第二話「巨乳女子高生の天龍町ツアー」
「この角はどっちに曲がるの?」
「右に。」
彩夏の運転する車の中、重信は助手席で道案内をしていた。
いつもゆっくりと過ぎていく通学路が、車の中ではサーッと過ぎていく。
同じ通学路でも違って見える神秘に、重信は大人の凄さを改めて思い知る。
自分の家に着くと、重信はすぐに車から出て家の中へと入った。
「ただいまぁ。」
とりあえず帰りを告げる。でも家の中にいる人にはそれが重信の声になっていることなど見当もつかない。
突然知らない女性が入り込んできたというシチュエーションである。
しばらく待っていると、階段をドタドタ駆け下りる足音がする。弟の霧次郎がやって来た。
霧次郎は中学二年生の思春期真っ盛りなcherry boy、兄の重信に似ず、けっこう騒がしい男だ。
彼は玄関に立っている美女を見るなりぽかんとした。
「霧次郎、ただいま。」
美女はにこっと微笑みながら自分の弟にこう言った。弟はぽかんと口を開けたままだ。
「おい、霧次郎。お兄ちゃんのお帰りだぞ。」
「・・・。」
「おーいっ。」
台所の方から母の重美が何事かとばかりにやって来た。
重美は40歳の専業主婦というありふれたママンである。しかし、美容と健康には気を遣っており、若く見える。
「霧次郎、どうしたの。お客様?」
「あっ、お袋。」
「お袋?私はあなたのお袋ですか?」
「ほらほら、このバッグで分からない?俺だよ。重信だよ。」
重美は馬鹿も休み休みいえとばかり鼻で笑った。それが息子(?)にとる態度かと重信はむっとした。
「なんなら、バッグの中身を確かめてみな。」
通学カバンをドサッと放り投げるように置いた。弟と母は「ホントかよ」と言いたそうにバッグの中身を漁る。
そうしているうちに二人の表情は疑いから驚きに変化した。
「あっ、これ、兄ちゃんの筆箱!」
「このノートにも、あのノートにも、重信の名前・・・。」
「な?分かっただろ?」
ふたりは同時に二回頷いた。
「・・・まさか、体の性別が変わったの?嘘―ん。」
「本当さ。昼休みに仮眠をとってな、目が覚めたらこうなってた。奇妙なことこの上ないが、現実に起こっている。」
「兄ちゃん、女の人の体になってつらくない?」
霧次郎が心配そうに見つめる。重信は笑顔で「気にしてない」とアピールした。
「それより、人を待たせているんだ。神戸先生と春日先生の二人と一緒に制服とか下着とか色々買わなきゃならないから。
あの二人に全部払わせるわけにも行かないから財布要る、この服装じゃまずいから着替える。とにかく、構ってる暇は無いんだ。」
「あっ、重信。いつ帰ってくるの?」
「メチャクチャ遅くなるけど、今日中には必ず。」
「そう。お父さんにも伝えておくからね。信じてくれるかどうか知らないけど・・・。」
「うん。頼むわ。」
重信はバッグを担いで自分の部屋へと戻った。
まずは着替えだ。窮屈な制服を脱ぎ捨て、また裸になる。改めて自分の体を見てみると、やはり巨乳の少女だ。
二つの乳房を離して股間のほうを見る。当然(放送禁止用語)はなかった。
「本当に女になったな・・・。」
男の時に着ていたTシャツなどをそのまま着ることにした。ノーブラなので乳首のある所はぷくっと立っている。
でも殆ど大きな乳房に止められてしまい、乳房を覆いきった所でこれ以上伸びなくなった。へそがさらけ出されている。
「参ったな・・・。これじゃまるでデブじゃないか。・・・まぁいいか。我慢だ。」
次は下着だ。両親の部屋で、母のスカートを借りることにした。多分昔着ていたやつだろう。結構短く、膝上20センチはあるだろうか。
「お袋ってこんなヒラヒラを着ていたのか・・・。」
思わずその光景を思い浮かべてしまい、重信は頭をブルブル振った。その反動で乳房もゆらゆら揺れている。
ノーパンノーブラという危ない状況だが、衣服は完成した。次は財布だ。
パンパンに膨らんだ自分の財布を見るなり、重信は妖しい笑みを浮かべた。
実は昨日の誕生日に親戚などから誕生日祝いとしてお金を貰ったのだ。総額にして89,300円
重信としてはこんな大金を持つのが初めてだった。初めて味わう金持ち気分に浸りつつ眠った誕生日を思い浮かべる。
あとは買った物を入れるために通学カバンを中身全て出した状態で持っていった。これで準備は完了だ。
「お袋―。お袋が昔着てたスカート借りるぞー。」
「あぁ、これね。もう着ること無いから、持って行きなさい。」
その頃、車の中では・・・。
彩夏は後部座席の春日に話しかけるために運転席から身を乗り出していた。
「ねーねー、かっすん。乗り心地はどう?」
「正直に言うと、自分の車より上だ。何処で買ったんだ?」
「買ったんじゃないの。雑誌の懸賞で当てたのよ。」
春日は驚嘆の表情を浮かべた。
「凄いなぁ、懸賞で当てるなんて。俺は兄貴からのお下がりなんだ。兄貴、新しい物好きでな・・・。
俺ら家族の反対を押し切って念願の新車を買ったんだよ。二代目の。」
「うわ〜。お金かかるんじゃない?それ・・・。」
「そのために、家に古くからあった要らない本とか骨董品とかを売り払ったんだ。まぁ、ゴミも無くなって車も買えて一石二鳥だと本人は言っている。」
「でも、お兄さんに感謝しなさいよ。お兄さんのお陰で、タダで車を手に入れたんだからね。」
「まぁ、そうだな。」
春日はシートの生地を撫でながら彩夏に訊いた。
「神戸、なんで氷上と姉妹になると言い出したんだ?友達でいいんじゃないのか?」
「うん・・・。私、あの子が好きだったのね。今時の男の子には無い信念と礼儀が備わっていたから・・・。
でも、あの子が女の子になったら恋人ってワケにはいかないでしょ?でも可愛がってあげたいの、あの子・・・。
だから、妹にしちゃったの。『お姉ちゃん』って呼ばせたりしてるのよ。」
「ふーん・・・。教師が生徒に恋をするとは、許されぬ恋だったろうな。」
「あ、それでね・・・。重信君のことが好きな女子生徒が二人いるのよ。たまに私のところへ相談に来るの。」
「誰なんだ、それは。」
「両方ともあなたのクラスよ。市島さんと麻原さんね。」
「麻原?冗談だろ?」
春日は麻原の名前を聞いて驚いた。
麻原といえば重信と口喧嘩を繰り広げている奴で、重信の嫌いな奴。そいつが重信に好意を抱いているのが信じられなかった。
「本当よ。麻原さんも相談に来たの。『彼の前では素直になれない』ってね。俗に言うツンデレかしら。」
「意外だな・・・。まさか現実にツンデレがいたなんて。」
「ふふっ、お得なこと聞いたでしょ。私のライバルが二人ともあなたのクラスなのよ。数学教師ならそれが何を意味するか説明できるよね?」
「命題、重信のことが好きな奴が俺のクラスに二人⇒女の戦いが展開される。この命題は・・・。」
「偽である。みんな恋人としてのお付き合いは諦めてるわよ、女の子になっちゃったから。・・・あっ、重信が出てきたよ。」
見ると、家から重信が戻ってきていた。助手席にまっすぐ向かう。
「お待たせ。」
「重信、メチャクチャラフな格好ね。」
「それにノーパンノーブラ。まず下着を買わないと。」
「へぇー。かっすん、変なことしないようにね。」
彩夏が意地悪そうに後部座席を見る。春日は少しむっとした調子で否定した。
「するかボケ。捕まって懲戒免職になるわ。」
「で、最初に何処いくの?」
「6時限目の間に作ったこのメモに従っていくわよ。最初に寄るのは阿部下着店ね。そいじゃ、行きますか。」
彩夏はキーを回してエンジンをかけた。ブオオオーッという音の中、アクセルを踏む。車は阿部下着店に向けて進みだした。
車で走ること六分、商店街の駐車場に車を停める彩夏。
「さて、ここからは歩きなんだけど・・・。」
「どうしたの?お姉ちゃん。」
「メモはしたけどどの方向かが分からないってのか?」
春日は彩夏の心を見透かしたように言い当てる。彩夏はしょぼんと肩をすぼめた。
とりあえず商店街を歩いてみる。すると、杖をついたお婆さんと出くわした。彩夏はすかさずそのお婆さんに聞いてみる。
「あのぉ〜、すみませ〜ん・・・。」
お婆さんは立ち止まって「んぁ〜?」と返した。
「えっと、阿部下着店は何処にあるのでしょうか?」
お婆さんは聞こえなかったのか「んぁ〜?」と手を耳に当てて聞き返す。彩夏は少し大きい声で同じ質問をする。
「阿部下着店の場所を教えてください。」
お婆さんはさっきと同じように「んぁ〜?」と同じポーズで聞き返した。彩夏は腹から大声で同じ質問をする。
「阿部下着店の場所です!」
お婆さんはまたまた「んぁ〜?」と同じポーズ。今度は三人で腹から大声を出した。
「「「阿部下着店は何処ですかッ!」」」
お婆さんは目を吊り上げて怒った調子で「うるさいわ!聞こえとるわい!」と大声で返した。
三人は勢いよくその場にどどーっとずっこけた。
「なんじゃ、若い年して足腰の弱いもんじゃのう。」
「聞こえてとんなら一回で答えろーッ!」
起き上がった重信が不服そうに怒鳴るが、お婆さんは仕方が無いと言いたそうな表情をした。
「ワシは年のせいで耳が遠いからのお。まぁ遠いと言っても白衣のおねーさんが腹から大声を出した時はちゃんと聞こえとったわい。」
「だったらそのときに答えてくださいよ。」
「最近の若者はゆとり世代なのに心にゆとりが無いのお・・・。今のはボケじゃ、ボケ。
作者は関西生まれじゃて、人を笑わせようとボケを多く盛り込んでおるのじゃ。おねーさん方もきっとボケる時が来るわい。」
「面白くないボケばっかになりそ・・・。」
彩夏は気を取り直して前髪をさらっとかきあげ、四度目の質問をする。
「で、阿部下着店は何処ですか?」
「あぁー、阿部下着かい。あれなら今お前さんたちが歩いてる方向に暫く進めば右手に見えてくるよ。」
「そうですか。有難う御座います。」
「ところで・・・。」
重信が口を挟んだ。
「阿部下着店には・・・その・・・。こんな大きな胸をカバーするブラを売っているのでしょうか?」
「あー、お前さんのそのデカパイを完全にカバーするブラかい。お前さん、トップバストは何センチじゃ?」
「100ジャストですが。」
「あぁー、100センチをカバーする奴なら現実にも存在するよ。阿部下着にあるかはよく知らんが、
垂れ乳用のブラジャーなら売ってあったぞ。お世話になったわい。うんうん。」
「お婆さんの話なんかどうでもいいですから・・・。売ってるか否か、答えてください。」
「まぁ、あるじゃろな。よく知らんが。世界で唯一垂れ乳用ブラを売っておる店じゃ。あるじゃろ。多分。」
「そうですか。有難う御座いました。では、失礼します。」
重信はペコリと頭を下げた。お婆さんはその様子を見て微笑んだ。
「礼儀の正しい娘さんじゃのお・・・。ワシの娘がお前さんと同じぐらいの頃はそんな娘さんが当たり前だったのにのう・・・。」
「いえ・・・。」
少し照れた風に頬が少し上気した。
「お前さんはきっと男にもてるわい。そのプロポーションにその顔。まさに絶世の美女じゃな。」
「えへへー。私、そのそっくりさぁん。」
彩夏がにゅっと乱入してきたが、お婆さんは軽く一蹴。
「お前は空前絶後史上最悪の醜女、泥団子程度すらないわ。」
「あっ、酷ぉい!何処からどう見てもそっくりじゃないの!」
「ほっほっほ。慌てなさんな。今のもボケじゃ。」
彩夏はガクッと落ちるようにずっこけた。
「ま、おぬしらは二人ともええ女じゃ。それにしてもお主は勇気ある男じゃ。」
今度は春日が指名される。春日はえっとばかりに驚いた。
「へっ?何がですか?」
「双子の美人姉妹を連れて呑気に散歩とは、物凄い勇気じゃ。周りからは変な目で見られるじゃろう。」
「そんなこと無いですよ・・・。単なる付き添いですから。」
「ほんに・・・。どんだけ〜。」
春日の中で何かがプチッと切れた。
「五月蝿い黙れ消え失せろクソババア!お前なんか・・・」
「わーっ、かっすーん!ストップストップー!」
「もー、河原さんのことで『怒らないようにする』と言った舌の根の乾かないうちに怒っちゃダメじゃない。」
「はい・・・。」
うなだれる春日の背中をさする格好で歩くこと数分。「阿部下着店」に辿り着いた。
「ここね。さぁ、入るわよ。」
店内は田舎の商店街らしく客が殆どいない。店の奥では青いツナギを着たちょっとワルっぽい店主がいた。
「いらっしゃいませ。買わないか。」
重信はすかさず店主に訊いてみる。
「すみません、あの、このバストに合うブラジャーを探しに来たんですけど。」
「嬉しい事云ってくれるじゃないの。それじゃ、とことん採寸してやるからよ。」
「えっ、あなたが採寸するんですか?」
彩夏が心配そうに言ったが、店主は大丈夫ですとばかりこう答えた。
「大丈夫だ。俺は女の体には興奮しないタチなんでな。」
「あ、そうですか・・・。」
三人の脳裏に「アッー!」やら「ウホッ」やら色々浮かんだ。
・・・店主は終始冷静に重信の大きな乳房にメジャーを回して採寸した。途中で「あっ」とか「やっ」とか喘いだが全く気にもしない。
で、メジャーを巻き終わった途端、店主はギョッとした顔を浮かべた。
「なにィーッ!? この胸1メートル!? お客さん、この店にそんな大きなブラジャーがあると勘違いしてんじゃねーのか!?」
「しーましェーン!」
思わず意味不明な叫びを上げる重信。やっぱりメジャーが乳首に当たるのが感じるようだ。
そんなことよりも彩夏と春日には店主の言ったことが信じられなかった。
「ウソぉー!ここには売ってないんですかぁー!?」
「あぁ・・・2桁で店ン中パンパンだぜ。あと垂れ乳とか。」
「何で売ってないんですか?」
「あぁ・・・それは爆乳だ…。そういうものは都会ではよく見かけるが、こういう地方の小さな店には入ってこないな。」
彩夏は店主に自分のメモを見せた。
「じゃ、これらのお店はご存知ですかっ!?」
「あー、こいつらね。ここ以外ブラジャー扱ってるとこ無いぞ。」
「へっ?」
彩夏はきょとんとした表情を浮かべる。しかしすぐに真顔になって抗議する。
「そんなー!! わたし、ここも含めて七種類も挙げたんですよぉ!地図を使ってさぁ!」
「良かったのか、下着店をホイホイまとめて。まずこの『六尺』はノンケだって構わないで食っちまうフンドシ専門店なんだぜ。」
「じゃ、じゃ、『scatology』は?『紐同盟』は?『漢』は?『道下下着』は?『アウトセーフ』は?」
店主は彩夏が挙げた五つの店舗について冷静に一つずつ述べ上げた。
「まず『scatology』は紙おむつ専門店。『紐同盟』は紐パンツ系統専門。『漢』は男性用下着。『道下下着』は今潰れてる。『アウトセーフ』は一応女性下着も売ってるが、とてもここでは扱えないアブナイ下着ばかりだ。ってか、いつの地図使ってたのさ。」
「えっと・・・五年前です。」
店主はヤレヤレと両手を挙げつつ鼻からフゥっと溜め息をついた。
「ん?そうかい、以外に頓珍漢なんだな。」
彩夏はむぅーっと頬を膨らませて地団駄を踏んだ。盛大に乳を揺らしながら。
次に春日がこう切り出す。
「それでは、この天龍町内で買うには・・・。」
「いいこと言ってくれた。お前ら、『グローバル』ん中でどうにかしろ。」
「やっぱりそうなるわけですか。どうも失礼致しました。」
「でも、『グローバル』にも100センチ超の下着は売ってなかったと思うぞ。だからって小さいブラで割り切るときつすぎて体に悪い。
最悪の場合、あの店の本店から取り寄せになるかもな。」
そこまで言い終わると、店主は直ぐ思い出したように付け加えた。
「そういや、こいつ、パンツ穿いてなかったな。ところでお前ら、この下着を見てくれ。こいつらをどう思う。」
「すごく・・・忘れてました。」
「こいつの胸は大きいが、腰やケツのサイズはなんとかうちの店ので間に合うぞ。」
重信はいつの間にかシャツとスカートを着て、パンツの棚を見ていた。
「サイズぴったりと言えば・・・。これだ!これにする!」
重信はそう言いながら白いパンツを掲げた。店主は電卓を打ち始める。
「それじゃ、もう一つは私が選んであげる。この赤いやつでいい?」
「うん。」
「えーっと、二着でこちらの値段になります。」
「あ、俺が払うよ。」
春日は自分の財布からお金を取り出した。パンツ購入完了。
グローバルに向かう車内・・・
「はぁー、折角まとめたのに。」
溜め息をつきながらハンドルを握る彩夏。春日はニヤニヤしながら後ろで意地悪そうに言う。
「まず、その地図が最近の物かを確認するべきだったな。そういうcareless missを犯すということは、お前が大学に入れたのはマグレってことだな。」
「あーっ!かっすんったら酷ぉい!傷つくぅ!重信―、よしよしってしてよー。」
すかさず甘える彩夏に対して、重信はパンツを穿きながら一蹴した。
「運転に集中しなよ。事故起こしたら斬首だぞ。」
そんな馬鹿な会話をしていたらあっというまにグローバルについた。
仮にも町一番のショッピングモールだけあって、お昼の時間帯は車が多い。彩夏は駐車がそれほど上手ではないので、なるべく空いている場所を探した。
店に入る三人。店内には軽快なBGMが響き渡っている。
彩夏と重信は下着店に向かおうとしたが、春日は憩いの場に設置してあった長いすに座り込んでしまった。
「ちょっと、かっすーん! 何してんのよー。」
不機嫌そうに口を突き出す彩夏に、春日は冷静に答えた。
「俺はここに残るわ。パンツ代払ったし、女物下着に対しては何も言えないし。」
「むー。勝手な奴ぅー。分かったわよ、私が連れて行ってあげるわ。でも、シャツやブレザーはかっすんが買いなさいよ!」
彩夏は座り込んでいる春日に対して、子供を叱るように釘を打っておくと、すぐに下着店のほうへ向かった。
流石に100センチの巨乳二人が歩くとなると、道行く野郎どもの視線は必ず彼女らの方へ向いた。
彩夏は心配そうに重信に訊く。
「ねぇ、野郎どもの視線・・・、気にならない?」
「全然気にしてないよ。」
心の中でホッと溜め息をついた。でも、重信の乳房はブラジャーが無いためにユッサユッサと存分に揺れている。
彩夏はその揺れる乳房を見てすぐ異変に気がついた。シャツがまくれ上がってしまい、乳房が丸見えになっているのだ。
「ちょっ、重信!ストップ!」
すぐに止める彩夏。
「な、なになに。何か変なことでも・・・。」
「・・・あの・・・、見下げてごらん♪」
言われたとおりに下を向くと、そこにはピンク色の突起がついた白い大きなお饅頭二つ。
すぐさまシャツを下げる重信。周りの野郎どもが悔しそうに指パッチンをしているのが彩夏には感じられた。
「えへへ、コレで大丈夫。」
「・・・服も買わなきゃね。」
気を取り直して下着店。ショッピングモール内とは言っても阿部下着店より少し大きいだけである。
しかし、本店が都会にあるだけあって、従業員の対応は丁寧そうだ。
「へー。ここって『urban』っていうんだね。私のふるさとで買った下着は全部『urban』なんだよ。」
彩夏が懐かしがっている所に、従業員がササッとやって来た。女性なので重信は少しホッとした。
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ。」
ぺこりと一礼し、顔を上げると、従業員の目が彩夏の方に向いて止まった。
「あーっ! 彩夏ちゃんじゃないのー!」
「へっ?」
「ほら、覚えてない?大学で同じサークルだった・・・。」
「・・・あーっ、思い出しました!小田先輩ですね!?」
「久しぶりねー。1年ぶりかしら?ま、とりあえず入ってよ。」
店内で彩夏は小田に事情を説明した。
「ふんふん、なるほど。この妹ちゃんにあうブラジャーをね・・・。」
「宜しくお願いします。」
重信は深く頭を下げる。小田はくすくすと笑った。
「礼儀正しい子なのね。前まで男だったとしても、そこまで礼儀正しい子は少ないんじゃないかしら。」
「でしょー?私の自慢なんです!」
「えーっと、氷上 重信さんだったかしら?あなたのスリーサイズは話の中で彩夏ちゃんと同じだと聞いているけど、一応採寸だけはしておくね。」
「・・・やっぱり。」
本日何度目だろうか、胸をさらけ出す。小田はメジャーをまいていくが、やはり乳首に当たった時の感触は電撃が走る。
「はぅ・・・んっ・・・。」
「あらら、感じやすいのね。可愛いなぁ。・・・で、サイズは・・・。うん、確かに100センチジャストね。」
その淡々とした様子に彩夏は期待を抱いた。
「それじゃ、重信に合うブラは・・・。」
「残念ながら、3桁以上に合うブラはこの天龍町には存在しないの。これはギリギリアウトね。」
意外な回答に落胆する彩夏。まさか天龍町に存在しないとは。
「となると・・・、後はやはり・・・。」
「そう、本店の方からお取り寄せ。それに、あのサイズのブラを着替え用含めて取り寄せるんだから10000円は下らないわ。」
「それで、いつごろに到着するのかしら?」
「当urbanでは、時間厳守をポリシーに掲げてるから、今から言う時間にぴったり到着するわ。来週の日曜日午前11時25分46秒22よ。」
なんだか余計な物がついている気もするが、二日後の午前11時25分という時間だけを頭に入れておいた。
「でも、やっぱりブラジャーは必要よね・・・。そうでしょ重信。」
たしかに必要かもしれないと思った。ブラジャーをつければ胸の揺れを軽減できると何かで読んだ覚えがある。
重信は頷いた。小田は決まりを告げる。
「それじゃ、この店で一番大きなブラジャーにしましょう。6000円しますが。」
「うーん・・・、また阿部下着店に戻るのも何だし、そうします。」
「フフッ、なに財布を構えてるの。可愛い後輩とその妹のために半分は私が出すわ。はい、3000円のお支払い〜。」
全部出せよと重信は突っ込みたくなったが我慢した。彩夏が3000円払い、小田が残りの半分を自分の財布からレジの中へ入れた。
さっそくブラジャーを着けてみるのだが、割ときつい。
「なんかこれ、ちょっときついです。まぁ、少しだけですけど。」
「そう、よかった。あのね、重信ちゃん。ケチってその小さいブラジャーをずっとつけるってのはダメよ。」
「分かっております。それでは、有難う御座いました。」
「またのご来店を〜♪ 日曜の午前11時25分46秒22よぉ〜、忘れないでね〜。」
ブラジャーを着けて歩くと、まるで乳房がガッチリ守られているような感じがして、頼もしい。
乳房も少し揺れてはいるが、ノーブラ時のそれよりも控えめである。休憩所に向かう二人の耳にサービスカウンターの放送が届いた。
「えー、集合のお知らせを致します。天龍町からお越しの、神戸 彩夏様、氷上 重信様。
サービスカウンターにて、春日 幸之助様がお待ちです。繰り返します・・・。」
放送のさなか、彩夏は恨めしそうに呟いた。
「あの馬鹿・・・。」
サービスカウンターに向かうと、のんびりくつろいでいる春日がいた。彩夏は凄い剣幕で春日に詰め寄る。
「ちょっと、かっすん! ずっと休憩所で待ってたんじゃなかったの!?」
「いやー、ずっと座ってるのも退屈だったんで、ウィンドショッピングをしてたんだよ。で、戻ろうかなと思ったけど、行き違いになるとまずいから。」
重信も同じように怒る。
「先生!先生がそんな勝手なことをしてどうするんですか!生徒に示しがつきませんよ!」
「あっ・・・、そう言われてみれば軽率だったな・・・。ごめん。」
「もぅ。かっすんの馬鹿!バカバカ!重信、今日のディナーは割勘にしようと思ったけどやめよ。」
「そうだね、お姉ちゃん!全部春日先生の奢りだね!凄い高いご馳走にするから覚悟して下さいね!」
「・・・トホホ。」
暗黒の約束が交わされたそのとき、若いサービスカウンターの店員が怪訝そうに彩夏達を見つめた。
「あれ、どうなさいました?」
「・・・いえ、『重信』とおっしゃる方がいらっしゃらないような気がして・・・。」
「あっ、私です。元男でしたが、お昼の仮眠から目を覚ますとこうなってました。」
「へぇー、男が女に・・・。確か、それって選ばれたってことじゃないですか?」
選ばれた・・・?選ばれたとはどういうことなのか、重信には分かるはずがない。店員は続ける。
「小さい頃、私の曽祖父がこんな話をしたのを覚えています。うろ覚えですが、こんな感じです。」
この世の全ての男から 燃える勇気が消えたとき 性格の神タンバーン 勇気ある女を男とせん
この世の全ての女から 清楚な品格が消えたとき 性格の神タンバーン 清楚な男を女とせん
この世の全ての人間から 良き心が消えたとき 性格の神タンバーン 優しき獣を人とせん
この世の全ての命から 慈悲そのものが消えたとき 性格の神タンバーン その世を捨て、新たな世を創らん
命あるものに 慈悲 忍耐 勇気 品格 与えるは 性格の神なり
しかし それ与えること難儀なり 命あるもの その心 動かされしとき 待つばかり
「・・・という感じです。あなたたち、重信さんについてどのようにお考えだったのですか?」
彩夏と春日は同じことを言った。
「「礼儀正しくて控えめ、曲がった事が大嫌いな男の子でした。」」
「なんかハモりましたね。礼儀正しくて控えめな男の子なら、性格の神に選ばれたのでしょう。最近の若い女性は品格がありませんから。
それで、この話には続きがあるのです。確か・・・」
性格の神に選ばれ 性を変えられしもの 決して元の体に戻ることなし
死するまで永遠に その体を使わされる 定めを背負い生きるなり
また 選ばれし者 その定めの変わることなかりけり
「・・・でしたか。とりあえず元の体には戻れません。」
「戻れないのですか。」
重信は急に寂しくなった。今まで共に生きてきた男の体を捨てて、一生この体のまま生きるのか。
その寂しそうな表情を見た彩夏は、重信の背中を強くたたいた。
「何をションボリしてるの!女の子として生きるにしても重信は重信じゃない!」
「・・・そうですね。頑張ります。俺はずっとこの体で生きていきます。」
寂しさは一気に吹っ飛んだ。巨乳の美少女として生きることに対する迷いを捨て、固い決心をつけた。
衣服を扱っている店では、彩夏も使っているスカートやズボンをまず購入し、上半身に関しては、夏に向けて大きなタンクトップを買い、冬に向けて大きなセーターを買った。
とりあえず大きな服で済ませることができた。重信も下半身に穿くものは自腹で購入した。
服を沢山買いすぎて、買い物袋は相当な重さになったが、まだ買う物はある。制服だ。
しかし、時間もそろそろ夕刻を回ってきたので、グローバルの中にあるレストラン、『満腹』でお楽しみの夕食タイムとなった。
夕食の時間帯とは言ったものの、平日なのであまり混雑していない。とりあえず席に座る三人。
窓際に重信、隣に彩夏、彩夏の向かいに春日、春日は窓際に荷物を置いた。ここまで一人で持ってきた春日は不満そうにこう漏らす。
「全く・・・全部俺に持たせるなよ〜。」
「あら〜、勝手なことをしたくせによく言うじゃない。これからかっすんの大仕事が始まるから、覚悟しなさい。」
「ラわーん。」
怪しい笑顔を浮かべながらメニューを見ている二人にぞっとしながら、安くてお腹も足りる物を探す春日の姿はどこか滑稽である。
「じゃぁ、俺は満腹特製ハンバーグ定食!税込み2400円!」
「えー、それよりもっと高いものあるでしょー。ほら、これとか。」
「あー、それいいねー。高級サーロインステーキ定食、税込み3800円!」
「そいじゃ私はコリアンでいこうかしら。満腹特製辛口コリアン定食、税込み3500円!」
段々春日の顔が青ざめていく。
「ひぃー、お前ら勘弁してくれよー。次の給料日まであと何日あると思ってんだぁ〜?」
「そんな一週間ぐらいどうって事ないじゃない!かっすんも早く頼みなさいよ!」
女って怒らせると怖いな・・・。春日はそんなことを思いながら1200円のトンカツ定食をオーダーした。
オーダーが来るまでの間、勿論3人は談笑をする。
「本当にお前ら、容赦が無いのな。」
「だってさぁ、こういう高級なものを食べられるのは今しかないじゃない。ねぇ、重信。」
「そうそう。サーロインステーキなんて滅多に食べられないですよ。先生もそれをオーダーなさったらよかったのに。」
「お前らが全部俺に払わせるからじゃー!」
「悪いのはかっすんなんだよー!少しは反省しなさいよね!」
「へぇーい・・・。」
ここで重信が話題を転換する。
「ところで、春日先生。数学ではどのような事を授業なさったんですか?」
「え?授業?あぁ、お前休んでたからなぁ。まぁ、あれだけの事を起こしたんだし、あんまり進んでないよ。」
「かっすん、少しは進んだんでしょ?教えてあげないとダメだよ。数学は一回休んだだけでも成績に響くんだからね。」
「確かにそうですね。・・・じゃ、授業を始めるか。流石にお前の欠席をチャラにすることは出来ないけど。」
春日は自分のカバンから教師用の教科書などを出した。重信も机に置いてあったアンケート用紙と鉛筆を取り出す。
思いっ切り使い方が間違っているがそんなの関係なくオッパッピーな調子で特別授業が進んでいった。
「先生、これどうするんですか?」
「あー、これね。a<x<bのような形式は連立不等式と変わらないよ。」
「ふむふむ、なるほど・・・。」
マンツーマンでの勉強を邪魔しないように、彩夏は周りを見回す。家族連れが入ってきたのが見える。
と、そんな折、トンカツ定食が運ばれてきた。
「トンカツ定食をお待ちのお客様・・・。」
「あ、はい。」
春日の前にトンカツ定食が置かれた。ウェイターは二人の授業を見て思わずこう漏らした。
「うわあ・・・アンケート用紙を勉強に使うなんて・・・。何だこの女の子は・・・たまげたなあ。」
「有難う御座います。」
「べ、別にアンタのことを褒めてるわけじゃないんだからね!」
そう言うと、ウェイターはさっさと帰っていった。
「あのウェイター、ツンデレなのかしら?」
トンカツ定食が来たのを皮切りに、2分周期で彩夏、重信のオーダーが到着した。
食べながらの授業は重信の印象に残ったらしく、試しに出された問題もスラスラと全問正解してしまった。
さて、食べ終わって一服。
「ふー。重信、お腹膨れたね。」
「そうだね、お姉ちゃん♪」
二人はやけにニヤニヤしている。春日の表情が急に曇った。
「ねぇ重信、女の人には別腹があるっての知ってる?」
「うん。たとえお腹いっぱいでも甘い物は別の所に入るから食べられると言うやつでしょ?」
「早速試してみましょうか・・・。」
春日の背筋に寒気が走るが、いまさら断ることは出来ない。春日にとって最悪の結末が待っている。
ベルでウェイターを呼ぶと、彩夏は元気よくオーダーを告げた。
「チョコパフェ2つ、お願いしまーす!」
「ラわーん!ラわーん!」
春日の悲痛な叫びが店内にこだました。
案の定、春日が払わされた夕食代は馬鹿にならなかった。
制服を売っている店に向かう車の中、春日はブツブツブツブツ何かを呟いている。
「かっすん、怒ってるの?・・・ごめんね。調子に乗って。」
「全く、女って恐ろしいなぁ。俺の今月の小遣い、あと少ししかないぞ。こりゃ、来週まで倹約だな。」
「親のスネかじれば?」
「んな恥ずかしいこと出来るか!いい年していい職に就いてよぉ!」
「大丈夫ですよ先生。今度は私が払います。」
そんな会話をしていると、あっという間に制服専門店『鸚鵡(おうむ)』に着いた。
その頃にはもう日は沈んでいた。
「重信、夜の街って初めてでしょ。どう?」
「夜の天龍町は、綺麗ですね。街灯や住宅の明かりが星みたいで・・・。」
「私たち大人が着いてるからここにいられるのよ。感謝しなさい。」
店内では、気軽に話しやすそうなオジサンがいた。多分、彼が店主なのだろう。
「いらっしゃい、神戸先生。春日先生。おや?君がウワサの氷上君かな?」
「え、あ、はい・・・。」
「フッフッフ。フシ○ダネがレベル16に上がったような顔をしているな。ウチの娘が教えてくれたんだよ。だからさ。」
「それより、おじさん。制服制服。」
「まぁ、そう慌てなさんな。神戸先生と同じスリーサイズと聞いて特注品を仕入れましたぜ。」
見ると、そのブレザーの制服は他の女子が着用しているそれよりもふたまわり大きく感じられる。
「ブレザー一着は特注ですが、カッターシャツとポロシャツ、夏用体操服、ジャージは男子の大きい奴で何とかなりまっせ。
あと、夏冬のスカートにブルマー、ジャージズボンはここにあるもので・・・。」
「で、おいくらぐらいですか?」
「制服関連は高いからなぁ・・・。60000円だ。」
重信は直ぐに財布を取り出す。そのとき、後ろから聞き覚えのある女性の声が。
「お父さん、もっとまけてあげなよ。こんな貧乏人相手にさ。」
「麻原・・・。」
声の主は麻原だった。随分とラフな私服での登場に、重信は一瞬見間違えたような錯覚を覚えた。
「氷上、アンタ、あんまりお金持ってないんでしょ。」
「う、五月蝿い!昨日の誕生日に親戚からのお祝いで9万ぐらいあるぞ!」
「払ったら3万じゃん。一ヶ月遊べないって、そんなんじゃ。家でゲームでもしてるの?だっさーい。」
「麻原さん、やめなさい!」
止めようとする彩夏を制止する重信。あくまで一人で立ち向かうつもりだ。
「麻原、これは俺の問題だ。お前如きに口出しされる筋合いは無い。」
「フン、ここで見栄を張って6万円払ってさ、後で遊べないとか言って泣く姿を想像したらヘドが出るよ。ここはアタシが払う。」
「おい、お前・・・。」
「お父さん、私の3か月分のお小遣い、6万円全部返すわ。これでいいんでしょ?」
麻原は父に6万円を押し付けると、重信を睨み、こう言った。
「氷上、これで私は一文無しよ。遊びに行きたくなったときはアンタに連絡するから。」
「おい、何勝手に決めてんだよ!」
「当然でしょ、アタシにこれだけのことをさせたんだから。お小遣いが入るまで遊びには連れてってよね。」
「こら、待て!」
重信の制止を聞かず、麻原は自分の部屋へと戻っていった。
店主はすまなそうに謝った。
「氷上君、すまないねぇ。あとでガツーンと言っておくから。」
「いえ、こちらこそ怒りに任せて暴言を吐いてしまって・・・。」
一方、彩夏と春日はヒソヒソ話をしている。
「ねぇ、かっすん。麻原さんは多分、重信と遊びに行きたいのよ。」
「あぁ・・・。でも氷上は麻原を嫌ってるしな・・・。彼女の方はまだ脈があると思い込んでるのかも・・・。」
「・・・ねぇ、重信。」
「あっ、おねぇ・・・じゃなくて先生。そろそろ帰りましょうか。」
「うん・・・そうしたいんだけど・・・。ちょっと車で待ってて。大人の話し合いをするから。」
重信は何の疑いも持たず「はい、分かりました」と返事をした。キーを受け取ると、すぐに店の外へ出る。
3人だけになった。彩夏は店主に、麻原についてのことを訊いた。
「あの、店主さん。麻原さんは、本当は氷上君のこと・・・。」
「えぇ、知ってやすぜ。廊下でぶつかったことで口論になってからずっとあの氷上って奴を好いていたんだ。
時たま、俺にその事で悩んでいると相談にくるんだが、俺にはどうしようもできねぇ。」
「でも、このままでは二人の関係は・・・。」
店主は目を瞑り、天を仰いでフゥっと溜め息をつく。
「あいつ、氷上君が女の体になったとしても、ずっと愛しているつもりなんだろうな・・・。」
「店主さん・・・。どうお考えなんですか・・・?」
「恋は好きにさせてやりたい。たとえ体が同じ性であってもな。だが、女同士の恋愛は世間様が許さないだろうよ。」
「麻原の恋・・・。実っていいのかな・・・。実ってもレズだと馬鹿にされるし、実らなかったらまさに失恋・・・。どっちに転んでも麻原は苦しむだけだ。」
「本当に不幸だぜ・・・。」
しんみりしたムードをさらにしんみりさせるようにピアノの音が聞こえてくる。
「あら?この曲、聴いたこと無いね。」
「これ、あいつが氷上君のために作曲したラブソングだよ。獲らぬ狸の皮算用って奴だな。告白とかプレゼントとか・・・。それ以前の問題があるってのによ・・・。」
麻原の不幸な運命を変えられる自身はこの3人にはない・・・。
車に戻る彩夏と春日。重信は助手席で大人しくしていた。
「先生、遅かったですね。」
「ハハ、すまないな重信。こんな暗いのに。」
「お姉ちゃん、何の話をしてたの?」
「えーっとね・・・、最近の教育問題についてよ。熱く語り合ったわ。アハハハ・・・。」
とりあえず全ての予定を完了させ、車は再び重信の家へと向かった。時計はもう9時を回っていた。
「お姉ちゃん、春日先生。本当に有難う御座いました。」
「どういたしまして♪ これから頑張ってね。それじゃ、おやすみなさーい。」
こうして巨乳女子高生の天龍町ツアーは幕を閉じたのだった。
彩夏の車のテールランプが段々遠くなっていく。
その後・・・
今度こそ本当に帰ってきた重信。衣服を全て整理し、疲れから風呂に入ろうかと思ったが、一応父親の信二にも事情を説明しようと思って居間へ向かった。
信二の反応は思ったより軽い物だった。なぜかと問うと、「どのみち俺の子供。男も女も一緒さ。」というお答えだった。
とりあえず知人全てに事情は伝わったと安心しつつ風呂場へ急ぐ。
風呂で重信は体の手入れをしてみる。特に髪の手入れは念入りに行った。シャンプーをしてリンスをして・・・。
出る頃にはもう10時を過ぎていた。
「ふぅ・・・。女の風呂とは時間のかかるもんだな・・・。」
色々あった疲れがどーっと押し寄せてきた。金曜なので翌日の予定を確認する必要も無い。
買ったばかりのパジャマに身を包む重信。やはり何を着ても胸のところで大きな出っ張りが出てくる。
ベッドの上で重信はこの一日の出来事を思い出そうとしたが、何故か苦しい。
胸の重量が少しばかりきつく、重信は横になった。
今度こそ思い出そうとしたが、その前に深い眠りについてしまった・・・。
Good night…
第三話「性格の神タンバーン」に続く・・・。