⊂カプセル⊃

ケイト 作
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 とある企業の一室にて、男により研究が行われていた。
男は、見るからに怪しそうな薬品や、何に使うのかわからないような機材に囲まれ、さながら、ホラー映画のワンシーンの用な不気味さを放っていた。男はそこで、人類史上最高になるであろう研究に没頭していた。
男は呟く。ここでE薬を350mg投下、撹拌し…いや、J薬の生成速度から考えて…どうやらご多忙のようである。それから、どれくらいの時が経ったであろうか。ふと、顔をあげると、男は誰が聴くわけでもないのに、大声で、何度試行錯誤したことか!!…ついに、ついに、…完成させたぞ!膨乳薬の試作品を!…と言った。
 それから6時間後のことである。暖かな日差しが差し込む研究室。しかし明るくなっても研究室は、相変わらず不気味な雰囲気を放っていた。明るくなったこと以外に何か変わったことといえば、そこに一人の少女が立たずんでいることだ。
 少女、高槻綾は、幼くして母を無くしたことと、仕事(製薬会社の研究員)に忙しく家に帰ることが殆ど無い父、雅人のことを覗けば、ごくごく普通の中学生である。
「おじゃましま〜す。アレ?誰もいないや。」
...いつもなら、お父さんはここで研究しているはずなのに、どうしたんだろ。
お弁当忘れたから折角届けに来たのに、いないんじゃ渡せないじゃない。届ける私の身にもなってよね。と独り言を言いつつも辺りを見回してみた。
 何やら得体の知れない、機材や薬品やらで溢れかえっている。そこで、ふと、青と白で出来た、小さなカプセルに目が止まった。
「へ〜。何だろうコレ?」
...きっと何かの薬なのだろう。一体何に使うんだろう。風邪薬とかかな。
「あははっ。ア〜ンとかなんとかやっちゃったりなんかして」
と冗談混じりに、カプセルをシャーレからつまみ上げ、口の中に入れるふりをしてふざけている…と、
その時。
「誰かいるのか?」
 不意に男の声がした。それに驚いた綾は、キャッ!…ごくん……。
綾は一瞬何が起こったのか分からなかった。
何か音がした。分からない。
手のひらを見る。薬は見当たらない。
床を見てみる。床にも無い。
口の中は…。やっぱりない…。
そういえばさっきの音、ごくんって音だった。思えば、喉に何か飲み込んだ様な感触がある。どうやら、さっきの薬を飲み込んでしまったようだ。
...どうしよう!!飲み込んじゃった!え〜と、え〜と。
「あっ」
慌てふためきながらも、綾は近くの棚に、さっきのと同じ形のカプセルが、何個も入っている瓶を見つけた。
...そうだ。これを代わりに置こう!
綾は素早くカプセルをシャーレに置き、一目散に研究室から逃げ出した。
タッチの差で、男はベッド代わりに使っていた椅子から顔を上げ、辺りを見回す。
「あれ?おかしいな。誰かいたと思ったんだけど。」
...まぁ、いいか。早速、試作品のデータを取ることにするか。男はそう思いつつ椅子に腰をかけた。
「…ハァッハァッ」
思わず逃げ出して来ちゃったけど、やっぱりアレってまずいよね。でも、今更言いに行くのもなんか気が引けるし…。
研究員の人には悪いことしちゃったな。
それにしてもここどこなんだろ?
研究室から逃げ出したのはいいものの、闇雲にに走っていたため迷子になってしまった綾。どうしようかと辺り見回していると、ふと、見慣れた顔が目に留まる。
「あっ!お父さん!!探したんだからね。」
「おお。綾じゃないか。どうしたんだい?まだ時間はあるけど、今日は学校なんじゃないか?」
「も〜。お父さんがお弁当忘れたから届けに来たんじゃない。」
そういえば、忘れてたな…とお父さん。呑気なものだ。お弁当無いまま昼になったら、一体どうしてたんだろ?
「はい。お弁当。今度忘れたら知らないからね!!」
そう言って弁当を渡し、帰ろとして、一つ、大事なことを忘れていた事に気づいた。
「…お父さん、帰り方教えて……。」
 それから、いつもどおり学校に行き、いつもどおり授業を受け、帰宅。
気づけば、日は沈みかけ、空は薄紅色に染まっていた。
...夕飯の支度をしなくちゃ。
 ものごころついた頃から料理をしているから、慣れているとはいえ、やはり毎晩作るの大変だ。今日は…そうだった。冷凍してある鮭の賞味期限がもう少しできれるから、鮭の塩焼きにするんだった。
それから、料理が粗方終わり、後は仕上げをしつち、お父さんの帰りを待つだ…Rururu!!
ちょうどそんな時に電話が掛かってきた。一体誰からなんだろう?
少し億劫に感じつつも、外向けの声で受話器を取った。
「もしもし」
すると、受話器から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「もしもし、綾?」
...なんだお父さんか。
「な〜に?お父さん。」
すまないねぇと切り出し、お父さんは喋りだす。
「今日、お父さん研究で忙しくて、どうも今日は家に帰れそうにないんだ…ゴメンよ」…と。
何でだろう?と思った綾は、その事について聞いてみる。
するとどうやら、前の研究が一段つき、ようやく息を付けるかと思ったところ、新しい研究プロジェクトが立ち上がり、それに取り掛からなけばならなくなったからだそうだ。
「そっか、じゃあ、仕方ないね。お父さん頑張ってね!」
といい電話を切った。仕事で忙しいのは、十分わかっているが、この前もそうだったじゃない、と考えているうちに、ふつふつと怒りが沸き上がってきた。
 が、ふと、あることに気づき冷静になった。あまった鮭どうしよう。
もう、解凍してしまったから、また冷凍する訳にはいかない。賞味期限ももうすぐ切れてしまうことだし。だからと言って捨ててしまうのも勿体無い。
...仕方ない。食べるか。
 食が少し細い綾は、食べきれるかどうか心配だったが、自分でも驚くくらいすんなりと胃袋の中へと消えていった。
食器を片付け、明日のお弁当の下準備をしたところで、気付くと時計の針は9を指していた。そろそろお風呂に入ろうかな。
衣擦れの音とともに綾は服を脱いでいく。中学生故か、未成熟な肢体は起伏に乏しいが、しかし、均等が取れといる綾の体はそれでも何処からか、色気を漂わせていた。
 綾はブラに手を掛けながら、そういえば、最近ブラがキツくなってきたから買い換えなきゃいけないとな…と思っていたが、今日も忙しくて買いに行く暇が無かったな。明日こそ買いに行かなければ…と思った。まぁ、キツくなってきたといってもAAAのブラだから、そんなに大したことではないが。
 湯船に浸かりながら、綾は急に胸が少し張っているような感覚に襲われた……が、すぐに、多分気のせいだろうと思った。
それ位に微妙な変化だった。
風呂から上がった綾は、体が冷える前にと、すぐパジャマに着替えることにした。
最近、ブラがキツいせいか、寝るときブラを付けていると寝付きが悪いので、綾はノーブラでパジャマを着ることにしているのだが、なかなか忙しくてブラを買い替えに行けないうちに、すっかり定着してしまった。寝るときは付けていなくても大丈夫って何かで聞いたし。買い替えてもコレは続きそうだな…。
さて、明日も忙しいことだしと、自分のベッドに入るや否や、すぐに寝入ってしまった。

 一方…。
男はあれからデータ採取を続けていたが、なかなか思うようなデータが取れないことに苦悩していた。
何がいけなかったのだろうか。薬品の組み合わせ、投下、…計算ミス、間違いは無かったはず…。いや、そもそも昨日、あんなに遅くまで起きていたから、知らないうちにミスをしていたのかもしれない。
それもそのはずである。それは綾がすり替えたカプセルだったのであるから。
...まぁ、明日、もう一回作ってみるか。