天龍の乙女

クルルァ 作
Copyright 2007 by Kururua all rights reserved.

第一話「突然の変貌」

天界…
天界の性格ブロックにて、性格の神が沢山暮らしていた。
その中の一人、タンバーンは神々を指揮するリーダーだ。
神様らしい白く長い髭が特徴的な性格の神。今日、彼は大仕事のためにてんてこ舞いしていた。
「ふー、こんなことなら準備をサボるんじゃなかった…。」
流石に老いた体では全ての仕事をこなせないので、弟子たちに手伝ってもらっている。
ようやく準備を終えたタンバーンは一息おいて下界への覗き穴からあるチャンスをうかがった。

一方、ここは天龍町。都会化の進んでいる最中である片田舎だ。
その町に威風堂々とそびえたつ大きな高校があった。天龍高校だ。
一世紀以上続いた歴史ある名門校、天龍高校に今日も通っている一人の男子生徒がいた。
名前は氷上 重信(ひかみ しげのぶ) 天龍高校1年生だ。
6月になってみんな学校にも慣れ始め、一部には服装の乱れで注意を受ける愚かな生徒も現れだしていた。
重信は物静かで、大人しい男だ。それでいて礼儀正しく、悪を嫌う正義の少年だった。
実は最近、何故かこういう正しい心を持つ者が少なくなってきている。天龍町に昔から住んでいる老人はみな、その有様に呆れ返っている。
しかし、老人ばかりが呆れているわけではない。一部の若い人自身が疑問に思っていることもあるのだ。
重信も例外ではなかった。昨日16歳になった少年にしては珍しく最近の若い人は礼儀を知らないと考えている。
特に若い女は節操が無い、と断言する。彼は若い女というものが大嫌いだった。…一人を除いては。

「重信くーん!」
後ろから聞こえる黄色い声。振り向くと、足踏みのたび揺れる二つの物体・・・ではなく、その乳房の持ち主である女子生徒だった。
彼女の名は市島 奏(いちじま かなで)。1年生にして94センチの巨乳を誇る天龍高校のマドンナだ。
顔立ちだって美少女でも美女でもどっちでもいい、それでいて美しく可愛らしい。
外見だけではない。性格も優れている。優しく慈悲深い、清楚な乙女である。重信にとっては珍しい存在だった。
女嫌いの重信も奏に対しては友好的だ。二人は肩を並べて歩いた。
「ねぇねぇ、重信くん。昨日贈った洗剤、使ってくれた?」
「あぁ、早速使わせてもらったよ。ほら、このシャツの匂いを嗅いでみな。」
「あぁん、いい匂いぃ。やっぱり『ボオノレド』にして正解だったね。」
普通なら誕生日プレゼントに洗剤を贈られたら嫌がらせにしか思えないが、心の広い重信は奏の気持ちをしっかりと理解しているため、洗剤でも惜しみなく使ってあげる。
奏の方は、お小遣いの概念がないため誕生日プレゼントを自費で買うことが出来なかった。そのため、親に懇願して家にあった洗剤をプレゼントしたという。
とりあえず、人間として完成しきった二人は周りからお似合いだと冷やかされるほど仲が良かった。

「おいおい、朝から二人でイチャイチャしないでくれよ。」
またまた後ろからの声。今度は男の声だ。声の主は柏原 御影(かいばら みかげ)。
重信と同じく大人しく礼儀正しいが、一度喋りだすとなかなか止まらない男だ。
奏は「いやぁん、そんなんじゃないのぉ。」と顔を赤らめた。
重信はその言葉をスパッと否定する。
「あのさ、俺らは昔からのダチじゃないかよ。いつから友達以上の関係になったんだ?え?」
「冗談だよ、冗談。でも、重信と奏は本当にお似合いだと思う。」
御影も最近の若い女には節操が無いと呆れていた。唯一の例外である奏も重信のお嫁さんにした方がよいとばかり一歩譲っている。
重信と御影と奏は幼い頃からの幼馴染だ。共に笑い共に泣き、一緒の時間を共有してきた最高の友達・・・。
「御影、冷やかすのはやめてくれ。俺みたいな男に奏のような素晴らしい女性は勿体無いよ。」
「フフッ、でもお前はかなりのいい男だぜ。な、奏。婿さんは礼儀のいい男に限るよな?」
「う、うん…。重信くんのような・・・。」
はっ!とばかり奏は重信に対して顔を背けた。
「あ、あたしったら・・・何言ってるんだろ・・・。」
しかし重信は照れる素振りすら見せない。二人を注意する。
「おいおい、二人して冷やかすな。奏ぇ、お前自身のことでもあるんだ。婿さんは慎重に選べよ。」
期待はずれな言動に奏の頬が一気に冷め、代わりにぷーっと膨れた。
「もう・・・。重信くんのウブ・・・。」

休み時間の楽しみといえば皆で談笑することだろう。授業の終わりの礼が終わればすぐに友達同士が集まる。
大人しい重信達もたまに集まるのだ。御影、奏に加えてもう一人、青垣 広大(あおがき こうだい)がいつものメンバー。
広大は俗に言うデブオタ、つまり文字通り太ったオタクだ。女子の殆どから敬遠されているが、二次元萌えの彼にとってはそんなの関係なくオッパッピーという調子だった。
話題は広大の好きなアニメや漫画、エロゲーの話が中心だ。重信達が振った話題で話が進むのは極稀である。
それでも彼の楽しそうに話す様子から、「萌え」を分かち合っていた。でも、何故彼らはデブオタの話を聞いてあげられるのか。
重信達は広大の意外な内面を知っている。それは、とても優しい所だ。
困っている人がいたら直ぐに助けてやる素晴らしいボランティア精神を持っている。しかし不幸にも人からは
見た目だけで敬遠されているので広大の優しさを知らない者は多い。それどころか、犯罪者と決め付ける輩まで存在するのだ。
重信達にはそれが許せなかった。しかし広大はその逆境にも負けずに力強く生きている。
・・・とりあえず、四人が楽しく話をしていたという所だ。
「でさぁ、やっぱり箕面たんのブルマーと言ったらさ、ほらほら、ここに・・・」
広大は広げた本に書いてある体操着姿の美少女キャラを指差しながら萌えるワールドを展開している。
そんな時、傍らから女子の声が聞こえてきた。
「うわぁー、キモガキと話してるよあの三人。勇気あるねー。」
重信は真っ先に声のする方向を睨んだ。声の主は麻原という女子生徒だった。
麻原はB組で最も口の悪い女で、何でもかんでも悪口を言う嫌な奴。特に広大に対しては「キモガキ」という蔑称を広めるほど嫌悪している。
重信は「またお前か・・・しつこいんだよ。」と言いたそうに舌打ちをした。麻原は罵りの矛を重信に向ける。
「氷上、アンタも十分キモイね。」
「何がだ。」
「そのキモガキと話をしていることがキモイんだよ!柏原も市島も!キモガキなんかと話をするなんて、将来はバキュームカーの人にでもなるの?」
重信も負けずに言い返す。彼と麻原はしょっちゅう喧嘩になるので、天龍一年最悪のコンビである。
「その言葉、そのままお前に返してやる!見た目が悪ければ汚物同然というお前の目が一番気持ち悪いんだよ!」
「あーそう、でもアンタの方がもっとキモイ!わざわざ略さずに『気持ち悪い』と言うなんてジジ臭いにも程がある!」
「どう言おうと勝手だろうが!若者だから若者言葉を使えってのか?じゃぁ、お前も女だから女言葉使えよ!」
「まぁ、酷い!男女差別ぅ!?きんもーっ☆」
「ぐぐぐ・・・」
重信の顔には墓穴を掘ってしまったと書いてある。そんな表情を浮かべた。麻原は勝ち誇った表情で重信にこう吐き捨てる。
「氷上、悔しかったらまたアタシと話をしてやってもいいよ。フンッ。」
麻原が出て行くと、重信は広大の方を向いて謝った。
「ごめん・・・。あのバカ女を言い落とせなくて・・・。」
「べつにいいさ。ああ言われるのは慣れてるし。」
御影や奏も重信を慰めた。
「重信、よく頑張ったな。でも、お前すごいよ。あの麻原と口喧嘩出来るから。」
「そうだね。これで重信くんは8勝9敗。負け越しちゃったけど、麻原に8回も勝てるなんて凄いよ。」
重信は照れながら頭を掻いた。

昼休み…
重信は弁当を済ませると、すぐに机に身を委ねた。
実は4時限目の授業中に眠気に襲われたのだ。居眠りは免れたが、眠気に耐えることに夢中で話が耳に入らなかった。
次の授業もあのようになったらまずいので、今のうちに眠ってしまおうという魂胆だ。
目を閉じていると、横から話し声が聞こえる。そんな事はお構い無しだ。
女子の高笑いが聞こえると、少し不愉快になった。
「全く、男がいるということぐらい自覚しろよ・・・。」
そう考えながら、重信は自分の両腕の中、うつ伏せになって眠りについた。
一方、女子の集団では、奏の恋愛話でもちきりとなっていた。
「奏ってさぁ、好きな人いるの?」
「もう・・・そればっかりぃ。その話は終わり。」
「へへーん、アタシ、知ってるんだぁー。あの子でしょ?」
指差した方向には教室の中でぐっすりと眠っている王子様がいた。奏は慌てて否定の言葉を発するが、墓穴を掘るだけだった。
「やっぱり奏は氷上のこと好きなんだ、好きなんだぁー!キャハハハ!」
「ち、ちがうちがう!違うのにぃ!」
「ほらほら、王子様の寝顔を見るチャンスだよー!」
女子たちに押されて重信の席へずりずりと移動してしまった奏。一人が意地悪く奏に囁く。
「今なら大安売り。王子様を犯すことが出来ますよ。」
「そ、そんなことしたら重信くんに嫌われちゃうよぉ。」
「ふーん。でも寝顔は見せられるでしょ。王子様の寝顔を見せてあげるから、感謝しなさい。」
そう言って少女Aが重信の頭に手を伸ばした。徐々に徐々に伸びていく魔の手が重信の後頭部を掴もうとしたとき、魔の手がピタリと止まった。
「ちょっと何やってんの。さっさとしなさいよ、奏さんがイラついてるぞ。」
「い、イラついてないよ・・・。ねぇ、もうやめようよ。」
「・・・・・・氷上くんの髪の毛が。」
「えっ?」
突然出てきた意味不明な単語に全員が一斉に声を上げた。
「ちょ、なになに。」
「氷上くんの髪の毛が・・・・・・段々伸びていく!」
「まさか・・・・・・あっ!」
見ると、重信の髪の毛がゆっくりゆっくりと伸びていってるではないか。
伸びて伸びて、最終的に腰の辺りで止まった。腰まで伸びたロングヘアーは男に合わないサラサラの髪だ。
「ひ、氷上くんって育毛剤使ってたの?」
「バカ!育毛剤がこんな風に効果を示すわけが無いでしょうが!」
「あっ!」
「今度は何?」
「か、体が・・・変形してる・・・。」
次は重信の体だ。ガッチリと角ばっていた重信の体が徐々に丸みを帯びていく。
同時に胸も膨らんでいく。この奇妙な事態に、いつの間にか教室にいた全員が重信の周りに集結していた。その中には御影も含まれている。
「お、おい、重信・・・。」
呼びかけても答えない彼の体は段々女性っぽくなっていく。
なだらかなカーブを描いた肩。きゅっと引き締まった腰。そして膨らみ続ける胸。そのどれをとっても男としての面影はなかった。
「御影くん・・・。重信くんは・・・どうなっちゃうの?」
「わからん・・・。」
不安と恐怖が渦巻く。重信の胸が膨らみ終わった頃、その胸は巨乳の奏よりひとまわり大きくなっていた。目分量で100センチだろうか?
「し、重信・・・?」
御影は重信を揺り起こそうとしたが、この可憐な体に触れることを恐れた。
しかし勇気を振り絞って重信の背中を揺らした。同時に胸の膨らみも左右に大きく揺れる。
「うん・・・」
アニメの美少女のような声が教室の中に響いた。声までも変わってしまったことに改めて驚きの表情を浮かべる群集たち。
顔を上げた重信の顔は、奏に匹敵するほど美しく、可愛らしい美少女となっていた。
寝ぼけている美少女は事態を把握していない。ただ、目が覚めたので大きく伸びをした。
すると、その大きな乳房が強調され、重信の前にいた男子生徒は「おおおっ!」と歓声をあげた。
重信は目をこすりながら目の前の男子たちに不満を漏らす。
「ったく、五月蝿いぞお前ら・・・。人が折角気持ちよく寝てたと言うのに・・・。」
自分の出した声を聞いて「えっ?」という表情を浮かべる。
「あ、あれぇ? 俺の声が・・・なんかおかしいぞ?」
「重信、声だけじゃない。下を向いてみな。」
言われたとおり下を向くと、そこには大きな山が二つ聳え立っていた。当然驚きの声を上げる。
「ウワァーッ!なんじゃコレ!」
「重信くん・・・。それ・・・。お、おっぱいみたいだよ・・・。」
「はぁ?嘘だろ!? 性別が変わったというのか!? あり得ないだろ、こんなこと!」
「だがなぁ重信。それが実際に起きているんだ。」
ここで奏が手鏡を差し出した。重信は手鏡で自分の顔を確かめる。
鏡に映っていたのは黒のロングヘアーをサラサラとなびかせる美少女。これが自分の顔だというのか。
「だ、誰だよっ、この女・・・。」
思わず重信はこう漏らした。重信が喋ると、鏡に映る美少女も同じように喋る。
今度は麻原が重信に言う。
「アンタまだ分からないの?ホント・・・頭イタイ?その鏡に映る美少女がアンタだ!」
「う・・・・・・そ・・・。」
段々訳が分からなくなってきた。それもそのはず、目覚めると自分の体が女性化しているのだ。これでパニックにならない訳があろうか。いや、ない。
「俺が・・・寝る前は・・・いつも通りの体・・・なのに、目が覚めたら・・・女に・・・。」
ぶつぶつとうわ言のように呟いたかと思うと、次は突然叫んだ。
「嘘だぁっ!これは、夢だ!悪い夢だぁぁあああー!」
叫び終わると同時に、重信は気絶してしまった。また机にもたれかかる。
「し、重信くんっ!大丈夫?」
「重信ーッ! クソッ、誰かコイツを保健室に!」
御影がそう呼びかけると、沢山の男子が立候補した。御影、広大を除く男子全員で重信を運び出す。
その途中、幾人かの男子が、今運んでいる巨乳の少女に興奮しているのは言うまでも無い。
「おおっ、歩くたびにオッパイが揺れてるっ。」
「あぁー、重信っていい匂いするなぁ。」
「お肌もハリがあっていいな。あぁー、触りたい。」
「可愛い寝顔だぜ。そそるなぁ・・・。」
野郎どもがアヘアヘしている中、心配でついて来た御影の怒鳴り声が舞い込んだ。
「お前ら、モタモタしないでさっさと保健室に運べーッ!」
その鶴の一声に野郎どもはダッシュで保健室へと向かった・・・。

男子の一人が保健室の扉をノックした。中から「どうぞ」と女性の声が聞こえる。
「失礼します。」
扉を開けると、ベッド二つに教卓、薬棚やらなんやらかんやらと、保健室らしい光景が広がる。
「保健室です!」
はい、すみません。確かに保健室ですね。 この女性は天龍高校の校医、神戸 彩夏(こうべ あやか)。
最近赴任してきたばかりの新米だが、大都会の医大を卒業している秀才だ。 その知識だけでなく体も素晴らしい。
ふくよかな胸に引き締まった腰、存在感のある色っぽいお尻。特にbustは、100cmを誇る巨乳校医だ。
さらに、美しさの中にあどけなさが残る顔立ちに、黒いサラサラのロングヘアーが、抜群のプロポーションを生かす。
入ってきた男子が唾をゴクリと飲み込んだ。その音が彩夏の耳に入ったようで、彩夏はむっとした表情を浮かべる。
「なに? 私の体を見に来ただけなの?じゃ、帰ってよ。」
「ち、違うんです。実は、氷上君が気絶してしまって・・・。」
「氷上君・・・? ・・・あー、あの大人しい子ね。 あの子が気絶するようなことなんてあったかしら? ま、とりあえず入ってよ。」
「先生、氷上君のことを何故知ってるんですか?」
「う・・・。 ・・・どうでもいいじゃない、そんな事! さ、氷上君、入って入って。」
担ぎこまれる重信。しかし、彼女の知っている重信ではなかった。
自分と同じようにふくよかな胸、引き締まった腰・・・。どう見ても女性だった。
「わ、悪い冗談はやめなさい! この人はどう見ても氷上君じゃないでしょ!」
「でも・・・制服・・・。」
制服と言われて、重信の体を見る。動転して気付かなかったが、ちゃんと男子の制服だ。
「ちょ・・・なんで・・・」
「僕たちにもわかりませんが、突然体が変異したんです。」
「変異?」
有り得ない展開に目を丸くする彩夏。男子は続ける。
「4時限目の時点ではいつも通りでした。でも、昼休みに突然・・・。」
「・・・・・・」
「それで、自分の体が変わったことに気づいた途端に気を失ったんです。」
「うーん・・・。世界初の事態ね。とりあえずベッドに寝かせてあげなさい。後は私が何とかするから。」
何が何だか分からない。でも自分のような巨乳の少女をこれ以上この野郎どもには見せられないと思って、彼らを帰そうとする。
当然ここで男子の一人が否定する。
「えー。イヤですよー。僕たちも看病したーい。」
「いいから帰りなさい!」
野郎どもを無理矢理締め出してホッと一息つく彩夏。今は重信と彩夏ふたりきりだ。
「しかし、何処となく私に似ているわね。この娘。」
ハァと溜め息をつき、彩夏は重信の枕元に歩み寄った。そして重信に語りかけた。
「氷上君・・・。私、偶然あなたを見てからずっとあなたが好きだったの。
 もっとあなたの姿が見たくて、たまにあなたの顔を見に行ったりしたわ。でも、私はあなたのお似合いじゃないかもしれないわ。
 だって、あなたの理想の女性は、他人を見た目ではなく中身で決める人間でしょう? 私には無理よ。
 あなたの見た目に惚れたんだから・・・。でも、後で気づいたわ。あなたは他の男子と違って礼儀正しいってこと。
 そこにカッコよさを感じたのよ。見た目だけに惚れたんじゃないの。それだけは分かって・・・。」
「・・・いや、遅かれ早かれ内面に惚れたことは立派ですよ。」
「えっ?」
突然重信が口を開いた。どうやら意識を取り戻したらしい。
「ひ、氷上君っ・・・!いつから起きてたの?」
「意識を取り戻したときは、保健室に担ぎ込まれていました。アイツら、中身が俺だと知りながらよく言うものだ・・・。」
「あ、あの・・・私の話・・・。」
「えぇ。しっかり聞かせてもらいました。確かに見た目で判断するのは良くないことです。でも、初めて見たときはその人については何も知りませんよね。だから、見た目にときめいてからその人を知ろうとして、良い所を知って、さらに気持ちが強くなるのが恋だと思うんです。」
一息置いて続けた。
「しかし、最近は面食いが多くて嫌になりますね。顔や体系が好みでないなら悪人だとか思い込んで・・・。
 その人の意外な長所も知ろうとせずにそう思い込むのは勝手極まりないです。
 誰にも長所や短所があります。でも、短所しか見ないであいつは悪い、こいつは悪いと決め付けていたら、みんな悪い奴ですよね。」
「ひ・・・か・・・み・・・くん・・・。」
彩夏は重信をぎゅっと抱きしめた。突然のことにぎょっとする重信。
「氷上君っ、ステキよ! あなたのような人が沢山いたらこの世はもっと平和になるのに・・・。」
「先生っ・・・、苦しいです・・・。胸が・・・」
しばらく乳房に顔をぎゅうぎゅうとされる巨乳の少女という変な構図が展開された。
ようやく解放されると、重信は息を荒げながらも彩夏をじっと見つめた。彩夏の頬は赤く色づいている。
「ねぇ、二人きりのときは重信って呼ばせて。」
「えっ?」
呆気にとられた重信などお構い無しに話を進めていく。
「でね、重信は私のことを『お姉ちゃん』って呼ぶの。私たちは姉妹よ。」
「えっ、えっ?姉妹・・・?」
「あなたはとても私に似ているわ。違いと言ったら、私はカラーコンタクトレンズをつけているから、瞳の色ね。
 それから、あなたのほうがほんの少し背が高いかな。」
「あの・・・何の話ですか?」
「私とあなたは二人のときは姉妹になるという話よ。それと、敬語も無しね。」
「姉妹・・・ですか。」
確かに手鏡で見た自分の顔は彩夏と似ている気がする。姉妹になっても差し支えは無いだろう。
何となくクラスの男子に威張れる気がしたので、重信は頷いた。
「決まりね!私がお姉さんだから、いっぱい可愛がってあげる!」
そう言うと彩夏は重信のシャツについているボタンへ手を差し出した。
「ちょっ、何をするつもり?」
「スリーサイズを測るの!」
「あ・・・そう。」
成されるがままに素裸にむかれていく。男の時につけていたランニングとトランクスも脱がされ、完全に全裸となった。
彩夏は自分の机からメジャーを取り出すと、重信を手招きした。
「重信、こっちにおいで。測ってあげる。」
重信も自分のスリーサイズが気になるので、計測に応じた。校内シューズを履いて彩夏のもとに歩む。
その度に大きな乳房はプルン、プルンと上下に揺れる。
「邪魔くさいなコレ。いちいち揺れるなよ。」
「そんなこと言っちゃダメよ。自分のおっぱいだからいたわりの言葉をかけてあげなさい。」
「はぁい・・・。」
計測が始まった。彩夏は慣れた手つきで下からサイズを測っていく。
「ヒップは90・・・、フムフム・・・。」
「先生・・・じゃなくて・・・お姉ちゃん? その・・・くすぐったいんすけど。」
「我慢よ我慢。スリーサイズ測定はそんなもん。 えーっと、ウエストは60・・・。」
そしていよいよバストを測るときが来た! ざわ・・・ざわ・・・
「重信、おっぱいを持ち上げて。」
「えっ、なんでですか?」
「敬語は二人きりの時は禁止!」
重信はそのことをすっかりと忘れていた。今度は気をつけて。
「・・・で、なぜ持ち上げるの?」
「決まってるでしょ。そうして測るもんなの!」
「・・・そう。」
言われたとおり自分の乳房を持ち上げる。彩夏はそこにメジャーを当てていく。
冷たいメジャーが乳首と接触するたび「あんっ」といやらしい声を上げる重信。自身のその反応が不思議になった。
「ふ、不思議と感じる・・・。どうして?」
「ん?知らないの?女の人はおっぱいが感じやすいの。最も感じやすいところを100とするとおっぱいは80ぐらいなんだ。
 特に乳首なんか、触られたら全身に電気が走るような感覚を受けるの。」
「へぇー。」
「で、バストの方は・・・100ぅ!?」
彩夏は驚いた。何もそのサイズではない。自分も100センチだからそれに驚いても仕方が無い。
彼女が驚いたのはスリーサイズ全てが重信と一致することだった。
「すごい・・・すごいよ重信・・・。全部私と同じ・・・」
「え、そう?お姉ちゃんもそんな感じ?へぇー、このサイズならモデルでもやっていけそう・・・。」
「重信、やっぱり私たち、姉妹よ!」
「そうだな。俺らは姉妹としてやっていけそうだ。よろしくな!」
「へっへっへ・・・」
気味悪い笑顔を浮かべる彩夏。その笑いに重信は寒気を覚えた。とりあえずこの場を去ろうとした。
「そ、それじゃ、俺は授業が・・・」
「休んでしまいなさいよぉ。君は病人だからぁ・・・。」
重信は彩夏によってベッドに押し倒された。そして彩夏は重信の乳房を揉みしだく。
「あっ、はぁんっ・・・やっ、お姉ちゃん・・・ダメ・・・・・・」
「フッフッフ。可愛がってあげるって言ったでしょ〜。あなたは私ぐらいのおっぱいだから痴漢とかに触られたり、不意に何かに触れたりするでしょ?慣れておかないとね♪」
「で、でもっ・・・ダメだよぅ・・・んっ・・・あぁ・・・。こんな所で・・・はぁっ、んっ、せ、先生にでも見つかったら・・・。あっ、ダメ・・・」
「そんな事もあろうかと、野郎どもを締め出したときに『先生はいません』という札もかけておいたし、鍵もかけちゃったの。
 それに、こんな時間帯だから誰も来ないわよ。きっと。」
いい加減な根拠を立てる彩夏に重信は噴き出しそうになるが、乳房を揉まれている感触が勝り、喘ぎ声を出すだけだ。
さらに彩夏はこんな挑発をする。
「悔しかったらアンタも私の胸を揉んでみなさいよ。ほらぁ。」
重信は手首を掴まれ、そのまま彩夏の大きな乳房に押し付けられた。揉まれながらも彩夏の服を脱がそうとする。
「やんっ、なんで脱がそうとするの?」
「だってお姉ちゃんだけ服着てずるいんだもん。」
「ふーん。アンフェアだって言うのね。いいわ。脱いであげるから待ってて。」
まさか自分が美人校医の乳房を生で見られるとは。重信はそんなスケベな優越感に酔いしれていた。

一方そのころ。
1年B組の教室ではいつも通りに数学の授業が展開されていた。
担任でもある新任の春日 幸之助(かすが こうのすけ)先生による授業は一部の生徒からの評判が悪い。
というのも、彼は24歳という若い年に似合わず若者言葉が嫌いで、授業中に「〜系」「〜的に」など使う生徒がいたらその生徒をギロリと睨みつける。その睨みといったらヤクザにもなれそうなぐらい怖い。
でも普段は温厚で、生徒の悩みを親身になって聞いてくれる。
春日は座席表を適当にペンで押さえ、問題に答える生徒を当てようとする。
「えーっと、氷上ぃ、この問いに答えてみな。」
しかし、重信はいない。教室の角から女子の笑い声が巻き起こる。
「あっ・・・、そうか。氷上はいなかったんだな・・・。」
「ハッハッハッハッハ! どぉんだけぇー!」
ピクッと春日の眉が動いた。笑っていた女子生徒の表情が一気に引きつる。
やってしまった。春日の態度が急変し、どすの効いた低い声で呟くようにその女子生徒の名を指した。
「・・・河原。お前、この問題を解け。」
河原と呼ばれた女子生徒は、まるで死刑囚のように黒板の前へと歩み寄った。そして白いチョークを手にし、震える手で問題に取り掛かる。
春日の方をちらと見た。腕組をしながら鬼の形相を保っている。手の震えが更に強まった。
恐怖感の中で解いていく不等式に手こずっていると春日がまた呟くようにアドバイスをした。
「・・・普通の方程式と同じだ。」
その声が更に恐怖を掻き立てる。自分は何かされるんじゃないだろうかと錯覚し、河原は春日から距離をおいた。
「・・・負の数を両辺にかけるときは不等号の向きが逆になるんだ。早くしろ。」
春日の言葉に段々苛立ちと威圧感が増して、遂に河原は座り込んで泣き出した。しかし、春日はそれでも容赦しない。
「お前、何泣いてんだよ。」
「だ、だって・・・ひぐっ、先生が・・・怖い・・・」
「女だからって泣いて許してもらえると思うな。ほら、立て。」
春日は立つように要求するが河原の足は恐怖に震え、なかなか立つことを承諾しない。
ついに春日はしびれを切らす。
「立てっつってんだろうが!」
怒鳴りながら壁を蹴る。これではヤクザと何も変わりは無い。御影は春日を落ち着かせようとした。
「先生、落ち着いてください。河原さんは先生に怯えているんですよ。ですから、もっと優しく・・・」
「五月蝿い。部外者は引っ込んでな。」
「でも先生、先生のしていることはいじめのようにしか思えません。」
次は奏が落ち着かせようとしたが、全く効果が無い。
「いじめじゃない。これは教育だ。あんなチャラチャラした言葉を使うような奴はこれで十分だよ。」
春日の怒りはおさまらない。なぜなら、彼は昼休みに廊下を歩いている途中、女子の集団から漏れた若者言葉を聞いてしまったからだ。
昼休みの廊下だから仕方が無いと押さえていたが、今ので怒りが爆発してしまったのだ。
春日は河原の髪の毛をつかみ、強引に立たせた。そしてこう言い放つ。
「自分の言動に対して責任も取れないのかお前は。」
「・・・すみ・・・ま・・・せん・・・。」
「謝るより先にこの問題を解け!」
バンと黒板を叩く。河原は完全に春日に怯えきっている。持っていたチョークを落としてしまい、そのチョークが粉々に砕けた。
チョークの砕ける音だけが教室に響く。重苦しい静寂が緊張を高め、見ている方の心臓に悪い。
そして春日はとんでもない事を言い出した。
「河原。問題は解かなくてもいい。だが、歯を食いしばれ。」
「・・・えっ?」
「鉄拳制裁だ。さぁ、歯を食いしばれ。」
直ぐに御影が止めに入る。
「先生!それは体罰になります!やめてください!」
「五月蝿い!昔はそれがまかり通っていただろう!」
物凄く馬鹿げた言い訳をする春日。もう完全に狂ってしまった。教師としての目が抜けてしまっている。
「確かに昔は先生に叩かれるなんて当たり前でしたよ!でも今はれっきとした体罰なんです!先生がクビになるかもしれないんですよ!」
「柏原は心配性だな・・・。一発殴るだけだ!行くぞ河原!」
・・・御影の呼びかけもむなしく遂に春日は生徒に手を出した。春日の拳は河原の頬に命中し、河原はその場に倒れこむ。
「・・・うっ、ぐすっ・・・あっ、あっ・・・うぁああーーーん!」
本格的に声を上げて泣き始める。先生によって授業が崩壊してしまった。
御影と奏は「やれやれ・・・」と溜め息をついた。

戻って保健室。
二人で乳房を揉み合っていたのだが、結局重信が受けにまわった。
大きな膨らみのてっぺんに立つ桃色の突起を彩夏は赤ん坊のようにしゃぶりついていた。
「うっ・・・あぁっ・・・・・・んぅっ・・・やっ・・・」
「んんっ・・・ジュルっ・・・ちゅぅぅ・・・」
「ふあああんっ・・・やぁっ・・・だめっ・・・」
「んー。むー。ちゅぅ〜。」
揉まれる上に吸われては重信も耐えられない。それよりも胸のほうに何か変な感じがするのだ。
「お、お姉ちゃん・・・なんか・・・・・・胸が・・・変・・・。」
「ちゅっ、ちゅばっ・・・んっ、えっ? どうしたの重信。そんなに感じるの?」
「違うよ・・・何かが出そうなんだ。何か。」
「・・・そう。」
「そうって、その反応は・・・ぁあんっ!」
また乳首を吸い始める。段々限界が近づいてきて、重信は叫んだ。
「ああああんっ、もうだめぇぇぇぇぇぇっ!」
すると、彩夏の口の中に液体が流れ込んできた。もう片方の乳房からも白い液体がトロリと出てくる。
彩夏は思わず声を上げた。
「うわっ、なんで?なんで母乳が出てくるの!?」
「はぁ・・・はぁ・・・、どうした?」
「重信、母乳が出てるわ!」
「ウソ・・・あっ、ホントだ!」
「重信ぅ、母乳はね、男の人と性交をしていない女性からは出ないはずよ。それがどうして出てるわけ?」
「知らん・・・。」
それでも母乳の味に興味を抱いた彩夏は乳房の上を流れる白い液体を舐めた。
「んー・・・あっ!」
「えっ、今度は何?」
「美味しい・・・美味しいわ・・・。このミルク、私が今まで味わったどのミルクよりも美味しい!」
「んな馬鹿な・・・。」
授業終了のチャイムが突然鳴った。いや、この二人には突然のように受け取られたのだろう。
彩夏は慌てだした。
「やばっ、休み時間は多かれ少なかれ躊躇なく保健室に来る生徒が多いから、早く開けなきゃ。重信、服着て!」
「は、はい・・・。」
とっさに服を着始める二人。彩夏はサイズに合わせた服なので意外とすんなり着られたが、重信の方はかなり手こずっているようである。男の制服だから当然なのだが。
「うわっ、ボタン届かない・・・。」
「あー、もういい!重信、布団をかぶってて!」
言われたとおり布団をかぶる。布団の中で自分の制服と格闘しているうちに、なんとかボタンをつけることが出来た。
その間に彩夏は鍵を開け、不在を示す札を取り除いて元通りの保健室にした。
「先生・・・。シーツが濡れてます。」
「我慢!」
そうこうしているうちに三人の生徒が入ってきた。河原、御影、奏の三人だ。
「あ、あらあら、いらっしゃい。何の用で来たのかな?」
「河原の顔に書いてありますよ。」
見ると、河原の頬には青あざが出来ていた。心配そうな表情を浮かべる彩夏。
「河原さん、どうしたの?青あざが出来てるけど・・・。」
「うん・・・。実は、かくかくしかじかで。」
河原は事情を話すと、すぐに布団をかぶっている少女が口を挟んだ。
「そりゃ、河原が悪いわ。うん。無意識に若者言葉を飛ばさない限り春日先生がそんなことをするはず無いから。」
「し、重信・・・、それはないだろ。おかげで授業が崩壊してなぁ、春日先生も大目玉を食らったそうだぞ。」
「うーん。確かに春日先生もやりすぎたな。あれでも悪気は無かったんだけど・・・。」
奏が河原の顔を心配そうに覗きながら彼女に問うた。
「河原ぁ、大丈夫?」
「大丈夫。あんなことされても平気だよ。だって春日先生好きだし。」
「でも、泣いてたでしょ?」
「確かにアレは怖かったけど・・・、アタシの気持ちは変わんない。あとで春日先生に『気にしてませんよ』って言ってあげなきゃ。」
恨み言一つ言わない河原にみんなホッと一息。しかし重信だけは厳しい表情をしている。布団から出て河原に歩み寄って質問をした。
「河原。お前、本当に春日先生が好きなのか。」
「もー、何回言わせるの。好きに決まってるでしょ。」
「具体的に言うと?」
「当然、顔!」
「結婚・・・いや、お付き合いをしたいとかは?」
「もち!」
重信は河原の回答に呆れた様子で溜め息をついた。
「お前さぁ、春日先生に振り向いてもらうように努力しろや。」
「へっ?」
「春日先生と一緒になりたいんだろ?付き合いたいんだろ?なら春日先生に好かれるように自分もならなきゃだめだ。」
突然始まった重信の説教に、御影たちも目を丸くしていた。
「春日先生の前で『どんだけ』なんて論外だ。そんな事したら絶対嫌われるだろ。」
「氷上くん、説教はやめてよ。神戸先生に怒られてるみたい。」
彩夏と同じような身体、髪型、顔をした重信だからそう言われてもおかしくはない。
「いいから聞け。兎に角、春日先生に振り向いてもらう第一歩として、春日先生の前で若者言葉を使わぬよう気をつけな。」
「えーっ、ムリー。」
「やりもしないで無理って言うなよ。」
「それより、センセ。早く手当てしてください。」
自分流のアドバイスを甘んじて受けない態度に、重信は河原の恋心を否定する考えを持った。
構わず彩夏のもとへ駆け寄る河原の背中を睨みながら呟く。
「顔が良くて好きになって、何もしないで付き合いたいとかほざいて・・・。そんな恋が現代においてまかり通っているのか・・・。」

教室に戻った四人。御影と奏が重信を休ませようとするが、それでも授業に参加したいと勝手に戻ったそうだ。
「重信、もう一時間休んだ方がいいって。」
「いやいや、2時間も保健室で休むわけにはいかないよ。」
「でもね、重信くん。君の体が変わったことは神戸先生以外、どの先生も知らないんだよ。」
「そんなこともあろうかと、神戸先生に頼んでおいたのさ。歴史の井崎先生に事情を話しておいて下さいって。」
確かに事情を話せば少しは分かってくれるだろうが、果たして信じてくれるのだろうか。二人の心配はつのるばかりである。
とうとう井崎が教卓についた。井崎は50代ぐらいの小太りのオジサンで、頭のてっぺんは少しだけ禿げている。
「さてさて、皆さん。席についてくださいよ。ベル着は遅刻としますよ。」
そう言った後、井崎は教室の中を見回し始めた。しばらく見回していると、重信の方を向いて止まった。
「えーっと、神戸先生が言ってた氷上くんは君かい?」
「はい。そうですけど。」
「ふむ。神戸先生のおっしゃったとおり、彼女に酷似していますな。」
しばらくジロジロと重信の体を観察している井崎。どう考えても変態親父である。幾人かの女子がヒソヒソ話を始めた。
でも当の重信は鈍いために、何の反応も示さない。
(うわぁ・・・。神戸先生にメチャクチャ似ているなぁ・・・。特にオッパイの大きいことと言ったら・・・)
様子のおかしい井崎に御影が突っ込みを入れる。
「先生、どうされました?」
「えっ、あぁぁ。オホン。いやー、不思議な事もあるものですな。氷上くん。君はまさに美女だなぁ。アハハハ・・・。」
その言葉で重信が恥らうのかと御影は一瞬気になった。しかし、重信は平然と答えた。
「有難う御座います。」
全然動揺していない重信の姿を見て、御影は心配そうに呟いた。
「スケベな目で見られていること、分かってんのか・・・。」
男子の制服を着た巨乳の少女という奇妙な人間が一人いる中、授業は進んでいった。
井崎の目は相変わらず重信の方を向いているが、彼もとい彼女は恥じらうこともなく平然としている。
心は男のままなので、男からの視線は全然気にもならないのだ。

その日の授業が終わり、掃除やホームルームをさっさと済ませて、いよいよお待ちかねの金曜帰宅ロードショーである。
しかし、重信は御影たちと帰らずに寄る所があった。保健室だ。男子の制服を学校で処理するための理由で彩夏に呼ばれたのである。
保健室の扉を開けると、彩夏と春日が話し合っていた。河原のことだなと重信は悟った。
「失礼します。」
開けてからでは遅いのだが、とりあえず言う。彩夏が手招きをする。
「あっ、重信。こっちよ。」
「先生、春日先生がいらっしゃるというのに・・・。」
「いや、全部神戸先生から聞いているよ。君たち、姉妹になるんだって?」
「は、はい。形だけですけど。」
「そうか。まぁ、いいけどさ。二人きりのときか、僕と三人だけの時にしてくれよ。TPOは大切だからな。」
ここまで話をしておいて重信は異変を感じた。自分の体が変わったことを春日先生は知らないはず・・・。
「あれ? 春日先生、私がこの体になったことはご存知なんですか?」
言いながら乳房を揺らしてみせた。重信に出来るアピールだ。春日は重信の目を見たまま答える。
「あぁ。井崎先生からも伺ってるし、神戸先生からも聞いたからさ。もしかして本当かなと。」
「あーっ、かっすんったら、私には謙譲語を使わないのぉ?」
「はいはい、神戸先生からも伺いました。」
彩夏に愛称で呼ばれる春日を、重信は驚きつつも滑稽に思えた。
「それで、春日先生は何のご用件でここにいらしたのですか?」
「勿論、河原のことさ。あんなに酷い事してクビになるかと思ったけど、許してくれてよかった。」
「かっすん。同じミスは繰り返しちゃダメよ。今時のゆとり世代たちの前で鉄拳制裁なんかしてさ・・・。
 首をちょん切られてない方がおかしかったぐらいだったよ。」
「でも、本当に腹が立ったんだよ。まぁ、やりすぎたけどさ。今度は怒りを抑えるように努めるよ。」
「先生、頑張ってください。」
両手で「頑張れ」を意味するガッツポーズを取る重信。乳房がぷるんっと揺れた。
「あっ、重信の乳揺れぇ。」
彩夏が指を刺して笑う。重信はきょとんとしていて、春日は微笑ましくそれを見つめる。
しばし、ほのぼのムードの中で時間が過ぎていった。

「さて、本題に入ろうか。」
「えっ、本題って春日先生のことじゃなかったの?」
「うん。重信、アンタこの短時間で妹っぷりが板についてきたね。この際かっすんを『お兄ちゃん』って呼んであげなよ。」
「アホかお前は。俺はそんな趣味じゃないぞ。」
「きゃぁ、かっすんったらぁ、照れないのぉー。」
「・・・で、本題とは。」
「おっと、いけないいけない。」
彩夏は組んでいる足を入れ替え、話を始めた。
「重信、今からすることはあなたがずっとこの学校で勉強するためには避けて通れない道なのよ。分かるわよね?」
「はい。制服の話ですよね。」
「えぇ、そうよ。今から天龍町内全ての制服を売っているお店や下着店を回っていくの。」
「でも、何故全部を回るのですか?」
「私の下着とかは全部ふるさとの都会で買った物なのよ。この大きなバストを包み込むブラは大きなお店にしか売ってないから、こんな田舎では手に入るかどうか分からないじゃない。だから全部回るの。」
確かに女性用下着を売っている店を観察し、サイズを記録するような事は考えられない。
でも、重信の中にはわざわざ全部回らなくてもいいじゃないのかという疑問が残されていた。
「でもわざわざ全部回らなくてもいいじゃないんですか?『グローバル』内のお店で済むと思うんですけど・・・。」
グローバルとは、天龍町の中でも大きなショッピングモールである。だが、都会のデパートとは比べ物にならないほど小さい。田舎だから。
「あーいうところのブラは高いでしょ?もしかしたら他の所で安く売られているかもしれないじゃない。」
なるほどと重信は頷いた。女性用下着と言う未知の世界についての知識がまた深まる。
春日が彩夏の言葉に注釈を加えた。
「『グローバル』は最後にする。仮に大きなサイズのブラが何処にも無かった場合、都会の店から取り寄せられるのはあそこしかないからな。」
「ふんふん。分かりました。とりあえず色々まわるんですね。」
「そうよ。でも、かなり時間とお金かかるから、私たちも同伴でね。」
「あぁ。お金のことは心配するな。」
大人二人にかかれば大きな買い物だってこなせる。しかし、重信は二人に任せるのも悪いと思った。
「いえ、最初に私の家に向かってください。私が成るべく自腹で買います。」
「ふーん。律儀なのね。私ますます貴方のこと気に入っちゃった♪ それじゃ、ついでに着替えもそこでしておきなさい。」
「はい。・・・あっ、ところで、何時ぐらいまでかかるのですか?親に連絡しなくてはならないので・・・。」
「時間?そうね〜・・・。早くても午後8時はまわるかも・・・。途中の晩御飯は何処かで食べましょ。おごってあげる。」
重信はまず家のほうに遅くなる旨の連絡をすることを決めた。そして、彩夏達に同行する。
職員駐車場に行く途中、彩夏が重信の方を見てウィンクしながら言った。
「重信、あなたの財布にあまり負担はかけさせないわ。私に任せて。」
重信は『おごる』という単語を連発できる大人の凄さを思い知らされた。
3人は彩夏の軽自動車に乗り込む。最初の目的地は重信の家だ。
(まずは家族に伝えておかないと・・・。でも、信じてくれるかな・・・。)
重信の心配をよそに、彩夏はアクセルをゆっくりと踏む。車はゆっくりと走り出した・・・。

第二話「巨乳女子高生の天龍町ツアー」へと続く・・・。