⊂カプセル⊃

ケイト 作
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綾、よく食べるねぇ…。
感心を通り越し、半ば呆れた美菜がぽつりと言った。
そう?私は後30個くらい食べれるけど。みんなも遠慮しないで食べなよ、と私は答えた。
まさか!!それ以上食べたら、スカート苦しいどころじゃないし、確実に1kg太ったし!!どうしてくれるのよ〜と千紗は悲鳴を上げていた。
...確かに私もスカートがきつくて苦しい。今にもホックが弾けてしまいそうだ。でも、不思議なことにまだまだ食べれる。
それから、更に5…10…15…と食べていき、遂に20の大台に乗ろうとした時に、彩は腹部に異変を感じる。正確にはスカートに異変を…。これ以上食べると本当にホックが弾けかねない。一瞬、ホックを外して更に食べようかと考えたが、人前では流石に気が引けた。友達もいることだし。
千紗に、あれ、まだ20個じゃん。30個宣言はどこにいった。まだいけるぞ綾、頑張るんだ。千紗の頑張れコールが掛かる。其れを見かねた美菜が、流石に無理でしょ。無理して食べても体に悪いし、楽しめる範囲でやらないと・・・と止めに入る。
お調子者の千紗とそれを止めに入る美菜。
いつもの構図だ。そんな事を考えていると、美菜は私の方も向いて口を開いた。綾も綾で食べ過ぎ。食べ放題の店だからもとを取るのは大切だけどさ、お腹壊したら意味ないよ。
...ホントはもっと食べれるんだけどなぁ…。

家に帰る途中、不思議なことにもうお腹が空いていることに気がついた。
沢山食べるようになると、胃が拡張して更に多く食べれるようになると以前、本か何かで見たことがある。多分それだろう。それにしても胸が異様に火照っている。おまけに学校にいた時よりも胸が窮屈に感じる。
...早く家に帰ってシャワーでも浴びよう。
家に帰って電話機を見ると留守録のマークが光っている。案の定、お父さんからの伝言で、今日も家に帰れないということだった。
お父さん頑張ってるな。でも、たまには帰ってきて欲しいな…と思う綾だった。
いつものことだし、まぁいいか。今度差し入れに、お弁当を作って顔だしに行こう。
それより、シャワーを浴びなきゃ。綾の足はお風呂場へと向かった。
綾は服を脱ぎ初めて、あることに気づく。
...あんなにお腹苦しかったのに、もう元に戻ってる。それに、朝みた時より、胸が大きくなってる?その時だった。
胸が猛烈に貼る感覚が綾を襲う。
...む、胸が裂けそう
そこで綾の意識はぷつらと途切れた……。

……………………………。
…………………あつい。
……何か熱いものが自分に降りかかっている。
これは……シャワー?
そこで、綾の意識が覚醒する。
...さっき胸が裂けそうな感じがして…それで…?
どうやら私は気絶して、床に倒れたようだった。
そこで、とあることに気づく。息がやたらとしにくい。というか苦しい。
といあえず、体を起こした綾は目を見開く。
む…胸が大きくなってる。
気絶する前と比べて明らかに胸の大きさが違っていた。テレビや雑誌で見るようなグラビアアイドルと一歩も引けをとらない大きさだ。
いくら何でも大きくなりすぎじゃない!!?一体どうなってるの?
そう思ったが、それより大きな問題に気づく。
...服、着れるのかな。
体を拭いた綾は自室へと急いだ。
んっく…。
うぅんっく…。
どうしよう。は、入らない。
胸が大きくなったせいでブラがつけれなくなってしまった。さっきからホックを引っ張っているが、全く届かない。そうだ。新しいのを買えば…と、時計を見てみるが、既に針は9の時を挿そうとしていた。今から支度してデパートに行っても間に合わない。
...私、かなり長い間気絶してたみたい。仕方ない。明日はノーブラで行くしかないかも。
...そういえば、シャツは着れるのかな?
綾の頭の中に様々な不安がよぎるが、それを振り払い、シャツの掛かったハンガーに手を伸ばす。
...やだ…こっちもだ。
シャツのボタンは届きそうで届かない。
数分に渡る格闘の末、無理があるがなんとかボタンを留めることができた。
...明日はなんとかなりそうだ。
ふぅ〜と溜め息をついた次の瞬間…
ぷちんっ!という音ともにボタンが床に転がっていた。
転がり終わったボタンは、からん…と乾いた音を室内に響かせる。
数秒して、深呼吸をしたせいで、胸が膨らんだからだということに気づく。
...そ…そんな。これじゃあ学校に行けないじゃない。
ボタンは後で縫い付けたとしても、着れなければ意味がない。
...明日1限目をサボって買いに行かなきゃ。
と思いつつ、クローゼットにシャツを戻そうとして、ふと、目に止まったものがあった。
救急箱だ。
中に包帯があった筈。それを胸に巻けばもしかしたら…
綾は淡い期待とともに、救急箱を手にとった。
綾の期待通りに、胸に巻いてあげることによって、なんとかシャツぐらいは着れる樣になった。
ぐうぅ…
安心したせいかお腹が空いてきた。ちょっと遅くなったけど、夕飯にしよう!

一方…。
男は驚愕していた。自分の実験が、ある意味で成功し過ぎ、そのせいで失敗に終わったことを。彼は薬に胸が大きくなる成分とともに、食欲が増す成分。極力胸に栄養が行くようにする成分を配合したが、それが効き過ぎてしまったようだ。
マウスの食欲は、あれから衰えるどころか増す一方で、餌を少し間でも与えていないと、ゲージに敷き詰めた、おがくずまでさえ、食べるようになった。乳房は体程の大きさに膨れ上がり、動くこともままならないというのに。

“投与してからマウスは、次第に食べることしか考えなくなり、記憶力や思考能力が低下した”
まだ推測の域を出てはいないが、極力胸に栄養が行くようにする成分が影響し過ぎたせいで、胸に栄養を奪われ、脳細胞が長期的な飢餓状態になるせいなのであろう。
そのプロセスは、薬の効果により、脳の栄養が不足すると、当然、その不足分を補おうとする。
つまりは、食べ物を食べるように脳から指令が出るということだ。
満腹になれば、一時的に思考能力は回復するものの、胸に栄養が奪われ、また元に戻ってしまう。
故に、いくら食べるよう指令を出しても、飢餓状態は一向に解消されない。
するとどうなるか?
脳はより一層強い指令を送るようになる。それでも解消されない場合、少しでも飢餓状態を和らげるために脳は、生きるのに必要な機能以外は徐々に休眠状態に入らせる。
次第に思考能力や記憶力の低下を引き起こしたのも、食べることしか考えなくなったのも、このせいだろう。

まだまだ、完成には程遠いことが分かった男は落胆していた。これを人に投与すれば、恐ろしいことになるであろう。また、一から見直しをしなくては・・・。