君が望むがままに。

黒猫大和 作
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「おい! 楓君! いないのか!?」
広大な屋敷の中をどたどたと、白衣の若い男が興奮気味に誰かを探していた。
「楓君!」
男は扉を次々と開けていくが、目的の人物はなかなか見つからない。
「まったくやっと出来たというのに」
男が、最後の扉を勢いよく開けた。
「ここかね!?」
………。
扉の向こうには下着姿の若い女性が、今まさに服を着ようとしていた。
「おお、ここにいたか。楓君! ついに出来たぞ! さっさと私の研究室に……」
どうやら彼女が、目的の女性らしい。
「きゃーーーー!」
すこーん、と男の頭に本が寸分違わぬコントロールでヒットした。
「いってぇぇ! 何をする!?」
「それはこっちの台詞だぁ! 毎回毎回、ノックしろといってるでしょう!」
男はさして女性の状態を気にもせず続ける。
「そんなことはどうでもいい。楓君、ついに完成したぞ!」
「い、い、か、ら、出てけぇ!」
すこーん、今度はリモコンが当たった。
「いってぇぇ!」
この男の名前は、浅見真悟。
一応、科学者なのである。

しばらく後、真悟の研究室に二人はいた。
「まったく、あんたは毎回毎回。デリカシーの欠片もないんだから」
先ほどの下着姿だった女性、小野楓は怒っていた。
当然といえば当然である。
「ふむ、デリカシーか。そんな、糞の役にも立たない社会の体裁なぞ気にしてどうする?そんなことに私は一切興味がないしな」
それに対して真悟はさしてうろたえることもなく答える。
「そういう問題ではないでしょ! 人間としての常識の問題だろうに!」
「常識か。それは社会の状態によって変動しまくるであろう? 別の地域であるならば、女性は全裸で歩いているのが当たり前だったりするのだぞ?」
楓はあきれ果てていた。
「もういい・・・あんたに説教したところで意味はなかったわね。なんたって、究極なまでの自己完結パーソナリティだもんね」
「ふむ、お褒めに預かり光栄だ」
「ほめてないわよ。一切。……はぁ、なんであんたみたいな奴がパパお抱えの科学者なんだか……」
社長令嬢と、科学者の組み合わせは、どこから見てもミスマッチである。

「で、本当に出来たの? 約束のものは」
楓は半信半疑、といった様子で真悟に聞いた。
「無論だ。すでに人体実験も済んでいる」
人体実験、という単語に楓がびくっとした。
自分のお願いが、誰かの犠牲の上で成り立っているのか、と思うと罪悪感が生まれるからである。
そんな楓の様子に気がついたのだろう。
真悟は諭すように言った。
「安心したまえ。無理やり人体実験を行ったわけでないぞ。君と同じような人物を社内の中からピックアップしてだな、希望したものに協力してもらったのだからな」
「そう。…ならいいけど」
その一言で、楓の顔が明るくなった。
「しかし、世の中に結構いるものだな。君と同じ悩みの人物が」
「そりゃ、…だって」
この悩みは数多の女性を悩ませてきた。
楓もその一員となってしまっただけなのだ。
ただ、普通の人と違ったのは、社長令嬢であること。
そして、天才科学者が身近にいたということ。
そのことを楓はちゃんと理解していた。
だから真悟には感謝はしていた。

「しかし、そんなに深刻に悩むものかね? 貧乳、というものは」
前言はたった今、撤回された。
「貧乳っていうなぁ!」
そう、楓の胸のふくらみは十七歳を過ぎた今でも、世の女性の平均よりも下回っていたのである。

「…こほん。では話を元に戻そう」
頬にきれいな形の紅葉を作った真悟が、真剣な表情になった。
「この二ヶ月の成果を見たまえ。……おおい、小百合君」
真悟は助手の小百合さんを呼び出した。
小百合さんは美人ではあるが、どちらかというとスレンダーな、胸のふくらみが目立たない人だった。
こつこつ、とハイヒールの音が近づいてきた。
楓はそっちを恐る恐る振り返った。
「どうだね?」
真悟が自信満々といった様子で、楓に感想を伺う。
そこには小百合さんがいたが、どうだろう、その胸のふくらみはまるで別人だった。
大人を余裕で包み込めるような巨大な、立派なおっぱいがあった。
「……すごい」
「そうだろう、そうだろう。結構苦労したのだぞ? なんといっても人体に関わることだからな、慎重に慎重を重ねて実験を行ったのだ。おかげで、約束の一ヶ月は過ぎてしまったが、まあ、完成したのだから許してくれたまえ」

二ヶ月前。
高校生になった楓は、真剣に悩んでいた。
社長令嬢という肩書き、日本人の美しさをそのまま体現したかのような容姿、それに対して明朗快活な性格。
これだけそろっている彼女でも、悩んでいた。
彼女が唯一手にすることが出来なかったもの。
それが、胸のふくらみ。
いわゆる、おっぱいである。
周りの友達がどんどん大きくなっていく中、自分だけが一向に成長する兆しを見せない。
自分だけ取り残されている孤独感。
密かに爆乳に憧れていた楓には、耐え難い孤独感だった。
そして、最もたるきっかけは、同じクラスの双子姉妹、沖原美奈、真奈だった。
彼女達は入学当初から、群を抜いていた美人姉妹でしかもその胸の大きさは、どんなに遠くからでも分かるほど巨大だった。
そんな楓の欲しいものを、どんなに欲しても手に入れられないものを、すぐ近くで体現している沖原姉妹の存在が、楓の孤独感をさらに強めた。

そして、ついに耐えられなくなった楓は、父の研究所の社員であり、天才(そして変人)科学者である浅見真悟に頼ったのである。
「あたしに、誰にも負けないような、きれいで大きなおっぱいをください」
涙目になりながらの訴えを聞いた真悟は、
「わかった。一ヶ月くれたまえ」
とだけ答えた。
そして、一ヶ月たったある日、一向に姿を見せない真悟に楓は連絡を取った。
返事は、
「すまないが、もう一ヶ月だけ待ってくれ」
だけだった。
半信半疑になりながらも、楓は待った。
そして、今日に至る。

「こ、これ、ホンモノ?」
「む、疑うのかね? 何ならさわってみるといい」
楓は、失礼します、と一礼してから、恐る恐る小百合さんの胸を触った。
「うわ」
中身がしっかり詰まっているような張り、押した分だけ押し返す弾力、それでありながら女性の胸特有の柔らかさ、手にかかるズンとした重さ。
間違いなくおっぱい、しかも完璧な理想的な胸だった。
「すごい……」
まさしく、楓の欲している胸そのものだった。
「どうだろう? 完璧だろう。君もそれを得ることが出来るのだよ」
真悟はデスクに手を載せて、その光景を見ていた。

「まずは、コレを飲みたまえ」
「なに、これ?」
楓の目の前には、透き通る青色を放つ液体があった。
「ふむ、これはだな。人体内に存在する成長ホルモン、特に女性ホルモンを一時的に活性化、及び乳腺の……」
「待って、待って。あんたの説明は長いし難しいから、簡単に言って」
「む、……簡単に言うと種だよ。胸の種」
真悟は不満そうに答える。
「そう、……これを飲めばいいのね?」
楓がその液体を口にしようとする。
「待ちたまえ。最後に聞いておこう。あの願いは真剣なのだな?」
真悟が真剣に楓を見つめる。
「……うん」
楓は力強くうなずいて、液体を口にした。
苦かった。

「では、ここに服を脱いで寝転びたまえ」
真悟が、研究室の一角にあった機械を指差す。
「ねぇ……胸が熱くなってきたんだけど?」
楓は頬を高潮させていた。
しきりに胸を気にしている。
「ふむ、それは先ほどの液体が効果を発している証拠だよ。安心したまえ」
真悟は、機械の準備に取り掛かっていた。
楓は胸に触りたい衝動に駆られながらも、服を脱ぎ捨て指定された場所に寝転がる。
「ひゃん」
真悟は、装置から伸びた吸盤を楓の胸にいくつかくっつけ、楓の手足を金具で拘束する。
「失礼。……しかしだな、相変わらずの貧乳っぷりだな」
「うっさい! で、この機械は何?」
楓は顔を真っ赤にしながら、真悟に聞く。
「良くぞ聞いてくれた。これはだな、先ほどの液体を電気信号および、電磁場を……」
「ちょ、ちょっと待って! 電気信号って!? まさか、めちゃくちゃ痛いわけ?」
電気、という単語に楓は恐怖を抱いた。
真悟は心底、愉快そうに楓を見る。
「大丈夫だよ。ちょっとびりっとするだけだ」
「本当でしょうね!?」
楓はまだ不安な顔をしている。
「大丈夫だ、といっているだろう? 私を信用できないのかね?」
そういわれると、楓は真悟を信じて引き下がるしかなかった。
そもそも自分の願いをかなえてくれているのだ。
信用するしかない、そう楓は意を決した。
「やれやれ。説明の途中だったな。この装置はだな、簡単に言うとさっきの液体の誘発剤みたいなものだよ。種に刺激を与えて成長を促すのだ。……さて、準備は出来た。覚悟はいいかね?」
真悟は装置のコンソールから、楓に聞いた。
もう、ここまで来てしまっては引き下がれないのだ。
楓の腹は決まっていた。
「いいわよ」
楓はきゅっと唇をかんだ。

「あぁ!」
びりっとした痛みが胸を駆け巡った。
薬の影響で熱くなっていたところに、刺激を与えられて楓は敏感に反応した。
その刺激のせいだろうか、胸がどんどん熱くなっていく。
触りたい、でも触れない。
そんなジレンマが楓を襲う。
そしてついに我慢の限界を迎えたときだった。
どんっ、という衝撃とともに楓の胸がムクムクと膨らみだした。
「あぁぁぁん」
膨らむスピードにあわせて、快感の波が楓を襲った。
誰かに思いっきり胸をもまれるような、胸の中で何かがうごめいているような、そんな形容しがたい快感だった。
楓の体がビクビクと反応する。
「だ、だめぇ!あぁ、と、とめて!とめてよぉ」
襲い来る快感の波に楓は耐えられなくなり、懇願した。
しかし、成長は止まるどころかますます大きくなっていく。
もうすでに、一般の女性どころか小百合さんの胸と同じか、それ以上に大きくなっている。
だが、成長は止まらない。
「もう、いい、もういいよお!」
ついに意識が飛びそうになる。
と、楓の頭に影が落ちた。
あまりに大きくなった、重力知らずの楓の胸が照明をさえぎり始めたのだ。
「あああああぁ!」
そして、楓の意識は飛んだ。