⊂カプセル⊃

ケイト 作
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カーテンの隙間から差し込む、日の光の眩しさに目を覚ました。寝惚け眼の綾は、瞼を擦りながらも、お弁当を作るために台所へと向かう。いつも前日に下準備をするので、それ程時間は掛からないが、それでも毎日となるとたまに眠くて辛い日がある。
しかし、今日は眠くない…正確にはお腹が減っているから眠くない。
...昨日、結構食べたはずなのに…。まぁ、そういう時もあるか。一応成長期なんだし、と綾は考えた。そうこう考えているうちに、お弁当が出来上がり、朝食の支度にかかることにした。
...今日はちょっとお腹空いてるし、トースト2枚にしようかな。そう思い、作ってみるも、いざ食べようとしてみたら、ホントに食べきれるか不安になってくる。しかし、そんな不安を余所に、食べ始めてみると、あっという間になくなってしまった。
...お腹が空いてたんだし、食べれて当たり前か。そういえば、今何時だっけ。
時計を見ると、時刻は8時。学校が始まるのは、8時30分。学校に行くには、20分くらいかかるから…このままだと間違いなく遅刻だ。
しまった!!の声を皮切りに、綾は転がり込むように自室に入り、制服に着替え始めた。着替え始めて、とあることにすぐ気づく。
...なんか昨日より心なしか胸が大きくなっているような…。うっ…やっぱり昨日よりブラがキツイ。
僅かながらではあるが、食い込んだブラジャーに圧迫される胸が苦しい。
だが、今はそんな悠長にしている場合ではない。遅刻してしまう。
カバンを掴むと綾は急いで学校へと向かった。

正門をくぐり、階段を駆け上がり、2-Cと掛かれた板が視界に飛び込んできた。自分のクラスだ。勢いよく扉を開け駆け込んでみるも、ホームルームはまだ始まっておらず、クラスメートの何とも言えぬ視線に、気恥ずかしさを覚えつつも、綾は着席する。
...とにかく、間に合ってホント良かった…。
チャイムが1限目の始まりを知らせてから、一体何分ぐらい経ったのだろうか。いや、あと何分で授業が終わるのだろう?綾はさっきから、そのことばかりが頭の中を巡っている。というのも、さっきからお腹が空いて仕方がないからだ。
...今朝しっかり食べてきたはずなのに…。もうお腹が空くなんて、私どうかしちゃったのかなぁ。…それにしてもお腹空いた。早く終わらないかなぁ…。
そう思っていた時だった。「キーンコーンカーンコー…」授業が終わった。綾は教室を飛び出し、一目散に売店へと走っていった。走って息を切らしているにも関わらず、綾は、売店のおばちゃんに、
「焼きそばパン2つ!!」と言った。
はいよ、という声と共に焼きそばパンがでてくる。綾は、支払いを済ませてすぐさま、焼きそばパンを周りの目を気にせず、がっつき始めた。食べ終わって暫くして、ふと気づく。あれ?私今まで何してたんだろ…。手にはパンのビニールが握らている。よく見ると焼きそばパンと、書かれている。
“しかも何故か私は売店にいる。”
わっかんないな〜、と呟きつつ綾はその場を後にすることにした。

2限、3限…とこなしていき、遂には4限が終わり、お昼休みの時間となった。綾〜という声と共に誰かが近づいてくる。クラスメートの千紗だ。
「綾、一緒に食べよう。」
いつも、千紗とお昼を食べている私は、もちろん!じゃあ、学食で食べよう。…と返した。
取り留めの無い会話をしながらの食事だったが、思いの他、箸の進みは早く、あっと言う間にお弁当は空になってしまった。だけど、なんかまだお腹空いてるし、何か売店で買って食べようかな…と思った綾は、
「千紗〜。ちょっと売店行ってくる」
と言い残し売店へと向かうことにした。
千紗は「珍しいね!綾がお弁当だけでお腹いっぱいにならな…。」
気づけば綾の後ろ姿が小さくなっていた。綾ってあんなにせっかちだったっけ…。
売店には、様々な種類のパンがある。それらを見比べ、色々あるけどれにしようか迷うな〜…と、しばし迷った後、うん。クリームパンとチョコレートパンにしようと決めた。
「おばちゃん!クリームパン2とチョコレートパン1つ下さい。」
それに対し売店のおばちゃんは、
「おや、またあんたかい?最近の子は良く食べるねぇ」
と返ってきた。このおばさん、何を言ってるんだろう。“私は今日初めてここに来たはずなのに。”きっと他人の空似か何かなんだろうと綾は思ったが、わざわざ訂正して会話が拗れるのはどうも面倒なので、適当に合わせることにした。そんなことより、この空腹を早く満たしたい。
支払いを済ませ、パンを受け取った綾は、引きちぎるようにパッケージからパンを取り出すと、学食に戻りながらパンを食べ始めた。学食に戻る頃にはパンは無くなってしまったので、ビニールは、近くのゴミ箱に捨ててしまった。
学食に戻ってきた綾に、千紗は少し意外そうな声を掛けてきた。
「あれ?なにも買ってこなかったの?」と。
まさか、クリームパン2つも買って、戻りながら全部食べてしまったとは、恥ずかしくて死んでも言えないと思った綾は、ううん、やっぱ気のせいだった…と答える事にした。
なぁに?それ。ちょっと、しっかりしなさいよ綾。なんて、笑われてしまった。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう物で、5限目の授業が始まる。お腹がいっぱいになり、窓から差し込む程良い光がいい感じに眠気を誘い、夢の世界へ…といつもなら、そう不真面目に考える綾だが、今日に限ってはそうはいかなかった。
胸が苦しい。
サイズが合っていないブラをし続けているせいなのか、朝より苦しくなっている。サイズが合っていないのに、長時間付けていれば、段々に苦しくなっていくのは分かるが、それ以上に何か苦しいものがある。
苦しいが、学校は次の6限さえ我慢すれば終わりなので、我慢することにした。
こうしてなんとか我慢した綾は、6限目終了のチャイムが鳴るや否や、一目散に一番近くにあるデパートへと向かった。
デパートに着いた綾は、直ぐに下着コーナーに向かおうと思ったものの、何処からともなく漂ういい匂いに誘われ、フラフラと食品コーナーへと足を運んでいった。段々と匂いがはっきりとしてきた。どうやら、匂いの正体はたい焼きのようだ。案の定、匂いのもとに近づくにつれて、店舗の合間からたい焼き屋が顔を覗かせているのがはっきりと分かるようになってきた。
たい焼き屋の前に着くと、無意識の内に「すみませ〜ん。たい焼き5つ下さい。」と声が出ていた。
あいよっ!という威勢の良い声の後、たい焼きが出てくる。初めは頼みすぎたと、訂正しようかと思ったが、お店の人に悪いと思い、結局全部食べることにした。
熱くて最初、食べづらかったが、それでも数分もしないうちにペロリと平らげてしまった。お腹も丁度いい感じに膨れたことだし、さぁ、下着コーナーに行こう…と、その時だった。突然、ミシッという音がしたかと思った次の瞬間、先程まで苦しかった胸が、更に苦しくなってきた。
...うっ…く、く…、苦しい。胸焼けって感じじゃなくて、何かこう強く圧迫されているような…。とりあえず、せっかくデパートまで足を運んで来たんだから、と考えた綾は、とりあえず寄るだけ寄って帰るこしようと決めた。
苦しいながらも、下着コーナーに着いた綾は、早速、採寸をお願いすることにした。採寸するために試着室に入り、服に手をかけて、すぐさま、今日一日中胸が苦しかった理由が分かった。今朝みた時よりも明らかに胸が大きくなっている。そのことに最初は驚いたが、驚いている綾に全く動じない、店員のすました態度を見ている内に、なんか急にどうでもよくなってきてしまい、考えるのを止めた。それよりも、小腹が空いてきたことが気になってきたというのもたる。
店員に計られ、65のCであることが分かった。1日にして随分大きくなったような気がしなくもないが、もはや、そんなことはどうでもいい感じがしてきた綾だった。これから大きくなることを考えて、綾はブラを二つだけ買い、デパートを後にした。
それより、夕飯は何にしようか…。

一方…。
あれからもう一回薬を作り直した男は、期待したデータが得られると踏んで、マウスに投与し幾ばくか時間が経ったところだった。投与してまだ半日程度にしかならないが、実験過程は良好で、この短い時間の間に、通常の個体では考えられないスピードで乳房が成長しているのが分かった。どうやら、その代わりに食欲も通常の個体に比べて増加するようで、先程餌を与えたばかりなのに、マウスはキィキィと声をあげ、餌を催促している。試しに餌を与えてやると、何か別の動物かのごとく、マウスは餌を貪り始めた。
今のところ順調だが、一つ気にかかることが男にはあった。マウスの食事量と催促する間隔が、回数を重ねる度に段々と、食事量ならば増え、間隔は短くなる傾向にあるということだ。まだ、投与から半日経過していないので、効果が徐々に現れ始めてきたからだと考えられるが、いずれにせよ、時間を掛けジックリ観察する必要があると男は考えた。