(T)
秋月 涼子。
非常に美しく、端整な顔立ちをしており、流れるような美しい黒髪。
スラリと伸びた手足、そしてそれらを正に“纏っている”かのような美しい肢体。見事な曲線美を持つ女性である。
その滑らかな線は、非常に美しい流線形を描いており、当然胸は、さして言うほど大きくはない。しかし、Cカップである(厳密にはDである。トップとアンダーの差が、15.8cmと、Cの上限である15.0を0.8cm上回っているから)。まあ言えば、日本人の平均よりは大きいだろうが。
彼女の職業は、ダンサーである。彼女は、自分の肉体が魅力的であり、且つ顔も魅力的であることを知っていた。・・・あくまでも知っているだけで、そのことを自慢などしたりはしない。
実は、自慢しないのにはわけがあった。彼女は身長が178cmもあり、顔も“お姉様系”である(“お姉さん”ではない)。・・・要するに、自分の恋人にする目的で声をかけてくれる男が、一人もいなかったのである。
空手2段という実績も災いしていた(ただし、非実戦系の,つまり極真や正道館からはかけ離れているタイプのものなのだが・・・)。
しかし、そんな彼女には、ようやく最近、初めての彼氏ができた。
彼氏の名前は、春日右京(かすが うきょう)。身長は彼女よりも一回り以上低い164cmで、大してそんなに良いと言えるような所は無かった。・・・最も、ボクシングの選手として、ライト・フライ級 (47.61〜48.97kg) の日本ランカーだ,という以外のことを除けばの話である。
なぜ、彼女が、こんな男を選んだのか? というと、実は、彼が彼女に、「あなたに惚れました!」と、大胆にもストレートに告白したから、ただそれだけである。
彼女は、彼のその度胸,もとい、一途な所に惚れ込んだのである。
はっきり言って、彼がボクサーとして有名だということは全く知らなかった。ただ、彼の発達した拳ダコには気付いていたが。
初めてのデートの時、彼女は、仕事のステージに彼氏を呼んだ。
「私のダンス、見に来てね!」
爽やかな笑顔と共に、風にざあっと靡く美しく長い黒髪に、まるで彼女の虜と化し、そのままおもちゃの人形になってしまったかのようにカチンコチンに固まった状態で、彼は、「ウン」以外の返事を返せなかった・・・。
ダンス・ショウは、個人演技だった。彼女の仲間たちも、抜群のプロポーションを誇っており、特に観客の目を惹き付けるのは、その美しい肉体の輪郭を描く曲線美だった。
涼子が出てきて、踊り始めた。群を抜いてしなやか且つきらびやかなその肢体は、男たちの歓声さえも止め、静かな空間を作り上げていた。
男だけではない。
女の観客も、「綺麗〜〜〜」と、涼子のことを誉めるだけであった。
右京は、そんな彼女を自慢に思った。
しかし、
「うををっっっ!!!」
涼子の次に出てきた女性に、観客・・・の、男性全てが絶叫・興奮し、歓喜の声を上げた。
爆乳である。
それまでの女性は、みな見事なボディラインを誇っており、当然バストはBカップから、最大でせいぜい涼子の“C+α”であった・・・が、その女性−赤木樹梨亜(ジュリア)・・・フランス(母)と日本(父)の、「ハーフ」でなく「ダブル」である女性−は、Gカップであった。
(マメ知識:「ダブル」・・・
英語でdouble,つまり2つの文化の中で生活し、ここではフランス・日本それぞれの文化に対する理解が深いということ。正しくは、「混血」という日本語は、現在では「ハーフ(半分)」というよりも、こっちの「ダブル」として訳されるべきだ、と、文化や言語の専門家は指摘している。
もっと言えば、「ハーフ」は“分割”だからマイナス的イメージを持たせる,という意見もある。ただし、ヨーロッパ・アメリカなど英語(を母国語とする)圏では、既に「ダブル」が一般的。)
いきなり、Dカップ、いやEやFさえも大きく跳び越して、Gの人が出てきたのである。
まさに「ボディライン? 何それ?」とでもいわんばかりのオネーチャンである。バリバリの関西系・ラテン系‐ちなみに、日本では、尼崎(ホラ、あの、兵庫県というより大阪府に性質の似ている人が多い所)で育った‐である。さっきの涼子とはうって変わって、とにかく明るくて弾けている。
(マメ知識・・・私Knackle&Phist は、兵庫県人である。尼崎のこともよく知っている・・・出身ではないが)
右京君、感激・絶叫! 「イエーイ!!」(純粋な歓喜の声)
(不意に殺気を感じて) (「・・・ハッ! こ この気配 は・・・ り、 りょ う 子 さ ん・・・!?」)
涼子が、物凄い形相で右京のことを睨み付けていた。
その表情は、まさに般若である。
(マメ知識:「般若」・・・
これは、元々、女性の怒りと恐怖を伴った表情で、敵に襲われた、鎌倉源氏2代目将軍の妻の死に際の表情・・・じゃなくて形相をモデルとして作られたもの。・・・両方とも名前忘れた)
・・・右京は、彼女の凄まじい形相に怯えながら、すごすごとそのまま会場を後にした。
周りの男は歓喜の絶叫を繰り返し、女は樹梨亜のすばらしい躍動感あふれる踊りを見るよりも、アホな声を出しつづけてその全身と共に躍動している爆乳に釘付けになっている男供を、「コイツラには ついていけないな・・・」というような、思いっきり呆れた顔で、または思いっきり冷めた表情で見ていた。
・・・彼女のダンスも、その脚・手・首など、実にすばらしい動きをしていたのだが。・・・評論家は、女性の方はまともに評価していたものの、男性の方は乳の動きのパターンしか見ていなかった・・・いや、高齢の男性は、結構まともに評価していたが。
続く