七月下旬の暑い夜のことでした。
のどか渇き過ぎて、夜中に眼が覚めました。
台所まで麦茶を飲みにいこうとして、ベッドから降りた時のことだったのです。
自分の感覚で言うと、思っていたより脚が少しだけ長くて、床を強く蹴ってしまったという感じなのです。
そんなに大きな音がするとは思っていなかったのが本当の所です。
実際、隣のベッドで静かに寝ていた、口うるさい中学二年生の妹の香里奈を起こしてしまいました。
「亜里沙姉ちゃん。
やっと眠りについたところなのだから。
受験勉強なんかしていないのでしょう。
ねっ。」
「香里奈ちゃんご免なさいね。
起こすつもりは無かったの。
お茶を飲みに行こうとして少し大きな音がしたの。」
「それにしては。
音よりも揺れが凄かったよ。
誰かがまた、ベッドから落ちたのかと。」
寝ぼけていても、いやみが自然に話せるなんて、妹ながら口の減らないやつだなあと思ったのでした。
こんな事を言うと、いつもベッドから落ちているように思われるかもしれませんが、誰もそんなことはしません。
そんなドジばかりしている訳ではありません。
話を聞かずに冷蔵庫に行ってしまおうとしたのだけれど、部屋の出口に近い妹の方が先に行かれてしまいました。
しょうがないから、寝巻きの乱れたのを直してから行くことにしました。
身体全体に違和感があるのですが、暗いので理由は良く分かりません。
この違和感をどこから話せば良いのだろうかなんて悩んでいました。
そこへ、妹が台所から帰って来て部屋の明かりを付けたのです。
「亜里沙姉ちゃん、寝巻の乱れたのを直そうとしていたでしょう。
でも絶対に無理。」
「香里奈ちゃん、何が無理なの?」
「亜里沙姉ちゃんのサイズ、大きくなっているのが丸分かりだよ。
それも相当だよ。
リアクションが遅い。
台所へ行って、鏡を見てごらんよ。
その胸じゃあ、ブラジャー買うのも大変だよ。
急成長したんよね。
亜里沙姉ちゃん、自分の身体の変化に気付くのが遅いというか鈍感というか。
とにかく、お休みなさい。
そこまでバストが大きかったら、男の子たちは騒ぐだろうな。
でも、そのバストやヒップに比べたらウエストが細いね。
話は、お姉ちゃんが落ちついた明日の朝と言うことで・・・・・・。
グラビアアイドルにでもなれば、マクドナルドでバイトするよりも良いのだけは間違いないよ。
お姉ちゃんの天然から考えると、グラビアとバラエティの両立が可能だと思う。」
後から考えると、私にはまだ起こった事の半分が分かっていないだけでなく、5%も分かっていないのでした。
私は、自分に起こった違和感についてうまく言葉にする事が出来ずに、思い切り良く話をする事が気出ません。
それにしても、言いたい事を言いたい放題、妹は言っています。
「香里奈ちゃん、私のサイズを測ってから寝て頂戴ね。」
と私が言う事が出来た事は、とっても幸いな事でした。
「そんなに大きな声出したら、ご近所中聞えるよ。
身体測定が終わったら、さっさとお茶をたくさん飲んで寝るのよ。
ハイハイ。」
私はかばんに入れていた100円均一で買ったメジャーを出して、嫌そうにしている香里奈に渡しました。
夜中の内に測ってもらって良かったと思ったのは、後からの事です。
眠いのだから仕方が有りませんが、渋々ながらも香里奈はサイズを測ってくれました。
「本当に亜里沙姉ちゃんなの。
背も高くなっているし、バストが40センチ近くも大きくなるなんて。
40センチよ。
40センチ。
信じられない。
だけど眠たいから寝る。」
と言うと、メモを私に渡すと、ベッドに横たわるとすぐに寝てしまいました。
メモにはこう書いて有りました。
(七月二十八日午前二時、トップバスト103 アンダー66 ウエスト62 ヒップ101 身長153)
嘘みたいな数字でしたが、妹の言っていた事におおよそ納得がいきました。
寝巻は自分の身体に合っていないだけで無くて、実はお尻の所や脇の縫い目が破れていたのです。
台所に行き、鏡に裸になって身体全体を映しました。
自分の姿とは言え、なんて美しい身体なのでしょうか。
この時見た自分の身体の美しさは忘れてはいけないと思いました。
100円均一で買った三脚を立てて、デジタルカメラで何十枚も撮影しました。
時間を忘れて自分の身体に見とれていましたが、喉が渇いている事を思い出しました。
お茶とスポーツドリンクを喉の渇きが収まるまで飲みましたが、冷蔵庫にある分では足りません。
冷えていない2リットルのミネラルウォーターも含むと、10リットルぐらい飲んだと思います。
汗をたくさんかき、トイレに行っておしっこをたくさん出して、落ち着いて鏡の前に戻りました。
なんだか肌が奇麗になったように見えただけでなく、身体のサイズも大きくなったように思えました。
思えただけで無くて、本当に大きくなっているのです。
さっき立てた三脚で撮影したら、間違いなくサイズアップしているのが分かります。
寝たばかりの妹を、起こすことにしました。
「お姉ちゃん嘘でしょう。
こんな時間に起こすの。」
「でも、お願いだからサイズを測って。
ついでに写真も撮ってね。」
「ハイハイ。
最愛のお姉さま、分かりました。
信じられないというしかないのね・・・・・・・。
さっき見た時よりも、まだ大きくなっているなんて、信じられない。
お姉ちゃんのバストって柔らかいから、触るとゆさゆさ大きく揺れる。
バストって大きかったら、そんなにも生き物のように動き回るのね。
知らなかったよう。
正しいサイズなんて、どうやっても測れない。
ヒップも、ここまで大きいとこんな揺れ方をするのね。
知らなかった事ばっかりだ。
どうせ、寝ぼけていて、正しくないだろうけれど・・・・・・。」
(七月二十八日 午前2時40分 トップ118 アンダー68 ウエスト55 ヒップ111 身長156)
「信じられない。
30分でバストが15センチにヒップが10センチも成長するなんて。
明日の朝、ゆっくり拝ませてもらいます。
このペース続く様だったら、明日の朝は酷い事になるよね。
でも、どうやったら、7センチもウエストが減るのかな。
信じられないけど、眠たい。」
と言いながらも、十数枚の写真を撮って香里奈は寝てしまいました。
私はもちろん裸で寝る以外に方法がありません。
このサイズに合う服なんて、一つも持っていないのですから、仕方が有りませんでした。
ただ寝るだけでも、今までと違うことだらけです。
もう、違和感なんて言うモノではありません。
バストが大き過ぎることは、邪魔とは言いませんが、昨日までと同じ様に行かない事が沢山あるのでした。
寝るのだって、いろいろと工夫が必要なのです。
お尻の肉だって、ここまで分厚いと、仰向きに寝るのが難しいのは間違いありません。
ベッドの上で、体の向きを色々と変えて、枕を使ったり、妹の蹴飛ばしていた枕も使ったり・・・・・・。
でも、これはこれから私に降り掛かる色んな事件の始まりにすぎませんでした。
落ち着いて寝る為に、これから色んなグッズを試す事になるのですが、それは『寝る』という事に限っての事なのでした。
それまでの、自分の体型については、実は不満が一杯あったのです。
鏡の前で見とれていた自分のあまりに美しい身体については、私としては不思議な満足感がありました。
こうなれば良いなと思っていた以上の成果が、目覚めた途端にあったのです。
だからと言って、私が努力して来なかった訳ではないのですが、努力したから誰でもこうなるという訳でもありませんし。
女性が美しく有りたいと思うのは、第一義的には、男性の視線をどうすれば集める事が出来るかだと思います。
間違いありません。
でも、目的と手段は入れ替わってしまう事が、しばしば起こりがちなのです。
自分の思いとしては、凄過ぎる身体になってしまったということです。
その過剰さが引き起こす諸々を、心でも行動でも受け止めて行かねばならないのだと、高校一年生なら分かります。
これからの出来事というか、あしたの朝から起こる困難を乗り越えて行かねばならないのだと、気付いたのでした。
その時の私は、興奮していたのでしょうね。
簡単には寝付けませんでした。
ベッドの上で落ち着く姿勢を発見したあとで、116−68=48という計算が頭に浮かびました。
トップとアンダーの差が、48センチなんて。
そして、自分のバストがPカップになった事に気付きました。
111−55=56 ということは、ウエストとヒップの差が56センチも有るのです。
この真ん丸なお尻の肉を、どうやってズボンに入れれば良いのかなあ。
伸縮性のあるウェットのXLサイズなら入るかも知れないけれど、後ろからならお尻の割れ目が隠せないかも。
「Pカップ。
Pだよ。
そんなブラジャー、グラマーサイズの下着のホームページでも、見たことないなあ。
もっと他の所、例えばアメリカだったらあるのかなあ?
お店で採寸してもらう時、どんな風に言えば良いのかなあ。
店員さんはどんな顔をするのだろうか。
そもそも、どんな店で購入したら良いのだろうか。
その前に、家にあるどんな服を着て外に出たら良いのかな。
こんな身体で、道を歩くと、どんな騒ぎになるのだろう。」
その時は、頭の中で色んな事を想像しました。
もう結婚してしまったけれども、巨乳グラビアアイドルの『かとうれいこさん』の伝説を思い出しました。
友だち数人で新島へ行った時に、男どもが何十人も彼女の後を追いまわしたとか・・・・・・。
あの頃には、あんな身体をした女の子はいなかったらしいです。
今なら、かなりいますし、整形だって当時とは比べ物にならない程、技術が進んでいるらしいし。
言っときますが、私のバストは本物です。
だけど、爆乳と呼ぶには大きすぎるのではないかな。」
そんな事を連想するように頭に浮かべているうちに落ち着いたのでしょうか、私は眠くなって来ました。
そのうちに深い眠りに入ったのでしょうね。
抽象的に考えるよりも、具体的に対応する方が、私には合っているのかもしれませんね。
それは、誰にとっても同じような気もしてきました。
これから後で私の見た夢は、忘れることは出来ないモノでした。
その時はただの夢に過ぎないと思っていたのです。
でも、その夢には深い意味があったとわかるのは、まだ私にはもっともっと時間が必要でした。
その事は、いつか話さなければ私の事を本当には分かってもらえないと思います。
普通の目立つ事の無い女子高生だった私が、こんな身体の女の子に『変身』したら、どんな事件が起こるのでしょうかね。
『虫』になった訳ではありませんから、その点はグレーゴル・ザムザとは違うので安心出来ます。
『私の変身』には、一か所安心出来ない所があることを、始めに皆さんに伝えておきます。
高校受験を目の前にして、香里奈ちゃんはこんな風に言うことがあります。
「亜里沙姉ちゃんの身体は見ていたら綺麗だけれど、そんな身体になりたいとは絶対に思いません。
だって、毎日色々とあるから・・・・・・。
お姉ちゃん、気にしていないみたいな所が凄いなあ。
いつ頃、そんなに変わったのだろうか
この頃気が付いたのだけれど、亜里沙姉ちゃん顔立ちまで、綺麗になっているような気がする。
気がするじゃ無くて、本当にあの頃と比べたら大違いだよ。
でも、お姉ちゃんの横に並んで街を歩くのは絶対に嫌。
比べられるのは許せない。
妹だからこそする、アドバイスだから聞いておいてね。
亜里沙姉ちゃんの姿は、男の子にとっては、かなり危険な視覚的刺激なのよ。
女はスレンダーに限るって言う、爆乳嫌いの私の友だちの男の子が言っているのよ。
お前の姉貴、あれ見たら勃起するだけは仕方が無いから許してくれってね。
天然記念物だから。
本当なのだから、憶えていた方が良いと思う。
ここは小さい声でいうけれども、バストとヒップをほんの少しだけでも良いから、分けて欲しい。
15センチ分ぐらいで良いから。」
その時は、こんな風に答えています。
「15センチって。
少しだけに入るのかなあ。
シックスカップだよ。
Aカップの人だってGカップだよ。
香里奈ちゃんはCカップだから、エート何カップかなあ。
アイ。
誰だって、巨乳の仲間入りが出来てしまうけれど・・・・・・。
それとも、思い切ってもっと沢山の肉をあげちゃおうかなあ。
バストで6キロ、ヒップで4キロ。
合わせて10キロはどうかなあ。」
「もう。
私を、馬鹿にするのもいい加減にしてよね。」
「香里奈ちゃん。
合わせて10キロじゃあ、足りないの。
じゃあ、50キロずつ、あげようかなあ。」
「もう、意地悪なのだから。
50キロずつ、バストとヒップにお肉が付いたら、どうなると思っているの。
誰だって、歩くことはおろか、立ち上がる事だって出来やしませんから。」
「じゃあ、バストに10キロ、ヒップに10キロぐらいは、もらって欲しいな。」
「それだって、一緒。
亜里沙姉ちゃんにとっては、少しのお肉かもしれません。
バストに2キロ、ヒップに2キロで十分過ぎます。
グラマーになりたい人は多いです。
50キロずつなんて。
そんなにたくさんのお肉、誰も欲しくはありませんから。
香里奈には、ほんの少しで良いのです。
分けて欲しいのですと言わせて下さいね。
小さい声で言ったでしょう。
そもそも、バストやヒップを分けてもらえる筈、ありませんから。
『ベニスの商人』から連想してそんな事を言っているの。
本当に。
意地悪になったのね。」
「バストとヒップを分けてと言いだしたのは、誰でしたっけね。」
「御免なさい。」
「亜里沙と一緒に並んで歩くのは嫌なんて。
香里奈ちゃん。
そんなことは言わないでね。
お願い。
寂しくなってしまうから。」
私には、香里奈ちゃんの思いをどんな風に受け止めたら良いのか分からないというのが、確かな所なのです。
後半の姉妹喧嘩の所では無くて、私の横に並ぶのが嫌だというあたりの所です。
男の気持ちも女の気持ちも、私の身体は刺激する所があるのは間違いありません。
それも、結構寂しい気がします。
私は、派手な服装をしていませんし、この身体の存在を見せびらかして男に媚びている訳でも無いのです。
隠し切れないというか、清楚に学校の制服を着る方が、還って目立っているように思えるのです。
急成長から、消極的だった私の内側が少しずつ変わって来た事だけは、間違いがありません。
本当の意味で、私の急成長かも知れません。
説明ばかり長くてごめんなさいね。