒーに、ガムシロップを3つとミルクを2つ入れて、良くかき混ぜたのである。
一気に半分ほど飲むと、糖分とカフェインが脳天を直撃したような気分になる。
今までもやもやしていた気分が、すっきりとして来たような感じがする。
その時、もう一字浮かんだのが、『性』という文字であった。
自分の心の奥には、釈然としない物がある。
『友』・『性』が何を意味しているのか。
不穏な雰囲気がするのは、後になって出てきた『性』が理由である。
ハンバーガーショップを出て、不二子は家に帰ることにした。
歩きながら、『友』・『性』以外に、理乃の顔が浮かんだのである。
何かが理乃の身に、起こっているのだろう。
危険ならば、『危険』と字は浮かぶだろう。
違うから、そうではない。
不二子は推理した。
何かの瀬戸際から、安全なところへ戻ったのだろう。
家に着いたのは、5時半を過ぎていた。
不二子の頭の中に浮かんでいるのは、『休息』である。
美沙子は帰宅していたが、亜里沙と香里奈の姉たちの帰宅はまだである。
夏の暑い時間帯に、長時間の散歩などするものではない。
真夏の強い紫外線を多量に浴びると、運動量以上の疲労感を感じる。
不二子の疲れは、それだけのものでは、なかったのである。
そんな事は、普通はするべきことではない。
海水浴や山に登った際に、強い紫外線を浴びて疲れを感じた経験は、誰にもあるだろう。
しかし、問題はそんなに簡単ではなく、なぜ不二子がこんな時間に散歩をしたかである。
まず必要なのは、ある一定量の紫外線の強さである。
それと、「梅雨明け後からお盆過ぎまで」の時期以外は降り注がない、太陽からの特殊な波形のM光線の存在がある。
その光線の、ある一定の量は、急成長に欠くことが出来ない。
M光線が少ない5月、という時期に急成長出来たのは、その年の特異な太陽の動きも理由の一つである。
不二子のシンクロ率の高さも、重要な要素だといえる。
水分補給を十分にして、シャワーを浴び、リラックスウェアに着替えた。
本当は、愚図愚図している場合ではないのだ。
それからおやつに用意してあった、ふかしたサツマイモ鳴門金時を、2本も食べたのである。
少し塩を振ると、余計に甘さを感じる。
唾液と混ざると、優しい甘みを感じる。
ビタミンのたくさん入った、健康飲料ロポビドンを一本飲んだのである。
珍しいとしか、言いようがない。
松坂家の冷蔵庫にいつも入っているとは限らない、副食である。
「ママ。
少し体調が悪いみたい。
疲れた気がする。
脚もだるいし。」
「こんなに暑い日に外を歩き回っていれば、疲れもしますよ。
夏目理乃さんから、電話もあったのよ。
この間、うちに泊まった可愛い女の子じゃないの。
電話しなくてよいの?」
「今は、それどころではないみたいなの。
大変なのは私なの。」
「それはそうと・・・。
さつまいもをそんなに食べて、調子が悪いって。
不二子らしくもない。
何か変よ。
どこで寝るの?」
「自分の部屋で、少し横になる。
寝たりはしないから。
大丈夫よ。」
流石の不二子も少し疲れたようである。
しばらく、横になるつもりらしい。
こんな時間から昼寝をしては、身体に良くないのは当然である。
いくら夏休みだからと言っても、生活リズムに変調をきたすのが落ちである。
《7》 着信を見るだけで、そんなに
しばらく横になった後で携帯電話を見ると、理乃からのメールが届いていた。
午後4時18分だから、着信してからもう二時間と少し過ぎていた。
夏目家で何か特別なことでも、あったかも知れない。
不二子は、予感していた。
早く返信をしなければならないが、その前にメールの内容を確認しなければなるまい。
「昼前の前兆って何だろう。
どうして、その時に知らせてくれなかったのだろう。
どんなことがあったのか分からないけれど、理乃たちのこと心配だったのよ。
理乃が身長183cmで体重が100kg以上に。
上から、186−73−168。
漱一郎お兄さんが、身長198cmで、183−82−158 で、筋肉モリモリの身体。
すごい急成長だね。
お父さんも吃驚しているだろうな。
写真の理乃、すごいおっぱいとお尻の大きさ。
『グラマチカル』にそれから行ったのだ。」
不二子は、自分の身体にスイッチのようなものが入った事を感じた。
既に、何時間も前から、その前兆はあったのである。
M遺伝子に影響を及ぼす光線を大量に浴びて、不二子の瞬間シンクロ率は、跳ね上がった。
気付かないほうがどうかしているというか、そう仕向けられたかもしれない。
3時間以上の散歩や、アイスコーヒーのLなど。
感覚が混乱しそうなことはあった。
しかし、理乃からのメール見たことが、不二子に大きな影響を与えているのは間違いなかった。
どちらの情報が?
理乃。
漱一郎。
不明である。
まだ、着信はあることに、不二子は気付く。
「理乃ちゃんたち、いまN。
南美から。
どうしたのだろう。
一美から。
メール。
明日の海は中止。
えっ。
行きたかったのに。
明日集合。
みんなで会う。
午後・・・。
『ゆめじばと』・・・。
私、どうしたの。
目の前が真っ黒。」
不二子は、階段を何とか降りて、ダイニングキッチンに身体を運んだ。
「ママ。
助けて。
・・・。」
不二子はそこで、記憶を失ってしまった。
美沙子の力ならば、不二子がいくら重くても、布団に運ぶことはできたのである。
夢の中では、人の姿が大きくなったり小さくなったり、液体のように流れたりしていた。
人と言うか、生物であることは間違いないのだが、はっきりと姿が形になっていないのだ。
「不二子よ。
大きく成長する予定なのだが、お前は大きくなりすぎてしまった。
その為に、筋肉の比重が一般人のそれと比べて、比重が1.3程度になる。
見た目は少し大きくなっただけであるが、重さ随分と増加する。
理屈はもういいだろう。
比重だよ。
今回はどうなるか、こればっかりはやってみないとわからない。
どこの星でも、科学の進歩と現実的な技術との間の乖離は存在する。
中2の不二子君には、難しい言葉が多かったかも知らんが・・・。
バイバイ。」
夢の中でも、この生物が語った言葉は忘れることはできなかった。
不二子にとっては、今回の急成長は辛かったのである。
散歩も必要であったし、体力的にも消耗したのである。
不二子が目を覚ましたのは、7時を回っていた。
目を覚ますと直ぐに、美沙子と姉たちが傍にいるのが見えた。
「不二子。
今回の急成長は、脂汗をたくさんかいているよ。」
「これを飲みなよ。」
亜里沙と香里奈は、適度に冷えたスポーツドリンク入りの麦茶を用意してくれていた。
ゆっくり飲んだつもりだった。
そして、不二子はもう一杯欲しかった。
雰囲気を察して、亜里沙がもう一杯を持ってきてくれた。
今度は、冷えていなかった。
「さっき、不二子のメールを盗み見したけれど。
夏目理乃って子。
大きくなっているね。
不二子、それ見て刺激を受けたのだと思うよ。
身長は大台乗っているよ。
体重もね。」
香里奈が少し意地悪そうに言うのは、いつものことである。
美沙子は、不二子に急成長後に着せる服を持ってきてくれた。
問題なく着ることができた。
よほど大きくなることを予想していたみたいである。
「裸で計測しなくても良いよ。
どうせ、『グラマチカル』で測るし、今は急成長後だから、これからまだ大きくなるだろうし。
こんな時間でも行かないと、明日困るよね。
まるで、子供たちが幼児の頃、夜に熱を出して慌てて市民病院へ連れて行ったことを思い出す。
とにかく、適当に測るからね。」
身長は208cm 体重は300kg以上 上から 368−55−308、脚長は132cmだった。
N暮里の『グラマチカル』に行けば、正確に測ってもらえる。
夏目たちもまだいるかもしれない。
車に乗って、不二子はメールをした。
「メールを読んだよ。
これから、私もそっちへ行くよ。
急成長したみたいよ。」
店に着くまでの時間、夏目理乃と不二子は、メールのやり取りをしていた。
夏目がいったいどこからメールをしているのか、美沙子は聞こうとはしなかった。
美沙子は、AMラジオを聴いていたのだ。
NHKの第一放送を聞くのが、美沙子は好きそうである。