千々山村自然教室

唐鞠 作
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 謎は解けたと豪語する真慧くん。そんな彼を威圧するように、ニーナさんは顔を近付けます。
「おもしろいねえ。聞かせてもらおうじゃないか」

 だぷぅんとバウンドする120センチ超えの巨弾。三角ビキニが覆う頂点は、肘のさらに先です。腕組みを解いてなお「もちっもちっ」と圧し合う柔肌が、否応なく視線を引きつけます。
 この迫力、普通の男子ならたちまち前屈み必至でしょう――普通なら。

「わかりました。……進太くん」
「またオレ?」
「さっき辞書を探したとき、『植物の本ばっかり』と言いましたね?」
「そっす」
 進太くんは迷いなく頷きます。
「机の上には、薬草とかキノコとか、それ系の本ばっかでした」

「僕の推理が正しければ、その中に『万葉集』という本がまぎれているはずです」
「ま……ん、よーしゅ?」
 小5の彼には、初めて聞く単語だったようです。

「まんようしゅう。一万円の『万』に、『葉っぱ』に、『集める』と書きます。おそらくは見つけやすい位置にありませんか?」
「あっ……あります! 『小学生のためのビジュアル万葉集』」
 真慧くんの予想どおり、机上のど真ん中。これ見よがしに置かれていました。

「たしか和歌集だよね? 日本で最も古い」
「さすが宮方さん、そのとおりです。『古いタンカー』が示すのは、あの担架だけじゃなかった。古い短歌――『和歌』をも意味していたのです」
「いや〜、てっきり字面から、葉っぱの図鑑かと思ったっす」
 照れ笑いする進太くん。鳥に詳しい彼の好奇心も、文系方面には向いてなかったようです。

 それにしても、使用済みのヒントにまだ奥があるとは……。
 さやちゃんから学んだこと、さっそく活かしたようですわね? 真慧くん。

「和歌集には、他にも『百人一首』など有名どころがあります。なのに、なぜ万葉集か? この部屋の不自然な点に注目すれば、理由が見えてきます」
「不自然……?」
「窓際を見てください。保健室とは思えないほど、草が干されているでしょう?」
「あー! 『たくさんの葉っぱ』だから万葉集かぁ」
 こぶしを手のひらに落とし、納得の仕草をするあまねちゃん。同時に、胸元の95センチもプルンと揺れました。

「さらに決定的なのが、この一文です」
 真慧くんが示したのは、カード裏面の文字。青梅さんが発見した、『Q=3333(Only One Lucky)』です。

「これはクラブのQ。
 クローバーは3枚の葉っぱを意味しています。
 そこにこの式、『Q=3333』を代入してみましょう。
 すると『クラブQ』は3×3333、イコール9999枚の葉っぱ、になります」

「『万』には1足りねーな」
 亮平さんが冷静に指摘しますが、
「ははーん、わかったぜ! だから『オンリーワンラッキー』か!」
 理解を示したのは、なんと意外にも岳さんでした。

「クローバーで『ラッキー』つったら、四つ葉のことだろ? それがオンリーワン。つまり3333本中1本だけが四つ葉ってこった」
「そっか! これで合計はピッタリ1万枚」
「「「すごーい!」」」
 いや、何がすごいって。見るからにパワー系の岳さんが、『四つ葉のクローバー』という可愛らしいヒントを読み解いたこと。ギャップ萌え案件ですわ。

「そうです。この暗号に万葉集が関係していると、これでお分かりでしょう!」
「いや、キメ顔早ぇーって」
 バシッと肩を叩く岳さん。
「ゴホッゴホッ!」
「さっさと話進めろや。そのマンヨーシューが、どう答えにつながるんだ?」

「あ、もしかして葉っぱの『みどり』が正解?」
「いやいや青梅さん、それはあまりにストレートではなくて?」
 わたくしにはこの時点で、正解の見通しが立っていました。

「真慧くん、わたくしにも解けましたわよ」
「越出馬さん?」
「ご安心を。ここで正解を言うほど無粋じゃありませんわ。……次の手がかりは、枕詞(まくらことば)ですわね?」
 わたくしは流し目を送り、谷間を強調した胸元でピッと指を立てました。

「さすが。ご明察です」
 あー、予想はしてましたけど。ちょっとぐらいお色気ムーブに食いつきなさいよー! こちとらGカップ小学生だぞオイ?

「なんせ、このトランプがあったのは『枕』の下ですからね。そこに『万葉集』、『あかね』と来れば……もう確定ですよ」
「けれども、ひとつだけ分かりませんの。クイーンのおでこに書かれた線は、何を意味しているのかしら?」
「『田』です。進太くんの言うとおり、田んぼの地図記号でした」
「?…………ああー、そういうこと! 作者名ね」
 ようやく理解できました。目から鱗です。

「『ひたい』に『田んぼ』の『女王』。この暗号が示すのは、万葉集の代表的歌人、額田王(ぬかたのおおきみ)に他なりません!」
 真慧くんはトランプを掲げ、自信満々に断言しました。

「あれ? 『おおきみ』って王様だよな? だったらキングじゃね?」
 亮平さんが疑問を示しますが、
「いいえ、合ってます。額田王は女性なので」
 あまねちゃんがフォロー。さすがウズメダンサーズの命名者。歴史に詳しいですわね。

「あのーセンパイ、この『万葉集』、しおりはさまってますけど」

 進太くんの報告に、真慧くんは「やはりね」と頷きました。
 栞のページを開けば、きっと額田王の歌が載っているでしょう。答えの色を含む、有名なあの歌が。

「それじゃ越出馬さん、せーので言いましょうか」
「OK。よろしくてよ」

「「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」」

 鍵穴のそばに書かれたアカネは、「アカネを挿す」。すなわち『あかねさす』を意味していました。
 その枕詞が導く語は、『むらさき』。

「正解は紫色です!」
 真慧くんはパープルのカギを取ると、おもむろに宝箱――あのロッカーへと向かいます。

 みんなが彼の背に期待の視線を向ける中、
((ああー……))
 チホちゃんとかえでちゃんは、「万事休す」とばかりに見送っていました。

(しまったーーー!)
 わたくし何やってますの!?
 このままじゃ、カギがかかってないことバレちゃうじゃないっ!
 真慧くんより先にカギを取って、開けるフリすれば良かった。そうすればごまかせたんですわ!

 カチャ

「よし」
 手応えあり、とばかりに真慧くんは笑みを浮かべますが
「……え?……あれっ?」
 扉をガタガタ引っぱっても開きません。当然です。今彼は“施錠”してしまったのですから。

「お、おかしいな?」
「マサトどうした?……なんだよ、カギ開いてねーじゃんか!」
「い、いや違うんです! 確かに回った感触はあったんですよ!」
 ああー、予想はしてましたがグダグダの展開に。

「うそっ? なんで?」
 ニーナさんもびっくりした様子。Rカップをたっぷんたっぷん波打たせながら、ロッカーに駆け寄ります。

 とうとう恐れていた事態が起きてしまいました。チホちゃん、かえでちゃんは「あちゃー」と目を覆います。
 この状況、どうすれば収拾つくの? もはや空き巣行為を自白するしか……

「んふふ〜☆ もしかしてニーナさん、宝箱のカギ閉め忘れたんじゃな〜い?」
「へっ?」

「「「「!!!」」」」
 ナッちゃん、ファインプレーぇええ!!!
 そうかっ! そういうことにしてしまえばいいんですわ! わたくしたちの犯行を隠し通すには、それしかありませんっ!

「なぁんだ、そっかー」
「僕の推理は合ってたんですね」
「ガハハ! ドジな海賊もいたもんだなー」
「うう……そんなぁ〜」
 仁科さんのミスということで、周りも当人も納得している様子。

 しめしめ。彼女には悪いですが、このまま笑って済ます流れですわ。

「ちゃうで」
「「「っ!?」」」
 ここにきてまさかの異議。声の主は――

「あたし、わかったわ。ほんまの答えはムラサキやあらへん」
(いつきちゃん!?)

「にし…ニーナさんは、カギ閉め忘れたんやのうて、わざと開けっぱなしにしとったんや。せやさけ、『そのまま開ける』が正解やったんよ」
「な、なぜですか? 新戸さん、教えてくださいっ!」

(え〜……ちょっとちょっと)
 こんな展開、誰が予想したでしょうか? 頭脳派としてようやく面目躍如を果たした真慧くんが、最年少のいつきちゃんに教えを請うなんて。

「あたし、ヘンやなあ思ったんよ。だってこの問題、色のよう見えんさやちゃんには解けへんやんか」
「「!」」

「でもニーナさん、さっきこう言うた。
 『お宝への道は、誰にでも開かれているんだぜ』って。
 『誰にでも』ってことは、さやちゃんもやろ?
 よってに、色を区別せんでも解けるっちゅうことや。
 ……それで、思い出したんよ。
 『カギのありかはここさ』って、ニーナさんが自分のムネ指したこと。
 あれは『こころ』をイミしてたんかなあ、って」

「こっ……心?」
 黒縁眼鏡の奥で、目をぱちくりさせる真慧くん。

「うん、やさしい心。
 さやちゃんを仲間はずれにするようなイジワル問題、よう出せんもん。
 そう信じれば良かったんや。
 ほんまモンのカギは、友達を思いやる心やったんや!
 せやろ?」

「…………」
 あっけに取られるニーナさん。海賊姿が滑稽なほど、ぽかーんとしています。

 わたくしも、ただただ驚きました。
 巨乳・爆乳に囲まれたウハウハ状態にありながら、いつきちゃんは、いまだに胸を「心のありか」として見ている!
 なんという無垢な精神……。大人びた肉体と不釣り合いに、心は小3そのまま。ぴゅあぴゅあの良い子ですわっ♥

「せやろ?」
 170センチの長身で迫り、キラキラ純粋な瞳を向けてくるいつきちゃん。
 そんな汚れない視線に、ニーナさんが耐えられるはずもなく――

「せ…………せやねん」

(((折れたー!!!)))
 こうして、わたくしたちの犯行は、意外な人物の助けによって闇に葬られたのです。

「あ……アッハッハ! お見事だよ、トレジャーハンター諸君! アタイの財宝を手にする資格、見せてもらったよ」
 キャプテン・ニーナは降参したように海賊帽を脱ぎました。
 ビキニの上からポロシャツを着て、元の仁科さんに戻ります。それにしてもぎゅうぎゅうですわね。あのシャツ、3Lはありそうなのに。

「むぅ……」
 あら? さやちゃんが不機嫌そうに頬をふくらませています。(かわいい♥)

「そういう気づかい……かえってイヤかも。わたしの目のことで、特別扱いしないでほしい」
「えっ? あー、ご、ごめんね! さやちゃん」
「あ……あたしも、かんにんなぁ」
 すぐさま謝った仁科さんといつきちゃんに
「ううん、いいの」
 さやちゃんは気丈な微笑みを返しました。

「……わたしだって……ときどきなら“わかる”もん」
 おや? 続けて何か呟いたでしょうか?

「それより早く見よーぜ、お宝!」
 亮平さんは改めてロッカーを解錠し、扉を開けます。

 カチャッ

「なんだこりゃ?……女子の水着?」
「どうしてこんなとこに?」
「えー? トミサク先生、変態かよ?」
「スケベは横塚のじーさんだけかと思ったのになー」

「あーあー! 違うからね!」
 勝手に誤解する亮平さんたちを、仁科さんが制止します。
「トミサク先生はこのロッカー使ってないの。その水着は旧校舎の忘れ物で、宝を仕込む前から入ってたのよ」
「「なーんだ」」

「ほらほら、お宝はこっち」
 仁科さんが取り出したのは、やはりあのコンテナボックス。
「開けるわよ。じゃーん☆」

「「「わぁ……」」」
 みんなの苦笑いと共に、しょぼーんと落胆ムードが漂いました。

 賞品は、鉛筆・透明定規・下敷きの3点セット。

 ええ、わかりますとも。教育委員会のイベントだから、学用品なのは当然ですよね。
 よく見れば、鉛筆には『平成二十五年 千々山中学校移転記念』と金文字が打たれていました。4年前の余りものだとバレバレです。
 う〜ん、あれだけ大がかりな謎を解いて、さすがにこれは……ねえ?
 竹上さんが素敵なブラをプレゼントしてくれた後だから、よりショボく感じてしまいます。

(――いやいや、贅沢言っちゃいけません!)
 小瀧さんのアイス、徹郎くんのメロンの件もあって、期待のハードルが上がっていたようです。
 ありがたく頂戴しましょう。大切に使わせていただきますわ。

 みんな戦時中の配給のように、しめやかに賞品を受け取っています。
 でもその表情は、「楽しかったし、まあいいか」という清々しさも含んでいました。

(そうそう。大切なのはモノより思い出です…………わ゛ぁああああ!!?)

 気の緩んだところへ、あの衝撃がふたたび。
(ち……ちがうっ! これ! この下敷きだけは、まごうことなき『お宝』ですわっ!)

 こちらも鉛筆と同じく、中学校移転の記念品。無地ではなく、写真を加工した下敷きです。
 表には旧校舎の全景。裏には、新校舎前に集まった当時の全校生徒が写っています。
 すなわち彼女も!

「ーーーッ!!!」
 隣でナッちゃんが刮目し、声にならない声を上げました。
 あなたも確認しましたのね? 超乳少女・中村やえこさんの姿を!

 今回最前列に並ぶやえこさんは、くっきり鮮明に写っています。あのときの残念な写真みたいに、前の人で隠れていません。
 しかも、『千々山中学校移転記念』とマジメな明朝体で銘打たれてますから。写真の信用度は折り紙付きです。

 膝に手を当てた中腰姿勢のため、腕の間で「むぎゅ♥」と強調されるバスト。その膨大さたるや、「巨乳」の既成概念をぺっしゃんこに圧し潰す迫力です!
 身近なものでたとえるなら、レジ袋(大)に水を限界まで入れ、ふたつぶら下げてる感じ。
 それらを包む夏服セーラーは、明らかに特注品でしょう。布一枚隔てた下には、前人未到のグランドキャニオンが広がっているはずです。
 二の腕は横乳にのめり込み、ほとんど見えません。乳房の頂点は肘どころか、手首近くまで迫っています。
 恐ろしいことに、着用マニュアルのときより一回り大きく見えました。あれから半年でUカップをも超えたのでしょうか?
 重さも10キロ超え確実。つくづくヤバすぎるデカさです! これが中1のカラダって、信じられますか!?

 もちろん、他の生徒たちも見過ごせません。
 女子は3学年合わせて、えーと……18人。巷じゃお目にかかれない、すんげぇたわわ中学生が勢揃いしています。
 例の、目の細いスレンダー美人を除けば、全員わたくし以上じゃないかしら?
 ざっと見たところH〜Iカップが標準。その上で、数人の爆乳さん(K以上)が平均を押し上げているようです。
 中でもやえこさんは別格! ともすれば、彼女ひとりで全校平均を1カップ上げているかも?

(――いや、さすがにないか)

 算数で習った、平均値の性質を思い出してみましょう。
 仮に18人の平均をIからJにする場合、もとの平均値Iより18個上……2Zカップ必要ですからね。
 ははっ、2Zなんて!
 いくらやえこさんでも、そこまでふざけた成長、今後もありえないでしょう。


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 隣市の小さな喫茶店。その一席で、若柳雫は突然のアクシデントから旧友を救っていた。

 すなわち、中村やえこのブラジャーのホックが外れてしまったのだ。
 7個中1個だが、放っておいたら乳圧だけで連鎖的に全部外れるところだった。148センチの巨弾は、それほどの張りと重量を備えている。

 雫はやえこの背後に回り、ホックをかけ直す。
「ふぅ……やっとはまった」
「ありがとうシズ。助かったよー」
「いやー、他にお客さんいなくて良かったね」

 やえこのバストは、ブラで補正してなお、両サイドにたっぷり裏乳をのぞかせている。その分だけでも、雫の乳房全体(Iカップ)を上回るだろうか?
 眼福をしっかり焼き付けてから、サマーニットのすそを下ろし、白くなめらかな背中を隠した。

「どさくさであちこち触っちゃったけど、ごめんね、ヤエ。くすぐったかった?」
「あはは、気にしないで。じつはちょっと気持ち良かったりして」
「もうっ、恥ずかしいなぁ〜」
 ほんのり頬を紅潮させるやえこに、ツッコミを入れる雫。

(気持ち良かったのはこっちだよ……。すごかったよ? 2Zカップの手ざわり)

 手のひらの余韻を頼りに思い出す。
 友達のおっぱいは、まさに「しあわせ」を具現化した存在だったと。
 あの重量。やわらかさ。ぬくもり。むっちりもにゅもにゅぷるんぷるん♥ 至福の感触に心が満たされる。

 雫が席に戻ると、テーブル上の巨大山脈とふたたび対面。内圧によってサマーニットの編み目は広がり、無骨な巨大ブラを透かしていた。戦車が迫ってくるような威圧感だ。

「いやぁ……すごいなあ。ほんとすごいね」
「シズったら。もう今日10回くらい言っちゃってるよ?」
「あ、ごめん」
「ふふふ。驚かれるのも慣れちゃった」
 観察を止められない雫に、やえこはあっけらかんと笑って見せる。

「まだふくらみ続けてるの?」
「うん。でもさすがに昔ほどじゃないよ。中2でXになってからは、毎年1カップのゆるやか成長だから」
「『ゆるやか』って……」

 雫はふと、数学的に考えてみる。
 どんな立体でも、体積が全体的に膨張する場合、『瞬間の変化量』はその表面積に等しい。
 球の体積の公式を微分すると、表面積の公式に一致することからも、それが分かるだろう。
 バストは「長さ」だから1次元の変数。乳房がどんな形をしていようと、表面積はその二次関数となる。
 よって、バスト増加に対する体積増加には、「加速度」があるのだ。

 例を挙げると、
『A→Bカップの変化より、J→Kカップの変化の方が、より多くの肉量を必要とする』
 これなら数学の知識によらずとも、想像で理解できるだろう。

 つまり、やえこの「毎年1カップ」は、決して安定成長とは言えない。今なお加速しているのだ!

「えーと、どこまで話したっけ?」
「D組についてはだいたい分かったよ。要は、胸が特別大きい子を集めた課外授業ね?」
「そう。基準は学校指定のスク水(かしの製)が入らなくなること。具体的には、小学生ならKカップ以上、中学ならバスト110以上ね」
 村の外ではまずありえない。非現実的ボーダーだ。

「そういう女子には、保健の先生が『D式』っていう特別な水着をくれるの」
「ヤエが着てたやつだね? 胸全体を白い袋で包んだような」
「うんそれ。今もプールで愛用してるよ」
「え?」

 「今も」と聞いて、雫は懸念する。
 やえこの通う高校は、水泳の授業があるだろうか? もしあるなら、毎年パニックを巻き起こしているのではないか――と。

「学校が水着をくれるのは特別扱いだから、他の生徒には秘密なんだって」
「あ、そんな理由なんだ……」

「メンバーはだいたい中2か中3。小学生が入るのは数年に一度らしいよ」
「やっぱりね。ヤエほど早熟な子は、さすがに村でも珍しかったんだ」
「んー、そうかな? わたしが小2でD組入りしたとき、6年生に足立さんって先輩がいたけどな」
「に゛っ!?」
 さらりと言われた学年に、雫は耳を疑う。

「まあたしかに『当たり年』だったのかなー。D組に小学生が2人いるなんて」
「いやいや! それより……本当なの? 小2でKって!」

「うん。
 小1で初ブラがHだったけど、すぐ入らなくなっちゃってね。
 同級生よりずっと大きかったから、やっぱり不安な気持ちはあったよ。
 だから、足立先輩は心強い存在だったなあ……。
 『ここみおねえさん』って呼んで、すっごく頼りにしてた。わたしの恩人だよ。
 1年後、中学に行っちゃってからも、D組で会えるのが楽しみだったね」

 頬杖をつき、しみじみ思い出すやえこ。なお、卓上の乳のせいで肘の着き場がなく、頬杖の角度はかなり斜めである。

「D組の集まりは2か月に1度くらい。毎回身体測定して、おっぱい周りをメディカルチェックするの。そのあとブラの着け方とか、壊れたときの修繕とか、バストマッサージとか習うんだよ」
「そ、そうなんだ」
 雫は想像してしまう。幼いやえこが『ここみおねえさん』と胸をマッサージし合う光景を。

「ちなみに中1の冬、D組に初めて下級生が入ったの。当時5年生の『みおちゃん』って子」
「みおちゃん……ってあの、ネコ好きな?」
「そうそう。ネコ好きな」
 3年間しか住んでいなかった雫にも、十津川みおの愛猫家ぶりは記憶に残っていた。

「Kカップ小学生も珍しくなくっていくのかなあって、そのときは思ったけどね。残念ながら、みおちゃんを最後にD組小学生は現れなかったよ」
「う、うん」
 雫は想像してしまう。やえことみおがバストを測り合う光景を。

「けどねー、みおちゃん自身もネコみたいに自由でさ。しょっちゅうD組をサボってたんだ」
「そうなの?」
「うん。チヂが駅長就任してから、ファン活動に夢中で」
「あー……」
「みおちゃん、あんまりバストケアに関心なかったみたい。すぐノーブラになるし。そのままD組をフェードアウトして、幽霊部員になっちゃったの。所属してること、本人も忘れてるんじゃないかな?」
「え? それっていいの?」

「強制参加じゃないからね。
 椎原先生と堤さんも、『悩みなく過ごせているなら良いでしょう』って。
 自分が特別なグループにいる、というのを、かえって負担に思う場合もあるし……
 だけど、わたしは残念だったよ。
 ずーっとD組最年少だったから。
 せっかくの後輩を、かわいがってあげたかったのになあ♥」

「か、『かわいがる』……って」
 いけない妄想が雫の脳裏をよぎる。千々山でもずば抜けた超乳で、どう可愛がるつもりだったのだろうか? さっきまで使っていた「ネコ」という単語が、別の意味に思えてきた。

「あれからD組どうなったかなー。わたしの卒業と入れ替わりに、中1で入った子がいるらしいけど」
「その子一人だったらかわいそうだね。みおちゃんが幽霊部員から復帰してくれたらいいのに」

   * * * * *

 ここで、読者の皆様には紹介しておこう。
 現在、十津川みおの他に、もう一人のD組在籍者――名前は、安ヶ谷ひまり。

 ゆるふわのショートボブに、ハムスターのような顔立ちが愛らしい、控えめな性格の女子である。
 体型も、みおとは対照的で、小柄なぽっちゃり系。加入時はLカップだったが、現在はさらに成長し、114センチMカップ。2年生では1位、全校でも2位となっている。

 雫とやえこは知らないが、「ひまりがD組でひとりぼっちなのでは?」という心配は不要だった。

 なぜなら椎原は、竹上ななえを「候補生」としてD組授業に誘っていたから。
 ブラ作りに情熱を燃やす彼女が、これを断るはずもない。興味津々で参加するのも当然のこと。ひまりともクラスメイトのため、遠慮なくマッサージし合える関係になっている。

 そしてこの夏休み中、ななえもめでたく110センチに到達した。新学期が始まれば、正規メンバーとして迎えられるだろう。

   * * * * *

「D組では、椎原先生やリョーコ先生がいろいろ教えてくれてね。わたしたちの胸が、世間から見て特殊であること。そのために、村の外で過ごすときの注意点も学んだよ」
「あ、それ重要。千々山村では、女性の胸をいやらしい目で見ないせいか、ちょっとオープンすぎるもん」
 転入してきた雫にとっては、戸惑う場面もしばしばあった。

「あとね、『母乳が出るのは病気じゃない』ことも教わった」
「ぼ、ぼにゅ!?」
「村の女性には、妊娠しなくても母乳が出る人がいるの。そういうのは自然な生理現象だから、心配いらないって。130センチ以上からは、『出る』方が多数派なんだって」

「もしかして……ヤエも?」
 雫がおそるおそる尋ねると、やえこは少し恥ずかしそうに頷く。
「えへへ♥ じつは去年から出てました」
「…………」
 衝撃の事実に呆然とする雫。

「はじめはコントロールできなかったんだよ。なかなか出せずに、胸がパンパンに張って苦しいときもあった。でも、ススワラビっていう射乳促進の薬草をうまく使ってね。少しずつ身体を慣らしたの。今では定期的に家で搾ってるよ」
「へ、へえ〜……」
 搾ったミルクをどうしてるの? という疑問を、雫はあえて飲み込む。

「落ち着いて対処できたのは、D組で習ったからこそだね」
「なるほど。将来悩まないように、前もって教えてくれたんだねえ」 
 なんせ高校からは村外へ通うのだから。義務教育のうちに教えておかねばならない。
 雫にも少しずつ、授業の意義が理解できてきた。

「でもやっぱり、D組で教わった一番大事なことは――」


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「しっかし、まさか文房具とはなー。もうちょっと良いヤツ期待したよなぁ?」
 全員に賞品が配られた後、亮平さんが小声でぼやきました。
「いいじゃありませんか先輩。実用性は十分ですよ」

「ちょっ、真慧くん! 何に『実用』するつもりですのっ?」
「え? 勉強とか」
「ああ〜そうでしたね。この村の男子は皆そうでしたねっ!」
「「?」」

(あーもうっ! おっぱいに興味無いのも大概にしろよテメェら!)
 ったくよお〜。ムカつきが一周して、心配になってきましたわよ?
 思春期の千々山ボーイズは、何をオカズにしてやがるんだか……。まさか、揃いも揃って微乳フェチなんてことありませんわよね?

 と、やさぐれモードのわたくしをよそに、

「アハハ……なあんだ。フツーに参加してりゃゲットできたんじゃん? やえこさんの写真」
「やれやれ。ワシらはとんだ骨折り損じゃったのう」
 チホちゃんたちは気の抜けた様子で、徒労を自嘲します。

「そんなことないっ! この宝さがし、すっごく意味がありました」
「「な、ナッちゃん?」」

「ナツ、とっても感謝してます。
 これできっと、アキねーちゃんの引きこもりをやめさせられる。
 かえでさんやチホさんのおかげで、それが叶うんです。
 ルミさんも、あまねさんも、進太さんも……協力してくれてうれしかった!」

 お礼を述べるナッちゃんは、いつになく真剣な顔つき。

「だって、わかったんだもん!
 『Uカップ小学生が実在した』ってだけじゃないよ。
 ねーちゃんが怖がってる外の世界は、こんなにやさしいってこと。
 どんな大きなおっぱいでも、受け入れてくれるってこと。
 協力してくれたみんなのやさしさが、教えてくれたんだ!」

(いや……そう言われると、かえって後ろめたいですわね)
 だって正直、わたくしが同行したのは、「さらなる超乳が見たい」という好奇心からですし。

「見て。写真のやえこさん、友達といっしょに笑ってる。
 これが何よりの証拠だよ。
 どんな大きいおっぱいでも、恥ずかしがることないっ!
 帰ったら、ねーちゃんにそれを教えてやります。
 ホントに……本当に、ありがとうございましたっ!」

 三森家の次女はピシッと姿勢を正し、ツインテールの頭を直角に下げました。

 お調子者キャラとして登場し、ときに狡猾な一面も見せたトリックスター、三森なつ。
 だけど最後は、こんなにもまっすぐな姉妹愛を見せてくれるなんて!
(ふふっ……泣かせてるくれるじゃない)
 ナッちゃん、あなた初めからずっとお姉さん想いの、良い子でしたのね。

 あまねちゃんも感極まったのか、眼鏡をずらして涙を払います。
「……ねえルミちゃん、これって奇跡かな?」
「はい?」
「校舎に忍び込むときのチホちゃんのセリフ、おぼえてる?」
「ええ。たしか、『行こうぜ! 囚われのプリンセスを救い出すカギを求めに』でしたっけ」
 ポーズまで決めてたから、印象に残っています。

「いつきちゃんの言うとおりになったんだよ」
「?」
「『本当のカギはやさしい心』。あきさんを救い出すカギも、そうだったんだよ」
「あ!」
 たしかに。なにこの一致? 偶然で済ませるにはできすぎています。

「私、思ったんだ。あきさんを引きこもらせた恐怖は、うちのママと同じだって」
「あまねちゃん……?」

「ママと本音をぶつけ合って、気付いたの。
 『被害者ぶりたい』というのは、人間の弱さなんだなあって。
 自分を“善良な弱者”だと思いたくて、無意識に、他人に“悪”を投影しちゃう。
 そうやって疑心暗鬼に囚われていくんだよ。
 『被害者が常に善』なんて、錯覚なのにね」

 あまねちゃんは、自分の胸に手を添えて語ります。わたくしは驚きながらも、その言葉に納得するばかりでした。
 まじめな人こそはまりやすい、『独善』の沼。彼女は小6にしてそれを悟ったのです。

「だけど、そんな弱さを頭ごなしに責めちゃだめ。
 寄り添い、心を伝え合うことが大切だと思うの。
 そうすればきっと……『信じる勇気』も湧いてくる」

「ええ……そうね。きっとそうよ!」

 ああ、都会の学習塾から遠く離れた田舎で、彼女はなんと大きな学びを得たことか!
 わたくしの目にも、熱いものがこみ上げてきました。

「ルミちゃん……この自然教室に参加して、本当に良かったね」
「ええ! 一生の思い出ですわ」
 わたくしとあまねちゃんは、心からの笑顔を交わしました。そのとき互いに見せ合った涙は、どんな宝石より輝いていたでしょう。

 名残惜しくも、これが最終イベント。
 閉会式の後はいったん解散となりますが、希望者を集めて千々山温泉へ向かいます。


   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「D組で教わった一番大事なことは――『自信』だね!」

「じしん?」
「そう。英語で言うと『コンデンス』」
「……いや、『コンフィデンス』でしょ」
 冷静につっこむ雫。

「それだ! さすがシズ」
「もしかして、コンデンスミルク(練乳)のイメージに引っぱられちゃった?」
「さっきまで母乳の話題だったせいか、ついねー」
 アハハと照れ笑いするやえこ。

 その明るい笑顔だけで、雫はじゅうぶん理解できた。
(ああ……自信って“こういうこと”か)

 どんな身体でも恥じることなく、ポジティブにふるまえること。
 周りの目線に怯えず、まずは社会を信じてみること。
 結果は自己責任だ。
 よこしまな欲望をぶつけられるかもしれない。
 異形の怪物として迫害されるかもしれない。
 それでも――未知数のリスクを覚悟し、“みんなと共に”生きていく!

(強いなあ。ヤエって)
 感動とともに理解する。D組とはきっと、『信じる勇気』を育む場だったのだ。

 そして雫は、改めて思う。
(ヤエと出会えて、友達になれて、本当に良かった♥)

「どうしたのシズ? 今度は急にニコニコして」
「ん? いやあ、ふと思ったんだけどね。ヤエって周りに勇気を与えてるんじゃないかなあって」
「ゆ、ゆうき?」
 やえこは戸惑う。そんなこと言われたのは初めてだった。村外の人々に「驚き」や「興奮」なら与えているかもと自覚していたが――「勇気」なんて。

「たとえばもし、大きすぎる胸に悩んで、外も出歩けないような女の子がいたら……ヤエの生き方を知ることで、勇気を出せるんじゃないかなー、ってね」
「あ、あはは。何言ってんのよー、シズ」

 中村やえこは知らない。自分がいつの間にか一人のひきこもり少女を救うなんて、本当に知らないのだ。

「おっと、もうこんな時間」
「楽器屋さんに頼んだチェロ弓、取りに行かなきゃね」
「よーし、それじゃ行こっか」

 やえこが席を立つと、巨大山脈が「ぐぉおおん」と大迫力で浮揚する。
 それを見た雫は、心の中で何度目かの「すごい」を漏らしてしまうのだった。



 ちなみに2年後、専門学校生となった中村やえこは、154センチ4Zカップに成長し、下着モデルを務めることになる。※[原作第2部『その後のはなし』参照]

つづく