千々山村自然教室

唐鞠 作
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 卯野やよいは思い出す。
 中学の頃からワルぶっていたが、バイクへの憧れだけは本物だった。村の本屋(ブックス松田)でバイク雑誌を定期購読し、クールなカスタム車に並ぶライダーの写真を眺めては、想像していた。
(オレも、この人らみてーなバイク乗りになる。そんで、峠道を疾走するんだ!)

 医者の家に生まれながら素行不良……っぽくふるまっている彼女だが、心根は情に厚い。
 当時描いていた将来像は『調達屋』だった。こう書くとまるで刑務所内のようだが、緊急時に誰より早く、必要物資を街へ買いに行く仕事である。

(これを『パシリみてーでダセェ』と笑うヤツがいたら、ソイツは村のことを“理解(ワカ)”っちゃいねえ!)
 成人病が少なく、高齢者が比較的健康に暮らす千々山村でも、やはり足腰の不自由な老人はいる。いわゆる買い物難民だ。

(それに、ウチでやってる医者……“一刻一秒”を争うってときに、必要な薬が足りなかったらどーすんだ? オレが“目指”してんのは、弱い者の“助け”になれるライダーだ。遊び半分の“走り屋”とは違ェ!)
 思春期のヤンキー少女は、そう考えていた。誰かの役に立ちたいという意志、生まれ育った土地への感謝。その二つを常に忘れず、胸に秘めていたのだ。
※[ダブルクォーテーションを多用しているのは、もちろん某漫画の影響である]

 そして胸と言えば、当時からの悩みでもあった。
(やっぱオレの……デカ過ぎんよなあ?)
 身長は150台前半で止まりそうなのに、バストは間もなく110センチに届く勢いで、成長し続けている。
 なのにやよいはブラをせず、サラシで抑えていたわけだが――

 そのことを同級生の中山にも心配されていた。
「うのっちー、いい加減キツくない? 意地張らずにブラ着けなよー」
「ヘッ! これくらい何ともねっつーの」

 懐かしい日々をふり返る。
(中山かー……オレとは逆で、身長バカ高ぇくせに乳は小さめだったっけ。そういやアイツ、何年か前にクルマの免許取ったって聞いたけど、運転死ぬほどヘタらしいな。――ハハッ、そんなとこまで正反対か)
 しみじみ回想しているようだが、今も変わらず“親友(ダチ)”であるらしい。

 そんな中山の言う通り、やよいのブラジャー拒否は半分意地だった。
 小6のとき、勝手に『D組』なんてものに所属させられ、「ブラをしなさい」としつこく指導されてきたのだが
(ウゼーな。“余計”な“おせっかい”だよ)
 と、反抗心をズルズル引きずり、ここまで育ってしまった。サラシという古風なスケバンスタイルを貫いてきたのである。

 もう半分の理由――そもそもの始まりは、ある人物への憧れだった。バイク雑誌の読者投稿コーナーにときどき載る、女性ライダー。
「はぁー、マジカッケーな。Yoshimiさん。マシンもだけど、本人の“スタイル”もさぁ。ライダースーツの“似合う”体型っつったら、やっぱDカップぐれーが“適度”なんだろーな」

 中3当時、すでにMカップだったバストを持ち上げ確かめる。
 この雑誌に載るのは、やよいの密かな夢だった。
 しかし、いざそれが叶ったとき、「胸のおかげで載った」と思われることは屈辱。『7500cc級!? 爆乳ライダー現る!』なんてアオリ文を添えられてはたまらない。

「おっといけねー。つい疑っちまったが、そんな“軟派”な雑誌じゃねーことは“理解”ってるぜ」
※販売部数の低迷により、現在は年2回刊行となっている。

 ところで、聡明なる読者は、ここで一つの疑問を晴らせたのではないだろうか。
 すなわち原作『地域振興課』第3話。同窓会での女子トークで、中野あかりと望月みどりが言ったセリフ――
「上級生でもさえちゃんより大きい人いなかったよね」
「そうそう。確か中2の秋にもう3ケタに乗ってたしね?」

 2学年上の卯野やよいは当時、三枝ひかり以上のバストを有していたのに、なぜ見落とされていたか? 答えはサラシだったのだ。
 確かに、ひかりの胸が発育著しかったのは事実。しかし「3ケタ到達」など、やよいは小6で果たしていたのだから。

 さて、そんなヤンキー少女も無事高校へ進学する。
 そして16歳の誕生日を迎え、念願の原付免許を取得。バイトの貯金で買った原付を乗り回し、調子に乗っていた頃に……

「私と踊りませんか?」と、“不運”はやってきた。

 落ち葉に注意しつつ、秋の道路を走行していたやよい。その前を突然、タヌキの親子が横断したのだ!
(危ねぇーーーッ!!!)
 急ブレーキの勢い余って転倒し、
「ッ痛ぇ……!」
 気付けば足に、捻挫と切り傷を負っていた。

 幸い携帯は無事だったので、すぐ家に連絡できたのだが……
「ちッ、仕方ねーか」
 助けを待つまでの間、胸のサラシを解き、見よう見まねで止血することにした。
 道路脇とはいえ、通行人から丸見えの場所。そこで巨大な乳房をばるんっ!と放出し、肌寒い秋の空気に晒したのだ。もし、何も知らないドライバーがこの光景を見たら、二次被害の交通事故が起きていただろう。

 自宅に運ばれたやよいを治療してくれたのが、「リョーコさん」だった。本職は小学校の養護教諭だが、その年からたびたび卯野医院に助っ人に来ていた女性。
 外科手術に自信のない兄とは違い、彼女はあざやかな手技で、傷一つ残すことなく治してみせた。
 しかもなんと、当時の彼女は医師免許を未取得だったという。法に触れてでも治療を優先してくれたのだ!

 以来、やよいは遼子に頭が上がらない。それどころか感謝と敬意を抱き、「姐さん」と慕うようになった。
(そう。姐さんは“恩人”だ……。ハードラックとダンスっちまったオレを救ってくれたんだ)

 だから、頑なに拒否していたブラジャー着用も、彼女に言われれば素直に従った。高1にしてNカップのブラデビューとなったのである。

「あのときのサラシ、見よう見まねにしてはよく巻けてたわ。将来、看護師目指したらどうかしら?」
 そんな遼子の言葉を大真面目に受け止め、看護科を志望するのも自然な流れだった。

 やがて兄の清広と親密になり、卯野家に嫁いだ遼子。新しい家族を、やよいはもちろん大喜びで迎えた。
 両親よりも、兄よりも、心から尊敬を捧げられる人物――



(そんな姐さんのためなら、乳を晒すことくらいワケねェ! 文字通り一肌脱ごうじゃねーか!)
 覚悟を固めたやよいは、おもむろにファスナーに手をかける。

(そうさ。エロい意味なんてありゃしねぇ。ミレイさんとは、医学的な“研究”の話をしてるんだ。お役に立てるなら本望よ!)
 己を鼓舞しながら、彼女専用であろうナース服を脱いでいく。

 そんな心境を知ってか知らずか、遼子は妖しく微笑みながら、辱めるような言葉をかけてくる。
「その服も胸パンパンね〜。ユイに特注したの、Rカップのときだっけ?」
「いや、Sのときッス。……でも大丈夫。まだまだ着れますから」

   * * * * *

 目の前の光景に、私はただ圧倒されるしかなかった。
(す、すごい!)
 薄いピンクのフルカップブラ。服の上からもシルエットは透けていたけど、なんてサイズなの!

 うっすら発達した上腕二頭筋を見れば、小柄な割に力持ちなのも納得できる。そんな二の腕の表面を、肩紐がしゅるりと滑り落ち……いよいよ巨大なカップが外される。
 ヘルメットより数段大きい半球。それらが浮く瞬間、私は「がぽん」という音を確かに聞いた。お肉が隙間なく充満していたドームに、空気が流入した音だ。
 そして「どっ!」と雪崩が起きるように、乳房の全体が露わになった。

 桃色の乳輪は直径5センチほど。これほど巨大な乳房でも、なお上向きに位置している。
(きれい……)
 不良っぽいキャラとは真逆。純潔で可憐な美しさを、私は称賛せずにいられなかった。

「――押忍っ!」
 恥じらいを一喝し堂々と反らすは、一糸まとわぬ上半身。裸体を預ける淑女の姿が、そこにあった。



/// Karte #4.Yayoi Uno ///

「ではまず……サイズを測らせてもらいますね」
「ど、どうぞ」
 恐る恐る遠慮がちに、私はメジャーをあてがう。

「ンンッ♥」
 小さな喘ぎを漏らすやよいさん。アニメ声は元々だけど、その表情も相まって……隠しきれない可愛さがヤンキーの威圧感を上書きしていた。

「あ、すみませ……」
「いっ、いや、何でもないッス!」
 潤む瞳を向けられると、どうしても「いけないこと」をしているように感じてしまう。

 驚愕の測定結果はトップ131、アンダー69。
「Uカップね。まっ、62センチ差ならほぼVと言ってもいいか」
 こともなげに計算するリョーコ先輩。この位のサイズなら、きっと何度も実測してきたのだろう。

 ついさっきまで、この部屋には先輩と2人きり。平均バストは82センチだった。
 それがやよいさんの入室によって、一気に101センチまで上昇したのだ。
 自分ひとりでなく“平均値を”大台に乗せるなんて!(しかも私を含めているのに)
 彼女の胸がいかに膨大か、改めて実感するわ……。

「さあさ、存分にやっちゃって? 触診♥」
「ミレイさん……ど、どうぞ、遠慮なくッ!」

「は、はい。失礼します」
 しゃがんで目線を合わせただけで、ものすごい迫力。左右から寄せなくとも生じる谷間に、今にも頭をガブリと丸呑みされそう……。
 そんな恐ろしいまでの乳房に手のひらを近付け……静かに触れる。
 五指をいっぱいに広げても、半分も隠せない。しっとりと汗ばんだ肌は、もっちりと弾力に富み、ぺったりと手に吸い付いてきた。
 若々しい張りに満ちた肌からは、溌溂としたバイタリティを感じる。私より年上の24歳なのに、まだまだ成長中なのだろう。

 そしていざ、持ち上げようとしてみるが――
「おっ、重い!」
 指がどんどん埋まってゆく。片方だけで5キロはあるだろう。牛乳パック5本分の水を想像し、その容積にゾッとした。

「こ、こんな重くて、その……大丈夫なんですか? 生活とか」
「まァッ♥ 平気ッスよ? 慣れッスね。慣れッ♥」
 妙に声が上ずってる。どこも刺激しているつもりはないのに、そんなにくすぐったいのだろうか。

「ミレイちゃん、今の聞いたわね? それだけの負荷が平気ということは、つまり【SONG】が顕著に表れているということ。肩周辺の筋肉も発達しているか、よ〜く観察してみて」
「は、はいっ」
 そうよ。先輩の言う通り、これはあくまで医学的観察!
(でも先輩、急にマジメになるの、なんだかズルいです)

 私は背後に回り、僧帽筋・棘上筋・肩甲挙筋などを触診してみる。
「ッア♥……ンッ……ム……ぅ♥」
 指をそっと置いただけでも、やよいさんはゾクッと震え、切なそうな吐息を漏らす。
 そのたびに、プルプル揺れるバストが“背後から”見えるのだ! この圧倒的ボリュームには、何度でも驚かされる。

「たしかに。触った感じですが、見た目以上に筋肉が発達しています」
「応!ッス……。看護師はパワーがなきゃ、ンッ♥ 務まんねぇッスからッ♥」

 先輩は私たちの様子をニヤニヤしながら見届けていた。あたかも「その子、背中が感じるのよ〜♥」と言わんばかりに。

「……さて、ミレイちゃん。あなたの予想だと、何らかの原因物質が体内に蓄積されて【SONG】が発現するんだったわね?」
「え? あ、はい」
「なら、どこかに『しこり』となって溜まってないか、チェックしないとね〜」
「ええっ!? 姐さん、それって!」
「はーい♪ ここからは、ちょっと“強め”に揉んでみましょ〜♪」
 幼児向け番組のお姉さんのように、先輩は明るく言い放った。

 それを聞き、泣きそうな顔のやよいさん。
「ま……まじスか?」
「ま〜じよ〜♥」
 サディスティックな笑顔を見て、私はようやく察した。
(あれ? もしかして私、『プレイ』に巻き込まれてる?)
 と。

「ねえやよいちゃん、さっきから可愛い声上げてくれるじゃない?」
「え?」
「妬けちゃうなァ……“アタシのとき”は聞かせてくれないくせに♥」
「や、やめてぇーっ! ミレイさんの前でッ!」
「!?」
「アァーッ! ちがっ、違うんス! オレはただ、くすぐってェのが苦手でっ!」

 ――そうか、これで確信した。
(先輩とやよいさんは、もともと“そういう”関係だったのね)

 まあ性的嗜好は個人の自由だし。先輩がバイセクシャルでも、どうこう言えることじゃない。
 私にも、直接面識はないけどレズビアンの知り合いがいるし。LGBTには理解ある方よ?
(ただ、何も知らない私をプレイに巻き込むのは、明らかに『罠』なんですけど……)

「ほーらミレイちゃん、手加減無用でガッツリ揉んじゃいなさぁい♥」
「いえ、あの、そんな」
「ぁアア……どうか、お手やわらかに……」

(……やよいさん、ご自分でお気付きですか?)
 あなたが今、「悦び」に酔い痴れたマゾヒスティックな笑みを浮かべていることに。

 だが、かく言う私も、平静を保てているわけじゃない。
 だって、「日本に存在したの!?」ってレベルの超特大バストを、直揉みする機会が与えられたんだもの。これが興奮せずにいられる?
 豊かな乳房に触れたい欲求は、哺乳類共通の本能。『氷の女』に思われがちな私とて、例外ではない――

 ――が!
 忘るる勿かれ、これは医学研究。理性を手放したらそこでおしまいだ。
 ひとまずは、ふか……ふか……とソフトタッチで揉むにとどめる。愛撫じゃないから。あくまで触診だから。

「クぅ……ンッ」
 それでも快感に震え、仔犬のような声を漏らすやよいさん。こんなに大きいのに、どれだけ敏感なんだろう? 【SONG】は感覚神経をも発達させるのかしら?

「ふぅん上〜手〜♥ ミレイちゃん、じらすわねぇ」
「べ、別にそんなつもりは」
 ああ、私の葛藤すら興奮のネタにされている。やよいさんの『寝取られ』と、私への『寝取らせ』を、同時に楽しむ高度なプレイだ。

「!!! って、ちょッ! 姐さん、何スマホ向けてんスか!?」
「ん? 気にしないで。メッセ送ってるだけ」
「撮影はカンベンしてください! 撮らないで!」
「撮ってない撮ってな〜い。ホント信じて。カメラ起動してないから」

 ヤバいこの人。羞恥を引き出すのに慣れている。
 私は初めて遼子先輩を恐ろしく感じた。こんな人物が養護教諭で、小学生に健全な教育を行えているのだろうか?

(やよいさん、膝まで震わせて……つらそうだな)
 あいにく私、色事は未経験で。「やめて♥」を「もっと♥」の解釈で聞き分けることができない。
 彼女の身を案じるなら、そろそろ終わりにすべきだろう。

 けれど、柔らかな魅力には抗えない。手で触っているだけなのに、あまりに気持ち良すぎる!
(もう少し。もう少しだけ……)
 時の流れを忘れ、触診に夢中になってしまう。

(なんせ常人の10倍以上あるんだもの。しこりを探すのにも時間がかかって当然よね?)
 そんな言い訳を浮かべながら、私はやよいさんの乳房を揉み続ける。
 だけど、心地よさに陶酔する脳内では……自分を叱る声も、あるにはあった。



白ミレイ「いい加減にしなさい、志木沢ミレイ! 社会常識を忘れちゃダメ! 乳房は代表的なプライベートゾーン。研究という建前があろうと、そこへの接触は性的ニュアンスを払拭できないわ。ハラスメントへの加担を今すぐやめるのよ!」
黒ミレイ「はたしてそうかしら?」
白「!?」

 ああ、どうやら私の中にも、黒い感情が潜んでるみたい。

黒「“innocent”という英単語を思い出してみて。『無罪の』『潔白な』という他にも、『無邪気な』『あどけない』って意味もあるでしょう?」
白「だから何?」
黒「おっぱいを触りたいのが、『無邪気な』『あどけない』感情なら、それは『無罪』で『潔白』じゃないかってハナシ」
白「こじつけよ! 性犯罪を助長する悪しき詭弁だわ!」

黒「そうかしら? でもね、これってある意味、不公平を是正する機会じゃない?」
白「不公平?」
黒「ええ。考えてみなさいよ。この世の全女性には、自由に揉んでいい乳房が一組だけ与えられているでしょう? すなわち自分自身の」
白「はっ……!」
黒「けれど私は? 到底おっぱいと呼べない代物。悲しいほどに貧弱じゃない!」

 そういえば、善悪の象徴まで胸は平らなのね。イメージ映像くらい盛ったっていいのに。

黒「哀れな女に天がくれたチャンス。ここで揉めなきゃ一生揉めないわよ?」
白「た、たしかに……友人関係もごく真面目な私には、気軽に胸を触らせてくれる友達もいない……」
黒「ねっ? 富める者から貧しき者へ。分け与えられる恩恵は享受すべきよ。アリストテレスが言うところの『矯正的正義』ってやつよ?」



 黒ミレイの言い分が優勢になるにつれ、現実の私も「揉み」を強めていく。
「ひゎぁ……あっ♥……んゃ……♥」
 もはやヤンキーの面影が完全消滅したやよいさん。羞恥と快楽でオーバーヒートした顔が、耳まで真っ赤だ。

   * * * * *

(ああッ、姐さん!……客人にこんなことさせるなんて……
 オレとの関係は“ヒミツ”じゃなかったんスか……?
 姐さん以外の人に触られるのが……こんなにも、切ないっ!)

   * * * * *

 兄嫁と義妹って、家庭内不倫に当たるのかしら?
 夫の清広さんは、ふたりの関係を知っているの?
(いけないわミレイ! 背徳的な想像を膨らませちゃダメ! 何かくだらないことを考えて気を紛らわすのよ!)



――『焼きナスは嫁に食わすな』ということわざがある。
 もちろんこれは誤りで、本来は『秋ナス』が正しい。
 しかし卯野家の場合は……ヤンキーナースを嫁に食わせてしまったらしい。(性的な意味で)



(Good! 我ながら寒いダジャレ!)
 おかげで興奮がスーッと冷めたわ。結局しこりは見つからなかったということで、触診は終わりにしましょう。
 背後に立つ私が手を離そうとした――その瞬間!

 ガチャ
「「!!!!!?」」
「「「!?」」」
 突然開いた応接室のドア。その向こうには、2人の成人女性と1人の少女が立っていた。

「ぴゃゎぁーーーーーッッ!!!???」
 恥ずかしさが沸点を迎えたのか。甲高い叫びとともに、膝から崩れ落ちるやよいさん。

「うわっ?」
 片方5キロ超の落下運動に、支えていた私の手も巻き込まれる。その結果――

 ぎゅむっ!

 信じられない事が起こった。私が転倒をこらえたことよって、ぐーんと持ち上げられたやよいさんのバストが、本人の顔を隠してしまったのだ!
 丸々と良い形をしていたが、やはり乳房は柔軟なもの。こうやって強い力で伸ばされると、鼻の先を越え、目の高さにまで届きかけている。
(いつでも自分に『頬ずり』できるってこと? すごいっ……う、うらやましい!)

「♥♥♥」
 その様子を見て、先輩は喜びを噛みしめていた。
 満足気な笑みが伝えるのは「達成感」。しかし不思議と、今までのような艶っぽさも、嗜虐性も感じない。
 むしろ逆で、イタズラが成功してはしゃぐ子どものように――『無邪気な』、『あどけない』ものだった。

「す、スンマセンッ! お客様がお見えですんでッ! 失礼しますッ!」
 やよいさんは大急ぎでナース服を羽織り、退室していった。まさしく「脱兎のごとく」。

   * * * * *

(や、ヤバかったぁー!
 ミレイさんの細い指、くすぐったすぎて……ヘンな声いっぱい出しちまった!
 だがよく耐えたぜ、オレよ!
 漏れるギリギリ寸前だったけど、射乳だけはこらえた!
 アレを見せられるのは……味わっていいのは……この世でただ一人、姐さんだけだから。な♥)

   * * * * *

 脱走したやよいさんを見送り、今、私の頭は別の問題を処理している。

 突然現れた3人の訪問者。その中には、あどけない少女もいたではないか。
 つまり私たちは、教育上たいへん不適切な場面を見せてしまったことに!

(さっきの状況を説明しなきゃ! えーと、えーと……)
 しかし脳のメモリが足りない。いろんな情報でごちゃごちゃだ!

 まず、目の前の少女。やよいさんよりもっと小柄で、身長140センチ台。顔立ちの幼さからも、小学校高学年程度に見える。
 ただし、それも「胸を除けば」の話だ。
 パフスリーブの白いブラウスが、異様なまでに膨れ上がっている。131センチをじっくり見た後だから、そこまでの衝撃はないが……この子も110センチ超えは余裕のはず。明らかに小学生のレベルじゃない!

(もしかして成人女性?)
 と一瞬思ったけど、こんな甘々のロリータファッション、大人じゃやらないだろう。
 縦ロールの栗色髪に結んだリボンは、キャンディの包み紙のようにカラフル。パステルブルーのふわふわスカートには、白いフリルがいっぱい。いかにも「夢見がち」なお嬢様スタイルだ。
 幼気な輝きを秘めた大きな瞳で、興味深そうにこちらを見つめている。

 そして――少女のななめ後ろに立つ、30代くらいの女性。
(あの子の母親?)
 そう直感したのは、いかにも出産経験ありそうな、むっちりとした腰つきが目に止まったから。
 ヒップもかなり大きい。身長は高めで、私(169センチ)くらい。ふんわりウェーブのかかった長い黒髪が美しかった。
 特筆すべきは、やはりバスト。これまで出会ってきた村人の中でも、間違いなく最大! やよいさんをも凌駕する、異次元の大きさだった。
 あれはきっと「決定的な一線」を越えている! もしや、すでに26のアルファベットを使い切って――

「あなたも災難ですね」
(えっ?)
 私に声をかけたのは残りの一人。3人の中で最も胸の小さい成人女性。それでもJ〜Kカップはありそうだけど……もはや常識的に感じてしまう。

「リョーコ、またやよいちゃんからかってたの?」
「だってぇ〜、カワイイ子にはイジワルしたくなるじゃない?」
「ドSねえ。羞恥プレイもほどほどにしなさいよ」

 よかった。彼女は常識人だ。私が訴えたかったことを代弁してくれた。

「やだあ♥ そんなんじゃないって。ほんのサプライズよ☆」
「まったく。私まで巻き込まないでよ。こんなメッセージ送りつけてさ」
 彼女はスマホの画面を見せる。

ユイ<今、到着したわ>
リョーコ<おつかれ〜♥ 応接室にいるから、“ノックしないで”入って来てね>

「!」
 ……なるほど。さっき先輩が言った『撮ってない』は本当だった。代わりにユイさんへメッセージを送り、不意打ちを仕掛けたのね!
 さすがに腹立たしく思えてきた。人をあまりにおもちゃ扱いしている!

「あ、あのっ、私、医学生でして。さっきの行為は、その……触診」
「まあまあ、説明は後で」
 しどろもどろに弁解する私を制し、先輩はキリッと真面目な顔つきになる。

「こんにちは富士岡さん。お見苦しい騒ぎ、失礼いたしました」
「は、はい」
 急に敬語を使い始めた先輩に、黒髪の婦人がきょとん顔のまま頷く。
(えっ? 『ふじおか』って)

「はるちゃんのケガなら心配要りませんよ。きれいに治療できました。傷痕も残りません。こちらの志木沢さんが適切な応急処置をしてくれたおかげです」
(そうか。彼女がはるちゃんのお母さん)
 Cカップ7歳児の母親だけあって、やはりとてつもないバストの持ち主。はるちゃんも将来、ここまで育つのかな……。

「まあっ、そうでしたか! 娘を助けていただき、本当にありがとうございます!」
 富士岡さんは私の方を向き、深々と礼をした。
 やよいさんのときも思ったけど、あんな超重量級の胸で、よく上半身を傾けられるものだ。前後にバランスをとらなければ、転んでしまうだろう。

「いえ、私は大したことできなくて。娘さんがご無事で、本当に良かったです」
 何だか申し訳ない気持ちになる。お礼を言われるなら、むしろ加藤さんなのに。

「はるちゃんは今、奥の部屋でおとなしく本を読んでますよ。お母さんを待っているはずです。どうぞ迎えに行ってあげてください」
 先輩が指し示すと、
「はいっ!」
 富士岡さんは感謝でいっぱいの顔を上げ、小走りで廊下の先へと向かった。サマーワンピースの下に「どぷぅん、どぷぅん」とバストを波打たせながら。
(あれだけの質量が水平移動すると……まるで戦車クラスの迫力ね)

 あれ? ロリータちゃんがこの場に残ってる。
 はるちゃんのお姉さんじゃないの? お母さんと一緒に、妹を迎えに来たんじゃ……

「モンティ先生も、おつかれさまです」
「Hello〜、リョーコ先生」
 えっ? 今、会話の方向おかしくなかった?

「驚きましたよ。突然おいでになるなんて」
「アハハ。わたしはただの付き添い。みねこの友達として、運転手を引き受けただけですよー」

 どう見ても小学生に向かって『先生』? それに女の子も『運転手』って?……あれっ?

「おーい、志木沢さんが混乱してるわよー。場がゴタついてきたから、いったん自己紹介しましょ」
 ああ、このユイさんて人、とても頼れる存在みたい。


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「いや〜、1時間みっちりつき合わされましたね。コーラス」
「そうね。でも収穫はあったわ」

 アタシとセイルちゃんは『ひびき音楽教室』を後にして、商店街へ戻る道を歩いていた。
 合唱なんて高校以来だったけど、元気なお年寄りの皆さんと歌うのは、悪い気分じゃなかったわ。

「歌ったせいか、のどが乾きました」
「さっきお土産に『天然水』もらったじゃない。ここはシンガポールじゃないんだから、道端で飲んでも罰金取られないわよ?」
「そうでしたね。じゃあ失礼して……」
 ペットボトルを開けたセイルちゃんは、陽光を仰いで無色透明の冷水を飲む。

「っぷはぁ。おいしい! すごく爽やかですね。野菜とかの作物も、やっぱりこの『水』が基本なんだろうなぁ」
 喉を潤して向けた笑顔は、相変わらずのイケメンっぷり。
(まるでドリンクのCMね。バレーボール大のふくらみさえ無視できればだけど)

「さて、それはともかく……」
 再び歩き始めると同時に、本題へ入る。
「いよいよ『闇』が暴かれましたね」
「ええ。一番の黒塗り部分は、明らかになったわ」

 そう。アタシたちは合唱サークルのお年寄りに、『飯妻ノ姉妹唄』のことを尋ねた。
 すると、ほとんどの人は存在すら知らなかったけど……ただ一人、一番の歌詞を知っているおじいさんがいたの。
 彼から聞いた歌詞は、以下のとおり。


 〜♪ うえのあねさにゃ ひとのかご 
 ろっしゃくこえる むねまわり  ほとけのおしえ わすれては
 ちくしょうどもの ちにまみれ  ふかいたにぞこ しろからす


「隠されていた部分は、『ちくしょうどもの』……それに、『しろからす』」
「やはり来たか、って感じよね。その妖怪の名は」

 アタシの想像どおり、飯妻家の長女と妖怪・シロガラスには関連性があった。さらに――

「『畜生ども』とは動物のことでしょう? ならば、明治の貫塗村で起こった『連続動物殺し事件』……犯人はやはり、長女だったのでしょうか?」
「……う〜ん……」
 セイルちゃんの問いかけに、アタシは即答できない。

 歌詞を教えてくれたおじいさんの話を思い出してみる。彼は数年前まで、村の屠場で働いていたそうだ。

   * * * * *

「おらぁこの歌をナ、昔、学校の先生から聞いたんよ。
 いんや、おらの学生時代じゃねえ。昔っつっても、ほんの十年かそこら前サ。
 移転する前の千々山中学ナ。去年までの校長で、今は教育長サマのよォ……」

隣の老人(椎原先生でねえか?)

「そンだぁ、思い出した! シイハラ・ユキヨ先生だよ。
 ちょうど今ぐらいの季節、夏休みの自然教室でナ、おらが子どもたちにトリのしめ方、教えたんよ。
 そこで椎原先生が歌った『おまじない』ってのが、この歌サァ。
 先生がおっしゃるにはナ、『家畜を安らかにあの世へ送れるよう祈る、清めの歌』なんだと。

 ……けどナ、おらはこの歌詞、好きになれんかったよ。
 だってよ、家畜に対して『畜生ども』は無ぇと思うんだワ。
 動物への敬意とか感謝とかあんならサ、もっとマシな言い方があると思うんよ。
 長いこと屠場で働いてたおらだから、そう思うのかもしんねェがナ……

 それに『シロガラス』っちゅうたら、子どもを攫うおっかねえ妖怪でねェか?
 ほかにも『仏の教え忘れ』とか。『血にまみれ』とか。縁起でもねェ物騒な歌詞サァ……

 けどまァ……椎原先生は教育熱心で立派な方だからよォ。なァにか意味があって、この歌聞かせたと思うんだワ」

   * * * * *

「アタシ、気になってるのよ。『真説・白烏伝説』では、たくさん動物が死んだけど……
 みんな『安らかに息絶えていた』のよね?
 『痛みに暴れた様子もなく』とか、『眠らされたかのよう』とか……あさこさん言ってたでしょ?」

「ええ。不気味だったので印象に残っています」
「それって、おじいさんの話に出てきた……『家畜を安らかに送る』おまじない。アレと重ならない?」
「はい。それはボクも同意です。『伝説』と『姉妹唄』に接点が見つかった。大きな進展だと思います」
 あごに手を当て、考える仕草をするセイルちゃん。二の腕に寄せられたQカップバストが、シャツの襟元でぷくっと盛り上がる。

「おじいさんに唄を教えた、『シイハラ先生』という人物。彼がさらなる鍵を握っていそうですね」
「『彼』じゃないと思うわ。『ユキヨ』はたぶん女性名よ。……んんっ?……アレ?」
「どうかしましたか?」
「いや、シイハラユキヨって名前……ごく最近、どっかで見たような気がして」

※[よもや、今カバンの中にある『自然教室 参加のしおり』に載っているなど、青梅アイコは思いもしない]

「ひとまず現時点で推理可能なのは、歌詞を黒塗りした人物の意図ですね。
 長女――動物殺し――シロガラス
 この3つの“つながり”を隠蔽したかったのだと思います」

「隠蔽ってことは、長女を“かばいたかった”のかしら?
 動物殺しの汚名がかぶされば、当然、飯妻の名にキズが付く。
 歌詞を隠す動機があるのは、やはり飯妻家……?」

「それにしては、中途半端な隠し方ですよね。悪印象な部分はまだ残ってるでしょう? 『血にまみれ』の時点で十分マイナスイメージなのに」
「……!!!」
 その時、アタシは思い付いてしまった。またしても、恐ろしい想像を!

「どうしました? アイコさん」
「逆、かも……」
「はい?」
「歌詞を黒塗りした人物が、長女をかばいたかったとは限らない。逆に……責めていたのかも」
「責めていた?」

「そうよ。あの隠し方は、長女の罪を“告発していた”のかも!」

つづく