千々山村自然教室

唐鞠 作
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「……んン?」
 兎野医院のベッド上。水面へ浮上する感覚と共に、米岸富作の脳は覚醒する。

(あ〜、久々に見ちまったな。たまに昼寝するとコレだ)
 ときどき古い時代の夢を見るのだ。自分の生年(昭和12年)よりもっと昔、明治か大正か――開拓間もない頃の村を。
 米岸はあまり深く考えず、「ご先祖様の記憶かもな」くらいに思っていた。

(……今ごろガキどもが『宝探し』を楽しんでる頃か)



 教育長の椎原ユキヨから電話をもらったのは、つい先週のこと。

「ロッカー?」
<はい。今日こちらでカギが見つかりまして>

 保健室の床に固定されているロッカー。椎原はその鍵を、中学移転のどさくさで紛失していた。
 重要な物をしまった覚えもないので、そのまま放置。今日まで忘れていたのである。

 よって――第29話の宮方あまねの推理は、“ここまでは”正しい。
 ところが4年経った今、鍵が引き出しの奥から発見されたという。

<長い間すみませんでした。使えなくてご不便だったでしょう>
「いンやぁ、気にせんでください。俺ァもともと使ってねェんで」
<そうでしたか。ああよかった>
 電話の向こうで安堵する椎原。大きな胸をなで下ろしたのだろう。

<来週、自然教室でそちらへお邪魔しますので。そのときにカギをお渡ししても?>
「おう、いつでもいいですぜ。別に急ぎやしねえ」
<でしたら……お願いがあります。当日そのロッカーを貸していただけませんか?>
「はン?」

 そこで米岸は、午後のレクリエーションについて話を聞く。

「ほォー、宝探しかい。仁科の嬢ちゃんも面白ぇアソビを考える」
<それで、医務室をゴールにさせてもらえないかと。宝の隠し場所にあのロッカーを使いたいんですよ>
「ああ、いいですとも。前は椎原サンがヌシだった部屋だ。好きに使ってくれて構いませんぜ」
<ありがとうございます!>
「俺ァ、ジャマしねえよう引っ込んでっからよ」
<まあ。そうおっしゃらず、よろしければトミサク先生も――>
 そこで米岸は、椎原から意外な誘いを受ける。

「なにィ? 冗談じゃねェ! 子どもら相手にお芝居なんて、照れ臭くてかなわんぜ」
<あら、そうですか? 残念>
「とにかく場所は貸しますンで。役者は他を当たってくださいや」



 そんな約束をしていたのだが。
(悪ィことしちまったな。ちっとは片付けとくんだったぜ)
 雑然とした室内を思い返す。床にはモノが散乱し、窓際に薬草を干しっぱなしにしていた。
(……まァいいか)
 気にしないことにする。見られて困るものも無いし、もともと整理整頓は苦手だ。それより――

(こんなジジイに役者を頼むとはな)
 突然の誘いに面食らい、断ってしまったけれど。本当は子どもたちと遊びたい気持ちもあった。

 いかつい顔を緩め、米岸は苦笑する。
(コワモテを買われたかなァ。『海賊』の役なんてよォ)


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「アーッハッハッハ! よくぞここまでたどり着いたねえ!」

 麗しき女海賊が、仁王立ちで高笑いします。
 ドクロ印のキャプテンハットに始まり、黒い眼帯、赤いマント、腰に下げた短剣と――いかにもベタな海賊コスチューム。どれも100均のおもちゃコーナーで売ってそうです。
 堂々と開いた脚には、ダメージジーンズのハーフパンツ。
 そして上半身は、青い三角ビキニ一枚。反らした胸では巨弾がひしめき合い、組んだ腕からこぼれ落ちんばかり。むっちりたっぷりの豊満バストは、スマートな体躯と対照的で、ひときわ目を引きます。
 ワイルド&セクシー!
 極上の肉体が放つお色気に、コスプレの安っぽさなど完全に帳消しでした。

 が、そんな美女を前に
「「「「…………」」」」
 わたくしたちは気まずい沈黙しかできません。
 やっと合流したのだから、大詰めぐらい一緒に楽しむべきでしょうけど。

「♥」
 一方、ナッちゃんだけは相変わらず。大きなおっぱいに見とれています。



 ――数分前。
 わたくしたちは撤収直前のところを、突然現れた仁科さんに見つかりました。そして、こう問い詰められたのです。

「姿が見えないと思ったら……あなたたち、どうして『ここ』が分かったの!?」

「!!?」
 その訊き方にギクッ!としました。やえこさんの写真を探していたことがバレたと思ったからです。

(ま、まさかアレは、知ってはいけない秘密情報?)
 Uカップ小学生なんて異形の存在、外に漏らしてはいけなかった? 仁科さんはそのタブーを管理する側だったのでしょうか?
 しかし、続く一言で疑問は解消されます。

「地図、一枚も集めてないのに……?」

(((((はッ!))))
 今ので全員が察しました。

 わたくしたちは偶然にも、ゴール地点にいたのです。
 仁科さんの言う『ここ』とは、『宝の隠し場所』を指していました。「どうしてノーヒントでたどり着けたの?」という意味だったのです。

 すなわち、やえこさんとは無関係! 写真や水着を物色した“空き巣行為”はバレていません。
(よ、よかったあ……)

 でも、これで追及を逃れたわけじゃない。仁科さんの鋭い視線は、わたくしたちがズルしたんじゃないかと疑っているのです。
 まあ当然ですよね。スタート後すぐ集団を離れ、ずっと校舎内にいたのですから。

「ええと……これはですね」
「なんつーか、そのー、なんつーかなー」
 冷や汗をかきながら言い訳を考えます。いっそ正直に「偶然ですわ」と言えれば楽なのに。

「フフッ、『女のカン』ってやつですよ」
 ナッちゃんが最高に似合わないセリフを!

「ごまかさないで。正直に言いなさい」
「すみませんっ! じつは私、トイレの帰りにちょっと気分悪くなっちゃって……」
 えっ!? あまねちゃん?

「ちょうど保健室が見えたので、少しの間ベッドで休ませてもらってたんです」
「まあ! そうだったの。具合は大丈夫?」
「はい。もうすっかり良くなりました。勝手な行動でご心配おかけして、すみませんでした」
 あまねちゃんはそう言い、礼儀正しく頭を下げます。横から見ると、95センチのふくらみが存在感たっぷりに上下していました。

(うまい! とっさのウソで切り抜けましたわね)
 おかげで仁科さんも納得した様子。疑いは晴れたようです。

「とにかく無事で良かったわ……ってヤバっ! もう来ちゃう!」
 仁科さんは突然焦った様子で、持っていた袋の中身をベッド上にぶち撒けました。そして何を思ったか――
「「「「「!!?」」」」」
 おもむろに服を脱ぎ始めたのです!

 驚く暇も与えないハイスピード脱衣。ヘルメットより大きなブラを威勢よく外すと、日焼け跡も艶めかしい乳房が「ぶるるんっ」と露わになります。ばゆんばゆんと振り乱しながら、ビキニの肩紐をかけました。
 暴れる双球を手のひらで押さえれば、指の隙間から「むぎゅぅ……」とあふれる乳肉。弾力に満ちた巨塊を押し込むようにビキニへ収納します。

(おぉぅ……何度見てもすごい光景! Rカップの着脱シーンは興奮不可避のスペクタクルですわね!)
 簗漁のとき着ていた黒いタンクトップとは違い、今回はマリンブルーの三角ビキニ。布面積も小さめな、きわどいデザインでした。
 いいえ、仁科さんだからそう見えてしまうのでしょう。
 あのトライアングル、実際には十分大きいはず。並の女性が着ればスカスカどころじゃありません。
 そんな大三角形から、プリプリのお肉が全方向にあふれているのです。食い込むヒモで6区画に分けられたハミ乳は、ひとつひとつがDカップくらいありそうでした。

 やえこさんの後だから、さすがに見劣りするかと思いきや――全然そんなことありません!

 仁科さんのおっぱい、以前は「デカいっ!!!」という驚きが先行していました。美しいとは思いつつ、どこかでイロモノ視していたのです。
 しかし、彼女を超えるUカップ小学生の衝撃により、常識は更新(アップデート)されました。驚きの“閾値”が上がってしまったのです。
 結果、今ではRカップを『美乳』として鑑賞できます。すらりと長い手脚、引き締まったウエストともバランスの取れた、最適なサイズに見えました。まったく……慣れとは恐ろしいものですわね。

 驚異に馴化することで再発見したプロポーション。わたくしはその美しさを「神々しい」とすら思ったのですが――
(えっ?)
 着替え終わった仁科さんの姿は、逆に野蛮でアウトローな魅力を放っていました。

 なんせ、“海賊”のコスプレだったのですから!

「ちょっ、いきなりどーしたんスか? そのカッコ!」
 チホちゃんが訊いたのと同時。
「おっ開いてる! ここだな?」
「間違いねー、この部屋だ!」
 亮平さんと岳さんが、保健室の入口前に駆けつけたのです。

「「「うおーっ!!?」」」
 もちろんふたりとも仁科さんの姿に驚きます。あと数秒早ければ着替えを目撃していた、絶妙のタイミングでした。
 後ろにはガヤガヤと、他のみんなも続いています。

 そこで「にっ」と密かに笑う仁科さん。妖しげなその笑みは、コスプレの反応だけでなく、着替えがギリギリセーフだったスリルをも愉しんでいるようでした。

「あ……アーッハッハッハ! よくぞここまでたどり着いたねえ!」



 ――そして現在に至ります。

 パイレーツレディに変身し、颯爽と現れた彼女ですが
「おおっ、仁科さんカッケー!」
「すげー海賊っぽいすね」
 徹郎くん・陽介くんにも、正体バレバレの様子。

「ニシナサン? ふふっ、人違いだねぇ」
「「?」」
 微妙に寸足らずのマントをバサッと翻し、彼女は名乗ります。

「あたいはニーナ! かつて7つの海を騒がせた女海賊、ニーナ・ミシェフとはあたいのことさ!」

(『あたい』!?)
 絶滅危惧種な一人称来ちゃったー。しかも本名もじってるし!

「ま、それも昔話。今はご覧のとおり、ゴーストの身だけどねぇ」

(ダウト! はいダウトー!)
 こんなにムチムチぴっちぴちで血色の良いゴースト、いるわけないでしょ! 肉欲に訴える“生”のエナジーを放ちまくりじゃないですの!

「勇敢なるトレジャーハンター諸君、ここが最終関門さ。あたいの財宝を手にする資格があるか、試させてもらうよ!」
 仁科…もといニーナさんは、ノリノリで宣言しました。

(あーやっぱりそう来ますのね)
 案の定、女海賊は“出題者”でした。
 この『わくわくトレジャーハント』、思った以上にロールプレイング要素が強かったようです。わざわざストーリーを用意し、ラスボス役までいるなんて。手が込んでますこと。

「「…………」」(どきどき)
 手に汗握るクライマックスを前に、いつきちゃん・さやちゃんは緊張の面持ち。ここまでどんな冒険があったのでしょう?

 こっそり進太くんに現状を訊くと、
「もうカプセル全部集めましたよ。んで、中の地図つなぎ合わせたら、ココを示してたっす」
 とのこと。
「それより、ルミさんたちはどうしてオレらより早く着いてたんすか?」
「あ〜、まったくの偶然ですわ」
 進太くん、あなたには何度もウソをついてきたけど、今度ばかりは本当よ。

「ひでーな。保健室とは思えねーほどゴチャゴチャしてるぜ」
「なるほど。この中から宝を探せと……大変ですよこれは」
(あ、そういうこと!)
 岳さんと真慧くんの会話で理解しました。この散らかった道具は、宝をまぎれ込ませるセッティングでしたのね。
 てっきり部屋の主がだらしないのかと……。トミサク先生、ごめんあそばせ。

「よくお聞き!」
 ニーナさんがよく通る声で、みんなの注意を引きつけます。
「いいかい? お宝のありかを示すヒントだよ。『古いタンカーの座礁した岩場に、我が財宝は眠る』……」

「『タンカー』ってアレじゃね?」
 亮平さんが指さしたのは、チホちゃんが元の位置に戻したばかりの「担架」。
「おー、たしかにボロいな。『古いタンカー』ってワケだ」
 岳さんが力強い腕でそれをどかすと、例のロッカーが露わに。

「う゛っ!?」
 決めたばかりのドヤ顔を崩すニーナさん。謎はあっけなく、秒で解かれたようです。

((((ギクッ!))))
 ビビったのはわたくしたちも一緒でした。

(まさか、部屋だけでなく“隠し場所”まで同じ?)
 実際、わたくしたちにとって、やえこさんの写真こそ『お宝』だったわけですが……あれがゲームに関係するとは思えません。

(じゃあ『お宝』って……?)
 ロッカーを開けたときの光景を思い出してみます。上下に分かれたやえこさんの水着。他に入っていたものは?

(……あの箱!)
 そう、プラスチック製のコンテナボックス! たしかにロッカー内に置かれていました。
 100均で買えそうな安っぽい物だったので、海賊コスと一緒に購入したのかも。女海賊の財宝とは、きっとあれに違いありません!

(んっ? でもおかしいですわね……)
 あまねちゃんの推理によれば、あのカギは紛失しているのでは? 4年間ずっと「開かずのロッカー」だったのでは?

「ふ……ふっふっふ。さすがだねぇ。でもここからさ!」
 ニーナさんは再度腕組みし、肩を揺らして笑います。当然、その震動でおっぱいもたぷんたぷん揺れます。
「そのロッ…『宝箱』にはカギがかかっている! 開けるまでが勝負だよ!」

(やっぱりぃー!)
 宝を入れたということは、カギを紛失などしていません。それを探してみろと、ニーナさんは言っているのです。
 あまねちゃんの推理はハズレでした。本人も赤面して目を逸らしています。

 しかしこの命題、わたくしたちにとっては荒唐無稽です。
 だってすでに、かえでちゃんがピッキングで開けちゃったんですもの!

(お、おい! まさかアタシたち)
(うむ……思いがけず、宝箱を開けてしまったようじゃの)
 チホちゃんとかえでちゃんが、冷や汗をかきながらアイコンタクトで会話します。

(カエデ! クリップでこっそりカギかけ直せ!)
(無茶言うな! さすがに出来んわい!)
 たしかにヤバい状況……ロッカーが解錠済みとバレたら、わたくしたちの空き巣行為が明るみになってしまいます!

「やはりね。そう簡単にはいかないと思いました。『岩場』のロックが、カギのロックとかかっていましたか」
 いや真慧くん、そんな役に立たねー情報はどうでもいいから。
「フフッ。それに気付いたご褒美に、教えてあげるよ」
 あ、役に立った。

「カギのありかはここさ」
 ニーナさんは親指を立て、左胸のビキニに「ぷにゅ……」とめり込ませます。すると当然、
「はいちょっと失礼しまーす」
 ナッちゃんが「瞬間移動か!?」って速さで駆け寄り、遠慮なくおっぱいを持ち上げました。

 ジャラジャラジャラジャラ!!!

「あぶなっ!」
「「!!?」」
 スロットマシンが大当たりしたように、たくさんのカギが降り注ぎました。もちろん、おっぱいの下に隠されていたのです。ナッちゃんは危うく顔面でそれを浴びるところでした。

「な、なんだぁ!?」
「こんなにたくさん?」
「……きれい」

 板張りの床に落ちたカギは全部で8本。キーホルダーには半透明のタグが付けられ、それぞれ色が違います。
 ピンク、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、パープル、ホワイト、グレーの8色。青梅さんが「きれい」と呟いたのは、その色彩を見てでしょう。
 それにしても左右4本ずつとは! まあ、Rカップの重量を以てすれば余裕でしょうね。片方4キロは伊達ではありません。

 ビキニのずれを直し終わったニーナさんが、大仰なポージングで、歌舞伎のように見栄を切ります。
「さあっ、今度こそ最終問題だ! 正解のカギを当てられるかい?」

「つーか、1個ずつ試してきゃ開くんじゃないすか?」
「こらテツロー、それ言っちゃ身もフタもねーだろ」
 ガハハと笑い、岳さんがツッコみます。

「そのとおり。やっと頭脳戦らしくなってきましたね」
 黒縁眼鏡をクイッと上げる真慧くん。その仕草が微妙にイラッとくるのは、しょうがないですよね?

「8択問題をカンで当てるのは非現実的。必ず手がかりがあるはずです」
「「手がかり……」」
 復唱する年少組。いつきちゃんは少し心配そうに、隣のさやちゃんをチラ見しました。

「う〜ん……『青』かな?」
「え? 竹上さん、どうして?」
「だってさっき、『カギはここさ』って言いながら、自分のビキニを指したでしょ?」
 竹上さんが自前のMカップで再現しました。弾力たっぷりの中2バストに、繊細な親指がめり込みます。

「あれがヒントなら、水着の色が怪しいな、って」
「なるほど……」
 たしかに、彼女のビキニは爽やかなマリンブルーですものね。イメージはさしずめ『カリブ海』。アダルティなお色気を健康的に中和し、夏空のような開放感を思わせます。

「おいっ! カギ穴の近くに赤い字が書いてあるぜ。アール、ユー、ビー……」
 亮平さんが『Rubia!』の落書きを見つけました。

 そういえば……あまねちゃんの推理がハズレってことは、あれを書いたのもトミサク先生じゃなかったということ。攻略のヒントである可能性は大でしょう。

「『ルビア』? なんだこりゃ?」
「ポケモンかな?」
「竹上センパイ、分かりますか?」
「う〜〜〜ん……どこかの下着ブランドかと思ったけど……ゴメン、やっぱ知らないや」
 くせっ毛の頭をかきつつ、竹上さんは照れ笑いします。

「マサト、賢いおめーなら知ってんだろ?」
 岳さんがパスを回しますが、
「残念ながら僕も知りません」
 知らんのかーい!

 教えてさしあげるべきかしら?……でも、うかつに出しゃばったら、ロッカーを調べていたことがバレるかも。ここは様子見でしょう。

「えー、こんな単語習ってね―よ。ちょっと難しすぎね?」
「外じゃ『たぬき文』とかだったのに、いきなりレベル上がったなあ」
 あ、ここまではそんな簡単でしたのね。

「このままじゃ難易度が高すぎます。『Rubia』を調べるアイテムが用意されているはず……進太くん!」
「えっ、オレ?」
「そこの机に本がたくさん乗ってるでしょう。英和辞典とかありませんか?」
 真慧くんは資料を拝借するつもりのようです。

「んー……無いっす。植物関係の本ばっかりっすね」
「そういやここ、トミサク先生の机だもんな」
「あー、でもなんか怪しい絵あんじゃん。これもヒントじゃないすか?」
 横から割り込んだ徹郎くんが、デスクマットの下のトランプに気付きました。そういえばあれ、謎のままでしたわね。

「どれどれー?」
 竹上さんも、徹郎くんの肩越しに覗き込みます。
(!?)
 いやいやいや、越せてないっ! どっしりそびえる110センチバストが、徹郎くんの肩に当たってるじゃないですの!

「ムカシっぽい絵っすね」
「うん。浮世絵みたい」
 えー! なんでふたりとも平然としてんの!? 当たってると言うか、あれはもう“乗っかってる”レベルの接触ですわよ! ぷにゅん♥って!

※[越出馬ルミは知らない。千々山村では、女性の胸が性的に見られないこと。ゆえに、男子への接触など“日常的に起こり得る”ということを]

「何か意味あるのかな? この『クラブのクイーン』」

「ええっ!? なんでそっちにも!?」

「「「「!?」」」」
 全員が振り向きます。
 驚きの声を上げたのは、誰あろうニーナさんでした。ハッと口を押さえる様子から、うっかり漏らしてしまったと分かります。

(今の言葉が示すのは……)
 ニーナさんは、浮世絵風トランプの存在を知らなかったということ。
 さらに、『そっちにも』という表現から、出題者の仕掛けた“別のトランプ”があると推測できます!

「…………」
 失言をとぼけようとしたのか、ニーナさんは視線を逸らしました。が、それこそ次の手がかり!

「そこっ! ベッドの上が怪しいですわ!」
 わたくしはすかさず指さしました。
 見逃しません。人はこういうとき無意識に、隠し場所を目で追ってしまうのです。

「チェーック!」
 ナッちゃんが瞬時に移動し、調べます。すると――
「はっけーん! こっちにもあったよ。でっかいトランプ!」
 枕の下からもう一枚カードが見つかりました。
「ナイス!」
 わたくしは笑顔でグッジョブのサインを送ります。

「でけー。タテヨコが普通の倍くらいあんじゃん、このカード」
「み、見たことある。100円ショップで売ってる『ジャンボトランプ』だよ」
 あまねちゃんも話に加わります。今は、ゲームに積極的に参加した方が怪しまれないでしょう。

「ふうむ。先程のセリフから考えると、こっちが本物のヒントですね」
「でも真慧センパイ、どっちにしろ同じ『クラブの12』じゃないすか」

 そう。奇妙なことに、マーク・数字が同一なのです。
 トミサク先生のトランプと、たまたま一致した? そんな53分の1の偶然、起きるものでしょうか?

 しかしニーナさんの反応、演技とは思えません。
「?……?……?」
 今も狐につままれたような顔で、疑問符を浮かべています。

 あれだけ威風堂々と海賊を演じていたのに、こんなにうろたえるとは――どうやら本当に偶然だったようですね。

「あの〜、私思いついたんだけど」
 あまねちゃんが遠慮がちに手を挙げます。
「トランプのクイーンって、花を持ってるよね? もしかしたら『ルビア』って、花の名前じゃないかな?」

「「おおっ!!」」
「あまねさんスゲー!」
 周りから称賛の声が上がります。わたくしも感心しました。
(うまい! 自分は知らないフリしつつ、ごく自然に誘導しましたわね)

 さっき仁科さんをごまかした嘘といい、アドリブ上手。あまねちゃん、役者の才能あるのでは?
(もしかして東京じゃ、芸能スカウトから名刺もらったことあるんじゃないですの〜? このこの♥)


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「っくしゅん!」
「どうしたのー? 高木ちゃん、夏カゼ?」
「ううん。なんでもないわミリア。それより次のライブだけど――」


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「なるほど。柄がクローバーなのも『植物』の強調、と……。たしかにそれなら図鑑で引けます!」
「図鑑、図鑑……」
 進太くんが机上の野草図鑑を取ろうとします。が、それより早く――

「あかね」

「「「!!?」」」
 答えを口にしたのは、なんとさやちゃんでした。意外な展開に全員驚いています。

「お、おいサヤ、なんで分かった?」
 亮平さんが尋ねます。
「ここに書いてあった……」
 さやちゃんが見せたのは、ピザみたいに8分割された紙片です。どうやらあれが、外で集めたカプセルの中身――『宝の地図』ですわね。

 この保健室を示す地図を、誰もが「用済み」とみなしていました。しかし、さやちゃんはその裏面に注目したのです。
 なんとそれは、植物図鑑の白黒コピー! もちろんアカネのページです。学名『Rubia argyi』と、しっかり載っています。

「も、盲点でした……」
 真慧くんがくやしそうに言います。
「カラー印刷の地図ばかり注目し、裏には気が回らなかった。色覚のないさやさんだから、惑わされなかったのでしょう」
 まさにそのとおり。ハンデを逆に活かした活躍、お見事ですわ!

「ええなあ。さやちゃんのお手柄や」
「ぶい」
 あっ、かわいい! さやちゃんのVサインかわいい☆

「ガハハ! なら決まりだな!」
「え?」
「『え?』じゃねーよ。鍵穴のそばに『アカネ』って書いてあんだぜ? つまり『アカ』が正解だろ」
 岳さんはドヤ顔で陽介くんに解説します。しかし、

「いやいやよく見て。赤なんて無いんすよ」
「はっ!?」
 そう、8つのカギに付いたタグは――ピンク、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、パープル、ホワイト、グレーです。レッドはありません。

「で、でもよ。少なくとも赤系だろ。ピンクかオレンジの2択に絞れたじゃねーか」
「いや……それこそ、引っかけかもしれません」
「マサト?」
「アカネという名は『赤い根』に由来するんです。花の色はむしろ『白』なんですよ」
「そ、そーなのか」
「ええ、ここに書いてあります」
 読んだだけかーい!

「いやあ、そう言うマサトさんこそ、コテーカンネンにとらわれてませんか〜?」
 ニヤけ顔のナッちゃんが、やれやれのポーズで言います。(ムカつく態度ですわね!)

「ナツにはわかったんですよ。発想を広げてみれば実にカンタンでした」
「ほう? では何色が正解ですか?」
 真慧くんの問いに、ナッちゃんはビシッと指さして答えました。その先は――

「あのおっぱいの中! 9番目の『赤いカギ』が、まだ隠されているんだよっ!」
「「「!??」」」
「さっき持ち上げただけじゃ落ちてこなかった。つまり、“谷間”にはさまっていると考えられますねぇ〜」
 推理を披露しながら、ニーナさんのおっぱいを視線で舐め回すナッちゃん。
 突然何を言い出すんですの、このエロガキは!

「OK。それじゃよくごらん!」
(ええっ! ニーナさんそれはマズいですわ! 男子のいる空間でトップレスになるのはさすがに!)
 と、わたくしが心配(本心は期待)した次の瞬間!

 がばっ!

「「おおーっ」♥」
 恥ずかしいことに、声がナッちゃんとハモっちゃいました。
 ニーナさんは自らの乳房をわしづかみ、左右にかき分けてみせたのです。三角ビキニだからこそできるご開帳! 谷間の長さは30センチくらいありそうでした。

(すんげえっ! 旧約聖書で海を割ったモーセのごとしですわっ!)
 トップレスではないにせよ、これもまた大胆なサービス!

「どうだい? 何も隠しちゃいないだろ?」
 ニーナさんはそのまま、左右のおっぱいをぐりんぐりんと大回転。片方4キロの巨弾が「むにゅん♥むにゅん♥」とたわみ、弾力を伝えます。

(なっ、なんて迫力!)
 あの谷間、いったいどれだけの圧がかかっているの? 挟まれたらひとたまりもない! 圧倒的破壊空間は、まさに歯車的砂嵐の小宇宙ですわっ!!!

 ところが――ここにいる男子諸君ときたら、そんな絶景を目の前に、まったく無反応なのです。
 このお嬢様ですら息を荒げてガン見しているのに……平然としやがって!
(テメェら、股間のセンサー死んでんのかァ!? ちったぁ興奮しろやぁあああ!!!)
 まるで、わたくしがナッちゃんと同レベルの下品な子みたいじゃないですのっ!

 ――ハッ! いけないいけない。今のわたくしはまぎれもなく下品でしたわ。お恥ずかしい。

「あ、もしかしたら『アカネ』ってのは、カギが『開かねえ』って意味かもな」
 岳さん、発想がナッちゃんと同レベル。
「いや、それって“現状”じゃん。わざわざ暗号で伝えねーよ」
 違うのよ亮平さん。現状カギは開いているのよ……。

「オイオ〜イ、どうしたんだいそこのふたり、人が変わったようにおとなしいねえ?」
((びくっ!))
 ずっと黙っているチホちゃん・かえでちゃんコンビに、ニーナさんが声をかけました。

「あんたたちも参加しなよ。お宝への道は、誰にでも開かれているんだぜ?」
「お、おう……」
「そうじゃな……」
 苦笑いするふたり。どうにかしてロッカーを再施錠しようと考えてるみたいです。
 が、ここまできたらムダでしょう。シラを切り通すのが得策ですわよ……。

「ねぇ〜、キャプテン・ニーナ♥ もうちょっとだけヒントくださいよぉ♥」
 あからさまに媚びた態度で、ナッちゃんがすり寄ります。
「そうだ! 3つの質問に『はい』か『いいえ』で答えてください。3つだけ。ねっ♥いいでしょ?」
「う〜ん、3つかぁ……」
 あれっ? ニーナさんそこで考えちゃうの? 算数苦手?

「ナッちゃん、3回質問できたら8分の1は特定できちゃいますわよ」
「!」
「あーもうっ! ルミさんどうしてバラしちゃうかなあ」
 確信犯だったようです。

「ん〜? このあたいを騙そうなんて、大した度胸だねえ〜」
 ニーナさんは照れ隠しなのか、凄みをきかせて威圧します。
「お、おおう……♥」
 ナッちゃんはそれを恐れるどころか、「おっぱいビンタプリーズ♥」とばかりに顔面を差し出していました。コントか!

「んっ? おいマサト、ちょっと指どけてみ」
「え?」
 陽介くんに言われ、真慧くんはトランプを持つ指をずらします。すると――

「「あっ!」」
 トランプの絵札は、上下にそれぞれ人物が描かれています。指で隠れていた“逆さのクイーン”に、新たな手がかりを発見したのです。

「なんだ……この模様?」
 クイーンのおでこに、小さな赤い縦棒が6本描かれています。注意して見なければ気付かないでしょう。

「ひたいに描かれてますね。眉間のシワでしょうか?」
「チャクラかな?」
「2段に分かれている。上に2本、下に4本……?」
「あーっ、真慧センパイ、それきっと『2本が3組』っすよ」
「進太くん?」
「オレわかりました。『田んぼ』の地図記号ですよコレ」

「ねえ、裏にも何か書かれてるよ」
「「「?」」」
 続いて、青梅さんが指摘します。
 カードを上下ひっくり返したおかげで見えたようです。裏面の模様にまぎれるように、同色のペンで書かれた英数字が。

「すごーい。青梅さん、そんな小さい字よく見えたね」
 竹上さんが驚きます。
「えへへ……わたし視力だけはいいから」
 いや、おっぱいも大きいでしょ。

 読んでみると――

『Q=3333(Only One Lucky)』

「『オンリーワンラッキー』?」
「意味わかんねーな」
 みんな、ますます混乱している様子。

「ふっふっふ、そうさねぇ。このナゾ、あんたたちの学年じゃあ、ちょいと難しいだろうねぇ」
 海賊が『学年』とか言っちゃった。
 それと、喋り方が微妙に「江戸っ子」混ざってません?

「なるほど……なるほど」
 おっと、真慧くんが坊主頭をコクコク頷かせていますわね。

「田んぼ……クローバー……ただひとつの幸運……」
「何ブツブツ言ってんだマサト? 答え分かったかのよ?」
「はい」
「「「「えっ!?」」」」

「手がかりは揃いました。もはや、正解の色は明らかです」
 涼しげな笑みとともに、真慧くんは宣言しました。

 え〜? 本当かしら……。あなた、頭脳系キャラの割に、大した活躍してませんわよ?

   * * * * *

―作者注―
 おっぱい小説なのに謎解きにも付き合ってくださる、心優しい読者の方々へ。
 もしよければ、次回までに答えを考えてみてください。
 ミレイ・セイル・アイコが挑んでいる『千々山の豊乳』に比べれば、大した難易度ではありません。
 その前座として用意したクイズ、お楽しみいただければ幸いです。

つづく