天龍の乙女

クルルァ 作
Copyright 2007 by Kururua all rights reserved.

第三話「性格の神タンバーン」

疲れのあまり死んだように深く眠ったメロ・・・じゃなくて重信。
その日のうちに女性の体に慣れてしまい、これからの生活は順風満帆である。なにせ巨乳の美少女だし。
・・・で、重信はグーグーと眠っていたのである。

さて、ここは何処だろうか。
本来なら重信が目を覚ますと、自分の部屋が見えるはずだ。しかし、自分の部屋ではない。
なんだか神秘的な空間にポツリと一人、浮いていた。さらに身につけていたはずのパジャマがなく、素裸の状態である。
「・・・そうか。夢を見てるんだな。」
そう呟くと、また目を閉じた。とりあえず寝ることが先である。
だがその矢先。聞き覚えの無い老人の声が重信の耳に届いた。
「重信よ・・・。起きるのじゃ、重信!目を開けるのじゃ!」
「ん・・・んん・・・。誰・・・?」
目をこすって周りを見回す。声の方を見てみると、そこに一人の老人がいた。
その老人は長い白髪に長い眉毛、さらに長い白髭に、白い布をまとっている。さらには杖まで装備。まるでおとぎ話に出てくる神様のようだった。
「・・・あなたは・・・?」
「ワシの名は、性格の神々を指揮する者・・・タンバーンなり。」
「・・・タンバーン?何処かで聞いたような・・・。」
懸命に思い出してみる。確か、グローバルで聞いた・・・。
「あっ、あの店員さんが言っていた伝説の・・・。」
「む・・・伝説とな。この世の男に何々が消えたとき・・・で始まる伝説か。」
「もしかしてあなたが・・・。」
タンバーンはゆっくりと頷く。
「いかにも。ワシがその伝説のタンバーンじゃ。」
「・・・うそ・・・。」
恐れ多くなった重信は自分の恥所を隠した。警戒しているのだ。
「ホッホッホ。そんなに警戒せんでもよい。今からワシらはフレンズじゃ。タメ口で話してもええぞ。」
「・・・友達になれと?」
「堅苦しい関係だと、後々が困るからな。それより、重信よ。お主、わしの伝説を知っておるのか。」
重信はうんうんと二回頷いた。
「そうか・・・。なら話は早い。お主が何故おなごの身体となったかは、知っておろう。」
「最近の若い女に、礼儀の正しい清楚な人が少なくなったから・・・だろ?」
「さよう・・・。今ではそうすることしか出来なくなったのじゃ。お主のような礼儀正しく慎み深い者を女に変えるしか・・・。」
確かに最近の若い女には清楚な所が欠けている。しかし、何故自分なのか。
「何で、俺なんだ?」
「お主だけではない。この広い世界の沢山の男もそうなっておる。」
「あんたは性格の神なんだろ? 人の性格を良い方に変えた方が・・・。」
言いながら重信はハッとした。そんなに簡単に通るような物ではないという考えが頭をよぎったのだ。
その考えを代弁するようにタンバーンは言う。
「ワシらは性格の神ゆえ、それが主な仕事じゃ。しかし、それには厳しい条件がある。下界の住民に大きな叱責や転機が訪れると、その心が揺れる。
 その刹那に現れる『心の受け穴』にワシらの力を送り込むのじゃ。それで、その者はまっとうな人間となる。
 しかし、最近はその叱責や転機がなかなか来ないのじゃ。豊かになったからのう・・・。昔はそれで忙しかったんじゃ・・・。」
「それで、最後の手段として・・・。」
「うむその通り。・・・まぁ、厳密には最後の手段は更に後になるんじゃがの。」
「全ての命あるものに慈悲が消えるとき・・・」
タンバーンは重信の言った己の言い伝えをつなげる。
「ワシは世界を滅ぼす。・・・ホッホ、安心せい。そうなるのは有り得ない話じゃ。ワシを尊敬するあまり作り出したウソじゃて。」
笑ったかと思うと急に真顔になるタンバーン。重信はそのつかみにくい人柄に困惑していた。
「さて、重信。お主がワシら性格の神により性転換されたと言うことは、それなりに責任を負っていることは知っておるな?」
「責任・・・?」
「責任というか・・・。まぁ、女になったからといって好き勝手していい訳ではないのじゃよ。」
「と言うと・・・?」
重信の顔も真剣になる。
「まず、お主はそのプロポーションと美貌を持っておる。変な男にさらわれて強姦されることもあるじゃろう。
 そうなった時は、すぐにワシに会うのじゃ。ワシがお前の子宮を元の状態にリセットしてやろう。」
「えっ・・・あ、はい。」
「本題はここからじゃ。ワシを介して確実で安全な避妊を何度でも行うということは、何度性行為をしても大丈夫ということになる。だからといって・・・」
なーんだ、そんなことかとばかりに重信はタンバーンの言葉を遮る。
「売春行為で金稼ぎをするなと言いたいんだろ? 任せなさい。俺はそんな野蛮なことはしない。」
「・・・分かっておるのか。なら心配は要らんな。禁止事項はそれだけじゃ。」
白い毛の奥で優しく微笑むタンバーン。その直後、思い出したように付け足す。
「そうじゃ、お主の乳房からは母乳が出るようになっておるのじゃ。」
「あ、それ知ってるよ。」
「うむ、知っておるのか。でも理由までは知らんじゃろう。母乳が出る理由を知りたいか・・・」
「出来れば知りたい。」
「ホホホ。なーに、簡単じゃ。その方が楽しいからじゃよ。」
重信はずっこけた・・・つもりが、浮いているのでうまくこけられなかった。
「遊びかい!」
「まぁ、そう怒るな。それより、お主の母乳にはある特別な何かがあるようじゃ。」
「特別な何か・・・?」
「それが何なのかはよく分からんが、とりあえず人間にとって有益なことは確かじゃよ。」
他にも、月経やら妊娠時の生活やら色々と教えてもらった重信。もう何時間経っただろうかという頃に、二人の真上から光が差し込んできた。
「うむ・・・。もうすぐ夜明けじゃ。」
「へ、夜明け?」
「ここで一旦お別れじゃ。お主は夢から目覚めなくてはならん。・・・お、そうじゃ。これを持っていけ。」
タンバーンが手渡したのは、薄いピンク色の光をぼんやりと放っている十字架のペンダントだった。
「ワシと話をしたくなったらこのペンダントをつけて寝るのじゃ。さすれば、ワシはお主の前に姿を現すであろう。」
「で、具体的にどんな話を?」
「何でもアリじゃ。マジな話から駄洒落まで何でもOKじゃよ。 今日は土曜日じゃ。休みでよかったのう。それじゃ、またな。」
「あっ、待ってくれタンバーン・・・。」
重信の意識が段々遠のいていった。

目覚めると、そこは自分の部屋だった。パジャマも着ている。体以外はいつもと変わりの無い朝だ。
「変な夢だったな・・・。確か・・・タンバーン・・・?」
夢のことは直ぐに忘れてしまう重信だったが、今回の夢はなぜか鮮明に思い出される。
目をこすろうとした時、自分の右手に何かが握られているのを感じた。見ると、それは夢の中で貰ったペンダントだった。
夢の中と同じく、十字架は弱弱しくピンク色の光を放っている。その光は心がやすらいで誰にも優しくなれそうな感じがした。
「夢じゃなかったのかな・・・? ま、いいや。とりあえずタンバーンに聞きたいことがあったらこれをつけて寝たらいいんだな。」
重信はペンダントを机の引き出しの奥へと、大事に大事にしまっておいた。
「これでよし・・・」
カレンダーを見て曜日を確認する。なんと本日は土曜日ではありませんか!
重信は思わずガッツポーズをした。その微かな反動でも乳房は元気に揺れ動く。
「おいおい、勝手に揺れるな。」
自分の乳房を叩きながら言う。何馬鹿やってんだと気を取り直して着替えを始める。
「夏服はこれとこれ・・・。うわー、全部露出度高い奴じゃないか。タンクトップとかタンクトップとかタンクトップとか。」
なんと昨日は夏服としてはタンクトップしか買っていなかったのだ。
「うーん・・・。明日にでもTシャツ買いにいこう。」
とりあえずタンクトップとミニスカートという露出度の高い服装で生活することに。
ブラジャーは外しておいた。昨日より少し苦しい感じがしたからだ。
「昨日、調子に乗ってバクバク食ったからなぁ・・・。少し大きくなったかな・・・。」
折角買ったブラジャーが勿体無いのだが、自分の体を考えると昨日限りの仕事であってもおかしくない。少しブルーな気分になった。
そんな折、弟の霧次郎が部屋に入ってきた。普段はあまり兄の部屋に立ち入らないので、どうしたのかと聞いてみる。
「どうした、霧次郎。兄ちゃんの部屋に入ってくるなんて珍しいじゃないか。何か用?」
「別に。」
用事も無いのにわざわざ部屋に入ってきたエリカ様・・・じゃなくて誰だっけ? ・・・・・・・・・・・・そうそう、霧次郎。
彼の様子を不思議に思った重信だったが、霧次郎のほうでは思春期らしい行動だった。
ただ、一つ屋根の下で暮らすことになった巨乳のお姉様を少しでも長く見ていたい気分だった。しかし重信はそのことを知らない。
「用が無いなら入ってくるなよ。」
「・・・おっぱい、大きいね。」
「ん?そうか?・・・って大きいわな、流石に・・・。」
霧次郎はじぃ〜っと胸の谷間を凝視する。重信はなんとなく恥ずかしくなって体をそらした。
「こ、こらっ。あんまり変な所を見るな・・・。」
「・・・あっ、ごめん。谷間が・・・。」
「んなもんどうでもいいから・・・。さっさと朝飯の支度だ。」

氷上家では料理は重信が行う。と言うのも、重信以外の三人は全く料理が出来ないからだ。
でも、洗い物は逆に三位一体となって活動するため数分で終わる。
いつもと同じようにエプロンをつけて朝ごはんを作っているわけだが、タンクトップにミニスカートの身軽な服装だと少し色っぽい。
さらに、胸のところはポッコリと大きく出っ張っている。上品なお姉様のエプロン姿というのは何故かそそる。
そのお姉様は大きな胸の膨らみに邪魔されることなく平然とサラダを作っている。丁度父親の信二が入ってくると・・・。
「ん?えっ、ちょっ、えええっ!?あ、あんた誰ですかっ!?」
「えっ・・・?もう、やだなぁ、忘れたの?」
「・・・忘れたって・・・・・・あっ、思い出した。重信、確かお前女の子になったんだよな。アハハハ。」
すっかり忘れていたみたいで、重信はヤレヤレと両手を挙げた。信二はすまなそうな顔で後頭部を掻いた。
「いやー、すまんすまん。サッパリ忘れてたよ。俺って若年性アルツハイマーなのかねぇ。」
「そんな大げさな・・・。寝起きだから仕方ないよ。」
そのまま居間へ向かい自分の席に座ると、すぐに新聞を読み始める信二。漫画などでよくあるお父さんだ。
再びサラダ作りに取り掛かるのだが、ここで大きな問題に気づいた。髪の毛だ。
サラサラのロングヘアーは料理をする上で邪魔である。危うくサラダに髪の毛が入ってしまうところだった。
「今度は髪を結うゴムか・・・。買い物は全部明日のうちに済ませておきたいのになぁ・・・。でもこの状態でメシ作るのも何だし・・・。」
朝ごはんを作り、全てを配膳し終えるまでずっと考え、遂に決断をした。朝の食卓の中で、その考えを告げる。
「ちょっとみんな聞いてー!」
父母弟全員が重信の方を向いた。
「今日の食事と明日の朝は適当に済ませようと思うんだ。今日の昼は出前、夕方と明日の朝はお惣菜になるけど、いいか?」
「別にいいぞ。なぁ?」
信二が賛成を求める。重美も霧次郎も二回頷いた。
「でも、兄ちゃん。なんでだい?」
「ほら、髪の毛が長いだろ?これじゃ料理をするのに不向きなんで明日ブラジャーとかを買うついでに髪を結うゴムも買わなきゃならんのだわ。」
重信は二つ以上のことを一度に済ませたいタイプである。ゆえに、このような決断をしたのだ。
「そうだ、重信。今日の夕方は外食にしようじゃないか。」
「わぁー、いいねー。それにしなよ兄ちゃん。」
「んー・・・。たまには外食もいいか。でも全部親父がおごってくれよ。言いだしっぺの法則で。」
「ラわーん。」
昨日の春日みたいな喘ぎ声を上げる信二をよそに、二日連続の外食で気分のいい重信は牛乳を一気に飲み干した。
「ぷはぁー。料理の後はこれだね!」
「兄ちゃん、なんか男の時よりも牛乳が似合うね。」
「ん?どういうことだい?」
微笑みながら霧次郎を見つめる。当然本人はドキッとする。
「えっと・・・。おっぱい大きいから牛乳が似合うってことだよ。牛乳を飲むとおっぱいが大きく・・・」
「ならない。」
即答されて何も言い返せなくなった霧次郎。重信は続ける。
「そういう誤解が多いけど、牛乳とバストサイズにはなんの因果関係も無いそうだ。そんな話、どっかで聞いた。」
「うっそー・・・。」
楽しそうな姉弟の会話を心配そうに見つめる重美は呟いた。
「現実を盛り込みすぎなのよね・・・この小説・・・。」

重信は朝食の後、すぐに宿題に取り掛かった。昼までかかるだろうと予測していたのだが、プリントの多さの割には簡単だったので1時間で終わってしまった。時計の針は丁度九時になったところを示す。
一気にやることの無くなった重信は誰かと遊びに行こうと考えた。早速携帯電話に手を伸ばす。
「一緒に遊びに行くといえば・・・。」
慣れた手つきで番号を入力していく。御影の携帯電話番号だ。5回コールが鳴った後、御影が電話に出た。
「もしもしー?重信かー?」
「おはよう御影。今日もいい天気だね。」
重信がそう言うと、御影は少し恥ずかしそうに返事をした。
「な、なんか照れるなぁ・・・。女の子に親しみを込めて話しかけられるのってさ・・・」
「照れなくて結構。それより御影、今日は暇かい?よかったら遊びにでも行かないか?」
「あー、ごめんよ。今から由紀子から借りたゲームを返さなきゃいけないんだ。」
由紀子とは、同じクラスの女子「養父 由紀子(やぶ ゆきこ)」の事。眼鏡のよく似合う美少女で、モデル並みのナイスバディであるため、極秘でファンクラブが設立されている。最近、御影と仲がいい。影が薄いのとマイナス思考であることを除けば奏と同じぐらい良い女だと重信は思っている。
「そうか。お前、養父さんと恋仲だもんな。へっへっへ。」
「今はまだ恋仲じゃねーよ。でも、いつか告白してやるんだ。」
「しかし、あのマイナス思考とうまく付き合えるなんて凄いな・・・。あっ、馬鹿にしてる訳じゃないよ。」
すぐに訂正を加える重信の慌てように御影はただ笑っていた。
「アハハ・・・。確かに後ろ向きにものを考えがちだけどさ、俺といる時のアイツの目は普段のそれより輝いてるんだぜ。えっへん。」
「ふーん。是非見てみたいねぇ。そうだ、ゲームを返すといったな。どんなゲームだ?」
「由紀子の兄貴がやってるサークルの同人ゲームさ。二次創作だからタイトルまでは言えないけど。」
「そうだよなー。最近、著作権を守ろうとかほざいて人々から金を巻き上げる悪党が暗躍してるし。」
「おっと!もうこんな時間!じゃ、またなー!」
いきなりブツッと電話を切られて驚く重信。その悪癖にはいつもビックリさせられる。
「・・・とにかく、御影はダメだったか。次は奏だな。」
奏は携帯電話を持っていないので家の電話番号を掛けることになる。8回コールの後、オバサンが電話に出た。
「もしもし、市島ですけど。」
「あっ、どうも、おはよう御座います。氷上です。」
「あら?あなた、もしかして重信くん?」
「えっ、あ、はい。そうですけど・・・。」
なんと簡単に当てられた。奏の母親は女の第六感が優れていると聞いたが、知らないはずの女性の声から自分の名を導き出すなんて考えもつかない。
「あの・・・。どうして私が重信だと分かったのですか?」
「昨日聞いたの。奏から。女の子になっちゃったって話、どうもウソとは思えなくてねー。」
「それなら、安心しました。それで、奏は・・・?」
「図書館に本を返しに行ったから、今は留守よ。何か用件があるなら伝えておきましょうか?」
気持ちはありがたいが、一緒に遊びにいこうなんて伝言は流石にムリだろう。結局奏と遊びに行くのも諦めた。
「いえ、いいです。大したことじゃありませんから。」
「あら、そう謙虚にならなくてもいいのに。一緒に遊びにいくぐらいなら伝えられるわよ。」
なんとそこまで当てられてしまうとは、女の第六感に驚かされながらも、自分にも第六感があるのか気になった。
「いえいえ、ムリに強要するわけではありませんし・・・その・・・。とにかく、もういいです。」
「そう。それじゃ、頑張ってね。」
「はい。有難う御座います・・・。」
ピッ
電話を切ると、重信は途方に暮れたように天井を見上げた。
「御影もだめ、奏もだめ。広大もいいけど、アイツに付き合うのは神経使うからな・・・。」
暫く考えた挙句、一人で遊びにいこうと部屋を出たその時、ピンポーン とチャイムが鳴った。
どうせ外に出るんだし自分が出ようと真っ先に玄関へと進んだ。ドアを開けると・・・

ベチャッ!

ドアを開けた途端にパイ投げを喰らってしまった。重信の顔が白いクリームまみれになる。
「二日遅れだけど、誕生日おめでとう。」
冷たい調子で誕生日の祝詞を述べるこの女・・・。麻原だ・・・。
顔についたクリームを全て平らげた重信も負けずに言い返す。
「結構美味しかったぜ・・・、お前の誕生日プレゼント。ありがとよ。」
麻原は「フンッ」と鼻で笑う。その高慢な態度を保ったまま続けた。
「重信。何処か遊びに連れてってよ。この貧乏なアタシをさ。」
「冗談じゃない。誰がお前みたいな奴を・・・。」
「ふーん、助けてくれないんだ。お金がなくて困っている女の子を助けてくれないなんて、最悪だね。」
「ケッ、全部お前が勝手にしたことじゃないか。一人でやってろよ、バーカ。」
家の玄関でも口論を繰り広げるふたり。麻原は、女の子になっても変わらずに重信を好いている。当の重信は完全に嫌っている。どうしたらいいものやら・・・。
「アタシがお父さんから6万円を返してもらったらどうなると思ってんの?アンタが万引きしたってことになるのに。」
「だったら同時に俺が6万円を・・・。」
「そしたら、アンタの懐が寂しくなって、アタシが連れて行くことになるじゃないの。馬鹿?」
「お前、さっきからワケが分からん・・・。」
麻原はさらに真剣な表情で重信に問う。
「で、アタシを連れてってくれるよね?別に今日はすることないんでしょ?」
「・・・。」
言われてみればそうである。友達は用事があり、宿題は全て終わっている。かといってずっと寝ているのも惜しいし家庭学習も面倒である。
「確かにすることないな。・・・仕方ない。お前とで我慢してやるよ。」
「ほんとに?やったぁ!」
突然喜びだした麻原。それを冷めた眼差しで見ている重信。麻原はハイテンションのまま重信にあれこれ言う。
「それじゃね、それじゃね! ゲーセンに行こうよ!ゲーセンでいっぱいいっぱい遊ぼう!」
「・・・お前、いきなりテンション高くなったな。まるで別人みたいだ。」
別人だと指摘され、麻原は急に真顔に戻る。
「・・・あっ。えっと・・・オホン。さっさと財布取ってきなさいよ。」
「言われなくたって。」
そう言った重信は自分の部屋へと戻った。財布とは別の100円玉入れを持って玄関に戻ってきた。
「この中に100円玉が一万円分入ってる。飽くまでゲーセンだけだからな。他のことには絶対に使わないぞ。」
「分かってるって。それじゃあ百回分みっちり付き合ってもらうよ。」
「この袋が空になる前にブッ倒れるんじゃないぞ。」
麻原は内心では(やったぁ、初デートだぁ。)と思っているが、重信の方は暇つぶしでしかない。
このすれ違い・・・どうしてくれよう?

ゲーセンはグローバル内にある。やはり都会のそれに比べると小さいが、みんな楽しんではいる。
グローバルまで徒歩では15分位かかる。麻原は重信の腕をぎゅっと抱いて歩いている。るるるる。
「気持ち悪いな・・・離れろよ。」
「やだ。アンタが変なところに行かないようにしなくちゃならないから。」
「俺は犬かい・・・。」
少女が二人寄り添いながら歩いている光景はなんとも奇妙である。通行人の目が必ず二人のほうを向く。
また、タンクトップに包まれた重信の乳房がぽいんぽいんと上下に振動しているのも通行人の目を引きつけている。
「そろそろ離れてくれないか。俺たちこのままじゃレズになっちまう・・・。」
「レズでもいいじゃ〜ん。こーんなことしたりして・・・。」
突然麻原は重信の大きな乳房に手を伸ばした。むにゅ、むにゅと揉んでいく。
「ひゃっ、ちょっ・・・な、何やってんの!」
「うわぁ〜、おっきぃぃぃ・・・。アタシのとは比べ物にならないよー。流石はトップ100、アンダー66のお姉様ぁ!」
むにむにむにむに・・・
「ふあぁっ・・・。段々おかしくなりそう・・・。」
揉まれる感触に耐えかねて麻原に抱きついた。すると、麻原も片方の手を重信の背中に回した。完全にどう見てもレズである。
「あ、麻原・・・。周りの目が心配だから・・・、場所を移さないか?それよか、サッサと行こう。」
「あっ、ごめんなさい。感触がよかったから・・・つい・・・。」
いつもの麻原とは違うなと奇妙に感じた重信。一方の麻原は、気持ちが高ぶって自制が効かなくなっているようだ。

そんなこんなでゲーセンに着いた。麻原は重信の手を引いてある所へ連れて行った。
「ねーねー、氷上ぃ!ホッケーやろうよ!二人でホッケー!」
「まずはホッケーか。あんまり自信がないな・・・。」
ちょっと乗り気になった重信は、コインを一枚入れてホッケーを始めた。ホッケーといっても某パージェーロ!とは関係ない。
カンカンキンキンコンコンカンカン・・・
結果は麻原のパーフェクト勝ちだった。
「やったぁー!勝ったぞぉー!いえーい!」
「ふふっ、負けちゃったか。」
いつもの麻原とは完全に別人である。しかし、重信はそんなこと気にもしなかった。
だからといって麻原のことを可愛いと思ったわけではない。自分も少し熱中していたため、麻原の変化など全く気づいていなかったのだ。
「ねー、次は何処にするの?」
「俺が決めるのかい?あんまりゲーセンには縁が無いからなぁ・・・。悩むよ。」
「アタシ、あのリズムゲームやりたい!」
指差した先のリズムゲーム。単刀直入に言うとダ○レボみたいなやつだ。早速二人対戦で始める。
「右、左、上上・・・」
「あっ・・・ちょっ・・・くそっ・・・」
今度も麻原の完全勝利。というか、重信が途中でパワーメーターを切らしたために判定勝利となった。
しかし、周りで奇妙なことが起きていた。人が密集しているのだ。それも野郎ばかり。
「な、なんだこの人だかりは・・・。麻原、お前そこまで上手かったのか?」
「ううん、アタシは友達の中でも下手な方だよ。それなのに・・・・・・あっ!」
麻原は重大なことに気がついた。読者の方はお気づきだろうが、原因は重信。その乳房でダ○レボとなると、当然揺れる。
すると、助平野郎どもが大勢集まってくる。そんな感じだった。
「氷上・・・。アンタのそのおっぱいが原因かも。」
「・・・これが?・・・あー、そういうこと。」
重信の方も納得したようだ。しかし、互いに納得するだけでは収まらない。野郎どもの視線は長い黒髪をなびかせる美少女の大きな乳房に向けられたままだ。
生唾をゴクリと飲み込む音さえ聞こえてくる。かなり厄介な状況である。
「あの・・・、ちょっとどいてくれない?」
控えめに頼んでみるが、野郎どもの一人が首を横にブルブルと振った。
「頼むよ、もう一戦!もう一戦だけ!」
「ちょっ・・・、何言ってんの!これは見世物じゃないの!」
ちょっと女の子っぽく怒るが、やっぱり野郎どもは頑固な受け答えをする。
「もっとおっぱいプルンプルンさせてくれよぅ!」
「あ、アホか!好きで揺らしてるわけじゃないんだよ!とにかく、意地でも通してもらうぞ!」
強引に突破しようとするが、簡単に捕まってしまった。文字通りもみくちゃにされる。
「うわー、でっけぇ!こりゃその辺のグラビアアイドルなんて目じゃないね!」
「見ない顔だなぁ・・・モデルさん?」
「モデルとしてもあまり見てないなぁ・・・。」
「んっ・・・はぁっ・・・やめて・・・」
おろおろとする麻原に、重信は目で合図をする。
(麻原、肉弾戦じゃない。お前の十八番でケリをつけるんだ。)
(わ、わかった!)
覚悟を決め、麻原は自分の十八番で勝負に出た。
「あんた達、何しにゲームセンターに来たのっ!?」
その声に野郎どもは一斉に振り返る。
「ゲーセンで可愛い女の子を見つけて、みんなで襲うなんて、男として最低!どんな根性してるの、あんた達!」
「うるせーっ!部外者は引っ込んでろ!」
理不尽な逆ギレにも怯まずに麻原は野郎どもを罵り続ける。
「乳揺れが見たいからもう一戦?馬鹿言ってんじゃないよ!誰もあんた達みたいな助平のためにやってる訳じゃないんだからね!
 あんた達はきっと、ろくな死に方をしないでしょうねっ!集団で女の子を襲うなんて人間として最低!生きてる価値なんて無い!」
「ケッ!勝手に言ってろよ、バーカ・・・」
スキンヘッドの兄ちゃんがそう吐き捨てながら、揉みくちゃにしていた少女のほうに視線を移すと、みんなで取り囲んでいたはずの少女がいなくなっていた。
(あれ、氷上くん、どこ?)
キョロキョロと辺りを見渡す麻原。しかし、何処にもいない。何処にいったのかと考えていると、誰かに腕をつかまれた。
「きゃっ!」
「麻原、こっちだ。」
腕をつかんだのは重信だった。重信は野郎どもが麻原のほうを向いた瞬間にうまく抜け出し、麻原の後ろへ回りこんだのである。
「とにかくここは危ないから、ゲーセンを出よう。」
「う、うんっ!」
逃げ出そうとした瞬間、スキンヘッドの兄ちゃんが重信を見つけてしまった。
「いたぞ!あそこだ!」
襲い掛かってくる雄たち。もう一刻の猶予も無い。
「逃げろ!」
重信達も走り出したことで、追いかけっこが始まった。
重信と麻原はゲーセン内の様々なゲームという障害物をくぐり抜けていく。人とゲーム台の間を通り抜けたり、入り組んだ所を蛇の如く通り抜けたり。
たまに目の前に野郎が現れても、二人がかりでタックルをかまして強引に突破していった。

ゲーセンを脱出しても野郎どもの追随は治まる気配を見せない。麻原が重信に訊いた。
「ねぇ、これからどうするの??」
「下着店の『urban』に逃げ込むんだ。俺は、そこの店員さんと仲良しになったからな。」
通行人の視線は当然ながら、この激しいチェイスに向けられていた。
と言っても男性の目は重信の乳房に、女性の目は猟奇的な野郎どもの大群に。それぞれ向けられているのだが、そんなこと気にしている暇は無い。
とにかく目的地まで全力で逃げ続けた。目的とする『urban』まで・・・。

第四話「色んな人にモテモテ♪」に続く・・・