⊂カプセル⊃

ケイト 作
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 ブラを買い換えた次の日の千紗や周りの友達の反応はスゴかった。今までキツいブラをしていたからと説明したが、なかなか信じて貰えなかった。
…昨日までなかった胸の膨らみが、突如として現れたのだから、その反応は当たり前といえば当たり前だった。しかし、家事で忙しく買い替えに行く時間がなかったというと、みんな少し疑問を抱きつつも納得してくれたようだった。良かった。
 それから一週間、綾はひもじい日々を過ごしていた。というのも、ブラを買ったために、今月の小遣いが殆ど無くなってしまったからなのだが。
一応、家でおにぎりなどを用意して来るのだが、その場しのぎな感じで、正直なところお腹の足しにはあまりなってない。
でも、そんなひもじさも、今日でおさらば。何せ、今日で月が変わり、お小遣いを貰えたからだ。
 この前買ったブラが、少しばかり胸が大きくなったのか、余裕がなくなってきたことが気になることだが、まだまだ大丈夫だろう。
…そんな事を心配するより、今日はとにかく奮発しよう。お昼に何を食べようかなぁ〜と考えていると、千紗が何かとても嬉しそうな顔をして近づいてきた。
…何だろう?
千紗は、綾!知ってる?と聞いてきた。すかさず、何を?と私が聞き返すと千紗は、
「綾、最近この近くにケーキバイキングの店がオープンしたんだよ」
ケーキっ!!しかも食べ放題!綾は心の中は、それでいっぱいになった。千紗の誘いにもちろん行くと答えた私は、教室を後にし、屋上に行くことにした。今は、1限目、後の休み時間なのに。
 なんで、わざわざ屋上に行くのかというと、用意してきたおにぎりを食べるためにだ。教室で食べるのは周りの目が気になり、流石に気が引けるから。
屋上に着いた綾は、胸ポケットや制服の内側から、何やら平べったいものを取り出した。平べったいが、これでも列記としたおにぎりである。教室を出るのに、おにぎりを手に持って出るのを、見られるのは余り気分が良くないので、そう見られないように考えた結果こうなってしまった。
体温により生暖かかったり、見てくれは悪いが、これで多少なりとも空腹が満たされるのだから、不満は言えない。
1分もしないうちに食べ終わった綾は、教室に戻ることにした…が、不意に「ぐ〜…」と音が綾のお腹から鳴った。どうやら、お腹の足しになるどころか、逆に食欲を刺激してしまったようだ。
…休み時間は後5分、売店に行こうかな行かまいか…。
結局、綾は売店でクリームパンを2つ買い、授業が始まるまでに食べお終えてしまった。
さて、教室に戻ろうかと思ったが、少しも食欲が満たされる感じがしない。しかし、もうすぐ授業が始まってしまう。仕方無い、我慢するしかない。
 …授業中。「ぐるる…」またお腹が鳴りだした。最近はいつもこの調子だ。我慢はするものの、正直つらくて仕方がない。
しかし、今日はいつもに増してつらい。こっそり抜け出してコンビニで何か買ってこようかと考えたが、それは不可能に近い。だからといって、仮病を使って保健室に行く前にどこかに寄って食べてもいいが、授業が欠席扱いになるのは、あまりよろしくない…となると……。
 綾は、気持ちイスを引くと、鞄からこっそりと弁当箱を取り出した。早弁だ。机の中にお弁当を隠し、先生の目を盗みつつ食べ始めた。只単に運が良かったのか、それとも綾のカモフラージュが上手かったのか、何とか見つからずに食べ終えることができた。食べ終わったが、まだまだお腹が一杯になる気配は感じられない。お昼は何食べようか…と考えているといつの間にか授業は終わっていた。
終了と同時に千紗が声を掛けてきた。
「綾、一緒に食べよう。今日は、美菜も一緒だよ。」
美菜は千紗程ではないが親しい友達だ。一緒に行こうとお弁当が入っている鞄に手を伸ばしたが、お弁当はさっき早弁したため、空になったことを思い出し、伸ばした手を引っ込めた。
幸い、私と千紗・美菜の席は離れているので、お弁当を忘れてしまったと言い訳して学食に向かうことにした。
 学食に着いた綾達は、千紗と美菜に席を取っておいてもらうことにして、綾は食券を買いに行った。券売機の前に着いたものの綾は悩んでいた。お小遣いを貰ったからといって、調子にのって大盛や高いランチを選んでしまえば、お小遣いはあっという間に無くなってしまうだろう、先程パンを買ったことだし。それに今日は、ケーキバイキングに行くのだ。ここでお腹いっぱいにならなくても、バイキングでいっぱいにすればいい。…と考えた綾は、普通盛りのランチを頼むことにした。
ランチを手に席に戻ると千紗と美菜がチラシを手に何やら話ていた。
「お待たせ。なに見てるの?」
と覗き込んでみた。どうやら、今日行くバイキングのチラシのようだ。
話に夢中だったらしく、覗き込んだときにやっと私に気付いたようだった。
「あっ!ちょうどいいところに来たね綾。美菜も行きたいって、言ってるんだけどいいかな?」
もちろん私はOKした。こういうことは、みんなで行った方が断然楽しいことだし。
取り留めもない話をしつつ食べていると、あっという間に食べ終わってしまった。少し物足りない感じがした。
 …5限目…ぐぅきゅるるる…。不意にお腹からそんな音が聞こえた。5限目はまだ半分も経っていないのにお腹が鳴ってしまった。
…やっぱりあの時、大盛にしておけば良かったな。早弁をしたから、もうお弁当はもうないし、抜け出すのは至難の業だ。
後悔先に立たずとは良く言ったもので、綾はまだ分以上ある時間を我慢することになった。それにしても最近よくお腹がすく。なんでこんなに空くのだろう…その原因は…と考えようとしたが、これが思春期というものなのだろうと思い考えることを止めにした。
 実際には綾は、通常では考えられない量の食事を取っている。朝食、おにぎり、パン、お弁当、学食…それでもお腹がいっぱいになることがない…というのに。
その時の綾は、それを疑問にはあまり思わなかった。
 5限が終わった綾は、早速売店に行くことにした。
「おばちゃん!ジャンボ蒸しケーキ1つ!!」パンを手にとった綾は早速食べ始めた。これでお腹が少しは膨れるだろうと思ったが…甘かった…。
…ぐぅ…。
不意にお腹が鳴った。まだまだお腹が一杯になる気配はしない。それにしても、さっきから胸が窮屈な感じがする。まぁ、今はそんなことはどうでもよい。今は、お腹を一杯にすることが先決だ。ということで…
「おばちゃん!!さっきのもう1つ!」
綾はそれを瞬く間に平らげると教室に戻ることにした。
まだまだお腹が一杯になるには程遠い感じだが、今日はバイキングに行くのだし、ここでお金を使いすぎるのは…。と考えたからだ。
 しかしそれは裏目にでる結果となった。6限目が始まって早々に、綾のお腹は盛大に空腹を訴え始めた。
「ぐぅ、ぐぅ〜きゅるるる…」
今日の中で一番大きく鳴った。オマケに長かった。
周りにいる何人かは其れに気付いたようだったが、とりあえず無視することにした。
この後、バイキングがあるのだから、コレぐらい空いててむしろ丁度いいだろう。そういえば、今日もお父さんは帰って来ないことだし、今日は夕飯分をケーキですましちゃえば楽かな…と綾は考えた。
 お腹が空いているのはこの際仕方ないとして、なんで胸が張ってきたような気がする。…気のせいだろうか。
我慢して綾は、なんとか6限目をこなし、退屈な帰りのホームルームも終えた。
 美菜、千紗と合流した綾は、早速バイキングの店に向かうことにした。校舎から歩くこと5分…。それは、ひょっこりと顔を現した。
 千紗は、私たちの方を見て「じゃじゃ〜ん!ここだよっ」と教えてくた。
…じゃじゃ〜ん、は幾らなんでも古くなぁい?…と言いそうになったが、あえて突っ込まないことにした。
千紗を怒らせると後が怖い。
店内に足を入れると、ほわっと甘い匂いが鼻孔をくすぐった。新しくオープンされただけあって内装もきれいでいい感じだ。
店員の案内で席に着いた3人は、軽く説明を受けた後ケーキを取りにいくことした。
綾は、とりあえず一種類ずつとって、美味しいと思ったのを沢山食べようと考え、辺りを見渡す。
ケーキの種類は軽く見ただけでも優に30種類はある。ケーキ一個一個自体は定期券ぐらいの大きさだが、30個ともなるとお腹が一杯になる人が多いんじゃないだろうかと思う量だが、今の綾は全然そんな気がしない。それどころかその倍は楽に入りそうな感じだ。
お皿に載るだけ載せた綾は、席へと向かった。
席に近づくと、綾に気づいた2人が声をかけてきた。どうやら、知らずのうちに待たせてしまったようだ。
「お待たせっ!」
二人は少し驚いたように、綾、結構とってきたね。・・・っと返してきた。
…なんでだろう?と思ったが、
うん、お腹空いてるしね。今日はお父さんが帰ってこないから、夕食の分もケーキで食べちゃおうかなって・・・。
と言うと二人から、いくら綾でもそんなことしたら太るよ〜。と言われた。
じゃあ何で、2人もこんな所にきたのよ〜。と言い返すとしばらく3人で笑ってしまった。
…さて、食べ始めようかな。