「夢のような話」だけど聞いて下さい

カンソウ人 作
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県立朝日山高校では、一週間のテスト休みが終わって、補習授業が始まった。
午前中に『国語 現代・古典』『数学 T演習』『英語 文法・読解』『理科 生物・化学』の4コマの授業があるのだ。
他教科の教員であっても良いので、1クラスに2人以上の教員が入っているので、芸術科目や体育の教員にも負担がある。
専門の知識の無い教員も頑張っているので、生徒たちには意外と好評なやり方のようだ。
 
県立高校であっても、十年以上前から私立高校との競争の論理が導入され始めた。
補習という名であるが、希望者のみの参加で始まったものの、今や実態はほぼ全員参加している。
朝日山高校の補習は、内容に関しては授業よりも濃いほどである。
亜里沙は、他の生徒と同じように、午前中は学校の補習授業を受けている。
そして午後はお待ちかねの、映画研究会の活動でこちらの方が亜里沙はエネルギーを注いでいる。
 
運動クラブの公式の大会に関しては、当然補習参加の義務は無く、甲子園を目指す野球部は勝ち続ける限り試合は続くのである。
この日は、野球部とブラスバンド部と応援部(中身はチアーリーディングである)は、県立球場へと出掛けている。
野球の陰に隠れてはいるが、ラグビー部もインターハイ出場を目指して試合があり、こちらの方が県予選突破の可能性は高いようである。
花園の予選は、また先の季節の話である。
甲子園を目指す高校野球こそ、教育の現場での『競争の論理』の悪い見本であるとも言われる。
まるで地方と地方の代理戦争かもしれないが、オリンピックも似たような物だから、商業化するのは仕方ない。
『感動をありがとう』と綺麗ごとを書いていても、新聞の部数獲得に貢献しているのは否めない。
 
 
 
話は、亜里沙のクラブ活動の所に戻る。
上級生が決めた撮影計画に従って、亜里沙たちは少しずつ小道具を完成しているが、常に衣裳係と連絡を取り合う必要もあるのだ。
そして、撮影はいつも、大道具の運ぶことから始まるのだ。
小道具の運搬は楽なので、運搬に関してだけは、大道具係の仕事を手伝うのである。
この日も、30度を超える猛暑の中で、小道具係は撮影中の道具類の破損を何度も直していた。
また、交通整理と称して、一般人の通行を邪魔してその間につつがなく撮影を進行させたりもした。
表情は笑顔で平謝りしながらも、手足は次の撮影場所へと道具を運んでいるのである。
 
 
途中、熱中症や脱水状態にならないようにすることはとても大事である。
幼稚園児のように首筋を影にする帽子をかぶり、水分を補給しながら互いにセッティングの打ち合わせをした。
恋愛とサスペンスと自然災害とアクションの4つがテーマの、娯楽作品の製作が進行している。
娯楽作品というものは、配役とそれらのテーマのブレンドのさじ加減で良し悪しが決まる。
本当に、喫茶店のブレンドコーヒーのように、ブラジル50%、モカ30%、キリマンジャロ20%のように現すことが可能である。
今年の作品は、恋愛25%、サスペンス40%、自然災害30%、アクション5%でCGは使っていないのである。
朝日山高校と街中の城跡を主な舞台にして、撮影を行っているが、最後に瀬戸内の漁港を舞台にアクションシーンがある予定である。
 
 
学校に帰った後で、映画研究会全員でこの日の撮影の反省点を各部門のチーフが話した後で、もう一度討議する。
その間15分足らず、お茶を飲んだり少しではあるがおやつを食べたりは自由である。
大学生や社会人からの差し入れも、多少はあるのだが、現金の寄付は制作費に当てられるのだ。
大手で無い飲料会社の売れ残りのスポーツ飲料を、ディスカウントショップで買った2リットルのペットボトルが、常温のまま並べてあるだけだ。
塩飴を舐めながら、口角に泡を飛ばしながら熱く議論されるのが、良い訓練になるのは間違いが無いだろう。
亜里沙は議論に加わることは出来なかったが、小道具係のチーフは亜里沙の意見も混ぜて言ってくれたのである。
 
 
 
討議の後で、亜里沙は市内電車に乗って、もう一度街中に出る。
お腹が空くので、コンビニでおにぎりを2つ買って電車の中で座って食べた。
飲む水は、四角い2リットルのペットボトルから直接であり、女子高生が格好気にするとはいえ、至って合理的でしかない。
予備校で数学と英語の2コマの授業を受けた。
 
 
その後、スポーツクラブで2時間程みっちり運動をして、例の新製品のプロテインを摂取し休憩する。
エアロビクスをしない日は、ヨーガを行っている。
もともと体が柔らかいので、亜里沙のヨーガは見ていてとても美しいらしい。
ご婦人方が、感心して見入ってしまうほどである。
 
その割に、エアロビクスはぎこちないと言うか、リズム感が悪いと言うか・・・・・。
 
亜里沙は、夜中の2時頃に起きて飲むためのプロテインも貰っている。
毎日夜中に起きての飲んでいたのである。
当然種類が違うのである。
別の種類で、こちらの方が口当たりも良くて、ハッキリ言って美味しいのである。
 
それからこれは聞いていなかった事であるが、錠剤を3種類である。
一つは市販の胃腸薬であるが、後の二つは女性ホルモンのようなものと成長ホルモンのようなものと聞かされていた。
要するにサプリメントであるから、医者の処方はいらないのである。
正確に言えば、人体実験の意味が含まれていることを否定は出来ないだろう。
 
プロテインは新製品と聞いていたが、開発中の間違いであり、違いは途轍もなく大きい。
しかし、亜里沙にはそれ程の違いは無いように思われたが、それは彼女がある意味で鈍感なのであろう。
 
 
この繰り返しの10日間が過ぎようとしていた。
 
 
夏休みとしては有意義な時間の過ごし方であり、何の問題も無く、亜里沙は充実感を味わっていた。
しかし毎日の帰宅時間は、10時半を少し過ぎていたので、睡眠時間が足りなかったのである。
授業中眠たいという意味ではなくて、プロテイン摂取やサプリメントや運動との関係である。
 
 
 
 
5日に1日だけ、全体の撮影の休みの日があるのだが、各係りに分かれて仕事をすることもある。
亜里沙は、幾つかのグループに分かれたうちの、ドキュメンタリーの撮影チームに入っている。
チームに入ったのは勧誘されたのであるが、主役というところが気に入っているのだが、ドキュメンタリーに主役はあるのだろうか?
監督兼台本作家1人、カメラマン兼動画編集1人、大道具兼小道具1人、衣装兼録音1人、タイムキーパー+会計1人、主役は亜里沙である。
前の2人が男子で後の4人が女子である。
同学年なのは、タイムキーパー兼会計の女の子だけなのである。
 
亜里沙たちは、先輩運転のワゴン車を上手に使って、効率よく撮影をしていた。
移動運搬はワゴン車を用いていたし、バイクに2人乗りをしての撮影は危険でもあったが、映画の売りはそこにあったようなものであった。
ただ亜里沙には、どうしても気になることがあって、それは・・・・・・。
 
薄い台本を見せられたのは、ワゴン車の中だった。
派手な色彩の短パンと臍出しのトレーニングシャツを見せられたのも、ワゴン車の中だった。
 
借りてくるように言われて、亜里沙が引退した陸上部の卒業生から借りてきたウェアーは、意味が無くてダミーに過ぎなかった。
スタンドには雑草が生い茂っているが、隣町にある町立陸上競技場随分と施設は立派であるが、撮影チーム以外誰も居ないのである。
政令指定都市になったこの都市は、面積が広がった為に隣町は随分と遠くて、県境にかなり近いのである。
まるで、亜里沙の一人舞台のようなものだった。
 
学校指定のスポーツ洋品店に注文した、短パンの色やデザインもさることながら、ハイレグの切れ込みの深さには亜里沙は驚いたのである。
驚いただけではなくて、演技ではなくて本音で亜里沙は憮然とした表情になってしまった。
言いたくはないが、小声で一言は言わないと、収まらなかった。
 
「私のお尻は平たくて小さいので、目立ちはしないのだけれど・・・・・・。
それでも、ねえ。
恥ずかしいかなあ・・・・・・。」
 
女の子から見たら、色使いも趣味が悪くて、日曜日の朝にテレビ夕陽系列に出てくる、パンパカレンジャーの世界である。
いくらなんでも、覆面はかぶらないが・・・・・・。
 
亜里沙は思っていた。
「私が着たのでは、衣装の持つセクシーな魅力は、見る人には伝わりにくいよ。
小さな男の子と一緒に、若いお父さんも一緒にテレビを見るように作ってある、衣装でしょう。
パンパカレンジャーの衣装に似ているかなあ。」
 
 
チームの先輩の女の子が、柔らかくフォローしてくれたのである。
 
「亜里沙さんが身体を動かしている姿って、とっても美しいのよ。
ちびまる子ちゃんみたいなヘアースタイルが、身体の動きと合わせて揺れる所なんか、本当に可愛いって思うの。
けな気な女の子が普通に頑張っているっていえばよいのかな。
セクシーではないけれども、セクシーなんて魅力は、きっと底の浅いモノなのよ。
ここに集まったチームは、そんな亜里沙さんの見方みたいなものなのよ。
亜里沙さんの記録は凄いけれど、そんな数値には興味が無いというか・・・・・・。
 
いろいろ話をしているうちに、アイデアが沢山出過ぎて、やっとまとまったのがそんな感じなの。
だって、2か月以上時間があったから、話し合うのが楽しくなってしまって。
 
御免なさいね、3年生ばかりで決めてしまって。
あの衣装はちっとも、エッチな感じはしないと私は思う。
後からこのチームに入ったのは、一年生の女の子1人だったの。
タイムキーパーをしてくれるって言うのよ。
仲の良いお友だちではなくて、少し寂しいかも知れないけれど。」
 
どちらに付いているのか、微妙な言い方だった。
 
亜里沙にも、スタイルの良い陸上部の女性には、とても頼めない内容だったのだと分かった。
アマチュア資格という意味でも問題があるかもしれない。
基本的には、内容そのものに相当な問題があるだろう。
 
亜里沙は中間テスト終了段階で、映画出演が出来ると言う事だけで、軽い気持ちでオーケーを出したのだ。
時期が早すぎたので、構想が練られているうちに、潜在意識の中から妄想が形となって現れてきたのだ。
勿論妄想を引き出したのは、亜里沙の責任の範疇であるとも言えるが、人間的な意味の責任ではない。
あの女の子のフォローは、傷つけないように相当巧く喋っていたのだと、今頃になって亜里沙は思った。
 
(高校生の男の子の考えることは、そんな事なのだったのか。
大学生になっても、小学生低学年と変わっていない部分が男の子にはどこかに残しているのだ。)
半ば呆れたのであるが、それは最初の思い違いであって、もっと本質的に憧れを亜里沙は持たれていた事に気付いたのである。
エッチとかセクシーではないけれども、は重要なポイントであった。
 
例の衣装のことさえ除けば、毎日時間が過ぎるのが、亜里沙には楽しくてしょうがなかった。
充実した時間が思いのほかのスピードで過ぎていったのである。
楽しいから、衣装のことも我慢出来るほどの小さい事に思えたのであろう。
 
同じコースを何度も撮影のために、あるときはゆっくり、またあるときは普通にと、早さにも注文がついた。
何回も走った後で、次は全力でと言われても、無理なこともあった。
タイムが悪くても、映像的に良かったよと言われたときには、本当に不思議な気持ちになるのだ。
これはスローで使うつもりだからと言われても、説得力が無いのである。
全体の流れの確認と、競技場をジョッギングする姿と、50メートルを力走する姿を撮影したのであった。
記録映画という決まりきった約束事の中で、自分の服装は変だという感覚からは抜け出すことは出来る事ではなかった。
全て分かるのは、動画の編集が終わって、音楽などが入ってからであろう。
 
このプロジェクトに参加している女の子に聞くと、再び亜里沙は唖然としたのである。
開いた口が塞がらないとはまさにこのことであった。
自分の感覚と似たような返事が返ってくるかと思いきや、そうではなかった。
とっても、不思議に思えた。
後で、女の子ダビングしてビデオを自分のものにすることを楽しみにしている連中だった。
休憩時間に彼女たちと話していて、少しずつその意味が亜里沙にも、理解出来かかってきたのである。
アニメおたくの少女たちであって、普段は朝日山高校で普通に勉学に勤しんでいる、普通の意味で成績の良い優等生であろう。
彼女ら ― すべて亜里沙の先輩であったが ― 亜里沙を何と思っているのだろうか。
あの運動能力は、アニメの世界から飛び出してきた、ゴスロリ怪力少女の記号として捉えているのかも知れない。
そういう匂いをはじめて知ったのであるし、そういう世界があることも知ったのである。
 
 
 
 
朝日山高校へ来たかいがあったというものよ、さすが名門、伝統の力だと感じたのである。
 
 
それはそうと、姉の麗子が仕組んだプロジェクトは、亜里沙の五感の届かない所で、着々と進行しているのである。
 
 
 
麗子のプロジェクトに何かしら気付いたのは、スポーツクラブのインストラクターであった。
 
そのインストラクターは、立部陽子(りゅうべ・ようこ)という名前なのである。
体育大学を卒業して、地元へ帰ってきているのであるが、体育教員よりはインストラクターを選んだのであった。
種目は新体操であったが、競技に出場するほどの技術はないので3年の頃からは、ボディービルやエアロビクスに種目を変えたのである。
それだからこそ、競技に出る思い切りよく理論も練習も時間が使えて、このスポーツクラブの経営する会社に入社できた。
マッサージにも詳しく、ストレッチやキネシオテープに関しても知識が豊富である。
身長は亜里沙よりも高くて168センチであり、一般の女性とはまったく異なる、がっちりとした筋肉質な身体つきである。
自分もボディービルの練習をまだ続けており、大会にもダイエットは不十分ながら出場している。
その為に、格闘技をしているように見えるが、空手はスポーツクラブの中で初心者を教える程度の事しかわからないのである。
 
ウェートトレーニングに関しては、他人の練習を見るだけでよくない所は発見できるのである。
 
その陽子から見て、亜里沙のウェイトを持ち上げる感じが、軽そうに見えたのだ。
立部の感が、当たっているのは当然であろう。
(メーカーから指示があって)挙げるバーベルの重量は同じであるのに、何となくではなく、相当軽そうにしているようにしか見えない。
こういう技術の介在しない純粋に力という物は、そんなに急激に強化されるものでは無いのだと、インストラクターは知っている。
だからこそ、確かめてみたくなる。
 
ベンチプレスへ種目を変えるために、バーベルの重さを変えている時に尋ねたのである。
 
「五十嵐亜里沙さん、今日はプロテインを摂取した後で、休憩するでしょ。
休憩の終わりがけの辺りで、マッサージさせてもらって良いかなあ。
私たちも、プロテイン開発のデータ集めに必要な事があってね、それで珍しい物を分けて貰っているのよ。
五十嵐さん、バーベルを軽そうに挙げているように見えるの。」
 
亜里沙の名字は、『五十嵐』と書いて『いがらし』と読むのだが、紹介するのは初めてであったと思う。
 
「立部さんがマッサージしてくれるって、どういうことなのですかねえ。
嬉しい事は、間違いありませんが。
バーベルは、確かに軽くなったような気がしていたのです。
でも、こんな筋力は急に伸びるはずが無いでしょう。」
 
そう言ったものの、亜里沙は力を入れたらどうなるかを、試してみたくなったのであった。
バーベルを重そうにあげている、スポーツクラブに来ている普通の人たちに自分のことを知られるのは、恥ずかしく感じたのである。
 
スポーツクラブには、健康のために来ている人もいれば、体力増強のために来ている人もいる。
中には、競技生活をしている人もいるのだが、そういう人たち特に若い男性に自分の運動能力を知られるのは、特別に嫌だった。
 
 
亜里沙は、思い切って力を出してバーベルを挙げてみた。
予想していたよりもスピードが出たので、バーベルを空中に投げ上げることになってしまった。
ベンチプレスで上げるバーベルが、空中を飛ぶなんて、前代未聞の出来事であった。
また、床に落ちたバーベルが立てた音が途轍もなくおおきかった。
フロアーにいた人たちは、話すのをやめてしまった程だった。
 
多くのインストラクターたちが、事故ではないかと心配して、亜里沙の近くへと走ってくる。
亜里沙を心配しているのもあるだろうが、亜里沙はこのスポーツクラブのマドンナ的な存在でもある。
クラスにいる時や、家にいる時とは違う顔を持っているのである。
 
 
「御免なさい。
危ない事になってしまいそうで、心配掛けてしまいました。
御免なさい。
次から注意しますから、みんな落ち着いてくださいね。」
亜里沙は大声で言った。
彼らが自分の方へ来る事を止めることに成功した。
 
しかし、亜里沙担当の立部は、50キロのバーベルを空中に柔らかく飛ばしたのを、眼の前で見た。
それは、彼女にとって驚きとしか言いようが無かった。
 
開発中のプロテインの組み合わせは、筋肉の成長に大きな違いを生むかも知れないと、立部は考えたのである。
被験者が一人では、良い結果が出たからと言ってすぐに意味のある事ではないのである。
とにかく、筋肉に大きな成長を生み、筋力を急激に増強させる事は分かったので、メーカーへの良いレポートが書けそうである。
休憩後約束したように、立部は亜里沙の身体を触って筋肉の発達状況を確認しようとしたのだが、時間が来ても亜里沙は起きないのだ。
亜里沙が休憩時間の間寝てしまっていて、起きたのは3時間後であった。
 
裸の亜里沙を自分の前に立たせて、立部は肩を揉んで筋肉の成長度合いを確認しようとした。
慌てないで、十分に亜里沙に休憩させてから、身体計測をしようという魂胆であろう。
そのことは、亜里沙の成長にとって、良い事であったと思われる。
 
 
3時間もの休憩で、亜里沙の身体は、ひと目見て分かるほどの成長していた。
こんなことは、1時間の休憩では起こら無かった事であった。
休憩前に慌ててマッサージしていたら、この成長は無かったかもしれなかった。
立部の勘は、本当に正しかったのである。
 
気付かないのは、亜里沙だけであろう。
それは亜里沙が悪いのではない。
 
 
 
 
「亜里沙さん、今日は私が車で送るから、少し遅くなるわよ。
お話を聞いておきたい事もあるし、お話しておきたい事もあるの。
その前に、身体計測をさせてくれないかしら。
 
詳しいデータが欲しいの。
あなたも、どれぐらい成長したかを知りたいでしょう。
 
10日間は変化が無くて、いきなり凄い変化なの。
ねえ、一日で5センチバストが大きくなっても、凄い成長でしょう。
身長3センチなんて、あり得ないでしょう。」
 
亜里沙の成長が相当のモノであり、変身と言っても良いほどの物である事を、暗にそのことを示しているようであった。
 
「分かったら、こっちの部屋に来てくれるかなあ。」
 
立部の優しい口調の裏に有る物に押されて、亜里沙はよろしくお願いします、としか言うことが出来なかったのである。
また、インストラクターとしての立部を信頼していたので、大慌てすることも無かったのだろう。
しかし、亜里沙の心臓は高鳴っていて、アドレナリンが多量に分泌していた。
落ち着いてはいたが、成長という言葉を聴いて相当に興奮していた。
 
 
「では、測定します。
身長と体重が同時に測れるのですが、ゆっくりと乗って下さいね。
 
身長は158センチで、体重は72キログラムです。
身長が16センチに体重が43キログラム増えていますね。
 
体重は増えたのは全部筋肉ですから、見た目を気にする必要はありません。
さっき触った時に思ったのですが、背中の筋肉が厚くて、素晴らしいです。
背筋をここまで発達させるのは、困難なことなのです。」
 
 
亜里沙は、渡されるままにトレーナーのような服を上下とも着たのである。
 
「これ一着では困るでしょうから、もっと大きいのを2着用意しておきましたが、全部アメリカ衣料です。
もっと大きいのも用意していますが、当然古着ですが。
念のため言っておきます。
 
肩幅が53センチあって、18センチ増えています。
日本女性の平均は、37センチだそうですから、平均を16センチ越えています。
腰幅は、49センチです。
 
残念ですが、バストBカップですが、胸囲は128センチもあります。
Bカップというのは、小さくて残念かも知れませんが一時の事で、気にする必要は全くないですよ。
まだ大きくなる余裕が十分にあると考えて下さいね。
 
ヒップは138センチです。
太股も68センチありますから、足腰の筋肉の発達は素晴らし過ぎるほどです。
ふくらはぎも、42センチあります。
ジャージは選ばずにしばらくは、短パンの方が良いかもしれませんね。
 
今日当店に来て着た制服は、全く身体に合いません。
慌てて着て、破らないように気を付けて下さいね。
私が用意しますから、心配しないでください。
絶対に心配はしないでね。
 
急成長した事が、良い事と考えていますか。
嫌なのではありませんね。」
 
亜里沙ははっきりと頷いたのである。
話をしながらも、立部は亜里沙の裸の写真を何枚も撮影した。
そして、パソコンに向かって、今撮ったばかりの画像を保存したように、亜里沙には見えたのである。
 
 
「安心しました。
それならば、運動をした後で3時間寝たのが、良かったのだと思います。
これからもそうした方が良いのでしょうね。
では、荷物を持って私の車まで来て下さいね。」
 
 
立部の乗っている車は、マツダのデミオの色は黄緑のマイカであった。
マツダの企業城下町であるこの街では、マツダの車は多数派である。
特別な技術を使っているわけではないが、安価なデミオは走っている数が多い。
カローラなどと違って、デミオは白以外の色の方が似合う車である。
立部には、よく似合っている。
 
亜里沙は後部座席に荷物を置いて、助手席に乗り込んだ。
住所を言わなくても、立部は既にそれを知っていて、五十嵐家の方向へと車は走り始めたのである。
どうして、私の家をこの人は知っているのだろうか、亜里沙は不思議に思ったのである。
 
 
「早いうちに、しかも安全に、ご自宅へとお連れしたいのです。
 
実は、お姉さんの麗子さんとは知り合いなのです。
中学校時代、同級生でクラブも同じです。
新体操クラブで団体種目を一緒に演技したことがあるのです。
 
麗子は中2の夏休みになって急に身体が大きくなってきて、180センチ以上になったので、新体操は途中で退部したのです。
同じ演技が出来ないのです。
10歩で走るところを、6歩で行ってしまうと、どうしてもバランスが悪く見えてしまうのです
それまでは、2人とも162センチでクラブでは高い方でした。
本当に残念だったのですが、身長だけでなくて、グラマーになってしまったのです。
グラマーといっても、色々有って・・・・・・。」
 
ここからは小声でした。
「あそこまで、バストとヒップが大きいと、ゆさゆさ揺れて・・・・・・。
同じことをしても、同じことをしたようには・・・・・・。
あれだけ目立つと・・・・・・。
・・・・・・。
あの華やかな顔立ちだったから、目立ち過ぎて・・・・・・。
私たちにも、遠慮したのでしょうね。
・・・・・・。
私たちは止めても無理だと思いました。
新体操では、なくなっている事が分かりました。
エロティックな演技になっていて、中学生らしさなど・・・・・・。
微塵も・・・・・・。
ありませんでした。」
 
亜里沙は興味がある話なので、頷きながら集中して聞いていたのである。
 
「急いでいるのですが、電車筋は車の交通量も多いので、そうもうまくは走れません。
 
これから亜里沙さんの、本格的な急成長が始まることは間違いがありません。
私たちスタッフも、どのような結果になるのか等は、聞いたことはありません。
プロテインの会社からも教えて貰っていません。
スポーツクラブにもお金を出してくれている会社です。
 
成長の様子をビデオで撮ることも、興味はありますが止めたほうが良さそうです。
何か変な気がします。
悪用するわけではありませんが、亜里沙さん自身の気分が後で嫌な感じになるように思います。
 
出来るだけ楽な服装をして、空腹でしたら食事はされてもかまいませんが、飲酒喫煙はいけません。
法律の事を言っているのではなくて、急成長の結果に問題が起こります。
乳腺に癌の出来る率が上がるのだそうですが、私には詳しい事は分かりません。
 
念の為に。
 
実は急成長については、全て麗子の研究を基礎として応用して出来上がった研究なのです。
・・・・・・。
亡くなった麗子のお父様と一緒の研究を、麗子はしているようです。
亜里沙さんのお父様も、そのあたりの専門家だと思いますが・・・・・・。
その甲斐あってか、麗子さまはあの体格、美貌、スタイル、知性などなど。
生来の物に付け加わっているのです。
研究の成果として、手に入れたのではないかと。
 
本人の口からも曖昧な事しか聞けないのでしたが、本人もまだ良くわかっていないのでしょうね。
その事は、必ずしも非難すべき事とは言えません。
 
うちのお爺ちゃんも良く言っていました。
本当によく分かった時には、その事をする力が自分には無くなっていたのだって。
体力があるうちに、何でもしないといけないよ。
分からない所があっても良いじゃないの。
 
フルートの神様のような、マルセル・モイーズも同じような事をより具体的に言っていました。
『わたくしが、バッハのフルートソナタを完全に理解した時には、この曲を吹き切る力は有りませんでした。』
日本人のフルート吹きを多数目の前にして、そう言いました。
麗子が私に言ってくれた事なのです。
 
同学年でありながら、麗子と同じ年齢とはとても思えず、うまく言えませんが、圧倒される思いで麗子をいつも見ていました。
新体操ぐらい出来なくても、あんな風になれるのならば良いのではないかな。
私がボディービルを始めたのも、麗子の影響があるのだと思います。
 
お家に帰られましたら、パソコンのメールをよく読んで下さいね。
亜里沙さんに、何か急激な変化がありそうだとは、メールしておいたので返信があるはずです。
意味を勘違いしないように、良いように理解しながらです。
 
麗子の気持ちをしっかりと受け止めて、間違いのないように時間を過ごして下さい。
お盆には、麗子も帰郷するそうですよ。
 
敗戦の日に、靖国神社に参って、曾祖父の思いを実行して来るのです。
天皇陛下も総理大臣も来るあの式典に。
『戦没者追悼式』に参列してからではないでしょうかね。
・・・・・・。
その時に又、詳しい話を聞いて下さればと思います。
・・・・・・。
亜里沙さんが頷いて聴いておられるので、私ばかり一方的に話してしまいました。
・・・・・・。
私で良ければ、お答えしますので、夜中でもメールを携帯のほうにして下されば良いです。
それでは、失礼いたします。」
 
一枚の紙を渡されて、そこには立部と麗子のメールアドレスが書かれていたのである。
それから、父親の大学の研究室のメールアドレスも。
亜里沙の身に、今晩起こりそうな出来事が書いてあったのです。
 
五十嵐家の前で車のドアは開けられ、車は暗闇の中に、走り去ってしまった。
 
立部さんの、丁寧なプロフェッショナルの受け答えの余韻が、このまち独特な潮風の匂いと混じって香るのが、亜里沙には心地良かった。
連絡はしていたが、ドアは固く閉ざされているので呼び鈴は押さずに、静かに鍵を開けた。
帰宅は、12時を回っていて、生まれて初めての午前様なのである。
 
誰も出て来なかったので、大きめのトレーナーを着て帰宅した事を誰にも知られることは無かった。
また、こういう形で急成長をした姿を見られる事はなかった。
 
夕食のおかずが食卓の上に置かれているのは、父が亜里沙の帰宅する前に帰宅したからであろう。
おかずの上には、丁寧にラップがしてあり、優しい心遣いに亜里沙は感謝したのである。
白身魚と豆腐の煮付け、ピーマンと筍の細切りとえのき茸とミンチの炒め物、野菜サラダ、ねぎとオクラの味噌汁が置いてあった。
亜里沙は、冷蔵庫から納豆を出して、大きなどんぶりにごはんを山盛りついだのである。
それらをゆっくりと食べてから、もう一度冷蔵庫に向かっていき、ヨーグルトをひとつ取ってきたのである。
 
 
遅い夕食の後で、亜里沙はパソコンに向かった。
 
姉からのメールは、届いていないだろうか。
どんな内容のメールなのだろうか。
 
その思いは、麗子も同じであり、亜里沙からの返事を待っていたのである。
 
 
 
『亜里沙さん。
 
瀬戸内の夏は、暑いでしょうね。
昔のことだけれど、呉線に乗って海水浴へ行ったことがあったね。
今思うと、自衛隊の呉補給所の近くの海水浴場だったと思うけれど。
香里奈はまだおっぱいを飲んでいて、亜里沙は砂浜を掘って遊んでいた事など、憶えているかなあ。
私は、まだ小学生だったけれど、お父さんと一緒に浮き輪を借りて随分沖まで、水中眼鏡を付けて行ったのよ。
 
もちろん、新しく来たお父さんだったけれど、知らない人ではなかった。
気まずい思いを何とかしようと、私なりに努力していたのよね。
 
でも、亜里沙が私になついてくれたのが、一番嬉しかったのよ。
妹だけど、今でも娘のような気もするの。
 
 
昔話はこの辺にして、立部さんからメールをもらったので、とっても気になっていたの。
もう家の皆は寝ているでしょう。
起こすことになるけれど、そんなことを気にしたら駄目。
そんなことは、又あるのよ。
お母さんと香里奈は、起こしてしまってね。
起こすことになるのよ。
どうせ。
 
お父さんは起こさなくても、私よりも良く分かっているの。
何も言わなくても、大丈夫だって事。
 
布団を引いて、その上で寝転がっていれば良いのよ。
後は、セミが地上に出て来るみたいな物で、生理的に何とかなるようになっているの。
今は、インストラクターをしている立部さんは、小学校からの友だちなの。
うちの大学とサプリメントの会社の関係が深くて、未だにお付き合いが続いているのです。
最近また、付き合いが深くなっています。
 
麗子。』
 
 
 
『麗子 お姉ちゃん。
 
帰ったのが遅かったので、メールをしたのが、この時間になったのですが。
もっとアドバイスがあれば、教えてください。
簡単すぎて、心配になってきます。
今晩何かが起こると聞いているのですが、どうしたらよいのでしょうか。
何が起こるかも知りません。
書いているうちに、不安になって来ました。
 
亜里沙。』
 
 
 
『亜里沙さん。
 
私は体験していないので、偉そうな事は言えないし、言わない。
心配する必要はどこにも無いのよ。
 
本当に急成長する準備は、整ったの。
身体を鍛えて、筋肉を付けておかないと、十分に成長出来ませんが、あなたはそれをやり遂げたの。
立派だと思う。
 
今の姿も、立部さんが数枚写真を送ってくれました。
背筋の厚さや広さは、とっても綺麗です。
くびれたウエストから、ヒップへのラインはとっても魅力的です。
亜里沙さん、あなたは私どころの話ではないのです。
全く違う人に生まれ変わるのです。
 
 
でもね。
一回で終わらないのかも・・・・・・。
 
 
蛹から抜け出して、蝶になって羽ばたいて行くのだって、とっても負担があるの。
ただ、例えで言っただけであって、蝶と違うところは沢山あります。
 
 
出来るだけ水分を摂取しておきなさい。
途中でのどが渇くだろうから、水分を近くに置いておきなさい。
 
立部さんから、スポーツドリンクが何本も届いています。
私から頼んだのです。
平成乳業と書いてあったと思うけれど、栄養補助食品部門って書いてあると思います。
 
お母さんと香里奈は、起こしましたね。
プロテインのミネラル含有と書いてあるのも、置くこと。
それ以外は、駄目。
 
空腹を満たすにはそれだけがOKなの。
間違わないでね。
 
麗子。』
 
 
『お姉ちゃん。
用意は大丈夫です。
安心して。
亜里沙。』
 
 
最後のメールは、それまでと文体が違っていた。
麗子は亜里沙の変身が始まった証拠だと思い込んでいた。
 
 
 
 
 
「ギャー。」
亜里沙の叫び声だ。
香里奈と母親の純子は、驚いて台所に引かれた布団の側にいて、亜里沙の身体を硬直して叫ぶのを見るだけであった。
父親の秀次郎は、研究をしていたのだろうか。
書斎から出てきて、香里奈と母親に家中の窓を閉めるように、雨戸があったらそれも締めるように指示した。
本人は、階段を上がって二階のガラス戸を閉めていた。
3人が、台所に戻ると秀次郎は周りの部屋の明かりは全て消すように指示をした。
そして、エアコンのスイッチを入れてコントローラーの設定温度を下げ風量を最大にした。
台所の照明を少しだけ暗めにした。
亜里沙の姿は良く分かる。
 
両手で柱をしっかりと掴み中腰で立っている。
身体全体から汗が噴き出して来て、見る間に亜里沙の着ている服が濡れてくるのが分かる。
「のどが渇く、何か欲しい。」
亜里沙が言うので、純子は冷蔵庫からスポーツドリンクを出して渡した。
「冷たいのは駄目、普通が良い。」
言葉は簡潔で、大きな声で叫ぶように話すのだ。
香里奈が、用意されていた箱からペットボトルのスポーツドリンクのふたを開けて渡すと、片手で持って勢いよく飲みだした。
見る見るうちに、ペットボトルは空になり、再び亜里沙の身体から汗が噴き出して、服から汗が滴り落ちてきた。
 
 
「裸の方が良いので、純子が服を脱がしてあげなさい。
このままだと、皮膚が汗でかぶれてしまう。
服は大きなポリ袋に入れて、しばって汗が渇かないように。
 
それと、バスタオルを用意しておきなさい。
このままでは、亜里沙の汗で絨毯が駄目になってしまう。
 
私の部屋に、10枚ほど用意してあるので、持ってきなさい。
のどの渇きを訴えたら、スポーツドリンクを渡してあげなさい。
苦しんでいるようでも、言葉がけは禁物だよ。
混乱するだけだし、どうせ憶えてはいないだろう。
 
 
香里奈は、そこにあるミネラル含有と書いてある、プロテインを水で溶いて。
飲みやすいように、ミキサーで撹拌して、マックシェーキのような感じにして、ビールジョッキに入れておきなさい。
これから空腹を訴えるかもしれない。
パンやご飯など、固形物は吐くだろう。
冷やさない方が良い。
吸収が悪くなる。
 
水の割合は、プロテインの袋に書いてあるから、守るように。
割合が大事なのだ。
 
量は分からないので、とりあえず様子を見ながら作り足していく。
取りあえず、10キロは作ること。」
秀次郎の指示は、少し冷たい感じがするほど的確で、具体的であった。
 
 
「ギャー。」
2回目の亜里沙の叫び声は、最初の声よりも随分と大きかった。
 
純子と香里奈が指示された準備物を用意し終わると、秀次郎が落ち着いて話し始めたのである。
「2人とも落ち着いて、亜里沙の身体を良く見てごらん。
帰宅した時には、成長が始まっていたのだろうけれど、今や本格的さ。
断わっておくけれども、今回の事は亜里沙の希望だからね。
東京にいる、姉の麗子みたいになりたいのだよ。
怖がる必要はないし、理論分からなくても、亜里沙は丁寧に説明を受けているから心配はない。」
 
「秀次郎さん。
何となく、冷たい言い方に聞こえるけれど。
この間の朝の事は、今晩の事と何か関係があるのよね。」
純子の問いに、秀次郎は頷いた。
 
香里奈の観察は細かかった。
「お姉ちゃん。
私よりも、背が高くなっていたのね。
肩幅が広いし、ウエストはくびれている。
昨日までと、見違えるようになっているけれど・・・・・・。
 
あんなに大きな、お肉のついたお尻は見たことが無い。
脚も太いね。
筋肉が付いていて、今までもそうだったけれど、あんな太い脚ってサッカー選手見たい。」
 
再び、亜里沙の叫び声がした。
「ギャー。何か。」
この声は大きくて、台所の食器棚の陶器がビリビリと音を立てて振動するほどであった。
「ギャー。
お腹が空いているのが分からないの。
何か。」
窓を閉めていても、外まで聞こえたかも知れなかった程の大声である。
 
香里奈が用意してあったビールジョッキを渡すと、ゆっくりと飲み始めた。
無くなると、ジョッキ交換を、手を突き出して要求する。
慌てて、香里奈が次のジョッキを差し出すと、ゆっくりと飲み新しいのを要求した。
 
こうして、お腹がいっぱいになると、再び柱を両手で持つ態勢になった。
時々は、叫び声をあげ、水分と栄養を摂取し続けて、2時間経過した。
香里奈は、20キロのプロテインをミキサーで溶かしたが、全て無くなってしまった。
2箱用意してあったスポーツドリンクも、残り2本となっていた。
 
 
亜里沙の要求があるので、家族の誰も寝ることが出来なかった。
 
「亜里沙は、麗子のようになりたかったのだよ。
コンプレックスが強くなってしまったが、この子は頑張ったのだと思う。
憧れの気持ちが強くなっていって、ある研究と亜里沙の気持ちがコラボした。
 
その結果だが。
急激な成長をして、それまでの亜里沙と違う人間になるように、仕組まれていたのさ。
外観の話であって、心は連続していて、亜里沙だよ。
 
私や麗子や、亡くなった麗子の父親や、もっと古い曾祖父の研究までが、そこに実を結んだのだと思う。
あの麗子レヴェルでは済まない存在に、生まれ変わるべくして、これから生まれ変わるのだろう。
麗子レヴェルって変な言い方だが、麗子が言うのだから使っても良いだろう。
1回目の変身だ。
私もそうだけれど、見守ってあげようではないか。
今晩は、寝なくても良いだろう。
 
もし2回目があるならば、今度からは自分でやってもらおうかな。
セミや蝶だって、自分で蛹から成虫になるのだから。
 
香里奈は、見ていた方が良いと私は思うが。」
 
秀次郎の言葉を聞いていたかのように、その言葉に答えるように、亜里沙は叫び声をあげた。
うまく言葉に、出来ないのである
顔を上に向けて、それまで丸めていた背筋を伸ばした。
手を、柱から外して、脚を開いて安定した姿勢を取った。
 
ここからは、叫び声は先程までとは比べ物にならない程の大きさである。
声をあげると共に背伸びをする。
そのたびに2センチずつ身長が高くなっているのである。
良く見ると、肩や腰の幅も広くなっている。
20回叫び声をあげただろうか。
亜里沙の骨格の成長は止まったのである。
 
見上げるほどの長身である。
しかも、脚が極端に長いのである。
 
 
少し休んだ後に、亜里沙は再び叫び声を上げ始めた。
叫び声と共に、身体の筋肉が盛り上がり始めたのである。
顔の筋肉のつき方が変わっていくと、相貌も変化している。
今までの亜里沙とは思えない、大人びた美しい顔になっている。
変身したように、香里奈は思った。
 
筋肉が相当付いたのであろう。
皮膚が薄いので、まるで筋肉の標本のように見える。
 
まるで、コンテストの舞台の上でのポーズを取って、亜里沙は自分の身体を見ている。
 
関節を曲げると、筋肉が硬く大きく、形を変えていく。
香里奈が驚いたのは、尻や太股などの腰回りと背中、胸なのである。
肩幅が広いと言っても、女性の骨格である。
そこに、男性ボディービラーの筋肉が付いた状態であり、現実にはあり得ない体格である。
 
身体の幅が広くて手足が長いので、これだけの量の筋肉が付いていても、まだ余裕があるように見えるのである。
手を伸ばして、身体の色んな部位を触って、ボディーイメージを掴もうとしているようである。
ゆっくり伸ばして、見え難い尻の肉がどこまであるのかを確かめている。
尻が大きいために、左右の手が付かないので、慌てたような表情になった。
やっと、左右の手が付いた時に安心したように見えた。
 
 
「お姉ちゃんは、こんな体格になってしまったの。
 
背中の筋肉もこんなに。
厚みがあって、幅が広いからこんなに広がっている。
胸だって、筋肉だけでおっぱいは無いのに、こんなに膨らんでいるのよ。
 
なんて大きなお尻なのでしょう。
でも、私はこんなお尻になりたかったのです。
大きい上に、形もきれいで。」
 
前から見ると、香里奈には、細く締まったウエストから、幅の広い腰骨の外側へ真横に出っ張っているように見えた。
あまりの落差の雄大さに、驚きを隠す事が出来ない。
横から見ると、ウエストから尻の肉が真横というよりも、上に角度を付けて盛り上がっているように見える程である
 
「触って見てもいいよ。」
と言われると、香里奈は、誘われるように亜里沙の背中に手を当てて、下へ尻を通り太股まで滑らせたのだ。
そして、今度は反対に上へと滑らせて行った。
 
その時、亜里沙の顔は急に表情が柔らかくなった。
恥ずかしそうに、香里奈に向かって微笑んだ。
その場の雰囲気が和らいだのである。
 
「亜里沙姉ちゃん。
お尻に力を入れたらどうなるの。
やって見せて。」
 
香里奈の要望通り、亜里沙は尻の筋肉に力を入れたり、ゆるめたりを繰り返した。
尻肉の力で尻が上下にぴくぴくと動いたのである。
それは、香里奈の思っていた通りであったらしい。
意外であったのは、左右の尻肉が離れたりくっ付いたりするので、パコパコと大きな音がしたのである。
 
「お尻が大きいと、そんなことが出来るのだね。
意外。
考えたことも無かった。
でも、挟まれないようにしないとね。
大怪我するかもしれない。
怪我で済むとは思えない。」
香里奈が言うと、家族みんなが笑ってしまったのである。
 
「その時間が近付いてくるのが分かる。
まだ、終わりじゃないの。」
亜里沙はそう言うと、再び表情が険しくなった。
そして、ペットボトルのスポーツドリンクをぐいぐいと飲んで、汗をかき始めたのである。
1本では足りないのか、2本目も飲み干した。
 
また、例のプロテインも飲んだ。
お代りもしたのだ。
 
 
筋肉でごつごつした亜里沙の身体が、少しずつ丸みを帯び始めたのである。
最後に脂肪が付くとは、秀次郎ですら、わからなかったようである。
 
それまででも大きいと思われていた尻が、脂肪が付く事でそれ以上の大きさになって来るのだった。
しかも、柔らかい丸みを帯びて来る。
やはり、女性の骨格にはこのような脂肪が付く事で、不思議な力を持つようになるのである。
 
「さっきのお尻よりも、今の方がもっと好き。
だって、さっきよりも脂肪が付く事で、肌がきれいになったような気がする。
 
でも、まだおしまいじゃないわ。
一番大切な所の事を忘れてはいけないのよ。
プロテインが足りないのかなあ。
香里奈ちゃん、まだ残っている?」
 
また、何杯もお代りをした。
 
 
ようやく、亜里沙の胸に変化が表れてくるのである。
少しずつではあるが、亜里沙の乳房が膨らみ始めたのであった。
 
亜里沙は、自分の胸に手を当てると、少しずつ乳房が大きくなっているのが分かったのである。
乳房が、自分の掌を押す弱い圧迫感があるのだ。
 
少しずつではあるが、乳房が前進している。
ここまでが、私のおっぱいという領域が少しずつ増えているのだ。
 
筋肉のモコモコした凸凹は、見えなくなっている。
乳首の上に置いた亜里沙の掌は、1センチ1センチと前に進んでいるのが分かる。
もう、大胸筋の上の乳房は、厚みが10センチ以上もあるのだ。
しかも、この歩みは遅いが確実で、ペースを変えないのである。
掌が顎の下を過ぎ、乳房の厚みが20センチを越えると、足元がもう良く見えなくなって来ている。
 
亜里沙には、以前からやってみたい事があった。
自分で自分のおっぱいを揺らしてみたかったのである。
身体を左右に振って見ると、自分で振ったよりもおっぱいは余計に振れるのである。
 
そのうちに、亜里沙の乳房は、顎のすぐ下を通り、広い肩幅よりも外側に広がり始めたのである。
強い背筋が無ければ、この大きさになると垂れてくるのであるが、そんな心配は無用である。
乳首は、遙か前方に進んで行って、自分の目の前には縦に一筋の谷間が出来ている。
左右の乳房の押し合う圧力が強いのであろうか、互いの乳房を変形させながら、ぴったりとくっ付いているのだ。
自分の肘は、もうすぐ真っ直ぐに出来ない程、乳房は左右に広がっている。
成長はまだ止まらない。
 
亜里沙の手脚は長い。
その長い手を伸ばすと、乳首をかろうじて中指で触ることが出来るほどの所まで、前進している。
ようやく成長が止まった時には、乳首はかなり先まで前進していたのだ。
どう手を伸ばしても触ることが出来ないどころか、指の30センチ以上先まで、来ているのだった。
 
乳首の上側半分ばかりに肉が付いてしまっては、乳首が下を向いてしまう。
しかしそんなことは、亜里沙には起こらない。
下乳にも十分に肉が付いているので、その肉が全体を下から押し上げて、きれいな形が保たれている。
 
「お姉ちゃんの、おっぱいって上から見たらどんな風に見えているの。
背が高くて、見上げないと見えないから、椅子に乗って見ても良いかなあ。」
香里奈はそう言いながらも、すでに椅子に乗っていた。
 
「うそ、鎖骨が見えないけれど、どこにあるの?
上から押しても、鎖骨が見つからないよ。
完全におっぱいのお肉に埋もれている。
昨日までのお姉ちゃんだったら、鎖骨の所に金魚が飼えたのに。」
 
香里奈はリラックスしているようであるが、徹夜で気分がハイになっているのかもしれない。
 
「お姉ちゃんのおっぱいって、重力を無視しているの。
信じられないような形にさせている。
空中に浮いているの。」
香里奈が言うのである。
 
「じゃあ、下から腕の力で支えてみて。」
そう言われて、香里奈は悪戯心も働いたのか、片手で持ち上げようとするが持ち上がらないのである。
両手で持ち上げようとするが難しそうである。
 
「少し身体を低くして、香里奈ちゃんに私の乳房の重みを掛けてみるよ。」
「えっ、ウソでしょ。
耐えられないなんて。
このおっぱい片方だけで何キロあるの。
20キロ以上あるかも。」
と言いながら、香里奈は尻もちをついてしまったのである。
 
強靭な背筋や胸の筋肉の存在が、その大きな乳房が空中に浮かんだように見せているのだ。
「私ぐらいなら、その巨大なおっぱいの上に乗れるかもしれないね。」
実際に乗れるかもしれないが、左右から挟まれると怪我をするかもしれなかった。
 
 
 
亜里沙は、脂肪が付いて女性的になった身体を見せつけるように、台所に立ってじっとしている。
自分の身体を隅々まで見渡して、点検しているのである。
 
やっぱりこっちの方が、筋肉質なのよりも良いと、亜里沙は思うのだ。
満足しているのと、自分の美しさに自分で驚いて、時間がたつのを忘れているのである。
 
「こんな身体になれて本当に良かった。
これからどんな事が起きるのかなあ。
楽しみな事がいっぱいある。」
 
自分の大好きなこの身体で、これからどんな事をしようかと、空想している亜里沙である。
 
 
 
 
そのまま、1時間以上過ぎた。
 
 
「もう、おしまいね。
御免なさい、自分勝手なことばかり言っているけれど。
どうか、これから寝させてください。
一週間程度、徹夜していたみたいな気分。
した事は無いけれど。
 
どっち向いて寝たら良いのかなあ。
胸と尻が大き過ぎて、どうしたら良いのかこれから考えなくちゃ。
これからどうしようかなあ。
着ることが出来る服があったら、どこにでも行かなくちゃね。
私に合う服なんてどこにもないし。
 
私の裸を写真に撮って、麗子姉ちゃんにメールしておいてね。
香里奈、お願いだから。」
 
そう言ったかと思うと、亜里沙は裸のままで自分の部屋へと歩いて行ったのである。
起きておけと言っても無理だった。
 
 
時刻は、6時45分前である。
残された、家族の3人には寝る時間は無かった。
特に香里奈にとっては、つらい一日となるであろう。
 
 
 
 
さて。
 
亜里沙はどんなサイズに成長したのであろうか。
 
亜里沙の超乳は、どんな事件を引き起こすのであろう。
作者の傾向としては、例えば超乳が何かを潰すとかなどの物理的な事よりも、心理的な事件に興味がある。
彼女のセクシーさは、周りをどんな風に掻き回すのであろうか。
 
 
現実的には、このまま裸で、生活する訳には行かない。
どんな下着を付けて、どんな服装をして。
 
一番興味があるのは、制服・体操服・スクール水着である。
 
二番目は、スーパーマーケットへ行ったり、電車に乗ったり、スーパー銭湯に行ったりの日常である。
体力もあり、鈍感な所もある亜里沙は大丈夫であろう。
心配なのは、周りの人々である。
 
 
映画研究会での、これからの活動は。
特に、あの派手な服装で、どんな体力テストをするのだろう。
亜里沙には、友だちがいるのだろうか。
友だちとは、どんな学校生活を送っているのだろう。
 
麗子の計画とは、どんなものだろうか。
父、秀次郎はあの汗でびしょ濡れのタオルで、どんな研究をするのだろうか。
曾祖父の、戦前からの研究とは何についてなのか。
 
謎が深まって来て、どうなるのか気になることだらけのままに、物語は切れている。
 
 
 
亜里沙が起きたのは、この後24時間後であった。
2度ほどトイレに行き、冷蔵庫を開けて食べ物をあさり、インストラクターからもらった大きめのトレーナーを着て・・・・・・。
 
 
次の日、母親にサイズを測ってもらう。
身長は228センチで、357−68−312だった。
脚の長過ぎるほど長い亜里沙の巨大な尻は、背の低い女性の顔より少し低い所にあるのだった。
 
サイズを測ってもらったあとで、亜里沙は得意のヨーガをしてみたのである。
当然裸である。
香里奈はそれをじっと傍で見ていた。
 
身体が柔軟なので、自由に関節を曲げることが出来るのだが、筋力も強靭なのでそのポーズを取り続けることも可能なのだ。
そのために、超乳が潰れることもあった。
超尻も、捻じれたり広がったり、自分の力で亜里沙は行った。
その姿は、あまりにも迫力があった。
見ていた香里奈は、驚いて開いた口が塞げなかった。
柔らかい肉の塊が、色々な形に変形するのを見入ってしまった。
ヨーガを終えて、亜里沙が立ち上がって香里奈の近くへ歩いて来た時に、ちびってしまうほどの迫力だったのである。
 
 
でも、次の急成長では、もう身長は伸びないだろう。
秀次郎に言わせれば、理論的には身長が低くなる可能性だってあるらしい。
180センチ程度になるかもしれないということだった。
 
 
 
肩や腰の幅の広い亜里沙は、まだ成長することが出来る、余裕を感じさせる。
超乳超尻に隠されているが、人並み以上に自由闊達に運動したり、学習したり出来る身体の強靭さを秘めているのだ。