(U)
右京は、会場を後にして、ショウが全部終わるのを外で待つことにした。
「あと1時間か・・・」 シャドウボクシングをさっそく始めながら、さりげなく自分の腕時計を(左のジャブを繰り出して)一瞬見て、呟いた。
彼がステップバックをしながらコークスクリューブローの練習をするために(回転運動を必要とするため)、丁度180度方向転換した所へ、彼女(涼子)が姿を見せた。もう怒ってはいなかった。
「あれ? 涼子さんの出番はもう終わったけど、・・・勝手に出てきちゃって良いの?」
デート用の格好−真っ青なワンピースとシュガーブラウンの革ベルト、それに、何故かファッションというよりも機能性を重視しているかのような大き目の白いハンドバッグ(ファッションとしての見栄えが巧く立っていない。これは、拳ダコを隠すために手提げ部分が太いのを選んだからなのだろうか) 頭には何もつけていない−をしている涼子に向かって、軽やかなステップを踏みながら、右京は訊ねた。
「ウン、別に良いの。打ち上げとか、・・・本当はあるんだけどね、ホラ、今日は私と右京のデートでしょ!?」
フワッと風に靡く髪を抑えようとせず、涼子は答えた。
右京は、軽く鼻をこすり、照れながら
「じゃ、じゃあ、・・・エート、 ・・・さ さあ行こうか」
と、俯いて言った。
「・・・ねえ」
「な 何!? りょ 涼子さん・・・」
「右京って、ボクシングやっているの? さっきのやつ、足、絶対攻撃に使わないっていうか、蹴り技、出すつもり無かったでしょ?」
フフン、と、得意げに涼子は言った。
格闘技を見るのが好きな涼子は、「なんとなく」空手をやってみようとしたのだが、実は“実戦”から落ちこぼれたという経歴があった。それでも、かなり本格的なのを見ることは好きだと彼女は言った。
そのことを聞いて、右京は自分がボクシング界で結構強いことを始めてしゃべった。包み隠さず、すべて、自分より上位にいるヤツのこともバカ正直にしゃべったのだ。 ・・・しかし、彼は言わなかった。自分が、もの凄くおっぱいが好きなことを。巨乳が好きだということを。乳責めが好きだということを・・・。
涼子は、右京の話に興奮して聴き入っていた。
「すっごーーい、じゃあ、・・・ あの、 どれくらい強くなりたいの? 世界 ・・・の、 チャンピオンとか?」
「ヘッ、まあな、やっぱり夢はでっかく持たないとよ。」
落ち着いたフリをして右京は答えた。
しかし、すでに、彼の頭の中は、
「涼子さんと、エッチなことがしたい!」
という気持ちが少なくとも80%は渦巻いており、彼の視線は、彼女が状態をしなやかに揺らすたびにわずかに動くワンピースの胸元の生地にほとんど集中していた。
右京の気持ちを、その下半身に目を留めて、涼子は気づいた。
涼子が自分の下半身に目をやるのはともかく、その視線を外さず凝視してきていることに、右京は気づいた。
(「ヤ ヤバイ・・・」) (慌てふためいて、背・・・いや、後ろ、ではなく、尻を彼女に向ける右京)
顔だけを自分の方に向けてどぎまぎしている右京を見て、涼子は、もの凄く意地悪な表情を浮かべた。
「ねえ・・・う きょ う、 私と、セックス! しようか?」
髪をかき揚げ、瞳を潤ませて、唇をわずかに突き出して涼子は言った。
わずかに右脚を前に出し、左の腰を突き出すように、また胸を前に突き出して背を伸ばし、首を・顔を左に20度ほど傾けるという、モデルがよくやってる悩殺ポーズを右京に見せ付けた。
― プチ ―
右京の頭の中で、理性が、はじけた。―正確には、理性が15%は残っていた筈なのだが、何かの力で、引き込まれるように― その場で、一気に涼子を押し倒した。
「!!!???*+@:。◎σ?!ρ”#!!???」
いきなりのことに、涼子はびっくりし、混乱してしまった。
そして、反射的に反撃に転じてしまった・・・ の だ が。
頭頂部に肘を決められて、意識を失った右京が目を覚ますと、眼前に涼子の顔があった。それで、さっきは何があったのかを右京は全て思い出し、猛然と床に這いつくばって土下座した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!! 涼子 さ ん ・・・ ?」
よく見ると、涼子はオールヌードになっていた。見事な流線形の美しいボディラインが、超一級の芸術作品のように、右京の前にあったのだ。
右京は、彼女に襲い掛かることができずに、キズモノにならないように彼女の体を、舐め回すように観察していった。
「ねえ、さっきとはぜんぜん違うよ?」
ふと声がしたので、顔を上げた右京の目の前には、何やらすねた顔をした涼子が頬を膨れさせていた。明らかに怒っている・・・いや、というよりも、何となく欲求不満のようだ。
「ねえ、さっきは野外で襲い掛かったのに、ホテルの部屋に入ったら大人しくなっちゃうんだ? どうして?」
どうして? って訊かれても、困ってしまう。
第一、さっきは、いやらしい(全身の)貌で迫ってきたのに、今のは、・・・どう見ても、誘っている、というよりは「魅せている・・・いや、見せている ?」わけであり、とにかくじっくりといつまでも眺めていたい気分にさせられる。
涼子は、潤んだ瞳で、唇に人差し指と中指を軽く押し当て、甘い声で囁いた。
「ねえ、お願いだから、私と、エッチ し て・・・」
右京がクラッとしたところへ、止めの一撃がきた。
もう一度同じことを、体を胸を密着させながら、耳元で囁いたのである。
ブチ切れて猛然と襲いかかる右京の頭の中には、
「Dカップおっぱい! 密着してたぞ〜〜〜〜〜〜〜〜」
という、それ以外のことが全く入っていなかった。
続く