すえぜん〜おかわり〜

クサムラエチル 作
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 秋の夕暮れ。略して秋れ。なんじゃそりゃ。
 街灯がつきはじめる時間帯。空き地からは虫のオーケストラが響きはじめる。
 神代 美春(かみしろ みはる)は洗面器を小脇に抱えて道を歩いていた。目指すは銭湯『太平洋』。
 二日前、美春の家の浴槽が爆発した。比喩でなく。ボイラーが天寿をまっとうする前に一花咲かせたのだった。風呂場の大規模改装が終わるまでの間、美春は銭湯通いを続ける予定。
 肩の辺りがカットされ、左右の腕と胴体に3分割されてる服。クリーム色の布地が薄闇に映える。胸の膨らみから腰のくびれ、尻の丸みへと淡く身体のラインが薄闇に浮き上がっている。ニーソックスの上端と、スカートの裾の間からは太ももが露出している。
 普段なにを食べてるのか、疑問に思わずにはいられないような左右の膨らみは、服に締め付けられ窮屈そうにしている。
 街灯の下を通るたび、胸の辺りに寄ったシワに影が落ちる。

 十字路を右に曲がり、T字路を左に曲がり、交差点を右折する。
 美春は銭湯『太平洋』に着いた。靴を脱ぎ、番台の上で座布団に腰掛けているババさまに250円を払う。ババさまというのは番台歴99年の番台 オブ 番台であり、毎日温泉に入っているおかげで20才は若く見える120才の古強者だ。
 美春は女湯へのれんをくぐる。のれんの奥、四枚翅の換気扇が空気を掻き回している。
 脱衣場には誰もいなかった。

 暖房をかけるほどではないが肌寒い。風邪には注意しなさいよと母から言われたことを思い出し、うなづく。風呂への入り口近くのカゴに手早く服を脱いでいく。腕がスカートを下ろし――前かがみになる。左右の袖を外し――胸の前を横断する腕が胸にめり込んだ。ニーソックスをくるくる丸めながら下ろしてゆく――膝が胸にめり込んだ。意識的か無意識的か胸を覆う部分を脱ぐのは後回しに後回しになっている。
 今の美春の格好を記述すると、上半身は丈が足の付け根までのノースリーブ。下半身はショーツだけであり、かなり刺激的である。
 ノースリーブを脱いだ。合うサイズのものがなく、下着はつけていなかった。布地に抑えられていた胸が飛び出すようにあらわになる。いままで服に収まっていたのが不思議なほどのボリュームの胸は、たわわに実ったという表現がよく似合う。
 窓拭きをしたならばガラスに胸が擦れそうなサイズの胸を見下ろし、嘆息。胸はつま先も見えないほど視界をふさいでいた。人差し指と中指2本分の横幅より大きい直径の乳輪と、その中心の突起。
 ショーツに手をかけ、静かにおろしてゆく。

 産まれたまんまの姿の美春がそこにいた。
 プラスチック洗面器に入浴用具一式をいれ、くもりガラスの引き戸を開けた。昨日の大失敗の経験を生かし、慎重に踏み出す。
 昨日は水に足を滑らせ転んでしまった。手を後ろにつき、足を広げた姿勢で注目を集めてしまい、赤面したものだ。今でも思い返すだけで顔が火照る。
 湯煙の漂う空間、点々と他のお客が見える。当然ながら誰も美春より大きい胸を持つように見えない。美春はあまり人目のつかない隅っこを選び、シャワーと蛇口付き鏡のひとつに腰を下ろす。
 ガラスの曇りを手で払い、鏡に映った自分の姿に視線をやった。童顔気味の顔はもう少し大人っぽくならないだろうかと少し考える。だが、それは小さな悩みだった。首の下のわずかな隆起――鎖骨の下には常識はずれの膨らみに比べれば。肩幅より横幅があり、へそのすぐ上にまで迫る双丘の非現実なまでの大ボリューム。鏡に映った自分を客観的に見て、普段自分はどう見られているかを再認識した。せめて既製品の下着が入るくらいには小さくならないものかと思った。
 洗面器にお湯を張り、濡らしたタオルを石鹸で泡立てる。充分泡立ったところでお湯からタオルを取り出し、身体をあますところなくこすり始めた。ろっ骨の辺りを洗うときは胸を押し上げて洗う。胸を洗うときは、タオルの動きにあわせて柔軟に変形する胸が鏡に映った。
 身体を洗い終わると、時間をかけて淡い朱の髪を洗った。洗い終わり、タオルをターバンのように使って髪を上にまとめる動きの時、胸が前に張った。
 湯船へ向かって歩き出す。周りから「立派ねぇ」とか「ウワァ」とか「ウシ!?」とかなコメントが漏れ聞こえるが聞こえていない振りをする。
 浴槽に身を沈めた。胸が、浮かび上がる。上から腕で押さえ、顔サイズの膨らみをお湯に沈める。胸は押さえられて沈むが、美春の腕を下から浮力で押してくる。
 その感触は中に小麦粉を詰めた風船のよう。ただしこちらは絶対に破れない。
 ――ぅー。なんで男の人って大きいおっぱいが好きなんだろう。
 改めて膨らみを見た。人がいるところだとほとんど常に視線を感じる膨らみを。
 そう言えば見られると大きくなるとかいう話があった。あきらかに嘘っぽいが、もし、万が一、本当だとしたら自分はこれからどうなるのだろうか。お湯の中で背筋が冷たくなった。
 優越感などはなく、胸の成長はどうしようもない。
 だんだんと温まってくる身体。気持ちいい。疲れが(特に肩の)お湯に溶けていく感じがする。意識がやわらかくなってきた。
 背中から距離をつめてくる影。そーっと、そーっと。
「ロックオーーンッ!」
 美春は背中から影に胸をわしづかみにされていた。五指を広げている手だが、美春の乳房を覆うには遠く及んでいない。
 胸の弾力の抵抗をものともせず、十本の指が美春の胸の上でめり込むように蠢きだす。指だけでなく手のひらも美春の乳房をこねるように動き始めた。圧倒的柔らかさで動きを受け止め、いびつに歪む白い胸。
「エッ? えッ? ア?」
 混乱しながらも美春は首を後ろに回す。見慣れたクラスメイトの顔がそこにあった。
「ちょっ、晶ちゃ…………やぁぁ」
「ここかぁここがええのんかぁ」
 晶と呼ばれた少女は、美春の反応を愉しむ様な余裕を声ににじませつつ、慣れた手つきで胸を揉み続ける。あえぎ一歩手前の声が銭湯に響いている。美春の背中から胸へと伸ばされた晶の腕は、肘で直角に曲り、L字型になっていた。
 美春と晶、互いの身体は汗とお湯で濡れている。動くたびに雫が跳ねる。
 晶は、指の腹で胸を押した。玄関チャイムを押すときの強さ。押し込まれた指の腹を中心に、すり鉢状に丸くへこむ胸。指を外に引くと、指に吸いつくように脂肪が付いてくる。
 美春は自分の胸を弄ぶ晶の手に自分の手をからませ、どうにか引き離そうとする。
 その動きを察した晶は、引き離されまいとおもいっきり腕を組んだ、美春の胸の前で。
「ンァアッ!」
 美春の胸の中心ラインに深く食い込んだ晶の腕は、上下から脂肪に挟まれている。晶の腕の下では、中央の突起が胸にめり込んでいる。
 小さな声で小動物のようにうなりながら自分の胸に食い込んだ腕を外そうとする美春。その頬は赤い。晶の腕は外れない。
 晶は、組んだ腕を大きく前後に動かす。お湯が潤滑油となって滑らかに動いた。
 動きに合わせてたわむたわむたわむたわむ。
「もぅ……や……て……」
 美春の手に込められる力が弱まっていく。美春の呟きは晶に届かなかった。伝わるのは荒い息遣い。その息遣いと胸の大きさ柔らかさに晶の興奮も加速度的に増してゆく。美春の胸の弾力がわずかに増してきた。
 ――お?
 晶は気付く。組んだ手の下で、小指の先端が、美春の胸の先端に触れている。それなりに固くなっていた。根元をこするように、小指を動かしてみる。
「クぅッ」
 美春の背中が電気を流されたかのようにのけぞった。ひとこすりで一気に固く大きくなったのが感触で分かる。
 ――相変わらず感じやすいんだ。
 晶は穏やかに微笑むと、小指を繊細に動かして美春の乳首を更ににいじり始めた。たまには銭湯に来てみるものだとつくづく晶は思った。
 突起を指の腹で押し潰す。薬指と人差し指の間に挟む。小指でせりだした突起の根元をゆっくりと一周させ、乳首を掘り起こすように胸の奥に指を差し込んだ。気のせいか、わずかに指がぬるぬるしている――お湯ではない感触。
 美春は哀願した。
「お願い…………やめてぇ」
「全会一致で棄却します」
 挙国一致で晶は手を休めない。組んでいた手を解き、広げた手の平で美春の胸を下から持ち上げた。美春の抵抗もどこか弱々しい。
 美春の乳房の自重で、持ち上げるだけで勝手に晶の指が埋まってゆく。指の厚みより深く埋まった。
 晶は指の何本かを、胸に刺すように一度に押し込んだ。
 あえて擬音にするならズリュズリュという湿った感じに、奥へ奥へと先端が挿入されてゆく。
「痛ッ!……うぅ」
 根元まで入ると、今度はゆっくり引き抜いた。
「アァ、ウゥンッ!」
 肉壁が挿入している部分を締め付けてくる。
 指である。あくまでも。
 晶の指はピストン運動を休めない。
「うゥッ………………ハァ、ハァッ、…………やめ――て…………ンッ……………………ィタィ…………ァァッ……アァッ……熱、い…………いやァ…………もう、も、う………………これ、以上、は…………おね……が、ぃ……ン、アァ、アぁアア!」
 きれぎれの呼吸で,長い長い愛撫を受けていた美春の背がのけぞり、一気に脱力した。晶はようやく手を離し、美春と距離をとる。
 湯煙の少し奥、美春は脱力し、湯船のへりを強く握り締めることで体勢を保っていた。形のいい尻を晶に向け、肩を使って息をしている。頭に巻いていたタオルはいつの間にかずれ落ち、美春の脇に浮かんでいた。お湯を吸った髪はひろがって、肌に張り付いている。お湯の珠が、背筋を滑るように流れていった。ゆっくり肌に溶けてゆく。
 美春は、弱々しく太ももをこすり合わせていた。端に涙が浮かんだ瞳は半分ほど閉じられ、その頬はほんのり赤い。肌色と、髪の朱と、肌色と。
「ウワ…………」
 その光景に晶は息を呑んだ。防水カメラを買っておけばよかったと深く後悔する。
「ゥーーー」
 美春が、責めるような視線と声で小さく鳴いた。晶は思う。
 ――まったくこの可愛いったらもう。
 再び抱きしめたい衝動に襲われる。打ち勝った。嫌われては元も子もない。

 どうでもいいがここは銭湯である。さっきの美春の声は反響して壁を越えて隣の男湯まで響いていた。現在男湯では怪しげなエナジーが全開放出されており、どうしようもないくらい温度が上がっている。たまに雄叫びというか奇声が聞こえてくる、が。所詮どうでもいいことである。

 水をためた竹筒が、石を叩くような空洞音が聞こえてきそうな間。

 湯船に身体をしずめ、二人は向かい合っている。晶は自分の大平原を見て、美春のウラル山脈を見て、神さまは不公平だと思う。
 戦車は被弾の可能性の高い前面の装甲が一番厚い、という話を晶はなぜか思い出した。そう考えると美春の身体は軍用なのだろうか? 確かに男やもめの最前線に投入されれば破壊力は超絶だろうが。
 唐突にからかいたくなった。晶は美春に声をかける。
「また胸大きくなった?」
 奇襲の一言。瞬間、美春は首筋から耳の先端まで赤くなる。手を交差させて胸をかくし、お湯にあごの先が触れるまで身体を沈めた。小動物じみた上目遣い。
「ななな、なにを急に言うの!? ……大きくなってないよ」
 ――分かりやすい、分かりやすいわよ美春。
 しかし、こういうことは自分で認めさせてこそ価値があると晶は考える。常駐思考を乙型に切り替えた。
「なーんだ私の勘違いかあ。ところでねぇねぇ美春、今日の朝はなに食べたの?」
「え、急に……ええと。ご飯と、目玉焼きと、お味噌汁と、ウインナーと……」
「普通だわねぇ(それでどうやってここまで育ったんだか)。この前の数壱のテストは何点だった?」
「あれは……88点」
「ウワ、それイヤミ? イヤミなんでしょ? 30分の時間をつぶさなきゃいけない時はなにをする?」
「えっと、ゲームウォッチをやるよ。2回くらいできるんじゃないかな?」
「………………牛乳を飲むと胸が大きくっていうのはホントだと思う?」
「多分…………本当」
 晶、小さくガッツポーズ。
「美春の血液型は?」
「O型。お母さんと同じ、なんだ」
「なんか嬉しそうね。まぁいいや。アレスター・クロウリーと鳥山石燕の共通項を次のキーワードを使って400字以内にまとめなさい『アニミズム』『ロボット三原則』『蛇もリンゴもない天国』」
「わ、わからないよそんなこと」
「で、先月から数えてどのくらい胸大きくなったの?」
「2センチ……! あ、うぅー!」
 美春は伏し目になる。晶はしたり顔。
「ずるいよ……」
「2センチも……一体なにが詰まってんのその淫らな膨らみには?」
「み、淫ら?」
 美春は手で胸を隠すが、覆い切れない部分の胸が手からはみ出る――淫らだ。

          ムダコラム(読み飛ばし推奨)『球の体積』
    円周が20,22,24,26の球の体積を比べてみたい。
    円周率は3.14.小数点は第四位以下を切り捨てる。

   円周20の球の体積=135,141
   円周22の球の体積=179,965(+44,824)
   円周24の球の体積=233,56 (+53,595)
   円周26の球の体積=297,077(+63,517)→円周20の球の2,198倍

                  結果発表
     大きいものが1単位大きくなるには、小さいものが1単位
   大きくなるよりもたくさんの体積が必要なことが分かった。
     だからどうしましょう? 

 美春はスネてしまったようだ。頬をふくらませ、無言で湯船に顎までつけると、晶に背中を向ける――背中からみても、胸の曲線は確認できた。晶もそれ以上は何も言わなかった。
 静かな時間が過ぎてゆく。身体があたたまってゆく。30分がたった。
「晶ちゃん……そろそろお風呂からあがらないの?」
 晶に背中を向けたまま、美春が口を開いた。その顔は湯気が立ちそうなほど赤く、答える晶の顔も赤い。二人とものぼせかけているのがよく分かった。
「私は美春の火照った肢体がお湯をしたたらせながら立ち上がって湯船を乗り越えての時の太ももの内側のチラリズムとか谷間を流れ落ちてゆくお湯なんかを見届けないとあがらないことに決めてるのよ。さぁ、分かったら美春は上がって。早く!!」
 なぜ親指を立てる。
「……絶対いやだよ」

 どこかでゴングが鳴った。ような気がした。
 10分。
 あたたまるが極まって全身が熱い。指先の感覚が太い。ずっと天井を見続けていたくなった。
 20分。
 思考力がぽんぽこぴーになってゆくのが分かる。今なら水と同量の金塊が同じ価値だ。自分の目がウズマキになって回っていないか少しだけ心配だ。
 30分。
 もうなんでこんなことをやっているのかよく分からなくなってきた。ゴリラは人類から進化したんだ。間違いない……もう駄目な気がすごいする。それでも先にお湯からあがってはいけないと思う自分がどこかに確かににいる。段々と、意識が、もうろうと、とおのいて…………視界が

 30分57秒。
 晶と美春は同時に意識をなくして倒れた。ダブルノックアウトだった。

 白い光が目に入る。美春はゆっくりと目を開けた。
「!」
 場所は銭湯・太平洋の更衣室。これはいい。横長の椅子にシーツ代わりにバスタオルを敷いた上に美春は寝かされていたのだった。――下半身はハンドタオルを横にかぶせたトップレス状態で。
 あお向けに寝かされていた美春の胸は、自分の重さで歪んでいる。
 ひやりとした外気になぶられ、ピンク色の突起はかすかに硬くなっていた。
 冷えていた身体が一気に火照る感覚。わけも分からす立ち上がり、下に敷かれていたバスタオルを身体に巻きつける。
「?」
 枕元に置かれていたルーズリーフに気付く。黒マジックで特大の文字が書かれている。
  『目の保養になりました 晶』
 とっさに辺りを見回す美春。しかし、趣味がちょこっと変なクラスメイトはもう銭湯にはいなかった。美春は知らないが、家で現像をしているはずである。防水でない使い捨てカメラで撮ったトップレスで横たわる美春の肢体を。美春の意識がないのをいいことに、手足を動かし、色んなポーズをさせては撮影していったのだった。

 美春は、ため息をつこうとして、
「クチュン」
 くしゃみが出た。裸同然で寝かされていた美春は、風邪を引いたようである。この風邪が悪化して病院に美春が行くのはまた別の話だったりする。

  TO BE CONTINUED 『すえぜん』