3回戦に勝利し、ありすは赤組応援席へ凱旋する。
「ナイスファイト!さっすが、Uカップの貫禄を見せつけるような瞬殺だったねー」
寅美がプールサイドへ駆け下りてきて、それを出迎えた。
「べつに……茨城のヒトが勝手に自滅しただけですから」
ありすは相変わらず無愛想。
「ていうか……寅美さん、勝手に応援席下りてきていいんですか?」
「何言ってんの。もう次の対戦は決まってるんだよ。ほら」
「あ」
確かに。寅美が指差した電光掲示板は、すでに4回戦のカードを表示していた。
赤組からは千葉、すなわち、寅美である。
(……考え事してて、気づかなかったわ)
3回戦で光が見せた不可解な自滅が、ありすはまだ気になっていたのだ。
「じゃ、行ってくるわ!2連勝の流れに乗って、私も勝ち星上げてくるから!」
「はあ……がんばってください」
「うふ、ありがとっ!」
パン!
ありすの小さな手のひらと軽いハイタッチを交わした寅美は、勇ましく戦場へ赴く。
(……寅美さん)
こちらがどんなに投げやりな態度でもイラ立ちもせず、ハイテンションに笑い飛ばしてくる。
そんなルームメイトを、ありすは正直ウザいと感じていた。
でも、心のどこかで……
大嫌いな母親からもらえなかった何かを、彼女が与えてくれるような、そんな気がしていた。
大きな大きな胸の奥で、じわりと温かくにじむ、何かを。
寅美を見送ったありすは、重い乳房をよいしょと持ち上げて座席に座る。
少し猫背になると、どっしりと乗っかったおっぱいが、ふとももをほとんど覆い隠してしまった。
その前の席では、深雪と麻衣子の東北コンビが話している。
「なんだか、さっきより進行早くない?」
「スタッフさん、急いどるんかもしんねーなあ」
「え?」
「雲行きさあやしいっぺ。もうじき、あまけ(雨気)さ来っかも」
「雨が降るってこと?でも、まだこんなに晴れてるよ?」
深雪の言う通り。昼下がりの日光は燦々と、少女たちの肌を健康的に照らしているのだが、
「わは……、『わたし』は山育ちだはんで、天気の変わり目さ、なんとなくカンでわかるのよ」
<さあ、続く副将戦!赤組からは千葉県代表、山元寅美!
18歳の高校3年生です。
身長155cm。スリーサイズは112・59・79!
プリンプリンと元気にバウンドする、Nカップバストの持ち主だっ!
性格はいつも前向きでポジティブ。明るい笑顔は、おっぱいに引けをとらないチャームポイントです。
高校では野球部マネージャーとして、球児たちを悶々と悩ませ…いやいや、サポートする日々。
しかし、幼い頃から野球ファンだった彼女は、小学生時代、Gカップの胸をサラシで押さえつつ、男子に混じってリトルリーグに参加していたとか!
先の中堅戦では、チームメイトのありすちゃんのため、応援席から堂々と六甲おろしを歌ってくれました。
そう。ロッテの領土、千葉というアウェイにありながら、彼女は熱烈なタイガースファンなのです!>
「うわー、同じ阪神ファンとしてはあの姉ちゃん応援したくなるなー」
「あかんよ芽衣ちゃん。ウチら白組、今負けとるんやさかい」
<しなやかに引きしまったスポーティーな身体を包む水着は、黄色と黒のセパレートタイプ。
そのカラーリングが示す通り、鍛え上げられた運動能力は『危険』と心得よっ!
前方に猛々しくせり出した2つのおっぱいこそが、彼女の牙!
虎のごとく、容赦なくッ、勝利に喰らいつくぞーっ!>
紹介されながら、寅美ははじけるような笑顔でプールサイドを歩く。
そして、明るさの中にもお色気を。ときどき肢体をくねらせてカメラにアピールすることも忘れない。
アイドルとして、すでに資質は十分のようだ。
しかし、向こうからやってくる対戦相手。
「!」
その姿に、寅美が驚いたのも無理はないだろう。実際、赤組応援席でもどよめきが起こっていた。
<そして白組からは香川県代表、打越むつみ!
16歳の高校2年生ながら、こ、これはすごいっ!
超弩級グラマラスボディをぶるんぶるんと震わせながらの土俵入りです!
そびえ立つような長身は、今大会最高の187cm!スリーサイズは150・75・110!
驚きのカップサイズはなんとY!アルファベットを使い切る日も、そう遠くはありません。
一歩ごとに重々しくだっぷんだっぷんと波打つ、メガトン級の巨塊!
シンプルな純白の三角ビキニは、広大な布面積もむなしく、下乳をはみ出させています。
75cmというウエストも、身長と対比すればそう太くはないでしょう。なんせバストはその2倍もあるのですから!
ふとももにかけての急激なカーブ。そして、ドッカーン!と爆発的に盛り上がったヒップは、もはや肉感の暴力!
まさに横綱の貫禄!あまりにも豊満でふくよなかな……あれっ?……え……?>
実況する臼井が言葉を詰まらせる。
それもそのはず。プールサイドを歩いていたむつみは、突然両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんでしまったのだ。
<え、えーと……むつみ選手、どうしたのでしょうか?>
「こらぁあああああーーーーーっ!!!!!」
<!?>
中断したアナウンスに、白組応援席からの一喝が割り込んだ。
「うっわー、やかまし!」
「えらい大声どすなあ」
キーンとなった耳を押さえて関西コンビがふり返ると、後ろの座席に立っていたのは、身長140cmにも満たない小柄な少女。
しかし「小柄」と言っても当然、胸部にだけは当てはまらない。
フリルの飾られた水玉模様のビキニは、体格に不相応なバストをぎっしりと詰め込んでいるようだ。
乳房の体積だけを見れば、今大会参加者の中では小さい部類だろう。
しかし、低い身長とのアンバランスが数字以上のインパクトを与えている。
ボンボンのヘアゴムで結った髪型も、ロリータな魅力を際立たせていた。
大声を張り上げたのは彼女である。怒りに鼻息を荒くして、マイクも使わず次の言葉を放つ。
「『メガトン級』とか『横綱』とか、乙女に向かって、なんて暴言ですのっ!」
ちょっと鼻にかかるような独特のファニーボイスは、チャーミングな容姿に似つかわしく、可愛らしかった。
「むーちゃんは、ただでさえ人一倍繊細なんですの!身長やお尻が大きいのを気にしてるのに、あんな言い方ひどすぎますのっ!」
「や……やめて、きーちゃん!」
そこへ、またしても誰かの声。
「はれ?今度は誰や?」
「えろう透き通った、きれいな声やったけど……」
関西コンビが戸惑ったのも無理はない。
そう、ガラスの風鈴のように清涼で、やさしく、儚さすら思わせる女性的な声。
その主が、プールサイドにうずくまる巨体少女、打越むつみ本人だとは、にわかに信じられまい。
「もういいの。私、がんばるから……ありがとう、きーちゃん」
むつみは立ち上がり、応援席のルームメイト、すなわちあの大声の少女にほほえみかける。
その笑顔は、健気な勇気を伝えていた。
<せ、先入観に惑わされていました……>
再開した臼井のアナウンスからは、反省の心が聞き取れる。
<ボディにばかり目が行ってしまいましたが、その顔立ちの、なんと清楚なことでしょう。
白い肌とコントラストを成す黒髪も、たおやかな乙女のもの。
先ほどは失礼!私も下品が過ぎました。
打越むつみ、彼女も思春期の女の子。そしてアイドル候補生ですっ!>
もしこれがプロレスなら、大抵の観衆は迫力に気圧されて、一目でむつみを悪役(ヒール)と判断していただろう。
身長が高すぎるため、「かわいい系ぽっちゃり」にも当てはまらない。
見る人が見れば、「ごつい」と評するかもしれない。
だがそれはミスディレクション。
見上げた先にあるその顔は、楚々として咲く花のよう。
無垢で純情可憐な、思春期の女の子そのものなのだ。
むつみ自身、第一印象で誤解されることは慣れているつもりだったが、さすがにあの実況はこたえた。
気にしているウエストやヒップのことまで、容赦なく言及されてしまった。
それでも勇気を出して、再び浮島へと歩き出す。
(どんな視線も……言葉も……すべて受け入れなきゃダメ!だって、それが)
親友と共に目指す、アイドルという職業だから。
香川代表
打越 むつみ(うちこし・むつみ)
16歳
身長 187cm
バスト 150cm(Yカップ)
ウエスト 75cm
ヒップ 110cm
支給水着 白い三角ビキニ
特徴 量感あふれるグラマラスボディ。体格とは裏腹に、純情で内気な性格。
「フフン、わかればいいんですの。誤解されやすいけど、むーちゃんはとってもやさしい女の子ですのよ!いじめたら、キッカが承知しませんの!」
臼井の謝罪に満足したのか、大声の少女「キッカ」は、腕を組んでふんぞり返った。
その際、組んだ腕に押し上げられたバストが、水着の襟ぐりからこぼれ落ちそうになる。
「きゃ☆」
あわててそれを直し、「おほほ」と上品に照れ笑いしながら着席した。
「嬢ちゃん、いきなり大声出さんといてやー。ビックリしたでホンマに」
前の座席から上体をねじって、こちらを向いた芽衣が苦情を述べる。
その際、パンパンに張り詰めたスクールの脇から、盛大に横乳をはみ出させているのが見えた。
横から見ると、胸部の隆起は一層著しい。
無遠慮で押せ押せな芽衣の性格を、そのまま体現しているかのようだ。
「あら、ごめんあそばせ。親友のピンチを放っておけなかったんですの」
ぺこりと一礼。
「でも、『嬢ちゃん』はないでしょう?キッカ、中3ですから、あなたよりお姉さんじゃありませんこと?」
「でぇー!ホンマに?小6のウチより全然小っちゃいやん!」
「小さいって言うなですの!これでもおっぱいはMカップありますの!」
むつみとは逆に、低い身長が彼女のコンプレックスだったらしい。
「へっへーん♪ウチはOカップー、ウチの勝ちー」
「くぬぅ……キッカはまだまだこれから成長するんですの。モデル体型になる頃には、おっぱいもどどーん!と膨らんでるハズですの!」
「え〜?でもウチより年上やん。てことは、成長の余地も少ないやろ〜?」
「ムキーーーーー!!!」
もはや完全にこどものケンカだ。
「ほらほら芽衣ちゃん、そんくらいにしとき」
横から止めに入る茜、と、もう一人。
「ケンカはいけませんわ。さ、お茶を」
「「いやもう、お茶はええねん!」ですの!」
茶湯里へのツッコミが見事にシンクロし、この場は収拾した。
「お嬢様口調といい、今の『ムキー!』といい、小さな静香先パイ見てるみたいだわ」
「あらぁ〜…奇遇ですねえ〜…私もぉ〜…そう思ったところですぅ〜…」
キッカの本名は立花橘香。
むつみと同じく四国出身の彼女は、愛媛県の代表だ。
身長差にして50cmもある凸凹コンビは、大会前からあつい友情で結ばれている。
ある目的から、2人は共にアイドルを目指しているのだが、それについては次回明かすことにしよう。
「けど橘香ちゃん、変わったしゃべり方してるね?そういうキャラでブレイク狙ってるの?」
横からさとみが話しかける。
「え?キッカはこれが自然ですけど?なにぶん育ちが良いものですから!」
嫌味なく言ってのけた通り、彼女は裕福な家の生まれ。
愛媛県に広大なみかん農園を経営する、豪農のお嬢様だ。
「なんやぁ、金持ちかい。そらうらやましいこっちゃ。アイドルにならんでも、ええ暮らしできるんちゃう?」
思わず皮肉を漏らす芽衣。借金返済のために出場した身としては、面白くない。
「チッチッチッ。キッカはお金が目当てでアイドルになりたいんじゃありませんの!もっとピュアな目的のため、むーちゃんと一緒に出場したんですの!」
橘香はひとさし指を振り、余裕の笑みでそれを返した。
「香川のむつみちゃんとは、前から仲良しなんだね」
「イエース!むーちゃんとは共通の悩みを持ち、お互いに秘密を打ち明けた、大親友なんですの!」
「共通の悩みって、やっぱりカラダのことだよね。私もブラ探しとか、苦労してるんだぁ」
さとみが共感するが、橘香は再び指を振る。
「ノンノン。確かにそれもありますけど、もっと重要なコトですの。乙女の悩みといったら、そう!恋の悩みですの☆」
「えっ、何!恋バナ?聞かせて聞かせてー!」
うっとりとした表情で答えた橘香に、愛矢がすごい勢いで喰らいついてきた。
一方、土俵上で寅美とむつみは対峙している。
身長差は32cm。当然、寅美がむつみを見上げる形となるが、その表情は不敵な笑顔。
どんなピンチも楽しむ余裕。その前向きさゆえに、彼女は、強い。
「えへへ。おっぱいはあなたの半分もないけど、負けないからねっ!」
「私だって……ま、負けません!」
むつみも、いつまでも恥ずかしがってばかりではない。
親友と誓い合った夢のため、今こそ全力を見せる時だ。
両者は互いに闘志を向け合い、開始の合図を待つ。
<では両者とも、見合って見合って〜>
「うーむ、それにしてもむつみちゃん……見れば見るほどでっかいわね。妖怪『見上げ入道』ってとこかしら」
「ちょっ!千郷さん、それ本人の前で言っちゃダメですよ!きっと泣いちゃいますよ」
「えー?じゃあ、『ぬりかべ』?」
「妖怪にたとえちゃダメですってば!普通の人には、ほめ言葉じゃないんですから!」
こんな所で大学生に常識を説く羽目になるとは、芙由花も思っていなかっただろう。
今の失言、橘香に聞かれなかったかとヒヤヒヤしたが、どうやら大丈夫のようだ。
なぜなら橘香は今、愛矢の質問攻めに遭っていて、それどころではなかったから。
「ねぇ、いいじゃーん。聞かせてよー、恋の悩み。ウチの神社で祈願するからさー☆」
「し、しつこいですの!秘密だって言ってるでしょっ!ああもう!むーちゃんの試合が見えませんの!」
うっかり口を滑らすんじゃなかった、と後悔する。
口数が少なく聞き上手なむつみとは対照的に、橘香は基本おしゃべりなのだ。
口の軽さについては、これでも自戒していたつもりなのだが。
愛媛代表
立花 橘香(たちばな・きっか)
14歳
身長 137cm
バスト 104cm(Mカップ)
ウエスト 49cm
ヒップ 75cm
支給水着 オレンジ地に白の水玉模様ビキニ
特徴 豪農のお嬢様。むつみとは親友で、無口な彼女の分までよくしゃべる。
<はっけよーい、のこった!>
「「始まった!」ですの!」
橘香につきまとっていた愛矢もいったん離れ、試合に注目する。
ぱちぃいいん!
開始と同時に、大きなお餅が叩きつけられたような音がして、正面から両者はぶつかり合う。
先手必勝の勢いで突進した寅美だが、いかんせん相手は強大。
片方で10kgはあろう乳房に、衝撃はあえなく吸収されていた。
(むぅっ……!)
そして今、寅美の顔面はむつみの膨大なYカップに埋没している。
(えっ?こ、これは……?)
それは、まったくの初体験。
むつみの乳房の感触は、生まれて初めて味わうものだった。
ホテルの部屋でありすの生おっぱいを触らせてもらった時も、こんな感じではなかった。
(なっ……なんなの?このおっぱい!)
寅美の脳裏に「窒息」という2文字がよぎるまで、数秒とかからなかった。