千々山村自然教室

唐鞠 作
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きれいな渓流を背景に、水着姿の女子3人が写っている。
現代なら、「ズッ友だよ♥」の文字をデコりそうなまぶしい笑顔。(いや、もうとっくに死語かしら?)
仲良しぶりから察するに、この子たち同学年と見てよさそうね。
背もだいたい同じ140cm台後半。左と真ん中の子は、スク水のおなかに名札が縫い付けられている。
「5年 山口」、「5年 尾崎」と読めるわね。
だから右の子も5年生だと思うけど、確証は持てないの。

なぜなら、その子の水着だけ明らかに特殊だったから。
一応、名札らしき小さなプレートが下脇腹に付いてるけど、目を凝らしても名前までは読めない。
かろうじて読めるのは、先頭に記された“D”というロゴだけ。

(これはスクール水着……なのかしら?)

紺色で、ツヤの質感もスク水と同じ合成繊維に見える。
けど、胸部だけ明らかにおかしいわ。色が白いし、不自然なまでに大きく盛り上がりすぎている。
布のシワも放射状に伸びてるし、俗に言う「乳袋」みたいね。
明らかに違う素材……胸だけを別の布で覆っているの?
白い布の上端は鎖骨の下まで続き、谷間を完全に隠している。(惜しいことを!)
そこから伸びた2本のストラップを首の後ろで結んでいたわ。いわゆるホルターネック式ね。

(そうか! 肩・首・肩の3か所で支えれば、おっぱいの重みを分散できる。そのためにスク水の胸部を切り取って、乳袋を継ぎ足した?)
まさかとは思うけど……そうせざるを得ないと納得するほどのバストを、“Dちゃん”はもっていたわ。

このふくらみいっぱいに詰まってるなら……3ケタは確実。
体積はアタシと同じ位だけど、小学生の小柄さを踏まえればカップは余裕で上を行くわね。
L? M? とにかく、並みの巨乳とは一線を画したアンバランスボディよ!
ここまで大きいと、肥満体型用でも収まらないことは疑いようないわ。娘のスク水を探して何か所ものサイトを巡ったアタシが言うんだから、説得力あるでしょ?
他のふたりより下半身もちょっとムチっとしてるけど、まだ普通。アンダーは70手前と見て……107cm、Mカップってとこかしら。

真ん中の尾崎ちゃん、「大物が釣れましたー☆」とばかりにイワナを掲げているけど……隣のふくらみがあまりに大きすぎて、悲しいかな、すごく小っちゃく見える!
まるでだまし絵のよう。サイズ感覚を狂わせるほどの乳房が小5のカラダに実っているなんて、本当に奇跡的な光景ね。

ちなみに、山口ちゃんと尾崎ちゃんはどちらもCカップぐらい。
午前中に見たシフォンちゃんを思い出すと……きっと、これくらいが5年生の標準なのね。

あれ? そういえばシフォンちゃんも尾崎っていったっけ? 顔もなんとなく似ているから、もしかして母娘だったりして?
(※ この『尾崎』なる少女が果たしてしふぉんの母親かは、読者の想像に委ねるしかない。ただし、彼女が学校のウサギに『キャンディ』や『マシュマロ』などと名付けていたことは併記しておく)

ん!? 似ていると言えば……この子も!

「あずさちゃん、ちょっとこの写真見てくれる?」
「はい。何か面白いのありましたかー?」

あずさちゃんを呼んで写真を見せると、
「あれえっ、お母さん?」
予想的中。驚いた顔で左の山口ちゃんを指差したの。

「やっぱりね。面影がどこか似てると思ったのよ」
胸ばかりに目がいって、すぐには気付けなかったわ。

「間違いありません。名札も同じ名字だし。22年前に5年生なら、え〜と……年齢もぴったりです!」
なんて偶然。この子があずさちゃんのお母さん。そしてアタシが買ったクォーツペンダントの製作者ってわけね。

「真ん中と右の子にも心当たりある?」
「お母さんのママ友ですよ。よく一緒に街へお出かけしてるみたいです。昔から仲良し3人組だって聞いてたけど、へぇー、この頃からかぁ。こっちが尾崎さんで、こっちが富士岡さんだ」

ビンゴ! 思いがけないところからDちゃんの素性に迫れたわ。

「右の子、富士岡さんっていうの?」
「はい。この胸なら確定ですよ。うわぁー、さすが富士岡さん。小学生の頃から大きかったんだなあ」
「ちなみに今は32か33歳よね?……どれくらいになってるの?」
怖いもの知りたさで、恐る恐る尋ねてみる。

「さあ〜? 詳しくは知りませんけど、あさこさんよりもう少し大きかったと思います」
「え、え、Xより上!?」
ウソでしょ!? もうほとんどアルファベット残ってないのよ? まさか本当にZまでいくつもり?
(※ バスト148cm、2Zカップの富士岡みねこは、2年後、娘と共にボニータの下着モデルを務めることになる)

「5年生でこんなに成長するなんてすごいなあ。私の何倍あるんだろ? チホとかえでを合わせてやっとかな?」

『チホ』?『カエデ』? どこかで聞いた名前……
あ! シフォンちゃんの話に出てきた、現6年生のツートップだわ!
そんな精鋭2人がかりでなきゃ敵わないなんて! 富士岡さんがいかにズバ抜けた存在か分かるわね。
たぶん、千々山でも十年に一度クラスの逸材なんでしょう。

「ところで彼女の着てる水着、変わったデザインよね? 胸に合わせて改造したのかしら?」
「どうでしょう……でも私、これと同じ水着見たことありますよ」
「本当?」
「はい。たしか3年生の頃かなぁ? プール開きのとき全校生徒が集まるんですが、6年生の先輩が着てました。
 はっきりとは覚えてませんが……え〜っと、名前なんだっけ? すっごく体操が上手な先輩。とがわ? じゃなくて……」
推定Dカップのバストを抱えるように腕を組み、思い出そうとするあずさちゃん。

「ま、まあ名前まではいいわ。この村にはブラだけでなく、スクール水着もオーダーメイドがあるって事ね」
「う〜ん……でも私、かしのでこんな水着売ってるの見た事ないんですよねえ」

この“D”水着、既製品ではどうしても収まらない超巨乳小学生にだけ紹介される、「選ばれし者のスク水」だったりしてね。
堤さんの性格なら、料理屋の裏メニューみたいにして楽しんでいそうだわ。

いやあ、さすが千々山村。次から次へビックリさせてくれるわねぇ♥

ところでセイルちゃんは?
あら……何やら真剣にスクラップ帳を読んでるみたい。

********

『千々山集落に大落雷』
『峰の大岩、霹靂を受け半壊す』
『落石に巻き込まれ女性1人死亡、4人重体』

明治11年の××県地方紙の切り抜きは、だいたいそんな内容だった。

(これ、さっきの代木山だよな? 
『半壊す』ってことは、元々はあんなとがった形じゃなかったんだろう。

(岩を砕くほどの雷なら……きっとその時に「できた」んだ)
いよいよ史実に裏付けられた、ボクの仮説。
ドキドキしながら確かめたポケットには、川原でチホくん達が見つけてくれた“あの石”が入っている。

「あらっ!?」
背後でアイコさんが声を上げた。
「あ、ごめんねセイルちゃん。まさかこんな所まで来てブラを見るとは思わなくて」

指さしているのはブラジャーを着けたマネキン。大きさはせいぜいJカップ程度だろう。
(おいおい! ここは資料館だろ? 社会教育施設にブラ展示してんの!?)
と、驚いてしまった自分に言い聞かせる。
(慣れろボク……ここはそういう村じゃないか)
小学生が社会科見学する所にブラがあっても、おかしくない。全然おかしくないのだ。

「なになに……『ボニータの起源』?」
解説文によると、これは“加志埜商店”(現“ショッピングセンターかしの”)の2代目店主が、輸入商である弟を頼って購入した舶来品。

店主は商品にブラジャーを仕入れたが、初めはほとんど売れなかった。当時流通している最大サイズでも千々山女性の豊乳は包みきれなかったのだ。
その後弟に方々を探させた末、昭和6年、フランスでやっと見つけた最高級の特注品を一着だけ購入した。
それがこのブラジャー。純白でヨーロピアン調のレースが美しい一品である。
価格は7,400フラン。日本円で約600円。なんと、当時の国家公務員初任給8か月分に当たる。
この出費、田舎の商店にとっては相当な覚悟を要しただろう。
それでも兄弟は相談の末、購入に踏み切った。
すべては村人の要望に応え、理想のブラを作るためである。

店主はその構造を解析し、千々山縫製所に同じ(実際はよりサイズアップされた)ものの量産を依頼。
製造ラインの確立までには丸1年の試行錯誤を要した。
かくして誕生した下着ブランド『ボニータ』は、今もなお村人たちの胸を支え続けている。

「さすがねぇ、店主。女性達のためにそれだけの先行投資をするなんて。
 にしても、給料8か月分なんて、どんだけ高級なのよ! ぼったくられたんじゃない?」
「いえ……この弟も賢い人物です。
 1930年代は世界恐慌後の通貨不安で為替相場が荒れました。フランはこの後3倍近くまで高騰しますからね。その大波が来る前に、高額な輸入を済ませた。ビジネスの機運をつかんだと言えるでしょう」

(※本編『地域振興課』第5話参照
 なお、日本では終戦後に洋装が広まるまでブラジャーは普及せず、日陰の存在であったという。
 すなわち千々山村は流行を先取っていたのだ。ファッションでなく、実用性ゆえだが)

「うわぁステキ♥ これがボニータのモデルになったブラかぁ。フランス製だったんだ」
いつの間にかあずさくんも加わり、興味深そうに眺めている。
まあ、“Bonita”はスペイン語なんだけど、そこはつっこまないでおこう。



またしばらく見学していると、男性の人物画を中心にした小コーナーを見つけた。
「えーと……『郷土を拓いた人物、米岸富右衛門』?」

江戸末期、この地へ移り住んできた本草学者。可食植物や薬草の知識に明るく、医術にも長けていた。
また、彼は西洋化学を駆使して窒素肥料や火薬をも製造する。
特に火薬を現地生産できることは大きな強みとなり、発破工事や猟銃に用いられた。

「開拓の筆頭に立ち、千々山村の礎を築いた知識人である……か。ふぅん」
「彼の子孫も植物学者らしいわね。ここに著作が並んでるわ」
アイコさんは何冊かの本をパラパラめくってみる。

『千々山山系に見る固有種』
『山野草とその薬効』
『キノコと地衣類の研究』
著者、米岸富作。出版年は……どれも平成ひとけた。20年以上前か。

「ああ、トミサク先生は今もお元気ですよ。植物採集しているのをよく見かけます。村では『米岸のじっちゃん』とか呼ばれ、親しまれてますよ」
(※ 本日午前、熱中症で医者に運ばれたことをあずさは知らない)

地元の植物学者か。
もし、村人の豊乳が山菜やキノコに因るものだった場合、彼の著作は非常に研究価値がある。
この本、買えないかな? 特に『千々山山系〜』は裏表紙にバーコード付いてないから、きっと入手困難だぞ!

(チホくんが言ってた「ショボい本屋」を当たってみるか……もしなければ図書館を訪ねよう)
そんなことを考えながら、ボクはしばらく本を読みふける。

再びの静けさ。
あずさくんは宿題を進め、アイコさんは別の展示品を見て回っていた。

数分後。
「あら? 古いカセットデッキねえ……『音声資料』? あずさちゃん、ちょっと鳴らしてみてもいい?」
「はい」
「どれどれ……」
アイコさんが再生ボタンをガシャっと押すと、入れっぱなしになっていたテープが回り出す。
微妙にかすれた音で流れてきたのは、オルガンの伴奏に合わせた歌声だった。


〜♪ なかのあねさにゃ あめのかご 
ろっしゃくこえる みのたけに  おとこまさりの ちからもち
あめゆきひでり かみなりを  だれよりはやく かぜにきく

〜♪ すえのいもうと つちのかご
ろっしゃくまでしか めもみえぬ  のうめんづらの だんまりで
ききみみたてて ひびさがし  わかせたいずみ しいごおろ


「わあ、なつかし〜い」
「あずさくん、知ってるのかい?」
「昔ひいおばあちゃんから聞いた歌です。本当に久しぶりで、歌詞もほとんど忘れちゃってました」
しみじみと思い出に浸るあずさくん。

一方、アイコさんは怪訝な表情で訊く。
「セイルちゃん、この歌詞気にならない?」
「はい。アイコさんもですか」
「ええ……今の歌、これでフルコーラスじゃないわよね?」
どうやらボクと同じ疑問を抱いている様子。

「どうしてですか? 私、二番までしか知りませんけど」
「違うわ。あずさちゃんは『二番まで』じゃなく、『二番から』知っていたのよ」
「?」
「歌詞に注意してもう一度聞いてみよう……これは“数え歌”だ」

巻き戻して再度鳴らしてみるが、やはり出だしは「〜♪ なかのあねさにゃ」だった。

「『なかのあねさ』は次女、『すえのいもうと』は三女。そして『しいごおろ』(四、五、六)で終わってる。じゃあ『一』はどこ?」
「その通りです。二人姉妹なら、わざわざ『中の』『末の』とは付けない。これは本来、三姉妹の歌でしょう」
ならば、一番は長女にまつわる歌詞のはず。

アイコさんはデッキからカセットを取り出してみる。
「うわあ、カセットも古いわねえ。きっと昭和のものよ。ラベルには『飯妻ノ姉妹唄』とあるわ」
「そんな題名だったんですね。小さい頃は気にしてませんでした」

ボクらはもう一度歌詞を聞き取り、紙に書き出してみる。
しかし……こうして皆でテーブルに手を着くと、お互いの胸元が覗けてすごい絵面だな。

「二番、三番に共通しているのは、『〇〇のかご』と『ろっしゃく』の部分か」
「尺って長さの単位ですよね。6尺は、えーと」
「約1.8mよ」
「三番の『ひびさがし』は……日々?」
「地面の『ヒビ』じゃないですか? 『湧かせた泉』って続くし」
「ナイス推理よ、あずさちゃん!」
アイコさんはグッジョブとばかりに親指を立てる。

「すると……千々山温泉を探し当てたのは、この三女? ダウジングでも使ったのかしら?」
「いや、『聞き耳立てて』とあります。地下の音を頼りに探したのでしょう。『6尺までしか目も見えぬ』弱視の代わりに、聴覚が優れていたのかもしれません」


〜〜〜〜〜〜〜〜


「へくしゅん!」
「さやちゃん、だいじょうぶ? 水ひやこい?」
「ううん、平気……ありがと……いつきちゃん」


〜〜〜〜〜〜〜〜


つまり歌詞の内容は……

次女は180cmを超える長身で、男にも勝る力持ち。
雨・雪・日照り・雷などの天候を、風から先読みすることができた。

三女は180cm先までしか見えない近視で、能面のように無表情。無口。
音を頼りに地面のひび割れを探し、たくさんの泉を湧かせた。
(『四、五、六』は『たくさん』の意味だろう。数え歌としての形式上、そう表現したと思われる)

「このわらべ唄は“伝記”だ! 歌われている能力が事実なら、次女は農業に、三女は水源確保に大きく貢献したはず」
「それなら、長女にも何か能力があったんでしょうか?」
「まさか。超能力なんてありえないよ。天気予報も、地下水探査も、実際には知識と経験で行ったんだろう。歌詞の上で誇張しただけさ」
「どちらにせよ、一番の歌詞がすごく気になるわ!」

好奇心が駆け巡る。こうなるともう止まらない! ボクらは協力して一番を探すことにした。



オールドテキストを漁ること約10分、意外にあっけなくそれは見つかる。
「あった!」
昭和56年刊『千々山郷土史考 其ノ五』収録、『童謡・飯妻ノ姉妹唄について』

「すごーい! さすがセイルちゃん、天才っ」
「やったあ! 早く見せてくださいよ」
そこに掲載された歌詞の全文は……


うえのあねさにゃ ひとのかご 
ろっしゃくこえる むねまわり  ほとけのおしえ わすれては
■■■■■■■■ ちにまみれ  ふかいたにぞこ ■■■■■

なかのあねさにゃ あめのかご 
ろっしゃくこえる みのたけに  おとこまさりの ちからもち
あめゆきひでり かみなりを  だれよりはやく かぜにきく

すえのいもうと つちのかご
ろっしゃくまでしか めもみえぬ  のうめんづらの だんまりで
ききみみたてて ひびさがし  わかせたいずみ しいごおろ

ななしのてらを やっ
ここの


「「「!?」」」
戦慄が走る。何だ!? この恐ろしい内容は?

「こ、この黒いマスは?」
「注意書きがある。『汚損のため判読不能』だそうだ」
「最後の2行は? なんでこんな尻切れトンボになってるのよ?」
「『原紙破損により不明』……この記事の寄稿者が原紙を発見した時点で、すでにちぎれていたんだ」

“Missing document”。歴史を研究していれば欠落文書はよく目にする。
(だけど、こんなにも気になるのは初めてだ!)

「数え歌は十(とお)まで、ってのが童謡のお約束よ。ちぎれたラスト2行は、『七』から『十』に当たる部分だわ」
「ちなみに作曲者は?」
「それも不明」
伝承歌ならよくある事だ。

「ひとまずはっきりしたのは……一番が伝わらなかった理由は、歌詞が虫食いで歌えなかったから、ですね」
「あずさちゃん、本当にそうかしら?」
真剣な表情を向けるアイコさん。どうやら自説があるようだ。

「わらべ唄って子どもが歌うものでしょう? けど、一番はあまりに物騒すぎる。
 『血にまみれ』とか、『深い谷底』とか、残酷で不気味な歌詞だわ。
 長女は『仏の教え』を『忘れて』、何か良くない事をした……結果、流血沙汰になったのよ。
 次女と三女は村に貢献したのに、長女は科人(とがびと)。
 だから歌に残らないよう、誰かがわざと黒マス部分を汚したんじゃない?
 長女の存在は意図的に隠されたんだと、アタシは思うわ」

さすがアイコさん、鋭い考察だ。
しかし正直、ボクが一番気になっているのはそこじゃない。もっとあるだろ!? ほら、何よりも強力に、本能的興味を引かれる部分が!

「6尺、超える、胸周り……」
ゾッとする想像に、ボクは思わず呟いてしまう。

「『むねまわり』っていわゆるバストですよね?」
「当時の測り方は分からないわねえ。もしそうなら、バスト180cm以上の超ぉ〜巨乳♥って事になるわね」
アイコさんは手でドームを描くジャスチャーをする。

「うわぁ、それって一体何カップでしょうか?」
「仮にアンダー70cmとすると、110cm差だから……」

指折り数えた結果は、
「じゅうろく……16Zカップ?」
その後すぐにふたりはアッハッハと爆笑し、
「「まさかね〜☆」」
と、声を合わせた。
ボクは何とも言えない顔で、それを眺めるしかなかった。

「さすがに盛りすぎよ〜。歌詞合わせのためとはいえ、6尺は誇張が過ぎるわ」
「アルファベット2周目を後ろから数えた方が早いなんて。いくらなんでも、人間のおっぱいがそこまで膨らむはずないですよね〜」

ふたりは笑い飛ばすけど、ボクは簡単にそう思えない。
(あり得るかも……この村なら!)
180cm、16Zカップ。そんな乳房の持ち主は一体どんな人生を送ったんだ?

ボクは改めて資料に目を落とす。この記事の寄稿者は……えっ!?
(米岸富作!? 植物学者の彼がなぜ?)

『曽祖父、富右衛門の遺した書類を整理している時、偶然発見した。
 明治のものと思われる和紙に毛筆で記された、全て平仮名の詩である。
 古くから村に伝わる童謡の歌詞と一致したが、ここには知られていない一番と、欠けた末尾が記されている。
 筆跡から鑑みるに、曽祖父の字とは思えない。
 封筒には入っていなかったが、曽祖父に宛てられた文であろう』

後に続く富作氏の解説文は、そんな内容だった。

「う〜ん、ミステリアスねぇ」
「本当はどんな人物だったんでしょうね? いいづま三姉妹」
「あずさくん、それだっ!」
「はい?」

そうだよ! 『飯妻ノ姉妹唄』。名字は分かっているじゃないか!
入口にあった公衆電話。あそこに置いてある電話帳で「飯妻」姓を探せば、子孫を訪ねられるんじゃないか?
「ちょっと失礼!」
ボクはさっそく展示室を飛び出すが、

「お待たせしました〜」
そこへ、ダンプカーのような迫力で現れたあさこさんとはち合わせになる。
「おおっと!」
眼前に迫るXカップの大峡谷に、危うくダイブするところだった。(いや、してみたいけど)

「あらあら、ごめんなさいねぇ」
「いえ、こちらこそすみませ……ん!!!?」

数歩後ずさって、あさこさんが凄い格好をしていることに気付く。
(うわあっ!? バスローブ姿!?)

いや違う! あれは修行用の白装束、白衣(びゃくえ)だ!
しかも少し湿っているのか、スミレ色の巨大ブラがはっきり透けている。柔肌にめりこむ境界線から、豊満な乳肉があふれかけているじゃないか!
Xカップの霊峰に押し上げられ、白衣の裾はミニスカート並みの高さ。そこから伸びるすべやかな生脚が、アダルティな人妻の色気を放っている。

「こんな格好ですみません。蔵で蜘蛛の巣やホコリをかぶってしまいまして……勝手ながらこちらに来る前、行水をさせていただきましたの」
と、お茶目に微笑むあさこさん。身長180cm台の彼女ならありそうな話だ。

少しウェーブのかかったセミショートの髪は、まだしっとり濡れていた。
蒸発する水滴の一粒一粒から、同性でもクラッとするほど濃密なフェロモンシャワーが香ってくる。
いくらなんでもセクシー過ぎるだろ!
視覚と嗅覚のダブルパンチに脳をやられ、170と言われたボクのIQも今17ぐらいに減ってるぞ!(←頭の悪い表現)

くっ! 背徳的エロスに心を揺さぶられ続け、リアクションが追いつかない!
直視に耐えかね、横目でアイコさんをチラ見してみれば、やはりボクと同じ。口をあんぐり開き、あさこさんの姿に驚愕しているようだった。

********

スゴすぎるでしょ、あさこさんのおっぱい! アタシやゆうがまるで比べ物にならないわ!
あの広大な表面積! 手のひら何枚あれば覆えるの? 千手観音のヘルプが必要じゃない!

いやこれアリなの!? 
住職の奥さんがこんなにも官能的って、許されるの?
職業適性としてどうなの?
たとえば、厳しい修行の末に煩悩を払い、明鏡止水の境地に至ったとしてもよ?
このおっぱいを一目見れば、たちまち色欲再燃! 劣情沸騰! 煩悩大爆発っ! 灼けた鉄を冷水に落とすが如しじゃない!

上半身だけじゃないわ。白くムチムチのふともも、横に後ろにバーン!と張り出した大きなお尻も超グラマラス! ヒップ100cmのアタシより大きいのは確実ね。
※(実際には、栗辺あさこのヒップは108cm。奇しくも煩悩の数である)

長身だから違和感ないけど……あれだけ豊かなお尻なら、2人の息子さんも安産だったでしょう。
むしろ、この極上ボディを前に2人でセーブできた住職さんの精神力をほめたくなるわ。

しかも、お寺から資料館までその格好で歩いて来たの!?
わずかな距離とは言え、そんなあられもない姿で公道を歩くなんて、風紀紊乱っ! 仏に帰依した者として、あるまじき行為だわ!
あーもう、けしからん! 特におっぱいがけしからーんっ♥
あれだけ莫大なボリュームなのに、ほれぼれするほど美しい形! 水滴を弾くピチピチの肌!
こんなの、うらやましさが一周して拝んじゃうわよっ! もう♥

********

「あ、あの、おふたりとも大丈夫ですか?」

気付けば、ボクとアイコさんはあさこさんの谷間に拝礼し、感動の涙まで浮かべていた。
だって、それほどまでに尊くありがたいものだったから……

(え? えっ? まだ箱を持って来ただけなのに、ここは拝むトコ? 大人の礼儀?)
ボクらの奇行が、いたいけな小6女子を戸惑わせているようだ。ごめんな、あずさくん。

いかんいかん! 落ち着かせるため深呼吸だ。
けど、麻薬レベルのフェロモンを大量吸引しては元も子もない。まずは一旦背を向けよう。

ああ……海外旅行に来てこんな事をしている自分に、ちょっと泣けてくるな。

(アタシったら、年甲斐もなく興奮しちゃって……恥ずかしいわねぇ)
さすがのアイコさんも、気まずそうに頬を赤らめていた。



やっと落ち着いたところで、ボクら4人は適当なテーブルに集まる。

「それでは、寺宝『白烏の足(シロガラスのアシ)』を開帳いたします」
あさこさんは小さな桐箱を置き、紫色の組紐を解いた。音もなく蓋は外され、いよいよその中身が明らかになる。

「「「これは……」」」

表面のゴツゴツした白っぽい物体。形状は細長く、先が3つに枝分かれしていた。
川原で発見した石と色合いが一致する。もっとも、そちらは流水の浸食で表面が滑らかになっているけれど。

(ボクも実物は見た事なく、ネット画像でしか知らないけど……こんなにきれいな白だったか?)
日本で唯一発見された例は、もっと黒っぽかったと記憶している。

が、しかし。
代木山の磁場、水晶が採れること、落雷の新聞記事、『シロガラス』という妖怪の名。
これら全ての情報が“あの石”であることを裏付けていた。

(間違いない……フルグライトだ)


〜〜〜〜〜〜〜〜


栗辺寺の長男、栗辺真慧は読経を終えた。
これから屠殺する雄鶏たちに向け、顔つきは神妙なままである。
ルミに話した通り、医者を志す彼は寺を継ぐ気がない。現在4歳の弟に住職を丸投げするつもりでいる。
それでも家への恩義として唱えてきたお経を、初めて“実用”した心境は、何とも言い表せないものだった。

「真慧くん、ありがとう。立派にお経を上げてくれましたね。
 ……ではいよいよ命をいただきますが、最後に一つだけ、先生からおまじないをします」

そう言うと、千々山村教育長・椎原ユキヨは6人の少年達の前に出て、ごく短い歌を一番だけ歌う。

偶然にも、ほぼ同時刻にセイル達が知りたがっていたあの歌。
それを椎原は「欠けることなく」歌い上げた。

「どこかで聞いたような……」と、真慧。
「そうか? 俺、初めて聞いた」と、陽介。
「なんだか恐ろしい歌詞っすね」と、徹郎。
「ああ。『血にまみれ』とかな」と、亮平。
「最後にまたアレも出てきたぜ」と、岳。
「椎原先生、今のは何ですか?」と、進太。

「これはおまじない。家畜を少しでも安らかにあの世へ送れるよう祈る、清めの歌よ」
椎原は優しくほほ笑み、そして力強くナタを握る。


〜〜〜〜〜〜〜〜


「ひぃやゃあああああんんんッッ! アンッ……ッ♥」
「だ、大丈夫っ!? 青梅さん!」

一体どれだけの快感が、彼女の神経を駆け巡っているのでしょう?
甲高い嬌声を上げながら、若鮎のようにピチピチした肢体をくねらせる青梅さん。
肉付きの良い手足は激しく痙攣するようにのたうち、竹簀をびたんびたんと叩きつけ、バシャバシャ水しぶきを上げています。
お魚をつかみ取りするだけの梁漁で、どうしてこんな事に……

いけないっ! 水流のある所で寝転んでは、溺れる危険が!
「お、おちついて! ここには女子しかいないから、水着を脱ぐんですのっ」

「んきゃうぅぅンッ♥ アッ! ンアッ! ふゅうッーーーンッ♥♥♥」
しかし青梅さんはただただトロけ顔。だらしなく半開きにした口から漏らすのは、艶めかしい喘ぎ声のみ。

「聞こえてませんわっ! こうなったら、わたくし達の手で脱がせるしか」
「ナツも手伝う!」

つづく