松坂家の秘密

カンソウ人 作
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★その8 S谷にて

《1》    エピソード1

アーケード街のある飲食店で、事件が起ころうとしていた。
店の2階から、大きな声がする。
時間は午後1時17分である。
見ると、店には大きな看板があり、「居酒屋あーちゃん」と書いてある。
こんな時間に、居酒屋として営業はしないで、お昼は定食を提供しているのである。

迷彩服を着た男が、2階の窓から身体を乗り出して、大声で叫んでいる。
声は低いが、落ち着きを失っていることは、誰にでも感じられた。

「おら、こん店ん、女性オーナーのやり方が、気に入らん。
おれん女房の母親で、どげしこ偉いかしらんばってん、あの仲裁の仕方は嫌だった。
警察ば呼ぶなら、おっも気持ちば、はっきりさする。
おら、猟銃ば持っとっとだけん、気をつけた方が良かばい。」

(標準語訳
俺は、この店の女性オーナーのやり方が気に入らない。
おれの女房の、母親でいくら偉いかもしれないが、あの仲裁の仕方は嫌だった。
警察を呼んだら、俺も気持ちを明確にする。
俺は、猟銃を持っているのだから、気をつけた方が良い。)

男がそこまで言うと、ライフル銃の銃声が一発聞えたのである。
お笑いの関西系でも無ければ、東北訛りでもなく、北関東の方でもない。
声が大きいので、不二子には聞えていたが、意味が見当も付かなかった。

「こん銃が本物て、分かったろうもん。
オーナーは、市議会議長までやった人間ばってん、だけんちゅうて、やり方が良かかどうかは、別たい。
店の客を、人質にしているけん、警察ば呼ぶ時には、覚悟ばせろ。
銃の扱いには、慣れとっとだけん、気をつけた方が、良かぞ。

女房との、喧嘩の仲裁は、偉そうにして、欲しくなか。
おったちの事は、おったちに、任せてほしか。
女房ば、殴ったことは、悪かったって、思とる。
話は、まだ有るばってん、先に人質ば、見せとこうと思う。

カメラマンは、しっか映像ば、撮ってほしか。」

(標準語訳
この銃が本物だと、分かっただろう。
オーナーは、市議会議長までやった人だが、だからと言ってやり方が良いかどうかは別だ。
店の客を、人質にしているから、警察を呼ぶ時には覚悟をしてほしい。
銃の扱いには、慣れているのだから、気をつけた方が良い。
女房との喧嘩の仲裁は、偉そうにして欲しくない。
俺たちの事は、俺たちに任せてほしい。
女房を殴ったことは、悪かったと思っている。
話はまだ有るけれども、先に人質を見せておこうと思う。
カメラマンは、しっかりと映像を撮ってほしい。)

迷彩服を着た、40歳代に見える男は、2人の人質の顔を2階の窓から突き出して見せた。
2人は、たまたま同じ店で昼食を取っていただけで、何の関係も無かった。
1人は20歳代で、きっちりと化粧をした若い女性で、独身のように見える。
もう1人は、30歳代の、子供がいるように見える女性である。
人質の顔を見せながらも、銃口は2人のうちのどちらかに、必ず向けられていた。

店の前の路上では、その姿を見て落ち着きを無くした人が数人あった。

そのうち2人は、小学生低学年の男女である。
女の子の方が妹だろうか、外聞も気にせず母親の名前を呼びながら大声で泣き叫んでいる。
この子は、幼稚園の年長かもしれない。
男の子の方は、年が2つ程度上なのだろう。
涙を浮かべながらも、
「ママ、大丈夫だよ。
警察の人が、すぐ来てくれるから・・・。」
と叫んだ。

それは、ここでは犯人を刺激する言葉である。
人質の命の事を考えると、言わない方が良いのだが、この子に言っても無駄である。
気を利かせた近所の老商店主が小声で何か言った。
すると、女将さんらしき人が2人の子どもを抱きかかえるようにして、自分の店に連れ込んだ。
女将さんらしき女性は、子どもたちになにやら話しかけていた。
最悪の場合を考えると、子どもたちに母親が射殺される所を見せるのは、良くないからである。
2階の窓際にいた母親は、子どもたちが近所の店に入るのを確認すると、崩れ落ちるように見えなくなった。

そのうちの1人は、若い女性の母親である。
40歳代後半から、50歳ぐらいであろう。
薄いピンク色のタイトスカートにサマースーツを着ていて、上品そうな熟女である。
尻肉がむっちりとついていて、年の割にはウエストも締まっていて、豊かな胸がスーツを浮かせ気味にしている。
彼女は、取り乱していて、何をしゃべっているのか良く分からない。

「あの子を助けて・・・。」
「私が身代わりになっても良い・・・。」
「もしあの子を助けてくれたら、1000万円出しても惜しくは無い・・・。」
など、所々しか何を言っているか分かる所は無い。

どうも、嫁入り前で、結婚式も近いようなことも言っている。
この結婚が破談になると、かなり困るようなことも、口走っていた。

慌て方といい、口走った金額が大きすぎる事など、この人物も犯人の視野に入れたくない存在のように感じる。
しかし、近所の商店主(また別に人物)が、この場を離れて冷静にさせようとしても、聞き入れそうになかった。
自分の今の様子が、彼女には見えていないようである。

警察の対応がきちんと整う前に、民放テレビ局のクルーが到着し、レポーターをカメラが撮影している。
カメラには、警察が(正しくは警視庁だが)人の流れを制限したり、例の黄色いテープを張ったりするのが映っている。
まだ、警察の対応が遅いわけではないが、準備中というしかない状況である。
まだ、歩行者の通行を止めるに至らない。

そこへ、不二子が通りかかった。
レポーターの女性は、身長が高く173cm程度はあり、スタイルは良かった。
どうも、10代中ごろは、売れないアイドルグループに所属していた女性のような気が、マニアにはしていた。
大学は卒業したものの、経歴があだになって、テレビ局のアナウンサー試験には合格出来なかったのだ。
レポーターからキャリアアップをしようと、気象予報士の勉強をしている最中なのである。

その女性レポーター後ろを、何かが通り過ぎた。
テレビには、レポーターの頭の遥か上を、不二子の超尻が通り過ぎたのが映ったのである。
不二子が長い脚で、テレビの右端から左端へと歩くのが映ったが、歩幅が広すぎて良く分からなかった。
レポーターはこの現状を、今言わなければとの使命感から、早口でテンションが高い。
後ろを通った不二子の方が、この事件よりも日常を逸脱している事に気が付かない。
警察の準備が整うと、現場の近くでは放送できないであろう、取材特有のそんな心配もあった。
スタジオで放送しているキャスターは、長身で人気のレポーターの遥か上を何かが通ったのを、見逃さなかった。
それが大きな肉の塊で、人間の尻であるとは、画像だけでは判断できないのは仕方がない。
放送内容を考え人質の命に配慮すると、不二子の超尻の事を喋るのは、無理というものである。

つまり、
「人質の方は2人ですね。
ところで、今大きなお尻が、映りませんでしたか。」
こんなことを放送するのは、出来ないだろうというのである。

1カメは、レポーターを映していた。
2カメは、居酒屋の2階を映していた。
3カメは、ハンディータイプのカメラで、警察官現場へ突入のシーンを撮るとこを命じられて、待機中であった。
ここまでは、ディレクターの計算通りであったことは大切な事である。

不二子の頭の中には、店の2階の窓の所でジャンプして、男から持物を取ることが浮かんだ。
どういう訳か、不二子はすぐに実行した。
理由も男の顔も、まだ何にも分からなかった。
不二子は、身体を低くして反動をつけて、ジャンプして手を伸ばした。
不二子の手は、男の持っているライフル銃の真ん中辺りに手が掛った。
力を込めてライフル銃を掴もうとしたが、咄嗟の事だったので、イメージが掴めていなかった。

力を込めすぎてしまったために、かえって掴めなくて、仕方なく着地したのである。
と言うか、若い女性が不二子の胸めがけて飛び込んで来たからだった。
女性は、助けに来た何かの部隊の一員と、不二子の事を勘違いしたのだ。
その女性を胸に置いて、不二子は着地したのだ。
不二子の胸が大きくて助かったのは間違いなかった。
まるで、助け出したように見えた。

犯人の迷彩服を着た男は、不二子の存在に気付き、咄嗟にライフル銃を不二子に向けて引き金を引いたのである。
さすがは、長い間山で猟の経験を積んだ男の事である。
反応は早かった。
不二子は、撃たれる事よりもその男が銃を撃たない事を、頭に浮かべていたが言葉にするには時間が無かった。
引き金が引かれると同時に、銃は爆発したのであった。
男は、怪我をしてしまい、痛さのあまり腕を押さえたのであった。
数人の警察官が、居酒屋の2階になだれ込み、犯人は逮捕されたのであった。
当然、人質は無事であった。

最初から、男がそのような欠陥品を持って来たのではなかった。
一発は、無事に撃つ事が出来ていた。

不二子が目一杯力を込めてライフル銃を握ったので、銃が変形していたのである。

話は少し戻る。
3カメのカメラマンは、実は「超乳戯画」と言うサイトのファンであった。
それがどんな性癖であるのかは、良く分からなかった。
彼はより強い使命感で、1カメの撮影範囲に入った不二子の姿を、追い掛けながら撮影をしてしまったのである。
必死で追いかけたので、不二子のジャンプから着地を前方から撮影する事に成功したのである。
このカメラマンの感は鋭かった。
不二子の超乳は、公共の電波に乗る寸前まで来ていた。

カメラマン氏は、不二子の姿を気の済むまで、カメラに残してから、警察官突入を追い掛けたのであった。
当然、不二子の握力でライフル銃が変形する瞬間も、撮影に成功していたのである。
超乳の、ハイジャンプによる自然な変形も、当然記録されていたのである。
女性が胸の上に乗っている分、バストの変形は大きかった。
そして、女性を下した後の、前から見た不二子の自然な姿すら、撮影に成功していた。
一連の動画は編集されて、テレビ局に残された事は、覚えていてほしい。
この動画は、3カメの男と共に、この会社から葬り去られることになるのだろうか。

不二子の大きな手の跡が、ライフル銃には残っていた。
余程力を込めて握ったのであろう。
握られた所は、金属が細くなっていて、警察官が証拠品として押収しようとしたところ、半分に折れてしまったのである。
犯人が撃った一発が爆発となり、事件解決に向かう大きな流れを作った。
銃が折れた原因はそれだけでは無さそうである。
科学捜査がそのあたりの事を、詳しく解明してくれると思われる。

母親は、子どもたちの所へと戻る事が出来た。
警察では、何度も事情を聞かれるに違いない。
実際、結構時間を掛けて調べるのだ。
「私は被害者よ。」
憤慨する人も、多いと思う。
加害者になってはいけないが、私の読者には被害者にもならないように気をつけて欲しい。

1000万円云々言っていた女性は、どうしたのだろう。
彼女は、不二子に手に持っていたお金を現金で、くれたのである。
本当の所、こういう場合はどうするのか私は知らないが、不二子は30万円を受け取ったのである。
受け取らない方が良いのでは、不二子はそう思ったのである。
しかし、彼女から受け取らない事の方が、不二子には難しかった。
それほど、その女性は感謝していたし、しつこくお金を渡そうとしたのであった。

不二子がテレビカメラの前を通り過ぎる所が、記録されて、この日の午後何度もこの放送局で使われた。
主に映っていたのは、アイドル出身のレポーターである。
「This object is too huge for butt and it of man. However, it was a woman of peerless beauty.」
このような題名で、ユーチューブにアップされたのは、大きな事件であった。
発砲事件の1000倍以上、再生回数が多かった。
残念だが、尻と脚以外は映っていなかった。

まだ、1時34分である。
時間がかかったのは、あの女性からお金を受け取るまいと、頑張ったからである。

あの瞬間的な動きは、不二子の意志では無かった事は間違いない。
では、誰の?


《2》    エピソード2

レイヤー星人は、地球上では長時間過ごす事が出来ない。
自分たちの肉体で、空気中を過ごす事が出来るのは、5分が関の山なのである。
ウルトラマンの様なものである。
仕方なく、肉体をもった動物と共生関係を持つことで、地球上での活動を行う。
レイヤー星人の力が無ければ、地球人の体力だけでは出来ない事もあるが、それはレイヤー星人側からも言える事だ。
勝手に市井の人たちの身体を使うのだが、それでは色々と制限がかかる。
浮浪者や原始的な生活をしている人などなら、何とかなると彼らは思っているのである。
割と身勝手な、発想である。

3年ほど前から、いつもの宇宙人は「地球人のカタログ」と言う物を用意していた。
このたび、レイヤー星人の「タイムラグ」君はカタログから、不二子を選択したのだ。
不二子のスケジュールも、いつもの宇宙人は調べているのである。
1時間ほどの、スケジュールの空きを、発見していたのである。

すべての人間がそこに掲載されているのではなくて、彼らが関わっている言わば関係者たちである。
亜里沙や香里奈、美沙子や博司も、掲載されていた。
何時でも良いという訳ではないが。
夏目、北村、滝沢は、まだ掲載不能である。
攻撃力と守備力が高くないと、共生関係を作っても、出来ることが少ないのだ。
ついでながら、かつてはW乃花、T田延彦、女性ならばK取忍、N脇美智子なども掲載されていたらしい。
共生関係を作るのには、苦労が必要である上に、本人との接触をしたことも無いのに厚かましく掲載したらしい。
苦情が多く、「地球人のカタログ」は中止されていたが、再開されていたのである。
体力的に優れている人たちであるのは間違いないが、どんな事が起こって中止に至ったか興味も有る。

不二子の事に、話を戻そうと思う。
時間は、1時34分から2時34分までの、ちょうど1時間だけである。
この時間は、不二子の肉体が思うどおりに使えるだけでなく、共生関係を使ってもっと色々な事も出来るのである。
レイヤー星人といつもの宇宙人が、どんな契約をしているのか、誰にも分からない。
このレイヤー星人の愛称が、「タイムラグ」でありそれ以上の事は、物語の進行と共に分かって来る。
そう呼ばれているのには、訳があるのであるが、先を急ぐことにする。

例の宇宙人の許可があるので、いきなり「タイムラグ」は、歩いている不二子に乗り移った。
許可など無くとも、無理やり寄生的関係に入り、説得して本物の共生関係に移行するのである。
不二子は、首筋や太腿を掻き毟りたくなったのである。
違和感が生じたのだ。
不二子は何者かが自分の身体を利用している事に、いち早く気が付いたのである。
理由が分かれば、掻き毟って美しい肌に、傷を付けるようなことはしない。
そう言えば、先程ジャンプしたのも、決断するよりも早くジャンプしていたし、目的も何も理解していなかった。
その時の一瞬の感覚と、良く似た感覚なのであった。

不二子は、心に言葉を浮かべるだけで、タイムラグに伝わるようである。
音に出して、しゃべる必要は無い。

(ところで、あなたの名前は何なの?)
(「タイムラグ」と言う名前で呼んで。
不二子さん。
私は、レイヤーと言う星から地球に来たのよ。)
(タイムラグさん、これから私は何をしたら良いの?)
どこへ、私は行けば良いの?
歩いて行ける距離なの。)
(黙って歩いていたら、目的地に着く事が出来るのよ。
私は、レイヤー星の惑星間パトロールのメンバーです。
不二子さんに共生出来て、幸せな気分。
これから、敵と相対するのだけれど、そんなことはどうでも良くなるほど、嬉しいね。
巨乳や爆乳を遥かに超えてこんなに凄い超乳なんて、ホントに羨ましい。
こんな身体に、なってみたかったのよ。
おっぱいの揺れる感じが、地球にきて味わえるとは思っていなかった。
感激!
共生するならば、松坂不二子って子にしなさいって、お友だちにもこれからは言おうって思う。)

(おいおい。
何か気持ち悪い。
共生するって、そんな難しい言葉使った事も無かったけれど。
私をどう使うつもりなのだろう。
第一、許した覚えもないし、誰から紹介を受けたのだろう?)

不二子には、心当たりがあった。

(誰かに関係ある話だろうな。
きっと…。
人の形が大きくなったり小さくなったり、液体みたいに流れたり・・・。
あの宇宙人さんじゃないかなあ。)

予想した通りであった。
あの姿の宇宙人が不二子の頭のなかで、ペコリとお辞儀をするのが見えたからである。

(仕方が無いなあ。)

だけれども、危険な事には会わない、安全なのだと言う事が分かって、一応安心したのである。
しかし、不二子の知らない事がまだまだ2人の宇宙人の間には、隠されているのであろう。
(失礼な内容ではないかなあ。
ところで、ライムラグさんの性別は何なの?
年齢は?)
(まあ、男かなあ。
大学は卒業したけれど、地球と公転速度なども違うからなあ。
自分におっぱいがあって、それがこんなに大きいなんて、この感触忘れられないだろうな。)
不二子にはそんな予感がしたのである。
不二子の意思とは関係なく、自分の手がバストを少し触って、元に戻って自分の意思通りに動くようになった。
自分の中に、若い男が入っているのは、恥ずかしい感じがしたのだ。
(今みたいなことは、やめて下さい。
トイレに入っている間は、私から出て行って欲しい。)
(5分間以内なら、大丈夫だよ。
それ以上だと、僕は地球の大気が苦手だから、アウトになってしまう。
とにかく僕と一緒に、事件を解決してほしいのだよ。
僕の星、レイラー星人の犯罪者が地球に来ているので、逮捕して護送するのが目的なのだよ。
1時間で決着が付くようにするから、約束する。)
(事件が解決したら、私に何か良い事があるの?)
(今までの女の子だったら、こんな約束をしたのだけれど。
バストとヒップが大きくなって、信じられない程物凄い超乳超尻になるとか。
背が高くなって、脚が長くなって格好が良くなるとか。)
不二子は、思わず溜息をついてしまったのである。
(私の事、本当に見ているの?)
(今よりも、もっと成長したいのでは無かったの。)
不二子は、何も考えないことにしたのである。

括弧の中は、タイムラグとの心の中の会話である。

不二子が途方に暮れて歩いていると、一瞬で移動したのである。
アーケードを歩いていた不二子が、急に消えたのである。
ストーカー気味に不二子を狙っていた若い男は、かばんを不二子に向けたまま止まってしまった。
思いっきりびっくりしたのである。
訳が分からない。

時間は、夕方と言うよりも暮れている。
(場所だけで無くて、時間も移動できるの?)
(だから、心配無いって思っていたのだけれど。)
向こうに誰かいる。
(犯人だよ。)
鉄道のガード下の細い道を、走って追いかけるが、道が長くて追い付けない上に障害物を置かれて進めない。
(力一杯、押してみたらどうだろう。)
(タイムラグの言う通り、押してみるね。)
コンクリートの大きな塊が動いて、立ち止まって見ていた犯人が、再び走って逃げる。
不二子は、高架線路沿いの細い道を走って追いかける。
(不二子さん。
地球人とは思えない、物凄い怪力の持ち主だね。
あんなに重いコンクリートの廃材が動くなんて、信じられなかった。)
(くだらない事言ってないで、私走るのはそれほど早くは無いから。
100mを10秒で走る事は、出来ないよ。
超乳超尻の人は誰でも、走るのは苦手に決まっているの。)
再び、細いガードがあり、犯人はそちらへと走って行く。
(本当の犯人は、あの男の中に入っている、女性なのだ。
カタログを使えないから、浮浪者に入ったのではないかなあ。
こういう時は、長い距離を追い掛けると、スタミナ切れで逮捕に繋がる事が多いのだけれど…。)
(けれど何。
タイムラグ、どういう意味なの?)
犯人は、ガードを駆け抜けると、角を曲がったので再び見えなくなる。
(待ち伏せして、武器を使う事が多いのさ。)
急いで走ったが、女子高校生がいるので、追い抜いた。
不二子は、ガードの角を曲がらないで、そこで立ち止まりおお周りに回って犯人の意表を突いた。
そこへ、今追い抜いた女子高生がやって来た。
犯人は、その女子高生を不二子だと思い、武器を使ったようである。
強烈に何かが光り、女子高生が倒れており、良く見ると焼け焦げているのか、たんぱく質の燃える匂いがする。

(アチャー。
不二子、あの銃はね、あと10分間は、使えないから心配ないよ。
だけれども、これは大変だなあ。
身体が、3つ欲しいよ。)
タイムラグは、心の中で呟いている。
しかし、行動は素早かった。

浮浪者は、その場に倒れている。
自分の意思とは関係なく、走りなれない距離を走ったので、スタミナ切れのようである。
心臓発作でなければ良いのだが・・・。

女性の犯人が、銃のような物を持って立ち尽くしている。
誤射したのである。
その女性は、レイヤー星人であり、レオタードのような薄い服を着ていた。
体格は、身長は160cm足らずで、細い身体をしていた。
当然、貧乳でお尻も平らである。

(タイムラグ、このおじさんは、私が携帯電話で救急車を呼ぶから。
ところで、ここはどこ?)
(携帯はダメ。
コンビニノーソン○○店の傍の、ガードの北側って言えば良いよ。
公衆電話が、コンビニ前に在るから。
通りすがりの者ですって言うのだよ。
電話したらすぐ戻って来てね。)

互いに意思疎通しながらも、不二子はコンビニに走っていたし、タイムラグは不二子から出て行動を始めていた。
タイムラグは、女性の犯人に向かって銃を撃った。
その銃からは、ゲル状の物質が出て来て、女性犯人を包み込んで球になって、空中に浮かんだ。
そして高く上がって行き、光ったかと思うと消えたのである。

(不二子、これで護送完了。
事件解決。
このおじさんは、救急車が何とかしてくれるから、大丈夫だよ。
あと、問題はこの女子高校生だよ。)
(タイムラグ、電話はしたよ。
名前は言って無いし、電話もハンカチを使って指紋が残らないようにしたよ。
忙しいから、どこかへ行きますけれど、あとはお願いしますって言ったからね。)
(不二子、それで良いよ。
上出来だよ。
反応が早いね。
僕たちは名コンビだね。)
(誉めてもらったのは、喜んで良いのかしら?
名コンビは余計だね。
なりたくなったのではないからね。
分かる?
でも。レイヤー星って凄い科学技術ね。
あの女性犯人は、どんな悪事をしたの。)
(不二子、悪いけれどそれは秘守義務があるので、教えてあげられない。)

タイムラグは、再び不二子の身体の中に入ると、女性犯人の銃で瀕死の重傷を負った女子高生を抱き上げた。
それは、不二子の意思ではない。
見ると、酷い火傷である。
(僕の、宇宙船に戻らないと治療できない。
不二子が来てくれないと、直す事は出来ない。
説明している時間が惜しい。
君だって、この子を見殺しには出来ないだろう?)
と伝えて来た時には、宇宙船へと2人は向かっていた。
不二子が、気が付いたのは、手術台に乗せられている女子高生の前であった。

レイヤー星人の、医者らしき数人が話をしている。
服装は、あの女性犯人がきていた服と良く似ている、レオタード風の物である。
「細胞が、1,000分の142程死んでいる。
皮膚や結合組織の火傷がひどい。
内臓に損傷が無いのが、良かったね。
応急処置はしたが、このままでは亡くなってしまうだろうね。
そこの少女の、細胞を借りることは出来ないだろうか?」
急に細胞を貸してくれと言われても、返事は出来ないのは当たり前である。
「えっ。
それはどういう意味ですか。
私の身体を、今から手術して肉を取り出して・・・。
えっ。」
不二子も言葉に詰まっている。
そこへ、タイムラグがやってきて、丁寧に説明してくれたのである。
「この女子高生に、不二子の筋肉や結合組織などを移植すれば、生き還るのです。
胸に当たったので、おっぱいとか脂肪とか筋肉とか。
この少女の体重が、56kg。
死んだ組織が、8kgだから、不二子から8kg組織をもらえば、問題は無い。
君の体重を測らせてもらったけれど、おっぱいが8kg程度減っても、大丈夫だろう?
誰も気づかないよ。」
「失礼な言い方。」
「君の身体には、傷は付かない。
その代わりに、君に急成長を1回プレゼントするから、我慢してくれるかな。
それでは、そこの女子高生の横のベッドに寝て・・・。
この子が死んでも良いのかい。
レイヤー星の、科学技術は地球とは比べ物にならないだろう。」
「・・・。」
不二子は、乞われるままにベッドに寝た。
手術は、不二子が目を開けている間に終わった。
医師の1人が、ボタンを押して、もう一人がパソコンらしき機械をカチャカチャと鳴らしただけである。
「ありがとう。
不二子さん。」
不二子はベッドから降りて、自分の胸を触ってみたが、自分にも分からなかった。

「これで、私の仕事はおしまいね。
私の中には、これからは入らないでよ。」
「もう一回だけは、入らないと地球に君たちを送れない。
御免。」
「もう、最後にしてよ。」
不二子がそう言うと、不二子の頭の中には、ペコペコと謝っているいつもの宇宙人の姿が浮かんだ。
それと共に、数人の医者が、タイムラグの方を見て大声で笑った。
タイムラグは、恥ずかしそうにした。

タイムラグは、不二子の中に入った。
不二子には、その感覚が分かるのだ。
不二子は抱きかかえていた女子高生を、例のガード下に優しく置いて素早く立ち去った。
あの浮浪者の姿も無かった。
夕暮れ時ではなく、完全に日は暮れていた。
不二子は、時計を見ようとしたが、タイムラグがそれを止めた。
(遅れないようにするから。
必ず。
あの浮浪者は、救急車に乗ったと報告をもらっている。
君を、送り届けたら僕は、ここへ戻って女子高生に入って家まで連れていくから。)
(自分が入りたいから、入るのではないのかなあ?
自分の趣味でしょう。)

それには、スルーであった。
(燃えてしまった彼女の制服は、完全に直したから大丈夫。
あとは、君の望む時間に、S谷に戻ることだけだね。)

気が付くと、不二子はS谷Mークシティーの女子トイレにいたのである。
身障者トイレであった。
「どうせ、私のお尻では、普通のトイレは入れませんから。」
(その通り。)
「あんた何かと、一緒に女子トイレに入ったなんて、信じられない?」
大声を出してしまって、不二子は自分の口を塞いだ。
しかし、手遅れである。
「許せない。
あんな奴。
しかも、あと2回も急成長しなきゃならないの。」
ここは小声で呟いた。

不二子には、怒りの感情が湧いて来たのである。
しかし、ここで大声を出す訳にはいかなかった。
不二子の力で、暴れたら新聞沙汰である。

さっきの言葉は、トイレの外まで聞こえた筈である。
どんな顔をして、ここから出ろと言うの。

恥ずかしいのを我慢して、トイレから出るしかなかった。
時計を見ると、これから地下鉄に乗れば、N暮里へと時間通りに到着出来る時間である。
約束は守られたようである。

不二子は、地下鉄へと急いだ。