千々山村自然教室

唐鞠 作
Copyright 2019 by Karamari All rights reserved.

(だって千々山では……夜、“寝る”んだから)

 そう、とにかくこの村の女性は夜ふかしが苦手なのだ。
 実際、俺の母も姉もたいへん寝つきがいい。カフェインなしでは11時が限界である。
 さっき越出馬さんにも訊かれたが、店が遅くまで営業しないのは、早寝を重んじているからだ。良質で十分な睡眠。それこそ健康に欠かせないものだと、女性たちは本能で理解している。

(そういえば姉貴からこんな話を聞いたっけ)

 都会に就職した先輩が深夜残業で体調を崩したそうだ。そこまで恒常的な残業ではなかったらしいが、就寝が1時間遅れただけでも、身体への影響は無視できないものとなる。眠気に逆らうとたやすくバイオリズムが乱れ、睡眠障害に苦しむのだ。
 が、その女性は村に戻った途端、ケロッと回復したという。なんとも不思議な現象だ。

 そうした意味で、千々山女性が夜型生活に適応することは難しい。
 コンビニの一軒もないくせに言うのもアレだが……深夜に働く場合、それは男の役目なのだ。「女性の眠りを妨げてはならない」という常識を、村民は自然に共有している。

 ふと思う。もしかしたら千々山女性の胸は、良き睡眠の賜物ではないだろうか?
――【仮説@ 睡眠説】

 深夜に働かせたら、せっかくの豊かなバストがしぼんでしまうかもしれない。それじゃ本末転倒だ。

(まあ、完全に俺の邪推だけどな……)
 彼の人格を疑った失礼な邪推。きっとハズレだろう。
 だって越出馬さん、“いい人”そうだもん。
 少なくともスケベ目的でこの村を訪れたんじゃない。2時間ほど一緒に散策して、それだけはわかった。

 おっと。俺がバカな想像をしているうちに、食事が来たようだ。

「おまたせしましたー。盛りそばの山菜天セット、おふたつでーす」

 運んでくれたのはこの店の看板娘、伊上ももかちゃん。清楚で端正な顔立ちに、パッと晴れ渡るような元気を兼ね備えた美少女だ。

「やあ、今日はタケシくんの代わりにモモカちゃんがお手伝いかい? えらいねえ」
 カウンター席にいた別の男性客がももかちゃんを褒める。口ぶりから察するに、常連さんかな?

「はいっ。お兄ちゃんは自然教室に行ってます。だから今日はわたしがお手伝いがんばります!」
 素直な笑顔がまぶしい。とても良くできた、親孝行の娘さんだなあ。

 大学受験の冬、「うちのモモカも春から小学生でよぉ」と浮かれていた店主を思い出す。
 すると今は4年生か。しばらく見ないうちに大きくなったけど、胸はまだ未発育でAカップ程度しかない。村では珍しいかもな。(いかんいかん、俺はロリコンじゃないぞ?)

「おお、美味しそうですね。いただきます」

 俺たちは地場産の手打ちそばを味わう。
 キリッと冷えたコシの強い麺は絶妙なのど越し。そばの風味につゆのコクが合致し、最高の味わいだ! 薬味ネギのサクサク感もたまらない。天ぷらも香ばしく揚がっていて、山菜のほろ苦さと川エビの旨味が、ひと噛みごとに舌を喜ばせた。

(うまい……っ!)

(よしよし、越出馬さんも満足してるみたいだな)
 ふるさとのグルメを喜んでもらえるってのはいい気分だ。村職員志望として光栄だぜ。

(これは名物たり得る味だ! 千々山村がもつ「食」の魅力は埋もれさせておけないな。アピール次第で大きな集客が見込めるだろう。ガストロノミーツーリズムの種は、まだまだ他にもありそうだぞ。
 ……そういえば、ルミもバーベキューを楽しんでいる頃だろうか? どんな美味しいものを食べたか、後でぜひ聞かなくてはな)


〜〜〜〜〜〜〜〜


「おいし〜ぃい!!!」
 舌の上に広がるあまりの美味に、思わず声を上げてしまいました。(←本日2度目)

 辛めのタレで味付けされた鉄板焼チキンの、なんと美味しいこと!
 わたくし、このバストを育むタンパク源として、これまでいろいろな鶏肉料理を味わってきました。ヨシミさんのレパートリーは一流シェフ並ですし、たまに自分でも調理しますわよ?
 しかし中でも、シンプルな焼き鳥が大好物なのです。(庶民的嗜好かしら)

 さばきたての鶏肉は、下味の時点で炭酸水に漬け、柔らかくしてあります。それを炭火でジリジリと焼き上げる!
 ジュワッという蒸気音に、艶やかな焼き色。いざ噛みしめれば、表面はパリッと中はふっくら。ほとばしる肉汁に包まれた舌は、電撃的な旨味を脳へ伝えます。加えて、鼻腔をつきぬけるスパイシーな芳香がさらなる食欲を焚き付けるのです。
 すなわち、聴・視・触・味・嗅覚! 強烈な刺激は五感全ての鍵穴に突き刺さり、開かれた快楽の翼はわたくしを至高天へと導きました。

(ふゃわあああ!!! うますぎるっ……何かヤバいクスリ入ってるんじゃありませんのコレ!)
 失礼は重々承知ですが、あえてそう表現させていただきます。だってほら、

「おい しい……おい し……」
 ナッちゃんなんてもう語彙が死んでるじゃありませんの! 魂が虚空へ旅立っているようですわ。これまでの空腹も相まって、幸福感ゲージが振り切れたのでしょう。

「まっこと美味じゃのう」
「さすがは鹿谷シェフ。アタシらの出る幕ないぜー」
「そうね。陽介くんと一緒の年に参加できてラッキーだわ」
 かえでちゃん、チホちゃん、竹上さんも口々に称賛します。

「へへっ、サンキュー」
 鉄板上から目を離さないまま、照れくさそうに笑う陽介くん。このバーベキューは彼の独壇場です。

「陽介くんって、料理屋さんの子なんですの?」
「はい、鹿谷センパイは『こじか』って食堂の長男っす」
「小6でもう調理場に立ってるなんて、すげーよなあ」
 わたくしが尋ねると、進太くん・徹郎くんコンビが答えてくれました。

「ほらサヤ、こっち焼けたぞ」
「うん」
 ああ、さやちゃんはお肉の色が見分けられないんですのね。焼けたのを亮平さんに取ってもらっていました。
 もちろん、すべすべぷにぷにのほっぺたを膨らませて食べる様子は、悶絶級のかわいさです♥

「ほんまおいしいですぅ……。トリさん、おおきになぁ」
「命に感謝して食べてくれるのね。いつきちゃんは優しい子ねえ」
 涙ぐむいつきちゃんを椎原先生が褒めます。
 と、その傍らでもう一人、ぽろぽろ涙を落とす人物が。

「あの……青梅さん、なんで泣いてるんですか?」
 あまねちゃんが尋ねると、
「だ、だってこのお肉、すっごく美味しくて……なのにわたし、『自然教室は一人で参加したい』なんて……お母さんにひどいことしちゃった……」

 あらあら。食べられないお母さんがかわいそうで泣いちゃうなんて。純真な青梅さんらしいですわね。

「ちょっと濃い目の味付けも、粋な配慮ですね。汗で失った塩分を補給できます」
「ガハハハ! なーにカッコつけたレビューしてんだよ、マサト」

 岳さんはからかいますが、真慧くんの言うことは真実です。染み渡るアミノ酸の旨味は疲労を回復させ、そればかりか、合間にかじる生野菜のみずみずしさを引き立たせてくれます。

「地元産の野菜も、さすがの味ねえ」
「本当。こんなシャキシャキしたキャベツ、東京じゃ食べられないわ」

 大人陣(いつきちゃんママ・あまねちゃんママ)にも大好評。キャベツもトマトも本当に新鮮で、活きた植物細胞がパリッと裂ける瞬間、野菜本来の香りが鼻腔をくすぐります。やわやかな甘味に舌がリセットされ、再びチキンの旨味へと挑む、無限ループが完成するのです。

 大きなおっぱいに囲まれながら、美味しいお肉を食べられるなんて。二重の意味で大満足っ! これぞ肉欲の楽園(エデン)ですわ〜♥

(フーゥ……さすがですわ陽介くん。ここまで極上のグルメを提供してくれるなんて!)
 先ほどの失礼な振る舞いは、水に流すしかありませんね。この料理、ヤケ食いするにはもったいなさすぎますもの。


―― 30分ほど前 ――


 わたくしたちは林業基地近くの河原に戻り、男子の班と合流していました。ここがバーベキュー会場です。
 進太くんと徹郎くんが、椎原先生の指示でかまどの炭を準備しています。亮平さんと岳さんは、重そうな鉄板を運んでいました。

「ふー、さすがに疲れたねー」
「ナツ、もうハラペコの極みだよぉ」
 あまねちゃんもナッちゃんも、今までの疲れがどっと出た様子。わたくしは励ましの言葉をかけます。
「ほらほら、もう一息ですわよ。料理した後はお腹いっぱい食べられますわ」

「よいしょっ、と」
 仁科さんがお魚の入ったクーラーボックスを下ろすとき、重量級のRカップが「どぷるん!」と揺れました。今は水着の上にTシャツ姿。ですが、黒いスポブラが透けているように見え……かな〜りエッチです。
(わぁお、大胆!……ここには男性陣もいるというのに)
 一応、水着だから透けてもセーフですけど。仁科さんの特大おっぱいにかかれば、どんな衣装も扇情的に見えてしまいますわね。

「あ、女子の皆さんお帰りなさい」
「おつかれっす。いい魚捕れましたかー?」
 真慧くんと陽介くんがわたくしたちを迎えます。二人とも両手にバケツを持っていました。

「うん。どうにか人数分は捕れたわ」
「アタシらも美味い肉、期待してっからなー」
 竹上さんとチホちゃんが元気に答えます。

 そのとき、ふと気付いたのです。
(えっ? 陽介くん……こっちを見てる?)
 わたくしにとって日常的に慣れた感覚。しかしこの旅行では初めてで、とても久しぶりに思えました。

(間違いありません! このカラダに、ムネに……熱いまなざしを送っていますわっ!)



 脳内では、にわかに歓喜の宴が開かれていました。

黒ルミA「っしゃア!!! “待”ってましたわッ! この“瞬間”(トキ)を!」
黒ルミB「ウッフフフ♥ わたくしのビューティフルバストにクギ付けですわね。このスケベがぁ♥」
白ルミA「お、おちついて! お嬢様キャラが完全崩壊してますわよ?」

黒ルミC「ようやく一人、と言うべきかしら? むしろ遅すぎたくらいですわ」
黒ルミD「アアンッ……思春期のリビドーが放つヤラシイ視線♥ 乳首にビビッと感じますわぁ」
白ルミA「もーう、みなさんお下品ですわよっ! 特にD!」

黒ルミE「またまた〜、アナタだって本当は嬉しいくせに」
黒ルミF「これでめでたく、わたくしの魅力が証明されましたわね」
黒ルミG「ええ。視線をことごとく惹きつけるバスト。巨乳村で目の肥やされた男子も、例外ではなかったということ」

白A「ま、まあ……自信を回復するのは良いことですけど」
 白ルミもまんざらではない様子。喜びを隠しきれていません。

黒A「そもそも小学生なんですから。わたくしのは、巨乳と言うより『美乳』が相応しいですわね」
黒B「そうそう。デカけりゃ良いってものじゃありませんものねー」
白A(ああB! 言うまいと思ってた『お約束』を、ついに!)

黒E「けど、意外でしたわ。見るからにムッツリな真慧くんより先に、イケメンの陽介くんが釣れるとは」
黒C「ふぅん♥ もしかして、彼のフェチに刺さったんじゃないかしら?」
黒D「フェチって? 乳輪の色ならまだ見せてませんけど」
白A(Dーッ! 『まだ』って何ですの!? 『まだ』って!)

黒C「いやいや、たとえばこの水着。『お嬢様なのにスクール水着』というギャップ萌えが、陽介くんの心を掴んだとしたら?」
黒E「まあ! ……くすくす。とんだ変化球打ちですわね」
黒F「でしたら『パツン』くらいサービスしても、よろしくなくて?」

白A「なんですの? パツンって」(一瞬パンツに聞こえましたわよ)

黒F「こう……ね。スク水の胸元に指先を滑り込ませ、布地をクイッとつまみ上げて『パツーン』と」
黒B「ああ、お尻の食い込み直すときのアレ」
黒A「確かにセクシーですわね」
黒G「なるほど。一見、ズレを直すための自然な動作。しかし谷間は露わとなり、豊満なおっぱいはプルンと波打ってしまうわけですか」
黒C「あらあら。そんなの見たら、陽介くんの下半身が大変なコトになってしまわないかしら〜?」

 かしましく色めき立ち、イタズラ心に火がつく黒ルミたち。
 それに呼応し、現実のわたくしも動き出します。ススス……と手を胸元へ。(巨大ロボみたいな心境)

黒E「小悪魔系お嬢様って、アリじゃない?」
黒F「大いにアリですわね」
黒G「むしろサキュバス系?」
黒ABC「「「やっちゃえ♥ やっちゃえ♥」」」(いつの間にかチア衣装)
黒D「どうせなら、布地ズラすついでに乳輪もチラ見せしましょう」

白A「イヤァーーーっ!!! やめてーーーっ!!!」
 なけなしの理性をブーストさせ阻止するのは、たった一人の白き戦士。越出馬ルミを痴女にさせまいとする、孤独な戦いです。



 ところが行動を起こしてきたのは、陽介くんが先でした。
「あの〜、ちょっと聞くけど……」
「な、なに?」(彼氏いるの、とか? それとも直球で、バストサイズかしら?)

 あー♥ カワイイですわね陽介くん。モジモジしちゃって。ジャ○ーズJr.系の小学生をこんなにも惑わせちゃうなんて、わたくしのバストったらなんて罪作りな、
 
「こえでば、さん?」



黒A〜G「…………」
白A「……まさか」
 注目してたのは胸じゃなく、スク水の名札?

 脳内会議室では8人のルミたちが一斉に、ガシャーン! とズッコケました。(昭和かよ)



「『こしいずま』です……」
「あっゴメン、読み方分かんなくって」
「ルミで結構ですわ」
 ちょっとやさぐれボイスで返答しちゃったかもしれません。

 陽介くん、自己紹介(第2話)のときだけじゃ覚えられなかったんですのね。しおりの参加者名簿にはフリガナ無かったし、仕方ないか……

「じゃ、改めて聞くけどルミさん、エビとかカニにアレルギーある? これから料理すんだけど」
「いいえ特に。何でもおいしくいただきますわ」
「よかった。ほらなーマサト、そうめったにいるもんじゃねーって」
「いやいや、アレルギーチェックは大事ですよ」
 はー、元凶は真慧くんかい! ぬか喜びさせやがって……

 って違う違う! 喜んでないんていませんわよ!? わたくし、殿方の視線を愉しむビッチとは対極の、気品あふれるお嬢様ですもの。(意地)

「ほらこれ、午前中につかまえたやつ」
 二人が見せてくれたバケツを覗くと、小さな川エビや沢ガニがたくさんいました。

「一応、お客様に出す分だからさ。泥抜きに3時間ちょい置いといたんだ」
「普通の川なら丸一日かけますけどね。千々山は水がとてもきれいだから、省略しても気にならないんですよ」
「ほんとだー。水ほとんど濁ってないね」
 ナッちゃんが興味深そうに観察していました。ザリガニ釣りとか好きそうですものね、この子。


―― そして現在 ――


「うわあ〜、おいしい!」
「殻までカリッと揚がってる!」
 エビ・カニの唐揚げを、皆さん夢中でほおばっています。殻つきのワイルドな見た目とは裏腹、衣にハーブの風味が薫る上品な味わいでした。

「ん〜やばい! ビールほしくなっちゃうわ」
「こらこら仁科さん、子どもたちの前で」
「あ、失礼しました」
 椎原先生に注意され、照れ笑いする仁科さん。
 うーむ、モラルの基準が分かりませんわね、この村。おっぱいに関してはオープンなくせに。

「さすがはヨースケ。慣れたものじゃのう」
「まーな。エビやカニはこの時期、マオがしょっちゅう川で獲ってくるからさ。店でもよく揚げてるんだ」

「けど、今日のはひと味違うわね……衣がアレンジされてる」
 いきなりキリッと真顔で品評する仁科さん。ですが、
「いつものより風味が爽やかで、好みだわ♥」
 すぐに相好を崩し、満足気な笑顔で2個目をほおばりました。どうやら仁科さん、普段から『こじか』の唐揚げを食べているようです。
(ふ〜ん。あのRカップはエビの唐揚げで育まれたのね……なるほどなるほど)

「そういえば、さっき食べた川魚のホイル焼きも、香草とバターの組み合わせが最高だったわねえ」
「ハーブをここまで使いこなすなんて、本当に大したものだわ。ご教授願いたいくらいよ」
 あまねちゃんママ、いつきちゃんママからも絶賛の声。

「ありがとうございます! 気付いてくれて嬉しいっす」
 大人たちから称賛を受け、陽介くんはとっても嬉しそう。愛想笑いじゃなく、心から喜んでいました。

「実はオレ、夏休み中ハーブのこと勉強したんすよ。そんで、この日のために、特製のタレやスパイスソルト作って来たんです」
 おおーすばらしい! 小瀧さんもそうでしたが、料理人としての向上心に感服しますわね。

「だから、感想もらえてホントありがたいっす。これ、夏休みの自由研究にもするんで」
「う、ヤなこと思い出させんなよ」
「さては桑畑さん、まだ終わってませんね?」
 眼鏡をキランと光らせる真慧くん。

「そういやヨースケ、春ごろからよく通ってるもんな。魔女の店」
「えっ、『まじょ』?」
 亮平さんの口から発された意外な単語に、ナッちゃんが反応します。

「あ、アハハ……いやー、見られてましたか」
 なぜだか陽介くんは照れ臭そう。
「たしかに、ミス・アルジーヌにはいろいろ協力してもらいました。苗を譲ってもらったり、育て方を教えてもらったり。お返しにオレも、作った惣菜届けたりしてたっす」

「ねーねー魔女って誰? その『アルジーヌ』ってヒト?」
 ワクワクが止まらないナッちゃんの質問に、さやちゃんが答えます。
「ミス・アルジーヌは……薬草屋のおねえさん。この村に昔からある、『ろくそうえん』っていうお店を受け継いだの」

「で、そこでは魔法のアイテムとか売ってたり?」
「しないよ。……ただ、いつも魔法使いみたいなかっこうしてるし……わたしたち子ども相手には、『魔女』って名乗ってるの」
「な〜んだ。冗談かあ」
「……あ、でもね……」
 一度は否定しながら、思い出したようにさやちゃんは続けます。

「友達のあんなちゃんが言ってた……。本屋さんのガラスに貼ってある、お店のポスター……そこには、『からだのなやみ、ご相談に乗ります』って書いてあるんだって……。
 だから、本当に魔法が使えるなら……そういうの……病気を治す魔法かもしれない」

 ふむふむ。ポスター自体に「魔法」と謳ってなければ、誇大広告じゃありませんね。コスプレは個人の趣味ですし。
 それにしてもさやちゃん、そんな事を憶えているなんて。もしや「自分の目が治るかも」という期待を抱いてしまったのでは? ああ、なんて健気な。

「ふーん。ところで、そのアルジーヌさんって……」
 あ、次に来る質問なんとなく予想できましたわ。

「おっぱい大きい? やっぱ外国のヒトだから、こう、ドーンと」
 はい、案の定〜。半球を描くジェスチャー付きでナッちゃんは尋ねます。

「えっ……どうかなあ?……わたしはあまり会ったことないし……。いつも、服や顔の方に目がいくから」
「かお?」
「わかるー。あの人、すっごく若いもんね。20歳なのに中学生くらいに見えるし。バストはまあ、村の平均ぐらいじゃない?」
 竹上さんが助け舟を出します。

「サイズはだいたい私と同じ。ただし小柄な分カップは上がると見て……110cm、NかOカップってとこかな?」
 優れた測量眼をもつ彼女が言うなら、間違いないでしょう。

 しかし、見た目中学生くらいでNかOカップですって!? それこそ魔法でも使ってるんじゃありませんの!?
 さらに聞き捨てならないのは、「村の平均」という一言。軽くゾッとしましたわ。

「と言っても、これからまだまだ成長すると思うよ」
 ええっ!?
「竹上さん……それはちがうかも。だってミス・アルジーヌは……」
「あ、そっか。村の外から来た人は、大人になると胸の成長が止まるんだったね。忘れてた」

 いやいや、それ普通でしょ! なに例外扱いしてくれてんですの!?
 当然、竹上さんの発言に嫌味は一切ありません。「大人になれば成長は止まる」という医学的常識を、ごくナチュラルに忘れていたようです。
 この村では、成長が続くのが“当たり前”ってこと……?

 わたくしは改めて、村の大人たちのバストを観察してみました。
 仁科さんの前では見劣りしますが、実は椎原先生だってかなりのもの。御年60を超えたおばあちゃんのはずなのに、どういうわけか乳房だけは若々しい曲線を保っているじゃありませんの。竹上さんより小さいとはいえ、Kカップは確実でしょう。

(胸部が老化から取り残されてる……。まるで、そこだけ別に時間が流れているようですわ!)
 千々山村の女性は、誰もがこうなのでしょうか?

「しかし怪しいのう〜。ヨースケよ、魔女の店に通い詰めたのは、香草研究だけが目的かや?」
「へ?」
「本当は、歳上の女性に惚れてしまったのではないかの? くっくっく」

 あらあら、かえでちゃんったら無粋な勘繰りを。人の恋路をからかうものじゃありませんわよ? お年寄りの口調を真似ても、そのへんはまだお子様……

「ああ。好きだな」
「「「「ええっ!?」」」」

「オレ、本気で好きだぜ。ミス・アルジーヌのこと。
 20歳で店の看板を背負うなんて、マジでスゲーと思う。人間的に尊敬するし、オレもあの人にふさわしい男になりたい。そう思うと、料理人修行にも気合が入るんだ」

 陽介くんの表情は真剣そのものでした。チャラ男の第一印象を吹き飛ばすくらいに。

「う……うむ、そうかえ。そこまで本気で好いとるとは、殊勝なことじゃの」
 彼のまっすぐな視線に気圧されるかえでちゃんは、軽はずみな言動を恥じているみたい。

「鹿谷センパイかっけーっス! オレも応援します」
 徹郎くんが拳をにぎって立ち上がりました。続いて仁科さんも、
「いいじゃなーい♥ 8歳年上に片想いなんて、そう珍しい話でもないわよ?」
 ん? ああ、小瀧さんのことか。

「勇気もらっちゃった! 私だって来年には、年下の彼氏と職場恋愛してるかも」
「あ〜、それ仁科さんの願望じゃないっスか〜?」
「そもそも村役場に新人が採用されるんですかね?」
「おいおい、チホもマサトも野暮なコト言うもんじゃねーぞ」
 岳さんが嗜めました。千々山村のジャイアンは意外と良識人ですわね。劇場版かしら?

 それにしても、わたくしも陽介くんを見直しましたわ。
 友達の好きな人を知ったら、とことんからかい、泣くまでイジり倒すのがガキの発想。小学校という集団では、誰もが潜在的にその恐怖を抱くでしょう。
 だからこそ、陽介くんのカミングアウトは立派なものでした。強い恋心だけでなく、友への信頼がなければできませんものね。

 正直、感動させていただきました。そこまで真剣に片想い中なら、他の女子の胸など目に入らなくて当然でしょう。
(ええ、そうですとも! 今回は陽介くんの恋心が勝っただけ。決して、小6のGカップバストに魅力が無いわけではありません!)

 そんな負け惜しみを心中でつぶやきながら、改めて周囲を見渡してみます。
(ああ、皆さん……つくづくご立派なものをお持ちですわねえ)

 一般の成人女性では、まるで比較になりません。
 ここでは最小のナッちゃんでさえ、いつきちゃんママとあまねちゃんママ(それぞれ推定C、Aカップ)を合わせて、やっと届くレベルなのです。
 この状況を黙って受け入れるとは、二人ともさすが大人ですわね。ちょっと子どもじみた大人なら、子ども扱いに耐えきれず大人げない反応をするんじゃないかしら。(←おかしな日本語)

 特に村の子どもたち! 常識を全力で蹴っ飛ばしたかのような発育ぶりですわ。地域格差は歴然でした。一体どれだけ全国平均を引き離しているんだか……
 中でも、わたくしを負かし小学生日本一の座に君臨するチホちゃん。

「うめー☆ やっぱ青空の下で食うメシは最高だぜ!」

 今もいい笑顔で、料理をもりもり食べています。それに合わせて胸がムクムク膨らんでいるように見えるのは、さすがに目の錯覚でしょう。

 ん、錯覚……?
 あれっ……ウソ……?
(錯覚じゃないぃ!!?)

 いや、もちろんリアルタイムに膨張はしてないけど。でも、さっき簗場にいたときより明らかにでっかくなってません!? 2〜3カップは大きく見えますわよ?
 そればかりか、汗でうっすら透けた半袖体操着の下には……

(あ、ア、@@―――ッ!?)

つづく