千々山村自然教室

唐鞠 作
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海から遡上したアユが、イワナと一緒に源流域を泳ぐ光景は、全国的にもたいへん希少です。
それだけ魚の移動を妨げる人工物が少ないことを意味します。
豊かな自然環境を大切にしていきましょう。
 ―河川事務所観光パネル『まもろう!わたしたちの川』より―

「つめた〜い」

この川原は湧水地からほど近い場所。清らかな水の流れに、わたくしはそっと足をつけました。
最初は意外なほど冷たく感じます。でも、しばらくすると慣れてきて、自分が川と一体化したような不思議な安心感を覚えました。
清流には、日本人の心を和ませる効果があるのでしょう。せせらぎの音は耳に心地良く、万緑が降らす木漏れ日は水面に煌めいています。
体験したことのないリラクゼーション。澄んだ空気を一呼吸するたびに、心身が浄化されていくようです。

「きもちいい音……わたし、この場所好き……」

目を閉じ、そっと耳を澄ませるさやちゃん。自然が奏でる癒やしのリズム“f分の1ゆらぎ”に、うっとりとした表情を浮かべます。
ライトグリーンの水着に包んだ、若枝のように華奢な身体。しかしその胸だけは“生”の熱を呼び起こす魅惑の丸みを帯びていました。
木漏れ日の下、水辺でたたずむ彼女はなんて幻想的なのでしょう……まるで森の妖精を描いた一枚絵のようですわ。

「うわあ本当にすてき! 水もこんなにキレイで、きもちい〜い!」

窮屈なブラからIカップを開放したあまねちゃんも、無邪気にはしゃいでいます。東京から来た彼女には感動もひとしおでしょうか。
眼鏡を外した顔からは優等生の印象も消え、小学生らしい天真爛漫な明るさを放っていました。バステルパープルのビキニに包まれた小6おっぱいも、元気よく揺れる揺れる!

(うんうん……わたくしの貸したビキニ似合ってますわよ、あまねちゃん。2カップも大きなあなたに着てもらえて、むしろ得した思いですわ)

「素晴らしい眺めよね〜。これぞ日本の原風景。観光課としてアピールしていかなくっちゃ!」

美しい景観に、仕事へのモチベーションを高める仁科さん。
反らした胸に悠々とそびえるRカップのバスト。両側から当てた手が触れそうなほど細いウエスト、黒いビキニパンツの下で弾力を主張するヒップに、すらりと伸びた長い脚……
(全てが一体となったパーフェクトスタイル! 改めて、とんでもないカラダですわね♥)

さて、そんな仁科さんが梁漁とはどんなものかを説明してくれます。

「見て。ああやって川をV字にせき止めて、流れを集めるでしょ? その急流に誘導されたお魚が、竹簀(たけす)に打ち上げられるの。みんなはそれを拾い集めてね」
V字の中央に組まれた足場で、斜めに置かれたすのこ台。あの装置を梁(やな)と呼びます。

「8月末のこの時期にかかるのは、産卵のため海を目指すアユ(落ち鮎)がメインよ」
まあ! 街ではかなりお値段の張る、高級魚じゃないですの。

「水の勢いを利用した漁法だから、本当はもう少し下流の、水量の多いところに設置するの。こんな小型でなく、もっと大規模なやつをね」
一般的な梁は、大人が何人も乗れるくらい大きいんだとか。

「乗るのは一度に3人までよ。まあ、みんなは子どもだから4〜5人くらい大丈夫だと思うけど、念のためね」

「え〜、わたし心配だな」
「あたし重いんよ……大丈夫やろか」
体重制限を聞き、それぞれ恵まれたボディを気にするふたり。
まっ先に手を当てたのは、青梅さんがお腹、いつきちゃんがお尻でした。
(ははん、そこが気になる部位ですのね)

そんなふたりに
「安心して。頑丈に作ってあるから」
と、竹上さんが声をかけます。

「拾うだけ? だったらラクショーじゃーん」
「そうでもない……元気のいいおさかな、ピチピチはねるから……からだもツルツルして、つかむのむずかしい」
初挑戦のくせしてナメてかかるナッちゃんに、さやちゃんが忠告します。

「順番待ちの間は、ワシとチホが渓流釣りを教えるぞ」
「テンカラでイワナ狙おうぜー。でも小っちゃいヤツは基本リリースな」
毛鉤だけのシンプルな釣り竿を手に、頼もしい笑顔を見せるかえでちゃんとチホちゃん。さすがは山育ち、サバイバル能力に長けていそうです。



まずはわたくし、青梅さん、ナッちゃんの3人で竹簀に乗りました。
小規模の梁とはいえ、集められた水流はザバザバと波打ち、向き合うとなかなかの迫力です。

「かかってこいやーっ☆」
「な、ナッちゃん、自分から流れにつっこまなくても」
ハイテンションなナッちゃんに対し、青梅さんはやや腰が引けている様子。まあ案の定ですわね。

(さぁて、お魚さんたち、覚悟あそばせ♥ 粘液で潤わせたイキのいい肉体を、わたくしの繊細な指先でつかみ取りしてさしあげますわよ!)

しかし、いざやってみると分かりました。
先ほどさやちゃんは語りませんでしたが、わたくし達には “共通のハンデ”があったことを。

(み、見づらい!)
そうです。わたくし達はいずれも豊かなバストの持ち主。
見下ろす時の視野は、かなり遮られてしまいます。「気をつけ」の姿勢ではつま先が隠れてしまうほど。
ですから、跳ねたお魚がちょっと足元に逃げ込むと、すぐに見失うのです。

91cmGカップのわたくしでさえ苦戦している有様。
青梅さんなんて推定110cm強、Lカップですから、いまだ一匹も捕れないのも無理はありません。
水しぶきの中でアクティブに動き回るナッちゃんは、1〜2匹つかまえたようですが。

(でも……楽しい! わたくし今すっごく、山の自然を楽しんでますわっ☆)


〜〜〜〜〜〜〜〜


鋭く切り立った大岩が、小高い丘の頂上にそびえている。
その丘の登り口に、小さな寺院が建っていた。のどかな村にふさわしい素朴な木造建築だ。
年代を感じさせる石瓦の山門には、『栗辺寺』と彫られた扁額(寺の表札)が掲げられている。
それを見上げ、ボクは違和感を抱いた。……そう、疑問と言うより違和感だ。

「あずさくん、これは何て読むのかな? 『くりべでら』で合ってるかい?」
「はい。みんな普段はそう呼んでますよ」
「普段は?」
「正式には『りっぺんじ』らしいです。でも、栗辺さん一家が住職をなさってるので『くりべでら』の方が慣れてますね」

「くりべでら……くりべ、じ……“cleavage”? あはっ、面白い。こんな偶然あるのか」
気付いて、思わずボクは吹き出してしまう。

「何ですかクリベージって? 英語みたいでしたけど」
「いや、気にしないで。教科書にはまず載らない単語だから」
「えー? 気になります! 教えてくださいよぉセイルさん。私、英語は勉強熱心なんですから」

脇を閉めこぶしを握ったポーズで、ぴょんぴょんと小さく跳ねて催促するあずさくん。
発育途上の若々しいおっぱいがTシャツの下でぷるぷる揺れていた。

「仕方ないなあ。あまり上品な意味じゃないけど、クリベージはね……」
ボクは苦笑しながら人差し指を立て、あずさくんの胸元にすーっと近づける。

そして触れるギリギリの距離でツンッと寸止めし、答えた。
「『胸の谷間』って意味さ」

「へぇー」
あずさくんは特に赤面するでもなく、ただきょとんとしている。

それを見て確信した。
(やはりこの村では、女性の胸は性的な対象ではないのか!)
真面目なあずさくんが少しも恥じらわないのだから、間違いない。これは土地特有の文化なのだ。非常に興味深い。

ところで、郷土資料館を目指していたボクらが、なぜこのお寺を訪れているかと言うと……

資料館は訪れる観光客が少ないため、村はスタッフを雇う余裕がないらしい。
そこで、隣に建つ栗辺寺の住職さんが管理人を引き受けている。
だから入館者はこのお寺に小銭程度のお布施をするのが、いつの間にか習慣になったそうだ。

「うん、合理的じゃないかな? 歴史なんて本来、行政が手を貸してまで守るものじゃないさ」
「えー? 歴史って、みんなにとって大切なものじゃないんですか?」

「それは観光とかの、産業に活かせる場合だね。
 打算的なことを言うけど、たとえば京都の歴史を保護する目的は経済効果をもたらすからさ。それ以上の価値が通じるのは愛好家の間だけ。
 科学と違って、歴史はしょせん道楽の学問だと、ボクはわきまえている。
 『みんな』から集めた税金を費やすなんて恐れ多いよ。そんな余裕があるなら福祉に回すべきだろう?
 行政は過去じゃなく、未来のために在るべきさ。歴史はボクら愛好家の手で守っていくんだよ」

「難しいお話ですね。小学生の私にはよくわからないです」
そうは見えないんだよなあ。その胸じゃ。

堅い話題はそこまでにして、お寺に上がらせてもらう。神社と違い、賽銭箱は本堂の中にあるようだ。

「あずさくん、案内してくれたお礼にここはボクが」
ボクは百円玉を差し出すが、
「いいえ、自分で出します。お金に汚いと針山に落ちちゃいますからね」
「そ、そうかい?」
きっぱり断られてしまった。

写真集を断ったチホくんといい、ここの子どもはしっかりしてるなあ。
おごりおごられが当然の文化に育ったシンガポール人のボクは、カルチャーショックを受ける。

本堂に安置された全高約80cmの観音像。
(あれ? 後光がギザギザに折れ曲がってる。まるで雷みたいだな)
その手前に置かれた大釜にお賽銭を入れ、合掌して一礼する。

(探究心から、この村の歴史を調査させていただきます。どうぞお許しください……)
静謐な数秒間にボクはそう祈った。

お参りを済ませた後、あずさくんに訊いてみる。
「ここのお賽銭箱は釜なんだね。なんだか無用心じゃないかな?」

しかし、答えが返ってきたのは背後から。
「そちらの釜は、人々が助け合い、慈悲の徳を積むためのもの。本当に困っている人なら、中身を持ち帰っても構わないのですよ」
「!?」

振り返ると、敷居の向こうから女性が歩み寄っていた。
黒いワンピースを着た、とても背の高い女性だ。身長は180cm以上あるんじゃないだろうか。
大きいのは背丈だけじゃない。その胸もまた、ボクが17年間で出会ってきたどの女性よりも大きかった。

グラマーサイズブラのユーザーが集うコミュニティが、ネット上に存在する。
そこで知り合った仲間の中でも、ロシア人のアンナさん(24歳、128cmTカップ)が最大で、彼女を超える人物に会うことなんて、この先ないだろうと思っていた。
※(2年後、アンナ・スルツカヤはボニータの下着モデルとして千々山村に招待されることになる)

が、目の前の婦人はアンナさんをはるかに上回っているじゃないか!
大玉スイカ? いや、まだまだ足りない。本当に形容しがたい巨大さだ。
体格全体が大きいからアンダーも80cm以上ありそうだけど、それにしたってスタイルはかなり良い。
見ているだけでもムッチリと成熟した質感が伝わり……それでいて重力に屈せず、美しい丸みを保っている。仮にノーブラでもへそをギリギリ隠さない程度の垂れ具合だろう。

「こんにちは。ようこそ栗辺寺へ」

頭ひとつ分高い顔を見上げれば、驚くボクに向けて、細い目からやさしい眼差しを注いでいる。まるで一切の衆生を救わんとする菩薩のような、拈華微笑の表情だった。
年齢はおそらく30代だろうか。しかし肌つやは若々しく、20代のようにも見える。

「あさこさん、こんにちは」
「あら、あなたは真慧の同級生ね?」
「はい。6年生の山口あずさです」
あずさくんは優等生らしくハキハキと挨拶する。

「こちらは観光客のお姉さんです」
「はじめまして。シンガポールから来ました、セイルといいます」
「まぁ! それはそれは、海外からはるばるお越しいただきました。はじめまして。栗辺寺の梵妻(だいこく)、栗辺あさこと申します」
「だいこく……?」
「ああ、ごめんなさい。住職の妻をそう呼ぶのですよ。
 でも、『だいこくさん』じゃしっくりこないわよねぇ。だから遠慮なく『あさこさん』って呼んでくださいね。どうぞよろしく」

(そこは『栗辺さん』でいいのでは……)
神秘的なようでいて、ちょっとお茶目なところもあるんだな。ますます魅力を感じる。

「あさこさん、いつ見ても大きくて素敵なお胸ですね。おいくつになられましたか?」
(ええっ!?)
耳を疑う。敬語なのはあずさくんらしいけど、大人の女性にバストサイズを尋ねるなんて!

「150cmよ。そろそろ真慧の身長に追い抜かれそうね」

ひゃ、ひゃくごじゅう!? 四捨五入で2m!?(なぜ十の位でする)
しかも、小6の息子の身長と比べるなんて!

「ますますご立派になられましたね」
「まだ少しずつ膨らんでるの。下の息子もとっくに卒乳したのに、なんだか恥ずかしいわねぇ♥ Xカップも替え時かしら?」

えええエックス!? しかもその歳でまだ成長!?
あまりの衝撃にパニクりそうだけど、ひとまずあずさくんを注意しなくちゃ!

「ちょ、ちょっとあずさくん、大人の方にいきなり……失礼じゃないか」
「えっ? 大きい胸をほめるのはあいさつみたいなものでしょう? サイズも、自慢にならないように訊いてあげるのが礼儀かな、と」

ああそうか……これこそが千々山村の常識格差!
凄いのは、品行方正なあずさくんがこのセリフをいかにも「当然」って顔で言い放ってることだ。
チホくんもボクのサイズを尋ねてきたけど、あれは全く特別な事ではなかったのか!

「うふふ。セイルさんも旅の方なら、この村の習慣には驚かれたでしょうか?」
一方、訳知り顔で上品に笑うあさこさん。さすが大人の余裕だ。
「郷に入っては何とやらと言いますし、どうぞお許しくださいね」
そのままゆったりとした所作でお辞儀をする。

胸元から覗いた谷間はどこまでも深く深く……人間の頭を「はさむ」どころか、完全にズブリと「のみ込む」ことも余裕だろう。
(クリベージどころじゃない! あれはもうクレバスだぞ!)
しかも一瞬、あの深淵から希望の光が漏れ出しているように錯覚してしまった。
(こ、神々しい……)

歴史を研究する関係上、特定の宗教を深く信仰しないようにしている。そんな無宗教のボクがだよ? この時ばかりは無意識に手のひらを合わせ、拝んでしまったんだ!
RPG的な表現だけど、あれこそ「聖属性」のおっぱいだ!

「話は戻りますが……こちらの釜にはいわれがありまして。明治時代、この村は隣村の村長一族と仲互いをしていた時期があったのですが、その仲直りの食事会で使われた物なのです」
「なるほど、良いお話ですね。友愛の精神を今も受け継いでいるのですか」
「でもあさこさん、実際にお賽銭を持って行く人なんていませんよね? だって、そんな事したら針山に落っこちちゃいますもん」
「まあ」
冗談めかしたあずさくんの言葉に、あさこさんはウフフと笑う。

「あずさくん、さっきも言ってたけどその『針山』って何だい?」
「ああ、村の子どもはそう言ってしつけられるんですよ。『欲張り者には地獄針』って。私もひいおばあちゃんから聞きました」

「この地に残る伝説に由来しています。
 『昔、黄金を掘り当てようとした者たちが地割れにのみ込まれ、衆合地獄の針山へ落ちた』
 ……そんな、強欲を戒める説話として伝わっているのですよ」

ゆったりと諭すように解説してくれるあさこさん。あそこまで胸が巨大だと、合掌のポーズをするたびに乳房が寄せられ強調されてしまう。
しかもここで地割れの話が出てくるとは。
(あさこさんの胸の「地割れ」なら、地獄どころか天国へ続いているだろうなあ……“cleavage to heaven”なんてね)

冗談はさておき。
なるほど、強欲への戒めか。「足るを知る」のは仏教の教え。村人が素朴な生活を好むのも、そうした精神的基盤があるのかもしれない。

「あさこさ〜ん」
と、そこへもう一人。スマホを手にした女性がやって来た。
「……あら?」
彼女もボクらの存在に気付き、お互いに会釈をする。

年齢はあさこさんより少し上に見える。身長はボクと同じくらいで、体型はややふくよか。バストは110cmのKカップくらいかな? 村人にしては控えめな大きさだろう。

ところが名乗り合ってみると、双方意外なことにボクと彼女は観光客同士だった。

「いやあ、てっきりこの村の方かと」
「アッハッハ。それを言うならアタシもよ〜。セイルちゃんの方がアタシの倍くらい大っきなムネしてるじゃない!」
忘れてた。この村にいると意識しないけど、Qカップのボクも世間じゃ相当大きい部類だった。

「アタシなんてただの中年太りよ。スリムなセイルちゃんがうらやましいわぁ♥」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
スタイルのことを言われると照れてしまうが、胸以外が華奢なのは本当かな。116・54・80は自分でもアンバランスだと思うけど。

「でも顔つきは中性的っていうか、凛々しいわねぇ。イケメン系女子ってやつね!」
ボクの容姿を褒めるだけ褒め、彼女は豪快に笑う。
「青梅さん、良い写真は撮れましたか?」
「ええおかげさまで。ありがとうね、あさこさん」

こちらの女性は青梅アイコさん。ボクらよりちょっと前に栗辺寺を訪れたらしい。
その後、裏の丘にそびえる大岩をスマホで撮るため、あさこさんに撮影スポットまで案内されていたそうだ。
かなり気さくな人柄で、「あさこさんと同じく、アタシも名前で呼んでね♥」と自己紹介してくれた。

「ほら見て。夏空を突くようにそびえ立つ大岩。一句浮かんできそうな良い景色でしょ?」
アイコさんはスマホの画面をボクらにも見せてくれた。確かに、雄大な大岩とすがすがしい青空が対比された、美しい写真だ。

「でもこれ、クラウドに保存できなかったのよ。急に電波が通じなくなっちゃって」
「ああ、代木山に近づきすぎたのかもしれませんね」
思い出したようにあさこさんが言う。

「しろぎやま?」
「あの岩の名前です。低学年の子は『とんがり岩』なんて呼んでますけど」
答えてくれたのはあずさくん。たぶん村人にはよく知られた名前なのだろう。

「この村は山奥の割に電波がよく届きます。が、代木山の近くだけは通じないのですよ」
「しかし『山』とは大層な名ですね。確かに巨大な岩ですが……」
「一応あそこは霊場とされていますからね。先人が畏敬を込めてそう呼んだのでしょう」
霊場。俗な言い方をすれば“パワースポット”ってやつか。

「代木山はこの寺とも関わりが深いのです。ご覧ください。あちらにおわします観音様の像。後光がギザギザで、まるで稲妻のようでしょう?」
ああ、それはさっき気になっていた。

「あっ、『いかづち観音』様のお話ですね? 私、知ってます!」
そこへ、あずさくんが元気よく手を挙げる。
「郷土の昔話を調べるのが、私の自由研究なんです」
「まあ嬉しいわ。それならあずさちゃん、おふたりに説明してもらえるかしら?」

「はいっ。
 ……昔から林業が盛んなこの村で、木こりが恐れていたのは雷でした。 
 落雷すると木は丸こげですし、まともに感電したら命だって危険です。
 そこへある時、観音様が現れ、こうおっしゃいました。
 『わたしが丘の上の岩に宿り、雷を引き寄せてあげましょう』
 それ以来、雷は必ず大岩に落ちるようになり、木こりは安心して働けるようになりました。
 観音様が宿る大岩は、『木』の身『代』わりという意味を込め、『代木山』という名が付きました。
 めでたし。めでたし」
 
「「おお〜」」
ちょっとはにかんで語り終えたあずさくんに、ボクとアイコさんは拍手を贈る。

けど、内心では冷静にツッコミを入れていた。
(“磁場”だよな……これ)
不思議でも何でもない。磁力が雷を引き寄せていたんだ。電波障害もそれを証明してるじゃないか。パワースポットの正体見破ったり。

「あずさちゃんありがとう。お礼に宿題に協力してあげるわ。
 お寺に伝わる言い伝えでね、『代木山に雷が落ち続ける限り、梵鐘は不要である』とされているの。
 だからうちには釣り鐘が無いのよ」
「そうだったんですかー! 知りませんでした」

(う〜ん、それも雷除けのためじゃないかな? 寺への落雷を防ぐために、あえて金属の塊を置いてないのでは?)
ボクは考察する。昔からこの周辺に落雷が多かったことは間違いないようだ。

いいぞ……それならボクの仮説も信憑性を増す。

あずさくんはさっそく新情報をノートにメモしている。
「私、小さい頃『夕やけこやけ』の歌が不思議だったんですよ。『おてらのかね』って何だろう?って。大みそかの除夜の鐘もテレビでしか聞いたことないです」

別にいいんじゃないかな? 少なくともこの村では、おっぱいへの煩悩は払う必要ないみたいだぞ?

「そういえば……」
アイコさんが何か思い出した様子。
「アタシ旅行好きだから知ってるんだけど、滋賀県の大蓮寺にも『雷除け観音』ってのがあるのよ」
「へえ! うちの村と似てますね」
興味深そうに食いつくあずさくん。
「そっちは、天から落っこちた雷鬼を観音様が退治し、『もうこの地方には落ちません』って約束させるお話ね。
 でもこの村では『雷除け』でなく、逆に『雷寄せ』なんでしょ?……なかなか興味深いわ」
いきいきと語ってくれたアイコさん。彼女も伝承好きなら話が合いそうだ。

「まあ、実際は強い磁石でも埋まってるのでしょうねぇ」
(えー!? あさこさんがそれ言っちゃうの?)
心の中でずっこける。
せっかく霊験を卑しめまいと言葉を伏せたのに、お寺の人間がオチをつけてしまうとは!

しかし今の話、千々山女性の豊乳とも関わりあるかな?
ゲーマーのボクがまっ先に思い出したのは、『ファイナルファンタジー4』に出てくる『トロイア国』。あれは女性だけの国で、近くに『磁力の洞窟』というダンジョンがあった。
もしかしたら磁力が何らかの影響で、女性ホルモンを活性化させていたのかもしれない。

ゲームの事はともかく、磁力の医学的効果は現実でもよく聞く話だ。
「千々山村の女性が大きな胸でも平気なのは、磁力で筋肉がほぐされているから」とか……?
いやいやまさか! そんなに強力なら電波障害は村全域に及ぶはずだし。

まあ、理系の考察は医学部の彼女が詳しいか。合流してから聞くとしよう。

「ところであずさちゃん、真慧を訪ねてくれたの? あの子は今日、自然教室に行っているけど」
「い、いいえ。資料館を見学に来たんです。それに、お寺の宝物を見せていただきたくて」
「たからもの?」
「『×××××の××』です」

「まあっ!」
あさこさんが細い目を見開いて驚く。
「大変! ここ数年は見に来る人もいなかったから、蔵にしまっちゃったわ。どうぞお先に資料館へ向かってください。そちらへお持ちしますので」
「ボクが頼んだんです。ご苦労をかけて申し訳ありません」
「いえいえセイルさん。海外からの旅路に比べれば、苦労とも思いませんよ」
お詫びするボクにあさこさんは笑顔を返してくれる。

「あいにく今は住職が出かけておりまして、資料館は無人なのです。でも、鍵は開いておりますので、展示物をご覧になりながらお待ち下さい」
そう言うとあさこさんは一礼し、
「では、また後ほど」
少し早足で本堂を出て行く。

一歩ごとにどゆんどゆんと揺れまくる150cmの超巨大バスト。それが背後からでも見えるなんて、本当に凄い。
後ろ姿が廊下の曲がり角に消えるまで、彼女を見届けていた。



こうして、ボクら3人は栗辺寺を後にし、すぐ隣の資料館へと向かう。

「アタシまでご一緒しちゃって、宿題のお邪魔だったかしら?」
「そんな事ないです。さっきのお話もおもしろかったです」
「よかった。かわいいガイドさんに案内してもらえて嬉しいわ♥」
にこやかで人当たりの良い女性だなあ、アイコさん。ボクもこんな風に歳をとりたいものだ。

「あーっ!?」
「どうしたの? あずさちゃん」
「アイコさんが首に下げてるそれ……」
「ああ、水晶のペンダントよ。温泉駅近くの土産物屋さんで今日買ったばかりなの」
円熟した胸元を覗かせてもううと、小さなクォーツがきらめいている。

「わあ、キレイですねー」
「氷みたいに透き通って涼しげだから、さっそく着けてるの」
「それ、私のお母さんが作ったやつですよ!」
「「そうなの!?」」
「ホントです。お買い上げいただき、ありがとうございますっ!」

話を聞くと、あずさくんのお母さんは畑で大豆を育てるかたわら、土産物作りの副業もしているという。
「水源に近い岩場では水晶が採れるんですよ。お母さん、それを使っていろんなアクセサリーを作っているんです」
「ステキねぇ。水晶っていえば甲府が有名だけど、ここのはすごく透明度が高いわ」

残念ながら、この話にさして驚きはない。
鉱石に関してだけは事前に下調べ済みだったからだ。でなければ、川原で“あの石”を探したりしない。

「ちなみにあずさくん、その水源ってどこにあるんだい?」
「この近くですよ。チホがいた川原の上流で、ちょうどさっきの代木山を裏から見たあたりです」
「やはり……」
「?」
ここまで条件が揃うとは。『×××××の××』が“あの石”である期待はさらに高まったぞ。

それと水源地への落雷も気になるな……何らかの化学反応で水質が変化しているとか?
千々山湧水は分析の必要アリだな。ボクが言うまでもなく、彼女はそうするだろうけど。

「本当にすばらしい所ね、千々山村。さっきお豆腐屋さんで食べたジェラートもすっごく美味しかったし」
「お豆腐屋さんで?」
「あー、小瀧先輩のトコだ」
「そう。笹の香りがたまんないのよ。ここからすぐ近いから、セイルちゃんも行ってみるといいわ!」
「ええ是非。それは楽しみです」
アイコさんは心から旅を満喫しているようだ。



そんなおしゃべりをしているうちに資料館へ到着。
こちらは一応コンクリート製。築数十年と経っていそうな壁を、緑鮮やかなヘチマの蔓が覆っている。
入ってすぐの所にはテレホンカード未対応の赤い公衆電話が置いてあった。十円玉しか使えないやつだ。
他にもいろいろレトロな物が目についたけど、さすがに床は板張りでなく、リノリウム。(土足可だからね)
建物内はセミの声も遠くなり、しんと静まり返ったように感じる。冷房がなくても何だか涼しかった。

しばしの間、自由研究に集中し一人で資料を探すあずさくん。
彼女を妨げないよう、アイコさんも展示品を静かに眺めていた。

さてと……ボクはまず村史アルバムを拝見しようか。
もちろん、村人の胸が「いつから」大きいのかを確かめるためにね。

最古の写真は大正時代の『千々山駅竣工』か……これは遠景すぎるし、そもそも男性が中央に数人しか写ってないな。
昭和になると、『出兵見送り』『学童疎開受け入れ』など戦争関連の写真が増えてくる。
終戦後はいよいよ産業・生活に焦点が当てられ、農林業の風景や、温泉街・商店街の発展などが記録されている。

そこに写る女性たちの胸は……うん……確かに「大きい」な。
とはいえ、現代の千々山に比べればまだ常識的なサイズに見える。平均H〜Iカップくらいか?
和装が一般的だった頃はサラシで押さえていたのかもしれない。あるいは単に、栄養状態の差だろうか?

おっ、昭和15年の尋常小学校卒業写真があるぞ。
ふ〜む……「ふくらみがはっきり分かる」程度の子が大半か。
大人顔負けの巨乳ちゃんもいるけど、チホくんレベル(I〜Jカップ)はいないなあ。

いろいろ見たけど、「今ほどではないが、世間一般より十分に大きかった」というのが結論だ。

ただし高度経済成長を過ぎ、カラー写真になる頃には、現代とほぼ変わりない大きさ(大人で平均M以上)に落ち着いている。
女児の発育もかなり著しく、高学年ならあずさくんレベル(D〜E)が当たり前。
チホくんを2〜3カップ上回りそうな、小学生とおぼしき少女も一人見つけたぞ。

それにしても、本当にすごいなこの村。アルファベット中盤〜後半のサイズを、昭和末期にも見かけるなんて!
中にはアンナさんに匹敵する女性もひとりふたりいた。メイン被写体じゃなく、「写り込んでいる」のが非常に惜しい!

(このアルバム……グラビアとしての価値が高すぎる!)
もしこれを出版したらどうなる?
昨日ミリアちゃんの写真集を買いに並んだ、おっぱい好きの諸兄なら、間違いなく即購入だ。
(こんな山奥の村史を? アハハ、とんだ笑い話じゃないか!)

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(へえー……山奥の村が少しずつ近代化していく様子は、面白いわねえ。ほのぼのするわ)
よその土地にノスタルジーを感じながら、アタシはいろんなパンフレットを眺めていた。

すると、気になる写真が目に止まったの。
(あら、『第1回自然教室』? ゆうが今参加してるやつじゃない! なるほど、22年前から続く行事なのねえ)
現代のようにデジタルじゃないけど、カラーで写された写真。

(えっ!?)
そのうちの一枚。水着で魚捕りをする女の子に、アタシの視線は釘付けになる。

(うわぁっ……す、すごい! この子のムネ、どうなってんの!?)

つづく