千々山村自然教室

唐鞠 作
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 白い乳袋の盛り上がりが、偶然、太陽の角度と一致していたのです。よーく目を凝らせば……ホワイトアウトしていた輪郭が見えてきます。
 それを視認したとき、わたくしの心臓は跳ね上がりました。パンパンに張った布は、正面から見たボディラインを腰の高さまで隠していたのですから!

「「でっ、でっかぁああアーーー!!!?」」

 心の底から吐き出した驚嘆がナッちゃんとシンクロ。朝からビックリの連続でしたが、本日最高値を更新です!
「…………」
 あまねちゃんも絶句。レンズの向こうで目を丸くしているのも無理はありません。

 だってこの胸っ! 明らかに異様と言えるほど、異様な盛り上がりが異様ですわっ! 「少なくとも」バスケットボールでなきゃ追いつけないボリューム。中学生という以前に、ヒトの範疇を軽く踏み越えています!
 他の写真の女子と比較しても、ぶっちぎりの巨大さ。全校1位どころか、村のチャンピオンと思っていた仁科さん(Rカップ)をも凌ぐなんて!

(ええっ?……コレ、いろいろ大丈夫? 『そういう病気』じゃありませんわよね?)
 心配になったわたくしは、思わずチホちゃんを振り返りました。

 そして彼女の横顔から、杞憂を悟ったのです。
 やえこさんを気の毒に思う気持ちが、微塵も感じられない! むしろ、「いいな〜♥ アタシもこんぐらいデカくなりてーな〜」と言わんばかりの、憧れのまなざしでした。

「いいな〜♥ アタシもこんぐらいデカくなりてーな〜」
(言いやがったー!)

 二重の驚き!! 常識格差に目まいがしてきました。千々山村では「おっぱいはどれだけ大きくても良い」ってこと? その価値観に限度はないの?
(ヤッベェですわ、ここの住人! 集団催眠にでもかかってるんじゃないですのっ!?)

 改めて間近で見ると、かすかな陰影が立体感を伝えています。少女の体幹から悠然とそびえ立つ巨大山脈……アンバランスも甚だしいですわ!
 横を向いたら、いったい何十センチ隆起しているの? ここまでくるとカップ数とか想像もつきません。もはや『上半身オールおっぱい』! プロポーションという概念を、肉の重みでズシン!と叩き潰す迫力でした!

 肺がカラッポになるほど仰天し、わたくしはフラッ……と立ちくらみます。そして目線も虚ろに、震え声で呟きました。

「し、心霊写真ですわ」
「「は?」」
「これは心霊写真……白く見えるのは、エクトプラズム的な何かですわ」

「アッハハハ☆ おいおいルミちゃ〜ん、今さらそりゃねーだろ。現実を受け入れようぜー」
「左様。どう見ても乳ではないか。常識的に考えて」
(常識とはーーーーー!!!?)

 わたくしのリアクションを笑い飛ばすふたりは、ネタだと思っているでしょう。
 が、マジです。かえでちゃんの言うとおり、本当にアンビリーバブルな曲線なんですもの! こんな体型の中1が実在するものですかっ! 霊の方がまだ現実的ではなくて!?

「こんだけデカいと具体的な数値が気になるなー。シンタを行かせたのは早まったかな?」
「姉弟でもバストサイズは知らないよ……ふつう」
 あまねちゃん、ツッコミができるくらいには落ち着いた様子。

「しっかしカエデ、ここに写真があるって、よくわかったな?」
「い、いやあ……じつはな」
 かえでちゃんはちょっと照れくさそうに理由を語ります。

「去年、アズサたちの自然教室を覗きに行ったのよ。2年連続で抽選落ちしたのがくやしくての。そのとき、窓の外からこの場所が見えたんじゃ」

 なるほど。彼女がここを発見したのも、元をたどれば、ゲストを招く計画が原因でしたか。かえでちゃんは、今年のために温存されていたのですからね。※[第25話参照]
 なんて数奇な巡り合わせ……。運命の歯車が一つでも欠けたら、わたくしたちは今この場にいなかったでしょう。

「しかし残念よのう。本来ならここで目的達成のはずじゃったが」
「でも、せっかくなので撮らせてもらいますっ!」
 ナッちゃんはガラケーを構え、写真のやえこさんをパシャパシャ撮り始めました。

(あーやっぱり、そういう攻略法ね)
 たしかに『写真を撮る』には違いない。とんち坊主みたく、言葉のロジックを突いた発想ですわね。

 しかし、幸運に恵まれ続けたナッちゃんも、最後の最後はアンラッキーだったようです。お姉さんとの賭けに勝つ手段――やえこさんの写真が、まさかこんなに不鮮明だなんて。

「チクショー、よりによってこんな写真しかねーとはな。あきさんを納得させられるかな?」
「うーん……正直、難しいと思う」
 えっ、あまねちゃん?

「本音を言うと、私もいまだに半信半疑なの。ここまで大きなムネが実在するなんて、ありえないって気持ちも、確かにある……。ルミちゃんが心霊写真って言うのも無理ないよ」
「え、ええ。村では見慣れているかもしれませんが、外界の者には信じられないレベルなのです。貧困な想像力を許してくださいまし」
 思いがけない弁護に戸惑いつつ、わたくしも言葉を継ぎました。

「疑ってごめんね。でも、正直な気持ちなの」
「せっかく案内してくれたのに、気を悪くされたらごめんあそばせ」
 あまねちゃんとわたくしは頭を下げます。正面からは、ぽよん♥と揺れる谷間が覗けたでしょう。
 が、今さらIやGなんて、ものの数に入りません。話はそういうスケールまで発展しているのです。

「いやいや、別に怒んねーって。もっともな意見だと思うぜ?」
「たしかにこのスク水、あからさまに不自然じゃからのう」
 ふたりは少しも機嫌を損ねず、むしろ同意してくれました。

「こうも都合よく背景に溶け込んでちゃ、偶然と思えねーよな……わかるわかる」
「作為を疑うのも仕方なかろうて。この乳袋、『サイズに対応するため』ではなく、『胴体消失トリックのため』――と考える方が自然よな」
 あら? 意外と客観的な見方をしてくれますわね。

「あとさ、デザインが本当に惜しいよね」
 ナッちゃんが撮影の手を止め、悔しそうに呟きます。
「だって、谷間を完全に隠してるんだもん。首元まで白い布に覆われて、1ミリも見えない。これじゃあ、おっぱいでも風船でもおんなじ写真が撮れちゃうよ」

「そうです。くやしいことに、あきさんに『中身』を証明できません! 本物か否か? 行き着くところは水掛け論ですわ。プール掃除だけに」
 あ、今のスベっちゃったかしら?(プール掃除だけに)

「でもな、これだけは誓うけど、アタシらは昔、この水着実際に見たことあるんだぜ」
「「「そうなの!?」」」

「ああ。前々から疑問だったんだ。この『乳袋付きスク水』、どこで売ってんのかなーって」
「ワシらが小3の頃じゃ。十津川みおさんという、3コ上の先輩がおっての。学校のプール開きで、この水着を着とったのよ。彼女も相当な乳の持ち主じゃった」
「古い記憶だけど……小6当時で竹上さんくらいあったぜ。LかMぐらいか?」

「「す、すごい!」」
 でも、あきさんはその上を行ってたんですよね。なんせ、Mカップに「むりやり詰め込んでた」のですから。

「でな、ワシらが『その水着どこで買ったんですか?』って訊いたら、『うふふ〜♥ ヒミツだよー』って返されたんじゃ」
「つまりだ……アレは真の巨乳にのみ与えられる、『選ばれし者のスク水』と見たぜ。なんせ、セパレートを許してくれねー学校が、特別に許可してんだからな」
 う〜む、乳袋を付けてまでスク水を着せるなんて。学校側にも譲れぬこだわりがあるのかしら?

「ともあれ、この写真、証拠能力の弱さは否めまい。ナッちゃんの言うとおり、せめて谷間が写ってなければの」
「だな。コイツは予備にして、もっとハッキリ写ったやつ探そーぜ」

 と、そのときです。
「おーい、林ぃー」
 すぐ隣の職員室から、男性の声が聞こえました。どうやら、外で作業中の林さんへ呼びかけているようです。

「さっき卯野医院から電話があってなー、米岸先生、目を覚ましたってよー」
「おおっ、よかったー。連れてったときは心配でしたよー」
「熱中症もすっかり回復したそうだー。夕方になったらお孫さんの車で帰るから、迎えに来なくていいってさー」
「了解っすー」

「……ん!」
 今のやりとりを聞いたチホちゃんが、何かひらめいたようです。
「なあカエデ、これってチャンスじゃね?」

「チャンスとは?」
「トミサク先生、ここでは救護班っつーか、保健の先生的なシゴトしてるんだってよ」
「そうなのかえ? 役職までは知らんが」
「父ちゃんから聞いたんだ。アタシの父ちゃんも仕事でよくここに来っから」

※[山野草のエキスパート・米岸富作は『採取部顧問』として雇用されている。
 だが実際、メインの業務は治療行為だった。林業の現場では、ケガ・虫刺され・植物かぶれなどが起こり得る。米岸は薬草の知識を活かし、そうした事故に対処していたのだ。
 ゆえに、彼のデスクが医務室(旧保健室)にあるのも当然だった]

「つまり今、保健室はガラ空き。調べ放題ってことだぜ?」
「なるほど! 鬼の居ぬ間になんとやらじゃな」
「人の急病につけこむようで、ちょっと気が引けますわね……」

 とはいえ、せっかく訪れた好機です。
 移転前――旧・千々山中の忘れ物が、何か残されているかもしれません。さすがにカルテの類は無いでしょうけど、やえこさんに関する情報が一つでもあれば……

 そんな期待を抱き、わたくしたちはさらに数メートル先の保健室前へ移動しました。たしかに看板の下には、『管理責任者 米岸富作』という表示が。

「ラッキー☆ 開いてるじゃ〜ん♪」
 周囲に気を配りつつ、こっそり保健室へ入ります。ここからはいよいよ本格的な不法侵入。バレれば叱られるでしょう。

「お、おじゃまします……」
 あらあら、あまねちゃん声が震えてますわよ? ウズメなら腹を括りなさいな。

「「「わ!?」」」
 室内を見て驚きました。保健室とは思えないほど雑然としていたからです。ベッド周りだけは片付いていますが、床にはいろんな物がゴチャゴチャ散乱していました。
 保健室なのに、消毒液ではなく草のにおいがしました。窓際には新聞紙が広げられ、植物が天日干しされていたのです。

「ひっでー……。ここ、本当に保健室?」
 ナッちゃんもあきれ顔。
「『トミサク先生』って、整理整頓が苦手な方のようですわね」

「まー、それでもえらい学者なんだぜ? 村じゃ尊敬されてる有名人さ」
「去年までは薬草屋の店主じゃったがの。新しい職場でも研究熱心はお変わりない様子よ」
「本業はヒマなのかもなー。外で見かけるときは、だいたい植物採集してるし」

「あ、薬草屋って……」
「そう。ヨースケの話にも出てきたろ? 『六草園』だよ。先生は、孫娘のアルジーヌさんに店を継がせたばかりなんだ」
「現店主は、さっそく趣味全開で『魔女の店』に改装したというワケよ。明治時代から100年以上続く老舗をな」
「へえー、思い切ったリニューアルですわねえ」
「そんな大胆なところも、陽介くんは惹かれたのかなあ」

 小声でおしゃべりしながら、わたくしたちは室内を物色します。
 部屋のすみっこには、身長計や視力検査板が寄せられていました。いかにも年季の入ったそれらは、新校舎へ移るとき置き去りにされたのでしょう。

(胸囲測定の記録も、どこかに残ってないかしら?)
 写真つきの巨乳ランキングとか理想的なんですけど……あるわけないか。いくらおっぱいにオープンな千々山村でも、さすがにそれは、ねえ?

「あ」
「ナッちゃん、何か見付けました?」
「いや、コレ……ヘンな絵だなーって思って」

 肩越しに覗き込むと、すくすく成長中のEカップバスト。小4らしからぬ角度にTシャツを押し上げる双丘は、今朝はじめて会ったときより迫力が増して見えます。竹上さんに贈られたブラの効果でしょう。
 ――は、いいとして。

 ナッちゃんが指しているのは、デスクマットの下に敷かれたカードでした。
「トランプ?」
 かなり色あせており、紙質の見た感じからも相当古いようです。

「独特の絵柄ですわね。浮世絵みたいな和風の趣を感じますわ」
「どうしてクラブのクイーンが一枚だけ?」
「……さあ?」
 ここはトミサク先生の事務机に違いないでしょう。デスクマットの下に、なぜこんなものを?

「おーい、ルミちゃん、ナッちゃん、こっち来てみろよ」
 手招きするチホちゃんのもとへ駆け寄ると、そこには細長いロッカーが。

「立てかけてある担架をどかしたら、出てきたんだ」
「床にしっかり固定されてるね。扉も開かない」
 小ぶりなヒップをつき出し、あまねちゃんがロッカーを調べています。(無自覚にエロいポーズ♥)

「気になるのは、このラクガキだよ。見てみ」
 鍵穴の近くに、赤いマジックで『Rubia!』と書かれていました。斜めに勢いよく、殴り書きしたような筆跡です。

「どういう意味だろ? 英語かな」
「さあ? わからんのう」
「ルミさんは?」

「……アカネ」

「「「えっ?」」」
「いえ、間違ってたらごめんあそばせ。おぼろげな記憶をたどれば……『茜』の英名か学名を、『ルビア』と言ったような」

「すっごーい! よく知ってるね」
「ルミ殿の博識ぶりには驚かされるわい」
「ま、まあ……。でも結局、書かれた理由は謎のままですわ」
 称賛に照れ笑いするわたくしの隣で、

「あっ! わかったー!」
 ナッちゃんがカッと目を見開きます。
「これダジャレだよ。『アカネ』、つまりロッカーが『開かねえ』って意味だよ」

「オヤジギャグじゃねーか!」
 すかさずツッコむチホちゃんの隣で、
「……! 待って。今の重要かも」
 今度はあまねちゃんが何か思い付いた様子。

「よく考えて。『学名を書く』なんて発想、植物学者“だからこそ”思い付いたんじゃない? つまり、これを書いたのはトミサク先生で確定だよ」
 なるほど。たしかに、オヤジギャグと言うには高度なアカデミックジョークですものね。

「すると、このロッカーを使おうとした先生は、『開かねーぞ! コノヤロー!』ってなったわけか」
「怒りに任せてラクガキしたんじゃな」
「そう。だから先生は鍵を持っていない。たぶん、中学移転のどさくさで紛失したんじゃないかな? 開かずのロッカーは、4年間ずーっと放置されてたんだよ」

 そこまで聞けば、あまねちゃんの言わんとすることも理解できます。
「すなわち! この中には、旧・千々山中の『忘れ物』が入っている可能性がきわめて高い――ってことですわね?」
 あまねちゃんはいい顔で頷き、親指を立てます。ノッてきましたわねー優等生♥

「ならカエデ、おめーの出番だぜ」
「承知した。……さあて、どっかに細い針金は落ちとらんか? みんなも探しておくれ。クリップでもかまわん」

「ええっ? まさかカギ開けるつもり?」
「うむ。ワシこういうの得意でな。よその家に頼まれて、開かずの金庫を攻略したこともあるぞ」
「カエデはめっちゃ器用だからなー」
 たしかにスク水を改造した技術は見事でしたが、ピッキングの心得まであるとは。

「あ、クリップ落ちてましたわ。2つ」
 ちょうど机のそばに落ちていたゼムクリップを拾い、かえでちゃんに手渡します。
「おお、助かるわいルミ殿」

「本当にそれで開けられるのー?」
 ナッちゃんが信じられないという視線を向けますが、

「錆びてなければ楽勝よ。こんなシリンダー錠、数分で開けゴマじゃい」
 かえでちゃんは涼しい顔で笑いながら、クリップを伸ばし始めました。

 それにしても見事な連携ですわね、『ウズメダンサーズ』。
 一人ひとりの活躍がリレー式につながっていきます。まるで、センターをぐるぐる交代するステージダンスみたい。
(ウフフッ♥ わたくしたち、今日出会ったばかりとは思えないほど、息がぴったりですわね)

「こちょこちょ、っと……ホイ、開いた」
「「「早っ!」」」
 耳かきするようにロッカーを解錠。かえでちゃんの技術に、わたくしたちは驚きます。

「なあに大したことない。礼を言うなら、クリップを発見したルミ殿にじゃ」
「ああ。アタシら、落ちてるモノ探すの苦手だからな」

(前言撤回ーッ!!!)
 はいはい、わたくしが間違っておりました! Iカップ“様”と息が合うなんて、とんだ思い上がりを!
 Gカップなんて貧民は、せいぜい視界良好な地ベタを眺めてろってコトですわよねぇー! ケッ!
 あーあー、どデカい乳をぶるんぶるん振り乱す彼女たちは、いつも無自覚に持たざる者を傷つける! 足元の花を悪気もなく踏みつけ歩くのです!

(ちッくしょおォーーー!!! なにがウズメよ! こちとら、おっぱいに顔をうずめて泣きたい気分ですわよぉおおおーーー……

 ……ーーーっと! いけませんっ!)

 Cool down……Cool down……落ち着きなさい、越出馬ルミ。チホちゃんたちとの友情は、くだらない嫉妬で壊れるほど安くないでしょう?
 ひがみ・妬みに何のメリットがありましょうか。寛容になりなさい。人の器まで小さくてどうするの。『心は常にKカップ』ですわ!

 そう自分に言い聞かせながら、深呼吸……深呼吸……
 ほどなく怒りは収まりました。熱しやすく冷めやすい、メタリックハートでごめんあそばせ。

 やれやれ。今日のわたくし、情緒不安定でいけませんわね。お嬢様らしい気品を取り戻さなくては。

 ……あ、今はやえこさんの写真を探してたんでしたっけ。
 願わくば早くお目にかかりたいですわね。「IとGなんてドングリの背比べだよ」と、その超乳で慰めてくださいまし。

 さて、そんなわたくしの感情など気付きもせず、チホちゃんはロッカーの扉を開きます。

 カチャッ
「「「「「あっ?」」」」」


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 初対面のご婦人方に、改めて自己紹介する。
「はじめまして。△△大学医学部4年の、志木沢ミレイと申します。このたびは、千々山村民の豊かなバストについて現地調査に参りました。同学部のOG・卯野先生を訪ね、お話をうかがっています」

「はじめまして。私は堤優衣。村のショッピングセンターで衣料品売場の店員をしています。バストは105センチ、Kカップよ」
 背筋のすっきり伸びたスマートな女性。黒髪をポニーテールに束ね、自然な笑顔を向けてくれる。接客業向きの、温厚で明るい人柄のようだ。

「わたしは尾崎れもんといいますぅ。村の小中学校で英語を教えています。バストは115のPカップです。Nice to meet you♥」
 失礼だけど……教師という以前に、大人に見えない。小学生のような童顔、低い身長、甘々のロリータファッションに加え、喋り方までほわほわしてるから。
 ただ唯一、巨大マシュマロのように膨らんだ胸だけが、成人であることに説得力を持たせている。

 ふたりとも、訊いてもないのにバストサイズを申告してきた。この村の自己紹介とは、そういうものだろうか?
「あっ、わ、私は……な、70センチ……AAAカップ、です。よろしくおねがいします」
 私も今さら恥じらいつつ、この村の流儀に従う。

「「こちらこそよろしくねー♥」」
 ふたりは私の胸に視線を送る。かわいい小動物でも見るように、瞳をキラキラさせて。

 それが気まずくて、別の話題を振る。
「ええと、英語の先生ということは、尾崎先生も先輩と同じお勤め先で?」
「はい。デスクは中学にあるけど、すぐ隣の小学校へも授業に行きますから。リョーコ先生とは毎週お会いしますぅ」
「ちなみに、一部の生徒からは『モンティ先生』って呼ばれてるのよね」
「Yes,I am♥ 『れもんティーチャー』から『レモンティー』。さらに略して『モンティ』になったんですよぉ。ミレイさんもどうぞ、そう呼んでください」

 よかった。生徒からは好かれているみたい。こんな幼い容姿では威厳に欠けるだろう……なんて、余計な心配だったわね。
 それにしても、常にスマイルを崩さない人だ。たぶん生徒を叱るときも、笑顔のまま圧をかけるタイプかな。

「ちなみに、通り名ならアタシにもあるのよ」
 リョーコ先輩が、グッと立てた親指を自分に向ける。
「こう見えても外科医としては凄腕でね。人はアタシを『千々山のブラックジャック』と呼ぶわ!」

「こらこら〜、ウソつかないの」
 すかさずツッコミを入れる堤さん。
「ま、そう言う私も、凄腕のフィッターを自負してるけどね。人呼んで『千々山のブラジャー』!」

「アハハ! アンタ自身がブラになってんじゃん! ユイまでふざけないでよ〜」
「冗談じょうだん☆ 本当の通り名は『どんなおっぱいも包むつつみさん』よ」
「あ……はは……」
 反応が追いつけない。常識人の堤さんまでボケに回られたら、私はどうすればいいの?

「えっとぉ〜、わたしは千々山の『ブラッ…』『ブラジ…』う〜ん?」
(モンティ先生まで対抗しなくても!)
 ふたりのボケに乗っかろうと頭を悩ませている。

「あっ、『ブラジル水着が似合う女』! コレですぅ」
「「なわけないでしょ〜!」」
 左右からの同時ツッコミを、115センチのマシュマロが「ぱふん♥」と受け止める。

「むぅ、ホントですよぉ〜。わたし普段はこういうOutfitだけど、水着は意外とAggressiveなんですよ? 黒いヒモみたいなセクシー系♥」

 いろいろと問題発言! 普段からフリフリ服なのも驚きだけど
(その体型でブラジル水着を!?)
 小学生並みの童顔・低身長にPカップのアンバランスボディ。そこに大胆なスリングショットなんて着たら……“弦”の張り具合がものすごいことになるわ!

「ホントにぃ? だったら今度、学校のプールで着てみてくださいよ」
「やぁん♥ さすがに生徒の前じゃ着ませんよぉ」
 教育者としての節度は一応あるみたい。むしろ危ういのはリョーコ先輩の方ね。

「はーい、自己紹介はこのくらいね。ちょうど水着の話題が出たことだし、『D式水着』の話から入っていいかしら?」
「えっ?」
 モンティ先生の実年齢、非常に気になるんですが。

「あーごめんユイ、待って。ミレイちゃんには『D組』についてまだ何も教えてないから。先に簡単なハナシを、ね」
 私に向き直った先輩は、ひと呼吸置いて説明を始める。

「ねえミレイちゃん、はるちゃんを手当てしたとき気になったんじゃない? 村の子どもたちは、『何歳ごろから』『どれだけのスピードで』胸が成長するか?」
「はい。小学生の発育ぶりは、特に気になっていました。詳しくお話をうかがいたいです」

「一言でいえば『十人十色』ね。本当にまちまちなの。
 小学校入学前から膨らむ子もいれば、高学年でやっとって子もいる。
 ぐーんと急成長したかと思えば、数年の休眠期に入るケースもある。
 まあ、総じて全校平均よりはるかに大きいのは、確かだけど」

(なるほど……)
 私は頷く。【SONG】の影響は個人差が激しく、ムラがあるようだ。
 『入学前』というフレーズが聞き捨てならないが、今は傾聴しよう。

「中でも発育の著しい児童を、特別に『D組』とカテゴライズしているの。
 基準としては、小学生のうちにKカップに達し、既製のスクール水着が入らなくなった児童。
 中学の場合、110センチを超えてセパレートでも対応できなくなった生徒ね。
 彼女たちには、学校側が特殊な水着を進呈し、D組の一員として迎えるの」

「……すごい」
 Kカップ小学生の存在は、はるちゃんの話でチラッと出ていた。しかし、現場の養護教諭から語られると、より真実味が増す。千々山小でも特別措置が必要なんて、やはり別格の大きさなのだろう。

「とはいえ、小学生のD組加入は、さすがに数年に一度のレアケースよ。実際今は、中3と中2にひとりずつしかいないわ」

「そういえばここ数年、新規メンバー現れないわねえ」
 堤さんが少し寂しそうに相槌を打つ。
「女子全体の平均バストは、むしろ上昇傾向なのにね」

「あ、『組』といっても、学級を分けてるんじゃないわよ。
 ただ、ときどき……隔月くらいのペースで特別授業を行うだけ。
 バストのケアとか、ブラの着け方・直し方とか。おっぱいに関する正しい知識を養うのが目的ね。
 そんなD組の運営委員を、アタシとユイは長年務めてるの」

 先輩はそこまで話すと目線で合図し、堤さんにバトンタッチする。

「今日私がここに呼ばれたのも、D組について説明するためよ。研究熱心な大学生が来るって、リョーコから事前に聞いてたから」
「そ、そうだったんですか! ご足労いただき、ありがとうございます」
「いいっていいって。私もけっこう楽しみにしてたのよー」
 頭を下げる私に、堤さんは手のひらを振って返す。

「うふふ♥ みねこの運転手として来てみれば、こんな面白い話を聞けるなんて。偶然って、あるんですねえ〜」
 モンティ先生は意味深に笑う。もしや、彼女も関係者だろうか?

「さて、さっきご紹介に預かったとおり、私もD組運営委員。特に、衣類関連の事柄を一手に引き受けてるの」
「なんせ凄腕ブラフィッターだもんねー。毎年、保健の授業にも講師で来てもらってるし。とっても頼りにしてるわ♥」
 先輩と堤さんは、仕事でもプライベートでも親交が深いようだ。

「そして、D組を語る上で外せないのが、『D式水着』というアイテム。さっきリョーコが言った『特殊な水着』ってのがそれよ」
 説明しながら、堤さんは持参したバッグを開く。

「そもそも、先に作られたのはそっちでね。名前の由来でもあるの。D式水着のユーザーグループだから『D組』ってね」
「あの、ちょっといいですか?」
 そこで私は、さっきから気になっていた点を尋ねることにした。

「すみません。先ほどからお二人とも『でーぐみ』とおっしゃってますが……『でー』なんですか? 『でぃー』じゃなくて?」
「そうよ」
「現地語へのリスペクトね」

「?」
「くすくす♥ もしかしてミレイさん、お年寄りがDVDを『でーぶいでー』と発音するみたいだと思ったんじゃないですか?」
 モンティ先生に図星を指されてしまった。

「あ〜そっか。今は医学部でも、第2外国語にドイツ語選択するメリット、特に無いもんねえ」
「Dはドイツ語読みなのよ。向こうだと“ABCD”は、『アーベーツェーデー』でしょ?」
「な、なるほど。ちゃんと理由があったんですね。失礼しました」

「ふっふっふ。まあ、実物を見れば当てられるかもしれないわよ? “D”が何の頭文字か?」
 堤さんはソファから立ち上がる。そしてバッグから取り出した水着を、目の前に掲げて見せた。

(こ、これは……!?)


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「こ、これは……!?」
 全員あっけにとられました。いざロッカーを開けると、ハンガーで吊り下がっていたものは――

「……水着? スク水、だよな?」
「でも、おかしくない? 胸の部分開きすぎだよ」

 そう。すべやかな紺の合成繊維は、明らかにスクール水着……ですが、胸の部分がありません。生地がU字型にそっくり失われています。言わば、襟が異常に深すぎるのです。
 単純に「切り取った」のではないでしょう。ネックラインは白くふち取られていますから。もともとこういうデザインなのです。

「にゃははは! こんなの着たら、おっぱい丸出しになっちゃうじゃん! まるだし水着だー!」
 ナッちゃんが指をさして笑います。

 が、わたくしはそんな気になれません。このおかしなアイテム、何か重要な意味をもつ気がするのです。
(奇妙な感覚ですわ。思いがけず核心に触れているような……)

 脇腹の名札は空欄のまま。ただ、アルファベット一文字だけが先頭に記されています。
「この“D”って、ロゴマークかな?」
「う〜ん、見たことありませんわね」

 ロッカー内には、ほかにプラスチック製のコンテナボックスがひとつ。100均で買えそうな小さいやつです。蓋の上には、白い布が畳んで置かれています。
「こっちは何かしら?」
 わたくしが布を持ち上げると、何か板状のものを包んでいることが、感触で分かりました。

「おっと」
 布を広げるうちに、うっかり中の板を落としてしまいます。
 足元にパタンと落ちたそれは、クリアケース。ラーメン屋さんでメニューを入れるような、硬いタイプでした。
 そして、

「「!!!?ーーー……ッ」」

 わたくしとあまねちゃんは、声にならない悲鳴を上げました。
 理由はクリアケースの中身。それを目にした瞬間、心臓をギュッと握られたような衝撃に襲われたのです!

つづく