執事のお仕事

黒猫大和 作
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 皆様、こんにちは。
私、この度オペレーターを担当させていただきます、神楽家ご息女、沙織お嬢様専属の執事で御神 歩、と・・・・って、これまた書く必要あるのかな?
そのときの必要な事項を書いていけばいいんじゃないの?
・・・だめ?わかりましたよ。
というわけで、以後お見知りおきを。

 今回は午後のお仕事(主にお掃除)についてです。
というわけで、お嬢様の部屋に入ります。
お嬢様の部屋の備品は、どれも高価なもの(お嬢様曰く、使い勝手がいいだけ)ばかりですので慎重にしなくてはなりません。
掃除は、高いところがやっていくというのが定石です。
お嬢様は読書家ですので、まずは本棚の上からホコリを落としていきます。
〜〜〜中略〜〜〜
 ウール製のカーペットは、お湯を使わず冷水に洗剤と塩を少量・・・
〜〜〜中略〜〜〜
 さて、残りは机だけですね。
とりあえず本関係の間のホコリを・・・って「きゃぁ!」
ドサドサドサッ・・・・
 やっちゃいました。。。
急いで直さないと。
と、片付けようとしたところで一つのノートが目に入りました。
日記帳のようです。
こういうのはお嬢様のプライバシーに関わることなので・・・
関わることなので・・・
か か わ る こ と な の で ・ ・ ・
見ちゃいましょう。

○月○日 (晴)

 今日、面白い人を見つけた。
今日、爺が私専属の執事を決めるらしい。
どんな人たちが来ているんだろうと思って、ちょっと覗きに行った。
部屋の扉を開けたら、目の前に人がいて思いっきりぶつかってしまった。
私より少し年上な感じの女性。
私の真下に倒れていたので、あわてて立ち上がって声をかけた。
何とか意識は合ったようだけど、私のおっぱいにぶつかってしまったのだから、結構きいているのかもしれない。ぼーっとしている。
話を聞くと、面接に来ていた人らしい。
なのに爺は「執事は男性の仕事だから」といって断られたそうだ。
それにこの人自身、聞くとかなり複雑な事情の持ち主らしい。
こんなに美人なのになぁ。私の姉になって欲しいくらい。
 そこで私は一つの案を思いついた。
この人を『執事』として雇うのだ。
爺に向かって、この人を執事にすることを言ってあげた。
その場にいた皆がびっくりしてたけど、一番びっくりしていたのはこの人みたい。
唖然として立ってるんだから。
 こうして私は、この美人なお姉さんを執事で雇った。
この人、見た目よりおっちょこちょいみたいで愛嬌がある。
知れば知るほど面白い。
これから、楽しくなりそう。

「・・・沙織お嬢様・・・」
思わずつぶやいてしまいました。
あのとき、お嬢様がこんなことを考えていたなんて知りませんでしたので。
確かあの時は、
「ちょっと、御神さん?この散らかりは何ですか?」
「わっ!」
振り返るとそこには榊原さんがいました。
結構お冠かもしれません。
「ごめんなさい、すぐ片付けますから」
「しっかり頼みますよ、仕事はたくさんあるんですから」
よし、さっさとお掃除を終わらせないと。
あわてて仕事に戻ります。
 しかし、あの日記を見てしまい、私はどうしてもあの日のことが頭から離れませんでした。
そう一ヶ月前の、面接の日のことを。

「えーと、執事の募集の話を聞いてきたものですが」
「はい、それではこちらの部屋でお待ちください」
目の前には、想像もつかない大きな応接間。
私はあまり落ち着かなかった。
こういう大きい部屋はいままで入ったことがなかったからだ。
 住み込みで出来る仕事の話を聞いて、すぐに応募した。
今日は面接の日。
住み込みの仕事というのはホントにありがたい。
帰る場所がないあの辛さは、もう味わいたくないしね。
にしても一応、男として応募したけどいいかなぁ。
力だって負けてないつもりだし、運動は得意なほうだった。
男物っぽい格好だし、大丈夫。きっと受かる。
 コンコン、とノックの音がして、初老の髭を蓄えたおじさんが入ってきた。
「君ですか、執事の仕事をやりたいという人は」
「はい。よろしくお願いします」
第一印象はよし。
「さて、早速だが今回の執事募集は特別なもの、ということはご存知かな?」
「・・・いえ、初耳です」
「今回は、この神楽家のお嬢様専属の執事を募集していたのだ」
「専属・・・ですか?」
「うむ、お嬢様がこのたび16歳を迎えられたので一人専属のものをつけようとしたんだが、お嬢様が屋敷の者では嫌だと言い出してな、急遽募集していたのだよ」
「はぁ」
「でだ、採用の件なんだが・・・・君は不採用だ」
一瞬何のことか分からなかった。
「へ・・・不採用・・・・な!なんでですか!?」
「君。男装しているけど、女性だね?」
「う」
「伊達に年はとっていないよ。それに男にしては、胸が膨らみすぎているし線は細い」
ばればれだったか。
「で、でも、募集には男のみとは」
「書いてはいなかったが、執事とは男の召使のことをさすであろう?」
「でも」
「残念だが・・・」
一瞬の間。私は観念した。
がっくりと肩を落として、一礼して扉に手をかけた。
コレでまた明日から仕事を探さないと。
またあの辛い日々が始まるのか。
 明日の光が見えなくなってしまっていた。
かちゃりと扉を開ける。
「え?きゃっ!!」
目の前に、巨大な球体みたいなものが道をふさいでいて自分に覆いかぶさってきた。
そしてそのまま倒れこんでくる。
転地がさかさまになったような感覚。
何がなんだか分からなくなる。
顔にはずっしりとしながらも、柔らかく暖かい感触が覆いかぶさっている。
重い。苦しい。でも、どこか気持ちいい。
 危うく昇天しかけたところで、その球体の持ち主が私の上からどいてくれた。
懐かしく感じる空気の匂い。
 私は、その巨大な球体の持ち主を見て唖然とした。
そこには西洋人形のようにきれいな金髪蒼眼の女の子が立っていたのだ
そしてその女の子の体には、少女の体から大きく前や横にはみ出している胸があった。
あの感触は、信じられない大きさのおっぱいだったのだ。
私は、その大きさにしばらく頭が働かなかった。
 するとその女の子が心配した表情で声をかけてきた。
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
少女の顔がかなり近づく。良い匂いがした。
私は顔が赤くなってしまった。
「・・・え、ええ。大丈夫」
「本当ですか?ああよかった。・・・あなた、今日面接に来た人?」
「?そうだけど。・・・今落とされちゃった。執事はやっぱり男の仕事だしね。また、明日から仕事探さなくちゃ」
帰る家のない孤独な生活の恐怖が、徐々に私の心を覆い始めた。
「そうなんですか・・・なんで、女性なのに男の方の格好をしてらっしゃるんですか?」
「ああ、それは・・・」
 なぜだろうか。
この女の子に、きかれると答えなくてはいけない、そんな風に思えてしまい、聞かれたことすべてに答えてしまった。
親が戦争で死んでしまったこと。
今、仕事は男のほうが給料がいいから、男と偽って仕事をしていること。
前の仕事で、女ということが問題になってクビになったこと。
帰る家がないから住み込みの仕事を探していること
今回も男じゃないからって理由でまた仕事がもらえなかったこと・・・
 すべてを聞くとこの女の子はしばらく考え込んで、初老の男性に向かって惚れ惚れするくらい透る声で高らかに言った。
「爺!私決めたわ。私の専属執事はこの人にする!!」
一瞬何を言ったのか理解できなかった。
「え?!・・・しかしお嬢様!執事というのは、男子たるものの仕事であって・・・」
「いいの!この人は執事として雇われにきたのだし、私はこの人を執事として雇いたいんだから」
「う・・・ぬ。かしこまりました。お嬢様がそういうのであれば、この女性をお嬢様の専属執事として雇いましょう」
そんなやりとりを唖然としてみる私に、女の子は声をかけてきた。
「おめでとう。これであなたは私の専属執事よ。・・・あなた、名前は?」
やっと状況を理解した私は涙目になりながら答えた。
「・・・御神・・・・歩です」
「歩、ね。今日からよろしくお願いするわ」
こうして私の専属執事としての生活が始まった。

 あれから一ヶ月。
私はこうして執事生活を送っている。
帰る場所がある。
大切な人の世話をしている。
私は幸せなのだろう。
 すべてはこの仕事を与えてくださった、お嬢様に感謝しなくては。

はっ!いけない。
もうすぐお嬢様がお帰りになる時間です。
お出迎えに行かなくては。

門の前にお車が到着します。
中からは、お嬢様がゆっくりと出ていらっしゃいました。
「おかえりなさいませ」
「うん、今戻ったわ。お出迎えご苦労様」
これもすっかりいつもの風景となっています。
しかし、今日のお嬢様は心なしかかなりご機嫌なようです。
その大きな胸も、(いつもより)弾んでいます。
なにか嬉しいことでもあったのでしょうか。
夕食後にも聞いてみましょう。

若干昔話をしてしまいましたが、以上がお昼の仕事です。

コンコン
「はい」
 昼の分の日誌をちょうど書き終えたときに、私の部屋をノックの音が響き渡った。
「御神さん、お嬢様のお食事の用意が出来たのでお呼びして来て」
榊原さんが用件をさっと述べる。
「はい、わかりました」
広い廊下を歩いていく。
とにもかくにも、私は今この生活を楽しんでいる。
それでいいのだ。
 お嬢様の部屋の前に立ち一呼吸をつく。
コンコン
「お嬢様、夕食の準備が出来たそうです」
「そう、わかったわ」
中から聞こえてくる声。

私は今、大切な人の世話をしているのだ。