千々山村自然教室

唐鞠 作
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 友情にヒビが入ったと感じたのは、1年生の最後に行われた実力テストのときだよ。

 テストが返却されたとき、アミちゃんは苦い顔で、見るからにイラ立っていた。
 結果があまりよくなかったんだって。いつも平均くらいのわたしに比べれば、よっぽど高得点なのに。
 わたしは「落ち込まないで」って励ましたけど……彼女はなおも自分を責めたの。

「こんなんじゃ全然ダメ! 志望校に行けない」
 って。中1から受験を意識してるなんて偉いよね。なんでも、かなり偏差値の高い進学校を狙ってるんだとか。
 そんなアミちゃんに元気になってほしくて、わたしはこう言ったんだ。

「自信を持って。アミちゃん、勉強もスポーツもすごくできるじゃない。見えないところでも努力してるし。将来何にだってなれるよ」
「…………」
「それにひきかえ、わたしなんて何の取り柄もなくて。才能がいっぱいあるアミちゃんがうらやましいなあ」
「……何言ってるの?」
「え?」
「ウメちゃんならすんごい『才能』、ふたつも持ってるくせに」

 そして突然に、無造作に……アミちゃんはわたしの胸を、むにゅって揉んだの。

「!!!」
 その感触にゾクッと身震いした。
 久しぶりだったのも確かにある。でもそれ以上に、手加減が無かったから。今までのような愛情表現じゃなく、むしろ、嫉妬まじりの悪意を感じたから!
 揉まれた感触だけでそこまで分かるのか? って思うかもしれないけど、あのときのわたしは確かにそう感じたの。
 すごく、すごく、悲しかった。今まで楽しくふざけ合った日々も、ウソかと疑ってしまうほど!

「ああっ……ごめんっ。い、今のはホント、アタシが悪かった!」
 失言を謝罪するアミちゃんを、涙目でにらむわたし。謝っている人を許せないなんて、初めての経験だった。

「……わたしの才能が胸だって言いたいの?……わたしイコールおっぱいだって言いたいの?」
「なっ? ちがっ」
「そんなアミちゃん、きらいっ! 二度と触らせてあげないから!」

「!!!」
 あのときの彼女は、本当にショックを受けたって顔してた。
 でも、わたしだって傷ついたんだもん。何の特技も才能も無いとは思ってたけど、あの言い方はあんまりじゃない?

 そこからはお互い無言。気まずい雰囲気のまま別れて…………それっきり。

 そして2年生に進級するとき、アミちゃんと別々のクラスになったの。
 まあ、当然かもね。女子同士とはいえ、あれだけ頻繁に胸を触り合ってたんだから。先生も問題視するよ。
 少し寂しくもあったけど、まあいいかって思ったんだ。
 慌ただしい日々に、ちょっとしんどさを感じていたし。2年生からはまた自分のペースでゆっくり過ごせるかな、って。

 だけどまさか、彼女が“あんな風に”変わってしまうなんて思わなかった。



 ――ええっ……と……
 ごめんね。ここからはショックな記憶だから……断片的にしか思い出せないの――

 そうだ。アミちゃんの様子がおかしいってことを、どこかで噂に聞いたんだっけ。
 新しいクラスではお笑いポジションに就かず、むしろ人を寄せ付けない空気になっていると。
 それを聞いて、さすがに心配になったんだ。

 だからある日、アミちゃんのクラスを訪ねてみたの。ほんの様子見のつもりでね。
 戸を開けて目に飛びこんできたのは、席でボーッとしている彼女だった。
 変わり果てた姿にビックリしたよ。疲労を溜め込んだような顔。頬はやせ、目の下にはうっすらクマが浮かび、眉間にしわを寄せていた。

 声をかけようとしたけど、彼女がいきなりガタッ!と席を立ち、不気味な瞳でフラフラと近づいてきたから……。
 わたしは驚いて、とっさに自分のクラスへ逃げ帰ったんだ。

 ああっ……それでも彼女は追ってきて……わたしの教室に入って……
 クラスメイトの視線に囲まれる中、わたしに向かって懇願したの。

「う……ウメちゃん、ごめんっ。今までのこと謝るから……もう一度だけ、お、おっぱいさわらせて」
「ええっ!?」

「アタシ、このままじゃいけないと思って……しばらくずっと我慢してた。
 ガマンできると、思ってた……。
 でも、やっぱ無理……。
 とっくに、ウメちゃんでなきゃ満足できないカラダになってたの。
 あんな極楽味わったら……もう元には戻れないよぉ!」

「ちょ、ちょっ! 何言ってんの!?」

「耐えられないんです……。頭がおかしくなりそうなんです……。
 ああ……ウメちゃんなんて呼んだのも、すみませんでした。……あやまります。
 ゆうちゃん……いえ、『ゆう様』ぁ……どうかもう一度、アタシを癒やしてください。
 ……やすらぎを、ください……」

 深々と下げる頭はどんどん低くなり、ガクッと膝を折ったかと思うと……最終的には、土下座の姿勢に!

「いい加減してっ! 本気で怒るよ。もうっ!」
「やぁあああぁ!!!」
「!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!! きらいにならないでぇーーー!」

 幼児のように泣きじゃくる彼女を見て、さすがに異常事態だと分かったの。
 迫真の演技と思いたかったけど、お笑いにしてはタチが悪すぎる!

「ううっ……ウウ……やわらかいの……やぁらかぃの……ほしぃ……」

 友情もプライドも投げ捨て、おっぱい触りたさに平伏する元親友。こんな無様な姿は見たくない!
 しかもその原因がわたしの胸だなんて、絶対に信じたくなかった!

 周囲からは、好奇の視線が痛いほど突き刺さる。
「まっ、ま……」
 この場を収めるには、これしかないと思ったの。

「麻薬中毒かーい!!!☆」

 なんて皮肉だろうね。いつも棒読みなツッコミしかできなかったわたしが、この時ばかりはキレッキレだったんだよ。声も明るくできたし、過去最高のツッコミだった。

 一瞬の沈黙をはさんだ後、周囲から安堵混じりの笑い声が起こる。
「なんだ。ネタかよー」
「久しぶりに見たなー、吉郷さんのギャグ」
「臨場感ありすぎー。マジびびったぁ」
 やった! 成功だ。

「もー、アミちゃんったら♥ 芸に身体はるのもほどほどにしなよー」
 笑顔でごまかしつつ、わたしはアミちゃんを教室の外へ連れ出す。



 そして人気のない場所――屋上へ上がる階段の踊り場で、彼女をそっと抱いてあげたの。
 あ! もちろんヘンな意味じゃなく、制服の上から抱き止めただけだからね?
 胸を枕に、後頭部をうずめる姿勢で、落ち着くまで泣かせてあげた。
 わたしも少しは責任を感じていたから。Kカップのブラは固いだろうなと思って、外すくらいのサービスはしてあげたよ。そうすると、頬までたっぷり埋まった。

 彼女の表情はとっても安らか……と言うか、快感にトロけていたの。
 頭のてっぺんからストレスが「ぷしゅー」と抜けてくみたいに、最高に気持ちよさそうな寝顔。

 あの時の気持ち、今でも分からない。
 アミちゃんを抱いた胸の奥に、ぽかぽかした優しい感情が芽生えた気もするけど。

 でもそれ以前に、とにかく恐ろしかった。
 まさか、自分の胸が“中毒者”を生み出してしまうなんて。
 今までは「大きすぎる」と悩む程度だったのに……実は、『人をダメにするおっぱい』だったなんて!


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「――そんなことがあってから、教室に居るのが怖くなっちゃって。一応、不登校じゃないけれど……集会とか行事はみんな欠席。ずっとカウンセリング室で、自習とか課題やってるの」

 青梅ゆうは告白を終える。それに対し、
「…………」
 竹上ななえは返す言葉が見つからなかった。相談に乗ると言っておいて、これでは面目が立たないが。

 しかし無理もない。ゆうの乳房がもつ“特性”を、ななえは今初めて知ったのだ。
 第13話を読み返していただければ分かるが、ルミとナツを危うく二次遭難へ導いた『小魚事件』のとき、ななえはブラを取りに一時帰宅していたのだから。

 困惑を察してか、ゆうは気丈に笑ってみせる。
「ごめんね。重い話しちゃって。でも、聞いてもらってスッキリしたよ。忘れてくれて構わないから」

「はぁーい、みなさん集合ぉー! 『わくわくトレジャーハント』始めますよー」

「あっ、仁科さんが呼んでる。次のイベント楽しみだね」
「う、うん」
 曖昧な返事しかできないななえだったが、心の中ではこう思っていた。

(青梅さん……あなたのそれは、やっぱりすごい『才能』だよ)


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ところで、気になるのですが――」
 私は改めて、リョーコ先輩に向き直る。
「【SONG】は村の女性全員に発現するのですか?」

「そうね。私の知る限り、もれなく全員」
 先輩は迷いなく答えた。
「ただし、バストが痩せてしまった例や……非常にレアだけど『異なるかたち』で発現した例もある。今度はそれを紹介しましょう」



/// Karte #2.Ritsu Takekawa ///

「自転車屋『タケカワサイクル』の店主さんには、お子さんが3人いてね。
 いずれ家業を継ぐ長男。
 電気工事士の資格をもち、家電まわりのトラブルに対応できる次男。
 パソコンに強く、インターネット関連の相談に乗ってくれる長女。
 この3きょうだいは、村でもかなり頼れる存在として知られているの。
 で、問題となるのは長女の竹川りつさんなんだけど……」

「先輩、実名出てます!」
「おっとぉ! あぶね」
 慌てて言葉を切る先輩だったが、

「んー……でもさ、もう聞いちゃったからいいじゃん? イニシャルで呼ぶのめんどいし。カップサイズとまぎらわしいしさー。『りつさん』で続けるから、頭ん中で変換してちょうだい」
(えっ、ええー?)
 医師として、あまりにプライバシーを軽視しすぎではないだろうか?
 しかし、情報を求めているのは私の方だから……ここは黙って受け入れておこう。

「さて、続けるわよ。りつさんは現在21歳。Kカップだから、千々山では『小ぶり』と言えるわね」
 相変わらずすごい基準だが、もういちいち驚いていられない。

「もちろん、彼女の身体も【SONG】の影響下にあったでしょう。にもかかわらず2年前、あることをきっかけにバストが痩せてしまったの」
「あること、とは……?」

「夜ふかし」

「はい?」
「だから、夜ふかしよ。単純に睡眠不足。『美容の大敵』ってよく言われるでしょ?」
「まあ、たしかにそうですが……」
 そういえば、匹田さんもOL時代に不眠症を経験していたはず。バストが「痩せた」とまでは聞いていないけど。

「当時19歳の彼女は、ITの知識を活かして『オンラインワークシェア』とかいうのに参加していてね。詳しくは知らないけど、在宅のパソコン仕事よ。どっかの企業から回ってきた、データ加工の仕事に取り組んでたらしいの」

※[仕事の依頼主は、奇しくも豊臣昌史。当時から数えて4年後、村の誘致を受けITベンチャーを立ち上げる人物である。
 後に、竹川りつはその企業に事務員として就職する。
 そしてお互い、顔は知らぬままの再会を果たすのだった]

「それで、いわゆる昼夜逆転生活に入ってねえ。不摂生のツケが出ちゃったの。もともと千々山女性は夜ふかしが苦手なのに、無理して働くから」
「たしかに。PCとにらめっこするデスクワーカーって、非常にきついと聞きますからね」
「彼女が体調不良でウチを受診しに来たとき、バストも測ったのよ」

「痩せた、とは、どのくらいですか?」
「97センチのHカップね。もともとは105あったけど」
 ノートを確認しながら先輩は答える。

(十分大きい……)
 とは言い出せない私だったが、
「それでもアタシより大きいんだからねー。参るわこりゃ。ハハハ☆」
 先輩が代弁してくれた。私たち案外、似た思考回路なのかもしれない。

「アタシは医者として指導したの。無理せず、規則正しい睡眠をとるようにね。
 あと、六草苑っていう村の薬屋にも紹介状書いといた。
 『安眠効果のお茶、テキトーに処方おねがいしまーす☆』って」

 まさか、本当にそんな文面じゃないですよね……?

「りつさんも素直に従ったわ。なんせ、元々控えめなおっぱいがローティーンレベルまで縮んじゃったんだから。さすがに気にしてる様子だった」
(ローティーンの基準がおかしい……)
 発育開始の早さについても、後で話を伺うとしよう。

「その後、彼女のバストは元に戻ったのですよね?」
「ええ。睡眠リズムさえ整えたら、回復は早かったわ。張りのあるピチピチのKカップまで、2か月もあれば元どおり♥」
「なるほど……。では、【SONG】発現には第3の段階があると考えられませんか?」

 @成長ギアを入れる(条件不明。年齢制限あり)
→A村で暮らす
→B規則正しい睡眠をとる

「つまりこういう流れです。@Aを満たす生粋の千々山女性でも、睡眠不足でBを欠かせば、【SONG】は停止する」
「ふむふむ。理にかなった考察ね」
 先輩も同意してくれた。

「需要なのは、竹川さんのバストが回復したこと。【SONG】は終了したのでなく、あくまで『一時停止』だと分かります。すなわち、@はキャンセルされない。各条件は独立ですから」

「そうね。進学などで村を離れても、Uターンすれば成長は再開する。@の条件は相変わらず謎だけど……キャンセルする方法もまた、見つかっていないわ」

 これだけ強固な@――成長ギアとは、いったい何?
 怪現象の根幹となっている、最も知りたい部分がそこだ。

 まさか、千々山特有の“謎の物質”が、体内に残存し続けているのだろうか?
 代謝をくり返す体内で残り続けるモノ……といえば、水銀・砒素・カドミウムなどの無機物毒を想像してしまう。

(縁起でもないっ! なんでまっさきに毒を想像するのよ?)
 【SONG】はあくまで健全な成長だと、先輩から聞いたばかりなのに。

(『そういうところ』よ。志木沢ミレイ! 10年前の後悔に学ぶなら、その発想こそ改めるべきなのよっ!)
 さもないとまた……守りたい人を、逆に傷つけてしまうから……。

 とはいえ、頭の片隅で疑いが晴らせないのも事実。
 加藤さんも「この辺は火山性土壌」と言っていた。火山地帯の地下水には、砒素濃度が高いものもあると聞くけど――

(いいえ! 砒素は絶対に違う。毒性から考えても無関係だわ)
 日本の温泉は、温泉法という法律で管理されている。鉱毒が検出されたら、そもそも入浴が認められないはず。
 飲料として販売される『千々山の天然水』だって、国の衛生基準をパスしている。
 すなわち、水質の安全性は確実! 無害なミネラルしか含んでいないのだ。そこに疑う余地はない。

(……そうよ。今深く考えることじゃないわ)
 地質に関しては“彼女”の方が詳しいし。合流してから聞くことにしましょう。

「ミレイちゃんどうしたのー? 急に苦いカオしちゃって」
「い、いえ。何でもありません。続けてください」
「OK。りつさんの例はこれくらいにして、次いきましょうか」



/// Karte #3.Momoka Inoue ///

「伊上ももかちゃん。現在、千々山小学校の4年生よ」
「勤務先の在校生なのに、もはや伏せる気ありませんね」
「脳内変換ヨロシク☆」
「はい……」

「ももかちゃんは、千々山村でも“唯一”の希少事例。特筆すべき点は――乳房の発育より先に【SONG】が発現したことよ」

「え? ちょ、ちょっと待ってください」
 胸の発育より先に……とは、どういうこと?

「乳房の発育と【SONG】はイコールでは…………ハッ! いや、違う!」
「さっすがミレイちゃん。自分で気付くとはね」
 先輩は満足気にうなずく。

「そう。論理的思考に長ける者は、すべからく『定義』を重んじるわ」
(さっきまでテキトー発言していた人とは思えないセリフ!)

「【SONG】の定義は〜? さん・はい♪」
「“Symphonic Oversize Natural Growth”。調和的な・特大の・自然な・成長です」
「きゃー、覚えてくれてたっ♥ ミレイちゃん、好きー♥」
 33歳女性によるこのはしゃぎ方だけは、どうしても慣れない。

「つまり、ももかちゃんの場合、乳房以外に『特大の自然成長』が表れたのですか?」
「ご明答っ! 彼女のバストは75センチ・Aカップで、ブラ未着用。世間一般じゃそれ以下の小4が多数だけど、村では珍しいスレンダー美少女なの」
「な、なるほど」
 70センチAAAカップの大学4年生が目の前にいることも、どうかお忘れなく。

 しかし、だとすれば……彼女の例は、@の原因物質が乳房以外に蓄積された例なのだろうか?

「いったい、どの部位が成長したのですか?」
「いや。部位っていうか、全身」
「全身? ということは、すごく背の高い小学生?」
「いやいや、身長は平均ちょい上程度。139センチよ」

「? ……わかりません」
「じゃーヒントね。ももかちゃんの体重は■■キロ」
※[乙女のプライバシーのため公表を控える。千々山女性がオープンなのは、あくまで乳房に関するスペックである]

「んん……それはちょっと深刻な肥満児ですね。あれっ? でもさっき『スレンダー』って」
「体脂肪率10%」
「ええっ!?」
 男性でもだいぶ少ない数値! ということは――答えはひとつしかない。

「き、筋肉?」
「せいかーい♪ ももかちゃんは、とーーーっても力持ちな女の子なのでーす♥」
 先輩は嬉しそうに、Fカップの前でパチパチと拍手する

「スゴいのはねー、外見は全然ムキムキじゃないの。
 腕や脚はスラーっと細くて、顔も清楚で、ホントに華奢な女の子。
 たぶんあの中では、強靭な筋肉・骨・腱が高密度に圧縮されてるんでしょうねえ。

 校庭で巨大雪だるま作ったときなんて、バカ男子4人が『大きくしすぎちゃった』頭部を、一人でひょいっと持ち上げ、乗せてみせたんだもの。
 超人的なパワーはもちろんのこと、肺活量もすごくって。スタミナも群を抜いてるの。
 サッカーなんてやらせたら、前後半フルタイムを疲れ知らずで駆け回っちゃうわよ?
 ま、小学校の時間割じゃ、試合時間40分しかとれないけどね」

「あ、あのぅ……ちょっといいですか? 【SONG】による筋力発達は、あくまで乳房の重みをサポートするためですよね? 周辺の骨格筋や、肺機能が強化されるのは」
「ええ。だからこその“Symphonic”(調和的)よ」

「すると彼女の例は? メイン(乳房)より、サポート(筋力)の方が先行してしまったということですか?」
「そうね。ももかちゃんの発育がどこへ向かうかは未知だけど……3つのパターンが考えられると思うのよ」

 先輩は説明してくれた。
 【SONG】によって成長エネルギーが溜まったとき、乳房の組織はまだ発育準備ができていなかった。そのため、周囲の筋組織にエネルギーが“流れた”のではないかと。

 すなわち、【SONG】は成長を促進するけれども、“開始を早める”ものではない。
 ももかちゃんは、たまたま乳房の発育開始が遅かっただけ。
 【SONG】のエネルギーチャージの方が早かった、特殊な例と考えられる。

 そして彼女の将来は3通り。
 パターンA:「乳房はこのまま発育しない」

 パターンB:「前借りした成長エネルギーを筋肉から受け取り、乳房が発育する」
 この予想では、バストと引き換えに筋力は常人並みに戻っていき、やがて適当なレベルで「調和」する。

「そして、ある意味これが最も恐ろしいんだけど――」

 パターンC:「超人的な筋力と『調和』するだけの、超人的な乳房がこれから育つ」

「おっ、おどかさないでください! ある意味ホラーじゃないですか、そんなの!」
 いったい、どれほど膨大なバストを抱えるのか? そんな女性が社会でどう生きていくのか?
 残酷な未来を想像すると、恐怖と哀しみに震えた。

「ごめんごめん。まっ、アタシもCは無いと思うけどねー。
 かわいい教え子に、生活困難レベルの超乳は望まないわ。
 ももかちゃんが女性として幸せに過ごせるよう、Bであることを願ってる」

「ええ……。Bだといいですね」
 個人的にはAでもいいけど、たぶん一番可能性低いかな。
 だってAだけ、乳房と筋肉が“不調和”なんだから。【SONG】はそれを許さないと思う。

「さてミレイちゃん、こうしてお話ばかりしてるのも、飽きてきたでしょ?」
「いえ……? 特には」
「まあまあそう言わず。ここらでいっちょ、ナマの実物を触診してみようじゃない」
「え?」

 と、そこで応接室をノックする音が。
「姐さん、ミレイさん、お邪魔しまーすッ!」
 卯野医院が誇る熱血ナース、やよいさんの声だ。

「グ〜ッド・タイミ〜ング♪ ちょうどこの時間に呼んどいたのよ」
 長い睫毛の目を細め、妖艶な笑みを浮かべる先輩。

「やよいちゃーん、どうぞ入ってー」
「押忍ッ! お茶お持ちしましたー」
 入室したやよいさんは、グラスの乗ったお盆を持っていた。
 うん……ああやって、腕を伸ばさないと持てないんだろうな。あまりにも巨大なふくらみが、ナース服の胸部を盛り上げているから。

「ありがとー♥ よく来てくれたわ」
「どういたしまして。知的な議論の場に、オレみたいなバカが割り込んじまって、恐縮ッス!」
 やよいさん、一人称「オレ」なんだ……でもやっぱり凄みを感じない。(むしろ可愛いかも)

「ところでやよいちゃん、さっそくもう1コ頼みがあるんだけど、いいかなー?」
「何スか? 姐さんの頼みとあらば、よろこんで!」
 お茶のグラスを並べ終え、笑顔で振り向いたやよいさんに、先輩は

「脱いで♥」

つづく