とある魔女のおはなし

かるぼん 作
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『エーテル満たした大鍋一つ。蛇の耳たぶ。カエルの尻尾。それと、猫の忠誠心』――魔女に伝わる万能薬のレシピ


 むかし、むかし。とある魔女がおりました。
 困ってる人を見かけては、家にこもり、翌日には自作してきた魔法の道具でズバッと、お悩み解決。
 適当に食料や日用品等を受け取ると、深緑の長髪を揺らして満足そうに帰っていく、不思議な少女でした。
 生活の糧と引き換えに、大抵のことは解決してくれる魔女は町の人々から慕われておりました。
 さて、そんな魔女の女の子ですが、一つ悩みがありました。

「うーん、大鍋の中身がこんなにも少ない。そろそろ調達しなきゃかなぁ」
 大人が2人程は入れそうな大きな大きな魔女の鍋。その中にはオパールのように輝く乳白色の液体がなみなみと……入っている様子はなく、せいぜいなべ底を覆う程度の物でした。
 大鍋は、魔女にとっての生命線です。あらゆる魔法の薬や道具は、これ無しに作れないのです。そして、鍋の中身もまた然りです。
「あー……うー……いや、でも背に腹は代えられないし、――だれも見てないよね?」顔を真っ赤にしてもじもじと、何やら煮え切らない様子です。
「はぁ、あきれたもんだ。黒き森の魔女様が初めてでも無かろうに、生娘みたいに真っ赤になっちゃってさあ」唐突に、鍋の中から声がしました。
「ひゃあっ!? って、なんだ。ユーキか。エーテル飲むのやめてよね!」魔女は抗議するも、ユーキ――尾が白い黒猫はどこ吹く風。
「そりゃあ、サボって鍋を枯らしかけるからいけないんだよ。ボクでも足をついて立てるほどにね。あと、何より君の出すエーテルがとっても美味しい」
 猫は悪びれる様子もなく、舌なめずりを一度すると、ぺろぺろと鍋底を舐める仕事に戻るのでした。
「私のって言うな―! あと、これ以上減らすなー!」
「ぺろぺろ、ぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」ユーキは仕事熱心な猫でした。
「無視するな―! ……もう怒った。このまま始めてやるんだからっ!」怒髪、天を衝くとはこのこと。彼女はお気に入りの紫紺のポンチョを放り投げると、鍋の中に向かって身を乗り出しました。
 これに驚いたのは猫のほうです。
「ちょっ、え? 今始めるの? いやいや待って。流石に押しつぶされちゃうのは勘弁だって!」ピューと、弾かれたように逃げだします。
 怒りの感情が、先ほどまであった躊躇いを欠片も残さず吹き飛ばしていました。
「もうっ。本当に勝手で困った奴なんだから。これじゃあ、万能薬の完成なんてまだまだ先ね」ため息を一つこぼし、魔女はプチプチとおもむろに上着のボタンを外しました。
 露になるその胸元は残念ながら、ブラジャー様の出番は要らず。とても平坦でした。
「残念って何よ!」有体に言えば、数ある魔女のコンプレックスの一つでした。
 上半身裸になると、大鍋の縁にお腹の辺りを預けるような恰好で乗っかります。子供が鉄棒でする『お布団干し』の恰好です。え? 知らない? あらやだ。ジェネレーションギャップですね。
 そのまま、瞑想に入ります。あ、『細けぇこたぁ良いんだよ!』と仰られる方は次の改行まで読み飛ばしてくださいね。

 さて、この魔女にとって必須とも言えるエーテルの補充作業、実は結構命がけです。
 まずは精神を輪郭線にして窓を形作り、繋いだ先の形而上領域へと魂のチャンネルを合わせます。うっかりすると、ここで外なる世界の高位存在とご対面して死にます。
 次に、窓を起点にして自らの肉体を小部屋に見立てたら、窓を一気に全開にします。気を抜くと、ここで体がぺしゃんこになって死にます。
 魔女達がエーテルと呼ぶものは形而上領域における可能性エネルギーです。
 肉体へと取り込むことで具現化し、内外の圧の差によって分泌物として体外へと放出されます。加減を間違えると、全身から血と臓物も一緒にまき散らして死にます。
 この時、魔女の個体差によって特定の部位へとエーテルが偏ったり、分泌物の物質的な性質が変わったりします。
 理由は解明しようも無いのですが一説によれば、魂は細かく振動していて、その波長の違いによってエーテルが具現化する際に個人ごとに異なるユニークな性質を獲得するからだと言われています。
 よくわからない? それもそうですね。

 飛ばして来た方、おかえりなさい。原理の説明は省略して、出力される結果だけをお伝えしましょう。
 この魔女の場合、エーテルは乳房を膨らませ、宝石のように輝く乳として顕現します。
「あっ――」
 胸の中に不可視のエネルギーが流れ込んできました。あつい、かゆい、もっと、もっと。
 ぼこり、とそれは肉を得て魔女の胸を膨らませます。お茶碗を伏せたような美しい膨らみが突然現れる刺激はとても官能的で、甘く蕩けてしまうようなものでした。
「やっ、やぁ……」か細く鳴く声を無視して、ソレは視えないところから胸の中にドクドクと止むことなくなだれ込んできます。
 急速に成長する果実は厭らしくふるふると揺れながら、あっという間に、人の頭の大きさ程になりました。
「うぅ、負けてらんないのに。こんなことじゃ……でも、ああっ、変になっちゃう。蕩けちゃう」
 理性から手を離せば、どれだけ気持ち良い事でしょう。でも、それではいけません。過去何人もの魔女達が、そうして魂が変質して廃人になりました。
 エーテルとは狭間と狭間、虚ろを満たす第5の元素。一時的と言えどもそれを肉体に取り込もうものならば、容赦なく精神の隙間をも埋めてしまいます。
 そうしてそれは、天にも昇るような快楽を伴うのです。
 ――ムチムチッ、バルルンッ! 熟れた肉の塊は加速度的に大きくなります。“接続”が本格化し、流入口が大きくなったとでも言いましょうか。
 魔女は既に何度もエーテルの補充を行っていたため、窓はひと際大きくガバガバでした。
 特大の風船を膨らませるように、容易く大きくなるおっぱい。
 魔女は抗うように「くぅ」とか、「うぅ」とか歯を食いしばって切なげに呻くのですが、まるっきりそれは意味がなく、正気度がゴリゴリ削られていきました。
 既に、視界は殆ど自分の汗ばんだ肌が占めておりますが、そんな肌色も視えない程に、魔女の頭は『気持ち良い』で埋まっておりました。
 ところで、おっぱいが占拠していたのは魔女の視界だけではありません。
「く、苦しい」唐突に襲ってきた、快楽以外の刺激。みっちりと詰め込まれた巨大な乳がついに、大鍋の容積の限界を迎えたのです。
 急激に高まる内圧はそのまま、魔女の乳房をギュウギュウと締め付ける万力として働きかけます。これはたまったものではありませんね。
「痛い。痛いよ。助けて、ユーキ」悦楽と苦痛とをない交ぜに、ぐちゃぐちゃになった頭で理性など働こうはずもなく、魔女は転んで泣く子供のように助けを求めました。
 けれど何という事でしょう。かの猫は「はあ、全く。それくらい何とかできるでしょ? というか、できなきゃ魔女失格だよ」と、そっぽを向いて答えるのみでした。
「そ、そん……な……」パキンッ、と軽い音がして大鍋は真っ二つに。同時に、魔女の心もすっかり折れてしまいました。
 戒めから解き放たれたおっぱいは、夏の積乱雲のようにムクムクモコモコ、急激に成長して瞬きを3つ数える頃には部屋一杯に広がりました。
「あ、あぁ……あ」は波打ち広がる超乳がバキバキと家具を破壊して部屋中を侵略していきます。白目を剥いて痙攣するだけになった魔女にはもう、知性も自我もありません。
「あーあぁ、全く。滅茶苦茶だよ」始終を見つめて投げやりに呟いた猫は独り、スルスルと肉の海を渡り安全な場所に避難するのでした。
 ああ、もうじきです。押し合い圧し合い暴れ狂って大きくなり果てた、柔らかで温かな暴力が、全てを呑み込んでしまうでしょう。

 ――とある魔女と猫のおはなし。これにて一旦、バッドエンドでございます。