千々山村自然教室

唐鞠 作
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「おいし〜ぃい!!!」
舌の上でとろけたあまりの美味に、思わず声を上げてしまいました。

絶妙な硬さに焼き上げたビスケットと、なめらかな舌触りのアイスクリーム。
相性抜群のそれらは噛むたびに調和し、新たな食感となってハーモニーを奏でます。
黒砂糖きなこの素朴な甘み、豆乳のまろやかなコク、上品なバニラの香り。
そして隠し味はお醤油ですわね!ビスケットに練りこまれた塩気がアイスの甘みを引き立てています。
市販のバニラアイスのように甘すぎない。少し淡白な位が程好く、2個3個と続けて欲しくなってしまいそう!
極上の美味にアイスの冷たさも相まって、午前中の疲れがじんわり癒されていきます。それはまさに天上の幸福感……

あっ、失礼。いきなり何の食レポかと思われたでしょう。

経緯を説明いたしますわ。
ツバメのヒナを助けた後、校舎に戻ると、そこにはもう一つの班が仁科さんと一緒に戻って来ていました。
午前中は川原で梁漁の準備をしていた地元の小中学生。男子3人、女子2人です。

時刻はまもなく正午。参加者全員がそろったところで、一旦校舎内でおやつ休憩をとることにしました。(椎原先生と保護者のお母様方は、席を外しています)
そこで皆に振る舞われたのがこちら、『おからビスケットのきなこアイスサンド』です。

「本当に美味しい!すごいなあ、こんなの作れるなんて」
「あたし、こんなあまいはじめてやわぁ」
「めっちゃうめえ……うますぎてなんかナツ、涙出てきたよぉ」
「おからがこんなスイーツになるなんて驚きです。東京にお店出せるんじゃないですか?」
「ええホントに!高級スイーツとか目じゃないですわよ。この奥深い味わい、唯一無二のものですわ!」
わたくし達は口々に惜しみない賛辞を送ります。

「よかったあ!都会の人のお口に合うか心配だったの」

満面の笑みで喜んだのは、製作者の小瀧めいかさん。
合掌した手と首をちょっとななめに傾けるのが、彼女の喜びのポーズでした。
2つに結ったお団子の髪型といい、チャイナ服が似合いそうなイメージです。
わたくしより先輩の中学2年ですが、見た目はすごく幼くて愛嬌があります。身長もあまねちゃんよりもう少し低いくらい。
その反面、大きな胸は一層アンバランスに強調されていました。弾力に富んだ半球状のおっぱいがワンピースの襟元から谷間をのぞかせています。
プリプリモチモチした質感に健康的な肌ツヤ。思わずガッとわしづかみ、お菓子の生地のようにこね回したくなる美乳です。
目測で90cm台前半のHカップ。しかし、小柄な体格と対比して見ればI〜J相当の迫力はあるでしょう。
(竹上さんほどではないにせよ、中2としては十分驚くべきサイズですわね)

「ほら〜、やっぱ気に入ってくれた。アタシが言った通りじゃないっスか〜」
「うん。けどそんなに褒められると照れちゃうなぁ」
「自信もってくださいよ、めいかセンパイ!」

はにかむ小瀧さんを元気づけるのは、小6の桑畑チホちゃん。
男子並みに日焼けしていて活発な印象。身長も小学生にしては高く、あと数cmでわたくしに並ぶほどです。スラリと伸びた四肢も程よくひきしまっていていました。

「アタシ思ったんスけど、コレ、この前の『笹パウダー入り豆腐ジェラート』はさんでもイケるんじゃないスかね?」
えっ?何それ、おいしそう!

「う〜ん、でもあれは単品で完結してるから。今回のはあくまで、黒砂糖きなこの味にマッチするビスケットなの。やるならそっちも変えなきゃ」
小瀧さんは製作者としてのこだわりを見せます。お菓子のことで話し合う2人は、とても真剣です。

「ところであまねちゃん、さっきのマジ?これマジで東京でも流行るレベル?」
「私もそんなに流行に詳しいワケじゃ……でも大豆ってヘルシーだし、女子にはきっと人気出ると思います」
「そうね。決して大げさじゃないわよ。千々山ブランドを若者層に向けて拡大できるかも。地域振興課に銘菓としてアピールしてもらおうかしら」
「に、仁科さんまで」

小瀧さんはお豆腐屋さんの看板娘。
もともと豆腐や湯葉、油揚げなどの大豆加工品は村の特産物として知られ、小瀧豆腐店も料亭に卸されるほどの老舗だとか。
だけど今、小瀧さんが目指しているのはパティシエール(菓子職人)。
大豆製品を使ったスイーツを新たな目玉商品に掲げ、県外からお客を呼び込むのが目標なんですって。
(小さな身体になんて大望を抱いているのでしょう。尊敬しちゃいますわね)

家がご近所のチホちゃんは、その味見係としてよく新商品開発につきあっているそうです。
あと、イラスト(かなり個性的!)が得意なのでパッケージデザインも考えてくれるとか。

そんな2人にとって、都会っ子・あまねちゃんからの評価は「お墨付き」に聞こえたようです。
「ねっ、聞きましたぁ?めいかセンパイのスイーツ、県外進出狙えますって!」
「う……うん♪」
「渋谷にお店出したらアタシも雇ってくださいね〜」
「いつの間に渋谷になってんだよ。チホが行きてーだけじゃん」
「あっは☆ヨースケ、今更それ言う〜?」

どうやらチホちゃん、東京への憧れが強いミーハー小学生のようです。
そういえば髪留めのハデなアクセサリーといい、高いテンションといい、ギャルっぽい雰囲気ですわね。
しかしまあ、華やかな都会生活を夢見るのは田舎の女子にありがちなこと。

ただしチホちゃんは女子小学生として「ありがち」どころか、むしろ「激レア」と言えるでしょう。
理由はもちろん、そのカラダ。

(ああっ!この村に着いてから薄々覚悟はしていましたが、ついに!)

甘味に癒されたのも束の間。このショックは隠しきれませんわね。
桑畑チホちゃん。彼女こそ、わたくしにとって最大の脅威……すなわち、『日本一バストの大きい小学生』になり得る存在なのですわ!

「なり得る」と曖昧に表現したのは理由があります。正確なサイズが判らないからです。

チホちゃんは今、スクール水着の上に、だぶっと大きな半袖体操着を着ています。
なぜかオーバーサイズなこの体操着、胸部で盛大に押し上げられた結果、裾の位置がちょうどふとももの付け根に来ています。
つまり、立った姿勢だと下に何も「はいてない」ように見えてしまう“股下0cmスカート”状態!
見せてもいいところをギリギリ見せないことによる瀬戸際のエロスが、意図せず生じているのです。

と、下半身のことはともかく。
要は水着の「張りつめ具合」がよく観察できないからサイズも未知なのです。
ぎゅうぎゅうに押し込んであの膨らみなら余裕のGカップ越えで、わたくしの負け。
おそらく9割方、それが非情な現実でしょう。
しかし、通常スク水は乳頭が浮くのを防ぐためにパッドを差し込むもの。
その厚みによってはタイトル防衛の可能性も……ともすればギリッギリでワンチャン無きにしもあらず、ですわ。

(そうよ!観測されない事実はあくまで未確定。量子力学的に言えばどちらの可能性もあり得る、シュレーディンガーのおっぱいですわ。よってノーカン!不成立っ!)

だって常識的に考えてくださいまし?
同学年とはいえ、今日知り合ったばかりのレディに「バストおいくつですか?」なんて訊けるわけが

「ところで桑畑さん、小学生なのにすっごいムネですね。何カップあるんですか?」

ナッちゃあああああんんん!!!

「あーコレ?Iカップがそろそろキツいかな〜。ここ半年で一気にデカくなってさー、水着のパッドも外してぎっしり詰め込んでんだ。アハハ☆」

「ぐはあ!!!」
「え?ちょっ!大丈夫っすかルミさん!」
「……え……ええ……あまりの美味しさに衝撃を受けまして」
(もう食べ終わってるのに?)
ごめんさない進太くん、ウソです。

いやああああああああッ!
記録更新ッ! 敗北確定ッ! 栄冠剥奪ッ! 名誉喪失ッ!
崩壊する自尊心のガレキを浴びながら、心の叫びは止まりません。
転校するたび全国各地を渡り歩いてきたわたくしですが、
(広かった……日本はまだまだ広かった!)

ていうかナッちゃん!男子のいる所でバストサイズ聞くかフツー!?
男子も男子でどこまで無反応なんですの!?草食系なのもいい加減にしやがれ!ですわ。

ハッ!いけません。
取り乱すなんて見苦しいですわよ越出馬ルミ。
お嬢様らしく潔く、甘んじて敗北を受け止めなさい。

チホちゃんの発育が「半年で一気に」ということは、その間にきっと、わたくしが日本一だった期間もあったでしょう。少なくとも3日くらいは。それで十分満足ですわ。明智光秀だって天下人の一人ですもの。
それに2位でも良いじゃありませんか。スパコンの開発競争じゃあるまいし。銀メダリストの誇りを胸に、これまでどおり自信をもって生きてゆけば良いのです。
勝ち負けにこだわっていたわたくしが愚かでした。しょせんこの世の栄華など、儚く移ろいやすいもの……
「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす……ですわ」

「おいリョーヘー、あのお嬢様、何お経唱えてんだ?」
「さ、さあ?」
ハッ!動揺のあまり声に出してしまったみたいですわ。お恥ずかしい。

「お経じゃなくて平家物語ですよ。岳先輩」
「おー、さすがマサト。よく知ってんな」
「中2になると国語でやるわよ」

岳さんの疑問に答えたのは、真慧くんと竹上さん。
先輩に「さすが」と言わしめた小6の真慧くんは、坊主頭に黒縁メガネの、いかにも勉強ができそうな風貌です。

一方、中1の岳さんはがっしりとした体格で、見るからに豪快そうな男子。
背も170cm近くあり、この中ではいつきちゃんの次に高いです。
一言でいえばジャイアンですわね。名前もタケシですし。
1年前は小学校の男子を統べるガキ大将的なポジションだったのかしら?

あと一人の男子は、さっき渋谷のくだりでチホちゃんにツッコミを入れた、小6の陽介くん。
ジャ〇ーズJr.にいそうな感じのイケメン小学生で、美少年オーラを放っています。

3人とも川原から戻って来たばかりでしたから、水泳パンツに半袖体操着だけの服装でした。岳さんに至っては上半身裸です。

ああ、そんなことより今の妄言を言い訳しなくては!えーと……

「と、突然失礼しました。アイスのあまりの美味しさに、わたくしの脳が瞑想……というか悟りの境地へ導かれまして」
とっさにこんなのしか思いつきませんでした。(何でもかんでも小瀧スイーツのせいにしてごめんなさい!)

「そ、そこまで言われるなんて……」
「マジで?ヤベーよ、めいかセンパイのスイーツ」

あっ、引き気味だけど一応信じてくれるんですのね。素直!

「そうだ。お経と言やぁマサト、念仏は練習して来たか?」
「はい。一応」
「え?念仏?そういえば男子は午後から別の班だけど、何するの?」
「あれ、聞いてなかった?」
あまねちゃんの問いに答えたのは陽介くん。
「バーベキューで食べるトリを絞めるんだよ」
「「!!!」」

あー、なるほど。それでわかりました。
さっき、亮平さんたち男子がヒナを助けようとした理由。命を奪う前に、せめて一つの命を救っておきたかったんですのね。

けれどナッちゃんといつきちゃんには、その答えが衝撃だったようです。
「し、しめる、って……」
「いわゆる屠殺ね。この村は地鶏の飼育が盛んだから。自宅で鶏を絞めるのは結構誰でもできるわよ」
竹上さんが解説します。
「だからよ、いただく命に感謝っつーことで、殺す前に念仏を上げるんだ。コイツ寺の息子だからな」
岳さんはそう言って、真慧くんの坊主頭にぺしっと手を乗せました。

「う、うん……そっか。自然教室だもんね。『命の大切さを学ぼう』ってヤツだよね。コレ」
意外にもナッちゃんは自分で納得できたようです。

「……でもなんか、鳥さんかわいそうやぁ」
一方、やはり釈然としないいつきちゃん。

そこに問いを投げたのは、さやちゃんでした。
「おさかなは?」
「え?」
「わたしたちもこれから……お魚をつかまえて、食べる……それだって、おんなじ命」
「あ!」
「うん。さやちゃんの言う通りだね」
あまねちゃんがそれに続けます。
「ねえいつきちゃん、さっきも言ったけど弱肉強食は自然のルールだよ。人間だって他の命を奪わずには生きられない。だから犠牲になった命に感謝して、自分の命を大切にする責任があると思うの」

優等生のあまねちゃんらしい模範解答。それでいつきちゃんも十分理解したようでした。
わたくし達が食べているものは、全て他からいただいた命。その事実から目をそむけることの方がよっぽど残酷であることを。
実体験を通して奪った命のありがたみを知ること。きっとそれが自然教室の目的なのでしょう。

「しかし容赦ないですわね。お寺の息子にまで殺生をさせるなんて」
「ああ、そこはお気遣いなく」
真慧くんは平然としています。
「僕、寺を継ぐつもりないですから」
「そうなの?」
「信仰で救えるものなんて、たかが知れてますよ」
そう言い放って眼鏡をかけ直す真慧くんは、すごく大人びていました。

「マサトは医者目指してるんだぜ。千々山を無医村にはさせない、ってな」
「ええ。だからこの経験も解剖実習として、食べる以上に役立てるつもりです」
「よっ!頼もしいな。おめーならなれるさ。中1のオレよりよっぽど頭いいもんな?ガハハハ!」
岳さん、今度はバン!と真慧くんの背中を叩いて励ましました。

「…………」
あら?青梅さん、どうしたんでしょう?浮かない表情ですわね。
そういえば、さっき小瀧さんとチホちゃんが将来の夢を話しているときも、こんな感じだったかしら?

(あれっ!?)

人数の変化に気付いたのは、その時でした。
いつの間にか現れた“彼女”は、一言も発さず村の子達の背後に立っていたのです。

「きゃあ「うわあぁっ!!!?」」

わたくしの悲鳴が、同時に気付いたナッちゃんと重なりました。
驚いたのも無理はありません。だって“彼女”、一目でわかるほど異質だったのです。

背は小瀧さんくらいの小柄な女の子。だけど胸の膨らみはそれ以上。Iカップは確実でしょう。
それよりむしろ驚いたのは、服装。
丸く豊かな乳房がやんわり押し上げているのは、浴衣のような白い和服でした。さらに、

(あ、あの髪……銀色?)

白装束を着てくすくすと妖しい笑みを浮かべる、銀髪の美少女。
あんなに幼い見た目なのに、百年以上生きているかのような老練な雰囲気……いっそ「妖気」と呼ぶべきでしょうか?
ただならぬ風格に、わたくしもナッちゃんも気圧されていました。

「そ……その子、だれ?」
おそるおそるナッちゃんが尋ねます。

「え、誰って?」
「誰もいないけど?」
「オレら全員、ここにそろってるぜ?」
徹郎くんも陽介くんも岳さんも、“彼女”の存在に気付きません。

「あれ〜?」
うろたえるわたくし達をよそに、クーラーボックスをのぞいた小瀧さんが首をかしげました。
「どしたんスか〜?めいかセンパイ」
「アイスが1個足りないんだけど。誰か2個食べた?」

「小瀧さん、うしろ!うしろ!」
「へ?」
「アイスならその子が今、食べてるじゃありませんの!」
小瀧さんは背後をふり返りますが、
「え〜?誰もいないよ?」
とぼけているようには見えません。
他の子達も仁科さんも、不思議そうにわたくし達を見ていました。

「青梅さん……見えてます?」
小声で問いかけるあまねちゃんに、こくこくと頷く青梅さん。
恐怖にぶるぶる震えてるいつきちゃんも、たぶん見えているのでしょう。(おっぱいの震えも相当ですわね)

どうやら“彼女”、村の住人にだけ見えていないようです。
こ、これって心霊的なモノなのかしら!?(でも幽霊はアイス食べませんわよね?)

「なあ……もしかして、アレじゃね?」
「ま!?まさか〜」
亮平さんに進太くん、何か心当たりがあるんでしょうか?

「ねえ、私たちの後ろに何かいるの?どんな姿してるの!?」
「ま……真っ白い和服に真っ白い髪の、小さな女の子ですわ!」
わたくしの説明を聞いた竹上さんはハッとして、ついにその名を口にしました。
「シロガラスさま?」

村の子達も、ここではじめてざわめき出します。
「マジでっ!?」
「ウソだろ……?」
「迷信ですよ!非科学的な」
「おいマサト、一応おめーの寺で祭ってる妖怪なのにそれ言うかよ?」

「よ、妖怪っ!?」
いよいよ出てしまった決定的ワード。
「何ですか!?シロガラスって!」
たまらず、あまねちゃんが尋ねます。

「その名の通り、白いカラスの妖怪よ。白ずくめの若い女の姿で人里に現れるんだって」
「白烏様の鳴き声を聞いた子どもは、山にさらわれるというわ。そのせいで一度、千々山村は滅びかけたという伝説が残ってるの」
竹上さんと仁科さんが解説してくれました。

その間にもアイスを食べ終えた“白烏様”は、チホちゃんの背後に回ります。
そして小さな手のひらを広げたかと思うと……

ぷにゅん!

おもむろに、チホちゃんのバストをわしづかみにしたのです!

つづく