「〜となるので、余弦定理より…」
数学教師の爺さんが、教卓の前に立って授業を進めている。
教室内の生徒は黒板とノートを交互ににらめっこして、懸命にシャープペンシルを走らせている。
そんなクラスメイトの1人、相田 梨奈もまた、真剣な眼差しで授業を受けていた。
黒髪を肩で揃え、清楚な顔に銀縁メガネを光らせるその姿は、まさに絵に描いたような「委員長」だ。
ただし、身長は145cm、胸も尻もお世辞にも大きいとはいえない、貧相な体つきをしている。
普段の俺なら、そんな彼女の姿を見て、何も思うことなく、手元のノートに視線を戻すだろう。
だが、今の俺は違う。
俺は視線を相田の方に向け、「肉感的な体」になるよう念じた。
数秒も経つと、彼女の体つきに変化が起きてくる。
身長はグググと伸び、165cm程となり。
小学生のように細かった太ももには艶やかな脂肪がつき。
臀部ははち切れんばかりにムクムクと膨らみ。
胸は過剰なほどの脂肪が蓄えられ、セクシー女優顔負けのカップにまで成長した。
変化は、それだけでは終わらない。
幼かった顔つきは、体つきに合わせて大人びたものになり、服装も体型にフィットする大きめのサイズに変わる。
そう、俺のイメージが自然なものになるよう、自動的に補正がかかったのだ。
かくして、先程まで小柄な体躯をしていた彼女の姿は見る影もなく、グラビア誌にでも乗っていそうな卑猥な体つきをした女がそこにはいた。
しかし、そんな非現実的な現象に、周りはもちろんのこと本人も気づいた様子はない。
なぜなら、この俺ーー梶 和己の手に入れた能力は、「変化後の事象が当たり前のものである」よう認識させることも出来るからだ。
誰も知らないところでクラスメイト1人を作り替えた俺は、机に向かって一人、不敵な笑みを浮かべた。