千々山村自然教室

唐鞠 作
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「ええっ!ウソぉ?」
「小学生?」
「マジかあ?すげー!」

ボンキュッボンの長身モデル体型から、誰もが中3だと信じて疑わなかったいつきちゃん。
実はまさかの小3!驚きの真実に周りがざわめくのも無理はありません。
でも、それがいけませんでした。視線にとり囲まれたいつきちゃんはますます赤面し、今にも泣き出しそうです。

後ろの席から見ていた、いつきちゃんのお母さんも動揺している様子。けれど助け舟を出すのをぐっと堪えているようでした。
「あ、新戸さん?」
「大丈夫です」
隣にいるあまねちゃんのお母さんに気遣われても、娘を見守るだけに徹しています。

「いいなー。ナツより年下なのに、そんなに背が高くておっぱい大きいなんて」
「背ぇのことは言わんでぇ……いっつもそうなんよ。このカラダのせいで……グスッ」
「えー、かっこいいじゃん。オトナに見られるのうらやましいなー」
ナッちゃんの無思慮な言葉が傷つけてしまったのか、とうとう涙を浮かべたいつきちゃんは、皆の輪から離れてしまいました。

「むー、なんでだよぉ。ほめてるのに」
「ナッちゃん、本心からの賞賛でも、人には触れて欲しくないことがあるものですわ」
わたくしはナッちゃんを諌めました。思ったことをすぐ口に出すオープンな性格も、今回は仇になってしまいましたわね。

「い、いつきちゃん、ゴメン」
ナッちゃんの謝罪を背に受けても無反応。
「……くすん」
気まずさに沈黙する皆の横を通り過ぎ、いつきちゃんはフラフラと後ろの席へ向かいます。そして、とっくに背を追い抜いてしまったお母さんの前で、うなだれるように立ちました。

けれど、かけられた言葉は厳しいものでした。
「いつき、泣いたらあかんよ。強くなるために来たんやろ?」
いつきちゃんは黙って頷きます。
「本当はわかっとるやろ?三森さんにも悪気はない。あんたをからかうモンなんて一人もおらんて。みぃんな、やさしいお友達よ?」
「……はい」
「わかったら、顔洗っておいで」
「……はい」
いつきちゃんのお母さんは高い位置にある頭をひと撫でして、泣き止んだ娘を送り出しました。
目の当たりにした母親の厳しさと優しさ。それは、わたくしが憧れる未知のものでした。

ドン!

と、そこへ交通事故です。
「ひゃあっ?」
工作室を出て行こうとしたいつきちゃんに、戻って来たさやちゃんがぶつかってしまいました。
同じ小3とは思えない身長差40cmの正面衝突。犯罪的なセクシーボディに弾かれたさやちゃんは、廊下で尻もちをついています。

「ごご、ごめん!さやちゃん、大丈夫?」
「……びっくり……でも、やわらかかったから、平気……」
どうやら、豊満なバストがさやちゃんの頭上に乗り上げる形になった模様。(ちょっとうらやましいですわね)

いつきちゃんは、さやちゃんの手を引いて起こします。
(うわあ……こうして2人並ぶとスゴいですわね)
小学校でよく使う30cmものさしを頭に立てても埋まらない身長差。けれどバストは、目測でいつきちゃんが90cm以上のF、さやちゃんが80cm未満のF。
信じがたい事に、おそらくどちらもFカップですわ。
その証拠に横から見たときの盛り上がりはほぼ一緒。ブラに大玉のリンゴを丸々2個詰めた感じですもの。

「あ、おにいちゃん……わたしの分まで、ドリルやっちゃったの?」
「おう」
「むぅ……わたしもやりたかった」
あら?意外。さやちゃんは「余計なことしないで」と言わんばかりに、過保護にうんざりした表情を見せました。(でも、そんな顔もいちいちキュートですわね☆)

「けどよ、お前耳が」
「これがあれば、だいじょうぶ」
そう言って自分の耳を指差すさやちゃん。何かしら?そこには、白いものが詰まっています。
「あの〜亮平さん、どういうことですか?」
あまねちゃんが尋ねました。
「ああ。妹は目が良くないってのはさっき話したよな?
その分、耳がめちゃくちゃ良いんだよ。だけど良すぎて、でかい音が苦手なんだ」

視覚のハンデを補うように発達した、するどい聴覚。
しかし発達しすぎたためか、大きすぎる音には痛みやしびれに似た感覚が伴ってしまうそうです。
たとえば体育で走るとき、スタートの空砲も耳をふさいでないといけないとか。
だから、うるさい環境では特殊な耳栓をして過ごすんですって。
ちなみに耳栓をしたままでも、読唇術と合わせて日常会話は行えるそうです。
「なるほど。いきなりドリルを使った徹郎くんを注意したのは、そのためだったんですね」
あまねちゃんも納得しました。

そんなさやちゃんが今、いつきちゃんに声をかけています。
「わたしの分のドリル……おにいちゃんがやっちゃった。だから……いつきちゃん、一緒に半分ずつやろ?」
「え?あ、あかんよぉ。あたし怖いんよ」
「だいじょうぶ……いつきちゃんは、板を押さえてて……ドリルは、わたしが持つ」

無気力でダルそうなしゃべり方とは裏腹に、さやちゃん果敢に挑むようです。
障がいに甘えることなく自立し、友達も助けようとするなんて。本当にできた子ですわね。

「ほ……ほんなら、ええよ」
いつきちゃんは、穿孔する板をしっかり押さえました。
しかしまだ怖いのか、襟元から覗いた谷間がふるふると揺れています。

「じゃあ……いくね」
バキッ!
「「あっ」」
さやちゃんがトリガーを引こうとした瞬間、いつきちゃんの押さえていた板がまっぷたつに割れてしまいました。どうして?まだ先端を当てただけで、回転してなかったのに。

「あああ……や、やっぱアカンよぉ!」
板を割ってしまったいつきちゃんが悲しそうに首を振ります。
「あたし、ばかぢからなんよ……きもちが落ち着かんと、加減でけへんのやぁ……」
けっこうな厚みのある板を意識せず割ってしまうなんて。やはり、恵まれた体躯に見合うパワーを秘めていましたのね。

「大丈夫だ!まだ替えの板があるぜ」
諦めかけたいつきちゃんを励ましたのは本来のパートナー、徹郎くん。
「いつきちゃんファイト!あきらめないで」
「落ち着いてやれば大丈夫。もう一度やってみよ?」
ナッちゃんとあまねちゃんもそれに続きました。

「どうする?決めるのはいつきちゃんだよ」
竹上さんは、あくまで本人に決めさせようとします。
「うぅ……そやかて……」
「わかった。じゃあ交代」
それでも怖気づくいつきちゃんに、さやちゃんから意外な提案。
「え?」
「やっぱりこのドリル、わたしには重かった……だから、わたしが板を押さえる……ちからもちのいつきちゃんが、ドリル持って」
「えええぇ?あ、あかんて。あたしきっと失敗する!勢いあまって、さやちゃんケガさせてもうたら」
イヤイヤと激しく拒否するいつきちゃんでしたが、
「……だいじょうぶ」
さやちゃんは母性すら感じる慈愛のほほえみを向け、いつきちゃんの手を取りました。

「わたしたち、からだのなやみをもつ、友達どうし……
だから、信じる……いつきちゃんは、やさしい……ぜったいに友達を傷つけない」

(天使かしら?この子!)
出会ったばかりの仲なのに危険を顧みず信頼を寄せてくれるさやちゃん。
献身的な美しい友愛に、わたくしは感動を禁じ得ませんでした。

********

(いつき……)
このとき、娘を見守っていたいつきの母、新戸美樹子は数か月前の出来事を思い出していた。
今年の春、娘は同じクラスの男子に「巨人」とからかわれ、泣いてしまったのだ。
そればかりか、その男子を平手で叩き、軽いケガを負わせてしまった。
本当はちょっと振り払ったつもりだったのだろう。しかし感情が高ぶると、あの子は力を加減できない。

学校と保護者に謝罪は済ませたが、あれ以来娘は登校拒否になっている。
だから奇しくも、「友達を傷つける」という言葉は聞きたくなかったフレーズ。一番触れて欲しくないトラウマのはず。
(だけど、今のあの子の表情は……)
親だからわかる。あれは「乗り越えるなら今」と、決心した顔!

********

「わかった。あたし、やる」
いつきちゃんは大きな手でしっかりとドリルを受け取りました。
どうしたのかしら?感情の波がスッと引いたように、落ち着いていますわね。

こうして、役割を替え再チャレンジ。
「いつでも、いいよ……」
友を信じ、繊細な手で板を押さえるさやちゃん。
「うん」
友を決して傷つけまいと、穿つべき一点に集中するいつきちゃん。
周りの皆も2人の様子を真剣に見守っていました。

と、シリアスに実況しといて、今更こんな事に気付くのもアレですけど。
今の状況、かなり……その……エッチじゃありません?
いや、不謹慎なのはわかりますわ!たぶんそう思ってるのはわたくしだけでしょう。
でもよくご覧になって?この光景。

胸もお尻も出るとこ出まくったオトナのカラダをもつ早熟小3美少女が(ドリルを両手で構えた結果)豊かな乳房をさらに寄せながら緊張した息遣いで熱いまなざしを送り、
その先では、耳が人一倍感じる色白の天使系美少女が細身にアンバランスな禁断の果実を2つ実らせた胸元を覗かせつつ突起物(ドリル)に穿たれるのを「いいよ……」と待っている。

何のメタファーですのコレっ!?
(イヤだ!わたくしったらお嬢様としてあるまじき、ふしだらな妄想を!)
ここは少女同士の友情に感動すべきシーンなのに……妙に煽情的で、淫靡に見えてしまう!

「あの〜、ルミさん顔真っ赤だけど大丈夫っすか?」
「えっ?ええ。お2人の友情に感動してしまいまして」
進太くんごめんなさい、ウソです。

一人で興奮するわたくしをよそに、いつの間にか2人の共同作業は無事終わっていました。
周りの皆が喜び合う中で、わたくしはひそかに申し訳なさを感じていました。
(せっかくここまでのシリアスな流れを、わたくしのいやらしい妄想で台無しにしてすみませんでした)
はい……ホントにすみませんでした。

それから後は何事もなくスムーズに進み、5つの巣箱は完成しました。
「おめでとう。みんな上手にできたわね」
「おぉ〜、よくできてるねえ。鳥さんきっと気に入るよ」
椎原先生と仁科さんは全員の作品をほめてくれました。
「それじゃさっそく、取り付けに行きましょう」



わたくし達は裏の林へ移動しました。仁科さんはここで一旦別れて、川原にいる別の班を見に行っています。
ここからは、林業家の林さんがインストラクターを務めてくれます。たぶん仁科さんよりちょっと年下の、なかなかイケメンなお兄さんです。

巣箱の高さは3m前後。針金を使って木の幹に取り付けます。他にも、雨水が溜まらないようにちょっとだけ手前へ傾ける、出入口は南以外の方向にするなど、いくつか注意点を教えてもらいました。

「これが斜面でも安定する林業用の脚立だ。と言っても、安全のため必ず誰かが脚を支えているようにな」
「「「はーい」」」
高所での作業はさすがに危険なので、希望者だけが行うことになりました。挙手したのは男子3人です。

まずは林さんがお手本として、あまねちゃん・さやちゃんペアの巣箱を取り付けました。男子達もそれに続きます。
「竹上さん、やらないんですか?」
ナッちゃんが尋ねました。
「うん、私はパス」
「あっ……そうですよね。それだけおっぱい大きいと難しいですよね」

ナッちゃんさすがに失礼ですわよ?
とはいえ、たぶんそれは真実。なにしろ竹上さんの推定Mカップは体幹から前方20cmの空間を、どーんと占領しているのですからね。
「小さく前ならえ」の奥行きが約30cmですから、その3分の2を自分の胸が埋め尽くしていると想像すると……なるほど、作業の妨げになるのも仕方ありませんわね。
重さだって、仁科さんの半分と見積もっても4kgはあるはず。脚立の上で前のめりになるのは、かなりキツい体勢でしょう。

「じゃあ、こうしませんかっ?
竹上さんが巣箱を取り付ける。その間ナツは後ろからおっぱいを支える。
これなら2人協力して作業ができます。Oh!グッドアイディア!それでいきましょう」

Win-Winのビジネスプランを提案するように、竹上さんに言い寄るナッちゃん。
本心は大きなおっぱいを触りたいだけでしょ!(自分でグッドアイディアとか言うな)

「あははー、やめとくよ。脚立に2人乗るの危ないし」
さすが上級生。竹上さんは笑ってサラッと流します。
「そっか……しょーがないね。わかった。ナツ一人でやりまーす」
ナッちゃんも挙手。
って大丈夫ですの!?小4女子でも小柄な方だから、腕の長さが足りないのでは?

「な、ナッちゃん?小さいんだから無理しないほうが」
「だいじょーぶだよ青梅さん。ナツ、高いところ全然へっちゃらだから」
うん、いかにもそんな感じですわね。おサルのように身軽そうですもの。

「がんばってね。後でちょっとだけなら、おっぱいさわっていいからね」
「わーい☆」
竹上さんまで!ちょっと皆、ナッちゃんに甘すぎません?
(少しは恥じらいを!今は男子もいるし、成人男性の林さんにも聞かれていますのよ!)

「…………」

って誰も無反応かよ!
ええ〜……なんですの?このタブー意識のなさ。
まさかこの村じゃ、友達のムネを触るくらい普通のスキンシップってことですの?(←正解)



それから特に問題も起こらず、巣箱の取り付けは終わりました。

「よーし、皆がんばったな。おつかれさん!」
そこで林さんの携帯が鳴りました。どうやら事務所から急な呼び出しがかかったようです。
「すみません椎原先生。急用でちょっと離れます。脚立は後で片付けますので、ここに立てかけておいてください」
「わかりました」
林さんは一礼すると駆け足で行ってしまいました。

「じゃあ次は川原で梁漁ですよ。校舎に戻ったら女子は水着に着替えてください」
「「「はーい」」」

校舎へ戻ろうとしたその時、最初に「それ」を見つけたのは亮平さんでした。
「何だアレ?」
「どうしたんすか?センパイ」
徹郎くんも一緒に近づいてみると、草の上に一羽のヒナが弱弱しくたたずんでいます。

わたくし達も皆やって来て観察しました。
「鳥さんだ!かわいい」
「小っちゃいね。まだヒナだよ」
「なんで地面にいるんだ?」
「巣から落ちちゃったのかな?かわいそうに」

皆が心配そうにヒナを見守る中、わたくしはどうしても、しゃがんで前かがみになった女子の胸元が気になっていました。
(うわあ、青梅さんのおっぱいすごい重量感……ふとももにたっぷり乗っかって、まるで膝頭が4つあるみたいですわ!)
またしても不謹慎で申し訳ありません。でも仕方ないでしょう?あまりにも大迫力だったんですもの!

「そうだ!さっそくナツたちの巣箱に入れてあげたら?」
「いやダメっすよ。こいつツバメでしょ?巣箱を使うのはシジュウカラとか、見た目スズメっぽいやつです」
「進太くわしいな」
「私は、何もしない方がいいと思います」
そこできっぱりと言い切ったのは、あまねちゃんでした。

「巣立ったばかりの鳥を人間が助けるべきじゃない。飛び方やエサのつかまえ方は、きっとこれから学ぶんだよ。そうやって一人前に成長していくんだよ。
だから、人間の感覚で過保護になるのは良くないと思う。この子の自立を考えるなら、放っておくべきじゃないかな」
言い終えて、あまねちゃんはチラッと自分の母親を見ます。
「……」
言葉の含みに気付いたのか、あまねちゃんのお母さんは少し苦い表情を浮かべました。

「せやけど、飛べないままここにおったら、ヘビに食べられてまうよぉ」
「いつきちゃん、そういう弱肉強食も自然の姿だよ。ヘビだって生きるために狩りをしてるんだから。
冷たい言い方かもしれないけど、巣立ちの時期を早まったとしても、それはこの子の責任だと思う。
一度巣を離れたからには、親に守ってもらえないんだよ。自分の身は自分で守るんだよ」

もしかしたらあまねちゃんは、都会の競争社会でシビアな日々を送っているのかもしれません。バスの中でも中学受験の勉強が大変だと言ってましたし。
そんな彼女が自己責任を重んじるのも、何となくうなずけました。

「そう、宮方さんの言う通りね。この子が巣立ち後のヒナならば、ね」
ここではじめて、椎原先生が助言を下さいました。
「ツバメはね、飛行訓練で仮の巣立ちをすることがあるの。十分に飛べるようになるまで何度か巣に戻り、十分に発育してから巣を離れるのよ」
「「へえ〜」」
さすがは元校長先生。子ども相手に教え慣れていらっしゃいますわ。

「ちょっとよく見せて……羽は一応生えそろっているけど、まだうっすら地肌が見えるわね。幸いケガは無いけど、まだ飛べるほど成長してないみたい」
「やっぱり、地上にぽつんと居るのは不自然ってことですか?」
「そうね。きっと何かの事故で巣から落ちちゃったのよ」
「えー、お家に帰れないなんてかわいそう」
楽天家のナッちゃんもさすがに神妙な顔。

「でもさ、そんなら近くにコイツの巣があるってことじゃん」
亮平さん達は周囲を見渡しましたが、木が多すぎて巣を見つけられません。

「……あそこ」
そんな中、さやちゃんがある木に空いた洞を指差しました。かなり高い位置。地上10m近くありそうです。
「たぶん、あの中が……この子のおうち」
「さやちゃん、どうしてわかるんですの?覗いてもいないのに」
「きこえるから」
さやちゃんは耳栓を外していました。
「この子とおんなじ声が、あの中から……いくつか、重なって聞こえるの」
そうでした。彼女は人並み外れた聴覚の持ち主。
でもまさか、あんな離れた場所の小鳥の鳴き声を拾えるなんて!

「それって、こいつの兄弟っすよね?ツバメって一度にたくさん卵を産むから」
同時期の兄弟がまだ巣立ってないということは、やはりこの子もまだ世話が必要ということ。
「やっぱり助けようぜ?だって俺たち、これから……なあ?」
「そうっすね。巣に帰してやりたいです」
「オレも賛成です」
男子3人が皆に訴えます。
ところで、亮平さんの言いかけた「これから」って何でしょう?
(そういえば女子はこれから魚捕りだけど、男子は別の班で何をするのかしら?)

「でも、どうやってあんな高い所まで?」
「う〜ん、さっきの脚立を使っても届きませんわね」
わたくし達はあれこれ考えましたが、良い方法が浮かびません。

「仕方ありませんよ。これも自然の厳しさですから」
後ろからあきらめを促したのは、あまねちゃんのお母さんでした。
「事故で落ちたのなら、もしかして親鳥がまだこの子を見守っているかもしれません。私達にできるのは、それを願うことくらいです」
「……そうですね」
現実的な意見に、椎原先生も頷くしかありませんでした。

小さな生命を見殺しにするようで心が痛みましたが、わたくしたちはヒナを残し、その場を離れました。

ところがしばらく歩いた後、
「!?」
いきなり不意を突いたように1人が逆走を始めました!
上り坂なのになんて足の速さ。背中がどんどん遠ざかっていきます。
「いつき!」
お母さんは急いで後を追いかけます。わたくし達も全員道を引き返しました。



例の場所に戻ると、すでにいつきちゃんはあの重い脚立を軽々と設置し、昇り始めるところでした。もちろん片手にあのヒナを乗せたまま。
(やっぱり!1人で巣に帰すつもりですわ)
しかしなんという早業。気が小さいようで、いざ本気を出すと信じられない身体能力を発揮しますわね。

「いつきー!あぶないよっ!降りておいでっ!」
お母さんの呼びかけにも、いつきちゃんは従いません。
途中まで昇った今となっては力ずくで降ろすのも危険です。

「おかあちゃん、だいじょうぶやぁ……一番背ぇ高い、あたしなら、届くぅ……」
上空から届いた返事。そこに力強い意思は感じましたが、声は上ずっていました。明らかに、今のいつきちゃんは興奮状態です。

(あかんわ!感情が高ぶっとる。力が加減できんと、ヒナを握り潰してしまうかも)
いいえ。そんなことはありませんでした。
「え……」
いつきちゃんの左手は、まるでお釈迦様の手のひらのよう。優しくヒナを乗せたまま安定しています。もう片方の手と両足は恐怖で震えているのに。

(あの子、力を加減できとる?)
小さな生命を守りたいという純粋な想い。それが少女を成長させたのでしょう。感情任せだった力をコントロールできています。
それに気付いたいつきちゃんのお母さんは、これ以上呼び止めるのをやめました。

「テツロー、シンタ、しっかり脚立押さえてろよ!」
「「はい!」」
「亮平くん、青梅さん、もしもの時は絶対に私達で受け止めるわよ!」
こんな状況にあっても、竹上さんたち中学生組は冷静に対応していました。

「ど、どうしよぅ……わたしが、巣の場所……教えちゃったから」
「さやちゃんは悪くないですわ!」
わたくしはさやちゃんの細い手を握って励まします。
「……ルミさん?」
「巣箱作りのとき、さやちゃんは友達のやさしさを信じたじゃありませんの。
今度は友達の強さを信じましょう。いつきちゃんなら、きっと大丈夫ですわ!」
そんな台詞が思わず出たことに、自分自身驚きでした。

しかしここで問題発生です。
(!……枝がジャマになっとる)
いつきちゃんの大きな体を阻むように、枝が横切っていました。手でどければ通過できそうですが
(どけるには右手使わんと……けど、そしたら両手を脚立から離してまう)
あの高さに足だけで立つなんて、考えるだけで恐ろしいでしょう。

「もういいよー!降りて来ていつきちゃん。ヒナが落っこちたのも自然の出来事だよ?誰も悪くないんだよー」
地上からあまねちゃんが呼びかけますが、

「そんなん言うたら、人間だって自然やもん……あたしが鳥さん助けたい思うんは、自然なコトやもん!」
いつきちゃんはあきらめません。そして何と、思い切った行動に出ました!

「「「ああっ!?」」」

いつきちゃんはグンと胸を張り、豊かに盛り上がった自らのバストにそっとヒナを乗せたのです。
(あれは!……2016年ごろSNSで流行した)
いわゆる「たわわチャレンジ」の姿勢!
胸の上にスマホを置くというセクシーパフォーマンス。あれと同じですわ!

恥ずかしがるように猫背だったいつきちゃんが今、堂々と胸を張っています。
大きなバストも自分の一部。それを受け入れたからこそ道が拓けたのです!
木漏れ日差す林で、下から見上げるその姿に、わたくしは神聖さすら感じました。
よろしくて?
おっぱいには違いないですが、今度は少しもいやらしくありませんからね。
わたくし以外の皆も、あの美しさにはただ息を呑んでましたもの。
これがエッチに見えるお方は心が汚れていますわよ?反省してくださいまし!

とにかく、左手がフリーになりました。いつきちゃんは枝を払いのけ、ついに脚立の最上段まで昇り詰めます。

そして最後に、左手に戻したヒナをせいいっぱい高く掲げました。
「さあ……おうちへお帰りぃ」
巣穴まではまだ1mほど高低差が残っています。
(あの距離を飛べるかどうかは、ヒナの体力に賭けるしかありませんわ……)

その時です。
巣穴の中から1羽のツバメが顔を覗かせました。どうやら親鳥のようです。
それを見たヒナは小さく「ジィー」と鳴くと、いつきちゃんの手から飛び立ちました。

そして未熟な翼を懸命に羽ばたかせ、羽ばたかせ……ついに巣穴に帰還したのです!

「「「「やったぁーーー!」」」」
見上げていたわたくし達も喜びの声を上げました。皆の心が一つになった瞬間でした。
ああ、なんて素晴らしいことでしょう!
いつきちゃんの聴覚、そしてさやちゃんの身長と身体能力(とバスト)。最年少の2人がそれぞれ長所を活かし、小さな命を救ったのです。

つづく