千々山村自然教室

唐鞠 作
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「長女の罪を……『告発』? 動物殺しの犯人としてですか?」
「いいえ」
 聞き返したボクに、アイコさんは首を振る。

「セイルちゃん、姉妹唄の一番は、明らかにシロガラス事件をもとにしてるわよね?」
「確かに。妖怪の名がダイレクトに入ってますもんね」
 事件後に作詞されたことは、間違いないだろう。

「でね、考えてみたの。なぜ黒塗りはあの2か所……『ちくしょうどもの』と『しろからす』だったか? もしかしたら、真実でない部分を潰したんじゃないかしら?」
「真実でない?」
「つまり、歌詞を黒塗りした人物は、こう訴えているのよ――

 長女は動物殺しの犯人じゃない。
 だって長女がまみれた血は、『動物の』じゃないもんな?
 『シロガラス』なんて妖怪も、本当はいないんだろう?
 村長がでっち上げたウソなんて、見破っているぞ」

 ザワッと怖気が走る。
「動物のではない血?……ということは!」
 刃傷沙汰だ。明らかに『仏の教えを忘れた』行為。まさか長女が、誰かに傷を負わせていたのか!?

「たぶん、これは真相を知る者からのメッセージよ。
 白烏伝説は、あくまで村長目線で語られたもの。
 飯妻家にとって不都合な事実は、脚色されている可能性があるわ。
 そして『誰か』は、歌詞を黒塗りすることで、『ここがウソだ』と訴えていたの」

「そんなことができる人物とは、いったい何者……?」

 にわかに通り過ぎた風が、夏草を不穏にざわめかせた。
 スカートがアイコさんのふとももに張り付き、グラマラスな脚線を露わにする。
 プリーツ袖からのぞく二の腕も、40歳には見えない肌ツヤだ。ムチムチの質感が伝わってくる。
 白い布地に透けて見えるブラジャーは、どっしり成熟した110センチ超のバストを支えていた。重々しく見えるそれすら、しかし千々山では小さい部類である。

(今の話を検証してみよう)
 「真相を知っているぞ」と脅すメッセージなら、送る先は真犯人だ。
 ならば、黒塗り歌詞を“持っていた”人物……米岸富右衛門こそ真犯人?
 彼は西洋化学を修めた知識人で、医術にも長けていたという。三兄弟を廃人にする毒も、きっと作れただろう。

(ま、まさかっ!)
 彼の正体が、明治のマッドサイエンティストだとしたら
(飯妻三姉妹は、人体実験の被験者か!?)

 どんな怪しい薬を投与したか知らないが……次女の『天候予知』、三女の『地中探査』は、その結果目覚めた超能力!
 6尺を超える長身、6尺までしか見えない弱視は、肉体への反動。いわゆる副作用だったのでは?

(すると長女も?)
 違う。
 おそらく長女は失敗例だ。超能力は身につかず、乳房だけが異常成長してしまった。
 そして失敗という“不名誉ゆえに”、長女の存在は隠されたんだ。
 だから、歌詞は二・三番だけが残った。

 すなわち『飯妻ノ姉妹唄』とは……人体実験の成功を讃える歌!

(そう考えると、辻褄が合ってしまうぞ!?)
 もしかしたら、飯妻家の三兄弟は、富右衛門から長女を“奪い返した”だけだったのかもしれない。
 そして富右衛門は、実験失敗を知られまいと、口封じのため毒を……?

 ああ、資料館にコーナーを作られるほどの偉人が、ボクの中でどんどん極悪人になっていく。
 思い出せ……。栗辺寺のお堂で、あさこさん、言ってなかったか?

「こちらの釜にはいわれがありまして。明治時代、この村は隣村の村長一族と仲互いをしていた時期があったのですが、その仲直りの食事会で使われた物なのです」

(あ! これ動機だ!)
 明治時代、ふたつの村は険悪な関係だった。
 千々山開拓のリーダー・富右衛門は、貫塗村の飯妻家と敵対してるじゃん!
 『仲直り』がうわべだけなら、この食事会で毒を盛った可能性がある。

(ん? まさかこれ、シロガラス事件と同じ日じゃないよな?)

 もしや、本当の出来事は『食事会』で……
 そこでいろいろ悲劇が起きて……
 村長はそれをごまかすため、『事件』を捏造したのか?

 数秒でそこまで想像し、ハッ!と現実に還る。

(なーんて、まさかね!)
 アハハ……まったくボク、どうかしてるな。
 こんなバカげた想像、マンガやラノベじゃあるまいし。「超能力なんてありえない」って、自分で言ったセリフだろ?
 やれやれ、恥ずかしくてアイコさんには話せないや。胸の中にとどめておこう。

「どうしたの? セイルちゃん」
「あ、いえ……動物の血でないなら、誰のかな? って思いまして」
「う〜ん、そこ突かれると弱いなあ」
(考えてなかったの?)
 アイコさん、その場の思い付きで話すタイプだなあ。

「そういえば、シロガラスを牢から逃がしたのは、末っ子だったわね?」
「ええ、理七くんですね」
 飯妻理七。彼の失踪だけは新聞が証明する“事実”だ。伝説よりも信憑性が高い。

「アタシの仮説どおり、シロガラス=長女なら……理七くんは巨大なおっぱいに興奮しすぎて、鼻血を出しちゃった。とかかしら?」
「まさかぁ! それで『血にまみれ』ですか?」
 刃傷沙汰や人体実験より平和なオチだから、そうあってほしいけれども。

「さすがにありませんよ〜。理七くん当時9歳でしょ? まだそんな……女性のカラダに興味なんて」
「いやいやセイルちゃん、9歳にもなれば、性に目覚めてる男児なんてフツーにいるわよ?」
「え?」
「ウチの娘が小3のとき言ってたもの。『クラスの男子がチラチラ胸を見てくる。ブラ着けるの恥ずかしい』って」
「小3でもう着けてたんですか!?」
「Eカップのファーストブラを買って間もない頃の話よ」
「うわぁ……そりゃ女子でも気になっちゃいますよ。アイコさんに似て、発育良好なご息女ですね」
「中2の今年、アタシを追い越してLカップになったわ。母として感慨深いわね♥」

 そんな娘さんが自然教室のゲストに来ているのか。中2――14歳でLカップなんて、千々山以外じゃボクくらいかと思ってたけど。すごいな、日本人。
(あー、しまったなあ。チホくんと別れたとき、もうちょっと待っていれば、ひと目見られたのに)

「でもさ、セイルちゃんの言うとおり、理七くんがウブな9歳児だったとして、よ?」
 アイコさんは、不意に妖しげな目つきで問いかける。
「長女の肉体を前にして、興奮せずにいられるかしら? 理七くんから見れば、実の姉とは知らない女性が牢に囚われている。しかも、ケタ外れの超ぉ〜巨大おっぱいが、縄で縛られている状況よ?」

「た、たしかに。想像してみると、あまりに刺激が強すぎますね」
「ええ。長女にそのつもりが無くとも、扇情的な光景は、少年を誘惑してやまなかったと思うの」

 8月の夜、灯火にぼんやり浮かぶ女性の姿。それは幼心にも、あまりに幻想的だったに違いない。
 なぜなら、白い肌も巨大な乳房も、人間の範疇をはるかに逸脱していたから!
 暴力的な肉感は、たやすくバキン!と性の扉をこじ開け、リビドーを呼び覚ましただろう。
 理七くんはおっぱいの魅力に逆らえず、フラフラと牢に誘われ……そして!

 うっわあ! エロいっ! なんていやらしさだ!
 互いに血縁を知らない姉弟の超乳緊縛シチュって……背徳感盛り盛りのジャパニーズエロスじゃないか。さすがは世界に名だたるHENTAIの国!
※[日本のオタク文化が好きなセイルは、賛辞のつもりで使っている。17歳の彼女がそうしたコンテンツを知っていること自体、ちょっと問題だが……まあ、そういうことである]

 恥ずかしながら興奮したボクは、赤らんだ頬をペットボトルで冷やす。
 旅先で会った中年女性とこんな猥談を交わすなんて、思ってもみなかった。

「す、すると長女の罪は、実の弟を誘惑してしまったことですか」
 なるほど。父親である村長が隠すのもうなずける。

「しかしアイコさん、ここまで引っぱっておいて今更ですけど」
「なあに?」
「性的興奮で鼻血が出る、ってのは、医学的根拠のない俗説ですよ?」
「そうなのぉ!?」
「はい。アレはあくまでマンガ的表現ですから。世界中に広めたのは、『ドラゴンボール』とかの日本の作品です」
「そうなんだ。アハハ……知らなかったわぁ。さすが大学院生。物知りねえ」
 年齢を感じさせないキュートな仕草で、アイコさんは照れ笑いする。

 こういう理系のツッコミは、いつもならミレイの担当なんだけどな。

   * * * * *

 セイルの指摘どおり、性的興奮と鼻血には、医学的に因果関係が認められていない。
 ただし、「酸欠と鼻血」ならば因果関係は認められる。
 間脳が窒息状態を判断すると、酸素を運ぶため血圧を高める。すると、鼻腔内で毛細血管の集中する場所(キーゼルバッハ部位)から、出血するのである。

 理七少年が何によって窒息したかは、あえて語るまでもあるまい。

 やわらかく大きなそれは、少年の“顔面”どころか……
 “頭部”どころか……
 “上半身まるごと”を包み込めたのだから。

   * * * * *

「いや〜、まいったわね。結局アタシの恥ずかしい妄想だったかぁ」
 うん、理七くんに失礼な妄想でしたね。(ボクも富右衛門に失礼な妄想をしたから、人のこと言えないけど)

「でも待ってください。ある点において、ボクはさっきの説を支持したいです」
「ある点?」
「真実でない部分を塗り潰した。ならば、『残りは真実』ってことでしょう?」
「あ……っ」
「つまり『6尺超え』は、誇張じゃない。まぎれもなく真実だったと――」

 改めて推測してみる。バスト6尺、すなわち約182センチとは、いったいどれほどのサイズだろうか?
 一般に、両手を横に広げた幅は、ほぼ身長に等しいという。明治時代の栄養事情を考慮し、身長は現代の平均以下。仮に152センチとしよう。
 するとどうなるか? 両腕で胸周りを一周できない。30センチも足りないということだ!

※[セイルの見積もりはまだ甘い。明治13年頃、ドイツの医学者・ベルツが行った調査では、成人女性の平均身長は147センチである。
 それを踏まえると、次女の『6尺超える身の丈』も、いかにずば抜けていたか理解できるだろう]

 試しにボクは、腕を前に伸ばし、中指同士を突き合わせて輪を作ってみる。116センチQカップでも、占有領域はせいぜい3割。この輪全体を乳肉で埋めつくすなら……重さは両方で30キロを超えるはず。
 つくづく恐ろしい物量だ! 生活困難レベルの超乳と言える。

「そ、そういうこと……かしらねぇ?」
 アイコさんも6尺超えを想像し、その巨大さに戸惑っているようだ。

「ところでセイルちゃん」
「はい?」
「アタシばっかり話しちゃったけど、まだ、あなたの懺悔を聞いてないわよ」
「ああー」
 そうだった。今度はボクが打ち明ける番だ。

 さっき思い付いた『人体実験』は、あくまで“過去”に対する仮説。
 そっちじゃなく“現在”、『千々山村の女性はなぜ胸が大きいのか?』ボクには、出発前から立てていた仮説がある。

「いやあ、ボクのは本当に物騒な内容ですよ? アイコさんの心霊説よりもっとヤバい。村の風評被害になりかねません」
「えー? どんなのよ? 気になるなあ」
 アイコさんは肘で小突きながら催促してくる。ボクの横乳に寸止めする距離で。

「改めて前置きしますが、本当に『ハズレで良かった』。このデータが否定してくれて、心底ホッとしましたよ」
 言いながら、ボクは一冊のパンフレットを取り出す。

「これは?」
「村の健康福祉課が刊行する、『村民すこやかガイド』です。郷土資料館でもらってきました」
 赤電話のそばに、「ご自由にお取りください」と置かれていたものだ。村の保健衛生に関する統計グラフで、わずか10ページの小冊子。6年に一回の刊行で、これは去年刷られたもの。

「このグラフを見てください。村民の死亡原因……がんの割合が少ないでしょう?」
「あらほんと!」
 日本全体を見れば、死因として『悪性新生物(がん)』は不動の1位だ。2位の『心疾患』と倍近い差をつけている。ところが、

「千々山村ではがん患者がほとんど出ない。わずかにいても、8割が男性です」
「しかもコレ、罹患部位の項目……『乳がん』が、ゼロ?」
「そうです。ごくまれに女性のがん患者が出ても、乳房を患った人は一人もいません」
 日本人女性のがん罹患数として、乳房は1位だ(死因1位は大腸)
 にもかかわらず、この村では一人の乳がん患者も出していない。

「昭和の時代からずーっとですよ。信じられますか?」
「つまり、異様に肥大化して見えるおっぱいも……じつは健康そのものってこと?」
「そうです。言うなればここは、『おっぱいの聖地』!」
 サンクチュアリ・オブ・バスト。大げさかもしれないが、そう呼べるほどの奇跡が、この村にはもたらされている。

「この統計を見て、確信しました。ボクの心配とは『真逆のこと』が起きていたんだって」
「まぎゃく?」
「もともと鉱石集めが趣味のボクは、この辺の地質を調査したかったんです。こんな道具まで用意してね」
 続けてバッグから取り出したもの――リモコンくらいの機械を見て、アイコさんは大いに驚く。

「!? もしかして、それ」
「工学部の友達に作ってもらった、ガイガーカウンターです」
「セイルちゃん、あなた……」
 覚悟を決めよう。ボクが抱いてしまった「あらぬ疑い」を白状するときだ。

「懺悔します。ボクは疑っていました。千々山村の豊乳は、鉱物由来の放射線が影響していると」
――【仮説C 自然放射線説】


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 自然教室の最終イベント『わくわくトレジャーハント』。これは単純に言ってしまえば、宝さがしゲームです。(直訳ゥ!)

 木造校舎の周辺に、ガチャのカプセルが8個隠されています。わたくしたちは暗号をヒントにそれらを見付けるのです。
 カプセルの中身はバラバラの手紙。8枚つなぎ合わせて最終問題を解読し、謎解きを果たせば『お宝』にたどり着ける――という流れ。なかなか手の込んだレクリエーションですわね。

 男子はもうノリノリでした。真慧くんなんて、頭脳担当の面目躍如とばかりにメガネをくいっと上げ、豪快に笑う岳さんにつっこまれていました。

「いつきちゃん、がんばろ」
「そやな。きばってこぉ」
 意気込む小3コンビは、とても微笑ましい光景。溌剌としたFカップを、ガッツポーズで揺らします。
 さやちゃんも、ああ見えてワクワクしているのでしょう。出会ってまだ半日ですが、無表情の中にも微妙な変化があることに、わたくしは気付き始めていました。

 本来なら全員で楽しむレクリエーション。ですが、いざ開始してみれば――

「フフン☆ アタシらが狙うお宝は、あんな子どもだましのオモチャじゃねー」
 わたくしたち6人は事前の打ち合わせどおり、仁科さんたちに気付かれないよう、校舎内に潜入しました。

「行こうぜ! 囚われのプリンセスを救い出す『鍵』を求めによ」
 ビシィ! と行き先を指さすチホちゃん。彼女もなかなかのハイテンションです。男子のことを笑えませんわね。

「アハハハハ! ねーちゃんがプリンセスって!……むぐぅ!?」
「ナッちゃん……声が大きいですわよ。外にバレてしまいますわ」
 笑いのツボに入ったナッちゃん。その口をわたくしがふさぎ、黙らせます。

「ご、ごめんごめん。でも『囚われ』ってゆーか、自分から閉じこもってるんだけどね。アキねーちゃんは」
「まあまあナッちゃん。チホだってたまには、かっこいい表現のひとつも使いたかろうよ。くっくっく」
「うっせーなカエデ!」
 小声で交わす会話も、結局いつもの調子です。

(いったい、何を目指しているのかしら?)
 わたくしたちは先頭のかえでちゃんに導かれるまま、板張りの廊下を忍び歩きます。

「フフフ。なんかドキドキするねー☆ スパイの極秘ミッションみたいで」
 こんな状況でも、相変わらずナッちゃんは浮かれた様子。
「ねーねー、チーム名つけようよ。『シルバーエンゼルス』とかどうかな?」
「(ださっ!) チョコボールネタ、引っぱりますわねえ」
「ルミお嬢様こそ、庶民的なお菓子をよくご存じで〜」

「それにしても、意外じゃったぞ」
 Iカップをたぷんと揺らし、かえでちゃんが振り返ります。
「あまね殿、ワシらに同行してよいのか? 真面目な其方らしくもない」

「言ったでしょ。今日だけは私、『よい子』じゃないもん」
 にっと笑うあまねちゃんの顔は、とても活き活きしていました。初めて悪ふざけに参加する優等生は、冒険心をうずかせているみたい。

「それに思うんだ。こうやって私たちがドタバタするほど、成功につながるんじゃないかって」
「あら? どうしてですの?」

「日本神話の『岩戸隠れ』を知ってる?
 天の岩戸に閉じこもったアマテラスを、ウズメっていう踊り子が誘い出したんだよ。
 ウズメは、おかしな踊りで八百万の神々を笑わせたの。
 楽しそうな笑い声が気になったアマテラスは、外を覗いてしまった、ってわけ」

「あー、知ってます。わりと有名なお話ですわね」
「引きこもっちゃったあきさんも、アマテラスに似てると思ったんだ。だから私たちはウズメになって、滑稽なくらいドタバタ振る舞うべきなんだよ。それが結果的にあきさんの心を救う……。そんな気がするの」
 あまねちゃんはぺろっと舌をのぞかせ、「直感だけどね」と付け加えました。

「なるほどー。さすがあまねちゃん」
 神話になぞらえるとは、優等生らしい知的な発想ですわね。

「だからチーム名は、『ウズメダンサーズ』なんてどう?」
(よりダセェーーー!!!)
 口には出さねど、心中で思い切りズッコケました。まさか彼女が天然ボケを!

(えー……? あまねちゃんって、ネーミングセンス無い子?)
 苦笑いしか返せません。知的な前フリをしておきながら、最悪のオチに着地するとは。

(よりによって、なんでウズメの方に着目するかなー? 響き良くするなら、『天照解放軍(アマテラス・リヴェレーター)』でしょ!)
 ……いや?
 う〜ん……よく考えたら、わたくしも中二くさいネーミング。人のことは言えないか。
 そこはまあ、ここにいる全員「小学生」ってことで、お許しあそばせ☆

 ところであまねちゃん、あなたはご存じかしら?
 古事記には『胸乳(むなぢ)かきいで』と記されていること。すなわち、ウズメが生おっぱいをさらけ出したエロティックダンサーだったということを。

 偶然知っていたわたくしは、思わず想像してしまったのです。
 わたくしたち5人、I・I・I・G・Eカップの小学生が、幼い乳房も露わにプルルン♪プルル〜ン♪と舞い踊る様を。
(……ああっ♥ なんて魅惑的な光景! エロスが神々しさに昇華され、高天原を照らさんばかりですわ!)

「あの〜、ウズラでもスズメでも構わないっすけど」
 最後尾で小さく挙手しながら、遠慮がちに声をかける者。鳥に詳しい“彼”の名は――

「女子のスパイチームに、なんでオレまで加えられてるんすかねぇ……?」

 進太くん。
 そうです。さっきわたくしは「6人」と言いました。チホちゃんに強要されるかたちで、なぜか彼まで同行しているのです。

「おめーは『証人』だよ、シンタ。事実確認が終わったらすぐ開放すっから、ちょいアタシらに付き合えや〜」
 脅すようなチホちゃんの表情から、妖しい魅力を感じました。かえでちゃんといい、ワルい笑顔が似合うなあ、このコンビ。

「まあいいっすけど。早くしてくださいよ? オレ、宝探し行きたいんすから」
「心配せんでも、もう着いたわい。ホレ」
 かえでちゃんが指さしたのは、校長室でした。正確には、その横に置かれたガラス棚。および、壁面のパネルです。

「ああ、学校でよく見る、メダルやトロフィー飾っておくスペースですわね」
 こんな山奥の中学校でも、一応部活の大会には出場しているみたい。
「生徒数が少ねーから、チームスポーツは弱小だけどな」
 聞けば、野球部も常にギリギリ。陸上部からの助っ人は当たり前だそうです。1年でレギュラー確定の代わりに、紅白戦もできないでしょう。

「ん? そういえばこのトロフィー、みんな個人競技ですわね?」
 受賞者がチームなら学校で保管されますが、個人の場合、その人が持ち帰るはずでは?
「あーコレ、全部『中山さん』っすよ」
 進太くんは知っているようです。

「10年くらい前、中学の陸上部にスゲー人がいたんですって。入学した時点で身長180後半あったとか」
「まあ……大きい」
 あらやだ。今のわたくしのセリフ、性的に聞こえたかしら?

「高跳び・幅跳び・ハードル走で県記録を更新し、全国まで行ったらしいっす。でも、メダルやトロフィーは『要らない』っつって、ずっとここに預けっぱなしなんすよ」
「へえ〜、名誉に興味無いなんて、クールですわねぇ。長身でステキなヒト……憧れちゃいますわ♥」
「女子っすよ」
「えっ? ああー、も、もちろん同じ女性としてですわ!」
 ごめんなさい進太くん、ウソです。男子と思ってました。

 あっ! よく見れば『平成20年度卒業生 中山つきの』って、小さなプレートが立ってるじゃない! 完全にわたくしの早とちりでしたわ……。お恥ずかしい。

「おーい、それよりこっちだ、こっち!」
 チホちゃんがパネルの前で手招きしています。中には、何枚もの写真が並んでいました。

「これは……閉校記念写真?」
「閉校ではなく、移転じゃがな。かつてこの建物は中学校じゃったのよ」
 あまねちゃんの質問に、かえでちゃんが答えています。

「ふーむ……やはり、ワシの読みどおりよ。これらが撮られたのは4年前の夏じゃな」
「お世話になった旧校舎を、全校生徒で掃除してる場面だね」
「おおーぅ! みんなおっぱいでけー♥」
 当然の如く、興奮して写真に魅入るナッちゃん。

「さすが中学生にもなると、チホさん・かえでさんレベルが平均だね!」
「あっはっは。言ったろー? アタシらなんてフツーだって」

 グサッ!!【ルミに30のダメージ】

 と……ひさびさの痛みに耐えつつ、わたくしもまた写真から目が離せません。

 91センチのGカップは、村の外では中学生の水準を余裕で上回っていたのです。
 が、ここではHカップ以上がむしろ多数派! 全国平均のはるか上を行く女子中学生がゴロゴロしています。
 3学年生合わせても20人くらいですが……仮に全体を『小・中・大』の3つに分ければ、わたくしは間違いなく『小』のグループ。
(す、スケールが違いすぎますわ!)

 目測だと、竹上さん(Mカップ)級も何人かいる様子。
 おかげで、「バスト110までスク水を製造している」という情報が、「オイオイ、それで足りんのか〜?」という180度変わった感想になりました。
 3年生と思しきお姉様方には、さらに先……アルファベット後半のゾーンへ踏み込む者も、ひとりふたり。
 ああっ、あの人! ぽっちゃり体型だけど、乳房のボリュームは仁科さんに匹敵する――!

 などと、驚きが止まらない中。
(あらっ!?)
 一人だけ、目立って胸の小さい女子が目に止まりました。
 流線型のスレンダーボディは、せいぜいAカップといったところ。目も細いですが、たおやかな顔立ちで、黒髪ストレートの美少女です。男子に間違えるはずがありません。

(ああ……千々山村にも『例外』はいたんですのね)

 失礼ながらホッとしてしまいました。こんな慎ましい胸では、さぞ負い目を感じたことでしょう。
 わたくしは、名も知らぬ彼女に同情します。今は高校生でしょうか? どうか、心を強く持って生きてくださいまし……
※[越出馬ルミは知らない。写真の女子、若柳雫が、当時その微乳ゆえに男子からモテまくりだったことを。そして、これから2年半でJカップまで急成長することを]

「ほらほら、ナッちゃんルミちゃん、興奮すんのはいいが、ちょっとどいてくれ。要件が先だぜー」
 チホちゃんは、進太くんの両肩を後ろから押さえ、パネルの前に立たせます。

「さあシンタ、おめーの姉ちゃんはどこよ?」
「はい?」
 きょとんとする進太くんに、かえでちゃんが説明します。
「中村やえこ先輩はワシらの5コ上。ならば、4年前の写真には中1として写っているはずじゃろ?」

「アタシらは、当時のやえこセンパイを見てーだけなんだ。頼むよ〜♥」
 進太くんの肩越しに顔を寄せ、耳元で艶やかにお願いするチホちゃん。

(えー!? ちょっとちょっと! おっぱい背中にくっついてません?)
 近すぎる二人の距離を、わたくしとあまねちゃんはドキドキしながら見守りました。当の進太くんは、まったく動じない様子ですが。

「ん〜と……あ! アレっす。真ん中列の右から4番目」
 彼が指さしたのは、よりによって集合写真。おそらく大掃除の終了後、玄関前で撮影したものでしょう。
 全校生徒50人弱とはいえ、両サイドに教師陣も入ってるから、一人ひとりが小さい!

(あの人が、中村やえこさん)
 顔は、なんて言うか……平均的。「かわいい? それとも美人?」と尋ねられたら、「どっちもそこそこ」と答えてしまうでしょう。良くも悪くも特徴の無い、地味な印象でした。
 そして肝心のバストは――

「あークッソ! 見えねーじゃんか!」
「前の人で隠れちゃってるね」

 残念がるチホちゃんとあまねちゃん。わたくしも同じ気持ちです。『やえこ先輩』は本当に、首から上しか写っていなかったのですから。
 原因は手前に並ぶ男子ふたり。肩を組みピースしているせいで間隔が閉じ、やえこさんのボディを隠していたのです。

「チッ! 卑怯だぜ。センパイの胸を隠すのに2人がかりなんてよ!」
「もし1人なら、どれほどの巨体でも隠し切れんかったじゃろうにのう」
「おッ、おのれェェェ……!」
 ナッちゃんは怒りの形相。何の罪もない彼らへ、呪いの念波を送らんばかりです。

 それはそうと。ひとり気になった女子がいました。
 目測150センチ未満の身長に、栗色縦ロールの髪、瞳の大きなロリータフェイス。小学生にすら見えますが……バストは特盛!
 仁科さんには及ばずとも、110センチは超えてるでしょう。体幹もスリムだから、O〜Pカップはあるんじゃないかしら?
(バストとそれ以外のギャップが凄すぎる……。まさかこの胸で中1じゃないですわよね?)

 立ち位置も気になります。生徒からやや離れたポジションで、むしろ教師陣寄り。体操服のデザインも違うから……
(もしかしたら、すっごく若作りの先生だったりして?)

「あの〜、これでオレ用済みですね? もう行っていいっすね?」
「ちょっと待て! 他の写真には? 集合写真以外には写ってねーのか?」
「ザッと見た感じ、いませんよ。つーか、顔が判ったんだから、あとはチホさんたちで探してください。そんじゃ!」
 進太くんは言い残すと、ダッシュで外へ。

「サンキュー! 仁科さんがアタシらのこと気にしたら、テキトーにごまかしといてくれやー」
 走り去る後ろ姿に、チホちゃんが声をかけました。

「チホちゃんっ! 今の声、外のさやちゃんには聞こえましたわよ」
「やべっ!」
 ていうか、さやちゃんくらい地獄耳なら、これまでの会話も聞かれていたかもしれません。耳栓をしてなければ。

 わたくしたちは集団行動を乱してここに来ています。もし校舎内に居ることがバレたら
「ルール把握してませんでしたー。てっきり校舎内にもカプセルがあると思いましたー。てへぺろ☆」
 と、言い逃れるつもりでした。(いや、『てへぺろ』ってそろそろ古くない?)

 しかし、ここまで来たら……たとえバレても、今更退くという選択肢はありません!

「何としても、やえこ先輩のバストを確認せずにいられませんわね」
「そーだよ! ナツは決めたんだ! 絶対手ぶらじゃ帰れない!」
 姉を救うため、ナッちゃんは決意のこぶしを固めます。

「あっ……『たとえノーブラでも、絶対手ブラじゃ帰れないっ!』」
「今浮かんだギャグのために、わざわざ言い直すな!」
 なんて。ルミナツ漫才第2幕を演じている場合ではありません。

「ね、ねえ……」
「どうされた? あまね殿?」
「あれ……な、何かな?」
「「「「?」」」」
 あまねちゃんは、なぜか怯えた様子。いちばん左下の写真を示す、その指は震えていました。

 それは、プールを掃除している写真。男子も女子も水着姿です。ホースで水撒きしたプールサイドをデッキブラシで磨いています。
 さっきお話した、ただ一人微乳の女子が中央に写っていました。周りの男子ったら、彼女のスレンダーボディが気になっている様子ですわね。いやらし〜い♥

「う、後ろに写ってる人! 身体がとぎれてるっ!」
「「「「ええっ!!?」」」」
 よく見れば、あまねちゃんの言うとおり。後ろに小さく写る女子には、胴体がありませんでした。
 正面向きですが、首の下からおへそまで、胸部がごっそり“消えて”います。左右の肩から腕、そして首が、3つバラバラに宙に浮いているのです!

 正直、ゾッとしました。「ヤバいものを見てしまった」という悪寒が走りました!

「ほっ、ホントだっ! 心霊写真だーーー!」
「ひぃゃああぁ〜!」
 驚嘆するナッちゃんにつられ、あまねちゃんが悲鳴を漏らします。わたくしも声こそ上げませんでしたが、恐怖に身が竦んでいました。

「「…………」」
 一方、写真をじっくり観察するかえでちゃんとチホちゃん。

「チホよ、おぼえとるか? これは……」
「ああ。みおセンパイが着てた、『あの水着』だな」
 ふたりは互いに顔を見合わせ、うなずきました。そして、

「大丈夫だ。よく見てみろよ」
「これはまぎれもなく、やえこ先輩じゃよ」

「「「えっ……?」」」
 耳を疑いました。
 だって、やえこさんを探してたのは、あきさんを凌駕する巨乳を期待したからではなくて?
 それが胴体のないオバケって! まさかのバスト0センチですの!?

「胸の部分は『空白』ではないぞ。光の射し方でたまたまそう見えるだけよ」
「近くでよ〜く見てみな。両側にカラダの線が見えるだろ?」
「もっとも、それも信じがたい曲線を描いとるがな。くっくっく」

 言われたとおり、今度は写真に顔を近付け、注意深く見てみます。
(あ……確かに。集合写真のやえこさんと同じ顔ですわね)

 そして!
「「「えええええーっ!!?」」」

 輪郭が見えたのは、白い布に包まれた乳房。いわゆる『乳袋』でした。照りつける日光によって、背後の白い壁に溶け込んでいたのです。
 それも特大の……極大の……圧倒的大容量!
 中1にあるまじき、とてつもないグレイテストバストが!!!

つづく