千々山村自然教室

唐鞠 作
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「……つながりません」
携帯を切る加藤さん。はるちゃんから聞いた自宅番号にかけてみたが、留守のようだ。

「きのう、あたらしいじてんしゃを買ってもらったの。それで、うれしくて……ついとおくまで来て、ころんじゃったの」
はるちゃんの言葉が、呆然とする私の耳を素通りしていく。

そもそもこれは特異なことなのか?
医学的に、思春期早発症のボーダーラインは7歳半とされている。それ以降ならいつ乳房の発育が始まってもおかしくはない。

だから決して、胸の膨らんだ小学2年生を異常とは言えないのだ。
私はこれを、大学で小児科学を履修する前から知っていた。
10年前のあの日以来……罪の重さを確認するように、何度も繰り返し調べてきたから。

「大変だったわね。痛かったでしょう。……ところで、はるちゃん3月生まれ?」
「えっ、どうしてわかるの?」

名前から察するに、春生まれ。小学2年生ということは、誕生日が4〜5月なら8歳を迎えているはず。よって3月と推測できる。
今は8月下旬だから……まだギリギリ7歳半未満か。小児科医なら思春期早発症と診断するかもしれない。

だけど今、そんな心配が何になるの? 千々山村に常識が当てはまらないのは、匹田さんの話でわかっていたことじゃない!
(雑念を払えっ! 今は胸のことを忘れて、治療に集中するのよ!)

患部の洗浄は完了。周囲をギュッと圧迫することで出血はだいぶ落ち着いた。
「いっ、いたい……」
「ごめんね。もうちょっとがまんして」

小学2年生。その答えに私が動揺しているのは、幼すぎるからではない。
あの時の“あの子”と同じ学年だからだ。

状況もそっくり。傷こそ無かったけれど、あの子もこんな風に……麦わら帽子の陰ですすり泣いていた。
胸もちょうど、今のはるちゃんと同じぐらい。
(ああ……あの時の再現だ)
刻み込まれた後悔の記憶。10年前の夏の日がフラッシュバックする。

「ううっ……!」
「どうしました!? 頭が痛いんですか?」
顔をしかめる私を、加藤さんが心配してくれた。

(ダメよ私、弱気になるな!)
こんなの奇跡でも何でもない、ただの偶然よ。「罪を償う機会が巡ってきた」なんて、私の勝手な思い込み。
今できるのは、目の前のはるちゃんを救うこと。それだけなのよ!

「大丈夫。ティッシュ使い切っちゃったけど傷口を洗えたわ。今のうちに止血を」

ハンカチは持っているけど、あまり清潔とは言えない。ここに来るまでに畑や養鶏場で土を触り、何度か使用したからだ。止血帯には適さないか。
車内にあるタオルも普段農作業に使っているだけに、衛生面が心配だ。
どうする? 汗に目をつぶるなら……伸縮性のあるうってつけの素材を、今、私が着ているけれど。

「加藤さん、後ろを向いててください」
「え?」
「私のスポーツブラを止血に使いますっ!」
何をためらうことがある? 7歳児より小さいバストなんて無いも同じ。ものの数には入らないわ!

だけど、
「させませんよ」
加藤さんは、ブラウスを脱ごうとする私の肩にそっと手を置いた。

「どんな胸でも素敵だって、俺、言ったじゃないですか。自分を大切にしてください」
「こっ、こんな時に何を!? 今はそれしか」
「大丈夫です。俺に代わってください」
「…………」
同年齢の男性に真剣な表情で迫られ、私は退くしかなかった。

「心配いらないよー。ここからは俺が治してあげるからね」
不安げな視線を送るはるちゃんに、加藤さんは優しく語りかける。

「俺も子どもの頃ヤンチャだったからね〜。このくらいの傷、よく作ってたよ。ところではるちゃん、卵かけご飯は好き?」
「……うん。好き」
「よかった。じゃあアレルギーはないね」

加藤さんはクーラーボックスから養鶏場でもらった生卵を取り出す。それをおもむろに割り、中身を飲み干した。
「!?」
殻を軽く水洗いしてから、半透明の薄皮を剥がし、患部に貼り付ける。

(あれは!)
卵の薄皮を使った民間療法だ。卵殻膜にはヒアルロン酸、コラーゲン、グルコサミンなど、傷の再生に有効な成分が含まれている。アミノ酸の組成もヒトの肌に近い、天然の絆創膏なのだ。

この応急処置、私も知識としては知っていたはず。なのにどうして思いつけなかった?
わかってる……はるちゃんの乳房に気をとられていたせいだ!
(それでも医学生なの? しっかりしなさい志木沢ミレイ!)
私は自分を叱責する。

まだじわりと血が滲んでいるが、卵殻膜は上手く貼り付けられたようだ。
「よしOK、と。あとは傷が熱もってるから、コイツで覆っておこう」

加藤さんは、匹田さんからもらったばかりのキャベツを一枚剥き、よく洗ってから患部にそっとかぶせた。
「ひんやりする……」
はるちゃんの表情が少し和らぐ。葉の丸みが膝のカーブにもうまくフィットしていた。

「え? 加藤さん、これ大丈夫なんですか?」
「心配いりません。匹田さんトコは無農薬です」
「でもさっき、『石灰を多めにまく』とか……」
「あれは植え付け前の土にですよ。葉っぱには付着していません」

農業に関して私は無知だ。
考えてみれば、「布が必要」というのは固定観念だったかも。今この場で最も清潔な繊維質といえば、キャベツが正解なのかもしれない。
加藤さんがやろうとしているのは、傷を乾燥させない湿潤療法だ。卵殻膜でひとまずの止血はできたから、保湿と冷却の役目さえ果たせばよい。
(なるほど……新鮮なキャベツは水をはじくから、かさぶたにくっつくこともないわ)

加藤さんは信頼できる、聡明な男性だ。
さっきのアレルギーチェックも、ゆで卵や卵焼きではなく、「卵かけご飯」だった。抗原の卵白アルブミンが熱変性することを知った上での質問だったのね。※(←これは偶然)

「おねえさん……これで、あってるの?」

(いけない! 私が動揺してちゃダメ!)
だって、はるちゃんは私を医者見習いだと思ってるんだから。加藤さんの処置を疑っていたら、はるちゃんまで不安にしてしまう。

「そ、そうよ〜。キャベツにはビタミンKっていう栄養が多く含まれていてね。血を固めて傷の治りを良くするのよ」
摂取するわけじゃないから関係ないけど、嘘は言っていない。今は、はるちゃんを安心させることが先決だ。

「そうなんだあ。じゃあ、キャベツ食べたらもっと早くなおるかな?」
「治るとも。ほら、食べるかい?」

はるちゃんは、加藤さんからもらった葉っぱをシャクシャクとかじる。
「つめたくて、おいしい」
その無垢な様子は仔ウサギのようで、本当に可愛かった。

「ビタミンにKなんてあるんだぁ。きっと大きなビタミンなんだね」
「大きな?」
「わたし、アルファベットのうたしってるの。Kより前は小っちゃくてぇ、Kより後が大っきいんだ」
だいぶ警戒心が解けてきたのか、はるちゃんは少しおしゃべりになってくれた。

「わたしも2年生ではいちばんだけど、まだCぐらいなの。早くKになりたいなあって思ってるの」
「……!」
そこでようやく、いつの間にかバストの話題に移っていると気付く。

「小学生のうちにKになるとね、ほけん室でとくべつな水着がもらえるんだって。おかあさんもそうだったんだよ」

その言葉に驚愕する。「Kより前は小さい」なんて基準を、まさか7歳児の口から聞くとは!
そればかりか、Kカップの小学生が本当に実在したとは!
常識をあまりに逸脱しすぎていた。

だけど、自分の胸と比較して妬みをおぼえたわけじゃない。
それすらどうでもいいほど、「よかった」と安堵する気持ちがあふれた。
この村では、大きな胸が良いものとして受け入れられている。

(だからきっと……“あの子”のようにつらい思いをすることはないのね)
そう思うと、涙すらこみ上げてくる。
幼い頃の過ちは決して消えないけれど、少しだけ救われた気がした。



ビニール紐でキャベツを固定し、応急処置を終える。

「たすけてくれて……ありがとう」
はにかんだ笑顔でお礼を言うはるちゃん。ほとんど加藤さんのおかげだ。私一人なら気づかず通り過ぎていたと思う。

「でも、ちゃんとお医者さんに診せた方がいいわ」
「ちょうど良かった。俺たちもこれから卯野さんに行くんだ。一緒に乗せてってあげるよ」
「!!!」
はるちゃんの表情が一転。さぁっと青ざめる。

「だ、だめ……しらないヒトの車には、ぜったい、乗っちゃダメ……」
一度は解けた警戒心が戻り、再び全身をこわばらせていた。

「だ、だいじょうぶだよ。俺は村で農業やってる加藤っていうんだ。怪しい者じゃないよ」
「……おねえさんは村の人?」
「ち、ちがう、けど……」
正直に答えたのが仇か、はるちゃんは一層怯えの色を濃くする。
だけど、今の質問はごまかしようがない。AAカップに届かない私の胸で、村民だと偽るなんて無理でしょう?

「よくかんがえたら……たんじょう日とか、好きな食べものとか……わたしの “こじんじょうほう”を知ってるのって、あやしい……」
(あっ、はるちゃんって防犯意識のしっかりした子?)
疑いの眼差しすら可愛いけど、本気で不審がられているこの状況はまずい。

でも共感はできる。
「他人の車に乗る」というのは、小学生にとって引き返せない恐怖。絶対に超えてはいけない一線として、教え込まれているのだろう。

「ひとりで帰るなんて危ない。こんな足で歩いたら、また傷が開いちゃうよ?」
加藤さんも説得するが、はるちゃんは頑なに首を横に振る。

(……ここは私が!)
ふうっと息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
そしてはるちゃんの前にしゃがみ、同じ高さに目線を合わせた。

キャラクターのプリントされた女児用Tシャツの襟元から、“未来”のたっぷり詰まった幼い双丘が覗く。
向かいからは、お飾りのスポブラに包まれてなお平坦な、私の胸が覗けているだろう。
傍から見ればなんてアンバランスな絵面だろうか。

級友からクールだと言われる私は、冷たい印象を与えがちかもしれない。
だけど、この時ばかりは慈しみを込め、やさしい微笑みを向けていた。

純真な少女へ、ゆっくり諭すように語りかける。
「あのね、はるちゃんよく聞いて……」


〜〜〜〜〜〜〜〜


川沿いの歩道を2人の夫人が歩いていた。ひとりは白いつば広帽、もうひとりはサンバイザーをかぶっている。

自然教室の子どもたちが、おやつ休憩でアイスを味わっていた頃(第5話)、彼女らは校舎内で特別講義を受けていた。
講義といっても堅苦しいものではない。「発育の良い女児に、保護者としてどう接すればいいか」椎原ユキヨが教育者の経験からアドバイスする、お悩み相談の時間だった。

それを終えた今、再び娘の元へと向かっている。
すなわち、宮方あまねと新戸いつきが魚捕りを楽しんでいるであろう、上流の梁場へ。

「それにしても新戸さん、よく平気でしたね」
つば広帽の夫人、宮方瞳が、隣を歩く新戸美樹子に話しかける。

「平気って?」
「講義中に聞こえてきた大きな悲鳴、いつきちゃんですよね? 心配じゃありませんでしたか?」
「あはは。だってお昼にドッキリがあることは、私たち事前に聞いてたじゃないですか」
美樹子は明るく笑い飛ばしてみせた。

「いちいち心配しませんよ。ここでは、いつきをいじめる人なんていません。参加者のお友達もみんないい子ばかりですから」
「そうですね。……ここに集まったみんな、“同じ”仲間ですものね」
周りの善意を素直に信頼している。そんな美樹子を見て、瞳にはわずかな後ろめたさが募った。

「いつきが怖がりなのは元々です。身体はあんなに大きくても気が小さくてね。そんなあの子が『つよくなりたい』って、このイベントに参加したんですよ」
「そうでしたか。でもいつきちゃん、午前中はすごい勇気を見せてくれましたね」
ツバメのヒナを助けるために無茶をしたことだ。

「も〜、あれには親の私が一番びっくりしましたよぉ。
 でも正直、嬉しかったです。身体の成長ばかり目立つけど、心もしっかり成長していたんだと、知ることができました。
 これからはあの子の強さを信じて、見守っていけそうです」

「お強いんですね」
「えっ?」
口を滑らせたか、と瞳は思う。しかし構わず、いっそ美樹子への羨望も含めて吐露することにした。

「新戸さん、母親として肝が据わってらっしゃると言うか……見習いたいです。
 私はどうしてもダメでして。娘のことが心配で仕方ないんです。
 うちのあまねは反抗期なのか、妙に大人ぶっちゃって。私のことを『過保護』だってウンザリしています。
 ですが……まだ小学生。あの子が想像する以上に世の中は物騒なんです。
 窮屈な思いもさせていますが、何事も防犯のためです」

「はあ……東京での暮らしも大変ですねえ。あまねちゃんにごきょうだいは?」
「いません。たった一人の娘です」

「それなら心配も尚更でしょう。だけど、私たち母親も強くならなきゃいけませんよ。
 『子の成長を信じることが親の成長だ』って、さっき椎原先生から教わったばかりじゃないですか!」

ガッツポーズで励ます美樹子。子育ての先輩がくれたその笑顔を、瞳は頼もしく感じた。
※(美樹子に長男がいることは、今朝知り合った時に聞いていた)

「そう……ですね。ありがとうございます。
 新戸さん、上のお子さんは中学1年生でしたっけ? やっぱり反抗期とかありましたか?」

「いやぁ、息子もいつきと同様、引っ込み思案でね。地味〜な子ですよ。
 でも似てるのは性格だけ。身体はむしろ小柄で……いつきが小学校上がる時には、もう身長追いつかれてましたね。
 4つも下の妹にですよ? それで男子としての自信を失くしちゃったんだか。
 お兄ちゃんっ子でそばにいたがるいつきを、最近は遠ざけてるみたいです」

「そ、そうですか」
瞳は想像してみる。身長170cmのモデル体型な妹が「おにいちゃん」と慕ってくる日常。
自分の下着と混ざって、大きなブラジャーが干されている光景。
思春期を迎えた男子中学生には、相当きついのではなかろうか。



雑談を交わしながら歩いていると、ほどなくして梁場に到着する。

村役場の職員、仁科の見守る中、きらめく水しぶきを浴びて魚捕りに熱中する子どもたちの姿があった。
ひときわ長身のいつきは、さすがにこの距離からでもよく目立つ。

「おーい、がんばってるー?」
美樹子が手を振って呼びかけると、こちらに気付いてくれた。

「!!?」
しかし、瞳はそこで我が目を疑う。
約1時間ぶりに再会した娘、あまねが、見たこともない格好をしていたからだ。
眼鏡をかけていない、という些細な違いでは済まない。
真面目で品行方正な性格からは想像もできない、扇情的な服装だった。

布面積の少ない(実際は十分大きい)薄紫色の三角ビキニ。
95cmのバストはそこに収まりきらず、谷間ばかりか、脇、下乳へと全方向に柔肉を溢れさせている。
水菓子のようにプルルンと揺れる様は、見る者をイタズラに誘惑するよう。
若々しい弾力はまだまだ発育途中であることを物語っていた。この先もIカップを超えJ、K……と成長は続いていくのだろう。
下半身のビキニパンツも、まるで下着と変わらないような際どいライン。丸みを帯びかけた11歳のヒップを魅惑的に演出していた。

健康美の中に甘やかな艶を含むその姿は、実の母親の目からも“まるで別人”に見えたほど。
普段あれだけ気に懸けている愛娘の、知らない一面を見た気がして、

「あ、あまねっ! なんて格好しているの!」
瞳は思わず声を荒げた。


********


「よかったぁ。両方とも見つかって」
水着を脱がされた際に流れてしまったパッドを回収し、青梅さんはほっと一息。

「大事なものなの?」
「うん。ルミちゃんのだからね。なくしたらどうしようかと思ったよ」
ちょっとぉーーー! 誤解を招く言い方を!

「「あー……」」(察し)
かえでちゃん、チホちゃん、なんですの? その生暖かい目線は!

「ご、誤解しないでくださいまし! わたくしは自分の胸に満足し、誇りを持っていますわよ?」
「だいじょーぶ。ナツはわかってるから。ルミさんは詰め物なんてしてないって」
「ナッちゃん……」
やっぱりあの時、わたくしのおっぱい揉みましたわね?

そんな風に水辺で戯れていると、竹上さんが何かに気付いたようです。
「あれ? 向こう、どうしたのかな?」

指差す方を見ると、いつきちゃんとあまねちゃんのお母さんが合流していました。
何やら険しい雰囲気ですが……?



駆けつけてみるとやっぱり、あまねちゃんがお母さんと言い争いをしています。
(親子ゲンカかしら?)
だとすれば、父子家庭のわたくしには少しうらやましくもありました。

「別にいいでしょ! 私がどんな水着着たって」
「よくありませんっ! いつの間に買ったの? そんな……は、はしたない水着!」

グサッ!【ルミに10のダメージ】

「胸をそんなに露出させて! サイズが合ってないじゃない、そんな“小さい”ビキニ!」

グサッ!!【ルミに20のダメージ】

「なによ今更! ママにだけは言われたくない! いつも着せられてるDカップのブラよりよっぽどマシだよ!」
「と、とにかくシャツか何か着なさい」
「やだっ!」
「あまね!」
「今日という今日はガマンできない! 旅行の間くらい好きにさせてよ! どうして私だけこんな不自由を強いられてるの? 胸を締めつけなきゃ外を歩けないなんて、絶対におかしい!」

突然のダメージに胸を痛めたわたくしですが、あまねちゃんの真剣な気迫でハッと我に返りました。
彼女は今、本気で怒っています。
実の母親にガチで抗議しています。

「育ててくれて感謝してる……だけど、私のカラダは私のものだもん! ママが勝手に“恥ずかしいもの”にしないでっ!」
日頃抑圧してきたバストを誇示しながら、熱烈に訴えるあまねちゃん。

従順な“良い子”が見せた思わぬ反抗に、お母さんはうろたえているようです。
「あまね、わかってちょうだい。世の中には、あなたみたいな子どもを狙う悪い人がたくさんいるのよ」

「防犯を理由にすれば何でも通ると思ってる……そんな過保護から私は自立したいのっ!
 いつまでも親に守られてはいられない。自分の身は自分で守るんだよ。私のカラダは、私が責任を負うっ!」

その力強い宣言で、わたくしは思い出しました。
ツバメのヒナを見つけたとき、最初、あまねちゃんは放置を勧めていたことを。
でもそれは単なる冷淡でなく、ヒナの自立を考えた上での意見だったことを。(第3話参照)

「何言ってるのっ! あなたは……普通じゃないのよ。あなたの身体は男の人を簡単に狂わせてしまうの!」
「!!!」

衝撃的な一言。「普通じゃない」というあんまりな表現に、あまねちゃんもショックを受けたようです。
しかし、言わんとすることもわかります。
あの小学生離れした肉体に獣欲を昂ぶらせる男性は、世の中にごまんといるでしょう。
いや男性ばかりか、正直わたくしもその一人である自覚があります。ナッちゃんなんて言うに及ばず。

「あの〜スイマセン、ちょっといいですかあ?」
「「!?」」
おっと意外な展開。気まずい空気を無視するように、チホちゃんが割って入ります。

「さっきから聞いてたらぁ、アタシも傷つくんですけどぉ?」
「え?」
「あまねちゃんのムネを『普通じゃない』なんてぇ〜、アタシはどうなるんスか? 同じ小6ですけどぉ?」
そう言って、チホちゃんは挑戦的な視線を向けます。スクール水着にきつきつの谷間を見せつけながら。

「同じキュークツな思いしてる身として〜、共感できるんスよねぇ〜」
「なっ……!?」
「カエデはどう思う?」
「うむ、全く失礼な。人の身体をバケモノか妖怪のように言ってくれるのう」
いや、かえでちゃんはわざと妖怪っぽくふるまってるでしょ。

「いや〜、傷つくなあ〜。Iカップなんて普通だと思ってたのに。アタシら『異常』なのかぁ」
「まこと悲しいわい。実の娘ならば尚更ではないかのう〜」
わざとらしく嘆くふたり。彼女の言動を責めているのは明らかでした。
そのまま豊満なバストをゆっさゆっさ揺らして、あまねちゃんのお母さんに接近します。

「なっ、なんなの? あなたたち」
「「あまねちゃんの友達で〜す♥」」

考えてみたら彼女、チホちゃんとかえでちゃんには初対面。
娘に勝るとも劣らぬ小学生コンビを目の当たりにし、信じられない思いでしょう。

ちなみに、あまねちゃんのお母さんはかなり小ぶりなバストですわね。Bカップあるかないか……おそらくないでしょう。
そんな彼女が今や、自分の娘も含め3人のIカップ小学生ににじり寄られているのです。察するに余りある威圧感(プレッシャー)でした。

「おおぅ……」
その様子を羨ましそうに見るナッちゃん。(ほんとこの子は!)

「ここにご注目♥」
かえでちゃんは、改造スク水の腹部にある名札を指差します。
「ワシもチホも正真正銘の小学6年生よ。この程度のムネなら特に珍しくもないこと、おわかりいただけましたかの?」
「そーいうコト。だからあまねちゃんも全然普通フツー☆」

グサッ!!!【ルミに40のダメージ】

「今まで……ママが安心するならと思って、小さなブラを着けてきたよ。
 だけど本当はつらかった。もう終わりにしたいよ。
 私の成長、止まる気配がないんだもん。特に最近はぐんぐん大きくなってる」

グサァッ!!!【ルミに60のダメージ】

「5年の冬にFだったのが、この半年で一気にIだよ? このままじゃ本当に、卒業までに1メートルいっちゃうかもしれない」
「気にすんなって〜。アタシなんて半年で7カップ上がったぜ? まー、アンダー痩せたのがデカいけど」

グサァッ!!!【ルミに80のダメージ】

「アタシらは、そんぐれーで異常だなんて思わないぜ」
「左様。バスト3桁の小学生なんぞ、数年に一度現れるものよ。ワシやチホももしかしたら、の」

ズギャアアアン!!!【Critical Hit! ルミに100のダメージ】
(も、もうやめてぇえええ! わたくしのライフはゼロよ!)

ぐぎぃいいいいーーーっ! なんですのっ! この状況!?
シリアスな場面のはずなのに、どうしてわたくしだけフルボッコにされてるんですのっ!?

大人相手に「Iカップなんて普通」と言い放つ、チホちゃんたちのかっこいいこと!
あの弁護団にわたくしも加わりたいっ!
同じ巨乳小学生としてあまねちゃんを助け、友情を示したい!
嗚呼しかし! たかがGカップでは説得力不足っ!

(くやしぃいいいいっ!)
この越出馬ルミ、こんなにも己の貧しさを嘆いたことはありませんでした。

「こ、この村を基準に語らないでっ!」
押し寄せるおっぱいから目を背けつつ、お母さんは反論します。(今の一言だけならわたくしも同意ですわ)

「私だって、娘につらい思いさせたくないわ! だけど、あなたたち知らないでしょ? 都会が……東京がどれほど恐ろしい街か」
「関係ないよ」
「あまね!?」
「どこで暮らそうと関係ない。ママはいつだって人を疑ってばかりじゃない」
鋭い言葉は、実の母に対しても容赦がありません。

「よく『人は自分を映す鏡』って言うけど、ママがまさにそうでしょ。ありもしない悪意を自分の中でふくらませて、人に映し出してるんだから」

「な、何を言うの! いいかげんにしなさいっ!」
図星を指されたのか、お母さんもいよいよヒステリックになってきました。

マズい……この張り詰めた空気。険悪さを増していますわ。
あのチホちゃんかえでちゃんコンビですら、両者の気迫に呑まれて棒立ち。
周りの皆もハラハラしながら、一言も発せずにいます。
(え? 竹上さん、なんですの? その恐ろしい無表情……)

わたくしの心中も穏やかではありませんでした。
この論争、常識的に考えれば理はあまねちゃんにあるでしょう。
成長期の娘に小さなブラを強制するなんて、防犯にしてもやりすぎ。ともすれば虐待ですから。

だけど、お母さんに対する今の態度はさすがに冷酷だと思います。
一瞬、「ビキニ貸すんじゃなかった」という後悔がよぎるほどでした。

(でもそれは……わたくしが“母親”を羨ましく思っているから?)
たとえ歪んでいても、愛情を無下にする贅沢に腹が立ったのでしょうか。

「今日のあなたはどうしたの? 良い子のあまねに戻ってよ!」
いかにも教育ママらしいセリフで、お母さんは訴えます。

が、あまねちゃんはフッと嘲笑し
「良い子? そんなワケないじゃん……私は親不孝だよ。だって、ママがそんな風になっちゃったのは私のせいだもんね?」
「!!?」
「2か月前のあの夜……はっきりわかったの。私のこの胸が、ママを苦しめてるんだって!」

あまねちゃんが「冷酷」なんて、とんだ間違いでした。
だって今、彼女の目に浮かんでいるのは、愛情ゆえの熱い涙だったから。

つづく