千々山村自然教室

唐鞠 作
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6月のあの夜、東京の空は雨雲に覆われていた。
塾帰りの私は、駅の改札を出たところでママの迎えを待つ。

マナーモードの携帯が震え、確認してみるとママからのメールだった。
<今着きました。駅前がすごい人だかりだけど、何かしら?>

そこで突然、
「走らないでください! 駅構内は走らないでください!」
という駅員さんの声を聞く。
同時にガヤガヤした気配を感じたかと思うと、すぐそばを若い女性の4人組が駆け抜けていった。

「うっそ? ナッシュ来てんの!?」
「マジ! ここの駅前!」
「やっべ! もう混んでんじゃん」
「急げー!」

後で知ったのだけど、その時、駅前広場ではドラマの公開ロケが行われていた。そこに人気俳優の夏目俊が来ているとSNSに投稿があったらしい。
雨の夜だというのに。ファンの群れは傘の花畑を作り、カメラに映らない角度から撮影を見守っていた。

「きゃっ!?」
携帯に視線を落としていた私は、すぐ横を走り抜ける4人組にびっくりする。
ぶつかりはしなかったけど、必要以上に身をかわしてしまった。

「あっ!」
不注意だった。勢いでSuica(こども用)の入ったパスケースを落としてしまう。しかも、よろけた足でうっかりそれを蹴ってしまった。

(しまった!)
サーッと鉄柵の下をくぐり、改札内に入ってしまった。私は今出たばかりなのに、あれじゃ拾いに行けない。
駅員さんを呼んで事情を話さなくちゃ!

(でも……一瞬でも目を離していいの? その隙に誰かに拾われたら?)
あの中には塾生証とかの個人情報がたくさん入ってる。ケース自体も、友達とお揃いで買ったお気に入りなのに。
私が判断を迷っていると、柵の向こうではまさにパスケースが通行人の靴に踏みつけられようとしていた。
その時!

「すみませんっ!」
人混みから突然シュタッと現れた男性が、流れるような素早い動きでパスケースを拾った。
そして、鉄柵の向こうで目を丸くしている私に差し出してくれたのだ。

「こちら、落としましたか?」
「は……はい」

私が頷くと、その男性はリュックのポケットから除菌用ティッシュを取り出す。パスケースをきれいに拭き取ると、
「気をつけてくださいね」
少し照れくさそうな笑顔で返してくれた。

「ありがとうございます!」
私は素直に感謝し、まっすぐ目を見てお礼を言う。

彼はお世辞にもイケメンとは言えなかった。背は低めで、小太り。服装からしても絵に描いたようなオタクに見える。
でも、そんな容姿からは想像できない、忍者のように俊敏な動きでパスケースを拾ってくれた。それは目の前で起きた事実。
彼はそれ以上何も言わず、小さく頭を下げた後、人混みの中へ消えていった。

※(この男、塚口たかあきはアイドル握手会の帰りだった。除菌用ティッシュを携帯していたのも彼なりのマナーである。
 ちなみに3年後、彼はその身に別の精神を宿して千々山村を訪れることになる)

(あー、本当に良かった)
一時はどうなることかと思ったけど、無事パスケースは返ってきたし、中身も全て無事。
だけど、苦い思いをするのはこの後だった。

「あまね……今の人は誰!?」
後ろをふり返ってびっくりする。
恐怖と怒りをかき混ぜたような表情で、わなわなと震えるママがいた。男性とのやりとりを見ていたのだ。
私は事情を説明する。

「そうだったの……中身は無事!?」
「うん。何も無くなってないよ」
悪い人に拾われたら取り返しがつかないところだった。本当にあの人のおかげだ。

「そのパスケース、汚いでしょう? 新しいのに替えなさい」
「え? 大丈夫だよ。どこも汚れてないし」
「そうじゃなくて……」
「?」

「あんな男の手に一度でも渡ったんだから、気持ち悪いでしょう?
 ああいうオタクは怖いのよ? どっかにスマートタグとか仕掛けられたかも知れない。
 また買ってあげるから、そこのゴミ箱に捨てちゃいましょ。ね? それがいいわ」

するりと言い放たれた言葉に、私は衝撃を受けた。
今の今まで……ママを尊敬していたのに。
法律関係の仕事をし、社会正義に貢献する立派な大人。私の目標であり、憧れだったのに!
そのママが、容姿や性別で人を疑っている! ましてや危機を救ってくれた恩人を!

「絶対にイヤッ!!!」
周囲に聞こえるような声で拒絶し、ママを置き去りにスタスタ歩き出す。
“良い子”を自覚する私が、あからさまに反抗した瞬間だった。

「あまね……」
呆気にとられたママは、しばらくその場から動けなかったみたい。

後日知ったのだが、駅前で撮影されていたのは 別れのシーンだったらしい。


〜〜〜〜〜〜〜〜


「あのときの言葉、本当に軽蔑したよ。まさかそんな差別的な見方をする人だったなんて……そんなママは尊敬できない!」

2か月前、いったい宮方親子に何があったというのでしょう? わたくしには事情がわかりません。
「…………」
ただ、お母さんは返す言葉もなく、目を泳がせて立ち尽くすばかりでした。

「前はそんなじゃなかった。見境なく人を疑うようなことはしなかった。
 私は、大好きだったママを“変えた”犯人を探したよ。
 そしたらすぐにわかったんだ……
 私だって。こんな身体に成長してしまった、私のせいなんだって!」

「……ああっ……ちがう……それだけは違うわ!」
お母さんは苦しそうに頭を抱えながら、否定の声を絞り出します。

「ついでにもうひとつ教えてあげる。
 私ね、4月の頃、電車内で胸をじっと見られてヤダなって思ったことあるの」
「ほ、ほらやっぱり!」
「最後まで聞いて。どこでだと思う? 女性専用車両でだよ」
「!?」

(えっ? まさか同性からセクハラを受けたってことですの?)
あとナッちゃん、なんで今ビクッと反応した?

「しかも、結局は私の勘違いだった。その人は、息苦しそうな私を心配してくれているだけだったの」
「!」
よかった。チカンではなく善意の第三者でしたのね。

「その日はたくさんの人が乗ってて……ブラが窮屈で呼吸の浅い私は、酸欠で倒れそうだった。
 その人は、フラフラの私を見るに見かねて、次の駅で降ろしてくれたの。飲み物までおごってくれた。
 そして……私の“秘密”を一目で暴いたの」


〜〜〜〜〜〜〜〜


「失礼だけど……もしかしてあなた、ブラが小さいんじゃないかしら?」
「! どうしてそれを」
とっさに、両のこぶしを重ねて胸を隠す。

「わかるのよ。職業柄ね。そして今の反応でもう一つわかった。あなたが『理想の子』を演じるタイプだってこと」
「!」
「期待に応え続けるというのは、とても大きな負担だわ。胸を小さく見せるのも、相当なストレスでしょう」
偶然会ったこの女性は、なぜここまで私を理解してくれるんだろう?

「あなたにも事情があるんでしょうけど……くれぐれも無理はしないでね。
 どんな身体に成長しても、決して自分を嫌ってはダメ。自然体のあなたを大切に、胸を張って生きてね。応援してるわ♥」

「ありがとう、ございます……」
自分でも気付かないうちに、嬉し涙がこぼれていた。
見ず知らずの人がこんなに温かい言葉をくれるなんて、想像もしていなかったから。

「おっといけない。怪しまれちゃってもアレだから、身元は明かしとくわね」
別れ際に、その人は名刺を手渡す。大人から名刺をもらうなんて初めての体験だった。

「……高木、さん? 芸能プロダクションの方だったんですか?」
「ああ、勘違いしないで。あなたに声をかけたのは、別にスカウトでも何でもないから。
 ただ、もし興味があるならいつでも連絡待ってるわ。
 もちろん、“そこ”から開放され、自立した後の話だけどね」

※(この女性、高木は、当時デビューしたての桜木ミリアを支える敏腕マネージャーだった。
 翌年から、彼女はミリアの依頼で千々山ブランドの食品や飲料水を定期購入し、村の経済に貢献することになる)


〜〜〜〜〜〜〜〜


「あんな優しい人を疑うなんて、自分が本当に情けなかった……」
苦い表情から後悔の念がうかがえます。

「そして、自立したいと思ったよ。誰の視線も気にせず、堂々と胸を張って生きたいと!」
力強い決意は、心を震わせるものがありました。

母親に愛ばかり求めていたわたくしは、なんと幼稚なことでしょう。
あまねちゃんにとって母とは、尊敬の対象。自立した女性としての模範だったのです。
だから今こそ庇護を離れ、一個人として認められたいのです。

「……人は」
え? さやちゃん?

「生まれてくるカラダを選べない……わたしだって、好きでこんな目に生まれたんじゃない」
突然何を? しかし、障害をもつさやちゃんが言うと重みのあるセリフですわね。

「だけど、どんな人にも……ありのままの姿で幸せになる権利がある。
 自分でできること、助けてもらうこと、あきらめること……そういうの全部、自分のせきにんで決めるの。
 それが、生きてく自信になる……あまねさんは今、それをわかってほしいんだと思う」

えええっ!? さやちゃん本当に小3?
ミステリアスな雰囲気はしていましたけど、ずいぶん精神的に成熟していますのね?

「さやちゃん、むずかしいこと考えるんやなあ」
「わたしのおにいちゃんも『かほご』だから……なんとなくわかる」

あまねちゃんのお母さんはますます困惑しているようです。
「か、過保護と、言われようと……親は子を守るのよ! だって、世間はあまりにも……」

「ママ、私ももう6年生だもん……世の中に悪い人がいるってことぐらいわかるよ。
 私たちは否応なく、そういう社会に出ていく。
 だからって、全ての人を疑いながら生きていくつもり? 
 まず人を信じなきゃ、社会なんて成り立たないじゃないっ!」

ああ、彼女はとても強かったのです。
親に守られながらも、いずれ巣立っていく社会を見つめ、乗り越えるべき壁をわかっていたのです。

「『娘のため、娘のため』って……それで結局、私以外を信じられなくなっちゃったの?
 疑心暗鬼の中で被害妄想してばかり。
 私の存在が、ママの世界をどれだけ狭くしているの? ママをどれだけ孤独にしているの?
 それが、いちばん、つらいんだよ……」


〜〜〜〜〜〜〜〜


「あのね、はるちゃんよく聞いて……
 私たちを疑うのは、決して悪いことじゃないわ。安全を守るための賢い行動よ。
 確かに、世の中には悪い大人もいる。そんな社会にしてしまったのも……私たち大人の責任」

曇りない瞳を見つめながら、ミレイは優しく言い聞かせる。

「でも、そのために……人を疑わなきゃいけないなんて、寂しくないかな? はるちゃんだって、今つらい気持ちじゃない?」

「おねえさん……泣いてるの?」
幼い子にとって、大人の涙は大変珍しいもの。それだけに言葉以上の説得力があった。

「本当にいざという時、誰かの助けを信じられないなんて……とても、悲しいことだと、思うわ……」
薄い胸に遮られることなく、ミレイの涙はアスファルトに落ちる。



不思議なシンクロニシティだった。
同じ村の、ある場所では子どもから大人へ。ある場所では大人から子どもへ。
どちらも同じことを、心の底から訴えていたのだ。

「どうかお願い!」 「人を信じて!」


〜〜〜〜〜〜〜〜


水を打ったように、場は静まり返っていました。
あまねちゃんは涙を見せまいとうつむき、むき出しの細い肩を震わせています。
思いの丈をぶつけられたお母さんも、胸を射抜かれたように動けずにいました。

「宮方さん、お願いがあります」
沈黙を破り、ふたりの前にスッと歩み寄ったのは竹上さんです。

(! ……その顔は?)
さっきも見ました。真剣さを通り越した、「恐ろしい無表情」です。
わたくしは直感します。この状況で竹上さんは、誰よりも静かにキレていたのではないかと。

「どうか、あまねちゃんに正しいサイズのブラを買ってあげてください。
 小さなブラが健康にどれだけ悪影響か……私が“詳しく”説明してもいいですが……もう必要ありませんよね?」
冷静に脅すような声は、ゾクッとするほどの凄みがありました。

「宮方さん、私からもお願いしますっ」
続いて進み出たのは、いつきちゃんのお母さん。

「本人が拒否の意志を示しました。それでも続けるなら虐待です。同じ母親として黙っていられません!」
「おかあちゃん……」
その真剣さに、隣のいつきちゃんも驚いているようです。

「さっき椎原先生から学んだこと、思い出してください。娘の成長を、私たち母親が喜んであげなくてどうするんですか!」
彼女はそう言い、力強い笑顔で励ましました。
ああ、母を知らないわたくしにも本能でわかります。
子どもはいつだって、お母さんの明るい笑顔から元気をもらうのですね。

「……あまね……」
ついに感極まったお母さんはポロポロと涙を流し、娘を抱きしめます。
ふたりとも、もはや泣き顔を隠しませんでした。

「ごめんね……ずっと苦しい思いをさせて……
 ううん、それだけじゃない。
 あなたがこんなに強く成長していたこと……今日まで気付いてあげられなくて……ごめんね」

「ママ……私のカラダは恥ずかしくなんかないよ……だって、ママの子だもん。
 周りからどう噂されても……大好きな、ママの子だもんっ……!」

歪みない親子愛は、誰の目にも明らかでした。
一連のやりとりに感動したのでしょうか、仁科さんや青梅さんも目頭を押さえています。
わたくしの胸にも、こみ上げてくる想いがありました。

こうして、宮方家の親子ゲンカは感動的な決着を迎えました。

思い返せば、わたくしの貸したビキニが発端。
ヨシミさんの助言に従い水着を2着用意していなければ、そもそも起こらなかったでしょう。
(なんだか運命的なものを感じますわね……)

パン!
「!?」
手を叩く音が聞こえ、皆の注目が集まる先には竹上さんがいました。

「さあー、めでたく仲直りしたところでっ! あまねちゃんにプレゼントがありまーす☆」
その声と表情は、元の明るい竹上さんに戻っていました。
いやむしろ、恥ずかしそうな……それをハイテンションで押し切っているように感じます。

彼女がいそいそとトートバッグから取り出したものは、
「じゃん♪ こちら、65Iのノンワイヤーブラでーす」

「「ええっ!?」」
驚く親子に対し、「きゃっ☆恥ずかしい」みたいな反応をする竹上さん。(こんなキャラでしたっけ?)

「そ、そんな高価なものいただくなんて……」
「気にしないでください。むしろ、私からのお願いです。だってこれ……ハンドメイドだから」
竹上さんは照れ笑いしながら、あまねちゃんにブラを差し出します。

「自作!? すごい……こんな精巧なブラを?」
淡いアクアブルーの生地にワンポイントの刺繍を施したデザインは、彼女のイメージにぴったりでした。

「だけど私、本当のサイズ言いましたっけ?」
「ふふふ。そのビキニ、私が紐を調節してあげたでしょ? あれで十分わかるわ」
え? 凄っ!

「おぉ〜! ウワサは本当だったんスね」
両のこぶしを握りながら、チホちゃんが声を上げます。
「裁縫クラブ部長、竹上ななえセンパイ。どんな衣類も自作するほどの腕前で、ブラを一から作ることすらお手のものだと……めいかセンパイから聞いてるッス」

ああー、だからかぁ!
かえでちゃんの改造スク水を賞賛したのも、ハンドメイド精神に共感したからですのね。(第9話参照)

「わたしは知ってた……」
「サヤ?」
「この水着も……竹上さんが胸を広げてくれたし」
「なんと? そうじゃったのか」
驚きつつも納得するかえでちゃん。
言われてみれば、市販品では考えられない事だったのです。ティンカーベル風の女児用ワンピースに、Fカップのアンバランスボディが収まるなんて。

「あはは……バレちゃったなぁ。さすがに下着まで作ってるなんて恥ずかしくて、学校のみんなには黙ってたんだけど」
くせっ毛の頭をかきつつ、赤面する竹上さん。

「ブラは特に興味があってね、前々からコツコツ作ってたの。
 自分用以外に、たまにめいかや妹にも試着をお願いしてたんだ。
 だから家には、いろんなサイズのストックがあったの。
 それが今日、あまねちゃんを見て『どうしても必要!』って思ってね、急いで取って来たんだ。
 ゲスト参加のみんなにも、後で1着ずつ配るからね〜」

ふっ切れたような明るさで、趣味をカミングアウトしました。
(あれっ? わたくし達のサイズはいつの間に確認を?……まさか、目視で正確な値を見抜いたってことですの!?)

「ノンワイヤーのIカップなんて、東京だとなかなか売ってないでしょ? だから遠慮なく使ってほしいな。出来ばえには自信あるの。
 あまねちゃんの本当のブラデビューを祝って、ささやかな贈り物です☆」

「あ、ありがとうございます! うわあ……デザインも私好みで、本当にすてき。大切に使わせてもらいますっ!」
宝物のようにブラを受け取り、あまねちゃんは久しぶりの笑顔を見せてくれました。
(ところで「東京だと売ってない」なんて、なかなかのパワーワードですわね)

そこへひょこっと現れた小悪魔一匹。
「ねえ、あまねさん……それ、どうせなら今着てみませんか?」
「えっ?」
「せっかくお母さんと仲直りしたんだから〜、サイズの合ったブラ姿を見せてあげたらどうかなあ?」

さすが、おっぱい大好きナッちゃん! 絶妙なタイミングでとんでもない提案をしますわね。

とはいえ、さすがに無茶振りでしょう〜?
だってここ、野外ですわよ? お天道様の下ですわよ? いくら女子しかいないとはいえ、露出行為はいかがなものかと

「そうだね。着てみる!」
ええーっ!!?

「いいよね? ママ」
「ええ……嬉しいわ」

あの〜、ちょっとちょっとぉ!? マジで上半身下着姿になるんですの?
皆さん雰囲気に呑まれてませんかー? 常識ってやつをお忘れでないかしらー!?

「私、娘の成長から目を背けてきた、悪いママだった。……だから今こそ、あまねのありのままの姿、見せてちょうだい」

やっべえぇーーー!!!
最も防犯意識が高かった、あまねちゃんのお母さんのモラルが陥落しているっ!
シリアス展開がもたらした感動に、酔ってるんですわ!
(まるで催眠術のように。……こ、これが“空気による支配”ってやつですの?)

たとえば独裁者の演説のように。集団心理というものは、その場のムードを操ることで簡単に左右されてしまうのです。
ナッちゃんは機を見るに敏。常識の麻痺したあまねちゃんを一言唆すだけで、野外生着替えへと誘導したのです。
計算高いのか天然なのか、なんという煽動スキル……

(ナッちゃん、恐ろしい子!)
思わず白目になるほど、おバカキャラだと思っていた小4女子を侮れないと感じました。

まんまと乗せられたあまねちゃんは、視線に囲まれているのも構わずビキニを外します。
品行方正な優等生が、野外で、自発的に!(←興奮ポイントですわよ?)
背徳的なエロスを感じずにはいられませんでした。

野外の空気にプルンッ♥と晒された生おっぱいは、溌剌とした張りに満ち、美しい丸みを保ちながら前方へ突出していました。
上向きに位置する乳輪。綺麗なチェリーピンクは清廉さを象徴しています。
未熟と成熟。相反する魅力を兼ね備えたローティーンの乳房は、普通に生活していれば本人以外の目に触れません。ゆえに尊い!
しかも、あのバストは成長期の真っただ中にあります。「大切に使う」と約束したばかりのIカップも、近い将来キツくなってしまうでしょう。

あまねちゃんは前かがみになり、たっぷりと実った乳房をブラのカップに収めます。
(あのポーズ、谷間の深さが強調されて良いものですわね♥)
形を整え、姿勢を正すと……上半身ブラジャー姿になったあまねちゃんが、そこにいました。

「すごい快適! 私のムネ、すっきり収まってる……どこもキツくない!」

ジャストフィット感覚に喜び、あまねちゃんはぴょんぴょん飛び跳ねます。
(おいお〜い、いいんですの? そんな大サービス♥)
もちろん、それだけ動き回ってもおっぱいはこぼれません。ホールド性能も確かなものです。

知的で凛とした彼女に、爽やかなアクアブルーはお似合いのカラー。
ゆったりとしたノンワイヤー構造は、これまでの束縛を否定し、自ら選び取った開放を祝福していました。
背筋を伸ばして前方を見据える、今の姿にとても映えています。まさに“門出”にふさわしい一着と言えるでしょう。

「よかったあ。気に入ってもらえて本当に嬉しいっ!」
製作者の竹上さんも大喜び。
「これで少しは……ユイおばさんに追いつけたかな」
ん? 続けて何か呟いたようですが、聞き取れませんでした。

※(『どんなおっぱいも包む、つつみさん』こと、堤優衣は竹上ななえの叔母である。同時にブラフィッター、縫製技術者としての目標でもある)

「すてき……とてもきれいよ、あまね」
あまねちゃんのお母さんは感激に涙ぐんでいます。
母親が、娘の成長にまっすぐ向かい合った瞬間でした。
宮方親子のわだかまりはきれいに解け、この清らかな渓流に洗われていくようです。

向かい合うふたりに向けて、ナッちゃんが始めた拍手はすぐに周りに伝播しました。
わたくしも惜しみない賞賛を込め、拍手を送ります。
(おめでとう、あまねちゃん。お母さんといつまでも仲良くね)

ちょうど魚捕りも終了の時刻。
本当にいろいろあったけど……きっと一生忘れない、すばらしい思い出になりました。


〜〜〜〜〜〜〜〜


「つながった!」
携帯を持つ加藤さんの顔がパッと晴れる。
はるちゃんからお父さんの仕事場を聞き、千々山農協の青果出荷センターに電話してみたのだ。20コール以上かかったが、やっと受話器が取られたらしい。

「もしもし……高岡ァ? なんでお前が出るんだよ?」

<いやー、俺はメロン届けに来たんだけど、事務室でずっと電話鳴ってたからよ。誰もいなかったし、仕方なく俺が取ったんだ>

「グッジョブだ! そっちに富士岡さんいるか?……なにィ? 今から車出すとこ? こっちも緊急なんだ!……とにかく呼んでくれっ。頼む!」

<わかった。走って追いかける。俺の携帯にかけ直せ> ピッ

そんなやりとりの後、ようやくはるちゃんのお父さんと通話することができた。
向こうで全力疾走してくれた、高岡さんという人物に感謝する。

「はい……娘さんが道路でケガを。……ええ……応急処置はしましたが、これから卯野さんへ連れて行ってよろしいでしょうか?
 ……わかりました。はるちゃんに代わりますので、車に乗るよう説得をお願いします」
そこで加藤さんは、はるちゃんに携帯を渡す。

<はる、大丈夫かっ? お父さんだ>

「おとうさん? ごめんなさい! 買ってもらったばかりのじてんしゃ、こわしちゃって、ごめんなさい」

<そんなのはどうでもいいっ!
 そこの加藤さんは悪い人じゃないから、車に乗せてもらいなさい。
 卯野さんに着いたら傷を診てもらって、お父さんが迎えに来るまで待っているんだよ。わかったね?>

「う、うん。わかった」

よかった! これではるちゃんを連れて卯野医院へ行ける。

「あの……おねえさん、うたがってごめんなさい」
「いいのよ。さあ、傷が開かないようゆっくり歩いて。車に乗りましょう」
シュンとした顔のはるちゃんに、私は笑顔を向ける。

加藤さんは続けてどこかに電話していた。
「もしもし、タケカワサイクルさん?……そうです……峠の道で自転車を壊しちまいまして……はい。子ども用でオレンジ色の……」

<ああー、昨日買ってくれた女の子かあ。
 おーう、いいぜいいぜ。買って翌日ならアフターサービスだ。拾って、直して、届けといてやるよ。
 ちょうどせがれが出張修理に行ってっから。その帰りに向かわせるわ>
(出張修理? ああ、「チャリが壊れた」っつってた、中山ん家かな?)(第6話参照)

「うわあ、助かります……はい……ありがとうございます……それじゃ、落石注意の標識の脇に寄せておきますので……はい。よろしくお願いします」ピッ

電話を切った加藤さんは、ターンを決めるように颯爽とこちらを振り向く。
「お待たせしました。さっ、行きましょうか!」

その凛々しい顔に、思わずクスッと笑ってしまった。
「みんな親切で優しい人ばかり。千々山村は本当にすてきですね」

誰もが心のまま互いを信じ、助け合っている。
この地がくれる癒やしは、水や木々などの自然だけではなかった。
“ひと”もまた、そうだったのだ。

つづく