サイズ2分の7

クサムラエチル 作
Copyright 2003 by Kusamuraetiru All rights reserved.

 盛夏。裏の雑木林からはミンミンカナカナツクツクホーシオラオラ無駄無駄セミ時雨がひっきりなしに聞こえてくる。
 14才。日向 華名(ひむかい かな)はゆっくりと寝床から上半身を起こした。
 眠たげにまぶたをこする。ややタレ目。可愛いか可愛くないかと訊かれると間違いなく可愛い部類に入る顔。
 夏用な薄手のパジャマに包まれたその胸は、お約束にも大きい。3サイズで一番大きい部分と二番目に大きい部分の差は2倍以上あるだろう。
 パジャマのボタンの上いくつかは閉じれておらず、整った谷間と鎖骨が外気に触れている。
 パジャマの胸ポケットの輪郭は胸の膨らみに沿って楕円を描いていた。中に入れてたメモが山なりに変形していたことがあるのは華名だけの秘密だ。
 思い起こせば二週間前――7月7日。忘れもしない、この日測った華名の性能。
 身長147cm。体重ヒミツ。上から72、53の74。
 貧弱だった。コンプレックスだった。だから生意気に思えるほど澄んだ天の川を直立不動で見上げる笹に背伸びしたのだ。手には短冊。それに記されるは万感の思いを込めた13文字。

『もう少し成長させて下さい。』

 今年の織姫と彦星はよっぽど機嫌がよかったらしい。
 ギネスを塗り替えるサイズの胸をくれたのだから。苦々しい気持ちで華名は庭の笹を見下ろす。
 言っておくと華名の部屋は一階であり、庭の笹はあの日と何一つ変わらずに直立不動で雲ひとつない空を見上げている。まだ短冊も揺れていた――華名の眼下で。

『もう少し成長させてください』
 今年の織姫と彦星はよっぽどご機嫌だったらしい。倦怠期とかはないのだろうか?
 現在の華名の性能。身長530cm。体重ヒミツ。上から570、190の260。
 やたらハイスペックだった。座ってても電車で吊り革を掴める。というか、

『過ぎたるは及ばざるが如し』

 『世界一の長身』『世界一の歩幅』『世界一の巨乳』等々、『世界一ギネスレコードを多く持つ少女』こと日向 華名は、やたらデッカイ小屋の天井に頭をぶつけないように気をつけながら立ち上がるのだった。
 学生である以上(多分)学校にはいかねばならない。
 そして華名は学生だった。
 回りくどい言い方をやめれば華名は学校へ歩いていた。
 夏物の制服(7月8日に起きるとその他もろもろと一緒に枕元に置いてあった)。短めのスカートから伸びる長い――人の身長より長い脚は、これまた人の身長より丈の高い純白のニーソックスで包まれていた。ぴったり脚にあったニーソックスからは足首の細さが分かる。
 足元に気をつけながらゆっくり歩を進める。ただでさえ胸がジャマで足元が見えないのだ。慎重に慎重を重ねて歩く。靴のサイズが一六文の2倍以上ある華名に、無意識にでも蹴られると大変なことになってしまう。
 ――八百屋の政さん、ゴメンナサイ……
 大変なことになってしまった政さんに心の中で謝罪する華名。
 しかし、なにかがおかしい。通勤ラッシュな時間帯であり、大通りである。人通りは絶え間ない。
 が、特に誰も華名を意識する様子が見られない。顔見知りの商店のおばさんは元気よく華名に挨拶してくるし、特に華名を避けて歩く人もない。前述した政さんも『ハハハ、いいってことよ』足の関節を一つ増やしながら快活に笑っていた。
 ギネスに付け加える事項が一つある。『世界一能天気な連中の住む街』
 そんな環境は華名の性格は変な方向に歪まずに済ませた大きな要因。
 一歩踏み出すたびに、二階の高さにある華名の胸が大きくたわむ(華名基準で言うと『わずかに震える』)。地面に落ちた華名のシルエットでもそれは目立つ。
 通学路の途中、若葉マークの乗用車が歩道に乗り上げていた。ドライバーらしき人が脇でおろおろしている。どう運転すればそうなるのか、歩道と車道の区切りのブロックに車体が乗り上げており動けなくなっていた。
「あの、手伝いますか?」
 華名は言った。ドライバーは見上げ、両手を合わせる。うなづく華名。
 車を拾うべく、地面に膝を付ける――スカートの裾が上がる。前かがみになる――胸が強調される。両手の平で車を包むようにして持ち上げ、車道に戻す。
「助かった助かった。いやー、ホントにあんがと」
 走り去る車を笑顔で見送る華名。いらないと言ったが向こうの押しが強くて結局受け取った商品券がその手にはある。ちなみに先日(華名の)目の高さを飛んでく風船をとってあげた男の子からは『将来俺様のお嫁さんになる権利』を受け賜った。
 次の十字路の信号は赤だった。この交差点は複雑で、車用の信号機は赤でも歩行者用の信号は青だったりすることがある。が、ランプの上にひさしのついている歩行者用の信号は立っている華名からは見えないのだった。
 ゆっくりとしゃがみ、視線の高さを歩行者用信号に合わせる華名。ひざ上数十センチのスカートが、整った少女の顔が、夏の日差しに映える肢体が、しゃがみこむポーズが、個人で運用できる限界のサイズの乳が、対面で信号待ちしている市民の体感温度を100℃上昇させた。観測史上マキシマムである。

 交差点から三分。華名は学校に着いた。挨拶を交わしながら足が向かう先は体育館。理由は言うまでもあるまい。
 十日前に華名の3サイズなどを測ったのも体育館だった。思い出す。

 ――十日前。
 華名は下着姿だった。天井まで届かんばかりの身体を包むのは簡素なショーツとブラ、ニーソックス。包まれていない部分、瑞々しく光を照り返す肌がまぶしい。
「ホラホラ、とっととブラも外しなさい。見られて減るもんじゃないでしょ」
 保健委員・寿 遥(ことぶき はるか)が華名を見上げながら言った。右手には計測結果を書き込む紙。左手にはメジャー。ケースB ・ 身体測定を想定した場合のフル装備だ。
「見られて減るもんじゃないけど恥ずかしいよ……」
 頬を赤らめ、華名。更衣室のはしっこで着替えるのが常だった華名らしい反応だ。手は鎖骨にそえる感じで置かれている。
「ったく……そんな立派なもん2つ持っといて恥ずかしいよってアンタねぇ……蹴るわよ」
 語尾に反応した華名は叱られた子犬のような表情で頭を押さえてしゃがみこむ。閉じられた目のふちにはうっすら涙。服装は下着とニーソックスだけ。加虐心を刺激するシチュエーションだ。
 遥はしゃがんだ華名の後ろに廻ると、つま先立ちになって華名のブラのホックを外した。
「ア、アレ……? ふえぇ、遥ちゃんズルいよ」
 気付き、抗議の声を上げる華名。胸を押さえた。
「あーもう! アンタがなかなか脱がないからでしょうが!! ホラ、もう観念してその乳のサイズを測らせなさいこの発育過剰娘」
 息継ぎなしで遥は言った。その剣幕に押され、華名は渋々立ち上がるとブラジャーを抑えてた手をゆっくり離す。片方だけでシーツよりも布地を使っているブラジャーが遥の真上に降ってきてばふっと覆いかぶさった。膨らみは完全に遥を覆う。視界が白に染まった。布地を押しのけようとしてその意外な重さに軽く驚く遥。
「……アンタねぇ」
「ゴメンだよ遥ちゃん」
 苦笑しながらブラから抜け出す遥。視線を上げると、華名の手の平は膨らみにメリ込む強さでピンクの部分を隠していた。手の平で覆い切れていないところ(むしろ多い切れていない部分の面積のほうが大きい)からは弾力性を持った乳房が大幅にハミ出ていた。華名の顔にはまだ恥じらいが残っている。
「よぅし、んじゃ測るわよ、っと」
 脇の壁にかけてたハシゴを華名の側面にかける遥。記録用紙とメジャーを抱えて登り始める。
 ハシゴ一本と人間一人の重さを受けて華名は微動だにしない。今の華名にとってはたいした重さではない。
 遥は華名の胸の高さまで登ると、華名にメジャーを渡す――渡そうとする。胸を押さえる手を離そうとしない華名。
「ちょっと、とっとと受け取んなさいよ!!」
「あのさ、やっぱり身体測定やめちゃだめ?」
「……………………」
「は、測るからその顔は止めてよ」
 おずおずと胸を押さえてた手を離す華名。押さえのなくなった胸がたわみ、上向きの形を取り戻す。遥の手からメジャーをつまむようにして受け取ると、胸に沿って慎重に1周させてゆく。
 メジャーの始点と終点が遥の前で重なった。数値を見て少し考えた遥はいきなり華名を叩く。快音。平手。
「な、何? イタイよ遥ちゃん」
「ごまかしはいけないわね日向 華名。こちとら伊達に4年も保健委員やってないわよ。アンタ私の見えないところできつめに絞ってるでしょ。フツウに測んなさいフツウに。測って減るモンじゃないでしょうが」
「減らせるなら減らしたいよ……」
「口じゃなく手を動かす」
 う〜とかむ〜とか声にならない声でうめきつつも華名は遥の反対側できつく絞ってたメジャーの食い込みをゆるめた。
「よぅし、いい子いい子。人間素直が一番」
 ハシゴに腰を下ろし、遥は数字を記録用紙に書き込む。スカートは捲れ気味だが特に気にした様子もない。
 胸囲 570センチメートル。
 ギネスレコードの生まれた瞬間だった。

 そして現在。体育館の華名である。
 衣擦れの音がするたびに一枚また一枚衣服が床に落ちてゆく。一枚また一枚衣服が床に落ちてゆくたびに華名の裸身があらわになってゆく。前かがみになってスカートを脱ぎ、太ももから足首までニーソックスを下ろす。一時間目は体育、水泳だ。水着に着替えていた。
「……ちょっとキツい……」
 水着の食い込みを直す動作は初々しい。水着に着替えた華名は、開けた胸元を気にしつつ器材搬入用の大扉をくぐり、プールへと向かうのだった。

続編募集中