千々山村自然教室

唐鞠 作
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 後かたづけを終えて校舎に戻ると、元の夏服に着替えます。バーベキューの間は水着にTシャツかサマーパーカーでしたので。
 わたくしたちゲスト参加者は、ここへ来る前に竹上さんからのプレゼント――お手製のブラを受け取っていました。※[第15話参照]
(あまねちゃんは、水色のノンワイヤーでしたわね。わたくしのはどんなかしら……?)

 袋から取り出してみると、それは純白のハーフカップブラ。かわいいフリルが控えめな程度に飾られています。高級感と清楚、両方のイメージを兼ね備えたデザインでした。
(まあ素敵! 純情可憐なわたくしにぴったりですわね♥)

黒ルミA~G「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 何やら心中がざわつきましたが、無視してさっそく着けてみましょう。
 91センチ(絶賛発育中!)のふくらみをプルンと滑り込ませてみれば、肌触りは滑らかでフィット感も抜群。ハーフカップでも安心のホールド性。魅惑の谷間もくっきりで、この上なく快適な着心地です。
 ハンドメイドなのでタグは付いていませんが、一緒に入っていた手書きのメモには『67.5G』とありました。
 まさにジャストサイズ! わたくし、普段は65G(トップ90センチ相当)を一番外側のホックで留めていますが、ときどきキツいと感じることもあります。かと言って70Gだと、ちょっと緩い。

(なるほど。2.5センチ刻みのアンダー調整で、最適なフィット感を実現しましたのね。ここまで正確な数値を目測できるとは……竹上アイ恐るべし! ですわ)

 それに彼女、下着作りは趣味と言ってましたが、いったい何通りのサイズをストックしていたのでしょう? ブラジャーへの飽くなき情熱には頭が下がりますわね。

 改めてお礼を言おうと思いましたが、姿が見えません。
「あら? 竹上さんはどちらに?」
「さっき、仁科さんに呼ばれて……いっしょに椎原先生のところへ行ったみたい」
 周囲を見回すわたくしに、さやちゃんが答えてくれました。
 ふ~む、意外ですわね。製作者として、わたくしたちの装着シーンを見たがると思いましたのに。

「わぁ~……これ、着け心地最高! 肩がスーッと軽くなった感じ」
 青梅さんも今はすっかり元気。新しいブラの性能を喜んでいます。

「ですよね! 私もそう思いました」
 それに同調するあまねちゃん。
「きっと、重みが分散される作りになってるんですよ」
「なるほど~。わたしと同じ中2でこんなの作れるなんて、本当にすごいなあ」

 確かにすごい技術ですが……青梅さんのブラで最も「すごい」のは、そのサイズじゃありません?
 カップの直径も深さも、わたくしたち小学生とは段違い! どんぶりをゆうに超え、ヘルメットと見紛うほどですもの。パステルグリーンに白の水玉模様というキュートなデザインは、ミスマッチなだけにいっそう巨大さを引き立てていました。

 空袋のそばに残されたメモをチラッと覗くと、驚くべき数値が。
(な、『75L』!)
 ということはトップ112~113センチ。おそらく、わたくしがこれまで見てきた中で2番目に大きなブラでしょう。(1番は仁科さん)
 そういえば……中学生用のスク水は、『110センチまで既製品を作ってる』んでしたっけ? つまり青梅さんは、ゲストでありながら千々山村の基準を超えたということ。驚くべき偉業ですわ!

 さて一方、いつきちゃんに贈られたのは、伸縮性のあるスポーツブラでした。なんせ彼女はまだ小3。ホックで留めるタイプは年齢的な恥ずかしさがあるだろう、という配慮かもしれませんね。
 色は薄いグレーで、一見地味ですが、ワンポイントの刺繍(かわいいペンギン♥)が、華を添えていました。本人も気に入っているようです。

 最後にナッちゃんは……確認するヒマがありませんでした。
 一番乗りで教室に戻った彼女は、シュバババッと高速で着替えを済ませ、わたくしが気付いた時にはもう、チホちゃん・カエデちゃんの着替えをじーっとガン見していたからです。

「おいおいナッちゃん、そんなに見つめてくれんなよ~☆」
「ワシらの乳が珍しいのは分かるが、さすがに視線がこそばゆいのぅ♥」
 と言うのも口ばかり。千々山小の誇るIカップコンビは全く恥じる様子がありません。ラップタオルすら使わず、豪快に水着を脱ぎ始めます。

「いえいえ。あっしなんぞにお構いなく……ウヘヘ」
 腰の低い丁稚のような言い回し。だらしない笑みで、情欲のまなざしを向けるナッちゃん。(スケベおやじか!)
 夕方になれば、ふたりの生おっぱいは温泉で見られるんだから。そんながっつくこともないでしょうに。

(さすがに目に余る態度ですわね……)
 どれ、ここはわたくしが懲らしめてあげましょう!

「ナッちゃんはどんなブラもらったの? 見~せてっ♪」
 熱視線を遮るように割り込んだわたくしは、彼女のTシャツのすそをつかみ、バッ!と顔の高さまでめくり上げました。

「わわわっ!?」
 布に視界を覆われ、慌てふためくナッちゃん。これで、チホちゃんたちの乳房がまろび出る絶好の瞬間を見逃したでしょう。ざまーみろですわ。(本当はわたくしも見たかったけど……)

「まあ、かわい~い♥ ガーリィ&ポップなスポブラですわね」
 ベビーピンクと白のストライプ。何層にも重ねたストロベリーチョコとホイップクリームを連想させる、甘やかなイメージでした。
 とはいえEカップあるわけですから、容積は十分ボリューミー。成長真っただ中にあるふくらみを、ストライプの歪みがさらに強調していました。おっぱいに“よこしま”な欲望を抱く小悪魔に、横縞の下着を贈るとは。フフッ、洒落が利いてますこと。

「ちょちょっ、ルミさん、下ろしてー! 今いいとこだからっ!」
「はいはーい、ごめんあそばせ」
 わたくしはパッとすそを離しました。

 妨害完了(ミッション・コンプリート)!
 女同士と言えど、人の着替えをジロジロ見るものではありませんわよ? 少しはモラルってやつを学べたかしら?

 さて、この十数秒のうちに、チホちゃんたちも下着を着け終えたでしょう。
 ――と、ふり返ってみれば、

「おーおー、カエデもますます成長してんじゃーん☆」
「ふぅむ、そろそろJに替えて良い頃かのう」

(全裸ァーーーーーッ!?)
 一糸まとわぬ姿で、互いのおっぱいをフニフニタプタプ弄ぶふたり! むなしくも、わたくしの時間稼ぎは意味がありませんでした。

 それを見て「むふぅ♥」と興奮するナッちゃん。結局、一番おいしいシーンは見逃しません。
(この子、運命に愛されてやがりますわっ!)

「チホさん、かえでさん……早くパンツはいてください」
「おっと、そうじゃった」
「アハハ☆ わりー、つい夢中になっちゃって」
 さやちゃんに言われて、ようやくパンツをはき始めるふたり。上級生がそんなんでどうするんですのっ! 少しはモラルってやつを学んでくださいまし!

 あと、決してわざと見たわけではありませんが……かえでちゃん、あそこの毛がまだ生えておらずツルンツルンでしたのね。もともと小6にしてはかなり小柄と思ってましたが、胸以外はとことん幼児体型! 全身の発育を一点集中させたような奇跡のボディは、ますます妖怪じみて見えます。

「それにしてもホント……小学生とは信じられない大きさですよねえ」
 着替えで体勢を変えるたびにプルンプルン揺れる4つの乳房を鑑賞し、ご満悦のナッちゃん。
「もしかして、村の小学校にはもっと大きい人とかいるんですか?」

「いや、今年はアタシとカエデが1位・2位だよな?」
「じゃな。6年生女子は全部で5人しかおらんからの。同級生のサイズはだいたい把握しとる」
 えっ? いくら人数が少ないからって、普通そういうものかしら?

「ワシらの他にはFが1人に、Cが2人おるぞ」
「いや。さっき会ったけど、アズサもDには達してたみたいだぜ。夏休み中に成長したんだろ」
 よ、よかった! 4位キープ! さすがにこれ以上順位を落とせませんわ!

「成長期は人それぞれじゃからの。順位なんぞ簡単に入れ替わるものよ」
「アタシなんて、つい半年前までぽっちゃり系Bカップだったからなー。それが一気に大逆転。小2からトップ独走のカエデを、いつの間にか追い抜いてたぜ」

「ふむふむ、なるほど……」
 頷きつつ、なんでちょっと残念そうな顔してるのナッちゃん? まさか本気でJカップ以上の小学生を期待していたなら、欲張りが過ぎますわよ?

「あのぅ、かえでさんって、そんな早くからムネふくらんどったんですか?」
 いつきちゃんが尋ねます。

「うむ。Cまではノーブラで過ごしたがの。Dカップの初ブラを買ったのは小2の秋じゃ。運動会を前に、リョーコ先生から強く勧められたわい」
「アタシとは逆に、昔からデカかったんだぜー。背はずっと一番チビのくせにな」
「一言余計じゃい」

「そっかぁ……。背ぇはちがいますけど、あたしのムネも去年それくらいやったんで、なんやかホッとしました。おおきにですぅ」
 仲間意識を抱いたのか、いつきちゃんは安堵混じりに微笑みました。

「それにしても、Iカップが2人もいるなんて十分すごいよ」
 あまねちゃんも会話に加わります。

「私のクラスなんて女子16人もいるけど、大きい子でもCくらいだもん」
 でしょうね。あまねちゃんが通ってたのは東京のごく一般的な小学校ですもんね。

 しかし、Dカップに詰め込んでた頃でさえクラス一位でしたか……。今後、正しいサイズのブラで通うようになったら、ちょっとした騒ぎになりそうですわね。

「ちなみに青梅さんが6年生の頃は?」
「わ、わたし!? ……え……Hカップ、だったけど」
 おお、さすがナッちゃん。流れに乗じて青梅さんの履歴を聞き出すとは。(ていうかわたくし、負けてるじゃない!)

「き、きっと今年は千々山村でも特別な『当たり年』ですわよね?」
 心のダメージを和らげるためか、わたくし、思わず卑屈な質問をしてしまいました。

「そうかの? このくらい、例年並みではないかや? さほど珍しくもなかろう」
「むしろ去年が小さめだったんじゃね? 卒業生で一番デカかったさつきセンパイでさえ、Gだったもんな」
 あ゛!? 今Gカップディスったか? コラァ!

「ムネなんて、学年によらずまちまちなトコあるしなー。個人差の方がデカいんじゃね?」
「左様。たとえばさやよ」
「……わたし?」
 いきなり名指しされ、眠そうな目をちょっと見開くさやちゃん。

「来年ワシらが卒業した後、小4にして学校一番になるのはおぬしではないかのう?」
「だなぁ。成長開始の早さといったら、サヤはカエデ以上だぜ?」
 ちょっ!? マジですの? 身長130ちょっとの小3がFという時点で驚異的なのに。

「なんたって、入学式の時点でCあったもんなー。新入生のおっぱいがぷっくり膨らんでるの見たときゃ、正直ビビったぜ」

 んなああああ!!!? さやちゃんにそんな過去が?
 小学校入学――わずか6歳にしてCって! とんでもねぇですわ! 早熟にも程があるでしょ!
 Cカップはトップ・アンダー差15センチ。現代の日本人女性に最も多いサイズです。そんなふくらみがいたいけな幼児のカラダに実っていたなんて……想像できますか?
 胴体の細さを考えれば、前方への突出は並のC以上。すなわち“成人女性の平均を超える6歳児”ということです。いろいろ反則すぎるっ!

「そ……そんなことない、と思う……。わたしがFカップなのは、身体がやせてるせい……。大きさで比べたら、5年生のまおさんの方が大きい……」
 無表情に恥じらいを潜ませながら、謙遜するさやちゃん。(2年も上級生と比べている時点で大概ですけど)

「あー、マオかぁ。確かにアイツ今、成長期みてーだな」
「ちなみにマオとは、ヨースケの妹じゃよ」
「すでにEカップぐれーあるし、5年じゃ一番だな。来年にゃGかHはいくだろ」
 そ、そんな……っ! わたくしの居る領域って、そんな容易にたどり着けてしまうの?

※[チホの読みどおり、1年後Hカップにまで成長した鹿谷まおは、桜木ミリア率いるTVクルーの取材を受けることになる。本編『地域振興課』第6話参照]

 皆すでに着替えを終え、竹上さんと仁科さんを待っている状況です。
(おっぱいトークが弾むのは結構ですが、このままではわたくしのメンタルがジリ貧ですわ……)

 あ、そうだ。今のうちに小さな疑問を解決しておきましょう。

 わたくしはナッちゃんの背後に忍び寄ると、がしっと肩をつかみその場に立たせました。
「わっ?」
「いつきちゃ~ん、ちょっといいかしら?」
「なんですか? ルミさん」
「ナッちゃんのおっぱい、軽く揉んでみてくださる?」
「!!?」
 突然の展開に目が点のまま、反応の追いつかないナッちゃん。

「そんなぁ……ナツさん、ほんまにええの?」
「ええっ!?」
 おっとその返答。関西弁の“Yes”と解釈されても文句言えませんわよ?

「はい」(むにむに)
「にゃははは!!! くすっ、くしゅぐったゃははは!」
 小高い丘に柔らかくめり込むいつきちゃんの指。たまらず、ナッちゃんは甲高い笑い声を上げます。

「ハ~イいつきちゃん、どうでした? 今の感触は」
「えっと……ポヨンポヨンしてぇ、えろう気持ちよかったです」
 指に残る余韻を確かめながら、ちょっと恥ずかしそうにレビューしてくれました。

「それをあなたのお国言葉で言うと?」
「え? ……し、『しなこい』?」
「OK! その言葉を待ってましたの」
「なにすんのさー! いきなりひどいよルミさん!」
 かわいいだけのぷんすかフェイスを向けるナッちゃんはさておき、結論を述べましょう。

「いつきちゃん、あなたのおうち、奈良県ですわね?」
「はい……そうですけど」
 言い当てられたいつきちゃんは、幼い瞳をぱちくりさせ驚いています。

「なんでわかりなはったのん? あたし、言うてへんのに」
「『しなこい』は、奈良の方言で『やわらかい』の意味ですわ」
「えー!? それ言わせるためにナツのおっぱい揉ませたの? 自分の使えばいーじゃん!」

「フフッ、じつはもっと前から予想してたんですけどね。
 小瀧さんのアイスを食べたときの、いつきちゃんのセリフ……
 『あたし、こんなあまいはじめてやわぁ』
 お菓子のことを『あまい』や『ほうせき』と総称するのも、奈良の方言ですから」

「すごーい。ルミちゃんって方言に詳しいんだね」
「お父様の仕事の事情でね。これまで何度も転校し、いろんな地方で暮らした経験がありますの。早く周囲になじむため、現地の言葉はそのたび勉強しましたわ……」
 褒めてくれたあまねちゃんに、思わず積年の憂いを吐露してしまいました。

「えーい! おかえしだーい☆」
 そんな空気も読まず、わたくしのバストに手を伸ばすナッちゃん。
 しかしそれも計算通り! ひと揉みくらいは覚悟の上です。触れた手をパシッと捕まえると、

「ごめんねーナッちゃん。おわびも含めて、ちょーっとあちらでお話いいかしら?」


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 先ほどのおっぱいトークに名を挙げられた、千々山小5年生・鹿谷まお。

 彼女は今、実家の食堂『こじか』で惣菜販売を手伝っていた。本人としては、調理や接客よりも川で食材調達する方が得意なのだが。
 調理場の戦力である兄が不在なので、今日は特に忙しかった。そのために、親友・尾崎しふぉんの誘いも断ったくらいだ。

「12Zカップの超ぉ~巨乳さんが村に来てるんだって! 捜しに行こーよ!」

 しふぉんはそう誘ったが、信じられなかった。
 親友の言葉を疑いたくはないが、いくらなんでも大きすぎる。12Zなんて聞いたことがない。「何を夢みたいなことを」というのが正直な感想だ。ちょっと悪ふざけが好きな彼女のこと。他愛もない冗談で、かついでいるに違いない。
 ――と、そう思っていた。つい1分前までは。

「Mamá, ¿esto es un camarón pequeño?」(ママ、これって小っちゃいエビ?)
「Si, La comida frita en esta tienda es especialmente deliciosa」(そうよ。このお店の揚げ物は特においしいのよ)

「あ、あ、あ」
 驚愕のあまり、基本のあいさつすら発声できない。暖簾をくぐって立ち去る彼女の後ろ姿は、まおの脳裏に焼き付いていた。
 なぜなら、とてつもない物体が左右にはみ出し、だっぷん……だっぷん……と重々しく揺れていたから。胴幅どころか肩幅を越えている。“腕を下ろした状態”でも背後から見えるのだ。

「ありがとう ござい ました……」
 ようやく口に出せたのは、その客が店を出た後だった。

(なななななっ、なっ、なっ、なんなのアレ!? 今のお客さんヤバい! やばすぎるっ!)

 最近グングンと発育し、しふぉんからもたびたびいじられるEカップの胸。その下で、鼓動の高鳴りが治まらない。常識をぶっ壊されたショックで、軽くめまいがしそうだ。
 忙しいランチタイムを過ぎて、客足も落ち着いた午後2時台。
(はぁー。このまま何事もなく、夏休みの一日を費やしちゃうのかなあ……)
 などと物憂げにしていたところへ、突然の衝撃だった。

 食堂で接客を手伝うまおは、多くの村民と交流してきた自負がある。『こじか』は惣菜屋も兼ねているので、当然、主婦層のユーザーも厚い。

 実際、まおはこれまで大勢の女性客とコミュニケーションを重ねてきた。
 市役所に勤める美人のお姉さんはRカップ。ビールのおつまみにと唐揚げを買ってくれる。
 農協で事務をしているふくよかなお姉さんはYカップ。何度かダイエットを決意しても、必ず月に一度は丼ものを食べに来てくれる。
 男勝りで威勢のいい看護師さんはUカップ。かっこいいバイクを駆る姿に、ちょっと憧れているのはないしょだ。
 背の高~いお寺の奥さんはXカップ。精進のためお肉を食べないのに、あんなに大きくなれるんだなあ……と、不思議に思っている。
 ちなみに、店にキャベツを卸してくれる農家のお姉さんはVカップだ。

 こんな風に。特に意識しているわけではないが、女性客の姿を脳内データベースに記憶していた。

『サイズを訊くのも失礼ではない。
 大きな胸・美しい胸には、ほめ言葉を。
 もっと大きな胸には、いたわりの言葉を』

 ――それは村の接客業における基本。『小瀧豆腐店』や『田舎そばの店 日々喜』でも、看板娘たちは同様に心得ている。

 しかし、だ。
 たった1分前にまおが見たバストは、脳内ランキングの上位者をはるかに凌駕していた。あれほど人間離れした超乳には、かける言葉も見付からない。ただただ圧倒されながら、ぎこちない接客でエビの唐揚げを売ってしまった。

 Zカップオーバーなら、これまで数回見たことがある。たとえば、たまに娘さんと一緒に来てくれる主婦、富士岡さん。彼女はZか2Zだったはず。村でも屈指の存在だ。
 その富士岡さんすら遠く引き離すバストの持ち主が、目の前に現れるなんて!

 初めて見る母娘だったので、旅行者に違いない。
 いや、深く考えずとも、外国語を喋っていた時点で明らかだ。
 母親は日本人のように見えたが、褐色の肌の娘さんはハーフだろうか? 身長から推測して3~4歳くらいの幼児。そちらの胸を観察する余裕はなかったが、もしかしてすでに……?

「ほ、ホントにいた……。ウソじゃなかった……。シフォン、疑ってごめん」
 まおはつぶやいてから、すぐさま父親に呼びかける。

「お父さーんっ、お店落ち着いてきたから、手伝いもういいでしょ? あたしレジ外れるね! 友達に電話しなきゃっ!」


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 わたくしのガード不能つかみ技『ちょーっとお話いいかしら?』も、これで3度目。半ば強引に、ナッちゃんを廊下に連れ出しました。

「ど、どうしたのさールミさん! さっきからナツのおっぱいに興味持ちすぎだよ?」
 お前が言うか!

「ナッちゃん、今さらですがこの自然教室、何かおかしいと思いません?」
「へ? まだ探偵ごっこ続くの?」
 『まだ』ですって? いいえ、むしろここから。いつきちゃんの住所は、もっと重大な謎を解くためのカギに過ぎません。

「よろしくて? 関西広しと言えど、いつきちゃんは奈良県在住と判明しました。
 ならば! 彼女がこの自然教室に参加していることは、きわめて“不自然”なのです。
 どうしてか分かりますか?」

「んーと……奈良県には木がいっぱい生えてるから?」
「え゛?」
「つまり、奈良はシンリンメンセキが広くて、もともと自然豊かなのに、わざわざ他の県の自然教室に参加するのはおかしいぞ。と、ルミさんは考えたワケ?」

「そ、そうっ。その通りですわっ!」
 ビックリしました! ナッちゃん、おバカそうに見えて意外と賢いじゃない!(今のは普通、答えられない流れだったでしょ……)

「そんなんカンタンじゃん? タダ券が送られてきたからだよ」
「はい?」
「鉄道と旅館のタダ券。ルミさんも持ってるでしょ? コレ」
 そう言ってナっちゃんが取り出したのは、『青いきっぷ』。

「も、もちろん持ってますけど……。えっ? これ、タダで送られてきたの? わたくしはてっきりお父様が購入したものかと……」
 でもたしかに。交通・宿泊費が無料なら、遠方からの参加もうなずけます。

「はは~ん☆ さてはルミさん知らなかったんだね? 自然教室のゲストは『選ばれしソンザイ』だってことを」
「はぃ?」
「ふっふっふ。やっぱ知らないんだー。ナツたち5人は、村のトクベツな招待客なんだよ? いわゆるヒップってやつ」
「なんでお尻なのっ! それを言うならVIP(ビップ)でしょ!」

 コテコテの漫才をしている場合ではありません。
「そんなこと、ナッちゃんはどうして知ってるの?」
「券と一緒に届いたんだって。『あなたは選ばれました』的な手紙が。読んだのはおかあさんだから、ナツは詳しく知んないけどー。懸賞が当たったとかじゃない?」

 『選ばれた』ですって? それはそれで不気味。
(いったい何を基準に……ハッ!!!)

 考えるまでもなく明白でした。むしろ、なぜ今まで気付かなかったのでしょう? わたくしたちの共通項――あからさまに示されていた作為に!
 ゲストには男子がひとりもいません。そして、こんな胸の大きい小中学生ばかり集まるなんて、偶然ではありえない。つまり「ヒップ」ではなく、

「わたくしたちは……バストを基準に選ばれた?」

 ゾッと悪寒が走りました。だって恐ろしいじゃないですか! カラダの数値というプライバシーを、遠くの村の教育委員会がどうして知っているの?

「アレ? ほ……ホントだぁ。言われてみれば、こんなのグーゼンじゃないよ!」
 やっとナッちゃんも不穏な状況に気付き、真剣な顔つきになります。

「その通り! ムネの大きい子にだけ当たる懸賞なんて、もはや『懸賞』と呼べません。これは『選別』ですわっ!」

 どういう経緯で、どんな目的でわたくしたちを招いたのか? 考えるほどに不気味です。よもや、悪質な罠にはまったのでしょうか? か弱い乙女に害なさんとする不埒者が、裏で糸を引いているとか……
 あれっ? でも……保護者も一緒に招待しているということは、悪意あるイベントではないのかしら?

「ねえルミさん、もしかしてこれ、スカウトじゃない?」
「スカウト?」
「そう! ナツたちと村の子でグループ組ませてさ。『おっぱいのでっかいご当地アイドル』として、村おこしに使う気なんだよ」
「ば、バカおっしゃい! おっぱいで村おこしなんて、狂気の発想ですわっ!」

※[同時刻。実家に戻った中山昇一は、修理依頼していた自転車が直っているのを確認しつつ、大きなくしゃみをした]

「もしそうなら、何のための自然教室ですの?」
「どっかから撮影してるとか? エクスプロージョンビデオに使うんだよ」
「それを言うなら『プロモーション』でしょ! おっぱい爆発させる気?」
 ああもう! 誰も見てない廊下で、なぜわたくしたちは漫才を演じているの!?

 と、そこへ。にわかに女性3人の話し声が聞こえてきます。
「しぃーっ……!」
「!」
 すかさずナッちゃんを黙らせ、会話に耳を傾けました。
 どうやら廊下を曲がった先で、椎原先生・仁科さん・竹上さんがお話しているようです……



「ここまですべて順調ですね、先生」
「そうね仁科さん。予想以上の成果だわ。新戸さんも宮方さんも、コンプレックスを乗り越えたみたい」
「宮方さんの場合、どっちかと言うとお母さんの方ですけどね」

「だけど……まだ少し心配なのが、青梅さんのことなの。気丈に振る舞っているようでも、ときどき表情を曇らせているみたいで。竹上さんは気付いた?」
「はい。ゲスト組の年長者として、弱さを見せないようにしてるのかな? と思います」
「だからね、できればさりげなく相談に乗ってあげてほしいの。もしかしたら……彼女の悩みは、胸と別のところにあるのかも知れない」
「まかせてください。女子の悩みなんて、外側からは分からないものですよ。胸とは関係なく、中2同士として話してみます」

 えっ……『なやみ』?

「そういえば、三森さんと越出馬さん。あのふたりはバストに悩んでいるようには見えませんね」
「むしろ誇らしげですよね」
「特に三森さんなんて、行きのバスでも『学校一番になったよ☆』って、嬉しそうに話してましたよ?」
「そ、そうねえ。文科省の情報も、案外当てにならないのかしら」

 はああっ!? 『文科省』? スケールのデカい話になってきましたわよ!?

「出席状況に問題のある全国の小中学生から、『大きな胸が原因』と思われる女子を、5人選抜したんですよね?」
「ええ、そのはずよ。でもさすがに、悩みの原因まで指定したスクリーニングは無理だったみたい」
「もっともな話ですよ。心の問題はデリケートで、サイズのように数値化できませんから」
「でも、結果オーライじゃないですか。ナッちゃんとルミちゃんは、ムードメーカーとして場を明るくしてくれます!」
「そうね竹上さん。私もあのふたりを招待して良かったと思っているわ」

 衝撃的事実! わたくしたちを選んだのは政府だった?
 それなら身体測定のデータも手に入るでしょうけど……『出席状況に問題』というのは?

(そうか! わたくしの場合、転校が原因ですわね!?)
 胸のせいでいじめられ転校を繰り返している、と。文科省は誤解したに違いありません!
 もちろん実際は違います。わたくし学校大好きですし、いじめられたこともありませんもの。

 だけど、あまねちゃんたちは? みんな不登校児だったってこと?

   * * * * *

 第3話で述べた通り、新戸いつきは同級生とのトラブルによる心の傷から、現在不登校中である。

 一方、宮方あまねは違う。優等生の彼女は、病欠を除いて学校を休みたいと思ったことすらない。
 しかし、過保護な母・瞳は、娘を心配するあまり、今年の水泳授業を全て見学させていた。これにはあまねも渋々従っていた。スクール水着の名札がいまだに『5-3』なのは、そうした理由である。※[第7話参照]

 さらにさかのぼれば、6年生への進級時、
「男性教師は信じられませんっ! クラス担任を女性に替えるまで、あまねは登校させませんから!」
 などの特別扱いをしつこく要求していた。こちらは、あまねと学校側が説得して諦めさせたのだが。

 それらの事例が積み重なり、『出席状況に問題あり』の母集団に含まれてしまったのだ。すなわち、あまね本人に何も落ち度はない。ただただ苦労人な娘である。
 だが、そのおかげで母娘は自然教室に参加し、和解できたのだから――ある意味『災い転じて福』と言えよう。

   * * * * *

「第二次性徴期特有の悩み――『発育が良すぎる』こと。
 男子はまだいいのよ。高い身長をネガティブにとらえる子はほとんどいないから。
 けれど、女子は違う。
 自分のカラダを不道徳な『いけないもの』と思い込み、自己嫌悪に陥る子がいるわ。
 大きなバストには何の罪もないのに……サイズの合わないブラに閉じ込め、恥ずかしさに背を丸めながら過ごしているの」

「そんな悲しいこと、あってはならないと思いますっ!」
「ありがとう。竹上さんならそう言ってくれると思ったわ」

「椎原先生は、そうした女子をメンタルケアするために、自然教室へ招待したのですね。
 村の女子と交流することで、自分の胸が特別ではないと知ってもらう。
 また、大きな胸に興味のない男子と交流することで、異性への不信感も解消していく。
 とてもやり甲斐のあるイベントだと思います。
 私たち観光課も、協力できて光栄です」

「仁科さんありがとう。恩に着るわ。
 そう……自己肯定感を育み、どんなカラダでもありのまま自分を愛せるようになること。それがこの行事のねらい。
 自然教室は『自然とふれ合う』だけじゃないの。『自然体のじぶんを取り戻す』という意味も込めているのよ。
 教育者として、これは私の念願だった。今年のためにいろいろ準備してきたわ。不登校対策委員会に企画を通し、少し強引だけど後援をもぎ取った」

「追加予算のおかげで、旅費を完全無料にできましたからね。千々山鉄道だけでなく、県外からの往復分も負担するなんて。景気のいい話だなぁって、観光課でも言われてました」

 おおお……ここにきて次々と明らかになる裏事情!
 ひとまず安心したのは、主催側に悪意なんてカケラも無かったということ。椎原先生の優しさには感動すらおぼえました。
 わたくしのお父様が参加しなかったのも納得です。成人男性の目があってはまずいと、気を利かせたのでしょう。さすが紳士ですわ。

「あともう少し。最後まで力を貸してちょうだい」
「はいっ」
「もちろんです」



 ――3人の会話が終わり、仁科さんと竹上さんは急ぎ足で教室に入ります。
「あっ、センパイたち遅かったじゃないスかー」
「ごめーん。すぐ着替えるから」
 わたくしとナッちゃんは廊下に出たまま、その様子を見送っていました。

「よかったねルミさん。さっきのお話でギモンはぜ~んぶ解決だね☆」
「ごまかさないで」
「え?」

 開催目的は理解できました。参加者のバストが皆大きい理由も。遠方から集まった理由も。
 しかし、それらが氷解したあとに浮かび上がってきた、新しい謎があります……

 今、わたくしの隣に!
「ナッちゃん、あなた何者ですの?」

つづく