千々山村自然教室

唐鞠 作
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竿を握る手の中に確かな重みを感じる。
「えいっ!」
釣り上げると、毛鉤の先に活きのいいお魚がかかっていた。すかさず糸を引き寄せ、タモ網で掬う。

「おおっ、見事!」
「やるじゃーん! おまねちゃん飲み込み早ぇー」

かえでちゃんとチホちゃんが笑顔で賞賛してくれる。照れくさいけど、素直に嬉しかった。
勉強以外で何かが「できた」という達成感は、本当に久しぶりだ。

「さすがやなあ、あまねさん」
「いつきちゃん……わたしたちもがんばろ」
年少組からの視線も、なんだかくすぐったいな。

「しかしこのテンカラ釣りって、ハリの付いた糸を振り回すから、水着でやるのちょっと怖いね」
釣りの間、私はビキニの上からTシャツを着ている。頭にひっかけないために帽子も必須だ。

「まあ、ワシらは慣れとるから大丈夫じゃがの」
「よい子はマネしちゃダメだぜ」
「あー失礼だな。私、今日だけは“よい子”じゃないもん」

言っちゃった☆ ママが見てないからって。
でもこれは本心。旅の間はいつもの自分を忘れるんだ。

「立派なイワナだな。これはリリースしないで食っちゃおうぜ」
「どれ、鉤を外してやろう」
「いいよ。自分でやってみたい」
かえでちゃんが手伝ってくれようとしたけど、私は断る。

「何事も経験だからね」
「さすがあまね殿。しっかりしとるのう」
「ふふっ、都会っ子だからって甘く見ないで」
ああ、どうしちゃったの? 普段のマジメな私はこんなこと言うキャラじゃないのに。

わかってる。楽しさに舞い上がってるんだ。ムネと一緒に心までも開放されてるんだ。
友達と外で遊ぶのはすっごく楽しい! そんな当たり前のことを、私は全身で思い出していた。

そう。ほんの数時間前に出会った地元っ子とも、今はすっかり打ち解けている。心から笑い合える友達になっている。
だから……聞いてもいいよね?

「ねえチホちゃん、かえでちゃん、ヘンな質問してごめんね?」
「「?」」
「ふたりは、その……胸が大きいことでイヤな思いしたことない?」

「? 『イヤな思い』って、たとえばコレ?」
チホちゃんが指差すのは、パンパンに張ったスクール水着。その谷間は、ひとさし指が縦に全部埋まってしまいそうなほど深い。

「ち、違うの。水着がきついとかの苦労じゃなくて……なんて言うか、『モノ』じゃなくて『人』から。例えばジロジロ見られたり、からかわれたり、とか」
「んじゃ、ねーな」
「ワシも」
即答!?

「だって別に恥ずかしいコトじゃねーもんなぁ? 誰にメーワクかけてるワケでもなし」
「一般に、大きな胸は誇らしいものとされておるしのう。もっとも、別に自慢するつもりもないが」
きょとんとした顔を見合わせるふたり。きっと本当に無いのだろう。バストを揶揄の対象にされた経験が。

「それにデカいっつっても、アタシらはまだ全然フツーレベルだって」
「左様。この程度で天狗になっては、あの方々に笑われるわ」
「あ、あの方々って?」

「数年に一度現れる、まことの『豊乳』じゃよ」
「!?」
「んーと……最近だとみおセンパイだっけ? アタシらより3コ上の」
「ああ、体操クラブの十津川先輩か。確かにとんでもない大きさじゃったのう」

えっ? このふたりを凌ぐバストの小学生が実在したの?

Iカップは国内で流通しているブラの最大規格。既製品のエンドラインだ。そのサイズまで発育してしまった私たちはきっと、世にも稀な小学生。
なのにそれを上回るなんて、小学生のうちにオーダーブラを着けてたってこと!?……さすがに信じられない。

「あとホラ、1年のときに集団登校の班長だった」
「あー、当時の6年生か。中山……いや、中村先輩?」
「アタシも名字忘れたなあ。『やえこさん』って覚えてたから」
「それじゃ! 中村やえこ先輩。あの人のも凄まじい迫力じゃったなあ」
かえでちゃんは自分のIカップよりさらに数cm先で、手のひらで持ち上げる仕草をする。

「しかし今思い返すと、大きく見えていたのはワシらが幼かったゆえかもしれんの」
「かもなー。なんせ小1だったし。さすがに記憶がアイマイだわ」
おでこを指でトントン叩き、思い出そうとするチホちゃん。

「とはいえ、今のワシらとは比較にならんかったのは違いないが」
「だよな。前後にランドセル背負ってるカンジだったもんな」
(そ、そこまで……!?)
一体何カップだったんだろう? 想像し、私はごくりとつばを飲む。

「そういえば先輩たち、プールでも特別なスク水着てたよな? こう……ムネんとこだけ白い布がとび出てるやつ」
「うむ。やはりあそこまで大きいと、既製品では絶対入らんのじゃろ」
「どこで売ってんのかな? アタシも欲しいんだけど」
「あれを着るということは、学校が特例と認めるサイズってことじゃからな。ちょっと憧れるのぅ♥」
「着てみたかったなー。このまま小6の夏が終わると思うと、無念だぜ」

「ええっ!? ちょっと待ってふたりとも、それ以上大きくなりたいの?」
「まあ」
「なれるものなら」

私はさらに驚いた。常識がまるで違う……
この村では、胸が「大きすぎる」というネガティブな感覚がそもそも無いのかもしれない。

「話を戻すが、あまね殿。ワシらにそんなことを聞くということは、ご自身は胸のせいで嫌な思いをした経験がおありかや?」
「!」
「アタシらみてーなムネの小学生、都会じゃ珍しいんだろ?」

あまりに当然すぎる質問に、私は頷く。
「うん。見たことないよ。私、普段はDカップに詰め込んでるけど、それでも目立っちゃうくらい」

「それなー、正直きついっしょ? 合ったブラ着けなよ。健康に良くないぜ」
「あはは。うちにも事情がありまして……」
心配してくれるチホちゃんを笑ってごまかしたけど、もちろん本音じゃない。

バージスラインを指でなぞってみる。
このビキニを貸してくれたルミちゃんには本当に感謝してる。(それでも下からあふれちゃうけど)
梁漁が終わったら、またあの小さなブラを着けるのかと思うと……憂鬱だ。

「でもね、男子からも女子からも、からかわれたことは一度も無いよ。教室のみんな、触れちゃいけないタブーとして扱ってくれるから。何だか気を使わせちゃってるみたい」

「はー、やっぱ都会じゃそーいうモンかぁ」
「ウチの村では、胸の大きさや美しさを誉め合うのはあいさつみたいなものじゃがのう。大人でも普通にやっとるぞ」
いや、そこは私に驚く権利があると思うな。

「周りの視線はどうしても集めちゃうけど、それは動物の本能だから仕方ない、って割り切ることにしたの。だから、見られることにはもう慣れたんだ」
「視線ねぇ……正直ピンとこねーな。つーか、男ってデカい胸に興味あるもんなん?」
えっ? そこからズレてるの?

「この村にもショボいけど一応本屋があんのよ。でさ、ここだけの話……アタシこっそり成人向けコーナー覗き見したことがあるんだ」
「え、え、え!?」
「まあチホなら驚かんよ。それで?」
かあっと赤面する私に対して、ニヤニヤと話を促すかえでちゃん。

チホちゃんはヒソヒソ声で続ける。
「置かれてた写真集やDVDさ、小っちゃい胸のヤツばっかだったぜ。大人でもAAカップとか。“微乳”っつーの? あーゆうジャンル」
「ははあ♥ 道理でじゃよ。小2から発育していたワシも、情けない話、殿方の視線を感じたことはないからのぉ」
リアクションに困る私をよそに、かえでちゃんはクスクスと笑う。

「ワシの胸に熱い視線をくれるのは、いつだってチホじゃからな♥」
「おいおい、そりゃお互い様だろー。アタシのムネ見るばかりか、しょっちゅう揉みやがって〜♥」

えっ!? このふたり仲良すぎじゃない? ちょっとアヤシイ関係を疑っちゃうんだけど。

「クラスの男子もそうだろうなー。あいつらデカい胸に興味ないと思うぜ」
「まあ、エロくないとは言わんが。たとえばマサトなんて、堅物に見えて意外とムッツリかも知れんぞ?」
「そうなん?」
「ワシがたまーに短いスカート穿いた日には、チラチラ視線を感じるがの」
「あー、スケベだなあ♥ カエデは」

猥談について行けない私は、苦笑いで相槌を打つのが精一杯だった。
(エッチな話題はやっぱり苦手……私、結局根がマジメなんだろうな)

「けどさ、あまねちゃん、さっき『見られることには慣れた』っつったよね?」
「うん。もう街を歩くのもへっちゃら」
「すると現状、イヤな思いはしてない、ってことになんね?」
「ううん。立場が逆」
「「?」」

(私の胸は、たったひとりを『苦しめている』の……それが私にとっての一番イヤなこと)

そう言いかけたところで、
「おーい! あんまり遠くに行っちゃダメよー」
「「「!」」」
割り込んできた声に振り向くと、こちらへ走って来る仁科さんが見えた。

(すごいっ……!)
ぶるんぶるんと跳ね回る、顔より大きいRカップバストに圧倒されてしまう。
その様はもはや“ドリブル”と表現できるかも。バレーボールをゆうに超えバスケットボールに迫るボリュームだったから。

「フゥ……夢中になるのもいいけど、フゥ……私の目の届く範囲にいてちょうだい」
「す、すみません」
そっか。私たち、釣れるポイントを探してうっかり遠くまで来たみたい。
ここでは仁科さんが保護責任者なのに、悪いことしちゃったな。

ところで、やっぱりそれだけ大きいと走るの大変なんですね。息切らせてる。

「あのう仁科さん、竹上さんのすがたが見えへんのですが、どないしたんですか?」
いつきちゃんが心配そうに尋ねる。

「ああ、竹上さんなら一旦家に戻ったわよ。『どうしても必要な物ができました。取りに行かせてください』って」
「え? 帰ってしもうたん?」
「10分くらいで戻るらしいわ」
「センパイんち、すっげ近くだから。ほらあそこ」
チホちゃんが指差す先には瓦屋根の立派な家。なるほど、5分もあれば行けそうな距離だ。

そこで突然、さやちゃんがピクンと反応する。
「! に、仁科さん……すぐ戻った方がいいかも」
ちょっと慌てた様子。敏感な耳で何を聞き取ったのかな?

「どうしたの?」
「向こうで『きゃー』っていう声が聞こえた……たぶん、青梅さん」

「「「ええっ!?」」」

「そ、それって叫び声?」
「さけび、っていうか……え……えっちな声」
「「「!?」」」
こんな緊急時に不謹慎だけど、顔を赤くするさやちゃんは思わず抱きしめたくなるくらい可愛かった。

「たいへんやー!」
真っ先に駆け出したいつきちゃんに続いて、私たちも後を追った。

しかしどんどん離されていく。歩幅が大きいのもあるけど、小3とは思えないスピード!
いつきちゃん、気弱な性格さえ克服すれば、すごいアスリートになれるんじゃないかな?



――この時、私たちは想像もしていなかった。
  不幸な事故により、小さな命がひとつ失われていたなんて――



私たちがそれぞれ大きな胸を揺らして梁場に着くと、衝撃の光景が。
「「「「!?」」」」

竹簀の上に仰向けでぐったりしている青梅さん。
その横から、上半身をかぶせるように倒れているナッちゃん。
ルミちゃんはすでにいつきちゃんが救助したのだろう。水のかからない足場に寝かされていた。でも、こちらも気を失っている。

私がドキッとしたのは3人の顔。それぞれが快感にとろけたように、「恍惚」とした表情だった。
※(真面目で優等生な小6、宮方あまねは「アヘ顔」という単語を知らない。インターネットでその知識を得るのは、約1年後のことである)

今いつきちゃんは、苦労の末にナッちゃんを引き剥がしたところ。
どうやら、気を失っても青梅さんの胸をつかんで離さなかったみたい。
青梅さんの白い水着は半分脱がされ、鏡もちみたいに大きなおっぱいが露わになっていた。

(きれい……)
こんな状況だというのに、一瞬私はその半裸に見とれてしまう。
眼鏡を外しているから少しボヤけて見えた。にもかかわらず、なぜか「美しい」という絶対的真実は伝わってくる。
不思議な感覚。まるで宇宙そのものが尊さを認めているようだった。

さっき「鏡もち」と表現した通り、白い乳房は仰向けでも形崩れせず、絶妙な丸みを保っている。
乳輪の色は薄い桜色。境界線ははっきり見えないけど、直径5cmはありそうだ。
その中央では、小指の先ほどの乳首がピンと天を衝いている。
(ええっ? じゃあ今、青梅さんは……)

※(第8話で本人が告白した通り、青梅ゆうは本来、陥没乳首である。それがなぜこのような状態になっているかは、後述を待たれたい)

私が数秒ぼーっとしてしまった間にも、チホちゃんはすぐさま足場に乗って救助に加わる。
「いつきちゃん、こっちパス!」
「はいっ!」
いつきちゃんは軽々と抱え上げたナッちゃんの身体を、チホちゃんに預けた。

「あ、あんまり大勢乗ると危険なんじゃ?」
重量制限は3人までと仁科さんは言っていた。
今すでに子ども5人が乗ってるし、いつきちゃんは並の大人より立派な体格。これ以上は危ない!

「あまねちゃん、石どけるの手伝って!」
「うん!?」
一瞬誰の声かと思ったけど、かえでちゃんだ。今は「のじゃ」口調を忘れるほど真剣なんだ。

私たちは地面から尖った石を取り除き、寝かせるスペースを確保する。
そうしている間に、さやちゃんは荷物から持ってきたバスタオルを敷いてくれた。
しかし頭を置くところがない。何か柔らかいものは?

「はぁ、はぁ、た、大変……」
「仁科さん! 今からふたり寝かせるので、ここに座って! ひざ枕たのみますっ!」
ちょうどやって来た仁科さんに、すかさず指示を出すかえでちゃん。大人が相手でも遠慮ないなあ。

「わ、わかったわ」
「よし! 寝かせるぞ」
チホちゃんがナッちゃんを抱きかかえ、足場から降りて来た。
すぐさま入れ替わりで私とかえでちゃんが乗り、協力してルミちゃんを担ぎ上げる。

しなやかな仁科さんの美脚。すべすべしたふとももの左右から、ナッちゃんとルミちゃんをそっと横たえる。
しかしなぜ初めに気付かなかったのか、

「あ、あの……邪魔かしら? 私のおっぱい」

仁科さんが“ぺたん座り”(正座から下腿を開いてお尻を着地させる姿勢)すると、ふとももの上空にバストがせり出し、隙間はほんの少ししかない。
ここに頭をはさみ込むの? ちょっと無理があるような……

「いや、それでいい! 鼻と口を塞がないように、顔の上半分におっぱいを乗せてっ!」

言われた通り、仁科さんは持ち上げていた胸を「どぷん」と乗っけた。
黒ビキニに包まれた特大の乳房で目から上を覆われ、“おっぱいアイマスク”状態になる。
なるほど。これで頭をずっしり固定できた。急に寝返りを打っても石の上に落ちることはない。

(そうか……これは“湯たんぽ”でもあるんだ)
水流を浴びながら倒れていたルミちゃんたちは、低体温症になってる可能性がある。
一方、往復で走って来た仁科さんは身体があったまっている。
つまり今、ふたりを温めるには仁科さんのおっぱいが最適なんだ!(温める部位が頭でいいのかはともかく)

「さすがカエデ! なんという冷静で的確な判断力なんだ!」
チホちゃんがどっかのテンプレみたいな言い回しで賞賛する。

(しかし重さは大丈夫かな? 柔らかいとはいえ、片方4kgって相当な圧だけど)

「あとは青梅さんだな! 手伝うぜ!」
チホちゃんは再び足場に乗り、いつきちゃんに声をかける。

(青梅さんはたぶん一番重いから、運ぶのに苦労しそう……)
失礼なことを考えてしまった。もっとも、いつきちゃんのパワーなら一人で持ち上げることも簡単かもしれない。

でも、そうしなかったのは賢明な判断だ。
なぜなら、青梅さんを持ち上げた時点で2人分の体重(たぶん100kg近い)が足元に一点集中してしまうから。
竹簀を踏み抜いてしまう危険を考えると、2人がかりで運ぶのが正しいだろう。

「まって! 素手でいろうたら(触ったら)あかんです」
「……なんで?」
「さやちゃーん、タオルちょうだい! 小さいんでええから4枚」

「そ、そんなに?……ない……」
「これをっ!」
私は着ていたTシャツを迷わず脱ぐ。そして、さやちゃんからありったけのタオルを受け取り、急いで竹簀まで届けた。

いつきちゃんとチホちゃんはそれら布類を受け取ると、両手に巻き付ける。
「これでいいか?」
「はいっ!」
ようやくふたりは“手袋”越しに青梅さんの身体をつかんだ。

「「せーのっ!」」
水をしたたらせ、重量感のある肉体がゆっくりと持ち上がる。
息を合わせて足場へ引き上げると、重そうなお尻からそっと横たわらせた。

「あ……あンッ♥ ハッ、ッン……♥」
さやちゃんが聞いたという「えっちな」喘ぎ声が、まだ青梅さんの唇から漏れ出ている。

「青梅さんは大丈夫。カラダもあったかいし、意識あるみたいだぜ」
「「よかったあー」」
これでやっと一安心。3人とも無事に竹簀から引き上げることができた。

「はぁ〜、ホントによかったわ」
安堵した仁科さんから肩の力が抜ける。
ぷにょ…
「仁科さん、ふさいでるふさいでる!」
うっかり前かがみになり、ひざ枕しているふたりの鼻と口まで覆ってしまったようだ。
「おっと!」
かえでちゃんに指摘され、背筋をシャキッと戻す仁科さん。枕役も大変だなあ。

「なるほど……いつきちゃんの言うとおりだわ。タオル越しであの感触って……やべーわ」
自分の手を見ながらつぶやくチホちゃん。一瞬、ぞくっと身震いしたように見えたけど。

いったい何なの?
どうして青梅さんにだけ、素手で触っちゃいけないの?

いつきちゃんの口からその理由が語られる。

「あたし……思い出したんよ。鳥さん助けた後のこと。
 ハシゴ踏み外したあたしを、青梅さんが受け止めてくれたやんか。
 あん時な、青梅さんのからだが気持ちよすぎて、チカラが抜けてもうたんよ。(第4話参照)

 しなこくて(柔らかくて)、ぬくくて、全身がとろけるみたいやった。
 指の先までふにゃふにゃんなって……『ずっとこのまま抱かれてたい』思うてん。

 そんで、青梅さんにかぶさってるふたりを見た時、すぐにわかったんよ。
 ルミさんナツさんも、気持ちよさで眠ってしもたんやって。

 でも、チカラ入れんと持ち上げられへんさかい……失礼かなぁ思たけど、『素手はあかん』言うたんよ」

(ま、まさかあ?)
確かに、青梅さんの肌は見るからにプニプニモチモチして、とっても触り心地良さそうだけど……
感触だけで脱力? その上眠らせちゃうなんて! いくらなんでもありえない。

ありえない、けど……
いつきちゃんの発言は、この後すぐに目を覚ましたルミちゃんによって裏付けられる。


********


まずは本当に、何とお詫びしたらいいか……

気が付いたら、何かとても大きいものが頭上を圧迫していたんですの。
どっしり重くて、プヨンと弾力があって、ポカポカ温かい。とても心地良い物体が。
未知のオブジェクトに驚いたわたくしは、飛び起きてしまいましたわ。
その結果、おっぱいを突き上げるカタチとなり……ビキニから飛び出た重量級の乳房が、仁科さん自身のあごに“おっぱいアッパー”を食らわせてしまいました。(Oppai Uppercut!)

「恩を仇で返すような真似をして、本当に申し訳ありませんっ!」
「ル、ルミちゃん、その件はもういいから」

救助されてから数分も経たず、わたくしは夢見心地から目覚めました。
ナッちゃんなんて本当は、もっと前から起きてたんじゃないかしら? たぬき寝入りでRカップの感触を堪能していた疑いは濃厚ですわ。

わたくしが揺り起こすと、ナッちゃんは目をぱちくりさせ
「あーっ! 青梅さんは大丈夫っ!? ナツが心臓マッサージを……」
と言いつつ五指を動かしました。(そのネタ何回やる気ですの?)

「もう起きてますわ」
「よ……よかったぁーーー!」

うむ、よろしい。青梅さんを心配する気持ちは本当だったようですわね。
命が助かったというのに。ここでちょっとでも残念な素振りを見せたら、さすがに不謹慎すぎてビンタしてますわよ。



順を追って話しましょう。
悲劇の始まりは一匹の小さなお魚でした。
急流の中で跳ね上がった魚が、青梅さんの胸元……やわらかな大峡谷に飛び込んでしまったのです。

「ひゃうぅンんんんッッッ! アッ! あはンッ♥」

水着の中をまさぐられるくすぐったさに、艶めかしい声を上げビクンビクンと悶絶する青梅さん。
(名誉のため伏せますが、アレはまさしく性感帯を刺激された時の反応でした)

わたくしとナッちゃんはそれを抑え、水着を脱がせてお魚を取り出そうとしたのですが……
ああっ、思い出すのも恥ずかしい!

青梅さんの白い柔肌に触れた瞬間、すくみ上がるほどの快感が背筋を駆け上りました。
そしていつの間にか、見えない力に引きつけられるように頬を寄せていたのです。まるで無意識の行動でした。
流水で冷えたわたくしの身体に、快感で火照った青梅さんの体温は心地良く、とてつもない安心感に包まれたのです。

その感触は……きっと一生忘れないでしょう。
この世のものとは思えない、天上の至福。
母に抱かれた記憶のないわたくしが、初めて味わう安らぎの境地でした。

いつの間にか全身の力が抜け、動けなくなっていました。
「ルミさーん! しっかりして!」
というナッちゃんの声もかすかに聞こえましたが(ついでにおっぱい揉まれたような気もしましたが)、それすらどうでもよく思えました。
陶酔のままに意識を失い……



「目覚めれば、仁科さんの膝の上(と言うかおっぱいの下)だった。というわけです」
「じゃあ、ふたりが眠っちゃったのは」
「はい……青梅さんのカラダがあまりに気持ち良すぎて、ですわ」

わたくしが説明を終えると、ナッちゃんも同意するように深くうなずきました。
ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのこと。だけどこんな二重遭難、予想できるわけないじゃないですか!

「えっ……? そんな……冗談でしょ?」
青梅さんが困惑するのも無理ありません。

「は、はは……やだなぁふたりとも。助けてくれたのは感謝するけど、わたしのカラダのせいにしないでよぉ」
恥ずかしそうに苦笑する青梅さん。
わたくしを責めてくれて構いません。ですが、先ほどの発言に偽りはありません。

「助けた? ナツ、結局お魚出せなかったけど?」
「えっ?」

その時です。青梅さんが立ち上がると、スク水の鼠径部からつるんと何かが滑り落ちました。

「「「!?」」」
突然のエロティックな光景に集まる視線。
青梅さんが産んだかのように見えたそれは、手のひらに乗るほどのかわいい小魚でした。
アマゴだかイワナだかわかりませんが、快楽責めにした犯人に間違いありません。

なんてエッチで人騒がせなお魚! 腹を立てたいのもやまやまですが、
「し……」

すでに十分すぎるほどの“罰”を受けていました。

「死んでる……」

小魚はピクリとも動かなくなっていました。水着の中で圧死してしまったのでしょう。
どれほどの苦痛か、あるいは快楽だったのか? 想像もつきませんが、安らぎの中で逝けたことを祈るばかりです。

「ごっ……ごめんね。水着の中から出た魚なんて、きたないよね? だ、大丈夫。これはわたしが責任持って食べるから」

注目の中、あたふたと言い繕う青梅さん。
しかし、命が奪われたという事実はどうしようもなく……場はおかしな空気のまま、静まり返ってしまいました。
仔細は違えど、皆さんこう思っていたのはないでしょうか。
「あの魚はきっと、『気持ち良すぎて』死んでしまったのだ」と。

「「「「…………」」」」

わたくしを含めた皆、青梅さんの肌に「おそれ」すら抱いているのがわかりました。
人知を超えた快感をもたらす、魔性の感触に。

一方、当人はひたすらに自分を恥じているようです。
(ああ……わたしって本当にダメだなぁ……気が弱いくせにトラブルメーカーで、本当に自分がイヤになっちゃう!)

息詰まる沈黙の中、ついに青梅さんが涙を浮かべてしまった、その時。

「おくれてごめーん」
細身にあり余るMカップをプリンプリンと揺らしながら、竹上さんが戻って来ました。手には大きなトートバッグを持っています。

「あれ? なんかあったの?」
事情を何ひとつ知らない笑顔に、みんなが救われました。
ナイスタイミング! 明るい雰囲気を取り戻すなら今しかありません。

「いやいや、たいしたコトじゃねーっス」
「そうよ。ハイっ、この話もうおしまい! ね♥」

チホちゃんと仁科さんが明るい調子で、しんみりムードを吹き飛ばしてくれました。
周囲のみんなもそれにつられて笑います。
青梅さんも涙をぬぐい、健気な笑顔を見せてくれました。

そうそう。明るく楽しいのが一番。済んだことは気にするだけ損ってものですわ☆

「ところで竹上さん、何を取りに戻ったんですの?」
話題を替えるため、わたくしは竹上さんのトートバッグを指差して尋ねました。

「あーコレね。プレゼントだよ。村の外から来てくれた皆へ、おみやげにと思って」
「うわあー何かな? 楽しみっ☆」
ナッちゃんも期待に目を輝かせます。

「うふふー。向こうに戻ったら渡すからねー♥」
何でしょう? あげる立場の竹上さんが一番ウキウキしてるように見えます。

そんなこんなで一騒動ありましたが、ちょうど交代の時間です。
結局わたくしたちの漁果はナッちゃんが4匹、わたくしが2匹、青梅さんが(例の小魚)1匹でした。
後半はあまねちゃん、いつきちゃん、さやちゃんのチームが梁漁にチャレンジです。

「おなかすいたねー」
「がんばろうナッちゃん。もうちょっとでバーベキューだよ」

うんうん。青梅さんも元気を取り戻したようで、めでたしめでたしですわ。


〜〜〜〜〜〜〜〜


「どうしたんですか?」
卯野医院へ向かう途中。先程のような急ブレーキではないが、加藤さんは突然車を停めた。

助手席の私を振り向くと、真剣な表情で言う。
「すみません。志木沢さんも降りていただけませんか? 今、ちょっと見過ごせないものを見てしまいまして」

来た道を数メートルほど歩いて引き返すと、自転車を引いて歩く小さな女の子とはち合わせになる。
「「!」」
さっき後ろから追い越した時は、様子がおかしいことに気付けなかった。

ここは急な登り坂ではない。
なのに、どうして女の子は自転車をこがず引いているのか?
……その疑問にたどり着けたのは、きっと加藤さんが優しい人だからだ。

「きみ、大丈夫かっ!?」
私たちは慌てて女の子に駆け寄る。身長から察するに、小学3年生くらいだろうか。

しかし、まっ先に目が行くのはそのかわいらしい脚。
膝の皮膚が痛々しく擦り剥けている。真っ赤な血が脛を流れ、サンダル履きの足を汚していた。

「ケガしてるじゃないか! 転んじゃったのかい?」
女の子は私たちを警戒しつつも、こくりと頷く。
麦わら帽子の下の顔は泣きべそをかいていた。痛みに耐えながらここまで歩いてきたのだろう。

「志木沢さんっ」
「ええ!」

すぐ応急処置にとりかかる。医療器具や薬は持参していないが、今日買ったばかりの『千々山の天然水』があるだけでも幸いだった。
ペットボトル入りのそれをすぐに車内から持って来てもらう。擦過傷はまず洗浄が第一。傷口を清潔に保つことだ。

「心配しないで。このおねえさんはお医者さんの学校に通ってるんだ」
「お水で傷を洗うからね。ちょっとしみるけど、痛いのガマンしてね〜」
あやすような口調には自信がなかった。小さな子どもと話すのは本当に久しぶりだ。

「……うん」
それでも、まっすぐ目を見つめ頷いてくれたことが、本当に嬉しかった。
(この子をきっと助ける!)
決意した矢先、私は余計な情報に心を奪われてしまう。

「!?」
間近で見て気付いたけど……この年齢ですでに胸の発育が始まっている!
今日会ってきた村人たちに比べればささやかだけど、かわいい膨らみが小児用Tシャツをこんもり押し上げていた。
ノーブラだけど明らかに私より大きい。Aカップ? いや、アンダーが華奢だからB以上……
あるいは、幼く見えても実は高学年? 身長の発育が遅れてるだけとか?

(バカッ! 今はそんな事どうでもいい。治療に集中するのよミレイ!)

加藤さんが女の子の自転車を道脇にどかす。
「かわいそうに。ハデに転んじゃったんだね」
サドルが変な向きに曲がり、チェーンが外れていた。なるほど、それが引いていた理由。

「よし、まずは家族のひとに連絡しよう。お嬢ちゃん、名前を教えてくれるかな?」
女の子はモジモジとためらった後、小さな声で名乗る。
「ふ……ふじおか、はる」

緊張をほぐすため、私からも質問する。
「はるちゃん、いま何歳?」
「な、7さい……小学2ねんせいです」

緊張がほぐれるどころか、私をさらに当惑させる答えが返ってきた。

つづく