電気ショックの副作用

きんちょ 作
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 中島さんの家にあいさつに行くだけだからって、油断してた……

 私は企業で働いてるOL。生活は一人暮らしだけど金銭面ではそこまで苦労はしてないかな。あくまで「金銭面」ではね……
 そろそろ私も三十路に近づいてきて、いわゆる「アラサー女子」という言葉が相応しくなってきたから、もう結婚も視野に入れなきゃいけない訳なんだけど、どうしても結婚に踏み切れない理由が……

 今日は仕事でお世話になっている中島さんがこの辺りに引っ越したから是非来てくれって言う事だったから、あいさつに行こうと思ったの。歩いて10分も掛からないから特に準備をしなかった。中島さんへのあいさつは特に何事もなく終わった。行くときは問題なかったのよ。でも、あいさつが終わってから帰る時に、油断しちゃって……

「ちょっと……喉が渇いちゃった」

 外は暑かったからほんのちょっとの外出でもすぐに喉が渇いた。汗を結構かいちゃったから、家に帰る前に近くの公園で水を飲もうと思ったの。そこで…やっちゃった。

 水を飲もうと、水飲み場で前に屈んだときに、乳首が水飲み場にかすれて……

「……あっ……」

 私は、胸の先っぽが、生温かい湿った感触でじわじわと覆われていくのを感じた。
姿勢を直して胸を見ると、服の二か所、両方の胸の先に染みが出来ていて、少しずつ広がっていた。

ちょろ……

 染みの中心から、白い液体がポタポタと、次第に粒の大きさを大きくして垂れ始めてた。白い液体っていうのは……母乳なの。私の胸には遠くから見てもはっきりと分かる程大きな染みが二つ出来ていた。乳首からはどんどん母乳が垂れてきて、水飲み場の蛇口の周りに白い水たまりがぽつぽつと……

「……また出てる……」

私の大きなコンプレックス。それは、このとてつもなく大きくなった胸。でも、もとはこんなに大きくなかったの。何年か前に、私はプールで溺れて、意識不明の重体になった。その時は、誰かがプールにあったAEDを使ったおかげで、一命を取り留められた。だけど、退院してから私の胸に異変が起こった。

 はじめに数日間、突然胸にズキズキと痛みが走ってきた。日が経つと痛みは治まってきたけど、今度は別の異変が出始めた。
 服を着ようとしたら、なんだかキツい。スカートは余裕なのに、上着を着るのが苦しい。なんとなくメジャーを持ってきた私は驚愕した。前よりも胸がかなり大きくなっていたの。学生時代に来ていた服は入らなくなった。当時は服を買う余裕なんてなかったから、私は焦って……
 大きくなった原因を知ろうと病院に行って診察を受けた結果、私は胸に関連するホルモンの分泌が異常になっていると言われた。そしてホルモンの分泌が異常になった原因というのが…溺れた時に受けたAEDの電気ショックだったの。何でもAEDを使った人が使い方を間違えたらしくて……

 困惑している私に、更なるショックが襲った。当時付き合っていた人にこの症状を打ち明けたら、別れを告げられた。何でも、私の体が変わっていくのを見てられなかったとかで……
 その後も私の胸はどんどんと大きくなっていった。道行く人や同僚から珍しいものを見るようなねっとりとした視線を感じるようになった。電車で痴漢に何回も遭った。私が他人に無意識の内に恐怖心を募らせていったのにも関わらず、胸は収まるどころか、より大きくなった。

 そのうち、私の胸から母乳が出るようになった。ある日、通勤していたら電車が急ブレーキをかけた時があったの。
私は体のバランスを崩して、電車のドアに胸を強く押しつけられた。慌てて体勢を戻した私は、胸に何か違和感を感じたの。電車を降りて会社に着きトイレに向かって胸を確認したら、ブラジャーの内側が濡れていた。その時は汗だと思っていたんだけど、ある時お風呂に入っていたら胸が張っている感じがして、胸を揉んでみたら、白い液体が乳首から垂れてきた。私は驚愕した。妊娠していないのに、母乳が出るなんて……

 胸が大きくなるのに加え、母乳が出る量も次第に増えていった。母乳が出るようになってから、私はますます他者に壁を作るようになっていった。このコンプレックスのせいで、結婚どころか、交際をすることも怖いの。それに、この前あたりから……

「水飲もうとして乳首が当たっただけで出ちゃうなんて……」

 胸を揉まなくても、何かにちょっと当たったり擦れたりするだけで母乳が出るようになってきた。しかも胸が大きいからしょっちゅう何かに当たっちゃう。いちいち服が濡れると困るから普段パッドをしているんだけど、今日は短い距離だからって油断して付けなかった。慌ててトイレに来たけど、絶対誰かに見られたよね……なんだか私がどんどん変になっていくような……あの時、AEDのおかげで一命を取り留めたけど、そのAEDのせいで今の私がこんなにしんどい思いをしているなんて……

「ああもう服がビチョビチョ……パッド付けとけばよかった……」

私の一日の生活は、朝起きたらまずお風呂場に駆け込み、寝るときに付けていたパッドを外して出来る限り搾乳する。搾乳し終えたら朝ご飯を食べ、新しいパッドを乳首に当ててスーツを着る。恥ずかしいけど、これだけの大きさを収められるものが無いからブラジャーは着けられないの。オーダーメイドも高いしすぐ合わなくなるし……家を出て電車に乗って最寄り駅まで行き、会社に着いたらまずトイレに駆け込む。搾乳していても電車でもみくちゃにされてパッドはビチャビチャになっちゃってるから新しいパッドに替えて仕事をする。お昼休みにまた搾乳して、仕事を終えて家に帰ったら帰宅ラッシュでパッドはずぶ濡れだからパッドを外して服を着る。お風呂に入る時も搾乳して、夜寝る前にパッドを付ける。パッドを付けないで寝ると、寝がえりを打ったりして翌朝パジャマとシーツが牛乳臭くなっちゃうの。

 そんな感じで何度か電車でもみくちゃにされたり寝返りを打ったりしてパッドがずれたりしながら数週間が過ぎた。

 ある日、冷蔵庫が寂しくなってきたので私は食材を買いにスーパーに買い物を行くことにした。まず私は、外に出る前にお風呂場に向かい搾乳をした。

「買い物行く前に、よいしょっと……」

 浴槽のふちに両胸を置き両手で押さえつけると二つの乳首から白い筋が勢いよく出始めた。搾乳を始めてから浴槽に水が溜まりっぱなしだったことに気づいたけど、栓を抜こうとして母乳が飛び散って服に掛かるのが嫌だったのでそのまま母乳を出し続けた。浴槽に張った水の中に、白い煙がもくもくと立ち込めていく。
 
 母乳を噴き出す乳首を眺めながら、私は最近起こっている体の変化をぼそっと呟いた。

「やっぱり最近…乳首が黒くなってきてる……」

 この頃になって、今まで薄いピンク色だった二つの乳首は、濃い茶色になってきていた。母乳の出る場所を今までよりもはっきりと示している。私、どうしてこんな変な身体にならなくちゃいけなかったの?これじゃまるで、産後のママじゃない……赤ちゃんにおっぱいを与えるために母乳出ているみたい……
 そんな事を考えてたら、衰え始めていた母乳の出がまた何となく強くなった気がした。


 それからさらに後日、私はまた中島さんの家に行った。お客さんがくるはずだったが直前でキャンセルし、もてなし用のお菓子が余ったので私にくれるとの事だったの。お菓子をもらった私は、帰り道でまた喉が渇いちゃっていつもの公園に立ち寄っちゃった。どうしても水が飲みたくて……
 今度はぶつからないように慎重に水飲み場へ向かった。出る前にパッドを付けていこうか考えたけど、余計にパッドを使うのが嫌だったの。おっかなびっくりで水飲み場にようやくたどり着き、一息ついた私は、腕をそっと伸ばし、水飲み場の蛇口に手をかけた。
 
 水飲み場の蛇口をひねろうとしたその時、私の胸に突き抜けるような刺激が走った。

 乳首に向かって何かが素早く込み上げてくる。それはあっという間に乳首に達し、乳首を追い抜いていく。

「あっ…!やばっ!ここで……出ッ!」

 刺激の源である白い筋は二つの乳首から勢いよく飛び出した。私が叫び終わる前に……
 噴き出した母乳は水飲み場に飛び散り、水飲み場がさながら二つの白い滝壺になってた。

「ううっ 今度は慎重に水飲み場に来たのに……」

 着ている服に現れた二つの染みが急速に広がっていく。この量では服の濡れてない部分を探すほうが難しくなってしまう。まだ買い物だって行っていない。さっき洗濯したばかりで今の家にはこの大きさの胸が入る服はない。そう思った私は、ぐるっと辺りを見渡して誰もいない事を確認し、両手で服の襟元をつかんで思いっきり下に下げた。

「もうなりふり構ってられない!誰もいないし脱いじゃえ!」

 窮屈な服から二つの球体が勢いよく飛び出した。飛び出た瞬間に乳首が上を向いたから周りの草にも母乳が引っかかっちゃった。露わになった二つのおっぱいの先には、黒く熟れた乳首が白い母乳を勢い良く噴いている。私はもう一回周りの様子を確認してから、大きなため息をついた。

「……はぁ〜っ、時々母乳が噴き出るようになったの、乳首が黒くなった辺りからかな……?」

乳首が黒くなったことに気づいてから数日後のある日、私は職場で事務の仕事をやっていた。机について書類を作成していたとき、乳首の先から何かが漏れだす感覚がしてきた。
 私はすぐに気付いた。母乳が、漏れてる……?でもその時私の胸は何かに触れたような感覚がなかった。不思議に思ったけど、その時の私は仕事を続けてた。

 別の日、私はスーパーで買い物をしていた。夕食の材料がほしかったの。食材を眺めていたその時、私の胸に鋭い刺激が走った。えっ……!?と思っていたのもつかの間、次の瞬間には乳首から白い液体が飛び出ていた。しかも運が悪くて、パッドの位置がずれていたのね。
 母乳は服を突き抜けて、野菜に母乳が引っかかっちゃった。いたたまれなくなった私は、母乳が引っかかった野菜をみんな買っていった。その日の晩御飯はよくわからない献立になった。

 日に日に大きくなっていくだけじゃなくて、変になってゆく私の胸。そしてそんな胸に翻弄されている私の人生……何でこんなひどい目に合わなくちゃいけないの?